数年前に人口減少によって維持が不可能となり、僅かな住人すら退去し廃村となったとある土地。荒れ地となった畑の傍らに、極小規模のモザイクに覆われた空間があった。
ケルベロスに発見されず、誰の目にも留まる事の無かったそのモザイクの晴れた後には、朽ちかけた物置が現れた。
物置の中には鍬や鎌などの農具がしまわれているが、1つだけ目を引く物体があった。
今となっては滅多に見ることのない、十字に組まれた支柱に張り付けられた案山子。ただ、人形であるはずの部分が凍結した人間であるそれを案山子と呼べるのなら、だが。
「……良かった、見つけられました」
そんな異常なものを発見し、安堵の声を漏らす何者かがいた。つい先刻まで、誰もいなかったというのに。
「それじゃあ、持ち帰りましょうか」
赤を基調とした頭巾付きのワンピースに身を包み、古めかしい猟銃とバスケットを携えた少女が、その声の主であった。
ワンピースの所々にアクセサリーのように取り付けられた鍵が、この少女がデウスエクスの一種であるドリームイーターであると示している。
少女は案山子へと手を伸ばす。その行為を阻む者は、この場に居ない……。
緊急事態としてケルベロス達を招集したヘリオライダー静生・久穏が語ったのは、ジグラットゼクスの『王子様』撃破と同時に東京上空5000mの地点にジュエルジグラットの『ゲート』出現という事態であった。
さらに、そのゲートから『巨大な腕』が地上へと伸長しているという状況。
「おそらく、これこそが『王子様』の言う『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』なのでしょう」
完全に確証が得られている情報ではないが、本来この『ジュエルジグラットの抱擁』は、創世濁流によってワイルドスペースと化した日本全土を完全支配する決め手となるはずだったのだろう。
だが現実には、それはケルベロスの創世濁流阻止によって成されなかった。
「この巨腕は大きな脅威でしょう。打破するためには、全世界決戦体制で臨む必要があると思われます。ですが、ジュエルジグラットのゲートを戦場として戦うのですから、勝利できたならドリームイーターに対して致命的な痛手となるはずです」
逼迫した状況ではあるものの、一方的に追い詰められているということはない。
「互いに追い詰められているという点は、ドリームイーターも理解しているはずです。それを証明するように、ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達が対ケルベロスの切り札として用意していた人間達を、ゲートに集めるべく動き出しました」
ドリームイーターが回収しようとしているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって、探索が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達であった。
本来ならば、この動きにケルベロスが関与する余地は無かった。しかし、日本中でケルベロスが探索を行っていた事で、この動きを予知し、連れ去られる前に阻止する事が可能となったのだ。
「ジュエルジグラットのゲート防衛にこの人達を利用される前に、ドリームイーターを撃破して救出してください」
そのために久穏がケルベロス達に伝えたのは、とある廃村に現れる1体のドリームイーターに関する情報であった。
「今から急行すれば、敵が『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』を魔空回廊に送る前に到着できます。開けた場所なので隠れて不意打ちといった手段は取れませんが、戦闘の支障になるものはありません」
もっとも、隠れて不意打ちをするような時間的余裕は元より無いけれど。
「注意するべきなのは、敵の目的が『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』を魔空回廊からゲートに送るという事です。このため、敵は敗北が濃厚だと感じた場合には目的を優先するでしょう」
