失伝攻防戦~命の行方

作者:質種剰

●不似合いな資料
 とある会社の資料室。
 埃臭い段ボール箱が山となって積み重なる中から、丸まったポスターや誰と知れない人物の銅像が顔を出している。
 そんな光景の片隅、異様なモザイクの塊があった。
 ワイルドスペースにしてはかなり小ぶりの平たいモザイクである。人1人寝転ぶのがやっとという大きさだ。
 だが、そのモザイクはますます萎んで小さくなっていき、遂には完全に消滅した。
 後に残ったのは、今までワイルドスペースの内部に在ったと思われる藁の塊。
 その氷室の中身が、凍りついて横たわっている女性というのだから異様である。
 ワイルドスペースに守られていた事と言い、この会社の資料でないのは確かだ。
 一方で。
 今しも魔空回廊から現れたドリームイーターの姿があった。
 エプロンドレスの上からすっぽりフード付きマントを被り、右手には花をペイントした猟銃を持ち、左手にはモザイクの詰まった籠を提げている。
 さながら童話の主人公のような風貌だが、剣呑な瞳がギラつく人相の悪さだけはどうにもならない。

●切り札の人質
「緊急事態であります、ジグラットゼクスの『王子様』を撃破と時を同じくして、東京上空5000mの地点に、ジュエルジグラットの『ゲート』が現れたであります」
 小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が、緊迫感のこもった声で説明する。
「そのゲートからは『巨大な腕』が地上へと伸び始めたのであります……」
 この『巨大な腕』こそ、『王子様』が最後に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』である可能性が高い。
「本来ならば、この『ジュエルジグラットの抱擁』は、創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を完全に支配する止めの一撃だったと思われます」
 しかし、ケルベロスが『創世濁流』を阻止した事で、その目論見を潰すのに成功した。
「東京上空に現れた巨大な腕は大きな脅威でありますし、打ち破るには、全世界決戦体制を行う必要がある程の危険規模であります」
 しかし、ジュエルジグラットのゲートを戦場として戦う以上、この戦いに勝利する事ができれば、ドリームイーターに対して致命的な一撃を与えられる筈だ。
「勿論、この状況はドリームイーター側も理解しているでありましょうね」
 その為か、ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達は、ケルベロスとの戦いの切り札として用意した人間達を、急遽、ゲートへ集めるべく動き出したという。
「ドリームイーターが回収に動いているのは、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)殿の調査によって探索が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』達であります」
 元々は、介入の余地がないタイミングで行われる事件だったが、日本中でケルベロスが探索を行っていた為に、この襲撃を予知して件の人物が連れ去られる前に駆け付ける事が可能となった。
「ドリームイーターが彼らを利用して、ジュエルジグラットのゲートの防衛を固める前に、どうかドリームイーターを撃破して彼らを救出して下さいませ」
 かけらはぺこりと頭を下げた。
「さて、皆さんに戦って頂きたいのは、ジグラットゼクス『赤ずきん』の配下、グリーディーの赤ずきんであります」
 グリーディーの赤ずきんは、手にした猟銃による、破壊力に優れた狙撃を行う。
 この猟銃狙撃は敏捷性に優れ射程も自在、時には命中した敵の攻撃グラビティの威力を下げる事もある。
 また、理力に満ちた美味を象る鍵で斬りつける事で、近くの敵複数を巻き込み、言い知れぬ威圧感を与える。
「稀に、モザイクイーティングなる技を用いて、自らの怪我と状態異常を治癒するでありますよ」
 使用グラビティについての説明を終えるや、眉を顰めるかけら。
「実は……グリーディーの赤ずきんが『自分が敗北する可能性が高い』と判断した時に、失踪していた『失伝したジョブに関わりのある人物』を魔空回廊からゲートへ送り届けようと行動を起こしてしまうのであります」
 この行動には2分程度かかる為、その間赤ずきんは無防備になり、戦闘を有利に進められる。
「無闇にグリーディーの赤ずきんへ負けを意識させてしまうのは危険でありますが、状況が状況だけに上手く使えばかなり有利に戦えるでありましょうね」
