●キョンシーたちをおびき出せ
ケルベロスハロウィンで行われた壺中天占いの結果が出たと、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「毒舌に負けずに挑んでくださった皆さんに感謝いたします」
静かに告げると、芹架は説明を始めた。
「皆さんの努力のかいあって、螺旋大伽藍に分身を送り込んでいたカンギ戦士団の『燕迷公主』の居場所が判明しました」
その居場所は大伽藍の中ではない。奈良県北葛城郡広陵町に存在する『巣山古墳』にいるのだという。
奈良県には多数の古墳が存在しているが、そのうち1つがいつの間にかデウスエクスに占拠されていたようだ。
「燕迷公主を撃破できれば、螺旋大伽藍を利用したカンギ戦士団の目論見は完全に阻止できます。ただ、発見されたことを知れば敵もすぐに逃亡してしまうでしょう」
そのため、少人数での奇襲を行うことになる。
分身を発生させる儀式を中断し、逃亡を完了するまで15分ほどかかることが予測される。素早く作戦を行えば、撃破できるチャンスはあるはずだ。
「さて、古墳の状況について説明いたします」
燕迷公主が潜む巣山古墳の入り口は、屍隷兵の『キョンシー』が守りを固めている。
キョンシーたちは戦闘能力はさほど高くはないものの耐久力が高く、突破されそうになると増援も行われるため、まともに戦えば長期戦になってしまうだろう。
また、キョンシーの守りを突破しても、公主がいる古墳中心への扉はさらに、武闘家の屍隷兵『黄・爆龍』によって守られている。
爆龍は屍隷兵でありながらも高い戦闘能力を持っており、足止めされてしまえば公主を撃破する時間が無くなってしまう。
「公主は古墳への襲撃が行われた時点で撤退を開始するでしょう。先ほども説明した通り15分で彼女は撤退します」
その15分が経過するまでに、キョンシーと爆龍を突破して公主を撃破しなければならない。撃破できなければ、公主はまた別に拠点を作って大伽藍へ侵攻を行うだろう。
「具体的な作戦ですが、3班が協力して攻略を行うことになります」
1チームがまず正面から古墳へ襲撃して護衛のキョンシーたちを引き付ける。
キョンシーたちとの戦闘が行われている間に、残り2チームが内部へ潜入するのだ。
潜入チームのうち一方は爆龍と交戦して彼を足止めし、最後のチームが公主の撃破を目指すという手はずになる。
「皆さんのチームは、正面から攻撃をしかけてキョンシーを引き付けていただきます」
最初は4体が入り口を守っているが、襲撃を行えばさらに何度か増援が行われる……というよりは、増援を引き出すのもこのチームの役目と言ってもいいだろう。
目的はあくまで残り2チームが潜入するための囮になること。単純に各個撃破を目指すだけではなく、敵全体をうまく自分たちに注目させることが重要となる。
敵をひきつけて時間を稼いぐことさえできれば、なんなら撤退してしまってもいい。
「もちろん敵を倒してはいけないわけではありません。可能なら、別に全滅させてしまっても構わないでしょう」
しかし、キョンシーを撃破すること自体は目的ではないと芹架は言った。
キョンシーの戦闘能力について、芹架は説明を始めた。
「まず、繰り返しの説明になりますが、戦闘能力は高くありませんが耐久力は高いです。そして当初は4体ですが、増援が何度か行われます」
簡単には撃破できないということだ。また、1体1体の戦闘能力は高くないとはいえ、増援が来て数が集まれば油断できない攻撃力となるだろう。
「攻撃手段ですが、まず噛みついて血を吸うことによる攻撃を行います。これには皆さんの体力を吸い取って回復する効果があります」
同じく近接攻撃として、天高く跳躍し、空中を自在に動き回りながら格闘攻撃をしかけてくる。その動きは素早く、追撃を受けて大きなダメージをくらうこともある。
また金色の瞳は見た者に呪いをかける邪眼となっており、ダメージを受けるとともに動きを鈍らされ、足を止められてしまうようだ。
「しっかりした連携を取っては来ないようですが、弱った方に止めを刺しに来たり、攻撃を当てやすい相手を狙う程度の判断はできるでしょうから油断はしないでください」
