失伝攻防戦~ねむりの繭

作者:ふじもりみきや

 とある場所、とある高校、とある教室。
 今は使われていない、人の立ち入らない第二音楽準備室の中にそれはあった。
 古い楽器やら資料やら、そんな雑多なものが並ぶ先、ちょうど人ひとりが隠れそうな大きさの掃除用具入れ。
 そんなところに……、極小規模のワイルドスペースは、存在したのである。
 ワイルドスペースのモザイクが消え去ると、中から棺桶のようなものが現れる。外からは窺い知ることができないが、中には凍結された人間が安置されていた。
「よしよし。ちゃんとあるちゃんとある」
 ……不意に、
 人気がないはずの教室で、声が響いた。
 少女であった。だが体の一部がモザイクに覆われていた。
 少女は魔空回廊から現れる。そして当然のことのように棺の前へ立った。
 赤い頭巾が翻る。少女は棺を確認すると小さくうなずき、それに手を伸ばした……。


「少し、あわただしいことになったな」
 浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)がそういって赤い髪を掻き上げた。思案するように眉根を寄せる。
「ジグラットゼクスの『王子様』が撃破された話は聞いているだろうか。その撃破と時を同じくして、東京上空5000mの地点に、ジュエルジグラットの『ゲート』が出現した」
 あくまで淡々と。いつもと同じ事実を告げるだけのような口調で月子は話を続ける。
「そして、そのゲートから『巨大な腕』が地上へと伸び始めた。この『巨大な腕』こそ、『王子様』が最後に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』である可能性が高い……と、いうことだ」
 腕。と言って、月子は思わず自分の手に目をやる。
「……」
 それから軽く胸元を叩いて煙草を探すようなしぐさをする。けれども見つからなかったのか、諦めて息を一つついた。
「まあ、なんだ。本来この『ジュエルジグラットの抱擁』は、創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を、完全に支配する止めの一撃だったのだろう。創世濁流が阻止されたことで、現実には至らなかったが。……それは、諸君らの健闘のおかげだな」
 それは、よいことだと、少しだけ月子は表情を緩める。
「とはいえ、油断できる状況ではない。この巨大な腕は脅威ではあるし、打ち破るには全世界決戦体制を行う必要がくらいだ。……もちろん、ジュエルジグラットのゲートが戦場である以上、その戦いに勝利すればドリームイーターに対して致命的な一撃を与える事も可能だな」
 まあ、それぐらい軽く諸君らなら鼻歌交じりで成功させてくれるはずだと、月子は付け足しておくことも忘れない。冗談めかしているが、その言葉の裏には確かなケルベロスたちへの信頼があった。
「とはいえ、それをドリームイーターが理解していないはずもない。ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達は、対ケルベロス戦での切り札として用意していた人間を、急遽ゲートに集めるべく行動を開始したらしい」
 なお、ドリームイーターが回収しようとしているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって探索が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達である。
「勿論向こうとしても、ケルベロスたちが介入の余地がないタイミングで事を起こす予定だったようだが、先日から日本中でケルベロスたちが探索を行っていただろう。そのおかげでこの襲撃を予知することができたし、連れ去られる前に駆け付ける事が可能になったということだ」
 ドリームイーターが彼らを利用し、ジュエルジグラットのゲートの防衛を固める前に、助けてあげてほしいと。月子はそう言って一つ、言葉を切った。
「今回向かってもらうのは、とある学校の音楽準備室だ。長い間使われていなかったから、一般人が巻き込まれるといった心配はいらない」
 なお、ものすごく強いというわけではないが、油断して勝てる相手でもないぞ、と彼女は付け足した。
