燕迷公主撃破作戦~乾坤打破

作者:あき缶

●君は馬見古墳群を知っているか
 覚えているだろうか、ケルベロスハロウィンの壷中天占いを。カンギ戦士団から奪った千個の『壷中天』なる壺が教える毒舌極まりない占いのことだ。
「壷中天のご利益があったでー」
 香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)はニコニコしながらヘリポートに現れるなり、そう切り出した。
「螺旋大伽藍のダンジョンに分身体を送り込んでいた、カンギ戦士団の『燕迷公主』。そいつの潜伏先が分かったんや」
 彼女を撃破できれば、螺旋大伽藍のカンギ戦士団の野望は完全に潰えるだろう。なるほど、ケルベロスが占いの毒舌に耐え続けた甲斐があったというものだ。
「いやぁ『燕迷公主』は、なかなか驚きの場所に潜んどったで」
 いかるは勿体ぶった。
 焦れるケルベロスに、いかるは得意げに彼女の居場所を告げる。
「なんと巣山古墳やって!」
 ばばーん!
 ――えっ……どこ……?
 きょとんとするケルベロス一同を前に、いかるは焦る。
「えっ、知らん? 巣山古墳知らん? 奈良県北葛城郡広陵町にある馬見古墳群の中でも日本を代表する周濠型前方後円墳……」
 ケルベロスは一様に『知らん』と答えた。
 がくり。奈良に生まれ育ったいかるは、他県民にとって古墳がマイナーであることを痛感して肩を落とす。
「うん、まぁせやね。それくらいの知名度やから、『燕迷公主』も今の今までバレへんかったわけで……。とにかく、巣山古墳の中から螺旋大伽藍にずっと分身体を送り込んどったらしいんや」
 しかし、『燕迷公主』は居場所がケルベロスに露見したと知れば即逃走を試みるだろう。
「せやから、今回は少人数での奇襲作戦を提案したい」
 分身を行う術を中断し、彼女が逃走を完了するには十五分はかかると予測される。逃走完了までに古墳内部に突入し、『燕迷公主』を撃破する――電撃作戦が必要だ。

●公主を護る者
 巣山古墳の入り口は、大量の屍隷兵『キョンシー』が守っている。
「キョンシーは正面から別班が相手してくれるはずやから、君らは横穴からこっそりその先に進んでほしい」
 キョンシー対応班がうまくキョンシーを引き付けてくれれば、追撃を受けることはないだろう。
「せやけど、『燕迷公主』がおる古墳中心への扉の前には、武闘家の屍隷兵『黄・爆龍』がおるんよ」
 屍隷兵『黄・爆龍』は、非常に高い戦闘能力を誇ると予知されている。ここで足止めされてしまうと、『燕迷公主』は易易と逃げおおせてしまうに違いない。
 『燕迷公主』は巣山古墳が襲撃された瞬間から撤退の儀式を開始している。作戦開始から十五分以内に彼女を倒せなければ、作戦は失敗に終わってしまうのだ。逃げた『燕迷公主』は、また別の場所で螺旋大伽藍に分身体を送り込み続けるだろう。いたちごっこになってしまう。
「君らのミッションは、『黄・爆龍』を相手取って、すばやく『燕迷公主』班を扉の向こうへ送り込むことや」
 『黄・爆龍』の目的はケルベロスの撃破ではなく『燕迷公主』を護ることだ。とにかく扉を守ろうとするだろうから、当班には『燕迷公主』班を突入しやすくする立ち回りが求められるだろう。
「立ち回りも難しいんやけど、その前の横穴への潜入タイミングも大事やで」
 いかるは、考えることはたくさんあると忠告する。
 時間がないからと急くあまり、横穴に入るのが早すぎるとキョンシーに見つかってしまい、大幅な時間のロスになる。
 だがモタモタしていれば、十五分以内の『燕迷公主』撃破など夢のまた夢だ。
「うーん、襲撃開始後、三分から五分くらいで突入したらええんちゃうかなぁ? もちろんみんなで足並み揃えてな?」
 『燕迷公主』のボディガード、『黄・爆龍』は天才格闘家の屍隷兵である。拳法を巧みに操り、徒手にて戦う。
 とにかく扉の先へケルベロスを進ませぬよう動くだろう。
 ポジションはクラッシャーと予知されているが、耐久力や命中力、回避能力も桁違いだと予想されるため、生半可な戦法ではこちらが壊滅に追い込まれるだろう。
 単騎だが、複数を相手取ることも決して苦手ではない。
「かなりの強敵やと断言する。準備は絶対に怠ったらあかんで」
 いかるは真剣な顔でケルベロスに告げた。
 今回の突入作戦は時間との戦いになる。だが、短気は損気となるだろう。しかし呑気に構えていても失敗してしまうだろう。
「焦らず確実に、そして最速での目的達成……注文が多くて申し訳ないけど、君らなら出来るって、僕は信じてるからな!」
 いかるはパタリと尻尾を振った。


