失伝攻防戦~風にまかするなよ竹の群

作者:ほむらもやし

●始まり
 崩れかけた廃屋、その一室を満たしていたモザイクが薄らいで、程なくして消えた。
 これがこの場所あった、極小規模のワイルドスペース消滅の顛末。
 果たして、畳を突き破り育ちかけた真竹が、天井に阻まれて枯れているような荒れ果てた四畳半間の中心に、長さ六寸ほどの繭のようなものが横たわっている。その中には固まった人体のようなものが見える。
 廃屋の周囲には真竹が茂っていて遠目には藪にしか見えない、ここに立ち入った人間はもう何年もいなそうだ。
 だが、あばら屋の中に魔空回廊が現れる。
「こりゃあひでえな」
 回廊から出て来たのは、赤い頭巾を被った少女だった。
 手にした猟銃で歪んだ床を突いて、状態を確かめるようにしながら、部屋に踏み入る。
「おおうあった。これだな」
 そう言って、少女は肘に掛けていたバスケットを波打つように歪んだ畳の上に置くと、歯を出して笑った。
●ヘリポートにて
 東京上空5000メートルにジュエルジグラットの『ゲート』が出現が観測されたのは、ジグラットゼクスの『王子様』の撃破とほぼ同時だった。ゲートから出てきた巨大な手は、間も無く地上を目指して伸び始める。
 それを目にした、ケルベロスたちは口々に言う、これが『王子様』が最期に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』なのかと。

「東京上空の異変は、もう聞いているよね?」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は問いかけると、確かめるように、あなた方、ひとりひとりの顔を見つめる。
「流石だね。じゃあ話は早い。僕たちの当面の目的は、このゲートへの戦力集結の阻止。今から実施する作戦では戦力集めの為に、各地に赴いたドリームイーターを各個撃破する」
 ドリームイーターが集めているのは、対ケルベロス戦の切り札として各地の極小ワイルドスペースに拉致していた『人間』だ。
「拉致されている『人間』は『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』であり、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって、探索が進められていた者たちだ」
 敵の動きに全く隙はなかったが、それでもなお予知できたのは、あなた方ケルベロスが日本中の探索を行ってくれたおかげ。ケンジはそう感謝を込めて労うと、敬意を込めて頭を下げた。
「敵は、ジグラットゼクス『赤ずきん』の配下、グリーディーの赤ずきんが一人。武器は猟銃と鍵。狩人譲りの攻撃力を持っている」
 グリーディーの赤ずきんたちが、作戦に抜擢されたのは、バスケットを用いた運搬回収に秀でている為だが、仮に敗北しそうになっても、命を惜しまずに任務を全うする信頼の厚さに依る。
「グリーディーの赤ずきんを、敗北を覚悟させる程に追い詰めれば、必ず、被害者を魔空回廊から送り出そうとする。しくじれば救助が失敗するリスクを孕んではいるけれど、決定的な隙でもあるよね」
 魔空回廊に送り出すのに必要な時間は2分ほど、敵が無防備同然となるこの時がピンチでありチャンスになる。
 尚、戦場となる廃屋は竹藪同然であるため、戦闘による被害は考慮する必要は無い。
「敵は次々と新たな手を繰り出して来る。すごいパワーだよね。正直、苦しいよね、でも敵も苦しいはずだ」
 勝負事は忍耐である。
 万感を込めて告げると、ケンジは出発の時が来たと告げた。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)
貴石・連(砂礫降る・e01343)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
水咲・玲那(月影の巫女・e08978)
長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)

