●山村の寺にて
とある山村。人口も緩やかに減少し、高年齢化が進む、現世からは隔絶されたようなひっそりとした村である。
村の奥、今や人も寄り付かぬような林の中に、一軒の寺があった。かつては村の催事を一手に担っていた寺ではあるが、一年ほど前に住職が失踪。代わりの住職も決まらず、そのまま捨て置かれた寺である。
その寺の、本堂。
本尊である仏像の裏に、何やら不可思議なものがあった。
モザイクである。
サイズにして一畳ほどであろうか。長方形の空間、そこがモザイクに覆われている。
ふと、そのモザイクが消滅した。
ごとり。と。
何かが床に落ちた。
人――である。
僧衣を着た、30代中ごろの男か。
男は動かない。眠っているのか、まるで凍り付いたように。
その時、寺の外で。
上空が裂けた。デウスエクスの移動手段、魔空回廊だ!
ぬうっ。と。
魔空回廊から、それは顔を出した。
醜悪な、巨人の顔である。
巨人ははい出るように魔空回廊から姿を現した。地に足を付けた、その身長はおよそ7mほどである。
巨人は知性の感じられない瞳で周囲を見回した後、寺の本堂に視線をうつした。
「あー、あー」
唸り声をあげつつ、巨人は本堂へと迫る。
●夢喰いの抱擁、前哨戦
「緊急事態だ! 東京上空5000m地点に、ジュエルジグラットの『ゲート』が姿を現した!」
アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)が、集まったケルベロス達へ言った。
ゲートが発生したのは、ジグラットゼクスの『王子様』撃破とほぼ時を同じくしていたという。ゲートからは巨大な腕が伸びており、これこそが王子様が残した『ジュエルジグラットの抱擁』という言葉の正体であると思われる。
本来ならば、『創世濁流』作戦の仕上げ、ワイルドスペースに覆われた日本へのトドメの一撃となるはずだったのだろう。だが、創世濁流はケルベロス達によって阻止された。
ジュエルジグラットの抱擁は健在であり、確かに脅威である。対処には、全世界決戦体制――ケルベロス・ウォーの発動は避けられまい。
だが、これは反撃のチャンスでもある。ゲートを戦場とする以上、敵も大きなリスクを抱えながら戦うことになる。この戦いに勝てば、ドリームイーターに対して大きなダメージを与えることが可能だ。
「とは言え、ドリームイーターたちも、ただ手をこまねいて待っているわけではないようだ。奴らは、我々ケルベロスとの戦いに向けて確保していた人間達を回収、ゲートへと送っているらしい」
ドリームイーターが回収しようとしているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって探索が進められていた『失踪していた、失伝したジョブに関わりのある人物』達であるという。
本来ならば、発覚する事のなかった事件ではあったが、日本中でケルベロスが探索を行った事で、この襲撃を予知し、対象の人間が連れ去られる前に駆け付ける事が可能となったのだ。
「ドリームイーターに回収され、利用されないように、彼らを救出してやってほしい」
今回戦場となる場所は、とある山村にある、一軒の寺の庭になる。
元々人の寄り付かなくなって久しい場所であるし、既に付近の住人の避難は済んでいる。一般人の対処については、考えなくても問題ないだろう。
敵は、『貪欲なる夢喰い』と呼ばれる巨大なドリームイーターだ。
相手からエネルギーを奪い取り、持ち帰るという習性をもつ。その為、今回の回収役に使われたのだろう。
今回相手をする個体は、本能的に暴れまわる……言ってしまえば、さほど知能の高くない個体のようである。ただ、回収対象の人間の回収については厳命されており、その命令には最優先で従うようだ。
「そうそう、敵についてだが、どうやら『自分が敗北する可能性が高い』と考えた場合、『回収対象の人間を、魔空回廊からゲートに送り届けようとする』らしい。この行動には2分ほどかかり、その間、敵は完全に無防備になるようだ。攻撃のチャンスだが、同時に敵は作戦の成功に王手をかけている状態ともいえる。気をつけてくれ」
それから、アーサーは、口元に手をやり、眉をひそめた。
「……なお、今回の作戦は、あくまで『ドリームイーターの作戦の阻止』だ。ドリームイーターも、ケルベロスが対象の人間を害するとは思っていないだろう。つまりは……」
そこまで言って、アーサーは口を閉ざした。
ドリームイーターの作戦目標は、『対象となる人間の回収』である。
言い換えれば、『対象となる人間が存在しなければ』、ドリームイーターの目標は達成されない。
つまり。
「……いや、忘れてくれ。君たちもきっと、そんな結末を望みはしないだろう」
アーサーは首を振った。
「ドリームイーターとの決戦の前哨戦ともいえる作戦だ。まずは先制攻撃と行こう。君たちの無事と、作戦の成功を祈っている」
そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのだった。
参加者 | |
---|---|
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124) |
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470) |
千手・明子(火焔の天稟・e02471) |
