紅葉茶会~浅櫻月子の誕生日~

作者:ふじもりみきや

 山の上には魔女が住んでいると言われていた。
 長い坂を登った先にある古めかしい洋館は、大正時代だか明治時代だかに作られた、前の住人曰く渾身の作品だそうで。当時はありとあらゆる珍品を集め贅を尽くした仕様であったという。
 深い山を抜けた先に立つ古めかしい洋館。めったにご近所さま(といっても深い深い山でご近所様と洋館は隔たれているのだが)には顔を出さない唯一の住人、浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)。外界から切り離され忘れ去られたようなその場所は、子供たちが魔女の住処と噂するには充分であっただろう。
 そんなある種ロマンあふれる洋館は、しかし……。

「おはようございます! 今日もお届けに上がりました!」
「またか? いったい全体世間はわたしのことを何だと思ってるんだ!」
 古今東西ありとあらゆる酒が集まるとんでもない空間になっていた!
 宅配業者の伝票にサインをしながら、月子は内心頭を抱える。もはやクラシックで素敵な玄関は酒瓶と酒瓶の入った段ボールで散乱していた。
 別段洋館の由緒とか美しさとかそういうのには全く興味の無い月子だが、ここまでくると一年で消費しきれるかどうかはわからない。来年になったらどうせまた増えるだろうから、それはよろしくない。
「あ、今日はミカンと柿もありますよ」
「……柿は足が速いな」
 げんなりしながら月子は答える。ともかく荷物は玄関に放置して、業者さんにはお引き取り願う。腰に左手を、額に右手を当てて軽くめまいを抑えた。
 簡単なことだ。知り合いに贈り物の好きな金持ちが何人かいる。その人たちがどうやら月子の誕生日と、「酒が好きらしい」ということを聞きつけたのだ。
 正確にいうと月子は酒が好きなのではなく、「酒の席で人と笑いあったり酔っ払いをからかうのが好き」なので、別段酒豪というわけではない。ていうかこんなに飲めないし。
 ……さて、どうしてくれようか。酒瓶をにらみつけること数秒。ふと思いいたって月子は顔を上げる。
 靴を履いて外に出る。庭には様々な木が植えられているが、今の時期はドウダンツツジが真っ赤に染まり最高に美しい。
「……うん、これなら、行けるだろう」
 真っ赤に染まる木々を見上げて、月子は一つ、頷くのであった。


「酒が山ほどあるんだが、呑みに来ないか?」
 開口一番、月子は言った。
「お酒……ですか?」
 萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)が首を傾げる。そんな彼に、月子はひら、と手を振った。
「子供には柿と蜜柑もある。……いや、なに。誕生日に大量にもらったのでな。消費しきれないので手伝ってほしい、ということだ」
 苦笑気味に言った月子に、なるほど、と雪継も小さくうなずいた。
「でしたら、お茶会ですね」
「そうだな。お誕生会なんて歳でももうないし、それぞれ楽しんでいってくれればそれだけで十分だ」
 できれば柿は早めに召し上がってくれるとうれしい。なんて月子は付け足す。
「場所はうちのテラス。少し寒いが、庭に出てくれてもいい。この時期はドウダンツツジがきれいだ。酒と柿と蜜柑はあるが、それ以外のものを持ち込んでくれても構わない。キッチンも好きに使ってくれ」
 ちなみにキッチンまわりは最先端だぞ。わたしは使ってないけれどな。なんて笑顔で言う月子に、雪継も軽く頭を掻いた。
「わかりました。では、気楽に行きます」
「ああ。何なら手ぶらでどうぞ」
 蜜柑と柿の未来のためにも、よろしく頼むよ。と、そういって月子は話を締めくくった。


