決戦ステュムパロス~嫌悪のこころ

作者:犬塚ひなこ

●第六の魔女ステュムパロス
 あの森にタイムカプセルを埋めに行こう。
 そう決めた少女達は近くの森の奥へ赴き、大きな樹の下に集まった。だが、その日に友情の証を埋めることは叶わなかった。何故なら――。
「蛇……何であんなところに蛇が……」
 少女は先ほど見たものを思い出して身震いした。友達もみんな驚いて散り散りに逃げてしまったので折角の特別な日が台無しだ。少女は抱えた宝石箱めいた形のタイムカプセルを抱き締め、蛇なんて気持ち悪いだけ、と呟いた。
 そのとき、少女の前に何者かが現れる。
 青銅色の翼に爪、羽付帽子に翼と同じ色の髪。そしてその手には大きな魔鍵。
 まるでハーピーのような見た目の彼女に気付いた少女は驚いて後退った。
「きゃ、誰!?」
「あはは、驚かせたかな。私は魔女。パッチワークの一人、ステュムパロスというさ。仲良くしてくれると嬉しいな♪」
 明るい声で自身の名を告げた魔女は薄く双眸を細める。そして、
「といっても、すぐにその『嫌悪』を貰ってしまうんだけどね」
 くすくすと笑ったステュムパロスはモザイクに包まれた翼を広げ、手にした鍵を少女の胸めがけて振り下ろした。

●決戦の刻
「皆さま、第六の魔女ステュムパロスの動向が掴めましたです!」
 それは『嫌悪』を奪うパッチワークの魔女のひとり。
 雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)の調査によってステュムパロスの動きを察知出来たと語り、集った者達に決戦の準備をして欲しいと願う。
 ケルベロス達が駆けつけられるのは、今まさに被害者が襲われる瞬間。
 本来ならば魔女の振るう鍵の力によって嫌悪を具現化したドリームイーターが現れるはずだが、今回はその直前に阻止が可能だ。
 駆け付けた瞬間に少女を庇う必要があるが、ケルベロス達ならば容易なことだろう。
「魔鍵から女の子をうまく庇えたら戦場外に避難するよう言ってあげてください。その間に誰かが敵を引き付けておけば、すぐに逃走されることはないはずです」
 おそらくステュムパロスは余裕をもって応戦する。
 相手は強敵であり、油断や慢心をしていると押し負けて敗北する可能性が高くなる。気を引き締めて、且つ全力で挑まねばならないと告げた後、リルリカは隣に立っているレオナルドを見上げた。
「レオナルド様、だいじょうぶですか?」
「……はい、平気です」
 呼び掛けに答えた彼はゆっくりと頷いた。予知でしか姿が見えず、暗躍していたステュムパロスと漸く対面できること。そして、宿敵である魔女と相対することに対しての拭い去れぬ恐怖。その両方の気持ちを抱くレオナルドは微かに震えていた。
 これまで幾多の魔女を屠って来てが怖れる心は消せるものではない。それでもレオナルドは奮い立ち、今此処に立っている。
 リルリカに見守られたレオナルドは、愛用する大太刀・稻羽白兎を強く握った。
 そして彼は仲間達を真っ直ぐに見つめる。
「きっとこれが嫌悪を奪う魔女、ステュムパロスとの最初で最後の決戦になります。いえ、最期にしてみせます」
 この手で決着を付けると心に決め、レオナルドは顔をあげる。
 今まで続いていた事件の元凶である魔女を倒せば、嫌悪から生まれるドリームイーターの発生を二度と起こさせなくすることができるだろう。
「たとえそれが負の感情であっても……これ以上、誰かの心を奪わせたりはしません」
 逃げるわけには行かない。それは何度も自分に言い聞かせたことだ。
 固い決意と意志を宿した白き獅子の眼差しは、魔女を屠る未来をしかと見据えていた。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
