剣と空

作者:天木一

 寒空の下、紺色の剣道着に袴を纏っただけの男が、山の中で一尺八寸ほどの剣道で使う竹刀の小太刀を振るい修行を行っていた。
「セヤッ!」
 小太刀を横に振るったかと思うと、その後に回し蹴りを放って仮想の敵を薙ぎ倒す。
「セァ!!」
 さらに小太刀を斬り上げ、相手の守りを崩したところへ正拳突きを鳩尾へと打ち込む。
「シャァッ!」
 跳躍して胴回し蹴りを浴びせたかと思うと、その後に斬撃を続けて放ち敵の首を斬り裂く動作をして、すっと動きを止めて残心をとった。
「今のは上手く動けた。剣道と空手を合わせた技がだんだん体に馴染んできたな。イメージとしては流れる水か、吹き抜ける風……動き続ける事が肝要だ」
 満足そうに男は頷き、白い息を吐きながら汗を拭う。
「この調子なら新たな武術を生み出す事ができそうだ」
 息を整え修行を再開しようとしたところへ、気配も無く幻武極が現れた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 ただその言葉を聞いただけで、まるで思考を失くしたように男は闘気だけを放ち襲い掛かる。
「セィヤ!!」
 小太刀で胴を薙ぎ、下段蹴りで膝を打つ。小太刀を振り下ろして首筋に叩き込むと、前蹴りで腹を蹴って押して間合いを空ける。そして小太刀を突き入れ胸を突くと、横蹴りで顔を蹴り上げた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 その連撃にも傷一つ付かなかった幻武極は、手に持つ鍵を男の胸に突き刺した。するりと抜くと傷はついていない。だが男は意識を失って倒れた。それと同時に男の隣の同じ姿の存在が現れる。だが手にしているのは剣道の竹刀ではなく、本物の真剣の小太刀だった。
「シィァッ!!」
 新たに現れた男が小太刀を振るうと隣の木が切断される。さらに回し蹴りを放ちその木を粉砕した。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極がそう言うと、男は殺気を漲らせ山の麓の町に向かい駆け出した。

「剣道と空手を組み合わせた武術を生み出そうとしている人物が狙われたようだ」
 泰然とした様子でエング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)が新たな武術家の出現をケルベロス達に伝える。
「幻武極という名のドリームイーターが現れ、自己流の武術の特訓をしている人を襲って、自分に欠損している『武術』を奪いモザイクを晴らそうとしているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)から事件の説明が始まる。
「今回の武術ではモザイクは晴れませんが、武術家のドリームイーターが生み出され人々を襲い始めてしまいます」
 男性から生み出されたドリームイーターは、その武術を突き詰めた理想の姿となっていて、人の力を超えた戦闘力を発揮する。
「町に入って犠牲者が出る前に、このドリームイーターを倒してもらいたいのです」
 山から町に続く道で待ち構えれば出会う事ができる。
「武術家ドリームイーターは剣道で着るような道着と袴姿です。元となった男性は30代で、剣道と空手を習っていたようです。そしてその2つを合わせて新たな武術ができないかを研究していたようです」
 小太刀による剣撃が主体で、その隙を無くしたり追撃に空手を使い、流れるように攻勢を続ける武術のようだ。
「場所は長野県の山の麓にある町です。敵の進行ルートは分かっているので、そこで迎撃する事になります」
 すでに人々の避難は始まっており、戦闘となる場所周辺には人は居ない。町の片隅に集まっている。
「武術家ドリームイーターはその武を誇り、己が武術を見せつけたいと思っているようです。ですので戦いを挑めば喜んで応じるでしょう。戦いの邪魔になるようなものはありません。存分に力を出し切って敵を倒してください」
 セリカはよろしくお願いしますと頭を下げ、ヘリオンへと向かった。
「剣の技に無手の技。それが組み合わされば実戦剣術に近いものになるのかもしれん。ならば相手にとって不足なし。どちらの技が上か競い合おうではないか」
 剣による死闘を予感しエングは闘気を昂らせる。それに煽られたようにケルベロス達もやる気に満ちた顔で準備に取り掛かった。


参加者
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)
一之瀬・白(八極龍拳・e31651)
二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)
エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)
桜咲・つるぎ(血を吸う桜・e37687)

