カンフーアクション!

作者:天木一

 冷たい海風が吹き抜ける。岩に当たって弾ける飛沫が冷たく頬を濡らす。
「ふ~……は~……」
 ゆったりとした呼吸と共に、踊るように一人の黒いカンフースーツを着た男が海辺の岩礁の上で修行をしていた。
 掌をゆらゆらと揺らして腕を振るい、足は動き軽快に円をなぞるように移動していた。そしてそれを繰り返し息が上がったところで静止する。
「……まだまだ功夫が足りないな。もっと気を練らなくては」
 息を整えると自らの未熟を悟り、まだ修行を続けようとする。だがその眼前にいつの間にか幻武極が姿を見せていた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 その一言に闘争本能が理性を上書きし、男は掌打を浴びせ、相手の周囲を円を描くように回りながら攻撃を繰り出す。
「イィーーヤァ!」
 悪い足場を気にも止めずに高速で舞い踊るように連撃を繰り出す。そして相手を掴んで投げると、上に乗るようにして掌打を叩き込んだ。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 無傷で寝転んだままの幻武極は鍵を男の胸に突き刺す。するとぐらりと男が崩れ落ち、その隣には同じ顔をした、白いカンフースーツの男が現れていた。
「ハイーーッ!」
 男は軽やかに舞い手を青白く光らせて岩に向かって掌打を放つ。すると気が伝わり岩が砕け散った。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 立ち上がった幻武極がそう告げると、男は飛ぶように駆け出し近くの町に向かった。

「武術を使うドリームイーターが現れて人々を襲う事件が起きるみたいだよ」
 エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)が事件の発生をケルベロス達に伝えた。
「幻武極というドリームイーターが、武術家を襲い自分に欠損している『武術』を奪いモザイクを晴らそうとしているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が詳細な説明を話し出す。
「モザイクは晴れないようですが、新たに武術家のドリームイーターを生み、人々を見境なく襲わせようするようです」
 武術家の理想の姿として生まれたドリームイーターは、超人的戦闘力で容易く人を殺める力を持つ。
「そうなる前に、町の外で敵を迎撃し人々を守ってほしいのです」
 今から向かえば敵が町に入る前に待ち構え、迎撃する事が可能だ。
「戦い事になる武術家ドリームイーターは、カンフー映画に出てくるような服を着て、中国武術である八卦掌の技を使うようです」
 舞うような動きが特徴の武術だが、ドリームイーターが使えばその破壊力は侮れない。
「現れる場所は千葉県の海辺です。敵が通る砂浜で迎撃する事になります。周辺の避難は既に手配しているので、一般人を巻き込む心配はありません」
 冬の海辺に元々人は少ない。被害を気にせず存分に戦う事が出来るだろう。
「敵はドリームイーターであっても武術家であり、その腕を披露したいと思っているようです。ですので戦いを挑めば必ず堂々と戦おうとするでしょう。人々の犠牲が出ぬよう、敵を撃破してください」
 よろしくお願いしますとセリカが一礼し、出発の準備を始める。
「カンフーかあ……映画みたいな動きをするのかな? 強そうだけど、映画でも悪者は最後に負けるのがお約束だからね。みんなで懲らしめよう!」
 映画の超人的動きを思い浮かべるエーゼットはそれでも負ける訳にはいかないと気を引き締め、ケルベロス達も頷いて作戦を練り出した。


参加者
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
ナルナレア・リオリオ(チャント・e19991)
アレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)
二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)

