擬人化作品を許すなッ!

作者:ゆうきつかさ

●某教会
「いいか、お前ら! 擬人化作品を許すなッ! 何故なら、擬人化させない事こそ至高なのだから! そもそも、何でもかんでも擬人化すればイイってモノじゃねーだろ! 考えた奴らは、間違いなく、こー思っている! 『アイツらは擬人化したモンなら、何にでも食いつく』ってな! そんな奴らの思い通りになっていいのか? いや、良くないッ! 絶対に良くないッ! そんな奴らの思い通りになっていいのか? いや、駄目だろ。俺達の気持ちを……この怒りを思い知らせてやれ!」
 羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
 ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
 それどころか、信者達は釘バットや鉄パイプを握り締め、殺気立った様子で唸り声を上げていた。

●都内某所
「霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、信者達の敵は、擬人化さえすれば、何でも売れると思っている大人達。そういった意味でも、戦う必要がないかも知れません」
 そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
 そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
リーナ・エスタ(シェルブリット・e00649)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
生駒・結愛(炉凛一身是炉里・e11917)
ワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)
アニマリア・スノーフレーク(十二歳所謂二十歳・e16108)
ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)
カシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)
雨野・狭霧(咎腕・e42380)

■リプレイ

●教会前
「むむむっ! ここからビルシャナの気配がする! これは何としても退治せねば……! というワケで、ビルシャナ狩りの乙娘(オトコ)! リーナたん参上!」
 リーナ・エスタ(シェルブリット・e00649)が髪の毛を一本ピンと立て、仲間達と共にビルシャナが拠点にしている教会の前に立っていた。
 ビルシャナは擬人化作品を許すな、と訴えており、信者達と一緒に何やら殺気立っているようだ。
「それにしても、擬人化作品ですか……。ジャンルによって選好みも分かれそうな気もしますが……。それに問題ある擬人化作品は、世に出る前に潰されるのが、現在の世知辛い世の中ですし……」
 カシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)が、何処か遠くを見つめる。
 おそらく、ビルシャナ達にとって、それこそあるべき姿……。
 この世に出る事無く、潰されていくのが、擬人化作品の末路だと考えているようだ。
「擬人化作品を許すな~ですか、何でもかんでも擬人化するのは確かに問題かもですかね、ですの」
 生駒・結愛(炉凛一身是炉里・e11917)が、自分なりの考えを述べる。
 だからと言って、何をしてもいい訳でもない。
 それを理解していない以上、ビルシャナ達を放っておく訳には行かないだろう。
「この教義、興味深すぎます。この世界の真理を探求する所業は創造神の不興を買うやもしれませんが……」
 ティ・ヌ(ウサギの狙撃手・e19467)が、複雑な気持ちになった。
 色々な意味でツッコミどころが満載のような気もするが、ビルシャナ達にとってはそれが正義なのだろう。
「それにぃ、擬人化が駄目って言ってる時点でぇ、鳥獣戯画やぁ、古代のエジプトの神々も否定している感じになるんですよぅ。まぁったくぅ、このビルシャナも鳥ですからぁ、自己否定になると思うんですがぁ……」
 ワーブ・シートン(とんでも田舎系灰色熊・e14774)が、大きなハテナマークを浮かべる。
 しかし、ビルシャナはその事にまったく気づいていない。
 もしくは、気づかないフリをしているのかも知れない。
「その事実を知ったら、どうするんっすかね?」
 神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)が、不思議そうに首を傾げた。
 今は見て見ぬフリをしているのかも知れないが、ケルベロス達を前にして、それを続けていく事は不可能に近いだろう。
「まァ、やれるだけやってみましょうか」
 雨野・狭霧(咎腕・e42380)が、自分自身に気合を入れる。
 何となく、楽に依頼が片付きそうな気もするが、ここで油断は禁物。
 ビルシャナを倒すまで、気を引き締めておかねば、何が起こるか分からない。
「ええ、私も久しぶりの依頼なので、気合を入れて逝こうと思います」
 そう言ってアニマリア・スノーフレーク(十二歳所謂二十歳・e16108)が仲間達を連れて、教会の中に入っていった。