■リプレイ

●武を競う
 木枯らしの吹く山道でケルベロス達は敵が現れるのを待ち構える。
「武術を奪う……努力して得たものを悪用するのは酷いとは思うけど、戦う相手としては面白そうだね。こちらの強さを見せつけちゃおう」
 どんな技を使うのだろうかと、葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)はわくわくしながら敵を待つ。
「しかし、武器と格闘双方を利用する、というのはケルベロスではよくあることだが……、武道や武術では珍しいか、そういえば」
 スポーツ化している今ならそうなるのも当然かと、篁・鷹兵(大空羽ばたく紅の翼・e22045)は武について思い巡らせる。
「むむっ、近接に特化した剣士、いや拳士かぁ。私はあまり近づいての攻防っていうのは得意じゃないんだけど大丈夫かなぁ」
 敵の武術をイメージした円谷・円(デッドリバイバル・e07301)が腕を組んで悩むように首を傾げる。
「いや、攻めるだけが勝負じゃない事を逆に教えてあるようかな」
 相手の土俵で戦わないのも戦術だと発想を転換して円は自信を取り戻して笑みを浮かべた。
「ふむふむ、小太刀を使う流派か……。今でも古い流派とかじゃあるのかな。詳しくないけど」
 二階堂・燐(鬼火振るい・e33243)は得物は長い方が有利なのにと、左手に持った刀の柄に手をやる。
「敵はさらに、空手の体捌きまで取り入れてるときてる。面白そうじゃないか! 是非相手になってやろう」
 ころころと表情を変える恋人を見ながら、燐も闘志を溢れさせて不敵に笑った。
「正々堂々……でもタタン、町を狙いに行くのは正々堂々ちがうと思うですのでー、そのへんコブシでお話合いするですねー!」
 正面からだろうと弱い者イジメは許さないと多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)は拳を握った。
「武術に罪は無い、全ては扱うものに委ねられる」
 エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)は戦いの記録を撮ろうと、頭部に装着したカメラの調子を確かめた。
「刀と拳を合わせた全く新しい格闘術か」
 対処法を思い描きながら、桜咲・つるぎ(血を吸う桜・e37687)は気配を消して木々の陰に身を潜めた。
 暫くすると隠す気の無い闘気が下りてくる。その手には小太刀を抜き身で持ち、剣道着を着込んだ男、武術家ドリームイーターの姿だった。
「今回の夢喰い……八極拳と小太刀を合わせて扱う余としては、少し親近感を感じるのう」
 嬉しそうに一之瀬・白(八極龍拳・e31651)は龍の顔を緩める。
「じゃが、貴様は滅ぼす為に技を振るうが……余は守る為に技を振るう! 貴様の歩む先には、一体何がある……? 志無き武に未来無し……その技、早々に持ち主に還すが良い!」
 表情を一片させて厳しい声を投げつけると、小太刀を引き抜き敵の行く手を塞ぐように対峙した。

