失伝攻防戦~から笑う月下の道化師

作者:青雨緑茶

 とある廃墟に、静かに月光が降る。
 かつてそこはファストフードのピザを提供する店舗だった。経営難で放棄され、今では天井も崩落するほど荒れ果てて見る影もないが。
 その場所に、極小規模のワイルドスペースがあった。四畳半にも満たず、今まで発見されなかった事も頷けるほど規模の小さいものである。
 だが、そのワイルドスペースを切り取っていたモザイクが、ふっと消滅する。
 すると中から現れたのは――『凍結された人間が安置された棺桶のようなもの』。
 棺桶はガラス製で、まるでショーケースのようにも見える。安置されているのは若い女性。どうやら棺桶の中で仮死状態であるようだ。

 魔空回廊から送り込まれた道化師が現れ、けたたましく狂った笑い声を上げた。
「……アーハハハハ! コレが、回収すル例のモノかイ? すべてハ、王妃様のためニ!」

「お集まりいただきありがとうございます。緊急事態です」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は手元の書類を慎重に確認しながら、集まったケルベロスに任務の概要を説明する。
「ジグラットゼクスの『王子様』を撃破と時を同じくして、東京上空5000mの地点に、ジュエルジグラットの『ゲート』が姿を現しました。
 そして、そのゲートから『巨大な腕』が地上へと伸び始めたのです。
 この『巨大な腕』こそ、『王子様』が最後に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』である可能性が高いでしょう」
 本来であれば、この『ジュエルジグラットの抱擁』は、創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を完全に支配する止めの一撃だったと思われる。
 しかしケルベロスが『創世濁流』を阻止した事で、その目論見を阻止する事に成功した。
「確かに、東京上空に現れた巨大な腕は大きな脅威ですし、打ち破るには、全世界決戦体制を行う必要がある程の危険規模です。
 しかし、ジュエルジグラットのゲートを戦場として戦う以上、この戦いに勝利する事ができれば、ドリームイーターに対して致命的な一撃を与える事ができるはずです」
 勿論、この状況はドリームイーター側も理解しているのだろう。
 ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達は、ケルベロスとの戦いの切り札として用意していた人間達を、急遽、ゲートに集めるべく動き出したようだ。
 ドリームイーターが回収しようとしているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって探索が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達。
「本来ならば、介入の余地がないタイミングで行われる事件でしたが、日本中でケルベロスが探索を行っていた事で、この襲撃を予知し、連れ去られる前に駆け付ける事が可能となりました。
 ドリームイーターが彼らを利用して、ジュエルジグラットのゲートの防衛を固める前に、ドリームイーターを撃破して救出してきてほしいのです」
 続けて、セリカは資料を配る。
「敵はドリームイーター1体。通称『クラウン・クラウン』。
 この個体のポジションはジャマーです。
 グラビティは、馬鹿にするようなトリッキーな動きで斬りつけて苛立たせる斬撃、対象者の隠しておきたい秘密を知られているかのような感覚に陥らせ攻撃を誘う魔法、嫉妬に満ちた高笑いで身を守るヒール。
 敵が単体である以上、通常の戦いであればそこまで警戒するような性質の攻撃ではないのですが……今回のような場合ですと、状況次第では足元を掬われる事もあるかもしれません。充分に警戒して下さい。
 出現場所は廃墟店舗。時刻は夜。
 周辺には避難勧告済みです。天井が完全に崩落しているため月光は入りますが、照明があるとなお良いかと思われます」
 また、重要な情報としてセリカはこうも説明を付け加える。
 敵は『自分が敗北する可能性が高い』と考えた場合、『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物だけでも魔空回廊からゲートに送り届けようとする』。
 この行動には2分程度かかるため、その間敵は無防備になり、戦闘は有利になるだろう。
 これらの情報をどのように利用して作戦を立てるかは、ケルベロス次第となる。
 一通りの説明をして、セリカは深々とケルベロス達にお辞儀をする。
「ドリームイーターは、ケルベロスが囚われていた人間を攻撃する可能性は考えていないようです。できれば避けたいところですが、彼らの身柄が奪われそうになった場合は、殺害してでも止めるべきかもしれません。皆様のご武運をお祈りします」