●教会内
「いいか、お前ら! 擬人化を許すなッ! 何でもかんでも擬人化している現状を許すなッ! これ以上の擬人化は世界の崩壊を意味しているッ! それを防ぐためにも、俺達が立ち上がらねばならないのだッ!」
 教会の中にはビルシャナがおり、信者達を前にして、自らの教義を語っている最中だった。
「確かに、あれもこれも何でも擬人化しておけばいい……そういう人間も確かにいるかもしれません。しかし、そんな人間は少数ですし、何よりそうして生み出されたキャラクターに罪はあるのでしょうか? どんなキャラクターにもファンが、そのキャラクターを大切に想う人間がいるはず。貴方達だって、そうだったはずです。貴方達がすべき事はこんな所で不平不満を叫ぶのではなく、自分達の好きなキャラクターへの愛を叫ぶ事なんじゃあないですかねー?」
 そんな中、狭霧が真剣な表情を浮かべ、ビルシャナに語り掛けていく。
「そうやって放っておいた結果が、このザマさ。だが、これ以上、放っておく事など出来ないッ! 現実から目を背けちゃダメなんだ!」
 ビルシャナが自分達の事を棚に上げ、キッパリと言い放つ。
 その途端、信者達が申し訳なさそうにしながら、ビルシャナに視線を送る。
 おそらく、『お前も鳥の擬人化だよな……』と言うツッコミを入れたくても、入れられないと言うのが現状のようだ。
「なるほど! そうですね! じゃあ、擬人化されてないこちらを!! 消しゴム、封筒、丸めた新聞紙を差し出し。はい、かわいい女の子やイケメン要素排除しました。愛でて愛して下さい。深く深く、ほら早くどうぞ。至高なんでしょう? ほら 早く 早くしてくださいよ。ああ、鼻をかんだ後のティッシュ王子とか生ゴミ子ちゃんの擬人化してないのが良かったですか?持ってきましょうか? 持って来たら頬ずりキスしてくださいね?」
 アニマリアがビルシャナの教義を強烈に肯定しつつ、捲し立てるようにして語りかけていく。
「俺が言いたいのは、そう言うんじゃない!」
 ビルシャナがイラついた様子で叫ぶ。
 まわりにいた信者達も、『正義は我らにありッ!』と言わんばかりのノリで、『そうだ、そうだ!』と狂ったように連呼した。
「それでは、質問です。これは私の姿を描いたイラストです。そしてこれはウサギを擬人化したイラスト。このパネルをシャッフルして……。さて、どちらが擬人化でしょーか?はい、答えて」
 ティが二枚のパネルを前に出し、ビルシャナ達の前でシャッフルした。
「知るか、そんなモノ! つーか、その基準は俺が決めるッ! これは……素人が手を出しちゃイケナイ領域だからなッ!」
 しかし、ビルシャナが俺様理論全開で、無駄にキリリとした表情を浮かべる。
 この様子では、立場的にヤバイと感じたのだろう。
 そのため、自己中が擬人化したような勢いで、自らが法である事を強調した。
 まわりにいた信者達も、催眠状態に陥っているせいか、『さすがビルシャナ様』と言わんばかりに感動ムード。
「……とは言え、古来より長い年月を経た物には魂が宿ると言われているよね。すなわち物の擬人化とはニッポン人の心! 擬人化作品を否定する事はジャパニーズの文化を否定するのと同義! キミ達は日本そのものを否定するのかー!」
 リーナがノリと勢いで、大袈裟な事を言った。
「うぐぐ、それは……」
 ビルシャナも返す言葉がないのか、悔しそうに拳を震わせた。
 自分でも地雷を踏んでしまった感覚があるのか、まったく返す言葉がないようである。
「ところでぇ、擬人化、擬人化って、どこから考えてるのかなぁ? 古くはぁ、エジプト神話あたりからぁ、動物を神として扱う形を取っている所もあるんだけどぉ、それもぉ、擬人化の一環だと思わないかなぁ? 他にも、イソップ童話とかぁ、グリム童話とかもぉ、動物の擬人化のが多いと思うんだけどねぇ」
 ワーブもビルシャナの顔を見つつ、自分なりの疑問を口にした。
「もちろん、問題視しているのは、最近の擬人化だ!」
 ビルシャナが躊躇う事なく、キッパリと断言ッ!
 危うく大惨事になるところではあったものの、何となく誤魔化す事で華麗に回避。
 少なくとも、本人はそう思っているようだ。
「……というか、そこの鳥……ビルシャナの貴方自体が擬人化的存在ですよね? しかも、最近の擬人化……ですよね? 擬人化させない事こそ至高と言いつつ、自身が擬人化の販売促進推奨者である事について、何か反論はありますか?」
 カシオペアがビルシャナの逃げ道を塞ぎ、ジリジリと迫っていく。
「うぐぐ……」
 ビルシャナが身体を小刻みに震わせ、反論できるだけの理由を考えた。
 だが、何ひとつ浮かばなかったのか、嫌な汗が止まらない。
「そこで、今回ご用意したのがこちらの商品ですの!じゃ~ん。巷で話題のなぞのいきもの、びるしゃなさんを擬人女体化してフィギュアにしてみました~ですの。 いっぱい居るびるしゃなさんを、君はこんぷりーとできるかな、ですの」
 そこに追い打ちをかけるようにして、結愛が女体化したビルシャナのフィギュアを置いていく。
 これはビルシャナにとって、天国から地獄に真っ逆さまなトドメの一撃。
 どんな答え方をしても、自分の首を絞める事になってしまうため、万事休すと言わんばかりの表情だ。
「いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおお!」
 ビルシャナが逆切れ気味に叫び声を響かせ、孔雀の形をした炎を飛ばす。
 このままでは勝ち目がないと判断したのか、ケルベロス達を倒して、すべてを『なかった事』にするつもりでいるようだ。
「やっぱり、こうなるんっすね。まあ、信者達はフィギュア選びに夢中のようっすが……」
 そう言って結里花が苦笑いを浮かべつつ、孔雀の形をした炎を避けるのであった。

