失伝攻防戦~猟奇の女騎兵

作者:なちゅい

●凍結された女性を狙って……
 そこは、とある住宅街僻地の平屋建てアパート。
 5つ並ぶ部屋の一番奥の内部にあった小さなワイルドスペースのモザイクが消え去り、内部が露出してしまう。
 その中から現れたのは、布団の中で眠りにつく1人の女性だった。
 寝巻き姿のこの女性、年は20代の中ごろといったところか。ノーメイクではあったが、なかなかの美人であるようだ。
 凍結された状態となっていた為か、女性はピクリとも動かない。
 彼女は失踪していた糸井・玲那と見られている。この近辺に住んでいた彼女がなぜこの場所に保存されていたか、その経緯は不明だが……。
 玲那を狙い、縁側の外の庭に魔空回廊が現れる。そこから出てきたのは、女性の人馬の姿をしたドリームイーターだ。
 外見ではモザイクは確認できないが、そいつは自らの首を左手に持ち、右手には大剣を抱いている。
 騎兵は赤い瞳を光らせ、女性の確保に動き始めるのだった……。

 緊急事態の発生とあって、ケルベロス達がヘリポートへと集まる。
「ジグラットゼクスの『王子様』は喜ばしいことだけれど……」
 この場にはリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)の姿があり、ケルベロス達へと詳細を始めるところだった。
「時を同じくして、東京上空5000mの地点に、ジュエルジグラットの『ゲート』が姿を現れて、そこから『巨大な腕』が地上に伸び始めたんだ」
 この『巨大な腕』こそ、『王子様』が最後に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』である可能性が高いと見られている。
 本来であれば、この『ジュエルジグラットの抱擁』は、創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を完全に支配する止めの一撃だったと思われる。
 しかし、ケルベロスが『創世濁流』を阻止した事で、その目論見を阻止することができた。
 確かに、東京上空に現れた巨大な腕は大きな脅威だし、打ち破るには、全世界決戦体制を行う必要がある程の危険規模だ。
「でも、ジュエルジグラットのゲートを戦場として戦う以上、この戦いに勝利する事ができれば、ドリームイーターに対して致命的な一撃を与える事ができるはずだよ」
 もちろん、ドリームイーターもこの状況は理解していると思われる。
 ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達は、ケルベロスとの戦いの切り札として用意していた人間達を、急遽、ゲートに集めるべく動き出したようだ。
「ドリームイーターが回収しようとしているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって、探索が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達だね」
 本来ならば、介入の余地がないタイミングで行われる事件だったが、日本中でケルベロスが探索を行っていた事で、この襲撃を予知し、連れ去られる前に駆け付ける事が可能となった。
「ドリームイーターが彼らを利用してジュエルジグラットのゲートの防衛を固める前に、ドリームイーターを撃破して救出してきてほしいんだ」
 現れるドリームイーターは、ジグラットゼクス『青ひげ』配下の精鋭騎士「グロワール騎馬隊」だ。
「リーダー『ラ・グロワール』に似た外見の人馬のような敵だね」
  敵のポジションは、クラッシャーであることが分かっている。単独行動を行う騎兵はその機動力を活かした突撃、手にする刃での攻撃を行う。刃を高く掲げ、グラビティを高めてから相手を狙うこともあるようだ。
 ラ・グロワールは、長い耳を収集するのだという。それもあって、シャドウエルフであるリーゼリットは自身の長い耳を少し気にかけながら説明を続ける。
「場所は、とある住宅地の僻地にあるアパートだね」
 アパートは平屋建てで、5部屋が連なっている。
 一番奥にある部屋にあった小さなワイルドスペースがなくなり、1人の女性が布団の中で眠りについているようだ。
 敵はこの女性を狙っており、『自分が敗北する可能性が高い』と考えた場合、『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物を魔空回廊からゲートに送り届けようとする』。
「縁側からドアを破壊、そして、女性の確保と魔空回廊からゲートに送り届けることで、2分くらい要するようだね」
 どのタイミングで敵がそう判断するかは状況次第だが、その間、敵は無防備となり、戦いも有利になることだろう。
 ある程度状況を説明し終えたリーゼリットは、更に続ける。
「これまでの作戦で、ドリームイーターはかなり打撃を受けているはずだよ」
 創世濁流の失敗、『王子様』の撃破……。ここで彼らの切り札を奪うことができれば、さらに相手を追い込むことができるかもしれない。
 また、失伝ジョブについても詳細がわかるかもしれない。こちらも合わせて気にかけておきたいところだ。
「以上だね。みんなの健闘を祈っているよ」
 リーゼリットは最後にそう告げ、戦地に出るケルベロス達を激励するのだった。


