「ケルベロスハロウィンの壺中天占いのイベントの結果が出たみたいだよ。これも、毒舌に負けずに占いに挑んでくれた皆のおかけだね」
玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)はケルベロス達をヘリポートに召集し、占いの結果について語り出す。
その内容は、ダンジョンに分身体を送り込んでいた、カンギ戦士団の『燕迷公主』の居場所が判明したというものだ。
彼女がいるのは、ダンジョンの内部ではなく外側の場所。そこは奈良県北葛城郡広陵町にある古墳、『巣山古墳』の内部に潜み、螺旋大伽藍に分身体を送り込んでいたようだ。
居場所が特定できた今、ここで『燕迷公主』を撃破しさえすれば、螺旋大伽藍を使ったカンギ戦士団の野望を完全に阻止することができるだろう。
ただし『燕迷公主』は、自分の居場所が露見してしまったと勘付けば、すぐに逃走を開始してしまう。従って、なるべく気付かれないよう少人数での奇襲作戦を行う必要がある。
しかし幸いにして、分身を行う儀式を中断して逃走を完了させるまでには、15分程度かかるらしい。そこで作戦を素早く実行し、敵が逃走するより前に古墳の内部に突入すれば、『燕迷公主』を討ち取る好機を見出せるだろう。
シュリは大まかな任務内容を伝えると、引き続き概要についての詳細な説明をする。
敵の拠点である巣山古墳の入り口は、屍隷兵『キョンシー』によって守られている。
キョンシーは戦闘力は高くないが耐久力があり、突破されそうになると増援が来る為、戦力的に勝っていても、まともに戦闘すれば長期戦は免れない。
更にこの護衛を突破しても、『燕迷公主』のいる古墳中心への扉は、武闘家の屍隷兵『黄・爆龍』が護衛に就いている。
黄・爆龍は高い戦闘力を持っており、ここで足止めされれば、『燕迷公主』を撃破することは不可能だろう。
古墳の中央の扉を抜ければ、その奥には『燕迷公主』がいる。彼女は襲撃が行われると同時に撤退の儀式を行う為、作戦開始15分後には撤退を完了してしまう。
この儀式自体を阻止することは不可能なので、突入から15分以内に撃破するしか手段はない。
もし撃破できずに逃走を許してしまうと、彼女達は新たな場所に拠点を作り、螺旋大伽藍への侵攻を再開してしまうだろう。
そうした事態を防ぐ為、今回立案されたのが、計3チームによる潜入作戦だ。
まず1つのチームが正面から襲撃を開始して、警備のキョンシーを引き付ける。その隙に残りのチームが潜入し、『黄・爆龍』と戦って足止めするチームと『燕迷公主』を撃破するチームに分かれて行動することになる。
「そしてここからが本番なんだけど、キミ達には『燕迷公主』の撃破をお願いしたいんだ」
潜入方法に関しては、『正面からの襲撃でキョンシー達が集まりだしてから、こっそり横穴から潜入』するところから開始する。
ちなみに横穴からの潜入が早過ぎた場合、増援に行くはずだったキョンシーに発見されて足止めされる可能性がある。
逆に遅過ぎてしまっては、今度は『燕迷公主』との戦闘時間が少なくなってしまう。
以上の点を踏まえて、有効的な時間を算出すると。襲撃開始後『3~5分程度』が一つの目安となりそうだ。
無事に潜入して扉の前まで到達したら、そのまま扉の奥に突入し、『燕迷公主』を逃さず倒すのがこのチームの役割である。
「キミ達が戦う『燕迷公主』なんだけど、今回は本体だから分身体以上の強敵だと思って心した方がいいよ」
敵の攻撃方法は、紫色の炎から蝶を作り出して毒を撒き散らしたり、背中に浮かぶ八卦陣を展開させて幻覚を視せてくる。他にも壺から煙を漂わせ、傷を癒したりもするようだ。
とはいえ今回はケルベロスの排除より撤退を最優先とする為、妨害や回復行動主体で時間稼ぎをすることが予想されるだろう。
限られた時間の中で如何にして戦うか、その点がこの作戦における最大の焦点となる。
敵を討ち倒すには急ぐ必要がある。しかしだからといって、焦り過ぎれば却って時間を浪費する危険性もある。焦らず確実に、尚且つ最速で目的を達成するのが最良であるのだが。