■リプレイ

 空は快晴。天には満天星(どうだんつつじ)。
 絶好の酒飲み日和はこんな、
「これは……飲むしかないでしょ! むしろ、飲まないとお酒に失礼だわ!!」
 むしろ清々しくて気持ちいい、シュメルツェンの言葉で幕を開けた。
「さーて、こんなに色んな種類のお酒があるとどのお酒から飲むか悩むわね」
「月子。こちらは手土産だ」
「おや、丁寧にありがとう」
 ヴォルフのお菓子を月子は受け取る。しかし果実酒のレシピは、ぜひ一緒に作ろうなんて料理下手を白状したりしていると、
「ほらほら二人とも早く! お酒冷めちゃうわ♪ 楽しめる限り飲みましょう♪」
「シュメルツェン、その酒は冷めないぞ」
 とはいえヴォルフも酒豪である。一つうなずくとシュメルツェンにこたえるように庭へと向かった……。
「わ、もうお客さん。もなちゃ~ん、大きいお皿こっちにもっ。盛り付けお願いしちゃうのよぅ!」
「はぁい。盛り付けなら任せといて。これで大丈夫そう?」
 厨房では如月と萌花が奮闘中だ。未成年だがおつまみなら一緒に楽しめるであろうという気持ちのである。
「はい、あーん……どうかしら、もなちゃん?」
 合間にから揚げをひとつまみ。
「ん、超おいしい。如月ちゃんお嫁に欲しいなー」
「お嫁さ……ま、まだ早いしっ、からかっちゃめ~っ」
 思わず赤くなる如月に萌花は別にからかってはないのに。なんて返す。もうっ、と如月は言いながらも再びフライパンに目を落とすので、萌花は笑いながら盛り付けを再開した。
「……リンゴジャムのお礼を言おうと思ったら、なんだか微笑ましいな」
 厨房を覗いた月子がとりあえず水を取って引き返そうとした時、
「朔望さん、見てください! 紅茶の種類がこんなに沢山、うわあ、どうしよう、どれも飲んでみたい」
「わわ、紅茶もすごいのですね。僕も紅茶は飲めますし好きです」
 千笑と月が紅茶棚を覗いている。
「あ、これチョコレートの匂いがするみたいです。大人な香りですね!」
「ホントですね、チョコレートです。シャンパンの名前がついてますね。これも一緒に飲んでみませんか?」
 二人とも酒より紅茶が気になるらしい。
「アイスも貰ってきちゃいました。一緒に食べましょ」
 それからパタパタテラスへと移動する。
「では……まずはアイスで乾杯です?」
「はい、かんぱーい!」
「……何だあれはかわいいな」
 一連を見守っていた月子は思わず感想を漏らした。

 【飲んべえ同盟】なんて銘打たれた賑やかな一同は、
「誕生日おめでとう月子さん」
「誕生日おめでとさん、月子」
「……ん、ありがとう。改めて祝われるとなんだか照れるな」
 穣と巌の言葉で幕を開けた。若干月子が言葉通り照れていてるのか、妙に居心地悪そうな顔をしている。
「はは。この年になると、誕生日なんか宴会の建前にしかならんよなぁ。……初めまして月子。誕生日おめでとう。ただ酒をいただきに来た。よろしくな」
「あぁ。実は祝われても結構気恥しい。とにかく、今日はよろしく頼む」
 アルトゥーロが面白そうに笑う。手にはしっかりとワインを握っていた。月子にはよくわからないので、興味深そうに説明を聞いている。
「お勧めのワインをいただきましょう。正直なところワインには全く明るくないのですが……」
 アルトゥーロが解説するワインを祥空が示す。
「うん、そうだよなぁ。タダ酒、イイ言葉だよなァ。美味い酒が飲めりゃなんでもいいよなァ」
 万も飲みつつ。その隣で美空もほぅと一口飲んで息をつく。
「うん、おいしいっ。花見酒っていうのかなー、こういうの。ツツジもとっても綺麗!」
 あ、悪酔いしないようにね、なんて言っておくのも忘れない。
「なに二日酔いに効く漢方薬は万全だ、心置きなく呑んでやれ諸君」
 陽治が冗談か本気かわからぬ陽気さで言う。任せろ、なんてこれまた冗談か本気かわからぬ返答が来た。
 宴会は賑やかなものとなる。酒は進んでいるようで、月子の隣に腰を下ろした玉緒はふふ、とどこか慣れた笑みを浮かべる。
「みんなペースが速いわね。一緒にからかってやりましょうか。わたしも好きよ、こういうの」
「おう、いつでもこーい」
 それに気が付いて万が笑った。そんな人込みをかき分けて、穣は雪継を探す。ぼんやり気を見上げているのに気が付いて、
「雪さんお久し振り元気ですか」
「はい、おかげさまで。お二人もお元気ですか?」
 ケーキがありますよ。とか。
「もちろん。この木、好きですか? 秋の赤は紅葉より赤いね」
「炎みたいで少し苦手です。お二人は?」
「僕と巌は……おや?」
「うえーい♪ ハッハー♪」
 穣の視線に気づいたのか、巌はきりっとした顔をして、
「楽しんでるかな、月子、ユキ。ん、酔い覚まし代わりに俺も蜜柑頂いても良いかい?」
 急に元に戻ったので、穣と雪継は顔を見合わせて噴き出した。
「二日酔い? 上等だ! ドクターがついてりゃ安心って奴だろ!」
 万がどん、と胸を叩く。
「よし、いい呑みっぷりだ気に入った。うちの蔵のものを全部持って行っていいぞ」
 月子がよほど気に入ったのか、うれしげにお酌をしていた。
「ああ、ワインさえあれば、世界は愛で満ちあふれる」
「……君はまたすごいな。愛が世界を救うとでも言いたげだ」
「勿論救うとも。今度はそっちをもらおうか。やはり大勢で飲む酒は旨い!」
 アルトゥーロはもはや酔っているのか素面なのかわからない。
「まったく、皆さんは。……っと、お皿が。月子さん、キッチンはどちらでしたでしょう」
 ふらっと立ち上がる祥空。前後不覚というわけではないが……。
「……大丈夫か。案内しよう。綺麗なお兄さんに何かあってはよくない」
「あ、では、ご一緒します! 紅茶をよければ紅茶を見てもいいでしょうか?」
「おや、もちろん。好きなだけ見るだけではなく呑んでいってほしい」
 祥空の言葉に美空も空の皿を持って立ち上がる。月子は笑った。
「あら、じゃあこちらは任せておいて」
 自分はドンピン飲みながら、うまいこと他人にも飲ませていた玉緒が軽く手を挙げた。いかにもあしらいが巧そうである。その彼女の隣で陽治が頭を抱えていた。
「つまみが完成したはしから消えて行くってどういうことだよ……。二日酔いは治せてもこればっかりは治せねえな……」
 人は、それを食欲という。

