●変調
霊園に近い場所にぽつりと在るこぢんまりとしたその建物は、花屋だったものだ。
都心とは程遠い地方都市の、そのまた外れのうらびれた町。霊園へ定期的に参る者は減り、辛うじて足を運ぶ者らも量販店などで買い求めた花を持参するようになった。結果、一年ほど前に畳まれてしまった小さな花屋。
誰も目を留めず、まるで時間が止まってしまったかのような地。
けれどこの日、不穏な動きがあった。
花屋の傍ら、ひっそりと佇む納屋の内。ごく小規模なワイルドスペースが、ほろりと解けて消えた。
そこに雑具に紛れ置かれていたのは、ショーケースにも似た棺。
何故『ショーケース』ではなく『似た棺』なのか。理由は一つ。裡に一人の女が眠っていたから。豊かな黒髪も、白磁の肌も、全てを凍結された女が。
そこへ一体の道化師が降り立つ――魔空回廊を渡って。
●緊急事態発生
それは緊急事態だった。
ジグラットゼクスの『王子様』を撃破と時を同じくして、東京上空5000mの地点に、ジュエルジグラットの『ゲート』が姿を現し、地上へ『巨大な腕』を伸ばし始めたのだ。
「この『巨大な腕』こそが、王子様が最後に言い残した『この世界を覆い尽くすジュエルジグラットの抱擁』である可能性が高いと思われます」
本来であれば、創世濁流によってワイルドスペース化した日本全土を完全に支配する止めの一撃になる筈だった其れは、ケルベロス達の活躍によって目論見を外した。
とはいえ、東京上空に現れた巨大な腕は大いなる脅威。打ち破るには全世界決戦体制を行う必要がある程の危険規模になる――が。
「ピンチはチャンスとはよく言ったものですよね。ジュエルジグラットのゲートを戦場として戦う以上、この戦いに勝利する事ができれば、ドリームイーターに対して致命的な一撃を与えるられる事も不可能ではないのですから」
時流のうねりを前にして、リザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は拳を握り語り出す。
「当然、この状況はドリームイーター側も理解しているのでしょう」
根拠として挙げられるのは、ドリームイーターの最高戦力である『ジグラットゼクス』達の、『対ケルベロスの切り札』として用意していた『人間達』をゲートへ集めようとする動き。
なお、この『人間達』こそ、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)の調査によって探索が進められていた『失踪していた失伝したジョブに関わりのある人物』である。
「本当なら、此方に介入の余地がない状態で回収する予定だったかと思いますが、日本中でケルベロスが探索を行ったおかげで、この襲撃を予知することが出来ました」
つまり、連れ去られる前に駆けつけ、回収に現れたドリームイーターを撃破し、『人間達』を救出する事も出来る。
これはケルベロスにとって僥倖であるのは間違いない。
●道化師と
そこから先、リザベッタが情報を詳らかにしたのは、一体の道化師姿のドリームイーターが現れる地について。
回収されそうになっているのは、閉店した花屋の納戸にある棺に納められた一人の女性。
敵は奇抜な姿をしているだけあり、残忍にして狡猾。唯一忠誠を誓い尽くすのは、ジグラットゼクス『継母』のみ。
二本のナイフを軽やかに扱い、愚弄する仕草で意思を惑わせ、誘う言葉で命を喰らう。
花屋の敷地は狭いが、面した道路は戦うに十分な広さがある。日中であっても人通りは殆どないので、余人の関与を懸念する必要もないだろう。
とはいえ、気掛かりが一つ。
「敵は『自分が敗北する可能性が高い』と考えた場合、何としても棺に封じた女性を魔空回廊を通じゲートへ送り届けようとするでしょう」
この行動に要する時間は、二分ほど。その間はケルベロス達の攻撃に対し、無防備となる。
「絶対に女性をドリームイーター側へ渡してはいけません。ですが、この二分間を上手く利用すれば、戦いを有利に終わらせる事も出来るはず。上手く、考えて頂ければと……」
