失伝攻防戦~眠り姫と道化師

作者:そらばる

●花畑の小さなワイルドスペース
 広大な森林地帯の奥深く。
 緑の天蓋から注ぐ斜光に浮かび上がるのは、人知れず咲き誇る天然の花畑。その中央部分は極小規模のモザイクによって切り取られ、景色を歪ませていた。
 そのモザイクが前触れなく消失すると、花畑の中央には、ガラス細工の如き透ける棺が横たわっていた。
 横倒しのショーケースにも似た棺の中には、質素なメイド服らしき装いの、十代後半と思しき少女の体が安置されている。少女は胸の前で手を重ねた状態で瞑目しており、死んだように動かない。
 おとなう人もなかった花畑に、その日、訪問者があった。
 花畑の傍らに口を開けた魔空回廊から、奇抜な服装の人影が現れる。
「フフフ……お迎えにあがりましたヨ、眠り姫」
 小馬鹿にしたような笑みで口許を下品に引きつらせながら、道化師は厭味ったらしく棺に会釈をしてみせた。

●失伝ジョブを巡る戦い
 東京は騒然としていた。
 ジグラットゼクス『王子様』の撃破と時を同じくして、東京上空5000mのポイントに、ジュエルジグラットの『ゲート』が出現したのである。
 そしてそのゲートから地上へと向けて、『巨大な腕』が伸び始めたのだ。
「『王子様』が最期に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』とは、これなる『巨大な腕』を意味していると考えられましょう」
 緊急にケルベロス達を招集した戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は、挨拶もそこそこ、固い声色で説明を進めていく。
 本来ならば、この『ジュエルジグラットの抱擁』は、創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を完全に支配する為の、いわばトドメの一撃であったと推測される。
「ですが『創世濁流』は皆様の手により阻止され、最悪の事態は回避されました」
 現在東京上空に顕現している巨大な腕は、未だ強大な脅威である。打ち破るには、全世界決戦体制を必須とする危険規模だ。
 だが、ゲートを戦場として戦う以上、この戦いに勝利する事ができれば、ドリームイーターに対して致命的な一撃を与えられる事も事実である。
 瀬戸際のこの状況を、ドリームイーター側も理解しているはずだ。
「ドリームイーター最高戦力『ジグラットゼクス』達は、我々ケルベロスとの戦いの切り札として用意していた人間達を、急遽、ゲートに集めるべく動き出したようでございます」
 回収されようとしているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)によって調査が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達である。
 本来ならば、介入の余地のないタイミングで行われるはずの事件だったが、日本中でケルベロスによる探索が行われた結果、敵の動きを予知し、連れ去られる前に駆け付ける事が可能となったのだ。
「彼等の力が利用され、ジュエルジグラットの防衛を固められる前に、運び手として現れるドリームイーターを撃破し、失伝ジョブに関わる人物の救出をお願い致します」

 ケルベロス達に向かってもらう事になるのは、森林地帯の奥に隠された花畑。
 その中央に眠るのは、灰咲・ゆきという名の少女である。近隣の豪邸で住み込みの小間使いとして働いていたが、何かの拍子で森に迷い込んだ折に敵に捕らえられ、凍結処理を施された上で、極小規模のワイルドスペースに隠匿されていたようだ。
「ゆきさんを運搬せんと姿を現しますのは、ジグラットゼクス『継母』の配下たる特殊部隊、クラウン・クラウンの1体でございます」
 『継母』の手足としてあらゆる悪事を実行する道化師である。その外観通り、狂気を感じさせる言動を好むが、『継母』への忠誠心は非常に高いようだ。
 大鎌による乱舞攻撃、念力を用いたジャグリング攻撃、けたたましく笑い声を上げながらの治癒、といったグラビティを使用する。
