熱波暴走エレキストーブ!!

作者:飛翔優

●電気ストーブとダモクレス
 大きな集合住宅のゴミ置き場。粗大ごみのために設けられている、ポッカリと空いた空間で。冷たい風に抱かれて、家電は静かな眠りにつく。
 板が割れている椅子があった、黒ずんでいるエアコンや文字が剥げている電子レンジがあった。中には目に見える傷のない液晶テレビもあったけれど……皆、役目を終えていることに違いはない。
 だからこそここで眠っている。
 最期の地へと運ぶトラックが訪れる朝を迎えるまで……。
 ……そんな静謐な空気を壊すかのように、虫の足のようなものを生やした何かが粗大ゴミ置き場へと近づいてきた。
 知るものが見ればそれは、握りこぶし大のコギトエルゴスムに機会でできた足を生やしている小型のダモクレスだとわかっただろう。もっとも、この場にそのダモクレスを知るものはおらず、いたとしてもその行動を邪魔することはできなかっただろうけど。
 ダモクレスは値踏みするかのように粗大ゴミの間を巡った後、電気ストーブの前で立ち止まる。
 躊躇う素振りすら見せずにダモクレスが電気ストーブへと飛び込めば、がちゃがちゃと耳障りな音色が響き――。
「ストーブ! ストーブ、エレキー!!」
 ――叫び声に似た電子音声を紡ぎながら、電気ストーブは機械的な胴体と手足を生やして立ち上がる。
 頭部代わりに乗っかっている電気ストーブに熱を宿しながら、夜の街を目指して歩き始めた。
 全てはグラビティ・チェインを奪うために……。

●ダモクレス討伐作戦
 足を運んで来たケルベロスたちと挨拶を交わしていくザイフリート王子。
 メンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「埼玉県の住宅地で、粗大ごみ置き場に捨てられていた電気ストーブがダモクレスになってしまうという事件が発生する」
 幸い、今から行動すれば被害者を出さずに対峙することができる。
「放置すれば多くの人々が虐殺され、グラビティ・チェインを奪われてしまうだろう案件だ。どうか、急ぎ現場へと向かい、ダモクレスを撃破してきて欲しい」
 ザイフリート王子は街の地図を取り出した。
「発生場所はこの住宅街。時間帯は御前三時頃。ダモクレスは街を歩き、獲物を探している」
 そのため、街を散策していればいずれ出会うことができるだろう。
 また、時間帯も遅いために人通りは皆無に近い。最低限の人払いさえしてしまえば、被害を防ぐことができる。
「最後に、ダモクレスの性質について説明する」
 姿は電気ストーブを頭部とし、機械的な胴体と手足を生やした人型。
 戦いにおいては、自慢の熱で相手に多大なダメージを与えてこようとしてくる。
 グラビティは3種。凄まじい熱波を解放し近くにいる者たちを焼き払う。熱した体を用いた体当たりで、1人に対して多大なダメージを与えながら焼いていく。熱で暴走したかのように暴れまわり複数人の加護を砕く。
「以上で説明は終了となる」
 ザイフリート王子は資料をまとめ、締めくくった。
「虐殺をしようとしているデウスエクスを見逃すわけにはいかない。どうか、全力での戦いをよろしく頼む」


参加者
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
麻生・剣太郎(ストームバンガード・e02365)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)
御門・美波(堕とし子・e34803)
シーラ・クロウリー(忘失の印術師・e40574)

