●柩
唐突に、モザイクが晴れていく。
誰にも発見されることもなかった小さなワイルドスペースは、誰にも知られず消え去った。
――ひどく荒れた廃病院の一室。
窓硝子は割れ、床には埃が積もり、病院であった名残は掛けられたままの白いカーテンのみ。それとて、風化してボロボロだ。
かつて病室であったその中央に、白い柩が横たわる。
ワイルドスペースの消滅から幾ばくか後、空間がぐにゃりと歪み、現れた鱗に包まれた四肢が埃の積もったリノリウムを踏む。
もうもうと舞う粉塵を無造作に薙ぎ払ったのは強靱な尾。
それでも残る黴臭さに『腕に抱えられた』顔を僅かにしかめつつ、戦士は柩を見やる。
味気ない箱の中、凍結された人間が眠っていた――。
●指令
緊急事態だ――雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はケルベロスを見るなりそう告げた。
「ジグラットゼクスの『王子様』撃破直後、ジュエルジグラットの『ゲート』が姿を現した」
ゲートが現れたのは、東京の上空五千メートル地点――そこから『巨大な腕』が地上へ伸ばされている。
つまり、これこそが『王子様』が言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』であろう。
「本来であれば――創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を完全に支配する止めの一撃であったのだろう。それが潰えたとはいえ、あの腕は脅威だ。打ち破るには、全世界決戦体制を行う必要があろう」
だが同時に。ゲートを戦場にするということは、これに打ち勝てばドリームイーターに致命的な傷を与えられるということでもある。
無論、ドリームイーターとてこの状況は承知。
そこで、ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達は、切り札として用意していた人間達をゲートに集めるべく動き出した。
奴らが回収しようとしているのは『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達――二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって探索が進められていた者達である。
幸か不幸か、ケルベロス達が日本中を探索していた事で、この襲撃を予知でき、彼らが連れ去られる前に駆けつけることが可能となったのだ。
奴らがジュエルジグラットのゲートの防衛を固める前に、彼らを救出して貰いたい――そこまで語り、辰砂は一度、資料に目を落とす。
この棺を回収しにやってくるドリームイーターは、グロワール騎馬隊――ジグラットゼクス『青ひげ』配下の精鋭騎士で、首の切り離された女性の上半身と、ドラゴンのような四つ足の下半身を持つ騎士だ。
彼らは人体の一部を切り取って収集する習性を持つらしく、非常に残虐で好戦的な性格をしている。
たった一体でこの任務を任せられるのだ、その実力は語るまでもない。
「同時に、心にとめておいて貰いたいことだが……奴らにとっての最重要任務は『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物をゲートに送り届けること』だということだ」
とうとうと辰砂は告げる。
奴らは『自分が敗北する可能性が高い』と考えた場合、その人物を魔空回廊で送ろうとするだろう――この行動には、二分程度かかる。その間、敵は完全な無防備となるゆえ、戦闘は有利となるだろう。もっとも、この二分に仕留めきれなかった場合は言うまでも無い。
実際に実力で追い詰めるか、こちらの劣勢時における起死回生のはったりとするか……戦況にあわせて判断が必要となるだろう。
さて、辰砂はひとつおき、金眼を細めてケルベロス達を見る。