■リプレイ

●カンフー
 冷たい潮風の吹き抜ける海岸にケルベロス達が集まっていた。
「エー君は忙しくて来られなかったけど、せっかく事後行動で事件の発生を予見してくれたんだもの。しっかりと解決しなくちゃ」
 来られなかった恋人の分まで頑張ろうと、佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)は気合を入れて戦いに臨む。
「カンフーとかジャッキーの映画でしか見たことね―な俺」
 昔見た古い映画を相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)は思い出す。
「……いや、ジャッキーが高いとこから落ちたりバスに傘引っ掛けるシーンは覚えてるけど、あれカンフーなんだろうか」
 首を捻りカンフーの定義について思い悩むのだった。
「カンフー……ってのは体術のことだったかな。腕自慢ってなら、何が相手でもいいさ。可愛い女の子に、かっこいいとこ見せなきゃね」
 女性陣に視線を向けてアレックス・アストライア(煌剣の爽騎士・e25497)は良いところを見せようと意気込む。
「八卦掌、折角極めたのであれば続けられるように助けてあげたいです。幼い頃の憧れの行く末が悪夢で終わらないように」
 幼い頃正義の味方に憧れ強くなりたいと願った事をヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)は思い出し、穏やかな笑顔の中にも強い意志を瞳に灯す。
「今回は純粋な八卦掌とな、どれほどの使い手か楽しみじゃのう」
 嬉しそうにソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)は髭を震わせて笑う。
「ハンガー使いにレスリング混じりの柔道。どれも参考にはなったけど、ようやくまともな武術に出会えたね」
 今まで戦った敵を思い出したガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)は純正の武術を使う相手に喜ぶ。
「でも……なんでみんな浜辺におるん? 魚介類なの?」
 周囲を見渡し修行といえば海辺と決まっているのだろうかと首を捻った。
「冬の海岸というのもいささか寂しいものですが、この場合は都合が良かったでしょうか」
 冷たい潮風に靡く髪を押さえながら、ナルナレア・リオリオ(チャント・e19991)は人気の無い周囲を見渡す。
「武道家のドリームイーターねぇ……、どうせならケルベロスの方に覚醒してくれれば助かるのになぁ」
 幾ら倒しても切りがないと二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)は嘆息する。
「……まぁそううまくいかないのが人生さね。そんじゃまぁ、お仕事頑張りますかねぇ」
 肩を竦めて遠くに視線を向ける。そこには砂埃を上げて駆けて来る一人の男が姿が映った。
 白のカンフースーツを着た武術家ドリームイーターがケルベロス達の前で足を止めた。