八崎・伶(放浪酒人・e06365)
泉宮・千里(孤月・e12987)
宝来・凛(鳳蝶・e23534)
ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)
レベッカ・ウィンドワード(精霊の詠み手・e40084)

■リプレイ

●邂逅
 彼女が求めるのは嫌悪のこころ。
 嫌厭、厭悪、忌み嫌うもの。厭うという感情を求めて、第六の魔女・ステュムパロスは今回も事件を起こそうとしていた。
 だが、今日は新たな夢喰いが生み出されることはない。何故なら――。
「待て、ステュムパロス!」
 森にコロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)の声が響き渡り、魔女の動きが一瞬だけ止まった。続けて泉宮・千里(孤月・e12987)が襲われかけていた少女の間に割り込み、レベッカ・ウィンドワード(精霊の詠み手・e40084)が敵を見据える。
「人の嫌悪を弄して、随分と悪趣味な暗躍をしてくれたもんだ」
「何としてもここで止めさせて貰う。おぬしの策略もここまでじゃ」
 千里とレベッカを一瞥したステュムパロスは笑顔を浮かべてケルベロスを歓迎した。
「あはは、こんにちは。キミたちはケルベロスかな?」
 その間に結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が驚く少女の前に立ち、逃げるように声をかける。
「ここは俺達が惹きつけます。だから貴方は逃げてください」
 誰しも恐怖に身がすくむことはありますがはありますが、大丈夫。勇気を出して、と告げたレオナルドの言葉はまるで己に言い聞かせているようでもあった。
「大事な宝物落とさんよう、焦らずね」
「う、うん……!」
 宝来・凛(鳳蝶・e23534)も少女の背を押し、森の出口を指さす。凛達の指示によって少女がその場から走り去っていく様を見送り、八崎・伶(放浪酒人・e06365)は胸中でちいさな安堵を覚えた。
「さて、徹底的にやり合おうぜ」
 敵に対する感情は隠さず、伶は掌の上に乗せた迅雷を強く握る。
 此方が嫌悪を抱いていることは相手にも分かるのだろう。ステュムパロスは、いいよ、と明るく答えた。
 身構える番犬達と同時に匣竜の焔、翼猫の瑶、そしてシャーマンズゴーストのストーカーも敵を逃がさぬ布陣についた。
 ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)は遣り辛い相手だと感じたが、その思いは裡に隠して宣言する。
「同じ魔女として、誰かに殺されるくらいなら、わたしが殺す」
「ね、ステュムパロス。ダンはあなたのことキライかも」
 ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)も嫌悪を言葉にしながら敵を見つめる。
 そして――両者の視線が交錯し、魔女との決戦が始まりを迎えた。

●好意
 第六の魔女は笑顔のまま、ケルベロス達に向けて翼を広げた。
「それじゃあ遊んで貰おうか。いくよ!」
 逃げた少女にはもう興味はないのか、ステュムパロスは此方だけを見ている。その瞬間、翼から鋭い風のような魔力が舞いあがった。
 すぐさまコロッサスがノーザンライトを庇い、痛みを肩代わりする。レオナルドは気を付けてください、と仲間に告げて太刀を構えた。
「平和を生きる人々を無差別に襲い、傷付ける。俺はお前達を許しはしない」
「私はキミたちケルベロスを好ましく思ってるよ」
 厭う気持ちを声に出したレオナルドに対し、魔女は変わらぬ調子で答える。先程のダンサーの言葉も然程気に留めていない様子の敵は余裕を持っていることがわかった。
 雷刃の突きで以て攻勢に出たレオナルドに続き、伶が援護に入ってゆく。