「ドリームイーターから『彼ら』を奪うこと、同時に奪われる事の意味をよく考えて挑め。万事巧くいけば最良だ。だが思い描く形から逸れたとき、どう行動すべきか……貴様らにとって何が一番重要か、忘れるな」
重く告げ、説明を終えるのだった。
参加者 | |
---|---|
烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420) |
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912) |
ル・デモリシア(占術機・e02052) |
機理原・真理(フォートレスガール・e08508) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
兎塚・月子(蜘蛛火・e19505) |
ティユ・キューブ(虹星・e21021) |
黒江・神流(独立傭兵・e32569) |
●覚悟
薄暗い廊下をケルベロスは行く。先行する機理原・真理(フォートレスガール・e08508)のプライド・ワンのタイヤ跡が埃の上に確り刻まれる――成る程、デウスエクスであれ思わず顔をしかめたくなるのも解る荒れっぷりだ。
それでも、烏夜小路・華檻(一夜の夢・e00420)は上機嫌であった。道連れも華々しく、敵も女性――任務に対する緊張を持っていないわけではないが、それでも口元に笑みが浮かんでしまう。
もし救出対象が女性であれば、尚更気合いが入るのだが――残念ながらそれは不明だったが、ほんの少し楽しみでもあった。
そんな風に思いを馳せていた折、偶然にも真理がぽつりと零した。
「世界を守っていた人達の末裔を、好きにはさせないですよ」
ケルベロスとしての使命は理解できている。ドリームイーター達の目論みを阻止することが最重要だ。
しかし『何もかも守れる盾』でありたい彼女にとって、世界のためでも『誰か』の犠牲というものは受け入れ難い。殊に、それが一般人であるなら。
力の入っている彼女の横を、紫煙が細く流れていく。最後の一服を惜しみつつ、ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は片頬をあげるような笑みを向けた。
「さて、敵もそこまで馬鹿じゃあないだろうが、少しでもこっちとの戦闘を長引かせねぇとな」
救助できることが完全な仕事だと言葉にしながら、もしもの時、自分は躊躇無く撃てるだろうと彼女は思う。
傭兵として、そのあたりの感傷を切り捨てている黒江・神流(独立傭兵・e32569)はただ無言で頷いた。
「気にせんでええ、シンリ。それが至極真っ当な感覚だえ」
大きな金の瞳で真理の背を見つめつつ、兎塚・月子(蜘蛛火・e19505)は告げる。
万が一、失伝継承者を殺めることに躊躇いが無い、そんなタイプの人間が多い中で、真理の在り方は貴重にも感じられた。
お任せください、白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)はつんと顎をあげ、自信を滲ませた笑みを浮かべる。
「触れなば落ちん風情を醸し出すのは得意というものです。普段通りの私でいれば良いという事ですから」
さらりと告げる佐楡葉の紅の瞳は、ティユ・キューブ(虹星・e21021)を捉え、同意を求めている――ことに気付いているが、彼女はうんそうだね、と知らぬ顔を決めてみる。
「な、ティユさん!」
案の定、その声音が揺れたので、ティユは口角が上がりそうになるのを堪えた。
しかし、さて。このままでは本当に触れなば落ちんとなるか。
「……頼りにしてるよ」
柔らかな声音で告げる。佐楡葉はティユの相棒であるペルルを撫でつつ、こくりと頷く。
その様をにこにこと見守る華檻を眺めつつ、人間様々じゃなーとル・デモリシア(占術機・e02052)はのんびり纏めたのだった。
●開戦
「いたよ」
ティユが声をあげる。