●小太刀と空手
「お前等も武術家か?」
 足を止めた武術家は小太刀を向けて問う。
「ドリームイーター! 我々が相手をするぞ!」
 声をかけながら鷹兵は生み出した弾丸を撃ち出し、敵の足元を狙い地面ごと凍結させる。だが咄嗟に武術家は小太刀を地面に突き立てて凍結を遅らせ飛び退く。
「百火、動きを止めろ! 噛み砕け、咬龍の牙!」
 白が命じるとビハインドの一之瀬・百火は両腕に纏った鎖を幾重にも飛ばし敵の体を地面に縫うように拘束した。そこへ白は手刀を振り上げ、魂魄を巨大な戦斧と化して振り下ろし敵の肩から深く斬り裂いた。
「確かに、武人の一撃。なら遠慮は無しだ!」
 疾風のように小太刀を斬り上げ白の腕を斬り、更に前蹴りを放って押し飛ばした。
「蓬莱、百火ちゃんの事守ってあげてね」
 円がお願いすると任せてとウイングキャットの蓬莱が前に出てリングを飛ばして敵にぶつけた。気を取られている内に円は黒い液体を足元から広げて、ガバッと包み込むように敵を呑み込んだ。
「その武、ここで存分に示すがいい」
 エングは刀を抜き切っ先を相手に向けると、踏み込みと共に高速の突きを放って敵の肩を貫き体勢を崩し、テレビウムの彼がモンキーレンチを振り回して叩きつける。
「一撃の重さよりも手数を武器としてるみたいね、それならまずは動きを鈍らせちゃおうか」
 仲間が戦っている間に静夏はひまわりの蔓を伸ばし敵を縛り付ける。
「ブーメランではないのが残念だ、剣術と銃を合わせた全く新しい剣術使い」
 木を登り頭上を取ったつるぎは、飛び下りながらリボルバー銃を連射し敵の手足を狙いつるべ撃ちにしていく。そして着地するとまた身を隠す。
「セェエッ!」
 小太刀で拘束を斬ると、一気に間合いを詰めてくる。
「まずはタタンとジョナをたおしてから行くですよ! たおれないですけども!」
 タタンとミミックのジョナ・ゴールドが立ち塞がり、ジョナが脚に噛みつき意識が下に向かったところへ、タタンが腹を殴りつけて強烈な一撃で敵の体を吹き飛ばした。
「セアアアア!」
 ごろりと受け身を取って起き上がり止まる事なく駆け出す。
「剣と空手の新たな技、見せてもらおう!」
 真正面から己が間合いに踏み込んだ燐は、鬼火のように青白い閃きを放つ刀を抜き打つ。胴を薙ぐ一撃を敵は更に踏み込んで刃の根元を食い込ませながら、深く入る前に拳を叩き込んで燐の体を宙に浮かせた。
「その頭を叩き割ってやるぞっ!!」
 鷹兵は大きく跳び込んで戦斧を全力で振り下ろす。その一撃が入る前に武術家は鷹兵の体を蹴り上げ、刃は浅く肩を抉るに留まった。
「自分の武術に自信があるみたいだけど、こっちも力には自信があるよ……ルーンディバイド!」
 正面から力強く踏み込んだ静夏は大きな斧を振り抜き、胴を薙いで斬り裂いた。
「後ろからの攻撃なら小太刀で対応できないのですよ!」
 同時に素早くローラーダッシュで回り込んだタタンは、炎を纏わせた蹴りを背中に叩き込む。
「セエエッヤア!」
 攻撃を食らいながらも武術家は小太刀で静夏に斬り返し、後ろ蹴りでタタンを吹っ飛ばした。
「回復は任せて一気に攻めちゃってー!」
 円が両腕を広げると、昼だというのに空に巨大な月が現れ仲間達を祝福の光で包み込む。
 その声に力を湧き上がらせた燐はもう一度踏み込み、霊力を帯びたさせた刀を振り下ろした。それを敵は咄嗟に小太刀で受け止める。
「悪いけど、これは形稽古じゃない。そして僕はサムライじゃない。……泥臭い命のやりとりのなかで、どこまであんたの『武術』とやらが通用するのか、見せてもらおうか」
 燐は体重を乗せるようにして刀を押し込み、刃が敵の額を割った。支え切れずに地面を転がり敵が間合いから逃れる。
「隙あり」
 そこへつるぎは低く敵の元に飛び込み、下から刀で斬り上げて敵の体を斬り裂く。そして反撃の小太刀を身を捻って避け藪の中に飛び込む。
「小太刀が刀なら、その動きは俺にも学べる部分がある」
 エングは弧を描いて刀を振り抜き、敵の前脚を撫でるように斬りつけた。
「セャ!」
 武術家は小太刀を薙いで首を狙う、その一撃を白は腐死龍グザニアの爪牙から作った小太刀を抜いて受け止めた。
「なっとらんな……攻撃だけに扱うとは、その手の得物が泣いておるぞ?」
 白は小太刀を受け流して敵の姿勢を崩し、腕を斬りつけた。
「セアセアセア!」
 蹴りから小太刀、小太刀から拳、そして蹴りと流れるような連撃が繰り出される。
「流れるような攻撃、タタンもやってみるです!」
 攻撃をガードしていると押し倒されて地面に背中をつけたタタンは、鋭く蹴り上げてブレイクダンスのように足を広げて回転して敵の刀を弾き胴を蹴り抜く。
「動きが派手だね、だけどこれはスポーツじゃない……真剣勝負だよ」
 燐が相手が引くのを見計らい、鋭い突きを放ち腹を刺し貫いた。反撃に敵の刃も燐の脇腹に突き立てられようとする。
「攻めるばかりじゃ勝負には勝てないんだよ!」
 円は光の盾を生み出し、攻撃を遮り威力を減衰させた。切っ先が血を流したところで止まる。
「この一撃にも反撃できる? スカルブレイカーー!」
 大きく跳躍した静夏は斧を叩きつけ、防ぐ小太刀ごと断ち切る勢いで押し込む。
「ぬぅっ!?」
 膝をつき武術家は刃の峰に手を当てて押し戻そうと堪える。
「斬り裂けッ! レイザァァァッ! ウィングブレェェェェイクッ!!」
 翼を羽ばたかせて突進した鷹兵は、翼を刃のように超硬質化させてすれ違いざまに胴を斬り裂いた。力が緩み斧はざっくりと顔を抉った。
「桜花一刀――くれないに染まる花弁の櫻の樹。その彩りの、染め粉は何ぞや――」
 続けてつるぎが刀を幾度も斬りつけると敵は小太刀で受け止める。振るう度に桜の花弁が宙に舞い、やがて視界を埋め尽くすまでになると死角から銃弾を体に撃ち込んだ。
「がはっ」
 武術家が口から血を吐くと、エングは貫手を打ち下して敵の胸から胴を抉るように裂いた。だが同時に敵もまた首を狙い斬撃を放っていた。
「守るよりも先んじて敵を倒す、それが故の剣術と空手の組み合わせか」
 体を捻ってエングは紙一重で躱し飛び退く。
「幅広の刀身は盾代わりにも扱える物を、攻める為にしか扱わぬとは……誠に嘆かわしいのう」
 こうするのだと手本を示すように白は小太刀で続く蹴りを受け止め、力強く踏み込み肩からぶつかり敵を吹き飛ばした。