「他人の感情を奪うなんざ、外道の極みだな」
 小型治療機を戦場に飛ばした伶は仲間の守りを固めた。主が攻撃に出られぬ代わりのようにして焔が飛び出し、竜の吐息を敵に浴びせかける。
 其処へレベッカの蹴りが炸裂し、魔女に鋭い痛みが与えられた。
「ふむ、同名の伝承とは違うか」
 伝説を調べていたレベッカは自分の読みが外れていたことを悟る。たとえ名や性質が同じだとしても対応すべきは目の前の状況だ。全力を賭して戦うしかないと気を引き締めたレベッカは次の一手を警戒する。
 そして、更に千里と凛が連撃を重ねていった。
「――年貢の納め時にしてやろう」
「瑶、支援頼むね! 蛇やろうが鳥やろうが、特別な日の邪魔者にはご退場願おか」
 千里が力を解放すれば視界が翳む。その間に相棒猫に呼び掛けた凛が轟竜の砲撃を放ち、瑶は願い通りに清浄なる翼を広げた。
 千里の剣筋が冷たい空気ごとステュムパロスを斬り裂き、砲弾が追撃となる。
 だが、くすくすと笑う敵はまだ余裕。
 今度はこっちから、と魔女が掌を翳すと魔力の奔流が前衛達を襲った。
 表情こそ変えなかったダンサーだが、僅かに眉を顰めた様子から痛みが大きかったことが分かる。ヒールするよ、と付き人に告げたダンサーは光輝く粒子をその身に纏わせながら、敵に宣言した。
「キライ、キライ。ダンはキライを知っている。あなたが持っていないもの、ね」
 敵の気を引いたダンサーの傍ではストーカーが祈りを捧げて援護にまわっている。ノーザンライトが輝きの加護を重ねて味方を強化した。
「あなた自身は別に嫌いじゃないけど、していることは大嫌いぞな。意味を知りたいなら、わたしの嫌悪を奪えばいい」
 ノーザンライトが挑発的に告げると、目を細めた魔女は番犬達を見定めるような視線を向けた。
「じゃあ、キミたちから奪ってしまおうかな」
「させるものか。己が欲望を満たす為に無辜の人々を襲うは鬼畜の所業」
 コロッサスは魔女の言葉を聞き、首を横に振る。続けて轟竜の力を解き放ったコロッサスは敵を非難した。たとえ立場の違いはあっても、理性と知恵を持つ生物であれば忌避して然るべき筈。だが、魔女達にはそれがない。
 故に屠るしか道はないのだと感じ、ケルベロス達は烈しい戦いに集中する。
「それ、毒を撃ち込んでやろう」
 伝承通りでなくとも出来ることを行うのみ。そう心に誓ったレベッカは鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムで標的を貫いた。
 伶は紙兵を散布し、頷きあった千里と凛は更なる痛みを齎すべく駆けた。
 与えられた衝撃は決して軽いものではない筈。だが、魔女は表情を変えぬまま楽しげに、謳うように言葉を紡ぐ。
「この星の人々もさ、大好きだ。特に彼らが嫌悪に顔を歪ませる瞬間、表情。そうその顔。素敵だねキミたちは。最高のおもちゃだ♪」
「何てことを……!」
 朗らかに、まるで遊びの途中かのように語る魔女に対し、レオナルドは表情を歪めた。それは自分とは相容れぬ考え。人を玩具にして愉しむなど、人生を狂わせるということなど赦せるはずがない。
 そして、レオナルドは斬空閃を放ち、其処に合わせて伶が更に深い援護を巡らせていく。光輝の加護で仲間を包み込んでいく伶は容赦なく、感じる嫌悪をそのまま相手にぶつけていった。
「その考え方は酷いな、嫌悪を通り越して虫唾が走るぜ」
 この思いを欠片でも感じ取れと言わんばかりに告げた伶は、感情と共に己の力を全力で叩き付ける。
 だが、魔女からの攻撃もかなり激しい。
 攻撃は回復と厄介な攻撃を担う後衛を中心に放たれ、その度に守り手達が庇いに回っていた。その結果、先ず仲間を守り続けながら敵を引き付けていたストーカーが倒れ、ダンサーとコロッサスの体力も一気に削られてしまった。