参加者
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
シリル・オランド(パッサージュ・e17815)
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)
モヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)
月・いろこ(ジグ・e39729)
常祇内・紗重(駆け出し拳士・e40800)

■リプレイ


「月光の下で、なんて中々悪くないシチュエーション。嫌いじゃないぜ」
 ほうき星の光を放つランプを掲げ、月・いろこ(ジグ・e39729)は仲間と共に行く。
 天井崩落した廃墟で瓦礫を踏む感触を靴裏に、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が足を止める。
「いましたね」
 廃墟奥、ショーケースのような棺桶に横たわる女性の姿。その棺に手を掛けようとしていた者が、一同に気づき振り返る。
「オヤ、オヤオヤ。誰かと思えバ、悪名高イ野良犬サン達じゃァ~ないカ。こんナお遊びみたいナお仕事、王妃様のため果たしに来たコノ忠実なクラウンに、何の用だイ?」
 おしろいをべったり塗りたくった道化師が口紅で真っ赤な唇を歪め、大仰なリアクションで小馬鹿にする。白々しい事この上ない。
「やあ。『マザコン』はモテないよ?」
「道化師のお仕事は人を楽しませることであって、周りを馬鹿にすることじゃないんだけどねぇ」
 シリル・オランド(パッサージュ・e17815)が飄々と煽り返して、緩やかに笑う。セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)は柔らかく肩を竦める。
「アーハハハ! 言うねエ、気持ち悪イ定命の犬がさア。でモそんナ犬でも折角のお客様ダ、退屈ナ退屈ナお使い、ソッチもご苦労サマ!」
 『継母』、悪い王妃の手足たる狂気の道化師はから笑い、両手に剣を構え躍りかかる。
 番犬達は迎え討つ。策は巡らせた、後は各人が全力を尽くすのみ――。


 夜の下、躍る道化師の影が淡いスポットライトに浮かび上がる。
「排除シマス」
 殺神ウイルスのカプセルを投射するモヱ・スラッシュシップ(機腐人・e36624)の薔薇装飾ランプが、遮光布で照射方向を絞られているがゆえだ。味方を極力照らさず、敵だけ照らす事で少しでも視界を欺こうと意図して。
「うわっ、当たっちゃった!?」
 ローレン・ローヴェンドランテ(影夢・e14818)は流星煌めく飛び蹴りを見舞い、命中した事に吃驚してみせる。
「あなたも踊るように戦うんだって? なら、是非ともお相手願おうか」
「いいよオ! 無駄骨を讃えテ、歓迎の舞くらいハ見せてあげよウ!」
 いろこの誘いに乗り、道化師は前衛陣を挑発的な剣舞で斬り裂く。
「ぐうっ……見た目以上に強烈だな……!」
 被撃して村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)は、わざと後方に大きく吹っ飛んだ。
「こいつ、強いよ!」
「くっ、これは……」
 セラフィも大ダメージを受けた振りをして、わざとらしく警告する。誘ったいろこも、演技に没頭し過ぎない程度に痛手を演出してうずくまる。
 道化師は腹を抱えて嘲笑う。
「何だイ何だイ、こんナ剣も受けられなイのかイ!」
「はぁ、何やってんの」
 セラフィに庇われたシリルはあえて威力の低い血襖斬りで道化師の返り血を浴びつつ、味方の無様さに不機嫌顔を演じる。
「そんな言い方はないだろう! 小鉄丸、手筈通りに行くぞ!」
 常祇内・紗重(駆け出し拳士・e40800)は使役修正を敵に認識させるべく意識して箱竜に声を掛け、回復も兼ねて光輝くオウガ粒子を放出し、前衛の超感覚を研ぎ澄まさせる。
(「さて、うまいこと惑わされてくれるかどうか」)
 敵との間合いが開いた状態で柚月は、聞こえないように極小さく呟く。
 演技と実際に多少不利な行動を織り交ぜての狙いは、こちらの戦力を低く、連携不足と誤認させ、敵の劣勢判断を遅らせる事。さて伸るか、反るか。