●闘志
「シィァッ!!」
 木に着地した武術家は燃えるような闘気を放ち、矢のように飛んでくる。
「その動きを封じてやる! 受けよ! 時空凍結弾ッ!!」
 鷹兵は時を凍結させる弾丸を放ち、体を凍りつかせ失速させた。
「多少動きはよくなったが、まだまだ未熟!」
 百火が鎖を巻き付けると白が手刀を振るう。武術家が小太刀でそれを受け止めると、白は拳が刺さるような勢いで胸に突き入れて撃墜した。
「正々堂々というのはこうするです!」
 正面からタタンは真っ直ぐに蹴りを放ち、防ごうとする刀を押し切って敵の体を仰け反らせた。
「正面から攻撃するばかりが武術じゃないよ」
 その間に静夏はひまわりを這い寄らせ、敵の脚に巻き付いて拘束した。
「セエエエ!」
 それでも武術家は小太刀を振るい、蹴りに拳と休む間も無く連撃を放つ。
「……ッ! どうやら、こけおどしのエクストリームスポーツじゃないらしいね……!」
 猛攻を受け捌きながら、燐は幾つも打撃を受けて体に痣を作っていく。
「我が月よ、その加護、我が同胞へと降り注いで!」
 円の召喚する月を見上げれば、燐を中心に仲間の心を猛らせ体が活性化して傷が癒える。彼も応援映像を流して燐を治療し元気づけた。
「正に烈火の如く、恐るべき武術だ。故に心無き者にそれを振るわせる訳には行かない。あらゆる手を持って、貴様を止める」
 背後に回ったエングは容赦なく刀を袈裟に振り下ろし、背中を深く斬り裂いた。
 そこへ正面からつるぎが銃を向けると、敵は咄嗟に飛び退いた。
「刀と銃に気を取られたな。これが本命だ」
 つるぎは戦いながら木々に潜ませていたスライムを動かし、頭上から飛び掛からせて絡みつき拘束した。その隙にジョナは林檎飴型のこん棒を具現化して振り回し、敵の脛をしたたかに打った。
「そのプライド、この一撃で叩き折ってあげる! ミッドサマーファイアーワークス!!」
 懐に飛び込んだ静夏は、跳び上がりながら炎を纏う左拳でアッパーを叩き込む。大きな花火と共に敵の体が打ち上げられた。
「げはっがはっ」
 歯が折れ血を垂れ流しながらもその目にはまだ闘志が宿る。
「コブシのお話合いはこれで終わりにするですー!」
 ぴょんと跳躍したタタンは炎の蹴りで敵の視界を塞ぎ、蹴りを小太刀で受けられたところへ空中で回転し後ろ回し蹴りを側頭部に叩き込んだ。意識を飛ばすような一撃にも反射的に拳が放たれる。
「剛拳を以て守護と成さん……意志も無く、破壊の為だけの技に負けるものかよ!」
 小太刀で攻撃を弾くと白は肘を鳩尾に叩き込んだ。よろめくところへ、つるぎは腕の傷口を狙い刀で斬り裂き離れながら脚に銃弾を何発も叩き込んだ。
「お粗末」
 四肢を破壊したつるぎはすっと姿木々に消す。
「貴様もまた辛苦の時代を齎す者……消え去れ!」
 動きが鈍くなったところへ鷹兵は翼を広げて飛翔し、その硬質化した翼で敵の左腕を切断した。
「セェエエアアア!」
 吠えるように喝を入れると手負いの体でもまだ闘争心を失わずに攻め込んで来る。それを飛び込んだ蓬莱が受け止めた。
「じっと相手の攻撃に耐えるのだって立派な戦法なの。これで理解してもらえたかな?」
 円はその眼前に光の盾を割り込ませ、敵の続く攻撃を阻害した。
「1対1なら危なかったかもしれないね、だけど実戦では数も武器の一つなんだよ」
 盾が消えると同時に霞の構えから踏み込んだ燐は、刃から白煙が巻き上げる程の音を置き去りにして突きを放ち敵の胸を貫いた。遅れて空気が破裂したように甲高い音が鳴り響く。
「ぐっあ……」
 血をどくどくと流し空いた穴は確実に致命傷だった。
「最後に全身全霊の一撃を見せてみるがいい」
 エングは突きの構えを取る。すると敵も気合を入れて踏み留まり小太刀を構えた。
「シィィァッ!!」
 小太刀を振るい倒れ込むように浴びせ蹴りが放たれる。エングは小太刀を体に受けながらも微動だにせず、蹴りが当たる前に背中から胸へと刃を突き入れていた。武術家の体が幻のように消え去った。