「凄い賑やか! あはは、みんなお酒好きだねぇ! あ、これにぃやが好きなお酒だよ!」
「飲んでみろ。はっはっは、俺の妹がこれぐらい飲めないはずはない」
「……待って、ボクでもさすがに酔、…人の話聞いてるぅ!?」
「聞いている。ストレートで飲むのが一等美味だ」
 アリアとバルドヴィーノは(度数的に)ハイレベルな会話をしつつ散策する。
「あ、お誕生日おめでとう、月子さん! お祝いさせてくれてありがとう!」
「おや、ありがとう、かわいいお嬢さん」
 若干ふわふわしながら手を振るアリアがなんだか可愛くて月子も返す。
「はっはっは。走るな、アリア。ぶつかるぞ」
 可愛いと言われてなぜかバルドヴィーノが嬉しげだ。
「お、蠍さんだぁー。お勧めワイン、ボクにも分けておくれ!」
「うん? お前の知り合いか。ならば挨拶せねば……」
 まだまだ酒盛りは続きそうだ。

 一方テラスではすでに酒盛りもいい具合になってきている。
 なんて【Figment】の面々は、最初は和やかに会話をしていた一同であったが……、
「何だろう、春のように暖かくなってきた」
 最初に怪しくなってきたのはアラドファルだった。普通に飲めると主張する彼だったが……、
「迦陵には紅茶……あれ、君いつの間に分身出来るようになったのだ」
 その言葉にさすがに現が心配になった。
「み、水だ、迦陵。水を持ってきてくれるか?」
「あら、忍者になった覚えは無いのだけれど……って、水、お水ね。 アラドファルさん、自分で飲める?」
 迦陵が腰を浮かせる。ハティが瞬きを一つ、して。
「……これは、私が預かっておきますね?」
 なんてアラドファルの杯を受け取った。
「飲みすぎてはいけませんよ~。わたしじゃ抱えきれませんからね!」
 さっきまでお酌をしていた花色も心配そうだ。や、セタラさんくらいなら……なんて悩んだりもする。
「これもきっと素敵な想い出ね」
 ひとしきり騒いだ後で、迦陵が腰を下ろすと現も小さくうなずいた。
「ふふ、酌を注がせるばかりでは申し訳ないな。未成年の君たちが成人した暁には、盛大に宴を開かなくては」
「この程度では酔っていないぞ……たぶん。こんなに楽しい時間、酔っていては勿体無いからな」
「セタラさん。わたし自身、このような酒宴に、紅茶で同席することは無粋とも思うのですが、この神野花色それでも言わせていただきます。……紅茶にしましょう」
 平気平気と酒を持ちかけたアラドファル。本人はいたってまじめ。酔っていないつもり。花色がこちらもまた至ってまじめな顔でそれを受け取った。
「……すみません、これを」
 差し出された杯に、ハティは思わず笑みをこぼす。
「……ふふ。はい、喜んで」
 受け取り杯とともに天を仰いだ。
 見上げる赤は、焼きつく程に美しかった。