参加者
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
リリシア・ローズマトン(しゅーてぃんぐすたー・e01823)
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)

■リプレイ

●作戦四分経過
「どりゃー! 怪しい壷の訪問販売じゃワレー!」
 板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)の叫び声とともに虹の軌跡を描いて、キョンシーが古墳の壁に激突する。
 もはや動かなくなったキョンシーを一瞥もせず、ケルベロスは奥へと足を早めた。
 既に古墳の入り口は騒がしい。キョンシーを陽動する作戦は成功しているようで、先程えにかが倒したキョンシー以外に行く手を阻む者はいなかった。
 既に燕迷公主は逃亡のための術を進めているはずだ。時間の猶予はない、ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)を先頭に、ケルベロスはひたすらに突き進む。
「あれじゃな!」
 ドルフィンが遂に扉と、その前に立ちはだかる屍隷兵――黄・爆龍を目視にて確認した。
 この扉の向こうに、燕迷公主がいる。そして、その扉の先へ行くためには、黄・爆龍を越えねばならぬ。
 メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)は目を眇める。
「よりによって古墳の中に屍隷兵……冒涜もいいところなんじゃないのかい?」
 十六人にもなるケルベロスを認め、黄・爆龍は音もなく構えた。
 たった一人で相対しているだけなのに、隙は見つからず、むしろ一歩でも動けば死を与えられると錯覚するほどの殺気で満ちている。
「ワクワクするのう」
 強敵と戦えることを至上の喜びとするドルフィンは、目を輝かせた。