参加者
内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
コール・タール(マホウ使い・e10649)
レヴィン・ペイルライダー(二挺拳ジャー・e25278)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
雑賀・真也(不滅の守護者・e36613)

■リプレイ

●夢喰いの誘拐を食い止めろ!
 とある住宅地僻地。
 降り立ったケルベロス達は、現地を目指す。
「宜しく頼むよ」
 頭のゴーグルが目を引くレヴィン・ペイルライダー(二挺拳ジャー・e25278)が改めて、仲間達へと声をかける。
 地獄の炎に包む全身を覆うようにフィルムスーツに身を包む、シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)は頷いて。
「今度は誘拐ですか、デウスエクスめ……」
 まだ見ぬ敵に、シルフィディアはフルフェイスの下で怒りを燃やす。
 そのそばでは、比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)もまた、失伝したジョブに関わりのある人物の救出をと、意気込みを見せていた。
「姑息な手を使うもんだな。ドリームイーター自体そういう感じなとこあるが」
 対して、神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)は軽い口調で仲間に告げて。
「そのせいで、たまにネタに走ったような容姿の奴いるけど」
 妙な姿の夢喰いを思い出し、彼は思わず苦笑してしまっていたようだ。

 さて、メンバーは現場となるアパートの敷地内へと入る。
 すでにそこには、人馬の姿をしたデウスエクスが姿を現していた。
「何奴……」
 自身の首を腕に抱えたそいつは蹄を鳴らし、ケルベロスへと向き直る。
 グロワール騎馬隊……ジグラットゼクス『青ひげ』配下の精鋭騎士だ。
「創世濁流、『王子様』討伐、そして、此処。どれも悪くない戦でございました」
 こちらは、全身を西洋甲冑のような姿をしたラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)。彼はバケツヘルムから地獄の炎を噴き出し、相手に告げる。
「今回も、我々の完全勝利といきたいところでございますねえ」
「失伝ジョブの重要人物だ。そうでなくとも、これ以上テメェらの好きな様にさせるかよ」
 さらに、赤髪色黒のシャドウエルフ、コール・タール(マホウ使い・e10649)も武器に手をかけて強気な態度で言い放つと、女騎兵はギリッと歯軋りしてこちらを睨みつけてきた。
「お前らドリームイーターの悪巧みは、ここで止めさせてもらうぞ」
 雑賀・真也(不滅の守護者・e36613)は愛刀の誠義兼定を構える。
「そして、『失伝ジョブ』について話してもらうぞ」
「ちっ……」
 そいつはすぐに右手の大剣を振り上げ、襲ってきた。
 これには、ケルベロス達も応戦せざるをえない。
 巫女服姿の内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)が古びた木箱型のミミックから飛び降りて構えを見せると、レヴィンもゴーグルを着用し、交戦を始めたのだった。