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708) |
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612) |
帰月・蓮(水花の焔・e04564) |
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587) |
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602) |
●窮地の狩人
雄たけびを上げて振り上げられた『貪欲なる夢喰い』の拳は、ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)目掛けて振り下ろされた。その様は、巨大な岩石の落下にも似ていた。ミチェーリは、ガントレットを付けた両手を交差させ、その拳を受け止めた。
衝撃。地面の砂利が爆発したかのように吹き上がり、ミチェーリはその勢いを殺しきれず、地面に強かに打ち付けられた。
「きゃーっ! ミチェーリ! 無理しないで!」
千手・明子(火焔の天稟・e02471)が悲鳴をあげる。
「ま、まだ……大丈夫です、あきら……」
よろよろと立ち上がり、ミチェーリが言った。大丈夫とは言うものの、弱々しさを感じるそのしぐさは、ミチェーリがすでに限界を迎えているように感じさせる。
「ミチェーリさん! すぐに治療するよ!」
大慌てで、アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)が駆け寄る。オーラによる治療。ミチェーリがうめき声をあげるのを、アトリ・カシュタールは沈痛な面持ちで見やる。そんな彼女も少なからず負傷しており、ケルベロス達がギリギリの所で戦っている。そう思わせるには十分な姿であった。
「ここまで来て無理なんて言えないもんっ!」
光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)が叫びながら、走った。右手にオーラを集中させ、高く、高く飛ぶ。
夢喰いの眼前まで迫った睦は、顔面に向けて拳を叩きつける。夢喰いはうるさそうに左手を掲げると、睦の拳をその手で受けた。
「くうっ!」
クリーンヒットを当てられなかった悔しさからか、睦はうめき声をあげた。着地すると、すぐさま後方へ飛びずさる。
「おのれっ!」
帰月・蓮(水花の焔・e04564)が悔しげに呻きながら、魔法の木の葉で、自身の傷を回復させる。攻撃手である蓮が回復に回らねばならないほどの状況。それは、ケルベロス達の、完全な劣勢。それを裏付けるかのように、蓮が叫んだ。
「あ奴、強いぞ! このままでは……!」
「分かっている!」
答えたのは、アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)だ。
「だが……たとえ此処で全滅しようと、俺達は背を向けられん……ふん、負け戦には慣れている!」
悲痛な言葉である。アジサイは日本刀、『五刃』を構えた。傷だらけの身体で、夢喰いに対峙する。
夢喰いが、威圧する様に吠えた。
「ぐうっ……!」
アジサイが気圧されたように呻く。その弱気を覆い隠すように雄たけびを上げ、突撃。
本来、敵を的確に切り裂くはずの月光の刃は、アジサイの恐怖を感じてか、その鋭さを完全に発揮しないように見えた。
「背はむけられない……そこには同意するよ。でも、実際、このままじゃ全滅は間近だ」
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)がリボルバー銃、『S=Tristia』にて銃撃を放つ。銃の反動に、反応するように顔をしかめた。反動すら響くような傷を負ったのか。アトリ・セトリのウイングキャット、『キヌサヤ』が、心配した様子で、主人の傷をいやすべく、羽ばたく。
「ごめん、キヌサヤ……お前も辛いだろうに」
悔し気に、アトリが言った。
「ハピネス、もう少しだけ、頑張って……!」
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)が、自身のオウガメタル、『ハピネス』に呼びかける。リディを覆った金属生命体は、本来の輝きを失い、どこかくすんでいるかのようにも見えた。
飛び掛かり、オウガメタルで覆われた拳で殴り掛かる。夢喰いの顔面を捉えた一撃。しかし、夢喰いは倒れることなく、じろり、とリディを見据える。
「ひっ」
視線が合ったリディが、か細い悲鳴をあげた。
「リディ、退いて!」
明子が叫び、夢喰いへ向かって飛ぶ。日本刀、『名物『白鷺』』が刃をきらめかせ、奔る。
リディと共に、明子は着地。そこへ、夢喰いの腕が迫った。腕を思い切り震わせた薙ぎ払いは、前衛のケルベロスもろとも、明子とリディを吹き飛ばした。
もうもうと巻き上がる噴煙。地面を抉る攻撃の後。
「みんな……っ!」
たまらず、アトリ・カシュタールが叫んだ。煙が晴れた後に現れたのは、惨憺たる光景である。皆が倒れ伏し、弱々しく立ち上がる。
「なんという……威力だ……」
呆然と、蓮が呟いた。
「……勝てないよ……」
リディが、言った。
「こんなの、勝てるわけない……!」
「リディ……」
ミチェーリが言葉を詰まらせた。諦めてはいけない。そう言うのは簡単だ。だが、今の状況はどうだ?