どのような戦術をとってくるかは事前にわかることではないが、護衛という役割から守りを固めたり、命中や回避に有利なように動く者がそれなりの割合を占めると予測される。
巣山古墳は四角と円がつながった前方後円墳で、周囲は堀に囲まれている。四角い部部分の西側が陸橋になっていて外とつながっているので、そのあたりで戦うことになるだろう。
「囮役というと地味な役回りに聞こえるかもしれませんが、皆さんがいなければまず燕迷公主に挑むことすら容易ではありません」
説明を終えた芹架が最後に付け加えた。
「螺旋大伽藍を攻略している皆さんが作戦を阻止し続けてはいますが、根本的な解決を行う必要があります。その第1歩が皆さんの役目です」
よろしくお願いしますと、ヘリオライダーは頭を下げた。
参加者 | |
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ディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046) |
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184) |
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955) |
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584) |
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659) |
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230) |
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366) |
八月一日・ノクト(キーテジの守り人・e34795) |
●古き墓に巣食う者
奈良県の一角に存在する遺跡の近くに、ケルベロスたちが集まっていた。
この場にいるのは8人とそのサーヴァントだけだが、残る2つのチームもすでにどこかにいるはずだ。
敵からはまだ見つからない距離。それでも古墳の様相は見て取れる。
「ここが巣山古墳でござるか」
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)が呟いた。
普段の彼ならば古墳に視線を送る細い目が見えたろうが、今日見えるのは黒いヘルメットのアイガードが赤く輝いている様だ。
「燕迷公主の居場所も割れましたわね……奴を討つ為にも、必ず突破口を開かねば……」
兎耳のデバイスを身に着けた、メイドのミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)が、幼い顔に真剣な表情を浮かべている。
入り口付近にはキョンシーたちがいるはずだ。彼女たちに近づけば作戦が始まる。
「……。まさかの初依頼が囮作戦か。この中で一番弱いし」
八月一日・ノクト(キーテジの守り人・e34795)がサングラス越しに遺跡を見やりながら武器を構える。
「囮役だって、そう悪くはないだろ。『ここは俺が引き付ける! 後は任せたぜ!』……こういう役回りが夢だったんだよねー」
ディルティーノ・ラヴィヴィス(ブリキの王冠・e00046)が楽しげな表情で大小の刃物を抜きつつ、ノクトに告げた。
「囮役とは地味かもしれない、けれど死体でしょう? 私は喜んで引き受けるわ」
セレスティン・ウィンディア(墓場のヘカテ・e00184)が微笑む。
「しいて言うなら、スケルトンじゃないのが残念。私、骨が好きなの。身がついている死体ってちょっとねぇ……」
とはいえ、黒衣の麗人が語る理由は、彼女以外にはあまり共感できない理由だったかもしれない……。
仕掛ける前に他のチームと通信機で連絡を取ろうとしていた者が何人かいたが、どうやらうまくはいかないようだった。
おおよそ通信機の類がチームを超えた連携に役立ったことはほとんどないが、今回もまた例に漏れない結果だ。
「通じないみたいだから、派手な音を立てて戦闘の合図にするしかなさそうね」