■リプレイ

●捕捉急襲
 粉雪混じりの強い風が吹きすさんでいた。
 空を覆う雲の流れは早く、時折差し込む薄日はたちまち隠されてしまう。ザワザワと音を立てて揺れる竹藪、上空から見ても、そこに家があるとは分からなかったが、近くに降り立つと傾きかけた家の玄関が見える。
「折角、相手の動きに追いつけたのだもの、このまま結果を残していきたいわね」
 着地と同時、ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)は走り出した。一瞬遅れた、貴石・連(砂礫降る・e01343)も、負けじと、地を蹴って駆ける。
 なお、竹はかなり密に生えていて、体型が平坦な連の方が、スタイルが良いユスティーナよりも早く先に進むことができたことは、当然の結果であると言える。
「そこまでだよ、赤ずきん! 狼ならぬ番犬の登場だ!」
「なんだおまえら?」
「問答無用ッ!」
 気迫のこもった叫びと共に発動した魔人降臨が連の身体を禍々しい呪紋で覆い尽くして行く中、次々と踏み込んできたケルベロスたちの重量でミシミシと床が歪み、傾いてゆく。
 繭を送り出す段取りを阻まれた赤ずきんは、予期せぬ敵襲に驚きつつも構えを取る。
「間に合ったようね。さあ行きますよ」
 油断無く周囲を警戒しながらユスティーナは、ルーンアックスを掲げる。宿された破壊のルーンから迸る輝きが、力を与える、輝きに照らされる竹の緑を映す瞳はより緑を深めて、その眼光には確固たる意思が漲った。
 敵の力量は読み切れない部分もあるが、8対1の戦力差があれば、負けることはないだろう。
 西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)は、冷静に敵の戦力を見定めると、全身を地獄の炎で覆い尽くした。勝ちすぎてはいけないという難題は、茹でカエルの理屈と同じ、湯加減が肝要だ。
 とはいえ、仕掛けなければ、敵は倒せない。
 思いを巡らせたのは一瞬のこと。砲撃形態と変えたドラゴニックハンマーを構えた、萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)は、迷わずに竜砲弾を撃ち放った。次の瞬間、爆炎が弾けて、崩れかけていた屋根が吹き飛んだ。
「はは、やり過ぎたか」
「それは無いでしょう。こんなボロ屋、崩れないほうが、おかしいと思わないかい……フッ」
 ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)は、そう言い置いて、敵――赤ずきんの前に堂々とした態度で踊り出た。廃屋と言うよりは、もはや散乱する瓦礫という有様だが、拉致被害者を包んでいる繭のような物には特殊な力場が働いているのか、変わらずに、元と同じ位置にあるようだ。
「我が名はラハティエル、ケルベロスが一員!  邪悪な強奪者よ、我が黄金の炎を見よ! そして、絶望せよ……フッ」
 名乗りを上げて、満を持して、繰り出すのは、月光斬。次の瞬間、千年王国の秘蹟とも言われる刃の軌跡が宙に緩やかなカーブを刻んだ。
「おっと、あぶねぇあぶねぇ、うっかり斬られるところだったぜ」
 踵で後ろに跳んだ、赤ずきんは慣れた手つきでボルトハンドルを引くと、素早く引き金を引く。乾いた音と共に放たれた弾丸がラハティエルの耳元を掠める。
「ボルトアクション方式では連射はできまい。戦術的に……フッ」
「さあ、それはどうかな?」
 赤ずきんはニヤリと笑うと超高速で排出と装填の動作をやってのけて、次々と弾丸を撃ち放った。
「ふえぇ、あんな銃で連射なんて、怖いよぉ……ま、まずは守りを固めないと……!」
 わざとらしく、かつ大げさに言い放ってから、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は、身体を覆う装甲を輝かせる。天井がなくなったあばら屋の中に無数の銀色の粒が満ちて、狙い通りに前衛の面子の超感覚の覚醒に成功する。
 赤ずきんの猟銃の操作に注意を払いつつ、長篠・ゴロベエ(パッチワークライフ・e34485)は、身体の前に金色に輝く光の盾を具現化させると、崩れかけた壁の陰から歩み出て、足を止める。
(「打って出るにはまだ早いな」)
 握りしめたマインドリングに意識を集中させて、身構えるゴロベエ。その後方で、二振りの刀を構えた、水咲・玲那(月影の巫女・e08978)が、心眼を覚醒させる。
「序盤はエンチャント重視です」
 いつでも遠方からの一撃を加えられるように、敵の動きを注視して、時が来れば仲間と共に打って出るつもりだ。