絶望しても仕方がない。弱音を吐いても仕方がない。
「ダメ……ダメだよ! 最後まで頑張ろうよ!」
睦が言う。だが、その表情は、涙をこらえているようでもあり、その手は小刻みに震えていた。
「ふっ……諦め時かもしれんな……」
自嘲する様に、アジサイが言った。
「アジサイ、弱気な事を……」
明子がたしなめるように言う。だが、言葉が続かない。
「サムライは散り際が肝心と言う……ふふ、ジタバタしてもしょうがないかもしれんな」
蓮が、あきらめた様子で言った。
「カシュタールさん、癒し手から見て、皆の状況はどうかな」
アトリ・セトリがアトリ・カシュタールに尋ねる。
「……肉体的なダメージも大きくて……それ以上に、精神的なダメージが大きい、かな」
悔し気に、アトリ・カシュタールが唇をかみしめた。仲間を守る。癒し手にとって、それが役割だ。それを果たせぬアトリ・カシュタールの心中は、決して穏やかなものではないだろう。
「……これが自分達の最後の戦いになりそうだな」
全てを諦めた笑み。アトリ・セトリは笑うと、
「この場に、自分と同じ名前のアトリさんと同席できたのは、なんというか、運命かな。欲を言えば、もっと違ったカタチで会いたかったけれど」
「……はい」
その言葉に、アトリ・カシュタールも弱々しい笑顔で同意した。
●
貪欲なる夢喰いなる怪物にとって、作戦阻止のために現れたケルベロスたち等、おそるるに足らない存在であった。
事実、邪魔者たちは今も仲間内でめそめそと、何やら弱音を吐いている。
夢喰いは思った。彼らは、自分の敵ではないと。
ケルベロスたちが、決死の表情で攻撃を仕掛けてくる。ダメージはあるが、それ以上に、相手にダメージを与えているはずである。恐れる事はない。
それに自分には、おのれの傷をいやす手段がある。周囲の生命よりエネルギーを奪い取り、それを自身の糧として食らうのだ。手始めに、近隣の植物からエネルギーを吸い取ってやった。
ああ、それを見た奴らの顔を見ろ。まるでこの世の終わりのような顔をしている。
愉快。愉快だ。あいつらを無力化して、存分にエネルギーを食らいつくしてやろう。それから持ち帰って、命尽きるまで徹底的に食らいつくすのだ。
目標を自分の物にする事は許可されていなかったが、このケルベロス達を巣に持ち帰る事は問題あるまい。
まだ連中は飽きもせず攻撃を仕掛けてくる。ケルベロスの内一人を、思い切り殴りつけた。よろよろと立ち上がる。もういい加減倒れてもいいだろうに、立ち上がる。
――何故?
一瞬脳裏に浮かんだ疑問を、夢喰いは無視した。
それは本能からの警告であったけれど、夢喰いは無視した。
何故なら目の前のケルベロス達は、徹底的に消耗しているはずであり――。
自身の優位は、絶対にゆるぎないはずだからだ。
――本当に?