「クラウン・クラウンの目的はあくまでもゆきさんのゲートへの移送。ゆえに『自身が敗北する可能性が高い』と判断した時、ゆきさんを魔空回廊からゲートへと送り届けようと動きます」
 この行動には2分程度かかる。その間敵は無防備になり、戦闘は有利になるだろう。
「ドリームイーターの動きは予断なりませぬが、創世濁流の阻止と『王子様』の撃破により、大きな打撃を与えた事は確か。今こそ、決戦の好機となりましょう」
 そこによもや失伝ジョブが絡んでこようとは予測しえなかった事態だが、敵の切り札をここで奪う事ができれば、戦いはケルベロスの有利に傾く可能性もある。
「敵は、ケルベロスが囚われていた人間を攻撃する可能性を考慮しておりません。……ゆきさんの身柄が奪われそうになった場合、彼女自身の殺害も視野に入れねばならぬやもしれませぬ……」
 そのような事態には至らぬよう、願っています……そう言って、鬼灯は沈痛に瞳を伏せた。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
アイリス・フィリス(音響兵器・e02148)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
リュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ

●不穏な綻び
 斜光に照らし出される、森の奥の花畑。
 たっぷりと会釈を終えたクラウン・クラウンは、弾むような足取りで透明な棺の傍らへと向かい始めた。
「――それ以上近づくなッ!」
 鋭く飛び込んだ声が、ご満悦の足運びを引き留めた。
「おやァ?」
 道化師は痛めるのではないかと思うほどに首を傾げて、駆けつけたケルベロス達を振り返った。
 真っ先に花畑に滑り込んだのはシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)。
「ケルベロス推参!」
 腕を大きく掲げて、カッコいいと信じてやまぬヒーローポーズ。しかしこれには、後から駆け付けた仲間から苦言が飛ぶ。
「ふざけたことをやってる場合か」
「ええ~、登場シーンって言ったらコレなのに~」
 ぷくーっと頬を膨らませてすねるシルディを神経質そうな一瞥で黙らせると、ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)は不機嫌な眼差しでクラウン・クラウンを睨みやった。道化というものにはあまり良い印象はない。否応なく、宿敵の姿が思い起こされてしまう。
「またこそこそと、悪趣味な真似を――」
 掴み所のない緩い足取りで歩み出る鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)。刀を翻し構えを取った瞬間、纏う空気は鋭く変じる。
「無辜の乙女を、意地悪い継母にむざむざ渡す訳にゃいかねーわな」
「失伝ジョブに関係があろうがなかろうが、一般のお嬢さんを攫うのは頂けないね」
 浜本・英世(ドクター風・e34862)はいかにも偉そうな仕草で歩み出、凶科学式の武具の数々を構えた。
「このとても笑えない道化師を退治して、救出、きっちりと務めさせていただくよ」
 道化師は居並ぶケルベロス達を見回すと、うんうん、と妙に感じ入ったかのように頷いた。
「なるほどなるほど。フフフ。……ヒッヒッヒッ。こいつは厄介ですネェ。これほど小規模な隠密活動でさえ嗅ぎ付けてくる地獄の番犬とは」
 ですが……と、両手の親指と人差し指で作った小窓からケルベロス達を覗き込む。
「先程から透けておりますヨォ? アナタ方の、繕いきれぬ綻びが」
 笑いをかみ殺しながら、道化師は大鎌を振りかざす。
 歪んだ刃が斜光を受けて、一際まばゆく煌めいた。
「せっかくの花畑だけど、景観を楽しんでる余裕はないか。さて、どっちが道化となるかねぇ……」
 膨れ上がった敵の殺気を見据えながら、九石・纏(鉄屑人形・e00167)は小さく、意味深にひとりごちた。

●渦巻く不和