具体的な策は実際に戦いに赴く者たちに任せ、リザベッタは一層表情を引き締めケルベロス達に命運を託す。
「ドリームイーターはケルベロス達が囚われている人間を攻撃するとは一切考えていないようです。出来る限り避けたい手段ではありますが、最悪の場合は――いえ、皆さんなら最良の結果を齎して下さると信じます」
参加者 | |
---|---|
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944) |
ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608) |
ソーヤ・ローナ(風惑・e03286) |
佐久間・凪(無痛・e05817) |
八上・真介(夜光・e09128) |
斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026) |
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654) |
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731) |
饐えた闇の中、戸口から射す冷たい光に当てられて、硝子の棺がぼんやり浮かび上がる。
――まるで森に置き去りにされた姫君の棺。
枯れて錆びれた地に舞い降りた斑鳩・朝樹(時つ鳥・e23026)は、イカれた道化を視野に収めて思う。
さしずめ、美を妬む『継母』の差し金か。
「童話の結末を知らぬ道化に、身を以てお教え致しましょう」
けれど決意はどこまでも裡に秘して。
ケルベロス達こそ道化と化す。
●ちぐはぐ道化
相見えた8人と2体の敵対者に、クラウン・クラウンと称される夢喰いは猛然と襲い掛かった。
「残念、外れですよ?」
くねりと捩られた体躯から、不可思議な波動が生まれる。意識を惑わすそれに、盾を担う佐久間・凪(無痛・e05817)と凪の箱竜であるガルム、折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)と朝樹が一斉に動く――が。
「邪魔しないでくださいっ」
「そっちこそ!」
ガルムに足をとられた茜が自分を抑えきれずに怒り吐くと、凪も負けじと言い返す。辛うじて防げた射線は混線の難を逃れた朝樹と、『偶然』の幸運を得たガルムのみ。
「おい! ちゃんと仕事しろよっ」
「いえ……不用意に近付いては、殺されてしまいますので」
出会い頭に喰らわせた竜の砲弾を続けて放ったベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)へは、ハンマーを振り被った八上・真介(夜光・e09128)が牙を剥く。身軽で回避に長けた敵。同種のグラビティを重ねて、見切られぬわけがない。
然して二弾目はひょいと躱される。けれど色硝子越しに世界を見るベルノルトを叱咤した身である真介自身も、握り慣れない得物なせいか、的を外してしまう。
「もう、みんなちゃんとしようよぅ……ねぇ、明日はきっと、今日よりもいい日」
笑顔の明日に出会うために。帰ろう、この道を一緒に。
どこか懐かしさを覚える唄で、夢喰いの攻撃の餌食となったソーヤ・ローナ(風惑・e03286)を癒すヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)の語尾は震えていた。しかもそこへ茜と朝樹が癒しを重ねれば。
「力が無駄になってしまいますよね? そちらの方が後出しなんですから、ちゃんと考えて下さい」
「はぁ、申し訳ありません。どうにも判断力が及ばないもので」
常のとつりとつりとした口調は何処へやら。再び怒りを露わにする茜へ、朝樹は逆撫でするような鷹揚さで一応の詫びを投げる。仲間たちが響かせる不協和音に、ヴィヴィアンの箱竜であるアネリーは戸惑いを隠せない。
「わたくしも随分と舐められたものですねぇ?」