本能が、疑問符を浮かべる。
何かがおかしい? いや、あり得ない。なけなしの知性、知識が、それを否定した。
ケルベロス達が攻撃を仕掛ける。
夢喰いは、再び周辺の植物からエネルギーを吸い取り――まて、何故? 何故自分は、自らの傷を癒している?
――おかしい。
いや、おかしくない!
敵は消耗しているはずだ。敵は追い詰められているはずだ。敵をすぐに壊滅するはずだ。
――ほんとうに?
●反転、そして反撃
「ようやく気付いたか、このマヌケめ!」
アジサイが、笑いながら言った。夢喰いを観察していたアジサイは、夢喰いが何かに気付いたように目を丸めるのに気が付いていた。
演技。
そう、演技だったのだ。
夢喰いが優位に立っていたように見えたのも。
ケルベロス達が敗北の瀬戸際に立っていたように見えたのも。
すべてが演技。すべてが虚構。
「あ、気が付いた!? じゃあ、もう、遠慮はいらないっ! やるわよ、アジサイ!」
先ほどまでの絶望の表情はどこへやら、ニヤリと笑い、明子が駆けた。
「応ッ!」
アジサイが叫び、駆ける。『五刃』を構え、放たれるは必殺の一撃! 続いて、明子の『白鷺』が輝く。相手を凍り付かせるほどの冷たい一撃。夢喰いが悲鳴をあげた。
「さて、ではここからが本番だよ。今まで味わった優越感、すぐに絶望に変えてあげよう」
アトリ・セトリがオーラの弾丸を撃ち放つ。キヌサヤも先ほどとは打って変わって、力強く飛び、尻尾のリングを撃った。
続いて、ケルベロスチェインが夢喰いに食らいついた。『ハピネスグローリー』の名を冠するその鎖は、リディの獲物だ。
「人を玩具みたいに扱う、あなた達の作戦! 絶対に許せないんだからっ!」
リディが力強く、鎖を引き絞る。その拘束のせいか、夢喰いが振り上げた拳は、虚しく空を切った。
「青氷壁の盾は決して砕けません」
重装甲のフェアリーブーツ、『ドモヴォーイ・サパギー』による鋭い蹴りをたたきつけ、ミチェーリが言う。
「ましてやあなた如き。傷をつける事すらかなわないと知りなさい」
「誰かを操って、利用して……その人の道を滅茶苦茶にしてしまう、そんな事、絶対に許せない!」
アトリ・カシュタールの身体を、翡翠色の光が包む。それは、アトリの身体から飛び立つ翡翠色の鳥の姿をとった。『旅人達への守護(タビビトタチヘノシュゴ)』。飛び立った翡翠色の鳥は、後衛のケルベロス達のもとへ向かい、その傷を癒し、加護を与える。
「まったくっ! 負けそうな演技って疲れるっ!」
とは言えニヤリと笑いつつ、発揮されるは我流ケンカ殺法。睦は左手で夢喰いをひっつかむ。思いっきり左腕を引っ張ると、その巨体が宙に浮き、
「今までの――おかえしっ!!」
右手で思いっきり殴りつけた。夢喰いの巨体が吹き飛ぶ。地面にたたきつけられた。
「さて、演技であったとはいえ、貴様が仲間たちを傷つけたのは事実だ」
両手にゲシュタルトグレイブを携えた蓮が言う。
「償いはしてもらうぞ」
放たれるは、二刀の刃による無数の斬撃。滅多切りにされた夢喰いは悲鳴をあげ、後ずさると、何やら天に向かって両手を捧げるようなポーズをとった。
「謝ってる……とかじゃないね! 住職さんを魔空回廊に送るヤツだ!」
睦が叫ぶ。ヘリオライダーの予知通り、負けを悟った相手は、目標の回収に専念する。
それは、相手の作戦の成就の一歩手前。だが、同時に総攻撃のチャンスでもある。
ケルベロス達は一斉に動いた。
「チャンスだ、総攻撃を仕掛けるぞ!」
アジサイが叫び、ウィルスカプセルをぶつけ、夢喰いを汚染する。
「裂けろ幻影、塵も残さず朽ちて逝け!」
アトリ・セトリが舞うように、幾度となく蹴りを繰り出す。蹴りは全て空を切るが、夢喰いの身体には無数の傷が刻み込まれていた。