 かけらはそう纏めてから、慎重に言葉を選んで付け足した。
「……グリーディーの赤ずきんは、ケルベロスの皆さんが囚われていた人間を攻撃する可能性を微塵も考えてないようです。できれば避けたいところですが、彼らの身柄が奪われそうになった場合は……殺害してでも止めるべきなのかもしれません」


参加者
久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)
天野・夕衣(ルミノックス・e02749)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)
丹羽・秀久(水が如し・e04266)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
冷泉院・卯月(壱七八あーる・e21323)

■リプレイ


 建設会社の廊下。
「『土蔵の中で、ドワーフ洞の中で、塗り込められし血の呪い』か……この一節、好きになれねぇな……」
 アバン・バナーブ(過去から繋ぐ絆・e04036)は、資料室へ向かう最中、失伝調査で得た情報の一節を呟いていた。
 まるで鮫の背鰭みたいに逆立った蒼い髪や、考え深そうな瞳と同じ橙色のスカーフが特徴の、ドワーフの少年。
 数多の霊に憑依され、幾度も生死を彷徨った末に刀剣士として目覚めた経緯を持つ。
 それらの霊は地下の故郷を失った際に殺された同胞達だと信じているアバン。自らに憑りついた霊魂の助けを借りて今も戦い続けている。
「まぁ、直接の関係は無いんだろうけど、さ……今はとにかく目の前の事だ。後の事は、それから考える」
 ひと気のない地下の一隅、資料室の扉の前に立って、アバンは気合いを入れ直した。
(「ん……あんまり、考えたくはない、けど……万が一の時は……この手で……」)
 リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)もまた、無言の中に強い決意を秘めて、暗い室内を見つめる。
 容姿に違わず精神面も実年齢より若干幼いが、以前は薬物で精神を操られ、暗殺に手を染めていたとか。
 そんなぼ〜っとした性質故かあまり感情を表に出さないが、仲の良い義兄に対しては素直な反応を見せる事もある。
(「……わたしの、手は……元々汚れているのだから……罪を背負うのは、わたしだけでいい……」)
 悲壮な覚悟を胸に、リーナは隠密気流を身に纏って、懸命に気配を殺している。
 一方。
「後味悪いのは勘弁だしな。実際その時になったらどうするかはともかく、気持ちは絶対に何としても救出するつもりでいかないと」
 久我・航(誓剣の紋章剣士・e00163)は気負い過ぎないように努めつつも、いつも以上に真剣な面持ちで室内へ侵入、件の氷室とグリーディーの赤ずきんを探した。
 童顔にコンプレックスを持った、現役高校生ケルベロスの航。
 その為か『イメージと違う』等と言われるのを嫌い、普段は外見通りの立ち居振る舞いを心がけている。
 性格は冷静かつクールで、時には素の乱暴な口調が出る事もある、鋭いツッコミを使いこなす自称村人Aだ。
「しっかし暗いな……電気、電気……あった!」
 背丈へ迫る高さまで乱雑に積み上げられた段ボール箱の奥、隠れていたスイッチを押して、資料室の電灯を点けた航。
「チッ……」
 グリーディーの赤ずきんは、資料室にぞろぞろと入ってきた8人がケルベロスと察したのか、人影を見るなり猟銃をぶっ放してきた。
 バァン!!
「痛ッ……って怖っ! 顔怖っ!!」
 航は肩を撃たれながらも、痛みより何より赤ずきんの強面が気になるのかツッコんでいる。
「随分とワイルドな赤ずきんね。あれじゃ狼もおばあちゃんも恐怖で逃げ出すでしょうね」
 すかさず浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)が、ゾディアックソードを地面に突き立てた。
 かつては奴隷として酷使されていた、黒豹のウェアライダーの女性。
 平常時戦闘時共に人型を貫き、耳も収納して地球人を装っている。
 心優しい性格だが怒ると鬼の様に凶暴になり、戦闘は常にクールに徹するという。
 また、密かに貧乳である事を悔やんでいるそうな。
「火力を下げられてしまうのは、地味に厄介よね……」
 と、いかな異常をも見逃さずに治癒する姿勢の響花は、地面へ光る守護星座を描いて航を回復させた。
「……」
 グリーディーの赤ずきんが仲間へ気を取られている隙に、奴の死角から回り込んで近づき、霊刀「鳴月」を音もなく抜くのはリーナ。
「その人を利用なんて、させないよ……!」
 ——ドスッ!