●持久戦
 頭上を見上げれば、薄墨を流れに撒いたように雲が流れていた。巨大なボリュームの膨らみが近づいて来たかと思うと、すぐに見えなくなって、薄日が射して来る。かと思えば、また次の雲の塊がやって来て粉雪を降らせて行った。
(「今回は完璧にやり遂げてみせますよ」)
 身体を覆う地獄の炎を重ねて、攻撃の時を測る正夫の脳裏に、かつてハクロウキを取り逃がした記憶が走馬燈のように巡る。後から正解が分かっても時間を巻き戻すことは出来ない。だから今、身も心も捨てて成すべきを成すだけだ。
「屋根が無くなって、随分やりやすくなったな」
 楼芳は大粒の雪が舞い始めた空に飛び上がると、上からは赤い目印のように見える、赤ずきんの頭部を目がけて落下を開始する。上を見上げた赤ずきんの手元が煌めくと同時、撃ち放たれた弾丸が分裂する。
「させませんっ!」
 無数の礫がシャワーの如くに襲いかかるかに見えた瞬間、その射線に割り込んできた連が、その身体で全てを受け止める。瞬間、白銀の装甲を砕いて身体に突き刺さった礫が、その高熱で装甲の内側から身体を焼く。猛烈な激痛に気が遠くなり、受け身の姿勢も取れないままに落下する連。演技では無く、本当の痛恨の被弾だった。
 だが、そんな連と入れ替わるようにして、楼芳は加速し、流れるような動きから繰り出す蹴りは流星の如き強い煌めきを帯びて、猟銃を構える赤ずきんに衝突した。
「ギャッ!!」
 予想外の直撃と、ダメージの大きさに赤ずきんの足がふらつく。
(「敵を倒し、人質を救助しろ、と。私が作戦立案するなら、急襲部隊が廃屋に突入して敵を抑えている間に、救出部隊で人質の身柄を確保、そのまま脱出させるところだが……まぁ、この人数で2手に別れたら、各個撃破されておシャカというところか、人質の状態も不明と来れば、戦術的にダメ過ぎるな……フッ」)
 雑念は多かったが、タイミング良く、繰り出された、ラハティエルの電光石火の蹴りが赤ずきんを強かに打ち据えて、よろめく身体を崩れ落ちた床に叩きつける。
「くっ、てめえらなかなかやるじゃねえか、だがまだまだだぜ!」
(「拙いわね、もう少し、うまく時間を稼げないのかしら?」)
 ラハティエルに視線で訴えつつ、ユスティーナは深傷を負った連へと癒しの手を差し伸べる。
「ありがとう、まだ、もうしばらくは、倒れるわけには行かないから……」
 砕けた装甲を引き剥がし、連がかつて喰らった魂を呼び醒ますと、その魂は彼女の肉体に憑依して禍々しい呪紋を全身に浮かび上がらせる。それと同時、全身に穿たれた傷口から礫がひり出されて、その傷も急速に塞がって行く。
 一方、ゴロベエは敵の攻撃を受け止める為に、自身の守りを固めることに夢中だった。
 そんなタイミングでカラフルな爆煙が後ろから前へと吹き抜けて行く。前衛への支援に目処を付けた、和が今度は後衛に向けてブレイブマインを発動したのだ。
 爆風に背中を押されて、身体と心に力が漲る玲那。研ぎ澄まされた意識の力に手にした刃の輝きが増す。
「集え、蒼き冷気。凍てつく刃よ、我が敵を切り裂け!」
 凜とした玲那の声が響くと同時、冷気を纏った一撃は赤ずきんの身体に凍てつく傷を刻みつけた。