●グロワール騎馬隊の女騎兵
 目の前にいる女騎兵は、単独任務を行えるほどの力量を持つ。
 とはいえ、相手を全力で叩けば、敵は体力を残したままで女性の確保を優先し、消え去ってしまう恐れがある。
(「此方の戦力を過小評価させ、敵の撤退を遅らせる作戦ですね」)
 仲間内で立てていた作戦をラーヴァは思い返す。それは、自分達の能力を過小評価させ、相手の撤退を遅らせるという作戦だ。
 少しずつ相手の体力を削り、相手が危機に瀕して女性の確保に移ったタイミングで、総攻撃という手はずとなっている。
「さて、楽しませて戴けるかな」
「なら、望みどおり楽しませてやろう」
 前線で、相手を挑発するラーヴァ。敵が大剣を振るってくるのに瑞樹も身構え、斬撃を受け止める。
(「なるべく、相手に不利だと悟られないよう気を付けないとな」)
 彼は仲間を守りながらシャーマンズカードから氷の騎兵を呼び出し、女騎兵へと突撃させて行く。
 コールとしては、相手の命を全力で奪いたいところ。ただ、作戦もあるし、何より敵に逃げられる危険がある。
(「確実に勝つ為なら、何だってしてやるとも」)
 だからこそ、コールは敵に対する殺意を押し殺しつつ、強化精霊長銃『イフリート』から凍結光線を発射し、敵の牽制に努めていた。
「貴様の思い通りにはさせませんよ……!」
 怒りと憎しみを隠すことなく飛びあがったシルフィディアは、相手目掛けて流星の蹴りを喰らわせていく。
 シルフィディアもまた、威力の高い一撃は控えている。こちらの戦力を見誤らせようとしていたからだ。
 黄泉も続けざまに、女騎兵の背へ蹴りを喰らわせていた。今のところ、相手は攻撃を受けながらも、女騎士は平然と戦場を駆け回る。
 そんな敵の様子を窺いながら、真也もまた誠義兼定を斜めに振るって敵の急所を狙う。
 ゴーグルの中から敵を見据えるレヴィンは立ち回る際に思わずこけそうになりつつも、しっかりとリボルバー銃の照準を合わせ、女騎兵へと弾丸を撃ち込む。
 その一発は敵の持つ大剣へと僅かにヒビを走らせたが、そいつは動きを止めることなく突撃してくる。
「やっぱり、速いですね~……」
 ミミックのマミックが飛び出してそれを抑えようとする後方で、主のとてぷが仲間の傷を気遣う。
 その上で、とてぷは袖の中から数枚のお札を飛ばす。それらが紙兵となって仲間達の守りに当たっていた。
 同じく、敵を抑えるラーヴァは敵の突撃を受けて軽く弾き飛ばされつつ、なおも前に出て行く。
 じわじわと敵を弱らせる必要がある為、長期戦は覚悟の上。彼は「Bow with Flame & Infinity」を、頭上へと向けて。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 地獄の炎を込めた一射。それによって上空で弾けた炎は滝のようになって女騎兵の頭上へと流れ落ちた。
 すでに受けていた氷結、足止めといった効果を強める炎に、女騎兵は小さく鼻を鳴らしながらも大剣を振り上げてきたのだった。