「それと、この話は一つ癖がある。……彼らの目的は、作戦に使用する人間を回収することだ。なので、自分が敗北する可能性が高いと考えた場合、この人間を魔空回廊からゲートに送り届けようとする可能性が高い」
 この行動には二分程度かかるため、その間敵は無防備になるだろう。と、月子はそう付け足した。
「……」
 それから、彼女は息を一つつく。
「ドリームイーターは、ケルベロスが囚われていた人間を攻撃する可能性は考えていない」
 あくまでも淡々と冷静に、彼女は話を続ける。
「とらわれていた人間の身柄が奪われそうになった場合は、最悪、その人間を殺害して止めてくれても構わない」
 彼女は言った。それは罪に問わないと。
 そして目を閉じる。一呼吸おいて目を開けると、少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「……なるべくは、助けてあげてほしいのだけれどね」
 でも。と、彼女は話を続ける。
「ドリームイーターとの決戦において、この戦いはとても大事な戦いになるわ。だからどうか……」
 どんなことをしてでも成功してほしいとでもいうような。
 けれども、そんなことなどさせたくはないとでもいうような。
 そんな、なんとでも取れるような間の後で、
「……気を付けて、行ってきてね」
 そういって、月子は話を締めくくった。


参加者
メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)
巽・清士朗(町長・e22683)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)

■リプレイ

 教室は人の声ひとつしなかった。
 うっすら埃のかぶった音楽準備室は、来るはずのない生徒たちを待ち続けている。
 どこか灰色がかった空間は、そのまま朽ち果てていきそうな空気を持って。
 しかしその隅のほうに、赤い色をひらめかせた。
 赤い頭巾をかぶった少女は、使われていない掃除道具入れの前に移動する。本来なら雑多な道具が積まれていたはずのその場所から、棺をひとつ。取り出そうと……して。
「……『ある』のではない、柩に眠れるその人は『いる』のだよ。軽々しく扱うのは止めて貰おうか、悪食童話さん?」
 流星の如き蹴りが少女の手を打った。花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)は少女が振り返るのと同時に流れるように後退する。
「その方を……返してもらいます」
 その間に西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)が割り込んだ。突入時眼鏡を外し、表情なく前を見据える。霊力を帯びた武器の切っ先を、少女に向けて払った。
 ひらりと、フードが切れてその下の素顔が除く。金の髪。まるで御伽噺に出てくる少女の姿にイリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)もまた、御伽噺の少女のように……ほんの少し負けず嫌いの勝った……笑みを浮かべて一礼した。
「初めまして、赤ずきんさん。随分と狡い事をしてくれるわね。あんまりおいたが過ぎると狼に食べられてしまうわよ」
 攻性植物を黄金の果実を宿す形態に変化させ、聖なる光を作り出す。相対した赤い頭巾の少女は笑っていた。
「あら、あなたたちがその狼さん? 狼さんというよりは子犬みたいね。いいわよ、簡単なお仕事で少し退屈だと思っていたところなの」
 言うなり、少女の手にしていたバスケットが揺れた。バララ、と明らかにサンドイッチが揺れたのではない音がする。
「――!」
 弾丸が放たれた。それは今にも駆け出そうとしていたユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)の足を貫通する。きゅっと眉を寄せ、痛い、という言葉をかろうじて飲み込む。
 それは半分は演技で、半分は本音であった。
「あらおちびさん、震えているの?」
 赤い少女が笑う。違うと強がる振りをしてユリスは首を横に振る。