●八卦掌
「さぞ力のある武人とお見受けした。腕試しを申し込みたい。……どうかな」
「承知! 我が功夫によって高めた究極の武を披露しよう!」
 騎士の姿となったアレックスが戦いを挑むと、二つ返事で応じた武術家が構えて間合を一気に詰めて来た。ただ触れるだけのようにゆっくりと掌が迫る。だがアレックスはその手に宿る殺気を感じて剣で払い続けて斬り上げる。
「ハイィ―!」
 それを武術家は食らいながらも体を捻り傷を浅くして掌を腹に当てた。捻じり込むような衝撃が通りアレックスの体が吹っ飛ぶ。
「守りはお任せください。皆さんが存分に戦えるようにしてみせます」
 ナルナレアはボクスドラゴンのレイラニに目配せすると、紙兵を撒いて展開し仲間達を守る盾とする。レイラニも任せてとすまし顔で仲間に水属性を与えていく。
「武術家の攻撃とは厄介ですね、まずはフォローに回りましょう」
 ヒスイは足元に鎖で魔法陣を描き、接近する仲間達を守る力を展開する。
「イー―ヤァ!」
 武術家は素早く動きケルベロス達の間を駆け抜けるように死角へと入り掌打を放った。
「そのままカンフー映画に出れそうな奴だな。まあ付き合ってやるとするか」
 感覚を増幅した鳴海は敵の動きをスローモーションのように視認し、攻撃を仰け反って避け、戻る反動でぶつかるように接近しながら左手で抜いたリボルバー銃を突き付け、零距離から腹に銃弾を叩き込んだ。
「見た目も正統派じゃのう。どれ、わしと一勝負しようではないか」
 ソルヴィンは腕に炎を纏わせて殴りつけるが、敵は体を回転させてダメージを減らして回し蹴りを放った。
「そちらが徒手空拳で来るならこちらも! 行くよ!」
 勇ましくオーラを纏った勇華が前に出ると、蹴り腕で受けながらも合わせて反対の拳を放ち、敵の脇腹にめり込ませ肋骨を折った。だが敵の掌も腹に当てられ放たれる気に勇華の体が宙に舞った。
「攻防一体というなら被弾は避けられないだろうからね、ダメージが重なる前に回復していくかなぁ」
 たたらは仲間の背後に回り、敵の攻撃を受けた仲間達の前に雷の壁を張り巡らせて敵を怯ませ治療を施す。それを手伝うようにウイングキャットのディケーは翼を羽ばたかせて風を送り仲間達に耐性を与えた。
「魚介類には見えへんね!」
 敵の動きを見てあれこれ考え、最後には勘でここだとガドが虚空に黄金の槍を打ち込むと、螺旋の渦が巻き起こり衝撃が槍のように放たれて敵を貫いた。その不意打ちに動きを止めた敵にボクスドラゴンのギンカクは体当たりをする。
「なかなかやるな、ならばこの動きについて来れるか!」
 武術家が素早く歩き始める。狙いを定めさせず惑わすように近づきガドに掌打を叩き込み、地面に転がした。
「成程、動き続ける事で常に自分の間合いを維持しているのですね」
 仲間の攻撃を観察したヒスイは、有効な攻撃を推測して湾刀を抜くと脚に斬り裂いた。
「足場悪ぃなぁ……一時期死ぬほど走らされたから砂場は慣れちゃいるけどよ」
 鳴海は落ちていたのぼり棒を蹴り上げ、炎纏わせ棍のようにヒュンヒュン振り回して足を払い仰向けに倒れたところへ腹に突き入れた。敵はその棒を手で掴み蹴り折ると、鳴海の腹を蹴って起き上がり舞うように手を振って攻防一体の動きで鳴海に連撃を浴びせる。
「本当に舞い踊るように戦うのですね」
 その動きに関心を寄せながらナルナレアは続けて紙兵を増やし、敵の攻撃を邪魔するように配置して少しずつ動きを狂わせていく。
「何やらダンスのようじゃのう。じゃがこれでも踊れるかのう?」
 ソルヴィンが砂浜に拳を打ち込むと、そこから凍結を始めて周囲を凍りのリングに変える。バランスを崩して敵の動きが止まった。
「こっちもお手合わせ願うで!」
 元気いっぱいに大きく跳んだガドは飛び蹴りを浴びせる。だが敵はくるりと回転して衝撃を逃し、ガドの背中に掌底を打ち込んだ。
「なるほど、掌を開くことで掴みや流しも自由自在。円のような動きで気付けば迫られ、倒されるってことか」
 ダメージを追いながらもガドはその身で敵の攻撃を覚える。
「おっと、女の子の相手はオレの後にしてもらいたいな」
 跳ね起きたアレックスは矢のように駆けて体当たりするように突きを放った。敵はその速さに反応しきれず切っ先が肩を貫く。
「治療のついでに強化もしておこうかねぇ」
 たたらは電気を飛ばし、ガドの体を活性化させて治療と強化を行う。
「どんな防御もこの拳で突き破っちゃうから!」
 勇華は固めた拳を真っ直ぐに放ち、肝臓を打ち抜いて激痛に相手の動きを止めた。
「がはっ……見事な一撃。ならばこちらも味わわせてやろう、我が掌は岩をも砕く!」
 武術家が勇華の肩に触れると気が浸透し、衝撃が体を抜けて膝から崩れ落ちた。
「痛い……けど負けないよ!」
 勇華は攻撃を受けながらも正面から殴り返し、敵の鼻を折って血を流させた。それに対して武術家もまた掌打を返し互いに打ち合う。
「その程度の傷なら、跡形も無く癒してみせます」
 すぐに準備していたナルナレアはオーラを分け与え、勇華の受けた傷を治療してしまう。
「攻撃の手が止まらないねぇ、お蔭でこっちも忙しいよぉ」
 忙しなくたたらは仲間を回復する為に、電の壁を作って癒しの領域を作り出す。
「力を見せつけたいのでしょう。それはどれほどなのでしょうか。ご自分が強いと言うなら見せてくださいませんか?」
 挑発の声を掛けながらヒスイはメタルを腕に纏って拳を放つ。
「存分に見よ! これこそ八卦掌なり!」
 それを腕を振るって受け流し、更に掴んで投げ飛ばした。
「なるほど、掌を開くことで掴みや流しも自由自在。円のような動きで気付けば迫られ、倒されるってことか」
 観察しながらガドは手に気を集めて撃ち出し、食らいつくように誘導し敵の腹にぶつけた。
「なかなか上手いもんじゃのう、ならこれも防いでみせるのじゃ!」
 ソルヴィンは炎の渦を放ち敵を飲み込む。その炎を手で裂きながら武術家が飛び出てくる。その攻撃を鳴海は受け止めようとして押し倒され、追撃の拳を首を捻って躱した。
「俺のカンフーもなかなかのもんだろ?」
 砂の上を転がった鳴海は落ちていた木の椅子を持ち上げて攻撃を受け止め、それを押し付けて相手の動きを縛る。
「おっさん年を考えろよ」
 そこへ跳躍して避けたアレックスは頭上から剣を振り下ろす。敵はそれを回転して躱し掌打を放つが、アレックスは剣の平で受け止めた。