「でももしこの作戦を成功できたなら、カンギ戦士団にとっても痛手になるだろうしね。それらの全てはキミ達の活躍にかかっているから、今回も期待しているよ」
シュリのケルベロス達に対する信頼は揺るぎなく。皆の力なら大丈夫だと大きく頷いて、彼等にこの結末を託すのだった。
参加者 | |
---|---|
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
立花・恵(翠の流星・e01060) |
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433) |
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859) |
高辻・玲(狂咲・e13363) |
軋峰・双吉(の今はデウスエクスに作られた・e21069) |
比良坂・陸也(化け狸・e28489) |
レスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723) |
●十五分間の突入戦
壺中天占いの結果によって、燕迷公主の居場所を遂に突き止めたケルベロス達。
そこで彼等はこの好機を逃さぬよう、少数精鋭による奇襲作戦に打って出る。
敵の拠点である巣山古墳の入り口を守るキョンシー達とケルベロスの1チームが激突し、戦いの幕が切って落とされた。
彼等に与えられた時間は15分のみ。戦場に響き渡る剣戟の音を作戦開始の合図とし、残りのチームも時間を計りながら動き出す。
「そろそろ頃合いですね。私達も突入を開始致しましょう」
敵に気付かれないよう声を潜めて、黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)が仲間に告げる。カルナの掌にある、懐中時計の針と共に廻る猫達が、時は満ちたと導き示す。
キョンシーとの戦闘が始まってから4分が経過した。入り口に敵の戦力が集中している今こそが、横穴から潜入する絶好の機会だと。
彼女達はもう一つの潜入チームの後を追うように、燕迷公主を討つべく移動を開始する。
周囲を警戒しながら奥へと進み、突入から2分後――ケルベロス達は1体のキョンシーと遭遇するが、難なく撃破。そして彼等は、古墳の中心地にある扉の前に辿り着く。
「……とうとうここまで来たんだな。後は、アレをどうにかしないといけないか」
ハロウィンの様々な出来事が、立花・恵(翠の流星・e01060)の脳裏を過ぎる。恥ずかしい姿を晒してまで味わった苦労を乗り越えたからこそ、今がある。ただし感傷に浸るのは後にしようと、恵は気を引き締め直して通路の先を凝視する。
扉の前に聳え立つのは、武闘家の屍隷兵である黄・爆龍。この難敵をどうにか突破しなければ、燕迷公主の待つ扉の奥に入ることは敵わない。
相手は一体とはいえ、その戦闘力は計り知れないものがある。ケルベロス達は強者が放つ気配を感じ取りつつも、こちらの意図を悟られないよう身構えながら立ち向かう。
正面から仕掛ける爆龍班と連携し、敵を包囲するかのような動きを見せて、燕迷班の面々は相手の背後に回り込もうと試みる。
「余計な足止めだけは避けたいからな。ここはやり過ごさせてもらうとするぜ」
軋峰・双吉(の今はデウスエクスに作られた・e21069)が大きな体躯を屈めて爆龍班の背後に身を隠し、忍び足で通り過ぎようとする。だが彼等のそうした思惑も、爆龍には通じることなく見透かされてしまう。
爆龍の意識が双吉達に向けられそうになる。しかし爆龍班の仲間達による必死の猛攻が、扉に至る為の突破の隙を作り出す。
力と力が激しくぶつかり合う。我が身の犠牲を厭わない、乾坤一擲の思いが公主へ通じる道を切り拓く。
「ここは私達に任せて、先に行ってください!」
フローネが紫水晶の盾で敵の攻撃を防ぎ、己を奮い立たせるように声を張り上げる。彼女の力強い言葉に促され、ケルベロス達は矢継ぎ早に扉の奥へ雪崩れ込む。