(「ぼくも、なんの罪も無い人を殺すかもしれないと思えば、今すぐ逃げ出したいし叫び出したい」)
 敵を油断させるための演技であり、そしてこれから人を殺すかもしれないというプレッシャーがユリスにはある。
(「でも黙って見殺しにはできない」)
 それに、そう思っているのは一人ではないはずだと。心の奥で言葉を飲み込んだ。それが真実の思いであったから、少女はユリスの演技を信じた。相手は取るに足りぬ子犬であると。
「……っ、でも」
 天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)がぐっと前を向く。振りとはいえ、攻撃を受けて痛くないはずはない。そんなユリスを思いやるように一度視線を向けて、力強く頷いた。
「誰かの自由を奪い、戦うための兵器にする。そんな傲慢は、許さない。心ある人の、未来ある生を、デウスエクスなんかに侵させたりはしない!」
 挑むように前を向いて、詩乃は小型治療無人機を飛ばす。まずは前衛に。守りの力を付与していく。
「……約束するの」
 その間をすり抜けるように、メイア・ヤレアッハ(空色・e00218)が走った。流星の如き蹴りは少女の足元を狙って当たる。
「決して逃さず、あなたを撃ち抜いてみせるわ」
 決意をこめた言葉を、やれるものならと赤い少女は笑う。そんな少女の前に巽・清士朗(町長・e22683)は一歩踏み出した。最前列に立ち、厳かに剣印を結ぶ。
「我らが地球の防人、その先輩を救えるか否かという作戦か……ここはひとつ、気張らねばな」
 全身に浮かぶ呪紋は蛇の鱗と文字の如きもの。
 清士朗はただ静かに部の構えを取る。……その、直前、
「背中は任せた。頼むぞ、エルス」
 すれ違いざまに、彼の後ろに立つエルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)の頭にぽんと軽く手を置いた。
「ああ……わかったわ」
 エルスは小さく瞬きをする。そしてこくりと頷いた。
「今回も……いや、今度こそ、ちゃんと守ってあげるの。地球を守る力を、地球を侵攻するやつには使わせないわ」
 地面に描くは守護星座。仲間を守るよう祈りをこめて彼女はそれを戦いの合図とする。
 それをただ、ユリスは、
(「ああ、でもどうか……」)
 ささやかに。震えるような恐怖と共に。そして暗闇の中に光を求めるように。祈るような気持ちで見つめた。
(「どうか、助けられますように……」)


 赤い少女がバスケットを振る。もはやそれが銃口であることは隠しようもない。派手な音が散るとともに弾がばら撒かれ周囲へと飛び散っていく。
「……っ!」
 霧華は唇を噛む。守る痛みには慣れている。全身から流れる血に、しかしはたと彼女は気づく。露骨に見えない程度に「ぎりぎり踏み止まっている」感じというのは、こう……、
「ぐあっ! やられた! か、回復を頼む!」
 どうすればいいんだと、無表情ながら一瞬思案した隣で、同じように弾を受けた清士朗が傷を受けながらもなんとも大きな声を上げた。そういいながらも敵の足元を的確に蹴飛ばしているのはさすがだと霧華は思う。
「こ、こっちも、お願いします!」
 一瞬迷った後、「こちらのほうが先です!」とも付け足しておく。付け足しながらも黒光を照射した。内心やりすぎかもと思いながらも表情には出さない。ちなみにもし会話ができたなら清士朗は「やるなら派手にとことんやるのがよいのです」なんて抜かしただろう。
「チッ、思ったよりやるわね……。こっちも回復! 間に合っていないじゃないの。しっかりしてくださいな!」
 イリスがわざとらしくしたうちをする。右手を後ろにかばっている風を装って、重心を気にしながらイリスは地を蹴り電光石火。赤い少女に蹴りを見舞わせる。
「……っ。あら。けれどもあなた方も、なかなかやるのね。子犬から大型犬に格上げしてあげる」
 優雅に笑うなぞして、銃声が響く。赤い女は前列には狩りのように銃弾をばら撒き、ここぞというときには後方の人間にも痛烈な一撃をお見舞いする。
「きゅ! きゅ! きゅぴ!」
 銃弾に貫かれ、颯音のボクスドラゴンのロゼが声を上げる。普段は勇敢だが、今日は心持ち演技より……かも、しれない。メイアのコハブと共に属性インストールで回復を中心に回していたが……、