全く足並みの揃っていないケルベロスの様子に、道化師が赤い唇をにぃっと吊り上げた。
「あなた程度の相手、これで十分ということです」
体に流れる獣の血に任せ拳を掲げ、ソーヤが突進する。走るリズムは跳躍するかの如く。けれど大振りな一撃は、醸す余裕とは裏腹に辛うじて敵を捉える程度。
「ガルム、私たちだけでもっ」
内側から崩壊しかねない戦線を、自分達こそが支えなくては。
独りよがりにも近い使命感を胸に凪が魂喰らう拳で敵を打つ。だが戦友である筈のガルムは、凪へ無駄とも思える癒しを重ねてしまう。
「……あア、俺が至らないばかりニ……」
言葉尻に機械音のノイズを混ぜ、エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)は鏡の如き白銀の瞳に的外れな後悔を滲ます。
「手強イ、敵デス……皆様、気をつけテ……!」
此処が優雅な午後を過ごすカフェであったら良かったのに。
木枯らしに蒼穹を映した髪を揺らし、気持ちをそぞろに惑わし。エトヴァは構え長大なライフル銃より放つ凍結光線で道化師を射抜く。
「余計な事はしないで下さい」
「これはとんだ失礼を。以後は留意致しましょう」
庇われたのに柳眉を顰めるソーヤに対し、朝樹は素直に頭を垂れる。これにまた、茜が唸った。
「謝る必要はありません。私たちは私たちの役目を果たしているだけです」
白い髪の合い間から生える羊角のように、茜の感情は完全に捻じれていた。
ケルベロス達の行動は、全てが噛み合わずちぐはぐに見えた。上手く攻撃が入らない事もある。庇えない事もある。庇えたら庇えたで、庇った相手に睨まれもする。
「これは……退いた方が良くないでしょうか? 僕たちの手に負える相手ではありません」
さもこれまでは『こんな体』でも何とかなってきた風にベルノルトが嘆く。
「バカな事を言うな。お前はもっとしっかり攻撃しろよ」
聞きつけた弱気を、普段の穏やかさを何処かに置き去りにしてきたように真介が咎立てる。
「そう言われましても……これまで後方支援ばかりで経験を積んだ僕には、こういう戦闘は……」
歪な刃でクラウン・クラウンの傷を抉じ開ける真介の指摘に、ベルノルトはあくまで真顔で応え。思い切って踏み出した雷纏う一撃が敵を貫いたのに、大仰に瞠目してみせた。
「えと、えと。次の回復は、エトヴァちゃんでいいかな?」
「いいエ。俺より真介殿ヲ、優先して下サイ」
「えええ、そうなのぉ。うう、ごめんなさい……」
エトヴァに回復先を的確に修正されヴィヴィアンは萎れた風。だがアネリーからも不安げに見上げられるぽんこつサキュバスの胸裡の真実は――。
(「これくらい出来なきゃ、ドラマのお仕事はもう来ないよね……!」)
シンガーでありガールズバンドで芸能の世界に身を置くヴィヴィアンの『今』は全て道化。否、ソーヤの星降りの一撃を喰らう夢喰いの視線を、予断なく窺う朝樹もまた。
(「……そろそろ限界、でしょうか」)
同胞を鼓舞する爆風を生みながら、朝樹は双眸を眇める。
馳せる視線の色は、吉兆の黎明の耀き。小さな変化も見逃すつもりはない。依然、デウスエクスは余裕の素振りを見せ続けている。が、それが本心からのものとは考え難い。狡猾な眼が、一切嗤っていないのだ。
「Das Zauberwort heisst――」
一言、発した純度の高い声色で傷を負ったガルムのグラビティ場を解析し、過剰だと分かっている共振の癒しを届けながらエトヴァはわざと膝をつく。
疲弊しているとみせたかった。判断に誤りがあると思わせたかった。少しでも、長く!
――そう。
ケルベロス達の不和は全てが夢喰いを欺く為の演技。外す一手も、無駄と思われる回復も、空回る心も、何もかもが計算尽く。
どれだけ攻撃しようと一人として欠けの出ない戦線に、敵も早晩、此方の計略に気付く筈。それをどこまで遅れさせられるか、その間にどれだけ相手の余力を削れるか、自分達の準備を整えられるか。それこそが分水嶺。
「疾く往け」
巨大ハンマーの柄を握り直し、真介は不意の一撃を放つ。あくまでもシンプルな一閃。されど日陰に育つ草のように目に留まりにくい打撃に、道化師が鑪を踏む。