●ビルシャナ
「いい加減に認めるべきでしょ、自分の教義が間違っていた事を……!」
 リーナが間合いを取りつつ、ビルシャナに語り掛けていく。
「だいたいビルシャナの姿が擬人化なんですから、自ら入滅すべきでしょ? この人種差別主義者め!」
 ティも嫌悪感をあらわにしながら、持っている銃でビルシャナを撃つ。
「うるさい、黙れ! 俺が法だ! 俺が正しいッ!」
 だが、ビルシャナは頭に血が上っているせいで、俺様モード全開中。
「まあ、ほとんど認めたようなものですが……」
 カシオペアが何やら悟った様子で、ビルシャナに視線を送る。
 そうでなければ、ここまでムキになる必要もないだろう。
「それでは、お互いの意見を貫き通すため、戦いましょうか」
 狭霧も色々と察した様子で、ビシルャナに攻撃を仕掛けていく。
「お互いの意見を……貫き通す? 違うな! お前達が俺に詫びて、命乞いをするんだよォ!」
 ビルシャナが殺気立った様子で、再び孔雀の形をした炎を飛ばす。
「神宮寺流戦巫女 結里花参ります!」
 すぐさま、結里花が気持ちを切り替え、自ら名乗りを上げながら、孔雀の形をした炎を避ける。
「まずはぁ、これですよぅ!」
 それに合わせて、ワーブが一気に間合いを詰め、ビルシャナに獣撃拳を叩き込む。
「うぐぐ……、こんなはずでは……!」
 ビルシャナが悔しそうにしながら、ケルベロス達をジロリと睨む。
 当初の予定ではケルベロス達を瞬殺して、教義の正当性を信者達の心に刻み込むはずだったので、そのショックもハンパがないようである。
「時の氷に閉ざされよ! 其は汝の棺! 廻らず巡らず堕ちよ、終の世界へ!」
 その間にアニマリアが武器に『物質の時間を凍結する力』を付与し、ビルシャナを捕縛したまま息の根を止めた。
「お、俺達は一体……」
 それと同時に信者達が我に返って、女体化ビルシャナのフィギュアを眺める。
 何が起こったのか、まったく理解していないため、頭の上にハテナマークを浮かべていた。
「どうやら、皆さん楽しんでいるようですね。しかも、今回はなんと特別に、女体化擬人略さんの薄い本も某所に依頼して早速作ってもらったですの、信者さんはよく読んで楽しんでくださいですの♪」
 そう言って結愛が薄い本を手渡し、信者達をイケナイ世界に導くのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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