「タララッタ、タララ~ラッタ♪」
 クラウン・クラウンは鼻唄混じりに花畑を舞い踊りながら大鎌を振り回し、時に柄を手放して鎌の回転するに任せたりして、不規則に前衛の守備を斬り刻んでいく。
 斜光に照らし出されながら、挑発するように絶え間なく跳ね回る道化師を、雅貴の閃影が、ガロンドの轟竜砲が、纏のスターゲイザーが次々と打ち据えていく。
 しかし、他の者は全て治癒に回った。
「あいつジャマーだ! どうしよう、自分用のキュアしか用意してないよ!」
 大慌てで口走りながら、わたわたとブレイブマインで後衛を鼓舞するシルディ。
「強敵だね。ただ攻撃すれば当たる相手でもないようだ」
 英世は慎重を喫してメタリックバーストを前衛へと放出する。
 緊急性の薄い後衛の強化と、クラッシャーの分をわきまえぬ治癒行為に、纏はひどく不機嫌そうに、冷めた一瞥を送る。
 同じくクラッシャーでありながらルナティックヒールをぶつけてくるリュコス・リルネフ(銀牙迸り駆ける・e11009)を、アイリス・フィリス(音響兵器・e02148)がヒールドローンを展開しながら叱りつける。
「なんでそんなことをするの!?」
「あいつを倒す前にこっちが倒れたらしょうがないじゃないか!」
「他にやることがあるでしょ!」
 普段は仲の良い二人の間にも、ギスギスとした空気が流れ始めた。皆の呼吸が噛み合わない。
「回復するなら私は私でやるのでそちらはお任せしたいですね」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)も硬い口調で突き放しつつ、治癒に専念している。
「おいおい、攻撃バランス悪すぎだろ!」
 飄々が信条の雅貴さえ、珍しく焦った様子で横槍を入れてしまう。
「おやおやァ?」
 思いのほか急速に内部崩壊を起こしていくケルベロス達の様子に、道化師は実に嬉しそうな声を上げた。
「なンだか面白い事になってますネーェ? 皆サンそうカリカリなさらず、楽しんでいってくださいヨォ!」
 ボールやスティック、大独楽やボックスまで交えた無差別ジャグリングが展開される。見えない力がカラフルな道具を飛び交わせてあちこちで輪を作り、前衛を巻き込んで次々打ち据えていった。
「くそっ、火力が足りない……おい、どうなってるんだ、作戦と違うぞ!」
 ガロンドは攻撃に専念しながら、軍師気取りでピリピリと苛立った文句を仲間達に投げつける。
 と同時に、カラフルな爆発が周囲を彩った。
「これでさっさと攻撃しろ!」
 ブレイブマインで前衛を鼓舞してみせた纏は、先程同じグラビティを後衛に向けて付与したシルディに冷たく目を留めつつ、前衛をどやしつけた。――が。
「回復が間に合わなければ、攻撃に回れんよ」
「少しは躱してよ! 攻勢に出られないじゃないか!」
 要たる攻撃手である英世とリュコスは頑として拒絶、相も変わらず膨大な治癒が陣営を駆け巡る。纏は処置なしと目を逸らし、完全に無視を決め込んだ。
 たちまちケルベロス達を侵食していく互いへの不信の原因は、単純な力不足か、戦術不全か、頑迷か、高慢か。少なくとも、道化師が何かを謀ったわけではない事だけは確かである。
 何も手を加えずに敵が崩れていく光景。クラウン・クラウンは可笑しくて可笑しくてたまらない。
「……フフフッ。クックック――ヒーヒヒヒヒ!」
 けたたましい高笑いが、その喉から解き放たれた。

●裏の思惑
 イーッヒッヒヒヒ、クケケケケケッ、アァッハッハッハッハァ!!
 森じゅうに異様な哄笑が響き渡る。その昂揚が、クラウン・クラウン自身の力を高めていくのがはっきりと見て取れた。
 しかしなおも、ケルベロス達の陣営は頑なに治癒で満ちる。道化師は調子づいてジャグリングを大盤振る舞い。前衛の防御がごっそりと削られていく。
「これまずいかも! 誰かブレイクできない!?」
 まともに食らってしまったシルディが、泡を食って仲間達に助けを求めた。
「手が足りません、攻撃する暇さえあれば……」
 強化を砕く術を持つイッパイアッテナは、治癒に罹りきりだ。
「俺が砕く!」