●作戦開始六分後
「浅小竹原 腰なづむ 虚空は行かず 足よ行くな」
 先手必勝とばかりに御子神・宵一(御先稲荷・e02829)は古謡を詠う。
 ぱん、と乾いた柏手の音がした途端、グラビティチェインが黄・爆龍を捕らえる。
 続いて写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)の砲撃形態に変わったドラゴニックハンマーが吼えた。爆ぜる竜砲弾。
「畳み掛けましょう!」
「はいっ」
「三方向美女に囲まれて足蹴にされるとか、こんな幸せ一生ありませんぜ。いやもう死んでるけど」
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)とエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)、えにかは虹を伴い、ほぼ同時に屍隷兵に蹴りを放つ。
 が。
「!?」
 三人は確かに痛烈な速度をもって飛びかかったはずだ。だが、黄・爆龍はすいと手を差し上げ、フローネとエレの足裏を軽く受け止めるとポンと押し上げ、返す腕でえにかの脛を弾いて、蹴りの軌跡を歪める。
 態勢を崩しつつも、なんとか着地する三人。
「天才格闘家、か……。貴方が生前磨いた技は、こんなことのためのものじゃなかっただろうにね……」
 易易と攻撃をいなす様を目の当たりにして、在宅聖生救世主は目を伏せる。
 黄・爆龍の体がゆらりと動くより一瞬早く、メイザースのケルベロスチェインによる守護魔法陣が光りながら発動した。守護の魔法で多少緩みながらも、屍隷兵が放つ波動牙が前衛達に噛み付く。ビリリと毒のような呪いのような拘束感が一同に付与された。
「カッカッカ、強い強い! こうでなくてはのう!」
 まともに攻撃をうけても、ドルフィンにとっては朗報でしかない。相手にとって不足はないことの証明だからだ。
「仕事はあくまで妨害……じゃが、わしはそんな生半可はつまらんからのう。無論、狙うはおぬしの死じゃ!」
 回転しながら握り込んだ拳を屍隷兵めがけてねじり込む。ドルフィンはもちろん敵の急所を狙ったつもりだが巧みに外された。
「ほう、まるで水と相対しているかのようじゃ」
 手応えのなさに、ドルフィンは感嘆する。
「なら音はどうっ!? 水でも音が届けば震えるものよね!」
 三拍子でギターをかき鳴らし、リリシア・ローズマトン(しゅーてぃんぐすたー・e01823)は屍隷兵の心に食いついていく。
 リリシア達の猛攻を目くらましに、二重に包囲するように見せかけながら燕迷公主を狙うケルベロス達は扉に向かおうとしている。
 それに気づかぬほど、黄・爆龍は鈍くはなかった。
 扉に向かう者達めがけ突進しようとする守護者の背を竜砲弾が襲う。
「自らの意思で望もうと望むまいと、役目を果たさんとするのは彼我も同じ、か。でも、ダメですよ。こちらにも役目がありますもので」
 ゆらりと振り向く黄・爆龍が見たものは、ハンマーアームユニットを構える宵一だった。
「おおっと目の前のいい女を無視して仕事に向かおうたー。旦那も仕事熱心ですな」
 えにかは如意棒で屍隷兵の足を捌く。
「この扉の前を私の、……私達の拠点とする! 見せてあげるよ、ガルド流拠点防衛術ー!」
 在宅聖生救世主のファミリアが屍隷兵の顔に飛びつく。
 黄・爆龍がファミリアを引き剥がして床に叩きつけたと同時に、
「カカッ、ここは通さぬよ達人!」
 ドルフィンの疾風のごとく鋭い一蹴が、天才格闘家の首に決まった――。
「む」
 とっさに首とドルフィンの足の間に黄・爆龍は己の掌を差し込み、致命的なダメージを防いでいたのだ。まともに当たっていれば、頚椎骨折……いや首が吹き飛んでいただろうに。
「……カッカッカ! 流石流石!」
 ドルフィンはくるりとトンボを切って、元に位置に戻り、豪放磊落に笑う。
「おぬしには戦いに興じて貰わねばのう。他のことなど忘れるくらいの生命の危機じゃからのう!」
 ドルフィンの言葉が終わるか終わらないかという瞬間、黄・爆龍は増えた。
 否、残像が残る速度で、燕迷公主班の前衛に襲いかかろうとしたのだ。
「何としても、ここを通すわけにはいきません! アメジスト・シールド、全力展開!! ぐぅ……ッ!」
 黄・爆龍の必殺技を、間一髪展開に成功したアメジスト・ビーム・シールドで受けるフローネ。しかし、数十体にも見える一斉攻撃をまともに受け続ける彼女の足は今にも崩れそうだ。
 ビームシールドを通り抜けてくる痛打を、彼女の纏う白銀のダイアモンド・フロストが何とか致命傷だけは与えぬよう守ってくれた。
 血を吐きながらフローネは、この機を逃すまいと扉の向こうへなだれ込んでいくケルベロス達に叫ぶ。
「ここは私達に任せて、先に行ってください!!」
 これはフローネが、足止めの役目を負っていることを改めて自覚しつつ、自身を鼓舞するための叫びであった。
 最後に滑り込んでいく金髪のヴァルキュリアが、彼女の文字通り血を吐く叫びに応える。
「有難う……。皆が作ってくれたこのチャンス、絶対に無駄にはしない」
「よく耐えたね。彼らは行ったよ」
 メイザースはふらつくフローネに緊急手術を施す。天才格闘家が『絶招』と称する攻撃の威力は壮絶の一言であった。
 エレは扉の前に立ちふさがる。
「ここから先は、絶対に通してあげないんですから」
 ウイングキャットがバサリと翼を打ち振って、フローネの痛みを和らげる。