(「必ず……助けるのです!」)
納屋の奥、眠る黒髪の女性を視野に凪は重力に引かれた蹴撃でデウスエクスの機動力を奪う。
誰の命も与えない、奪わせない、連れて行かせなどしない。
(「この戦いは、ドリームイーターから多くの勝利をもぎ取り、その果てに得たようやくの機会」)
くるりナイフを翻した敵目掛け、ソーヤは脇目も振らずに駆ける。
これはものにしなければならない戦い。
(「使える術は、全て使い尽くしましょう。例え、道化を演じても」)
高速演算の果てに見透かす弱点。尖った鼻先へ鎧をも砕く一撃を叩き込み、ソーヤは濃い化粧に隠された本性を探す。
●真
バラバラにして差し上げましょう。さぁ、ご覧下さい! 残念残念、またの機会に。
道化師らしく無暗に回っていた夢喰いの口が閉ざされたのは、不意の出来事だった。
走り出すでなく、何かを操るでなく――けれどその変化を見逃すケルベロス達ではない。
「お生憎様です、道化師。あなたは既に僕らの罠の中。『それ』を成す事は能いません」
機は既に熟していた。
判断の遅れを指摘するベルノルトへ、怒れる眼差しが向けられる。が、それこそ道化の仮面が完全に剥がれ落ちた瞬間。
「罪業に依らず、裁きの刃は人の身に宿らず――」
代り映えしない黒衣を翻し、ベルノルトは一気に敵へ肉薄する。
「力が命を断ち切るのみ」
ここに至るまでの死を恐れる態度は何処へか。荒ぶ寒風のように凛然と駆けた男は、天の霊力を帯びさせた刃の切っ先を夢喰いの顔面に深く沈める。
貫かれた衝撃にモザイクが散った。しかしクラウン・クラウンが反撃に出ることはない。
(「ケルベロスでなくともグラビティを使える失伝者、か」)
それはぜひとも、生かしておきたいに違いない。できればすぐさま使える無傷な状態で。
デウスエクスの計略へ想い馳せ、真介も渾身の一撃を叩き込むべくドラゴニックハンマーに手をかけた。
扱いに慣れないのは、変わらない。けれど道化を演じる最中、馴染むものはあったはず。
(「眠るには静かだが、寂しいところだな」)
自分の速度に合わせ流れゆく景色の一片、納屋の奥を刹那、真介は瞳に捉え。
(「本当に花があればもう少し華やかだろうに……いや、まだ死んでないんだったな」)
忘れていたものを思い出したように、ぼんやりとした笑みを口元にのみ描き。そうして花を好む青年は、弔いの花を供し続けた女を救うべく力を振るう。
「お前の出番は、此処までだ」
取った背後、構から叩き付けるまでは一瞬。被った痛手に、血しぶきのようにモザイクが中空に花開く。
不和を装い強かに進められていた計略は、少し前より破壊にフェーズを移していた。そして残り時間が定められた今、ケルベロス達は真価を発揮する。
「あたし達の方が演技が上手だったってことだよ」
赤い髪を弾ませ、ヴィヴィアンも天使の羽と青い薔薇の飾りがついた靴で戦場を走った。
もう癒しは必要ない。ひたすらに、打ち、貫き、裂き、仕留めるのみ。
「すこ~し対応が遅かったね!」
「……クゥっ」
進化可能性を奪う超重な一打は、ただの癒し手の攻撃力に非ず。重ねた加護により増した威力に、道化師の膝が笑い。すかさず仕掛けられたアネリーのタックルに、たまらず尻餅をつく。
「おのれ、このわたくしを謀って……っ!」
道化師の顔が、憤怒に染まる。反撃を試みたくもあるのだろう。されど彼は、継母に忠実な下僕。自分を屠らんとするケルベロスより、大事なものがある。
だが。
(「結局のところ、誰かの何かをこの世界から奪うことが赦せないんだと思う」)
静かなる胸の裡。なおも立ち上がった敵へ、茜は鈎爪を持つ獣人の因子を活性化させつつ、己が結論に至る。
デウスエクスに『彼女』を奪わせないのは勿論。
自分達でその命を奪うという選択肢も、許せるわけがなかった。
(「何があっても危害は加えたくない。たとえ、彼らに使われて人を殺める可能性があったとしても――」)
故にこそ、決着は此処で。誰にも何にも奪わせない為に!