●武の道
「ここは? いったい……」
「……無事意識を取り戻したみたいだな」
 介抱された男性が目覚め、体に異常がない事を確かめた鷹兵に事情を伝えられる。
「それは……ご迷惑をお掛けしたようだ、申し訳ない」
 男性は膝をつき深々と頭を下げる。
「それで、私の武術はどうだったでしょうか?」
「楽しい戦いだったよ、もっと腕を上げたらまた戦ってみたいね」
 笑顔で静夏が男性の武術との戦いの感想を告げる。
「いい戦いだったと思うのですよー!」
 元気なタタンが笑顔を見せると、それが伝わったように難しい男性の顔が緩んだ。
「武術に終着点は無いのだろう。だからこそ、あらゆることから学び、進化することが出来る。ドリームイーターが貴殿から奪ったもの、それを返させてもらおう。そして、さらにここから先を目指して頂きたい」
 エングは戦いの映像を男性に進呈する。
「あ、ありがとうございます!」
 男性は嬉しそうに頭を下げる。
「これからが楽しみだのう」
 どこまで研鑽されるのか、白は楽しそうにその未来を想う。
「刀以外の武器、ブーメランなどどうだろう」
 つるぎは真顔でそんなアドバイスをして勝つ為の手段を問わぬ方法を淡々と諭す。
「もう少しカッコよく勝てれば良かったんだけど……」
 傷だらけの体を見下ろして燐は嘆息する。
「私にとっては燐ちーが一番カッコ良かったよ」
 頬を赤らめた円は照れながらその体に優しくヒールを掛けた。
 各々で違う武術談で盛り上がりながら、ケルベロス達は山を下りて町まで男性を送っていった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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