ただし、そのためには2分程度の時間を要し、その間は無防備にケルベロスの攻撃に曝されることとなる。その間は有利になるけれど、仕留められなかった場合には敵の目的が達成されてしまう。
「強敵ではありますが敵は1体で、戦場には障害も無いため純粋な戦闘となります」
留意するべきは、敵の目的を考慮した上でどのような戦術を採るかだろう。
敵を撃破できたとしても、『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』をゲートの防衛に送られてしまっては敗北と同義なのだから。
敵の目的を防ぐ一番手っ取り早い方法は、『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』を殺害してしまう事だろう。それを良しとするのであれば。
「ジュエルジグラットのゲートから出現した『巨大な腕』も気になりますが、今はその前哨戦とも言える敵の行動を妨害する作戦にを成功させましょう」
この後に控えているであろう、ドリームイーターとの大規模な戦い。この作戦の成功がその勝利への一手となると久穏はケルベロス達を激励するのだった。
参加者 | |
---|---|
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423) |
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168) |
ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658) |
櫻木・乙女(不断の闘志・e27488) |
ミカエル・ヘルパー(白き翼のヘルパー・e40402) |
●邂逅
ケルベロス達がやや離れた場所でヘリオンから降下し全速力で現場に到着した時、赤を基調としたフード付きワンピースに身を包んだデウスエクスが、朽ちかけた農具庫から案山子のような状態の凍結した人物を運び出していた。
「え……、もしかしてケルベロス?」
怯えた口調で戦慄に身を震わせる少女。外見だけならばそう見えるが、このティミーという名のドリームイーターは、当然見た目通りの存在ではない。
ジグラットゼクス『赤ずきん』が従える精鋭の1人が統率する部隊の一員である。怯えているような素振りなど、何の判断基準にもなりはしない。
「待ちなさい! そちらの方よりも、私達を先にお相手して頂きます! 銀天のイリス・フルーリア――、参ります!」
ティミーへ制止と宣戦を呼び掛けたイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)は、有無を言わさずオーラの弾丸を放った。
「たくさんデウスエクスと戦ってきたけど、ひとさらいをするなんてのは初めてよ」
かつては畑として作物を育んだであろう土壌を踏み荒らし駆け抜け、ルチアナ・ヴェントホーテ(波止場の歌姫・e26658)がティミーへと肉薄する。
かつて戦ったデウスエクスの残存した遺体の一部を部品に使用した寒々しくも禍々しい鎌の刃が、赤いワンピースを切りその内の肉を裂いた。
「会いたくなかったけど、こうなったらやらなきゃ」
怯えながらも自らを奮い立たせるように、ティミーは手にした猟銃を乱射した。その動作はまるで素人そのもので、とても標的に当たるとは思えない。
けれど、撃ち出された弾丸は正確に3人のケルベロスと1体のサーヴァントをその軌道上に捉えている。
「邪魔立てさせてもらうよ。人攫いとあっちゃ、見過ごしてはおけないね」
後方の仲間へと向かう銃弾をその身で阻み、怯む事なく間合いを詰めた四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)。スズランが描かれた白鞘から刃を抜き放ち、流麗な剣捌きでティミーを薙ぎ払う。
「行け、タルタロン帝。我が眼前にて不埒な振る舞いを行う痴れ者に、目に物見せてやるがよいぞ」
尊大な態度でシャーマンズゴーストのタルタロン帝に命令を下しながら、ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)は自身に魔法の木の葉を纏わせる。