「サアサア、キミの隠しておきたい事ハ? 全部お見通しだよオ!」
 道化師はパチンと指を鳴らし、魔法の光を飛ばす。
 狙われたローレンは派手に痛がるリアクションを意識していたが、受けた痛手に演技の必要になかった。だがそれ以上に――胸の内に厭な感覚が、ざわつく。
「――ははっ、大っ嫌いだよドリームイーター。こんな奴らに傷つけられる人はもういらない……ぶっ殺す!」
 込み上げる怒りに唾棄して、ローレンは夢喰いへ殺意籠もった哄笑を上げた。
「ったく、何やってんだよ……」
 体勢を立て直して柚月は、今度は敵に聞かせるために発する。他人の動きに合わせ難いと言わんばかりに。
「そんな踊りじゃオレの相手は……! いや、私の相手には不足だぜ」
 踊るように地獄の炎弾を放っていろこは、怒りに乱れた口調に気づき、慌てて取り繕う。頭の芯は熱くても、これもあえて威力低めの技。
「く、まずいですね。この曲を、どうぞ……」
 焦ったふりを交えてアトは、ハーモニカで機械式奇想曲・停滞(メカニカルカプリッチオ・ステイシス)を奏でる。ローレン含む後衛の回復及びBS耐性付与で対処する。
「『継母』に従う、邪悪な道化師の挑発なんかには乗らないよ。そこの人も返してもらうからね」
「ンッンー、棺のお姫様に甘えたいのかイ、おチビちゃん?」
(「うん、まともに会話が成立するとは思っていない。自分のマインドセットのための、ただの意思表明だ」)
 敵への怒りは甘んじて受け、セラフィはウイルスカプセルを投げつける。策に嵌まったふりをして、地道に禁癒を付けていく。
(「敵が油断しているうちに、倒しきってしまうのが理想デスガ」)
 生命を賦活する電気ショックを仲間へ飛ばし、モヱはミミックの収納ケース以外とは連携しないよう努めて動く。戦況を正確に読み取らせないように、収納ケースには発動率の低い石化と催眠のBS付与攻撃を指示してある。
「ハハッ! アア妬ましイ妬ましイ……弱い犬が涙ぐましく束になっテ助けようとすルお姫様が妬ましイ!」
 道化師はカラカラ高笑いして歪に身をくねらせる。守りはグッと堅くなるが、傷の癒え方は狙い通り阻害されている。
 シリルは装飾過多な大槌を振りかぶりざま、舌打ちをした。敵へではない。
 その近くで柚月が半透明の御業で敵を鷲掴み、低威力の攻撃で力不足を装う。
「くそっ、効いてねぇ!」
「ねぇ、そんな攻撃しか出来ないなら僕と射線被らないでくれる?」
「は? そっちだって大した火力でもないだろ!」
 即興で不仲を演じる二人に、他の者も乗って煙たそうな眼差しを送ってみせる。いかにも持て余した風で、チームがガタガタであると見せかける。
「くっ……解除は頼む! 『喝ッ!!』」
 紗重は波羅尼陀那(プラニダーナ)で回復を優先しながら、小鉄丸とだけ視線を交わし、タックルでのブレイクを願う。
 アト、ローレンも個別に砕く拳を打ち込みに動く。劣勢演出はしても、敵の盾は極力残したくない。
「オヤオヤ随分ト仲が悪イんだねエ、駄目だよオ弱虫ハ、仲良くしなキャ!」
 道化師は大いに嗤って再び前衛を剣の舞で煽り立てる。踊っているのではなく、踊らされているとも知らずに。
 シリルは軽々と吹き飛んでみせ、その上、味方に向け冷たく言い捨てる。
「……トロいなあ。僕が死んじゃったらどうするの?」
 地獄の炎で身を覆い、さも味方は信用せず自力で回復するかのような態度。
(「生かさぬよう殺さぬよう。匙加減が難しいね」)
 セラフィは心の中だけでぼやく。道化師の言葉は無視していたいが、耳障りで仕方ない。
 少しでもさっさと片付けられるようにと、ケルベロスチェインを敵に絡みつかせる。
「『グラビティ収集、コードベータでの再構築及び展開を実行シマス。』 ……ワタシの回復量では、コレが限界デス」
 モヱは貴婦人の如く淡々とした振る舞いで、ヴォルテックスプログラム-β(ヴォルテックスプログラムベータ)の魔法陣を展開。使役修正に列減衰、悪影響の重なるその頼りなさは目に見えるほど。
「ンー、回復役はペットの飼い主、攻撃役は弱い上にガッタガタ……壁も脆そうなもんダ。ヤレヤレ可哀想にねエ、死ネって言われテ来たのかイ!」
(「その誤算が狙いなんでね」)
 息を乱して、嗤う道化師が優位であるかのようにステップを踏み、いろこもインフェルノファクターで自ら回復する。火力を上げるエンチャントを付与しても、苦手な魔法で攻撃し続ける内は目を眩ませられよう。
「くっ、当たらない!」
 ローレンはあえて古代語魔法の光線を連続させ、敵に見切らせ苦戦してみせる。確証はないが、BS付与のし過ぎで劣勢判断が早まっては事だ。
「ムカつく顔だな。これでも食らいやがれ!」
 息を切らし、柚月が竜砲弾を撃ち放つ。その間も、敵の様子への観察は怠らない。
「そおレ! 次ハ誰の秘密を暴いテあげようカ!」
「がはっ!」
 紗重は狙われたアトを庇い、飛来する魔法光を受ける。呼吸を乱し、ふらついて、疲労を演じ魔人の呪紋を浮かべ手傷を癒す。
 彼女を優先して庇い、怒りも解除出来るよう、常に意識しているのには理由がある。
「いい威力が出ました! このまま押していければ、何とかなります!」
 アトは放った魔法矢の通常威力を高威力を装う演技をしつつ、チーム内で最も冷静でいられるよう守られる事に感謝する。
(「ありがとうございます。いざという時には、私が」)
 無論、失伝関係者の救出が第一の目標ではある。けれど最悪の事態に、誰かが手にかける必要があるならば――彼女には、その覚悟があった。
(「ワタシには、その決断は出来マセン」)
 後方でモヱは思う。素晴らしい文化を紡ぐ地球の人々を守るため戦場に立つ彼女には、被害者を自ら手にかけるという選択肢はどうしても選べなかった。
 だが、敵側となって辛い目に遭わせるよりはいっそ、という気持ちも確かにある。
 だから――仲間の誰かがその選択をした場合、自分は止めない。それが心に決めた選択。
(「でも、もしもアトが土壇場で手段を放棄するなら」)
 それはそれで構わないと、紗重は思っていた。その時にはそれが、彼女のみならず自分達全員の選択となるのだから悔いはしないと。
(「ボクは――助けることが出来るなら、ボクは何だってしよう」)
 ローレンは、もし叶うなら異なる選択をする覚悟を抱く。それもまたケルベロスとして、自分としての明確な意志であるから。
 誰もが尽くせる限りの力を尽くし、最善と呼べる結果を望んでいた。それぞれの覚悟を錯綜させ、月下の番犬は道化師と踊る。