『幻影爪舞(ダンシング・オブ・シェイド)』。本命は、蹴りではなく、アトリの足元に具現化した赤黒い影。三層の大鎌の如き刃と化した影が、蹴りの軌道に乗せて敵を切り刻む。
「幸せを奪う敵は、逃がさない――――!」
リディがケルベロスチェインを撃ち放つ。その瞳が見るは時。映るは敵の未来の姿。『ミスティック・フューチャーモーメント』。その一撃は、決して相手を逃さない。
「動かない相手にはもったいないけれど、大盤振る舞いよ!」
明子が放つは千手の奥義。体捌きや視線、剣尖の動かし方にて敵の遠近感を狂わせる、千手の技術の粋。『陽炎之太刀(カゲロウノタチ)』の名のままに、陽炎めいて立ち上る殺気。切り裂かれるは、夢喰いの肉体。
「露式強攻鎧兵術――」
ミチェーリの言葉とともに現れたのは、冷気によって生まれた氷の杭。バトルガントレットに装着されたそれを、夢喰いへと向け。
「『сосулька(サスーリカ)』!」
打ち放つ。氷杭は、夢喰いの身体を貫き、砕け、舞い散る。
「2分間……絶対に、この間に止めてみせるよ……!」
続いて、アトリ・カシュタールがウィルスカプセルを投擲する。
「絶対にやっつける! 住職さんを連れ去らせたりなんて、しないっ!」
それは、声紋をノコギリ状の刃として顕現させ、敵を切りつけるグラビティ。本来は歌を用いるものだが、状況によっては、叫びそのものも刃となる。
睦のグラビティ、『いのりのうた(物理)』によって現れたグラビティの刃が、夢喰いを切り裂いた。
「貴様にはもったいない星だが、受け取れ!」
蓮が星のオーラを蹴りつけ、夢喰いにぶつける。
ケルベロス達の総攻撃に晒され、夢喰いは虫の息だ。だが、まだ、生きている。次の一分で止めなければ、目標は連れ去られてしまうだろう。だが。
「俺達を弱いと思ったか? 結構。それが狙いだ。目的の為なら侮られても構わない。俺達は――」
アジサイが『五刃』を構えた。放たれた一撃は、夢喰いの急所を完全に破壊する。
「いつだって、最良の結果を導く。その為なら、どんなことでもするんだ。冥途の土産に知っておけ」
その言葉と共に。
夢喰いは悲鳴をあげると、地に倒れ伏した。その身体がモザイクに包まれ、次の瞬間には消滅した。
ケルベロス達は、見事に勝利を勝ち取ったのだ。
●幕が下りる時
「住職さん、大丈夫かな……」
睦の言葉に、
アトリ・カシュタールが答える。
「命に別状はないみたい。それ以上は、専門の治療が必要、かな」
明子が続けた。
「後は施設に任せれば大丈夫よ。わたくしたちは、ちゃんと彼を守れたわ」
ぽんぽん、と睦の頭を撫でた。
「それにしても、あきらは嘘が下手ですね。きゃーっ、ミチェーリさーん。棒読みでしたよ」
ミチェーリがふぅ、と一息つきつつ、言った。
「それは、その……結局騙せたみたいだからいいじゃない!」
明子が反論する。
「でも、なかなかできない経験だったよ。こういう状況じゃなければ、ちょっと楽しめたかもねっ♪」
笑いつつ、リディが言った。
「ふふ、確かに興味深い経験だったかな。実際にああいう状況に陥るのはごめんだけれどね」
アトリ・セトリがくすりと笑う。
「まぁ、作戦は大成功だ。情けないふりをしたかいがあったと言うものだな」
アジサイが笑う。
「私達の真の矜持は『人々を護る事』だ。その為になら、道化も演じ切って見せよう」
蓮が頷いた。
ケルベロス達は大きな戦いの前哨戦に勝利を刻んだ。
だが、それ以上に、一人の人間を救った事。
それこそが、彼らにとって、最大の戦果であるのだ。
作者:洗井落雲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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