 雷の霊力帯びし刀身を瞬きするよりも速く、赤ずきんの背へと突き刺していた。
「銃火器持った赤ずきんとかどこのゲームだよって感じだな。……なんて、今更か」
 航も愛用の日本刀を構えて、こちらは正面から赤ずきんへ肉薄。
「まぁ何にせよドリームイーターの好きにさせてやる義理なんかないし、さっさと目論見潰させてもらうとしますかねっと」
 三日月の如き弧を描く斬撃を繰り出し、奴の足の腱を的確に斬り裂いた。
「鬼さんこちら。手の鳴る方に、って感じかな」
 ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)は胸部を変形展開させて、コアブラスターの発射口にエネルギーを溜め始める。
 ピンクのお下げ髪と大きな黒い瞳が可愛い、レプリカントの女性。
 性格は明るく快活で、デウスエクスに苦しむ人々を助けたいという強い思いから鎧装騎兵になったそうな。
 また、抜群のスタイルを自覚しているかは判らないが、日頃から露出度の高い服装を好んで着るらしい。
「当たれっ!」
 必殺のエネルギー光線を照射、何とか赤ずきんの意識を自分に向けんとするミスティアン。
 空を裂いた光の帯はグリーディーの赤ずきんに難なく命中、破壊力充分の一撃を与えた。
「さぁ、赤ずきんさん狼さんの登場です」
 と、ブラックスライムを胴から解き放つのは、天野・夕衣(ルミノックス・e02749)。
 背中まで伸びた灰色のロングヘアをオレンジ色のリボンでゆるく纏めて、肩から手前に流しているオラトリオの少女。
 橙色の瞳やシックなワンピースともども、柔らかくも大人っぽい空気を醸し出している。
 いつも笑顔で楽しそうだが、その実は本心をあまり語らず、人から尋ねられても誤魔化す事が多い。
 夕衣のけしかけたブラックスライムは捕食モードに変形して、グリーディーの赤ずきんを丸呑みしようと喰らいつく。
(「まずはじんわりと削り作業ですね……向こうに有利と思わせる為なら、1〜2発外してみるのも手でしょうか」)
 グリーディーの赤ずきんが捕まってもがく様を眺めながら、夕衣は笑顔の裏で冷静に策を講じていた。
「へっ、俺一人で十分だぜ!」
 そして、夕衣と同じ作戦を考えて、今しも実行に移すのはアバン。
 大地をも断ち割る威力の強烈な一撃を仕掛け、グリーディーの赤ずきんが避けるのへ合わせてわざと命中させなかった。
「何ィ!?」
 それでいて、地裂撃が外れたのを本気で悔しがっている風に見せかけようと、噛ませ犬っぽい演技に努めた。なかなかの役者である。
「一般の方を巻き込む心配が無いのは有り難いですね。心置きなく戦うとしましょう」
 丹羽・秀久(水が如し・e04266)は、小型治療無人機の群れを展開。自分含めた前衛陣の守りを固める。
 大きな事故で両親を亡くしてから、孤児院にて育った鎧装騎兵の男性。
 孤児院を出るときに貰った『想い出のカメラ』で、色々な写真を撮るのが趣味らしい。
 流れる水のように生きたいと本人は思っているのだが、周りからは却って自分の芯がないように見えているとか。
(「しかし、万が一、人質を殺害しなければいけなくなったら……女性陣や年下に咎を背負わせるわけにはいかないですね……」)
 秀久もリーナと同じように、凍らされている失伝ジョブ関係者がもしも奪われそうになった場合の対処として、口には出さず覚悟を決めているのだった。
 他方。
「この場合、桃ずきんと呼んだ方がいいんでしょうかぁ~? そうなると赤ずきんさんの下には何色くらい揃っているんでしょうねぇ~」
 ことりと首を傾げて素直な疑問を口にするのは、冷泉院・卯月(壱七八あーる・e21323)。
 腰に届く程の長い髪をワンサイドアップで括った、ロップイヤーが愛らしいウェアライダーの少女だ。