 躍り出たのはガロンド。黄金に輝くルーン文字の刻まれた爪を深々と突き立てる。
 事前の掛け声と実際の効力の不一致に、道化師は愉快そうに首を傾げた。
「おやおやおやァ? 不発ですかァ? あぁもしや自分の使うチカラの種類さえ把握できなくなってますゥ? ヒッヒッヒッ、これはお可愛らしい」
 敵のあからさまな嘲弄に、アイリスはイライラとブレイブマインを爆発させながら、英世とリュコスを睨みやる。
「いい加減に攻撃に移ってください! リュコスちゃんも!」
「やれやれ、攻撃すればいいのだろう?」
「言われなくても喰らわせるさ!」
 さしもの二人も重い腰を上げ、敵へ立ち向かう。チェーンソー斬りが唸りを上げ、磁縛殺界・餓狼の檻が貫き穿つ。ガロンドもミミックのアドウィクスの力を借りて、バスターライフルによる攻撃体勢に移行した。
 余裕綽々で迎えうつ道化師。その攻撃は道化らしく気紛れで、前衛の防御力を剥いだかと思えば、半端な所で中衛に手を出してみたり、今度は後衛を執拗に狙い始めてみたり。そこには戦況への楽観と、ケルベロスへの侮りがあるのは、間違いない。
「フフフフフッ! ハハハハハハ――ハ?」
 機嫌よく高笑いを解き放った道化師は、治癒が我が身を十分に巡りきらない事に気づいて、不意に笑いを途切れさせた。
「あァ……あの不発の時に治癒阻害を受けていましたっけネ。しかしこの程度では……」
 ふと脳裏に差した疑念を振り払うように、道化師は間断なく降り注ぐケルベロス達の攻撃を掻い潜り、念力ジャグリングで前衛を攻め立てた。
「――っ、世話が焼けるね……っ」
 あれほど苛立っていたアイリスが、我が身を盾として献身的にリュコスを庇う。
「えっと、えっと……ガード」
 まごつきながらもバリスティック・シールドを展開させて的確に仲間達を守護するシルディ。
 ガロンドのフロストレーザーとアイスエイジインパクトが知らぬ間に道化の身を侵食し、数多の行動阻害が、防御弱体化が、纏のチェーンソー斬りや雅貴のシャドウリッパーによって、そ知らぬ顔で増幅されていく。全ての攻撃は、序盤からの過剰とも思えたヒールによって、漏らさず強化の恩恵を得ている……。
「まさか。まさかまさかまさかまさかまさか。――マサカ?」
 道化師は初めて、張り付いていた笑顔を引っ込めた。
「謀られたのは――ワタクシ?」
 目を剥き、かっくりと首を傾ける無表情は、あたかも操り人形のよう。
「お、奴さんようやく気づいたみたいだな」
 隙を狙い澄まして月光斬で斬り込みながら、雅貴は飄々と笑う。
「はあ。やっと解放されるのか。仲の悪い『フリ』をするのも楽じゃないな」
 纏は張り詰めていた糸が切れたように、ダウナーの本分を取り戻しながらぼやいた。
「楽しんでもらえたかな、我らの道化芝居は?」
 凶騒秘剣ギルシオンを振るい、英世は皮肉に口の端を持ち上げる。
 そう。全ては謀り。
 クラウン・クラウンが綻びと称した仲間内の不和も、一見して拙く見えた戦術も、徹頭徹尾、ケルベロス達の芝居であり、演出であった。劣勢判断を鈍らせる為の。
 道化師を、道化でもって欺いたのである。
「ここからは素直にいきましょう」
 イッパイアッテナも硬い態度を脱ぎ捨て、龍穴との共鳴による大地の力で後衛を立て直していく。
 道化師はしばし沈黙したのち、かくりと首を前に倒した。
 ゆるり。再び持ち上げられたその顔は、余裕の消え失せた憎悪に歪んでいた。

●道化をもって道化を制す
「ワタクシは――ワタクシが――ワタクシ……ワタクシを!?」
 混乱と屈辱がクラウン・クラウンを苛んだ。大鎌を滅茶苦茶に振るい、前衛を薙ぎ払う。もはや高笑いは捨てざるを得ない。少しでも攻撃を。一人ずつでも頭数を減らさなければ。でないと……。
「絶対ゆきさんを助け出す! 笑えないピエロはお呼びじゃないよ! ゆきさんの舞台から引き摺り下ろしてやる!」
 つかえの取れた様子で溌剌と強力な蹴撃を叩き込むリュコス。
「仲間内で揉め合ったストレスは、ピエロにぶつけるに限るね」
 纏う雰囲気は緩まれど、纏の攻撃に容赦はない。道化師を打ち据えるたびに、夥しいまでに弱体化を増殖させていく。