●アクション
「我は武の高みに到達したもの。ここで負けるようでは極めたとは言えぬ。ハィヤーー!!」
 全身から気を発し力を増した武術家は、動きを速めて襲い来る。
「借り物にしてはよく遣いますね、ならばこちらも力をお見せしましょう」
 余裕の笑みを持ってヒスイは湾刀を斬り上げて脚を弾き、返す刃で袈裟に斬りつけた。そこにレイラニは水のブレスを吐きつけて傷を悪化させた。
「エー君の分までがんばるんだからっ!」
 強く踏み込んだ勇華は掌打を食らう、それでも怯まずに拳を打ち抜き鳩尾に抉り込んだ。衝撃に息を吐き敵が前屈みになる。
「こんな感じ?」
 ガドは見よう見真似で掌底を打ち込む。内部に浸透するような衝撃が敵の内臓へとダメージを与える。
「なるほどなぁ、こういうことかいな、次はもっと上手くいきそうやね。練習あるのみ!」
 コツが掴めそうだとガドは反対の手でも掌底を放つ。それを手で払うと敵が掌底を打ち返してきた。そこへ割り込んだギンカクが受け止め吹き飛ばされた。
「流石に武術家だけあって近接戦には強そうですね、ですが皆さんも負けてはいません」
 ナルナレアはオーロラの輝きで仲間達を包み込み、その体を清め傷を癒す。
「可愛い子が見てるんでね、負けてられないんだよ」
 切っ先を向けたアレックスは剣に天秤座の加護を宿し、真っ直ぐに突き入れる。敵はそれを身を低く踏み込んで躱し掌打を放つ。
「危ねーぞ」
 その後ろから鳴海はアレックスに足払いをして引き寄せ攻撃を避けさせる。そして代わりに椅子を突きつけるが、敵はそれを蹴り割って鳴海の胸を狙う。
「おっさん、臭い」
 悪態をつきながらアレックスは剣で受けて押し返すと、無言で鳴海は支えていた手を離しアレックスを砂浜に放り捨てて敵に蹴り返した。
「連続技などこうやって力づくでぶち壊してしまえばいいのじゃ!」
 ソルヴィンは無理矢理割り込むように炎を纏って突っ込み敵を体当たりで吹っ飛ばした。
「ハイーッ!」
 だが吹き飛ばされながらも気を放ち、ソルヴィンの体も弾き飛ばす。
「理想の姿だけあって、武術のキレはすごいねぇ」
 たたらは魔力を飛ばしソルヴィンの体にショックを与えると共に傷を塞ぐように覆い隠す。
「俺はおっさんじゃねぇ、まだ27歳のお兄さんだ」
「おっさんはおっさんだろ」
 鳴海は口で言い争いながらも敵の攻撃を防ぎ、アレックスは入れ替わるように剣を振るい敵の腕を斬りつけると、その隙に鳴海は銃口を向け弾を胸に撃ち込んだ。アレックスも続けて剣で胴を斬り裂く。
「ハアアアッ!」
 腰を低くして両腕を伸ばした武術家が鳴海とアレックスを同時に吹っ飛ばした。
「動きを止めます、その隙に攻撃を」
 ナルナレアは弾丸を生み出すと敵に向けて放ち、命中した足を地面ごと凍りつかせた。
「こうやって、こうやろ!」
 敵の攻撃を体を回転させて避けたガドは、胸に手を当て強く地面を蹴って掌底を打ち込んだ。
「どうや!」
「我の真似事を!?」
 己が技を真似されて武術家が動揺しながらも反撃しようとすると、ディケーは攻撃にリングを飛ばして妨害する。
「その技は貴方のものではありません。返してもらいますよ」
 ヒスイの瞳から零れ落ちた光が眩い翡翠色の雷となって敵へと迸り、打ち据えると体に流れて水晶のように動かなくした。
「せっかくだし、こっちの戦闘術も見せてあげるねぇ──参る」
 たたらはグラビティチェインを強化外骨格と化して己が体を操り、一瞬にして間合いを詰めると掌底から入り肘を打ち、最後に背中からぶつかるようにして敵を吹き飛ばした。
「我が武は最強なり!」
 起き上がった武術家が気に殺意を乗せて放つ。
「そうれ、これがわしの全開じゃ!」
 一瞬だけ若返ったソルヴィンは、気の奔流を放ち気弾ごと敵を呑み込み金縛りに掛ける。
「気功の技はこちらも使えるんだよ! 食らえ、桜花の術式!」
 これが最後と勇華は相手の胸に手を当て集めた闘気を流し込むと、内部から破壊の力が暴れ回り、敵は口から血を吐き出して崩れ落ち幻のように消え去った。