「主の命令に忠実なのだな。私も励むとしよう」
タルタロン帝の横を凍結光線が援護射撃のように走り抜け、ティミーに命中した。
凍結光線を撃ったティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は、極めて平然とした調子であった。ティミーに命中するのは当然の結果だとばかりに。
「ティーシャさん、もうちょっと離さないと、タル……さん? に当たったら可哀想ですよ。勿論、貴女は全く気の毒には思いませんけど」
口に出すには少し長い名前を適当に省略し、櫻木・乙女(不断の闘志・e27488)は冗談めかして言った。しかし、直後にその朗らかさは消え失せていた。ティミーからは、神々しくもどこか恐ろしい大鎌を振るう恐ろしい存在としか見えなかっただろう。
「まったく、ハロウィンからあれこれと動いたと思ったら、また性懲りも無く。本当にいい加減にしなさいよ……!」
深い怒りを湛えた円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は、ティミーに容赦の無い蹴りを浴びせた。特定の身体部位を狙うその蹴りは、相手が男性でなければ技の名前が成立しないような感があるが、どちらにせよ威力が損なわれるものではない。
「人を捕え、閉じ込め、攫う。それが貴女達なのね。なら、私は唄うわ。貴女を阻むために戦う者達を肯定し癒す歌よ」
ティミーの銃弾を受けた仲間と己を癒すため、ミカエル・ヘルパー(白き翼のヘルパー・e40402)は癒しの歌を唄った。
ケルベロスとデウスエクス、双方が戦闘行動を開始したために、廃村の静謐は脆くも崩れ去った。
この闘争を制するのがどちらであるかは、まだ分からない。
●戦場
ティミーの弱々しい表情は、とてもケルベロスと戦うデウスエクスのそれとは思えない。
「怖いんなら、大人しく逃げ帰ってよ。どうしてもその人を攫って行くって言うなら……神さまの景色を見せてあげる」
ルチアナが紡いだ魔法は、何が起こったのかをティミーが理解する暇すら無く、閃光が視界と思考を貫いた。
「ただ回収するだけのお仕事だったはずなのに、どうしてこんな目に」
泣き言を漏らすティミーは、その言葉とは裏腹に強かな打突を繰り出している。この場のケルベロスの中で最も守りに長け相性の良い防具を纏っている幽梨ですら、油断すれば危険な威力だ。
「回収するだけのお仕事というなら何も間違ってはいませんよ。ちょっと障害が増えただけじゃないですか」
乙女の色々とおかしい指摘は、ティミーの耳に入ってはいなかった。それよりも、この場にそぐわない桜の花びらに目を奪われ、そして花びらに切り刻まれる痛みでそれどころではなかったから。
乙女が召喚した血染めの桜が消失するのと同時に、ティミーは自身を取り巻く空気が濁っていることに気付いた。自然にはあり得ない、毒を含んだ瘴気。
「良い調子よ、アロン。このまま押し切れたらいいんだけどね。……でも、何で案山子なの?」
地獄の瘴気を撒き散らすオルトロスのアロンと共に、キアリは両手のガトリングガンを連射する。ふっと呟いた疑問は、銃声に紛れて誰の耳にも届かなかった。
実のところ、その疑問はティミーも感じていたものだった。それは凍結処理を施したワイルドハントがたまたま目にした案山子を面白いと感じた悪戯心からなのだが、当人は創世濁流の失敗で消滅しており、真相は闇に葬られた。どうでもいい事実だけれど。
「泣き言に付き合う程お人好しじゃないね。アンタが勝つかあたし達が勝つか、二つに一つしかないんだよ」
言い終えるよりも早く、幽梨はティミーに斬撃を浴びせていた。鞘に収まっていた刃を抜刀する瞬間は、目にも留まりはしない。
(「まるで戦場に迷い込んだ民間人だな。隙だらけだが、付け入れるということはない。厄介なものだ」)
ティミーの所作はおよそ戦闘の経験はおろか修練を積んだものとは思えない。しかし、ティーシャから見てそれが弱味になっている様子はなく、ケルベロス達と対等以上に渡り合っている。
「伊達に重要任務を任されてはおらんということか。だとしても、精鋭というなら我等も引けを取りはせんぞよ」