 伶が常に癒しにまわることで耐えていたが、このままでは危ういことは確かだ。
「魔女とは……否、この期に及んで問答もあるまい」
 コロッサスは何かを呟きかけたが、相対すれば戦の掟に従いただ討つのみだと己を律する。無理はするな、と仲間に告げたレベッカは星の魔術を解放した。緋色の短剣を投擲したレベッカの一閃は魔女に大きな衝撃を与える。
「いつぞやの借り、必ず返すぞ」
「死を撒くのなら、それなりの報復はさせて貰うぞな」
 レベッカは嘗て魔女が起こした戦いを思い、ノーザンライトはデウスエクスの理に抱く嫌悪のこころを露わにした。
 ノーザンライトが放つ漆黒の矢弾が敵に突き刺さり、おぞましい感触を与える。
 本来ならば魔毒の結晶が敵を苦しめるはずだが、魔女は痛みを感じていながらもケルベロス達に好意的な目を向けていた。
「どうしてかな、こんなことをされてもキミたちをキライになれないんだ」
 厭うということを知らぬ魔女は何処か不思議そうに首を傾げている。されどそこから放たれる魔力の奔流は鋭く、次は後衛が狙われた。
「皆さん、来ます!」
 それに逸早く気付いたレオナルドが呼びかけたが、敵の動きの方が速い。
「ダメ、間にあわないかも」
「申し訳ない、耐えてくれ」
 ダンサーとコロッサスはレベッカや凛、千里に声をかけたが既に遅し。しまった、と構えたレベッカが倒れ、同時に焔と瑶が力尽きる。
「後は……頼んだぞ。必ず仕留め、魔女に永遠の眠りを――」
 レベッカは仲間に信頼を寄せ、膝をついた。凛と伶は強く頷き、これまでしかと皆を支えた瑶や焔に感謝の念を送る。そして、凛達は敵を強く見据えた。
 仲間が倒れ、残る者も疲弊している。
 しかし、負けるわけにはいかない。
 例え嫌悪の念でも、其も個人を形成す一つ。他人から奪って、尚且つ好き勝手していいものではない。
「もう何一つ、奪わせへんよ。片を付けてしまおか」
「そうさな、大掃除には丁度良い」
 凛の決意の籠った言葉を聞き、千里も同意を示す。
 長らく続いた悪夢の根源は、綺麗さっぱり掃うに限る。そう語るような瞳が差し向けられた刹那、気咬が放たれる音と魔力を籠めた咆哮が戦場に響き渡った。

●嫌悪
「キミたち、なかなかやるねぇ」
 幾度も激しい攻防が巡った後、はじめて魔女が苦しげな表情を見せる。
 此方も疲弊しているが相手も同じなのだと悟ったレオナルドは刃を構えなおし、強く言い放った。
「俺達は、お前を撃ち倒す為にここに来た。だから……!」
 負けはしない、と告げた彼にその通りだと頷いたダンサーは癒しの力を紡ぐ。
「哀しいことはキライ。苦しいこともキライ。でも、」
 ――キライがあるから人は不幸を忌避する。
 そしてダンサーが力を解放すれば、天秤が高く火をともし、罪人すらをも照らす。すべての子羊へ与えんとして廻る力は強い。
 されど敵もモザイクの翼を広げて更なる反撃に出た。伶が狙われていると気付いたコロッサスは痛みに耐えながら魔女の前に躍り出る。
 如何なる難敵であろうとも、齎される悪しき終焉は我らが武と意地を以て打ち砕く、
「たとえ倒れたとしても、それがケルベロスとしての……」
 矜持であり、使命。
 強い思いを抱いたコロッサスは闇を纏う雷の神剣を手にし、決死の勢いで刃を抜き放つ。黄昏の一閃が齎されると同時に翼の刃が彼を貫いた。
 力尽きて戦う力を奪われたコロッサスだが、微塵も後悔などしていない。彼の勇姿を見守ったノーザンライトは必ず戦いを終わらせると決め、指先を宙に翳す。
(「戦うしかできない己の無力も嫌い。それでも……」)
 思いを裡に秘めたノーザンライトは氷結の槍騎兵を呼び出し、突撃させた。
「う、あ……おかしいな、すごく痛い……?」
 魔女は傾ぎ、痛みと苦しさに混乱している。千里は今が好機だと悟り、間もなく幕引きの刻が訪れると確信した。