「赤ずきんの赤は血染めの赤である……という皮肉が、君程似合う存在もそうはいないだろうさ」
 颯音がオウガメタルを鋼の拳に変える。ロゼに視線を向けながらも距離をつめ、それで強く殴りつける。少女はそれをもろに受け、かは、と、空気を吐きながらも軽く一歩下がった。
 その背にはロッカー。赤い少女はちらりとそちらに視線をやる。
「お前は一体何が目的だ。卑怯者が!」
 その視線を切るように、颯音は叫んだ。それに思い直したかのように、少女は攻撃を続ける。
「ぁ、く……。どうしよう……。敵が強すぎる。回復が間に合わないの!」
 血の雨が降る。エルスは半透明の御技を霧華へと走らせる。
「……ありがとうございます。まだ、やれます……!」
 霧華はかすかに振り返り、小さくうなずいて己の刀を振るった。まだ大丈夫だと。
 如何に回復しようと治しきれぬダメージがある。押されている振りをして、回復中心に。慎重にことを進めようとすればするほど、敵の攻撃は続き、蓄積していく痛みがあった。
 エルスは内心唇を噛む。押されている演技はしている。けれども一歩間違えれば負けかねない。
 エルスが詩乃を見る。赤い少女へと目を促す。詩乃もわかった、というように頷いた。
 こちらの傷も深い。しかし一方でその傷を数値化して見る事はできないが、少女の様子から少女の限界が近いことは判った。少女は今、迷っている。もう少しで押し切れそうだから、邪魔な敵を倒してしまうか。それとも、なんとしてでも任務を達成してしまうか……、
「ジゼルカ。いつもありがとう。痛いよね。でも、最後まであきらめない。……もうちょっとだけ、がんばろうね!」
 だから全身の装甲から光輝くオウガ粒子を放出し、詩乃はそう声をかける。傷だらけの詩乃のライドキャリバー、ジゼルカが主の意思を汲むようにガトリングガンを掃射する。
「……わたくしは信じてる」
 メイアも同様に光輝くオウガ粒子を放出し、仲間たちの傷を癒していく。追い詰められたが故の回復を装いながらも、次の戦いの準備を始めている。
「皆が絶対に何とかしてくれる。絶対に負けたりなんかしない……」
 それを最後の足掻きととるか。反撃のための予備動作ととるか。慎重に真意を隠し、メイアは前を見据えた。
「……」
 ユリスの手が止まる。正直恐ろしいと震える指を握りこむ。
 次の一撃。自分の攻撃でその均衡が破れるかもしれない。それが失敗につながるかもしれない。それが恐ろしくて足がすくむ。……そんな自分が、少しだけ痛い。
「……ふむ」
 ユリスは流星のごとく赤い少女に蹴りを放つ。それを間一髪のところで避けて、少女はバスケットを……銃を構えなおす。だが、
「きゃ……っ」
「なんと、偶然にもあたってしまったな」
 清士朗がその隙だらけのどてっぱらを蹴り砕いた。
「何、所詮寄せ集め。覚悟も腹も決まらぬ者ばかりで戦いにくいことこの上ないよ」
 清士朗は口上を述べる。ユリスに視線を送るとユリスは頷いて後退する。
 ユリスは演技の奥に隠された自らの未熟を少しの悔いとし、
 清士朗はそんな当たり前の素朴さを、少しだけ眩しいものを見るような目で見送った。
 終わりは/始まりは、近い。
「……何が目的かと、聞いたわね」
 攻撃が不発に終わり、赤い少女は舌打ちをする。この攻撃は無駄だったと認める。
 もはや清士朗の口上は間に受けていない。ここまで時間を浪費し追い詰められたことを彼女は振り返り、忌々しげに罠にはまったことを認めた。
「私は私の仕事を完遂する」
 そうして逆転劇は幕を開けた。
 どちらが逆転するのかは、最後の最後の瞬間までわからないけれど……。


 赤い少女の行動は迅速であった。バスケットを捨て棺へと向き直る。なお、この移送は設定した時間以内に敵を倒すか、棺の人間を殺す以外には防げない。
「でしたら……!」
 ユリスはファミリアロッドを持つ。これ以上は躊躇ってはいられなかった。ファミリアを飛ばした攻撃に、あわせるようにルーンを施した斧が走る。
「ロゼ!」
「きゅ!」
 ここからは全力だ。颯音の斧と共にロゼも先ほどとは打って変わった勇敢さでタックルを仕掛けた。
「……!」
 赤い少女の反撃はない。避けることもせずに棺の儀式へと集中する。
「すまんな? なにせ矮小なる人間風情の身。許せ?」