●定められた時間
 一対一で見れば力量は赤ずきんの方が圧倒的に上、だが、この人数差を保てれば遅れを取らないだろう。
 それが、誰もが抱きそうな認識であった。
「きゃあああっ!」
 そんな中、ただひとりボロボロになっている者がいた。
「おいおい、嬢ちゃん、もしかしてそっちの趣味があるのか?」
「何バカなこといっているの。そんなわけないでしょう」
 演技とか、全く無しの本物の苦痛に苛まれながら、再び魔人降臨を発動した連が、ふと上を見上げれば、雲の間から差し込む金色の薄日に雪がキラキラと輝いていていた。
「……だよ、な。どうにも合点が行かないことが多すぎる」
 刹那の逡巡の後、赤ずきんは、もはや原型を留めていない畳の上に猟銃を突き立てると、輝くオーラを発散させ始める。
「あ、あとは……えっと、えっと……ここから、攻撃時、だー……!」
 和の声が上がる。
 次の瞬間、振り上げたチェーンソーをオーラに包まれた赤ずきんを目がけて振り下ろす。
  回転する刃が、唸りを上げて火花を散らし、重ねられたバッドステータスが一挙に花開く。
 予定よりも早く、しかも余力を保有した状態で敵が先手を打ってきたことは、重大な懸念であったが、こうなってはもう、全力で攻める以外に手はない。
 いいや正確には拉致被害者を亡き者にしてしまえば良い。そのように考えを抱く者も少なくはなかった。
「無防備になってでも作戦を遂行する心意気、見事だ。ならば、そのまま大人しく潰れてしまえ」
 一方で、楼芳に目の前の敵を倒す以外に迷いはなかった。機を逃すことなく、一挙に間合いを詰めると、竜の腕の如くに変え、巨大化させた左腕を叩きつけた。
 次の瞬間光の粒を散らしながら、赤ずきんの身体の端が崩れた。
「たったこれしきかよ」
 歯噛みする楼芳の脇を抜け、入れ替わるように前に出た、ラハティエルが炎の翼を広げながら吠える。
「我が鮮朱の炎こそ、殲滅の焔! 揺らぐとも消えないその劫火は……地獄の中でも、燃え続ける!」
 羽ばたきから生み出された朱色の輝きが巨大な波となって、赤ずきんに襲いかかり、巨大な火柱が立ち上がった。
 壮絶なダメージを受けてなお、赤ずきんは動じることなく、転送作業を続けている。
 直後、攻撃を畳みかけようとする仲間に向かって、ラハティエルは声を上げた。
「我らケルベロスこそ、この星の正義。敵の策略を怖がってどうする? むしろ民間人を手に掛けたことが知られれば、世論の支持という最大の武器を失うことになる。いくら戦いに勝っても、戦争には負けるパターンだぞ。戦略的に……フッ」
「守ろうとしたのなら、最後まで貫きませんとね。……戦いが不利になるからと言うだけで、奪っても良い命なんてありませんよ」
 絶対に助けましょう。
 正夫は、ラハティエルとすれ違う刹那に言い置くと、愛する家族を守る力を求めて大岩撃ち千日行を行った男の拳 を赤ずきんに叩きつけた。
 今更なことかも知れませんが、此処に来たのは、なんの落ち度もないのに拉致され、洗脳され尖兵にされようとしていた人を助けたい。そういう純粋な気持ちからだったと思います。
 それだけしか出来なくて良いから、精一杯やりましょう。
 それが今、果たせる役目を果たすということです。
 正夫の思いに自分の決意を重ね合わせるようにして、ユスティーナは癒しの為に振るい続けた力を傷つける力に変える。
 本当は自信なんて無いけれど、やるしかない。
 行動した者の前にしか、望む未来は拓かれないから。
 決意を孕んだ眼差しで、ユスティーナは、ゴロベエ、続いて連の攻撃に曝される赤ずきんの方を見据えた。
「たとえこの身が滅んだとしても、魂はけして砕けることなく明日を謳う」