●功夫
「怪我はないみたいだねぇ、もう目を覚ましそうだよぉ」
 倒れた男性を介抱したたたらがそう告げると、ゆっくりと瞼が開いた。
「私は一体……」
「大丈夫ですか? お怪我とかありませんか?」
 心配そうに勇華が顔を覗き込み、目覚めた男性に事件の事を告げ、もう大丈夫だと安心させる。
「ありがとうございます。まだまだ私は功夫が足りないようです」
「鍛錬を続ければきっと理想へと近づきますよ」
 穏やかなヒスイの言葉は、経験者の言葉のようにすっと男性の胸に届いた。
「戦っとるときにココまで行けたんやけど、他に足りてないところはあるかね?」
 戦闘中に覚えた技をガドが披露してみせる。
「おおっ素晴らしい。後は体が自然と動くようになるまで功夫を積むだけです」
 感心したように頷き男性が褒める。
「中国拳法ってすごいよね。わたしも習ってみようかなぁ」
 勇華も興味深そうにその動きを真似していた。
「うっへ、砂まみれだ。もう二度と海岸で跳ね回ったり転がったりしねぇ……」
 相手のペースに合わせ過ぎたと鳴海は体中にまだ残る砂を叩きながら後悔する。
「あーかっこよく決めるつもりだったのに……」
 同じく砂だらけのアレックスは情けない表情を見せる。こっそり仲間の女子をデートに誘ったのだが全て断られていた。
「これで任務完了ですね、お疲れ様でした」
 無事を見届けたナルナレアは、毛繕いするようにレイラニを撫でながら冬の海を見やった。
「では帰るとするかのう。ついでに町まで送り届けてやるのじゃ」
 ソルヴィンの言葉に頷き、皆で武術談義で盛り上がりながら歩き出した。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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