廃墟と化した病室の真ん中に四つ足に人の胴を持つ騎兵がいた。その足元には白い柩――だが、そちらへ視線を向けず、ケルベロス達は部屋へとなだれ込む。
それは全身でくるりと振り返った。左腕に抱えられた顔が不審そうに彼女達を睨む。右腕には幅広で薄い刃の剣。
「お、どーした、首なしライダー。まー青ざめちゃって。廃病院なんて最高のロケーションやろがえ」
からかうように月子が謳う。
「……『出ない』ワケねーだろ」
金の瞳は爛々と、それを睨め付けた。
「わざわざ首が離れてるとは殊勝な事ですね。切り落とす手間が省けるというものです」
黒髪を軽く払って、佐楡葉が毒づく。既に銃を手に間合いを測っている。
――あくまでもデウスエクスを討伐すべく駆けつけた、その設定を守っての言動だ。ルーの言葉を借りるなら『早世濁流を阻止して、調子に乗ったケルベロスが残党狩りしてやるぜ、ヒャッハー!』である。
「お主の目的にはきょーみナイが、その青色の顔が更に青ざめるっちゅーのは見たいんじゃなー?」
そんな彼女が更に挑発を重ね、様子を窺う。騎兵は不機嫌そうに眉宇を顰めつつも、その瞳が戦意に輝いているのを認めた。
奴の注意はまだ柩に向かっている――察したハンナが拳を握って不敵に笑む。
「あたしは強いヤツと戦うのが趣味でね。後はどうでも良いのさ」
今にも仕掛けようかという様子で向けられる敵意に、騎兵は数歩、後退った。それは決して、撤退の意志では無く。
「ふん……丁度、退屈な任務だと思っていたんだ」
言うなり、騎兵は振りかぶり、ダンと地を蹴り上げた。
無言のまま、相手の一挙一動を見張っていた真理が反応する。
「導こう」
ティユが短く告げ、星の輝きをもって星図を投影する。攻撃へ適切な道筋に乗って、真理が前に出る。一歩先、プライド・ワンが炎を纏って突進していく。
「攻撃するのも、防御の一つなのですよ……!」
星の導きと、彼女自身の演算――相手の動作の確実な隙を突き、鎧装用シールドユニットを叩きつけた。
その殴打は、騎兵の直進する力を巧く逸らし、バランスを崩す。
そこへ滑り込んできたのは、流星の煌めき。空気を裂きながら、佐楡葉の蹴撃は騎兵の鎧を滑る。狙いが逸れたと悔しそうな一声を忘れず放って、退く。
彼女の待避を助けるようにペルルの泡のブレスが二人の間を両断するが、鱗に包まれた尾が薙いで、ブレスを掻き消す。
晴れた視界の向こう、ハンナは大仰にハンマーを薙いで、ゆっくりと担ぐように構える。それは熟れた風ではなく、如何にも使いますよ、と見せつけるように。
「悪いが最初っから本気で行くぜ」
いつもなら、わざわざこんな間を作らず仕掛けているだろう。
(「アホくせぇ」)
やられ役の下っ端みたいな台詞に自嘲を通り越して呆れてくる。だが、その表情を隠して竜砲弾を放つ。
騎兵は砲撃に、剣をもって応えた。片手で斜めに斬り下ろし、被弾を減らす。
その動きをみると、確かに実力はある――ティユは次の手を準備しながらひとり頷く。
畳みかけるように、神流のアームドフォートの腰に接続された小型のガトリングガンが火を噴いた。
爆炎の弾丸を、それは剣で弾きながら、突進を続ける。竜に似た四肢がケルベロス達の中心で跳ねる――鮮やかな剣戟で、今度は真理とティユの守りを崩す。
ケルベロスチェインがその四肢を搦めるように巻き付く。
長い緑髪を靡かせ、ルが思い切り鎖を引くが、軽く切断される。
「意外と骨があるんやね」
淡淡と感想を零し、月子は服の下に纏う鎖帷子状のオウガメタルから、仲間に向け輝く粒子を放つ。
青いスカーフにブラウス姿から、肌も顕わな薄紗を纏い、華檻は騎兵を誘う。
「さあ……わたくしと楽しい事、致しましょう……♪」
いつの間にか、頭部の無い首元に蛇のように絡みつく白い腕。本来であればそのまま頸部を捻る技だが、抱きかかえた頭部に胸を押しつけるようにして、香水の匂いを嗅がせ、幻惑する。
「ふふ、わたくし、貴女のような女性も好みですの」
「ふざけるな!」