■リプレイ

●熱の籠る機械を探して
 街灯だけが頼りとなる暗く冷たい夜のこと。
 シーラ・クロウリー(忘失の印術師・e40574)は額を飾るライトを灯し、月夜に新たな輝きを生み出していく。
「さあ、行きましょう。ダモクレスの暴走を止めるために」
「幸い一般人も近くにいないみたいですしね。今のうちに終わらせてしまいましょう」
 頷き、トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)は歩きはじめていく。
 夜の住宅地を闊歩する、電気ストーブ型のダモクレスを倒すため。
 曲がり角の向こう側を、電柱や塀の暗がりを、街路樹の影へと意識を向けながら、バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は思い抱く。
 捨てられた電化製品にしてみれば、自分は悲しい存在なのかもしれない。もっとも、だからといって人に危害を加えて良い理由にはならないのだけれど……。
「……」
 早くダモクレスを倒さなくてはならない。
 誰かの命が奪われてしまわぬうちに。
 電気ストーブが誰かの命を奪ってしまわぬうちに。
 ケルベロスたちは電灯を頼りに住宅地を練り歩く。
 やがて、十字路の右手側に熱を感じて立ち止まった。
 耳をすませば聞こえてくる駆動音。
 熱く輝き始めていく夜の道。
「いましたね、備えましょう」
 呼びかけ、リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)は如意棒を握る。
 地面に脚をこすり炎を宿しながら、近づいてくる駆動音に耳を傾け続けていく。
 輝きを伴い、それは来た。
 機械的な手足を動かして、電気ストーブの頭部を熱く輝かせて。
 ケルベロスたちを認識した瞬間、まるで獲物を見つけた狼の如き勢いで走り出し……。

●電気ストーブ世界を焼く
 同時に志藤・巌(壊し屋・e10136)が踏み込んだ。
 縛霊手をはめた拳を固く握りしめ、赤き炎を吹き上がらせて。
「冬とは思えねぇ暖かさだな。だが……」
 間合いの内側へ踏み込むと共に腰を落とし、まっすぐに拳を突き出した。
 ダモクレスの中心を捉え後方へと下がらせる中、深い息を吐き出していく。
「中心は焼けるどころか溶けちまうほどに熱い。物騒なもんになっちまった以上、全力で壊させてもらおう。大人しくゴミに戻るんだな」
 反論するかのように身を起こし歩き始めたダモクレスの脚に茨が絡みつく。
 トエル操る攻性植物だ。
「あまり家屋や木々に近づけたくはありませんね。熱だけで燃えかねません」
「この茨を焼くことはできないだろうけど、ね」
 同様に、バジルもまた攻性植物の体に茨を巻き付けた。
 鉄の胴体に食い込むに連れて茨は青い薔薇を咲かせていき、無機質な体を飾り始めていく。
 身動き取れないダモクレスの懐には、御門・美波(堕とし子・e34803)が踏み込んだ。
「ふふっ♪ この距離なら、もう逃げられないよ?」
 瞬く間も与えず二丁の拳銃を取り出し、トリガーを引く。
 何度も何度も。
 銃身が熱を抱くのも厭わずに。
 グリップにまで熱が伝わってくるのも厭わずに。
 リロードもせず、必要なく……。
 度重なる攻撃を前によろめくダモクレスの背後には、峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)が回り込んだ。
 変え吹くままにケルベロスコートを翻し、黒ビキニに抱かれた恵まれた肢体を月の下に晒しながらファミリアを解き放った。
 ファミリアはダモクレスに駆け寄り、鉄の足に襲いかかり……。
「っ! 戻れ!」
 即座にフェミリアを引き戻し、コートの前を閉じた。
 一拍遅れて、世界が光に満ちていく。
 それは灼熱を伴う輝きだ。
 余波ですら肌がひりつくような感覚を覚え、シーラは夏の如き熱い空気の中で軽快なリズムを取り始める。
「大丈夫、私が癒やします」
 ステップを踏むたびに花を咲かせ、前衛陣の火傷を癒やしていく。
「足りないのなら、重ねましょう」
 麻生・剣太郎(ストームバンガード・e02365)が爆破スイッチを押し込み、カラフルな爆煙を巻き起こし自らを含む前衛陣を治療した。
 結果、精彩を取り戻していく前衛陣。
 すかさず恵が踏み込んでいく。
「さあ、攻め続けよう!」
 恵が星型のオーラをダモクレスの中心に蹴り込めば、巌が距離を詰めていく。
 左手でダモクレスをつかみ、引き寄せたところに拳を打ち込んだ。
「ちっ……こうしてるだけでやけどしそうだな」
 即座に手放し退けば、別の仲間が攻撃する。
 順調にダメージが積み重なっていくさまを見つめながら、シーラは状況の観察を続けていた。
 ダモクレスの反撃に備えるため。
 少しでも早く、的確に治療を行っていくために……。