「有難う……。皆が作ってくれたこのチャンス、絶対に無駄にはしない」
最後に殿を務めるレスター・ストレイン(終止符の散弾・e28723)が、小さく頷きながら爆龍班の面々に礼を述べ、決意を抱いて奥の部屋へと駆けて行く。
彼等と次に再会するのは、燕迷公主を倒した時だと胸に誓って――。
直後に扉が閉じられ二つのチームは遮断され、レスター達は念願の標的と対峙することになる。目の前に立つのは一人の少女――螺旋大伽藍で幾度となく遭遇した燕迷公主本人に、漸く辿り着くことができたのだ。
「燕迷公主よ。カンギが案じ、君が軽んじた『兆が一』、ここに推参したぞ!」
先陣を切って燕迷公主と対面した奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)が、挑発めいた言葉で宣戦布告する。そして周囲に不思議な色の粉を振り撒いて、仲間の戦意を研ぎ澄ます。
一十の発した一言に、燕迷公主は一瞬驚いた顔をする。だがそんな仕草も束の間で、傲然たる態度でケルベロス達を見下すように言い放つ。
「まぐれとはいえ、この場所を探り当てられるとはな。しかし残念だったな、撤退の儀式は『京が一』でもキミ達には止められない。儀式が完了するまで後6分――それまでこの者達と戯れていると良い」
作戦を開始してから燕迷公主に辿り着くまで、要した時間は9分だ。彼女はケルベロス達とまともに戦おうとせず、逃げ延びることを優先するだろう。そのことを裏付けるように、背中に浮かぶ八卦陣が眩く光り、公主を模した分身体が番犬達の前に立ちはだかった。
限られた僅かな時間の中で、果たして彼女を倒すことができるのか。ケルベロス達は冷静を装うが、顔に滲んだ焦りの色は隠せない。それでも躊躇うことは許されないと、彼等の不安を払拭するように、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が護りの力を発動させる。
「Code A I D S……start up Crystal generate……Ready Go ahead」
詠唱が紡がれると共に、集めた魔力で蒼い菱形クリスタルを生成するマキナ。クリスタルから発する光は仲間を護る盾となり、反射によって分身体の影を掻き消していく。
「目覚めよ、我が血、我が本能! 我は獣、月の兵!!」
比良坂・陸也(化け狸・e28489)が自らに暗示を掛けて、内に眠りし獣の力を解き放つ。月の光を宿した符を媒体に、沸き上がる赤黒い闘気が陸也の身体に憑依する。
「――然れども、我は月を制し、神を喰らわん!!!」
双眸は赤く血走り、獣としての本能を剥き出しにして。陸也は燕迷公主を獲物と見なし、彼女を威嚇するかのようにけたたましく吼える。
「全て、断ち斬る――翳りも迷いも、薙ぎ祓え」
高辻・玲(狂咲・e13363)が空を翔けるように白い翼を翻し、燕迷公主に刃を向ける。
磨き抜かれた刀剣に、研ぎ澄ませた心重ねて。揺るがぬ思いを籠めて放たれた一太刀は、玲の決意を表すような鋭利な傷を刻み込む。
――彼等に残された時間は後5分。それまでに決着を付けるべく、ケルベロス達は最初から持てる力の全てを振り絞り、果敢に燕迷公主を攻め立てる。
●蠱毒の坩堝
「時間がないのは承知しています。ですが裏を返せば、貴女の命の猶予もそれまでです」
カルナが脚に魔力を込めて、鞭のように撓らせ蹴り込むと。ビスクドールのようなカルナの脚から星のオーラが華麗に跳ねて、矢弾の如き光の礫が燕迷公主に降り注ぐ。
「早速分身忍術たぁ、惑わし合いがお好みか? ホントは俺もそういう方が得意なんだけどなぁチクショウ!」
今回のような火力で押し込む戦いは、双吉にはどちらかと言えば不得手な戦法だ。それでも受けた任務はこなすしかないと、巨大な槌に魔力を充填し、竜が猛るが如き砲撃を放って豪快に爆発音を響かせる。