 2匹の愛兎、腕白なぶちくんとおっとりなたれちゃんを大切にする一方、変わったファミリアロッドを見つけるのもマイブームだそうな。
 かようにおっとりした雰囲気のお嬢様だが、実は見た目に反して趣味がバイク。週末ともなればライドキャリバーのシロウサギを乗り回しているとか。
「24色くらいなら楽なんですけど、256色揃ってたら大変そうですよねぇ~」
 今も卯月はシロウサギに跨って突進、炎を纏った車体での体当たりを敢行。
 加えて、ぶつかる瞬間にシートから跳躍して、美しき七彩宿りし急降下蹴りをも見舞った。


 失伝ジョブ関係者の移送開始を可能な限り遅らせる為には、グリーディーの赤ずきんへ不利を悟らせてはいけない。
 そう認識した上で、ケルベロス達は皆、懸命に苦戦を装って戦いを長引かせていた。
「雁首揃えた割には大した事ねぇなぁ!」
 こちらの目論見通り、赤ずきんは自分が優勢だと思い込んで戦いに集中、猟銃をバンバン乱射している。
「うっ……ん……痛い……」
 リーナは弾を受けた脇腹を抑えて、力なくがくりと膝を着く。勿論演技だ。
「けど……わたしの全力で……貴女を滅ぼす……!」
 それでいて、魔宝刃ファフニールで密やかに斬りつけ、赤ずきんの下腹部を容赦なく掻き斬るのも忘れない。
「ぎゃぁああ!!」
 言葉にならない悲鳴が上がった。
「やっべ、何か思ってたより強いぞこいつ!」
 航も演技力を総動員して苦戦を演出、恐れをなした様子で神速の突きを繰り出す。
 刃に宿った雷の霊力が深い刺し傷から全身へ伝わって、グリーディーの赤ずきんの守りを崩した。
「ああ……こりゃ、ナメてかかってたらすぐやられちまうかもな」
 と、グリーディーの赤ずきんの強さを身を以て知るや気を引き締めて挑む——という演技を継続中なのはアバン。
 長期戦を見据えて地面にケルベロスチェインを展開、魔法陣を描いてしっかり前衛陣を守護している。
「ちょっとぉ!」
 響花もかなりの演技派だ。
「誰よ! 大した敵じゃないって言った奴——滅茶苦茶手強いじゃない!」
 日頃の大人しさは鳴りを潜め、神経質そうな女性になりきってヒステリックに叫んでいる。
「もう回復だけで精一杯よ!」
 満月に似たエネルギー光球をぶつける際も、焦って力任せにぶん投げた。
 勿論外す事はなくリーナへ命中、傷を癒すと共に凶暴性を高めている。
「星よ、切り裂け! スターショット!」
 ミスティアンは、光の手裏剣を勢いよく投げつける。
 大きな五芒星が正確な軌道でグリーディーの赤ずきんを捕捉し、その薄い胸を一気に切り裂いた。
「こんな、手強い敵と戦うのは初めてです」
 夕衣も仲間達に合わせて、いかにも自分の方が不利な様を装い、びくびく震えている。
 そして、判断ミスの振りをしてケイオスランサーを仕掛けては、鋭い槍の如く伸ばしたブラックスライムの穂先で、スカッと空振りをしてみせた。
「少したりとも気は抜けませんね……」
 と、精神を極限まで集中させるのは秀久。
 すると、狙い通りにグリーディーの赤ずきんの右腕が突然爆発した。ファンシーな猟銃とて無事では済むまい。
(「個人的には、人質さんの命を奪うのは避けたいですけどぉ、最悪の場合は仕方ありませんねぇ〜」)
 卯月はシロウサギに乗ったまま、グリーディーの赤ずきんとつかず離れずの距離を保って走っている。
 シロウサギが赤ずきんの足を轢き潰すのへ合わせて、自らは地獄の炎弾を放ち、グリーディーの赤ずきんの生命力を奪った。


 ケルベロス達は——わざと攻撃を外すなどの演出も功を奏して、グリーディーの赤ずきんへ気取られる事なく、上手く長期戦に持ち込んでいた。
 だが、幾らグリーディーの赤ずきんを欺き続けたとて、体力の限界は迫ってくるもので。
「くっ……ゲートへの転送だけは、完遂しなければ……!」