●作戦開始十分後
 扉の向こうでは燕迷公主との戦闘が始まっているようだ。あちらに乱入させぬよう、ケルベロス達はあと五分強、屍隷兵の猛攻に耐えながら抑えなければならない。
 怖気づきながらもリリシアが奏でる『片翼のアルカディア』のリズムは力強い。
「可愛くて強くて天才な私の曲、ハートに届けっ!」
 と高らかに宣言する彼女のギターからは軽快かつ心躍る旋律が溢れ続ける。
「煌めく星の加護を、此処に。降り注ぎ、満ちろ!」
 きらきらとエレが喚んだ星のかけらが前衛に包み込む。星の加護を得たえにかの七色の蹴りは、今度こそ当たった。
 在宅聖生救世主と宵一が重ねた足止めも相まって、もはや黄・爆龍は技が当たらぬ相手ではない。
「兄さんの槍なら……!」
 フローネのサファイア・グレイブによる高速刺突も、宵一の白狐槍騎兵も既に屍隷兵を捉えきっている。
「頑張りましょうね、ラズリ」
 何とかなりそうだ、とエレは肩のウイングキャットに微笑みかけた。
「……シィィィィ……ッ」
 ぐっと体を沈めた屍隷兵は、深く細く長く息を吐く。内気を巡らせ、不調を癒やす呼吸法だ。
 在宅聖生救世主はすかさず高らかに跳び上がって、流星を思わせる蹴りを放った。
 回復されたならまた削るだけ。ケルベロスは絶え間なく囲み、グラビティをデウスエクスに浴びせ続けた。
 エレの藍色の星の煌きを秘めたブーツが黄・爆龍の背に決まる。
 ゆらり、とエレに振り向いた屍隷兵は、次の瞬間増えた。
「え? あぁっ……!」
 多重なる残像による理不尽な猛攻乱舞――絶招・蛇虎正交羅が容赦なく少女を打ちのめす。
 彼女の防具はフローネの騎士鎧に比べるとこの攻撃について万全の耐性とは言えず、また彼女は力をラズリと分け合う身であったが故に。
 繊細な彼女の体は、耐えきれなかった。
 にゃぁん、とラズリが泣く。泣いて、もう動けない主に擦り寄る。
 その愛らしい白すら踏み潰そうとする屍隷兵を、宵一の狐の手によるハンマーが吹き飛ばした。
「これ以上、倒させる訳にはいかないね……」
 回復が間に合わなかったことを悔いるのは後だ。オウガ粒子を撒きながら、メイザースは険しい表情で呟いた。
 沈んだエレを見て、リリシアは冷や汗をかく。
「うぅ……屍隷兵の格闘家ってこんなに強いの?」
 だが、怯むわけにも手を止めるわけにもいかない。リリシアは『しゅーてぃんぐ☆すたー』のメンバーとして『アイドルの笑顔』を改めて顔に浮かべ、息を吸い込んだ。
「続きましてはこの曲、【瞳の中の箒星】! 最高の一曲、みんなのハートに届けてあげるっ!」
 一途な恋心をリリシアは胸を膨らませて全力で歌う。
 今なお無数のグラビティに押し包まれながらも、黄・爆龍は巧みに攻守を使い分けて耐えていた。彼もケルベロスの実力を認め、この場を離れて主人の援護には行けないことは悟ったのだろう。その上で、扉の向こうにケルベロスを送る訳にはいかないと、持久戦を選んだのだ。
「強っ!? 屍隷兵ってこんな強かったっけ!? 流石天才……ってことなのかなー」
 ファミリアをけしかけながら、在宅聖生救世主は敵の強大さに舌を巻く。
「何度砕かれようと。紫水晶の盾を、掲げ続けます!」
 フローネは叫ぶ。叫んで屍隷兵の猛攻を耐えた。目眩がするほど痛いが、それが盾役の仕事だ。彼女のアメジスト・ビーム・シールドもダイヤモンドの騎士鎧も悲鳴を上げるが、まだ耐えられる。もちろんメイザースとて二人目の犠牲を出すつもりはない。呪術医としての全力で彼女を支える。
「大丈夫大丈夫ー、なんとかなるなる、てきとーにねー」
 えにかはあえてのんびりと言いながら、フローネにだけ狙いが集中しないよう、挑発の蹴りを入れた。
 ラズリの爪をいなした黄・爆龍に、宵一の白狐が突撃する。