そのうちの1人である湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)が音をまだ出さないようにしつつバイオレンスギターの調子を確かめる。
戦闘が起これば近くにいるはずの他チームは当然気づくだろう。大きな音を経てるようにすれば、なお確実だ。
「最初の4分が正念場だもんね☆ 潜入チームのお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが気づかれないように、ボクもがんばるよ!」
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)が、ボクスドラゴンのタマを頭に乗せたまま言った。
「それでは皆様、燕迷公主討伐のため、私どもも微力を尽くすことにいたしましょう」
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)が、エスコートするかのように遺跡を指し示し、仲間たちへと慇懃に頭を下げる。
一呼吸のうちに、ケルベロスたちは遺跡へとつながる陸橋部分へと飛び混んでいた。
燕迷公主を討つための15分が、始まった。
●増えていくキョンシーの群れ
チベットスナギツネのウェアライダーが、静かにキョンシーたちの前へ進み出た。
「紳士淑女の皆さま!!! お初にお目にかかります、我々はケルベロスにございます。皆さまへ安らかなるお時間をお届けすべく、参上つかまつりました」
聞く耳を持たない死体に対しても、紳士たるイグノートは礼儀正しく頭を下げる。
バイオレンスギターを爪弾く美緒が彼の後ろから飛び出してきて、『殲剣の理』を音高く響かせ始めた。
歌声の中、イグノートが音高く咆哮を放つ。
「我が名はセレスティン。死者に沈黙をもたらす為に、参上よ!」
セレスティンがスイッチを押すと、怨念の詰まったかのごとき色をした爆発が仲間たちの背後で上がった。
「此度の役目は陽動。ならば、派手にやらせてもらうとするでござる」
飛び回るドローンは日仙丸が生成したものだ。
だが敵も黙っていない。前衛に出てきた2体が、守りを固めつつも美緒とミルフィの首筋へ食らいついて血を吸い上げる。
ディルティーノは巨大スピーカーをその場に召喚した。
「さて、短いショーだし思う存分目立っちゃおうか! 歌のお手本、見せてやるよ。しっかり耳塞ぎな!」
大声で叫んだその声は、歌などではなかった。
仲間の歌声をかき消すほどに放たれた騒音がハウリングを起こして、さらに耳障りな音を戦場へ響かせる。
動きを止めた隙をつき、1体にノクトもサングラス越しに力ある視線を送っていた。
噛みつく敵を振りほどいたミルフィが兵装を展開、騒音の中を切り裂き砲撃が飛んだ。
「燕迷公主! わたくし達ケルベロスが来たからには、貴女も風前の灯ですわ! そんな辛気臭い所に隠れても無駄ですわよ……!」
遺跡内にいる敵へ届けとばかりに、彼女も叫んで見せた。
後衛にいる敵の瞳が金色に輝く。
視線の先にいるのが誰か確認する間もなく、ディルティーノはその前に割り込む。
衝撃を受けて足を止めた彼女の横から、ボクスドラゴンを肩車した菜恵が抜けていった。
「行くよ、タマ! 融合だぁ~!!」
如意棒を振り回しながら突撃していく彼女の上では、ボクスドラゴンが敵を挑発しているようだった。
反撃と放たれた空中蹴りが少女の体をとらえるが、タマが彼女を回復していた。
今のところ、敵は皆、この場にいる者たちに注意を集中している。
「早いところ増援も来てくれよ。お客さんが増えるのは歓迎だね」
ディルティーノは敵に聞こえぬように呟く。そして、今度はノイズではない歌声を、響かせ始めた。
ケルベロスたちは敵を囲むことを意識しながら移動していた。
包囲することで、敵に劣勢だと感じさせるためだ。
もっとも、それで援軍を見逃しては意味がない。
日仙丸は後方に位置取り、遺跡側もなるべく視界に入れるようにしていた。
そうしながらも、敵のすぐ近くで戦っている者たちへとオウガメタル粒子を届ける。
「なかなかせわしない戦いでござるな。とはいえ、クリスマス時期の配達員さんほどではないでござろう」
自らを鼓舞しながら、仲間たちの負傷を確かめる。
その視界の隅に、遺跡からさらに4体のキョンシーたちが歩いてくる姿が見えた。