 戦闘開始から十数分後、グリーディーの赤ずきんは自らの敗色濃厚とようやく悟って、戦闘態勢を解いた。
 そして、広げた両手を例の氷室に向けて精神集中を始める。
 ふわ、と重そうな氷室が宙に浮いた。
「させるかっての! 一気に決めてやる!」
 すぐに航が日本刀を引き抜き、グリーディーの赤ずきんとの距離を一気に詰めた。
「貫け! 流星牙!」
 エンブレムミーティアからヒントを得たという、紋章の力を借りた神速の突きを見舞って、動けない赤ずきんの喉をグサリとぶっ刺す。
「勝てねぇと悟りやがったか! ならこっからは加減抜きで行くぜ!!」
 アバンも噛ませ犬の演技をやめて、棒状に束ね固めたケルベロスチェインを指先でなぞる。
 一度は飛散した霊力を再度集約させると、解き放った光の奔流でグリーディーの赤ずきんを飲み込み、焼き尽くした。
「集え力……わたしの全てを以て討ち滅ぼす……! 討ち滅ぼせ……黒滅の刃!!」
 次いで、戦場に散る魔力やグラビティを強引に自身へと集束させるのはリーナ。
 それらと自身の魔力の全てを、身体能力の強化及び黒く輝く一振りの魔力刃の生成へと費やし、限界を超えた神速と圧倒的な破壊力の一撃をグリーディーの赤ずきんに浴びせる。
 奴の肩から胸にかけてがぐしゃと潰れた。
「躊躇わず……払う」
 固い声音と共に、グリーディーの赤ずきんへ払い蹴りを喰らわせて宙に浮かせる響花。
 今は殊更無防備な奴へ向かって多種多様な蹴り技を絶え間なくぶち当て、まるでサンドバッグを相手しているかのように蹴り続けた。
「人質を奪われる訳にはいかないね」
 ミスティアンも今使えるグラビティの中で一番威力の高いコアブラスターを撃ち込み、グリーディーの赤ずきんの体力を着実に削っていく。
「その太刀筋、水の如し……」
 秀久は神斬り長谷部の刀身を手の指で挟むと、溜めによる斬撃を放つ。
 狙い澄ました秘剣【如水】がグリーディーの赤ずきんを正面から襲って、その胸をバッサリと斬り裂いた。
「攻撃を見切ってるのに避けられない気分はどうですかぁ〜? というか、移送をやめて避けてくれても、全然構わないんですけどねぇ〜」
 卯月は無自覚に毒を吐きつつ、言葉通りに1分前と同じファナティックレインボウをぶちかます。
 現に、卯月だけでなく航やリーナ、アバンに秀久、響花も赤ずきんが無防備なのを良い事に見切り覚悟の同能力かつ高威力グラビティを連発、見事に命中させていた。
「Aliis si licet,tibi non licet」
 真紅に染まった右目でグリーディーの赤ずきんを視界に入れるのは夕衣。
 奴の心の傷に形を与えて具現化すると同時に、その精神を砕き尽くし、遂にトドメを刺したのだった。
「ふぅ、なんとかなりましたね……ドリームイーターとの戦い……ジュエルジグラット……失伝……事態は大きく動きそうですね」
 ほっと安堵の息をつく秀久。
「さて、何はともあれまずはヒールか」
 航が床に墜落した氷室へ駆け寄る。
 早速藁を払ってヒールを試みるも、中の女性は凍りついたままに見えた。
「困ったわね。解凍しようにも電子レンジに入らないし」
「いやいや、人1人入る電子レンジとかどんだけデカいんだよ!!」
 真顔で首を捻る響花に鋭くツッコむ航。
「とりあえず……ヘリオンに運ぶのが、良いと思う……」
 リーナが静かに言う。
 氷は徐々に解け始めていた。
 失伝したジョブの関係者たる和崇がいずれ目を覚ますと信じて、ケルベロス達は彼女を外へ運び出した。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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