●終わりに向かって
 心の内に紡がれた詩と信念をユスティーナは舞いの形として体現する。激しく、しなやかに、それでいて理不尽をも孕んだ動きは、鎧装の実体へと集約され、繰り出される破壊の力は完成されたアーツとなって、赤ずきんに叩きつけられた。
「がはあっ!」
 直後、輝いていた赤ずきんの身体は、寿命を迎えた蛍光灯のように明滅する。
「やった、のかしら?」
「いいえ、まだでしょう。ですが、これで終わりです!」
 凜とした玲那の声が響くと同時、突き出した刃の一撃が明滅する身体に刻まれた傷を正確になぞる。
 幾重にも重ねられたバッドステータスが再び花開き、赤ずきんは立っているのがやっと、という様子だ。
 被害者を包む繭が送り出されるまで、恐らくは30秒程度しか残っていないだろう。
(「ドリームイーターに洗脳されたら、それは死んだも同じ。その前にあたしたちの手で……」)
「つべこべ考えるな、急げ!」
 最悪を回避するために、転送されようとしている繭に意識を向ける者も出始める中、楼芳の放ったフロストレーザーが赤ずきんの胸を貫き通す。
 貫かれた勢いで、地面から足が浮き上がり、後ろに倒れゆく赤ずきん。
 そこに迫るのは正夫、そしてラハティエル。
 救助対象は殺させない。若い者に穢れ役を負わせるわけには絶対に行かない。
「これが最後のチャンスです」
「妥当な認識だな、戦術的にも……フッ」
 極限まで高められた2人の連撃の前に、想定以上の粘りを見せていた赤ずきんも、遂に崩れ落ちた。
 それと同時に、送り出されようとしていた繭は、地面の上に落下して、周囲に満ちていた禍々しい気配も消えた。
「君には、何にも、持ち帰らせはしないよ……!」
 命を砕かれた赤ずきんの身体が大輪の花が散るように霧散して行く様に、和がぽつりと呟いた。
 命を懸けてまで果たそうとした赤ずきんの努力は水泡に帰して、ケルベロスたちの作戦は大成功に終わった。

 果たして、次の一手を繰り出そうとしていた、和と連とゴロベエとが、ホッと脱力したように腰を下ろした。
 玲那はその姿を見下ろしながら静かに息を吐く。
 特別な思いがあったわけではないが、とにかく被害者を助けられたことは嬉しかったので、笑顔を浮かべる。
「これで終わりですね。みんな、お疲れ様です!」
「確かに疲れたね。一時はどうなるかと思ったよ」
 自身を落ち着かせようと、出来るだけ普段通りに振る舞ったゴロベエは、心の裡を悟られまいと明るく言った。
「ホント、助けられてよかった」
「それはそうと、連さんばかり被弾するものですから、ヒヤヒヤしましたよ」
 ボロボロになった連の言葉に、正夫が頷き、その健闘を称える。その様子をみたゴロベエは同じディフェンダーとして少し複雑な気持ちになる。そう、『庇う』という行動には、それをしようとする積極的な意思がなければ、なかなか成功しないものだ。
「さて、助けたは良いけど、これ。どうするんだ?」
 楼芳はうっすらと人体のようなものが透けて見える繭を指さして、肩を竦めた。
「とりあえず、早く病院に、運ぼう?」
「まあ、それが正しいかな、戦術的に……フッ」
「ところで、どうしていつも、……フッ。って、言うの?」
「それはだな……」
 間も無く、生えていた竹でこしらえた担架に繭を載せて、一行は帰路につく。
 空は雲に覆われたままで、吹きすさぶ風の冷たさは真冬のようだった。しかしケルベロスたちの胸の内には、これから起こる戦いへの熱い気持ちが燃えている。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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