「増援が現れたでござる。皆、油断めさるな!」
仲間たちに呼びかけると、日仙丸は敵をいかにして包囲に取り込むか思案を巡らせた。
8体に増えた敵。しかし、8体のままである時間はそれほど長くはなかった。
セレスティンはピンヒールをはいた足で、もっとも傷ついた敵に向かって踏み込んだ。
「よく聞きなさい、これが私の唄よ」
手に持った対物ライフルを突き出した。大型だが、伏射せずとも撃てるように唐草模様の魔力補強が施されている。
自身の内側にある闇の力を弾丸に変えて、ライフルに装填。
引き金を引くと同時に、銃弾と発射時の爆音が敵へと襲いかかった。
衝撃で吹き飛ぶキョンシーの胸に穴が開く。敵はゆっくりと後方へと倒れていった。
「私に歯向かうならば、せめて骨になって出直しなさい」
朽ち行くものを愛する女が告げる。
セットしていたアラームが鳴ったのは、ほどなくしてのこと。
(「これで4分……潜入チームの皆さんが、動き出しているはずだわ」)
言葉には出さずに考える。
「それにしても、ようやく1体……耐久力は、確かに大したものね」
呟きながら、セレスティンは次に狙うべき相手を探して敵に目を向けた。
さらなる増援4体が姿を見せたのは、それから数分が経過した後のことだった。
その時には元からいた敵の数が6体に減っていた。
イグノートが狙いすまして放ったドラゴニックハンマーの砲撃が、キョンシーを焼き払っていたのだ。
ノクトは鋭い目を増援の敵へと向ける。
増えた4体のうち1体は軽やかに跳躍して彼のほうへ向かってきた。素早く割り込んだ美緒が代わりに蹴りを受け止める。
別な1体が金色に輝く瞳をノクトへと向けてきた。
呪いが物理的な衝撃となって青年を襲う。とっさにガントレットで身をかばうが、果たして効果があるのかどうか。
彼はサングラスの下にある青い瞳で、邪眼を向けてきた敵を見る。
「……俺の目を見ろ……!」
瞳に魔力を宿しているのはキョンシーたちだけではない。
ノクトは目に淫蕩の降魔の力が宿すことができるのだ。平凡でありたい彼が持つ、非凡な力の一部がそれだった。
同士討ちを引き起こす魅了の瞳に凝視されて、敵が戸惑ったように一度動きを止めた。
●仲間を信じて
10体となった敵と8人のケルベロスは陸橋の上で入り乱れて戦っていた。
敵の攻撃はけして強力ではなかったが、しかしその手数は今やケルベロスたちよりも上回っている。
敵を挑発し、攻撃を引き受けているディルティーノと菜恵、そして美緒が受けているダメージはかなりのものだ。
もっとも、その攻撃を受け続けているという事実が、すでに彼らが役目を果たしていることを意味していた。キョンシーたちをここに釘付けにするのが目的なのだから。
回復役である日仙丸が支援を続けているが、回復できないダメージは確実に蓄積していっているのだった。
菜恵は中衛にいる敵からの連続攻撃を受けた。
邪眼の呪いに足を止められ、そして宙を舞うように繰り出される拳や蹴りが幼い少女へと容赦なく叩きつけられる。鎧(?)に身を包んでいても、衝撃は体力を削る。
さらにもう1体、前衛の敵が菜恵の目の前で跳躍した。
強力な攻撃を放つ、打撃役の敵だ。
「まだまだ、ボクは倒れるわけにはいかないんだよ!」
竜の意匠が施された盾を敵と向ける。受け止めた敵の力を少女はうまくそらした。
「さよう。まだ倒れられては困るでござる。螺旋の加護をここに!」
日仙丸の掌が菜恵に触れた。体に染み込んでいく螺旋の力が傷を癒す。
タマも属性をインストールし、回復してくれていた。
ノクトの魔眼を受けていた敵が味方に噛みつく。仲間からダメージを受けた敵を、降魔の力を宿した青年の拳が打ち砕いた。敵の防衛役はこれでいなくなった。
仲間へと攻撃してしまったその敵を、ミルフィの持つ桃色の如意棒がしたたかに突く。
美緒はドラゴニックハンマーを砲撃形態に変えた。
「倒せるうちに、倒しちゃうよ!」
叩き込んだ竜砲弾がキョンシーを粉砕する。目的は足止めだが、足止めであることを悟らせてはいけない。
これで残る敵の数は8体だ。さらに増援が来ることを警戒していたが、2度目の増援以降は今のところ敵が出てくる気配はない。
だがケルベロス側も、美緒を含む防衛役の3人はすでに限界が近い。