「うぃー……酔っ払ってきた……」
「ふ、はは。なんだマサムネ、顔が赤いぞ酔っぱらったのか―……」
 マサムネとシャルフィンはすでに出来上がっていた。
『お酒が弱いシャルフィンには申し訳ないけど、成人したオレの呑みに付き合ってくれるかな?  まずは日本酒がいいな!』
 から始まった酒盛り会であったが、婚約者どうし手をつないでいい具合に呑んでいる。
「俺が酒に弱いと知っていて付き合わせるとはー。まさか策士か」
「あはははは。シャルフィンの手は暖かいね、っていうか熱いねー」
 笑い上戸でからむマサムネ。一方シャルフィンは、
「むぅ……もたれると……重い……ぞ……」
 そんな様子でうとうとと。仲良く二人グダグダして一日を過ごすのであった。

 冷たい風も心地良く、紅葉は美しい。ロロはゆっくり目を閉じたい気もする……が、
「……、……」
 さっきから。イチカがめっちゃ見てる。
「や、酔ったりするとどうなるのか気になるし、泣き上戸とかだったらどうしようかと思って。……あっやめて無礼講ってことで怒らないで!」
「……泣かねぇし、怒んねぇよ」
 呆れたようにロロは言う。反撃は向いた蜜柑をイチカの口の中に詰め込んで。どこか上機嫌な様子に、イチカは酸っぱい顔で蜜柑を飲み込む。
「口をおおきくあけてくださいおかえしします!」
 なんて。じゃれあえば、笑って。また、赤く色が落ちる杯に目をやって。
「……」
 時々無言で、見つめあう。
 ロロが飲み干すまで、また見てる。
 今日という日を、ずっと留めておけるように……。

 里桜はデフェールと初お酒。
「デフェは何から飲む? ……って、おお、大人の味……って聞いたコトあるヤツだ、私はカクテルにしとこ」
 里桜はそう言ってくぴりと甘いカクテルを一口含んだ。里桜は最初だから甘いお酒を。デフェールブランデーから。とか言っていたのであるが……、
「いえー! でふぇのも飲んでいい? 飲んでいい?」
「んー、いーかんじに酔っぱらってんじゃねーか里桜」
 割と速かった。
「……っと、オレの酒飲むのはいーがかなりキツいぞ?」
「のんだー! にがーい、でも一緒の飲めたからやったぜー!」
「って、お前はそんなカワイーこという」
 デフェールが笑う。里桜も嬉しそうに笑う。一緒に飲むお酒は一段と、美味しくなりそうだ……。

 名酒は巡り、酒は廻る。
 尽きることない杯に、酔いから逃れることはできずに、
「はるつぐ」
 ヒコが蜜柑ばかり食べている春次に、自分もと差し出した。
「コレ。剥いて。喰いたい」
「あぁ、ヒコ。それ柿やなくて蜜柑や、で……」
 言いかけて、春次は口ごもる。なんだかヒコがいつもの様子と違っていて、見てはいけないものを見た気がしたから。
「しゃあないな。一個だけやで」
 けれどもそれは一瞬で、一つ蜜柑を取ると皮をむいて相手の口へ。あーん、とヒコは口を開く。噛んでやろうと思っていた指は簡単に逃げられて残念、とおかし気にヒコは笑った。
「俺の指まで食わんといてや」
 春次もおかしげに。もう一つ皮をむいてヒコの口元へと運んだ……。

「君は酔わないのだったか」
「そ、俺はザルだからな」
 紅葉の中、夜と累音は酒を手に。
「場にも酔えないのでは詰まらなかろう。何なら俺に酔わせてみせようか」
「ほう、酔わせてくれんのか?」
 戯れるように言う夜に、累音はおかしげに笑いながら酒をまた口に運んだ。そしてふと、
「……そういやお前の酔ったところもまだ見たことがないな? 折角だからもっと飲めよ」
 累音は気づく。酒を勧めてくる累音に夜は一つ瞬きをする。
「酔ったところねぇ……。其は企業秘密デス。ほら」
 乾杯、と、夜はグラスを掲げた。累音の舌うちは冗談めかしていて、乾杯を。
 普段よりは饒舌に冗談を言い合って。これもきっと、酒の力なのだろう……。