●女騎兵を圧倒せぬように
 グロワール騎馬隊の女騎兵は、ケルベロスに注意を向けたまま。
 己の力に自身を持つからこそ、単騎でもチームを編成するケルベロスに戦いを挑んでくるのだろう。
 ケルベロスとしては、全力で戦えないのがもどかしいところではある。下手に攻撃して追い込むと、取り返しが付かなくなる恐れがあるからだ。
(「まだだ、まだ我慢を……」)
 どのみち、最後には全て支払わせる。内なる衝動を堪えながらコールはやや苦戦を演出し、仲間の攻撃と相手の状態を逐一確認していく。
 敵の体表面に張ってきていた氷が大きくなってきたことを感じながらも、コールは「Elixir Azoth Sword」で敵の傷をさらに斬り広げた。
 直後、レヴィンがドラゴニックハンマーを砲撃形態にして構える。
 使用経験の浅い武器だが、砲撃であればそれほど難なく使える様子。敵の足元を狙った一発は、相手の動きを抑えるのに一役買っていたようだ。
 ところで、苦戦を装って戦うというのは、微妙に難しい。
 黄泉は有利な素振りを見せぬようにと気遣いつつ、加速させたパイルバンカーを敵へと突き入れていく。
 力をある程度加減して戦えば、当然、戦いは長引くこととなる。
「我々、盾の粘りどころでございます」
 ラーヴァは同じ盾役の瑞樹、ミミックのマミックと合わせて仲間達のカバーに動く。
 彼はできる限り仲間を庇うべく、多少距離が開いていても強引に庇いに向かってみせ、敵の油断を誘おうとしていた。
 面倒なのは、敵の攻撃が広範囲に渡るものばかりということ。それもあって、彼らは思った以上に攻撃を喰らって疲弊していくこととなる。
 ラーヴァは兜から溢れる地獄の炎を弾丸として発射し、敵の体力をもぎ取っていく。
 敵が長い耳を集めるという話を聞いていた瑞樹。自身の長い耳を見せ付けて敵の気を引いて彼もまた、深く傷ついていた。
 傷が深くなってきたことを察し、瑞樹はオーラを溜めて自らへと転化するように撃ち放つ。
「こっちは大丈夫だ。別の奴を回復してくれ」
 一息ついた瑞樹は仲間に呼びかけてから、溜めたオーラを刃となして影の如き一撃で相手の体を切り刻む。
 近距離で切り込むのが瑞樹の戦闘スタイルではあるのだが、なんとなく力攻めを敬遠する彼はこうして手数で攻めたり、理力を込めたりする攻撃の方が性に合っているらしい。
 そんな仲間達の回復に、とてぷは全力を尽くす。
(「相手から脅威に見えないようにしないとですね!」)
 だからこそ、とてぷは攻撃を行わず、仲間の傷を塞ぐのに符を使う。
「さぁさぁ、お立会い! このヒトガタの紙をこう飛ばせば~。……ふふふ~、見分けられるかな?」
 相手を挑発するように告げたとてぷは、懐から人型(ヒトガタ)の切った紙を大量に飛ばした。
 その紙は、前線の仲間の周囲を飛び回って盾となってくれる。しばし、女騎兵をかく乱してくれもするはずだ。
 しばし、互いの攻撃が飛び交う膠着状態となるが、徐々にケルベロス達が女騎兵を押して行く。
「我に力を……」
 その証拠に相手は剣を高く掲げ、自身の戦意を高揚させつつケルベロスをじっと睨みつける。
「耳が欲しいなら、自分の耳でも削いでろ……。死ね……!」
 だが、シルフィディアがそれを許さず、オーラを纏わせた拳を音速でぶちこみ、高めた女騎兵の力を霧散させた。
 そこを真也が狙い、誠義兼定で鮮やかな剣捌きを見せ付ける。
 グラビティの込められた斬撃は、傷口を凍りつかせてしまう。体のあちらこちらを凍らせた女騎兵は、表情をこわばらせていたようだ。
「こ、これでは……」
 相手がちらりとアパートに視線を向ける。
 ケルベロス達はそれを確認して、一斉攻撃を行うよう仲間内で目配せし合うのだった。