ふっと囁くと、くそ、と騎兵は罵声をひとつ、彼女を剣で振り払う。
華檻はわかってやっているので薄く笑みを浮かべたまま、ひらりと下がる。騎兵は一度床を蹴って距離を取る。柩のすぐ傍まで下がった事に、ケルベロス達は一瞬ひやりとしたが――抱えられた顔、彼女の双眸はぎらぎらと敵意と戦意で漲っていた。
●駆け引き
猛烈な剣の嵐がティユを襲う――虹色真珠の髪の先が断たれ、きらりと舞った。
「く……」
オーラで守りを固めつつ、衝撃をやり過ごすべく耐える表情は、演技か本心か、辛そうなものだった。
それを目に、僅かに眉宇をひそめた佐楡葉はバスターライフルを低く構え、凍結光線を放つ。腕を狙った光線は軽くいなされるも、それとティユの距離が空く。
ペルルがすかさず主の傷を癒やすべく羽ばたきする――その軌跡代わり、シャボン玉が儚くふわりと漂った。
騎兵が派手に立ち回る度、その大きな尾もまた踊る。それが埃を巻き上げ、新たに生まれる瓦礫を砕き、戦場はもうもうと白煙が立ちこめていた。
「もらった!」
その尾が大きく反対側へ振り上げられた瞬間、月子のブレイブマインが、その隙を報せる。すぐさま敵の懐へ飛び込んでハンナが回し蹴りを放つ――星型の衝撃破を叩きつけ、その反動のまま蹴りつけて距離をとろうとしたところを、腹部に重い衝撃を感じた直後、弾き飛ばされた。
グラビティの重みの無い一撃はケルベロスにとってのダメージとならないが、効いたかのようにゆっくりと身を起こす。
桜吹雪の幻影が騎兵の視界に広がる。
幻影ごと両断するように高く刃を振り上げた神流が飛び込み――金属音が高く響く。弾ききれなかった斬撃で、騎兵の青い肌に鮮血を滴らせる。血は赤いんじゃな、のんびりルが呟く。
あらあらかわいそう、華檻が甘く囁く。
胸を押しつけるほど接近し、大きく広げたアームドフォートから、強烈な一撃を振るう。
「効かぬわ――」
楽しそうに騎兵は言い放ち、大きく剣を振り上げ、地を蹴った。
勢いを殺すべく、ルがフォートレスキャノンで迎撃するが、止められない。
砲撃を物ともせず、振り下ろされた刃の前に、敢えて真理が腕を広げて仲間を庇う。身体の捻りを加えた一閃から始まって、怒濤の剣戟が、機械の身体を刻んでいく。
無論、纏うアームドフォートで最低限の守りは固めている。だが、元々彼女は『失伝継承者』を助けるためならば、腕の一本くらい、切り取られてもいいと思っていた。
前のめりに膝をついた真理の頬をなぞるように、それは刃を滑らせた。
「弱者のパーツに興味はないが……勝利の証、というのは気分が好い」
言葉とは裏腹に、戦いに酔いしれたような声音で、女は問いかける。
耳か、指か、鼻がいい……?
おそらくは真理の反応を見ているのだろう。それがこちらの作戦を見透かされてるように感じて、冷や汗が出る。
「どんな犠牲を払っても、私は負けられないのです……!」
左腕を刃に晒しながら、叫んだ彼女の想いに応えるように。プレイド・ワンが横からスピンしながら突撃してきた。
「おん、ぎゃるらや、そわか」
数珠を手に、迦楼羅天の真言を唱え、月子が何かを放る。それは着弾までの軌道すら歪む魔弾――周囲の空間ごと捻じ切るかのような激しい爆縮、詰まるところ相手をぐっと圧縮する。
爆風を煙幕代わり、ティユが真理を後ろへ退かせ、オーラで包む。左腕にあと少しで切断となりそうな深い傷が走っていたが、彼女の手当で幾分か治る。
「流石に無謀に等しい行動かと……しかし」
ちくりと咎めるように佐楡葉は呟き、しなやかな猫のように、宙を舞う。重力を宿した蹴撃を叩き込む。
絶対に守るという覚悟を形にした真理の行動――それを見た彼女の一撃は、より力強く。
重みにがくりと体勢を崩し掛けた騎兵の眼前に、如意棒が迫る。
「時間だ――鬱陶しい芝居はお終いだ……行くぜ」
容赦なく追い立てながら、ハンナがどこか嬉しそうに発したのだった。
●救出
「なんじゃ、4本も足を持つと言うに、揃いも揃って逃げ足かや?」