「……粘るねエ、気に入らないねエ。弱い癖ニしぶとい負け犬の相手なんテ、飽き飽きダ」
 誰一人としてボロを出さず空気を合わせる徹底した演技は、充分に時間を稼いだ。道化師は苦々しげに飛び退き、間合いを空ける。
「さア、見てなヨ! どうせキミらの力じゃ、ボクを止めるなんテ出来ないからさア!」
 楽勝かと思われたのに蹴散らしきれない、その見誤りを認めたくないとばかりの笑い声。少々の間ガラ空きになったとて凌げると、魔空回廊を開き始める。
 番犬達はそれを待っていた。幾つもの目が、道化師の動向を注視していた。
「今だ!」
「連携、解禁シマス」
 いろこが地獄の炎纏わせた欲望のシャーマンズカードを道化師へ叩きつけ、モヱが流星の蹴りを炸裂させ、総攻撃の先陣を切る。
「さあ、華麗な連携攻撃の時間だ。僕らの仲の良さを見せつけてやろう?」
「おうよ、ここが正念場だ! 決めに行くぞ! 『刻め螺旋に舞う式神! 顕現せよ! カードスラッシュ!』」
 今日初対面だけど。小器用に笑むシリルの良く通る声に、柚月が本領発揮のカードを構える。大いなる奇術の力を発動したカードが取り囲む斬り裂き舞の中心を、充分に火力上昇したシリルの氷河の一撃が打ち抜く。
「押し切らせて貰うぞ!」
 紗重と小鉄丸も守備を捨て全力でかかる。叩き込む凍結の重撃に、ブレス放射が重なる。
「なッ……!? 何だイ、コノ威力は……!? それニ、連携……!?」
 愕然とする道化師に、ローレンとアトが構える。
「ばれちゃったかい? 演技は終了だよ」
「うまく騙されてくれて、助かりました」
 可能な限り連れ去りを邪魔する位置取りで、無数の突きを繰り出すローレン。その百烈槍地獄を弾幕代わりに、死角からファミリアシュートを見舞って一気に敵の状態異常を増大させるアト。
「出番だよ、レゾナンスグリード! ぼくの手札で一番の切り札だ!」
 セラフィは喰らい尽くすブラックスライムを解き放つ。狙うは殲滅、ただ一点。
「グフゥッ! そうカ……そうカそうカ、謀ったナ犬どもッ! アレもソレも、全部ッ!」
 悟るも遅い。一度開き始めた魔空回廊は止められず、吼えるばかりで身動き取れぬ道化師へ続く猛攻。
「『存分にいただきましょう、苦難の日々はもう終わり。すべてすべて、私のもの』」
「『――甘い林檎の香りがしないかい?』」
 暴食祭(ラストカーニバル)、夢の咬み痕(ユメノカミアト)。
 いろこが召喚した白骨の巨大魚と、シリルが掌中の灰から変える幻覚の蛇が、敵へ喰らい付く。纏わり付く蛇ごと、噛み砕く。
「そこだ!」
「逃がさないよ、道化師。大人しく、この場で散れ!」
 紗重が額と左手首に固定したLEDライトが敵影を真っ直ぐ捉える。それをセラフィの猟犬縛鎖が捕らえて締め上げ、動きを封じられた敵の急所を如意棒で正確に貫く紗重。
 アトのドリル回転アームが、モヱの轟竜砲が、次々に敵を襲う。収納ケースも威力重視。
「ガハッ……そんナッ…!」
 踊る事も出来なくなり、道化師は膝をつく。回廊は、まだ――。
「その人は返してもらうぜ!」
「『煌めき、喰らえ、絢爛せよ』」
 斬撃。柚月の卓越した一撃と、ローレンが自身の月影を剣に変えた黒闇の白影(ビエールイチェーニ)が、前後から道化師を斬り払い、突き刺す。
 ――開きかけた魔空回廊が収束する。狂える道化師は討ち滅ぼされ、塵と消えた。