味方前衛陣の背後にカラフルな爆発を生じさせるワルゼロムから見れば、強力な敵と渡り合う仲間達こそ精兵と呼ぶに相応しい。
とは言え、個々の実力で測ればこの場で最強を誇るのはティミーに間違いない。
少しずつではあるが、ケルベロス達の負傷が蓄積しており、ふいに誰かが倒れても不思議ではないのだ。
「イリスさん、まだ倒れるのは早いわよ。少し痛むけど、我慢してね」
強烈な一撃を受け膝を着いてしまったイリスを、ミカエルは強引な緊急手術を行い窮地を脱させた。
「ありがとうミカエルさん。甘く見たつもりはありませんでしたけれど、私もまだまだ未熟ですね」
敵に遅れを取ったと自戒するイリスだが、反撃に繰り出した斬撃の鋭さは一朝一夕に身に付くものではない。敵も然る者だが、実力差は絶対的なものではない。
むしろ、少しずつ形勢はケルベロス達の側に傾きつつあった。
●兆候
一撃の重さでは、ティミーに分がある。しかし、ケルベロスは仲間を庇う事である程度は負傷を分散させられる。そうして回復支援を受けることで持ち堪えていた。
単独で戦うティミーが押し切れない状況に陥った時点で、勝敗はほぼ決したと言えるだろう。
「負けを覚悟してでも職務に殉じるか。賞賛に値する心意気ぞよ。……よもや、勝敗が読めておらぬということはなかろう?」
およそ戦いに似つかわしくないティミーの姿からは、状況が理解できていない可能性も考えられる。もしそうならば、ワルゼロムは敵ながら一抹の憐れみを感じずにはいられなかった。
「仕事熱心だねぇ! そんなにママのご褒美が欲しいのかい? こないだくたばった王子様張りのマザコンだな。ドリームイーターってのは、皆そうなワケ?」
愛刀を振るう手を止めず、幽梨はティミーを挑発する。
まだ勝利が確定してはいない以上、少しでも敵の気を逸らすことができればそれに越した事はない。
「あら、マザコンだなんて。貴女ってばとんだクソ野郎様ですね♪」
乙女もまた、挑発を重ねた。一応どちらかに分けるなら女性であろうティミーを指して野郎という言葉を選別している辺りが、乙女らしい。
だが、この挑発はティミーの逆鱗に触れることは無かった。聞こえてはいたが、2人の言っている意味が分かっていないようだ。
「戦乙女……。宇宙で最も美しい種族……」
違った方向性からの挑発を試みるミカエルは、自身の女性としての美貌や豊満な乳房を強調して見せた。
しかしこれもまたティミーにはその意図すら伝わらなかった。容姿や女性らしさにコンプレックスを抱いている相手でもなければ、そもそも戦闘中に意味のある行為ではなかっただろう。
3人の挑発には成果が無かったものの、攻撃や回復の手が止まってはいないので、ケルベロス達が不利になったというような事もない。駄目で元々という程度の試みだったのだ。
「何にせよ、憧れの王子様と同じ所へ送ってあげるから感謝しなさいな。彼もきっと向こうでお茶会の準備をして待ってくれているわよ!」
轟音と共に大量に吐き出すガトリングガンの弾丸が、ティミーに雨霰と降り注ぐ。攻撃のため接敵しているアロンの存在に気付いていない訳ではないのだが、キアリは容赦なく撃ち続けていた。
「ドリームイーターには鍛錬ってないのかな? これでわたしみたいにちゃんと格闘技を使えたら危なかったかも」
武器に振り回されているようにしか見えないティミー。デウスエクスに常識が通用しないことはルチアナとて百も承知だが、これが素養だけによる強さであったとすれば、鍛えていたならと思うとぞっとする。
「いくら傷を癒そうが、私達はそれ以上の傷を貴女に刻んで見せます。貴女を倒して、あの腕を打ち破る弾みとしましょう」
自分のモザイクを取り込み回復するティミーに、イリスは攻め手を緩めず苛烈に攻め立てる。
ケルベロス達の攻勢が功を奏してか、ティミーに回復行動が目立ち始めていた。
普通の戦闘であれば、優位と考えて問題ないだろう。けれど、この戦いには勝敗以前の目的がある。
「どうやら、そろそろのようだ。皆、注意しろ」
終始ティミーの動きを注視し続けたティーシャは、これが兆候であると理解出来た。
その呼び掛けが合図となったかのように、遂にその時が訪れた。
●二手の詰め寄せ