そんな彼にとっての救いとなるのは、少女忍者との出会いに縁があることだ。美少女に憧れを抱く双吉の、見つめる視線に良からぬ空気を感じた燕迷公主は、不快感を露わに怪訝そうな顔をする。
「何を言おうが、キミ達の顔を見ることは金輪際ないだろう。分身術を極めたワタシが敗北することは、断じてあり得ないのだから」
燕迷公主が壺に念じると、煙が立ち上って彼女が負った傷を癒す。どれだけ攻撃を繰り出そうとも、その都度回復をされてしまうのはこの上なく厄介だ。
「そっちこそ、俺達ケルベロスを侮ってるみたいだな。例え世界の裏側に隠れても、逃さず見つけて倒してみせる!」
尊大に語る燕迷公主の言葉を切り捨てるように恵が一喝し、全身から滾る重力を、ブーツに乗せて間合いを詰める。そして恵は脚を大きく振り被り、力を溜めて燕迷公主を蹴り付ける。
見た目は小さな少女でも、その実力は螺旋忍軍の里を統べる程の強敵だ。だからこそ、女子供に手を出すのは心苦しいなんて言っていられない。レスターは自身にそう言い聞かせながら銃を構え、目の前の少女に狙いを定める。
「……大丈夫 俺には仲間がいる」
共に戦う仲間達の存在が、臆病者の心に勇気の炎を灯してくれる。レスターの銃から発射された光線は、凍て付くような冷気を帯びて、燕迷公主の生命力を蝕むように奪う。
「ああ、その通り。僕達は一つの力を十にできる。この好機、必ずものにしよう」
レスターの想いを引き継ぐように、一十が間髪を入れず追い討ちを掛ける。握り締めた惨殺ナイフの刃が稲妻状に変形し、一十は軽やかに舞うかの如く刃を振るい、傷を重ね広げるように斬り裂いた。
「戦闘パターンは貴女自身の分身で学習済み、その行動も予測通りよ」
敵が回復主体で時間を稼ぐ心算なら、こちらは回復手段を封じ込むだけと。マキナはウイルスの針を仕込ませた如意棒を、燕迷公主目掛けて突き刺した。注入された病原体は公主の身体中を駆け巡って伝染し、やがて彼女は死に至る病に侵されていく。
回復役のマキナが攻め手に回ったことにより、ケルベロス達の攻撃は更に勢いを増して加速する。
「俺達から逃げられるなんて思うなよ。とっととケリをつけてやる」
陸也が呪言を唱えると、手にした金剛杵から光が弾けて剣の形を成していく。具現化された紫電の刃は陸也の狂気と呼応するように、獰猛な野獣の如く貪るように燕迷公主を斬り付ける。
「そちらがどれだけ粘ろうと、僕達は最後まで諦めない。悪いけど、届かせてもらうよ」
玲が祈りを捧げるように剣を掲げると、煌めく星の力が剣に宿る。玲は破邪の力を纏った刃を最上段から振り下ろし、超重力の一撃を叩き込む。
守りに徹して逃げ切ろうとする燕迷公主。ケルベロス達はその目論見を打ち砕こうと、手数で押して追い詰めていく。
しかし彼等の苛烈な攻撃も、仕留めるには後一歩及ばず倒すまでには至っていない。決め手を欠いた状態で、時間だけが無情に過ぎて行き――気が付けば残された時間は、もはや1分しかなくなっていた。
●胡蝶の夢は幻と散り
「……後1分耐え凌げば、ワタシの勝ちだ。我が公主燕迷陣は宇宙一の分身忍術。この術の前では何者も敵わぬと……キミ達が如何に無力か、思い知るが良い」
燕迷公主の自信に溢れた態度は、最初の頃と変わらない。だが呼気が乱れて苦痛に顔を歪める様子から、相手の疲労も限界近くに達しているようだ。
「貴女を倒すには、それだけあれば十分です。さあ、おいで――」
カルナが手をしなやかに振り翳し、影の中から喚ばれ出づるは一匹の可愛らしい黒猫だ。小さいながらも鋭敏な動きは正に狩猟者と言って良く、カルナの命に従うように、獲物たる燕迷公主の『影』に飛び込んだ。
黒猫は気儘に戯れ翻弄するように、燕迷公主の影と同化して。相手を決して逃さぬよう、その身を影ごとこの地に縫い留める。
「ほざけ。手前ぇの失敗は、分身体で散々手筋を見せ過ぎたことだよ」
螺旋大伽藍の分身体とは何度も戦ってきた。だから手の内は全部知り尽くしていると言いたげに、陸也は魔力を込めた掌を燕迷公主に突き出した。すると大気が歪んで竜の姿となって顕現し、竜の口から炎の息吹が噴き荒れて、熱く灼けつく紅蓮の紗幕が公主の身体を包み込む。