「さて、霧散ならぬ夢散の刻だ」
「悪夢の化身には此処でお別れを」
 千里が何も言わずとも、凛は追従する形で攻勢に入った。
 モザイクではなく、この星にかかる暗雲の一つこそを晴らす。その思いを抱いた二人が放つのは烟霞と業華。
 研ぎ澄まされた剣と炎を思わせる紅い胡蝶が舞い、燃え盛る業火の花が咲く。灰すら残さず灼き尽くすが如く躍る地獄。そして、振るわれる刃。
 二人の連撃に眩んだステュムパロスは逃げ出すことも出来ない。もし逃走を計ろうとしても回り込んだダンサーがきっとそうはさせない。
 伶も終わりの時を感じ取り、レオナルドに視線を向ける。
 自分が出来るのは疲弊した彼に癒しの力を施すこと。最後まで援護を務めようと決めた伶は天津風を生み出した。
「これで最期にしてやってくれ」
 吹き抜ける弾幕が仲間を包み込み、沸き立つ風雲に惑いし乙女が淡い癒しの力を施す。その援護受けたレオナルドは強い決意を心に宿した。
 懸命に戦って力尽きたサーヴァント達、自分達に信頼を託したレベッカ、皆を守ることで己の在り方を示したコロッサス。そして、これまで共に激戦を耐えた仲間達。
 皆の思いを背負い、レオナルドは畏怖の白炎を纏う。
「この炎がお前を逃がさない!」
 ――我が心より生まれし畏れの炎、この一刀に纏て悪を断つ。
 此処で終わらせると誓った思いは焦熱となり、確かな決意は獣王無刃の剣閃となって斬り放たれた。
 そして、光を反射した刃が煌めいた刹那。
 第六の魔女ステュムパロスは膝をつき、その場に崩れ落ちた。

●魔女の最期
 暫しの沈黙が辺りに満ちる。
 千里は警戒を緩めず、深い傷を負ったコロッサスも痛みを押さえながら敵の動きを注視する。だが、第六の魔女の運命は最早燃え尽きたも同然。
 傷付いたレベッカを支えているダンサーは相手が何かを言い掛けていることに気付き、軽く首を傾げる。
「ステュムパロス、何か言いたいのかも」
 すると地面に伏したステュムパロスはちいさな笑みを浮かべた。
「良いな、キミたち……誰かをキライになれる、こころがあって……」
 感情を欠損している彼女は、自分を討ち倒した番犬に対しても最後まで厭う心を持てなかったのだろう。
 レオナルドが複雑な心境で敵を見据える中、魔女は呟く。
「人を、モノを、何かを『嫌悪』するって気持ち、最期まで……解らなかった、な……」
 そして、第六の魔女は消え去った。
 後に残ったのは汚れた翼の一片だけ。
 ノーザンライトは存在が薄れゆく羽を拾い上げ、汚れたそれをハンカチで拭う。
「女の子は、こういう汚れ嫌う……あなたの替わりに嫌悪しておくぞな」
 あなたが定命なら、友人になれたのに。
 その言葉は紡がれることなく、そっとノーザンライトの胸の裡に仕舞われた。
 ヒトに当たり前にある感情が欠けているということは、どのようなものなのだろう。敵とはいえど何処か哀れさを感じ、伶は頭を振る。
 やがて、森には元あった穏やかな静けさが戻ってきた。
「……おやすみ」
 凛は完全に消失した魔女へと別れの言葉をおくり、瞼を閉じる。
 こうして、ひとつの事件の幕は降ろされた。
 されどケルベロス達は此処から連なる戦いの予感を覚えていた。
 恐怖、信頼、驚き、恍惚、興味、嫌悪、迷い、怒り、悲しみ、後悔、服従、そして――。互いの欠落を繋げる十二の魔女達との戦いは未だ暫し、終わらない。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月18日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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