戦闘開始の時点で手放した凍結された人物の元へ、ティミーが駆け寄った。それが何を意味し、何をしなければならないか、ケルベロス達は予知によって理解している。
互いに残された時間は2分。その間にケルベロスが打てる手は二手。それを経て、ティミーの目的が達されるか否かが決まる。
「敵を倒さずしておめおめ逃げ帰るなんて……小物にも程がありますね!」
気を引くため強気に言い放ち、イリスはティミーと魔空回廊の間に割り込んだ。
「思い通りになんてさせないよ! その人を連れて行かせたりしない!」
ルチアナの卓越した技量によって放たれる一撃が、無防備なティミーに突き刺さる。
「抜き打つ……受けてみろ……!」
裂帛の気合と共に抜き打つ幽梨の抜刀居合の決戦奥義が、剣の間合いを越えた斬撃となってティミーを襲う。
ケルベロス達の攻めによってティミーは身体中に傷を負い、ワンピースのフードは引き裂かれ地に落ちている。
それでも、ティミーは身動き一つしない。
「魔空回廊に向かうと思ったが……。何の真似だか知らんが、観念するんだな」
僅かな違和感を覚えたものの、ティーシャは敵の撃滅を優先し砲撃形態のハンマーで砲撃した。
「念のためである。タルタロン帝は敵と魔空回廊の間で奴の逃亡を妨害せよ」
自身は星型のオーラをティミーに蹴り込みながら、ワルゼロムはティミーの逃亡を阻止するための指示を出していた。
「そのまま倒れるなら、それはそれで助かりますね。最期の景色を彩ってあげますよ」
鋭利な刃物よりもなお危険な花びらを舞わせる血染めの桜。それを召喚する乙女の翼は、血のような赤黒い色で見る者に死を連想させる。
「ここが正念場ね。一気に攻めるわよ、アロン!」
キアリとアロン、主従の連携はさらに激しさを増している。その姿は、この世の者ならざるデウスエクスを狩り冥府へと送る猟師と猟犬のようだ。
「私が天国より再臨した今――祝福されなさい、私のかわいい子孫たち。――呪われなさい、私を憐れまなかった者ども」
ミカエルの使用する技法は、味方には癒しを齎す。しかし、敵に対しては責め苦を与えるものだ。敵であるティミーが得るのは、全身を苛む苦痛。
ケルベロス達全員が一手を費やした時点で、ティミーはその場から動くことなく、ただ居続けていた。この時点で、ケルベロス達はティミーが単純な移動と運搬によって凍結処理された人物を魔空回廊へ送ろうとしているのではないと気付いた。
だが、もう遅い。この時点でケルベロス達はティミーの目的を阻むための要点を外してしまっていたからだ。
この2分を耐えることが目的を達成する条件である以上、ティミーはここまでのケルベロスの攻撃から自分が耐えられると想定している。それを覆すためには、最大火力の攻撃をあえて温存するといった欺瞞が有効だっただろう。
また、いかにケルベロスとサーヴァントとは言え、戦闘中に攻撃と特定の位置に割り込むといったような行動を同時にはこなせない。攻撃を優先した者もいるが、移動を行った者はその一手を無為に費やしたに等しい。
結果として、2分間でティミーを討つには至らなかった。
「あはは……。お仕事は完了しましたよ」
それがどういった手段だったのかは不明だが、2分の集中を経たティミーによって凍結処理されていた人物はその場から消えていた。魔空回廊へと送られたに違いない。
この事態を防ぐために、凍結処理されていた人物を殺害するという方法もあった。幽梨はそれを実行する算段を立てていたが、ケルベロスの二手最後の時点でという制限を課していたことが実行を不可能にした。敵味方が流動する戦闘において、自身の行動する順番を意図的に操作することは叶わないからだ。
この手段を用いるのであれば、ケルベロス全員がその覚悟を決めているべきだっただろう。
「あはは……は……」
目的を達成したものの、最早還れはしないとティミーは空虚な笑いを続ける。
その笑いはイリスの翼から創り出された光の剣に貫かれ絶命し、ようやく途絶えたのだった。
作者:流水清風 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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