「ドリームイーター如きに、好きにさせるか! 絶対に行かせない!」
 清士朗がその背に痛烈な蹴りを放つ。エルスが半透明の御業を用いてその体を握りつぶす。
「誰かの自由を奪い、戦うための兵器にする……。そんなことは許さない。心ある人の、未来ある生を、デウスエクスなんかに侵させたりはしない!」
 詩乃も攻撃に転ずる。ジゼルカのスピンと共に敵を討つ。
「……助けます、必ず」
 そんな仲間たちと共に、霧華も達人の如き一撃でその背を斬る。ただ淡々と、絶対に為すべき事を為すとでも言うように。
「ええ、そうなのね。……お待たせ、なのね。行こう、コハブ」
 メイアもかわいく装飾したエクスカリバールから釘を生やし、全力で少女を殴打する。合わせてコハブがブレスをはく。苦しげに顔をしかめる少女を、イリスが高らかに笑った。
「騙されたわね、赤頭巾ちゃん! 知らなかった? 綺麗な薔薇には棘があるものなのよ!」
 熱を奪う凍結光線。しかし少女は反撃せずに甘んじてそれを受けた。棺の状態が変化する。……あと少し。
「死の感触に二度目は無い……。ここが、あなたの死です」
「分かたれし定め、最早交わらざる者。愛し汝より賜りし星刃、此処に開放せん……」
 速攻でユリスが少女に触れて死の断末魔を叩き込む。颯音もロゼの攻撃に合わせて古の竜の力を秘めた魔剣を召喚をした。
「この剣は星の敵たる貴方を逃がさない」
 護法の件は今、颯音の手によって名も無き人を守るために振るわれる。
「紅蓮の天魔よ、我に逆らう愚者に滅びを与えたまえ!」
 エルスもまた悪魔のような黒い炎を作り出し、猛烈な爆発を少女へと叩き込んだ。声音が若干、硬い。
「焦らずともよい。……陰陽の 和合を知らぬ 仕手はただ 片おもひする 恋にぞありける」
 あくまで泰然と清士朗は少女を打った。体制を崩させ、そしてその命を絶つように打つ。その極意に少女は崩れそうになる体をぎりぎりのところで支える。
「まだだ。あと少し、あと少しで……!」
「いいえ。最後まであきらめない。絶対に助けてみせる。だって、私はそのために……。力なき人たちを護るために、この力を手にしたんだから!」
 少女の言葉に、負けじと詩乃は声を張る。
「腕部追加兵装起動……火器管制システムに接続……完了。照準セット、偏差射撃誤差修正完了。収束、収束……コード・シャウラ、穿て!」
 自身のエネルギーを転用して放つ。照射範囲は限りなく収束させ、少女の体をただひたすらに貫く。少女の体の一部がこそげた。血まみれになりながら、少女は棺に手を置く。
「……見誤りましたね、私たちの想いの力を」
 霧華の武器に炎が纏う。そして全力で斬りおろした。肩口から胸へかけての確実な致命傷。少女は赤い頭巾をさらに赤く染め、
「まだ……!」
 なおも踏みとどまった。メイアはわずかに息をのむ。
 視線をイリスに。あと二人。彼女たちの攻撃で倒せなければ、移送は完了してしまう。
 イリスは髪を掻き上げる。彼女は優雅に自信満々に。決して自らの敗北を認めない。
「闇より深い永遠(とわ)の眠りを貴方に……」
 茨型の攻性植物で敵を包み込む。目を眇め前を向き相手を捕らえる。
「覚えておいてくださいね。私たちは犬だけれど……。この犬は地球の何よりもあきらめが悪く、気高く、そして必ず、敵を討ちますのよ」
 それがケルベロスだと、イリスは語った。それとほぼ同時に、
「ねぇ、撃ち抜かせてくれるよね?」
 メイアの手のひらに集めた冷気は凍える歌を謳いながら固まっていく。迷いはない。ただ信じると決めた。だから冷気は彼女の持つ小瓶の硝子のように形なす。凝縮し射出された弾丸はほうき星のように尾を引いて、少女の胸に当たって弾けた。
「言ったよね。決して逃さず、あなたを撃ち抜いてみせるわ、って……」
 少女の体が崩れ落ちる。今まさに転送されようとしていた棺はギリギリのところでこの世界にとどまった。……確かに。ケルベロスたちが勝ったのだ。
 遠くでチャイムの音がする。終わってみれば僅か十数分の死闘と逆転劇だった。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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