「ぶっ……裂けろっ……!」
十四歳の体躯では持ち合わせぬ大きさへ腕を変え、白虎の毛並より伸ばした赤い五爪で夢喰いの腕を茜は引き裂く。白と黒、相反する色味にそれぞれ宿す心を相克させながら。
(「命とハ、儚きものかもしれまセン」)
ただの鋼から、思考し惑う命へ。在り方を一つの生のうちに変えたエトヴァは、踊るような足捌きで夢喰いの懐へ踏み入る。
(「ゆえニ……護らなけれバ」)
機械化した内部骨格を撓らせ振り下ろすのは、重量級の得物。だが微塵も重さを感じさせないモーションにハンマーは二度唸り、デウスエクスを枯葉の如く空に舞わせた。
準備には一つの抜かりもない。ソーヤが手にした勇者の力を顕す二つの武器も、尋常ならざる黄金の雷を迸らせる。
(「全て、この時の為」)
意に添わぬ仏頂面はもうお終い。囚われの女性にのみ心を添わせ、凪は地面を強く踏む。
「これが世界の『痛み』です――いきますっ! 世界の『痛み』よ、牙を剥け!!」
掲げたのは片足のみ。そこへ降魔拳士と凪自身の力を使い、風の牙と化す一閃の蹴りを放つ。
「――っ」
喰らった痛みに、道化師は天を仰いだ。
瀬戸際の攻勢は熾烈を極める。誰一人躊躇せず、ガルムも竜のように暴れた。
ベルノルトの空絶つ刃が鋭く輝き敵の腕を落とす。
(「待っててね。すぐに癒してあげるから」)
ヴィヴィアンは、棺で眠る女性に誓った。
間に合え、間に合エ。茜とエトヴァも祈る。
「華とも散れず、露とも消えられぬ――美しからざるものは見るに堪えません」
切なる想いが渦巻く中、一際怜悧な瞳で朝樹がクラウン・クラウンへ手を差し伸べた。
無論、救いの手ではない。
(「ずっと此処で人の生の終を見守ってきたのでしょうか」)
墓守たる女と、地獄の門番たる自分達。似通うものがあるなら、紡げる絆もあるはず。
「姫君を継母の元へ還す訳には参りません。道化なら道化らしく、徒と散りなさい――今は限りと薄明に哭け」
明けぬ夜はない。朝を体現したかのような男は、掌より編む薄紅の羽根の風に東雲の髪を揺らし、覚めぬ眠りに終わりを近付ける。
道化師の耳元で鳴る鳥聲は、幻想に惑う身魂を哀れみ、同時に永久の別離を告げるもの。
「消えろ」
高みからの真介の蹴撃に、終わりを知らぬ命を持つ者の足が止まった。
「お願いします!」
「えぇ――せっかく掴んだチャンスですから」
凪の声に押され、ソーヤが夢喰いの前に立つ。
最悪のシナリオを避ける為の策は、完全に成った。
(「ドリームイーターって、ブレイズキャリバーと似てますよね」)
果たしてこの夢喰いは何をモザイク化していたのか。もしかすると良心だろうか?
「降ろされし力を、ここへ!」
「――アぁ、ああ……わたしは、わたしは、役目ヲ……っ!」
応え求めぬ問いは胸にのみ。特殊な力の流れを込めた手で、ソーヤは表情窺えぬほど崩れた道化師の顔を殴り。
「残念。役目を果たすのはあなたではなく、私たちの方です」
時に再生を齎す力で、不死たる存在へ命の終焉を呉れてやった。
●墓守の見る夢は
「知らない力が地球にもあるのだな」
棺で眠り続ける女をまじまじと眺め、真介は興味深げに呟く。
クラウン・クラウンを倒しても、彼女は未だ目覚めなかった。ヒールした方がいいかなとそわそわするヴィヴィアンを、ソーヤは肩を撫でて落ち着かせる。
「このまま連れ帰るしかないでしょうカ?」
「そのようです」
首を傾げるエトヴァにベルノルトが頷く。
「大丈夫でしょうか?」
「いつ目覚めるのでしょう?」
不安を連ねる凪と茜へは、朝樹が意味深に微笑んでみせた。
「姫君は、きっと自分だけの王子様からのキスをお望みなだけです」
予感がある。
彼女は、そう遠くない未来に目覚めると。
(「その時はどうぞ、新たな生を――」)
孤独に死を慰める日々は、終わり。これからは、未だ見ぬ彩の瞳に、今までとは違う夢を。
物語にはハッピーエンドこそが似合いなのだから。
作者:七凪臣 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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