「お遊びの時間はお終いみたいだね。これでもう、貴女の顔も見納めだ」
玲が最後の別れを告げるかのように、日本刀を腰に携え手を添えて。瞬時に抜き放たれた一閃は、鮮やかな軌跡と共に紫炎の蝶を断ち、血飛沫が虚空に舞って朱に染まる。
「力押しってーのは柄じゃないが、しかし! 完全に捉えたこの状況! 思いっきりいくしかねーよな~~~~ッ!!」
これ以上後がないのは、自分達も相手も同じ条件。ならば形振り構わず仕掛けるだけと。双吉が黒い翼を広げると、液体状の残滓が燕迷公主に纏わり付いて、捉えたところを一気に攻める。
せめて俺もこんな美少女だったなら……。双吉は自嘲じみた想いを込めつつも、燻る未練を捨て去るように残滓の翼に力を加え、燕迷公主を一層強く締め付ける。
「さぁて、あんたが俺達から逃げ延びれるか。運勢は自分自身で占ってもらおうか?」
弾を仕込んだ弾倉をくるくる回転させながら、恵が地面を蹴って一足飛びで敵の懐へと潜り込む。
「一撃をッ! ぶっ放す!!」
銃口を敵に押し当て、零距離から撃ち込まれた絶対不可避の一撃は、燕迷公主に見事命中し、直撃を受けた少女の体躯が力無く崩れ落ちていく。
恵は射撃と同時に飛び退り、レスターに目配せをして入れ替わる――後は全てを任せた、と。
彼女に訊きたいことは山ほどあったが、深手を負った身体では、もう話すことすらも無理だろう。それなら一思いに楽にしてあげよう――レスターの瞳から零れ落ちる一滴、それは涙の代わりに流した炎の欠片。
地獄と化した涙を弾丸に、装填させたライフル銃に口付け交わして儀式を終えると。魔術回路を仕組んだ刺青が、脈打ちながら秘めた力を呼び醒ます。
「――この涙は罪を穿つ、地に堕つ蝶を断つ!」
トリガーを引き、呪詛を宿した弾丸が、燕迷公主の身体を喰い破るように貫いて。
地上に堕ちた壺が砕け散り、天を仰いで死に逝く彼女の、最期の瞳が視たモノは――自身の血肉が蝶の群れと化し、常世に羽搏いていく光景だった。
燕迷公主を見事討ち倒したケルベロス達。だが彼等には、もう一つの成すべき務めが残されていた。
扉の向こう側から聴こえる剣戟はまだ止み終わっていない。彼等は休む間もなく、急いで爆龍戦の援護に駆け付ける。
戦場では不可視の波動が爆龍班の後衛陣に迫ろうとする。その時、二つの影が割り込むように躍り出る。
「待たせたな。ここからは、僕達も一緒に戦わせてもらう」
波動を打ち消すようにメイザースを庇って立ち塞がったのは、一十と従者の小竜・サキミであった。
「傷の治療はこれで大丈夫。今度は私達が支える番よ」
負傷を受けてしまった在宅聖生救世主と宵一は、マキナが薬液を散布させ、降り注ぐ癒しの雨が二人の傷を瞬く間に治す。
一十とマキナに続いて残りの者も合流し、二つのチームが一つとなって、爆龍打倒の為に力を合わせて迎え撃つ。
こうなると勢いは圧倒的にケルベロス側が上回り、形成を逆転された爆龍は、忽ち苦境に立たされてしまう。増援が加わったこの戦力差では、爆龍にはどう足掻いても勝機はない。
戦いは一方的となり、最後にドルフィンが放った炎の黒鎖が、爆龍を地面に叩き付けると――屍隷兵の武闘家は頭蓋を粉砕されて、二度と起き上がることはなかった。
その後も彼等は残ったキョンシー達を撃破しながら撤退し、完全勝利を収めて一連の戦いに決着を付けたのだった。
ケルベロス達が最大戦果を挙げたこの結末は、カンギ戦士団にとって大きな痛手となったに違いない。その大役を成し遂げた一行は、勝利の余韻を噛み締めながら、戦地となった古墳を振り返る。
――静まり返った森の中、一羽の蝶が遥か空の彼方へ飛び去っていく。
死者が眠りしこの土地で、『彼女』の魂も、きっと今は安らかに――。
作者:朱乃天 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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