「……焦ってるぜ。そろそろ備えろよ」
 雅貴はトリッキーな身のこなしで正確無比の攻撃を叩き込みつつ、鋭く仲間達に注意喚起する。
「ああああァァァァ……これは……これは……ッ」
 何手先に思い馳せても、勝ちの芽は見えない。道化師の葛藤を駄目押ししたのは、英世だった。
「さて、そろそろ解体させてもらうとしようかな」
 瞬時にして、無数のメスが宙に踊り、鋭く閃く。
「この三流芸人がもう、何も出来ぬように」
 魔術操作により殺到するメス。道化師は全身を斬り裂かれながら、無心になって花畑の中央へと駆けた。攻撃も防御をも捨て、念力で透明な棺を包み込み――、
「許しませんよ」
 イッパイアッテナの声に応えて、ミミック『相箱のザラキ』は顎にあたる蓋を浮かせて噛みつき、道化師の動きを鈍らせた。
 次々に降りかかるケルベロス達の攻撃が道化師を牽制し、無防備な全身に容赦のない火力を叩き込んでいく。
「ぐゥゥ――アト、す、……こシ……ッ」
 道化師は足を取られ、もがき苦しみながらも、決して輸送を諦めない。
「絶対に行かせない――必ず、ここで仕留める!」
 必殺の気概でガロンドが吼え、渾身のアイスエイジインパクトを叩き込む。
「勿論です。必ず救います」
 すかさず撃ち込まれたのは、イッパイアッテナの気咬弾。少女から時間を奪い、今なお利用しようとしている夢喰いを絶対に許さない。そんな執念を形になしたように、オーラが執拗に道化師に食らいついていく。
「目覚めて、その日の仕事の段取りを考える。……そんな日常を取り戻すよ!」
 掲げたハンマーからドラゴニック・パワーを噴射しながら大きく踏み込むシルディ。
「届いて、この一撃!」
 渾身の一撃が、的確かつ強烈に道化師を打ち据える。
「私は自分の日常と平穏さえ守れれば、それでいいんだけれど……」
 救えるものなら救いたい。そんな本心は胸に秘めて、纏は自作銃の引き金を引いた。無数の散弾が、道化師へと横殴りに撃ちつける。
「巫山戯た道化は此処で踊り狂って果てな。不愉快な悪夢は、終わらせてやる」
 雅貴の足運びは影に紛れるが如く。視認困難な斬撃が、道化師の背を激しく掻き切る。
「失伝ジョブとか関係ありません! ケルベロスとして、ゆきさんは必ず救出します! ――リュコスちゃん!!」
 弾丸の装填を終えたアイリスは、友の名を一際力強く呼んだのち、道化師の背後へと大きく回り込んだ。
「ヒィ……ッ!?」
「道化師は舞台から降りてもらいます」
 【嗤い狂う雷帝の豪速拳】。アイリスの抱える砲身が雷光を撃ち出し、クラウン・クラウンの全身を大きく吹き飛ばした。
 その軌道の先に回り込んでいるのは、磁界を駆使して手ぐすねを引くリュコス。
「これがボク達の、本当のコンビネーションさ!」
 磁力によってドーム状に巻き上げた杭が、吹き飛んできた道化師の肉体を刺し貫いた。
 悲鳴のような、哄笑のような、奇妙な絶叫を上げながら、クラウン・クラウンは花散るように絶命した。
 棺を包んでいた不思議な力が消える。
「どうやら守れたみたいだね」
 ゆきの無事な様子に、纏は小さく安堵した。
「中々ロマンチックな場所で寝ているものだ。『母』の意に反して復活するにはちょうどいい舞台だな」
 おとぎ話になぞらえて呟くガロンド。
 ゆきを含めた全員と花畑にヒールを振り撒きながら、リュコスはアイリスの隣にそっと並んだ。
「強く言ってごめんね、アイリスちゃん」
「ううん、こっちこそ」
 芝居の禍根も残さず、穏やかな空気を取り戻していくケルベロス達。
 英世がゆきの状態を観察するも、どうやらヒールで目覚めるというものではないようだった。
「怪我でないのなら、病院送りは意味がないでしょうね」
「じゃあみんなの所に連れ帰ろう!」
 シルディとイッパイアッテナを中心に、一同は搬送準備に取り掛かった。
「100年の眠りだのは童話だけで十分だ。目、覚めると良いな」
 ――そして平和な日々が戻るよう、禍根も片付けねーと、な。眠るゆきの顔を覗き込み、雅貴は穏やかに呟くのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。