●作戦開始十五分後
 庇いに入ったラズリをすり抜け、黄・爆龍の絶技がリリシアに襲いかかった。
「ちょ、世界一可愛い私の顔に傷をつける気なの……っ!?」
 と避けようとしたリリシアだが、屍隷兵に容赦はない。
「きゃあっ」
 だが黄・爆龍が放った波動は、オウガメタルによる流体盾が緩和していた。
「我が名を以て命ず。其の身、銀光の盾となれ――堅牢なばかりが盾ではないよ?」
 オウガメタルの盾を用意したのはメイザースだ。
「……ふふ、そうやすやすと倒せると思わない方がいいよ?」
 なんとかエレ以外の犠牲は出さぬまま、戦況は一進一退、じりじりと互いに決定打のないままに長引いている。
 苛立ったように、屍隷兵は乾坤の波動を後衛へと放つ。
「!」
 えにかをはじめ、ディフェンダーが焦る。カバーが間に合わない!
 ――その時だった。
「待たせたな。ここからは、僕達も一緒に戦わせてもらう」
 ボクスドラゴンを従える青年が、メイザースと迫りくる波動の間に割って入る。
(「燕迷公主班のケルベロス! 首尾よく燕迷公主を倒せたんだね……」)
 メイザースは急な援護に驚きつつも喜んだ。
「傷の治療はこれで大丈夫。今度は私達が支える番よ」
 後衛達に蒼銀の鋼乙女が、薬液の雨を降らせて癒やしを与える。
「おおー。やったねー」
 慈雨を浴びながら、安堵の笑みを浮かべた在宅聖生救世主は高らかに詠唱する。
「天よ天よ。遍く我等を見守り包む優しき光よ、我等を見届け慈しむ暖かき光よ。今一時、その身を刃へと変え、あれなるものを切り裂き給え!」
 暗い古墳の中、目のくらむような巨大な十字の光が地に突き立つ。剣と変えた光の十字架を、在宅聖生救世主は怨敵へと振り抜いた。
 パッと屍隷兵の体が裂けて、体液が散る。一気に形勢が傾いた。
「カッカッカ! ならばもう、こやつを押さえる必要はないのう! 倒すだけじゃ!」
 ドルフィンは満面の笑みを浮かべ、黒炎を鎖状に練りあげる。
 その間に宵一はまた呪歌を歌って、グラビティチェインで屍隷兵を拘束する。
「これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 ドルフィンが放つ炎の黒鎖が、動けぬ黄・爆龍に絡みつき、天へと差し上げると、
「これで破壊できねば、たいしたものよのう!」
 痛烈に天地逆さまに脳天を床に叩きつけた。
 古墳を揺るがす衝撃と大きな音――天才格闘家の首が肩にめり込み、頭蓋が弾ける。
 どう見てもデウスエクスはもはや動きようがなかった。
「よーし、てったーい。はいはい、雑魚は退くー」
 数体のキョンシーが遅ればせながらやってきたのを、如意棒の乱打で倒しながら、えにかが言う。
 エレを背負う宵一に飛びかかるキョンシーは、リリシアが凱歌代わりの『瞳の中の箒星』で退けた。
 かくして、巣山古墳に巣食っていた全てのデウスエクスを倒したケルベロスは、光の待つ外へと向かうのであった。

作者:あき缶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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