●一気に殲滅を!
 さすがに、全身に傷を負った女騎兵は不利を悟ったのだろう。
「任務だけは、遂行せねば……」
 一言漏らしたそいつはケルベロスを振りほどき、一直線に目的の部屋へ駆け出していく。
 だが、ケルベロス達もそれを易々と許しはしない。
 逃げの一手と判断した瑞樹はアパートの前に立ち塞がり、バトルオーラを纏わせた手刀で切りかかる。
「ようやく、いつもどおり殺すことができる」
 そうして、敵を抑えている間に、コールが自身の片腕をどす黒い異形の腕へと変化させた。
「――隙だらけだ――」
 一時的に自らの力を暴走させることで、繰り出す事ができる一撃。
 敵の懐に飛び込んだコールはこれまで溜めた怒りを全て吐き出し、力任せに女騎兵へとぶつけて行く。
 凍りついた体表面が砕け、皮膚に突き刺さったことで女騎兵が呻く。
「失伝したジョブの関係者、返してもらうよ」
 パイルバンカーの尖端を敵に向けた黄泉も、螺旋力をジェット噴射させて突撃する。
「ぐ、ううっ……」
 後方から突き刺さる黄泉のパイルによって、女騎兵の鎧が大きくひび割れた。
「お前らが言う『失伝ジョブ』とは一体、何なんだ?」
 苦しむ敵へ、真也が誠義兼定を敵の頭に突きつけ、問いかける。
「逝く前に答えてもらおうか」
「断わる。貴様らに答える舌は持たぬ……!」
 その問いを突っぱねた敵はさらに加速してみせ、ケルベロスを躱してアパートの壁を破壊していく。
 その室内には布団で寝たままの人影がある。彼女が失伝したジョブの情報をもつという女性に違いないだろう。
 だが、真也は再度、刃の尖端を相手の側頭部に向けた。
「お前には答えるという選択肢しかない。早く答えろ」
 それでも、敵は一直線に女性の元に駆け出そうとした為、真也も「そうか」と小さく告げ、誠義兼定を鞘に素早く収めて。
「黒光の暗黒螺旋剣よ。その力をもって、敵を亡き者にせよ」
 右手に召喚した弓を、そして、左手に黒く光る螺旋剣手にし、彼は構えを取る。
「――黒光の暗黒螺旋剣(フラガラッハ)!」
 これぞ、真也の最速の技。射放った黒剣は敵の体を真横から貫いた。
 女騎兵は……、倒れない。十分にダメージを与えているのは間違いないが、相手も強い想いが会ってこの作戦に臨んでいるのだろう。
「反逆ケルベロスを作る!? 汚い手使いやがって!」
 後方から、レヴィンもまた女騎兵に叫びかける。
「絶対に助ける! 最後の一撃まで絶対に諦めない!!」
 リボルバー銃を抜いたレヴィンは、幾度もトリガーを引く。
 射撃な得意なレヴィンのこと、装填させた弾丸を見事に全弾命中させて見せた。
「……なにぃ!?」
 それを耐え切って見せた女騎兵に、レヴィンは驚きの声を上げる。
 これまで回復に当たっていたとてぷもマミックと共に、敵へと襲い掛かっていく。
 思いっきりかぶりつくマミックの後に、とてぷはお札を飛ばして氷の騎兵を生み出してけしかける。
 食らいつかれ、氷の槍の一閃を受けてなお、女騎兵は倒れない。
 息を絶え絶えにしながらも、そいつはこの場に魔空回廊を発生させようとしていた。
「一気に仕留めてしまいましょう」
 ラーヴァは「Bow with Flame & Infinity」より、炎の一撃を放つ。破裂する炎に身を焼かれ、女騎兵の上体が揺らぐ。
「弓兵は騎兵に強いものでございます。なんてね」
 なおも踏みとどまる敵は、床に横たわる女性を見つめる。
 その敵へ、地獄となった右腕を露出させたシルフィディアが躍りこむ。
「させるか。バラバラに、砕け散れ……!」
 禍々しく鋭い刃が合わさったドリルとなった腕は高速で回転して、相手の体深くにまで突き刺さる。
 そこからさらに回転を加え、シルフィディアは相手を細切れにしていく。
「ああああああぁぁぁっ…………」
 甲高い叫び声が上がったのは一瞬のこと。グラビティ・チェインの尽きた女騎兵は全身をモザイクと化し、消え去ってしまう。
「……良かった」
 敵の殲滅を確認したレヴィンは感極まり、涙を零してしまうのだった。

●失伝ジョブの手がかりは……
 メンバー達はドリームイーター撃破後、アパート奥の部屋で横たわる女性の下へと向かう。
「あ、あの……、大丈夫ですか……? どこかお怪我は、ありませんか……?」
 平時の口調に戻ったシルフィディアが呼びかけるも、女性から返事はない。
 ラーヴァも女性を介抱して呼吸は確認したものの、目覚める様子は一向になかった。
 その為、瑞樹は搬送が必要と判断し、スマートフォンを取り出して医療機関に連絡を入れる。
「ともあれ、女性が目覚めるのを待つしかありませんね」
「失伝の情報はまたの機会だね」
 ラーヴァも黄泉も、この場は新たな情報を得ることを見送ることにしていたようだ。
「しかし、今になって『失伝ジョブ』に関連する人間を探すようになったのなら……」
 そこで、真也が何気なく呟く。
「今、ドリームイーターに、決戦の為の強力な戦力が不足しているのだろうか?」
 救急車のサイレンを耳にしながら、真也はそんな想像を巡らせるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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