その中では自分が一番体力が残っている……そう判断し、菜恵を狙う拳の一撃を美緒は代わりに受けた。
「ありがとう、お姉ちゃ――危ない!」
かばわれた彼女からの警告に反応して、少女は身をよじる。
しかし、後衛から接近してきた敵の蹴りは美緒の頭をとらえていた。脳が揺れて、陸橋の地面が近づいてくる。
「ごめんね……」
倒れる寸前、美緒は仲間たちへと呟いていた。
セレスティンのブラックスライムが槍となってさらに1体を貫いたが、ほとんど同時に今度は菜恵が倒されていた。
イグノートは後衛で敵を狙っていたが、一気に敵の近くへ踏み込む。
攻撃のためではなく、前衛に出るためだ。動きを切り替えようと考えると攻撃や支援の機を失うが、仕方がない。
「今は戦線を維持するのが重要でございますからね」
あくまでも紳士的に――背筋を伸ばした姿勢のまま動いた彼は、ディルティーノへ突き刺さろうとしていた牙をその身で受け止める。
だが、イグノートが加わって攻撃をしのげたのも数分のことだった。
もっとも、その数分の間に、ミルフィの攻撃がさらに1体を倒していたが。
ディルティーノの歌に引き寄せられるかのごとく近づいた敵たちが相次いで噛みつき、血の気を失った顔で彼女が倒れる。
「これで3人でござるか……」
「今、何分経過したのでしょうか?」
日仙丸の言葉を受けて、ミルフィが問いかける。
「10分は過ぎているはずだけど、アラームが鳴ってないから15分はたってないわ。おそらく、12、3分ね」
だとすれば、残り時間はわずか数分。とはいえ、敵もまだ半分が残っていた。
しかも6体のうち4体は、中距離から戦いを続けている。
支援や弱体化させる技の影響を差し引いても、彼女らからの攻撃はいくらか当たりやすく、そして彼女らへの攻撃はいくらか当たりにくい。
ケルベロスたちが後回しにしていたことに加え、その『いくらか』がクリーンヒットを防いでいたことで、高い体力はあまり削れていないはずだ。
そして、1発1発は重くないまでも、その攻撃は少しずつケルベロスの体力を削っていくだろう。
数分、戦い続ければ……あと1人か、運が悪ければ2人は倒される。
「……いざとなれば、暴走してでもやってやるさ」
「ええ。最後の最後まで戦う覚悟ですわ」
ノクトやミルフィが言った。
「気持ちは私も……いえ、皆様同じでございましょう。しかし、そこまでする必要はありますまい。今、我々が離脱しても燕迷公主への救援はまず間に合いません」
邪眼から身を守りながらイグノートが言う。
「遺跡の規模を考えれば、中枢まで移動するだけで数分はかかりそうでござるな」
「ですが、万全を期したいですわ。後少しだけ、ねばることにいたしましょう」
ミルフィは【時計仕掛けの兵装】を敵に向けた。
異を唱える者はいない。皆、できるならば15分間戦いたいと考えていたのだから。
敵の攻撃を受け止めるイグノートを日仙丸の螺旋と、彼自身が召喚した貂から受け取った飴で回復している。タマはミルフィに属性をインストールしていた。
「私の得物は逃がしはしないわ」
セレスティンの槍が深々と敵を貫いた。連携したノクトが魔眼で凝視する。
「貴方を討つには……この腕一本で、事足りますわ……!」
機動鎧【ナイトオブホワイト】の腕を構成し、ミルフィが腕に装着する。
小さな体で腕を思い切り突き出すと、年齢に似合わない大きな胸が上下に揺れて、構成した腕がロケットのごとく敵へと飛んでいく。
拳が敵を遺跡に縫い留め、粉砕していた。
敵の反撃の大方をイグノートが受け止めた後、倒れている仲間たちを支えてケルベロスたちは撤退する。
「もうキョンシーが増援に向かう時間はございません。後は……」
「……任せるしかない、か」
「死への片道切符のお届けが間に合っているかどうかでござるな」
「潜入チームを信じるしかない、というわけね」
「信じましょう。きっと燕迷公主を討って下さっていますわ」
言葉を交わす彼らの耳に、15分が経過したことを告げる音が響く。
朗報を携えた仲間が現れることを、彼らは願った。
作者:青葉桂都 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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