 紅葉見ながら一足早い忘年会。
 千歳が酔うとひょうきんになるというのはハンナの談。ハンナはというと……、
「ひょっとしたら、可愛い女になるかもしれないぜ」
「……たぶん天変地異の前触れね」
「おいおい、んな訳ねぇだろ」
「だって……」
 思い出すのはこの一年のこと。意図せずとも何度か同じ戦場となり共に駆け抜けたこと。
「色々あったなぁ」
「そうね。こうして乾杯できるのが幸せだわ。……頼りにしてるのよ、ハンナ。今年ももうひと息、それから来年からもね」
 ふと、千歳が言って、笑った。
「来年はどうなるか分からんが……あたしが生きている間は、助けてやるよ」
 なんてな、と。ハンナは軽く鼻の頭を掻いてから、杯を掲げた。

 【九龍】の町民(?)がやってきた!
 ひとしきりおめでとうございますを皆様から頂いた後で、
「今日はウチの可愛いどころを連れてお祝いに。……これは増やして申し訳ないが、なに、持って来た以上にはごちそうになって帰る腹づもりなので」
 高そうな酒とともに清士朗が言うと、こらえきれず月子が吹きだした。
「……おや、なにか?」
「いや失礼。町長というよりどこかの組の若頭のようだなと」
「ああ、これはばれてしまいましたか。実は……」
 と、そんな会話で始まった酒の会だが……、
「しかしいつも、ヘリオライダーの皆には……」
「いや、それはこちらの台詞で……」
「いずれヘリオン三回転半宙返りに挑戦したく……」
「ど、どうしよう。あ、の……あまり、飲みすぎちゃ……?」
 エルスが清士朗の服の袖を引くが止まりそうにない。リリィは微笑み、志苑も上品に頷く。
「まだ、大丈夫だと思いますよ。少々冷えます。温かい紅茶で暖まりましょう。お酒を入れるのも良いと聞きます成人の方はお好みでどうぞ……」
 そっと酒瓶を遠ざけながらも、代わりに紅茶を差し出す気の機器用だったりした。茶道は勿論、紅茶の淹れ方もうまい。
「う、うん、そうですね。あ、デザートこちらもありますよ」
 エルスも紅茶を飲みながら、ふっと一息ついてフルーツにアイスを乗せた即席デザートを出す。はい、とそれを口にしながら、三人はお菓子談議に興じる。
「柿とチーズでカプレーゼも美味しそうですね」
「生ハムで塩気を足すのもいいやもしれんぞ?」
 しっかり口を出す清士朗。
「あぁ。なんだかとても美味しそうだな」
 月子も笑っている。それでリリィは立ち上がった。
「でしたら君影リリィ、行ってきます!」
 チャレンジしますと厨房へ走り出す。わんこみたいで可愛いな、という月子の声は多分、届かなかった、はず。

 陽は傾き、少しばかり外の空気は寒い。
 しかし酒が入った者たちの宴は、終わりそうになかった。
 月子は瞬きを一つ。それからテラスのテーブルに置きっぱなしになっていた眼鏡を手に取った。
「今日の俺ぁ楽しむ為だけに来た! タダより高けぇモノはねえが、タダ酒タダ飯は別勘定だ! 月子の生誕に大いなる感謝を! 乾杯ッ!」
 なんかもう何度目かの乾杯かわからないユストに、
「あぁ、雪継さんもこっちに来てください! ちょっともう、私の肉が食べられないんですか!?」
「和泉さん。食べてます。食べてますから落ち着いて……!」
 ひたすら肉料理を進めてくる紫睡。
 そうでなくても誰もかれも酒が入って大変なことになっていて、
「……あぁ、本当にあなたたちって、ばかね」
 何か、とても幸せそうに月子は言った。ユストと紫睡は顔を見合わせる。
「ちょい待ってろー。テーブル片付ける。……あぁ。良い夜だ、故郷の奴らにも飲ませてやりてぇなあ」
「でしたら、お肉料理追加します! えっと、月子さんの好みのお肉はなんでしょうか?」
「まだ、呑む気満々なんですね……」
 雪継の突っ込みも気にしない。仕切り直しとばかりに片づけて、また酒を運んで。
「いやまあな、いつも世話になってるしなあ。しかしよお、綺麗どころに見送って貰えるのは違うよなー」
「それは、こちらの台詞よ。わたしは見届けるしかできない。……だから、わたしに最後まで、あなたたちを見届けさせてね。あとどうせ見届けるなら美男美女が楽しいわ」
 最後にもう一度小さな乾杯を。
「はい、それはもう! 私のすべてを見ちゃってください!」
「いや、すべてはだめだろう、すべては……」
 突っ込みもまた酒気に溶ける。
 こうして、ある意味駄目な大人たちの夜は緩やかに更けていくのであった……。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月3日
難度:易しい
参加:39人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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