からかうように、嘲るように。ルが挑発する。
両腕からケルベロスチェインを放ち、その身体を縛り上げ、持ち上げ叩き落とす。
何とかその拘束を振りほどいて、状態を立て直すべく剣を構えて集中を計るが、すぐに距離を詰めた華檻の拳で、砕かれる。
ひとたび劣勢に転がりだした状態はすぐには覆せない――ケルベロス達の攻撃は、元々いずれも確実に騎兵を削っていたのだが、体力に余裕があったからこそ多少慢心していた節がある。
思い立ったように、騎兵は一足で柩の元に駆け寄ろうとする――。
「く……せめてこいつを転送……」
「させるか」
すかさず神流がガトリングを連射する。それは騎兵の鎧を穿ち、疲弊させていく。
「貴様ら、やはりこれが狙いだったか!」
身体から降り注ぐ血を浴びながら、それは叫ぶ。
「うむ、知っておるよ? これの中身。お主はまんまと妾の描いた運命予報に操られたわけじゃ。残念じゃったなー♪」
軽やかに唄うも、ルの橙の瞳は鋭く騎兵を捉えたまま――。
「小さき意思とて侮ってはならぬぞ?」
背中のコンテナから、ルそっくりの自律型アンドロイドがわらわらと飛び出した。
いくつかを刃で払うも、本体にすがりつくなり、小さなルたちは次々自爆していく。
「逃すかよ」
低い声音で笑い、月子が天狗下駄をからりと鳴らす。流星は垂直に、隕石のように彼女は飛来する。
それでも耐えきれると見たか――転送のために騎兵は剣を垂直に構え、集中を高め始めた。
「ペルル、機理原を頼むよ」
ティユは短く告げ、床を蹴る。最短距離を一瞬で詰め、星を纏いながらその胸部を真っ直ぐ貫く。
身を守る鎧に、蜘蛛の巣状の罅が走る――身じろぎ一つない。急げ、彼女は声をあげる。
応えるように束ねた赤茶の闇が揺れたか、次の瞬間には漆黒の風が、騎兵の横を駆け抜けていた。
「私からの贈り物だ、とっておきの「死」をくれてやる。」
ブースターによって超加速した神流が、すれ違い様に多数の斬撃や弾丸を叩き込む。堅牢を誇る鎧も、鱗の肌も無惨に剥ぎ取られ、青い肌が赤く染まった。
それでもそれは歯を食いしばり、転送の処理を続けている。それ以外は、できぬのだ。
「――See you later」
柘榴石の眸が間近で瞬いた。至近距離から見舞う、最大出力での魔力弾。
無茶苦茶な熱量を浴びた者の運命は――Bloody Mess、まさしくぐちゃぐちゃの惨劇。
薔薇のように爆ぜた傷から、後肢がどろりと赤く溶けていく。如何ほどの苦痛であろうか、しかし事切れるまで騎兵も諦めぬのであろう。
完全に傾いたそれの前へ――黒いスーツの女がすっと前に出て構えた。
「悪いな……あたしは素手の方が強い」
重心を低く構えたハンナの拳が、その頭部を強打する――すると、まるで拳銃で撃たれたように爆ぜ、肉体の海に沈んだ。
残ったのは、白い柩のみ――。
「皆さん……ありがとうなのですよ」
真理はプライド・ワンに腰掛け、礼を告げる。最後の猛攻に加われなかったのは心残りだが、彼女が身を挺した意味はあった。あの瞬間、相手は完全にケルベロスを侮ったのだ。
後味の悪い事にならんでよかったわ、嘯き月子は口元に笑みを浮かべる。
「お疲れ様です、ティユさん、ペルル」
佐楡葉がペルルにチョコを渡す。よかったね、とティユはその腹をこしょこしょと撫でる。
「で、それはどうりゃいいんだ?」
煙草を手にハンナが柩を見やる。それは白い蓋で閉ざされ、中は窺えぬ。
「中は開けん方がいいじゃろうな」
凍結された状態が解除されるとどうなるかわからない、ルはそう判断を下す。
中に眠るのが女性か否か、結局わからないのですね……残念そうに呟きつつ、飾り気のない柩を撫でて、華檻は笑んだ。
「ご無事で何よりですわ」
作者:黒塚婁 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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