「お疲れ様。いやぁ、みんな役者だね」
 シリルが仲間達へ軽やかに、緩く拍手を送る。
「そう言うあなたもな。相当なもんだったぜ」
 敵への怒りも解除され、いろこは元の淡白な微笑を浮かべる。
「だが、きっと上手く行くだろうと考えていたぞ」
 意志を強く持ち前向きに臨んでいた紗重は、晴れやかな声だ。
(「質問してる余裕はなかったな。ま、どんな答えであれ殺してたけど」)
 ローレンは可能なら自身の宿敵について尋ねたい思いもあった。だが迷わず撃破を優先した事、悔いはない。
「さて失伝ジョブの末裔さんは無事かなぁ? 早く組織に連れて帰ろう」
「傷一つありマセン。問題ないと思われマス」
 セラフィとモヱはガラスの棺を覗き込む。セラフィは念のため応急手当てのヒールをしたが、安らかに眠る女性にはその必要もなさそうでホッとする。
「何なんだろうな、失伝ジョブって。その関係者が意外に多く存在するってのも驚きだが」
 だが敵が狙う以上重要な人物なのだろう。守れてよかったと、柚月は実感する。
「……よかったです。本当に」
 癖っ毛を夜風に揺らし、アトも胸を撫で下ろす。失伝関係者の救出は無事叶った。不要となった覚悟に、心から安堵していた。
 頭上には、冴え冴えとした月。月下の番犬達は誰もが、やり遂げた表情だった。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。