 横に構えたライフル越しに伝わる、熱。
 炙られた鉄板の如き熱さに目を細めつつ、剣太郎は両腕に力を込めた。
「ええ、温めてくれようとしてるだけなのかも知れませんけどね……やはり、物には限度というものがありますよね」
 言葉と共に機械を入れ、ダモクレスを押し返す。
 よろめくことなく間合いの外側へ離脱していくさまを見送りながら、剣太郎は爆破スイッチを押し込んだ。
 カラフルな爆発が剣太郎を包む中、リュティスもまた心地よい風を吹かせていく。
「少しはお役に立てるでしょうか」
 爆煙を散らすことなく剣太郎を包み込み、火傷の痛みを和らげる。
 火傷はシーラがオーラを注ぎ消し去った。
「大丈夫です。治療を間に合わせることはできています」
「はい。ですが、油断はせずに参りましょう」
 頷き、リュティスはダモクレスの動きを注視する。
 治療を重ね前線を保っていくケルベロスたちとは対象的に、ダモクレスはその手段を持ち合わせていない。
 ダメージを受けるがまま、膝は削られ胴は割られ、内部機構がスパークしている箇所もある。
 動きも鈍っているのだろう。
 ダモクレスが頭を赤熱させた時、前触れもなくバランスを崩してよろめいた。
 すかさず美波が踏み込んで、左手から光の鎖を放っていく。
「捕まえて!」
 ダモクレスの体を絡め取り、引き寄せた。
「いま、解放してあげるね?」
 微笑み絶やさぬまま拳を放ち、まるでコマのような形でダモクレスを解放する。
 くるくると回り始めたダモクレスの懐には剣太郎が鉄騎らと共に踏み込んだ。
 迎え撃つかのように放たれた。
 一度は引っ込んだはずの熱波が、前衛陣を抱くかのように。
 至近距離で焼かれながらも、剣太郎は退かない。
「この程度……!」
 顔をかばいながら気を吐き、その場に留まり続けていく。
 鉄騎も全身から異音を、異臭を放ちつつ、その場に留まり続けていた。
 かばわれ全力を保ち続ける事ができた巌は熱が収まると共に懐へと踏み込んでいく。
「地獄の底まで落ちていけ」
 上段、下段、上段……上下を盛んに攻め立てて、果てに人で言う脳天めがけて後ろ回し蹴り。
 ストーブのボディにヒビを入れ、ダモクレスを軽くふっ飛ばした。
 すかさす攻撃が集まる中、リュティスは歌う高らかに。
 剣太郎や仲間を守ったものたちを癒すため、攻め込む活力を与えるために。
 順調に攻撃は進んでいる。誰かが倒れる事がなければ、きっと……。

●熱を帯びた月夜の戦い
 シーラは癒やす。
 前衛陣の火傷を、痛みをリュティスと共に。
 万全の状態を保つため。
「……」
 右腕を、腹部の装甲を失っているダモクレスを見つめながら。
 内部機構が火花を放った時、ダモクレスが右へ左へとよろめき――。
「戒め、砌絶つ堰よ……ここに」
 ――トエルの指先が示すまま、血を媒介に錬成された魔力がダモクレスを撃ち抜いた。
 背筋を伸ばし、体を痙攣させ始めていくダモクレス。
 部防備な腹部の内側に、バジルが青色の薔薇が彫刻されているナイフを差し込んだ。
「その傷口、広げてあげますよ」
 ケーブルをずたずたに切り裂いて、小さな爆発を引き起こす。
 バジルが離れるまで、ダモクレスは動きを止めていた。
 まるで離れるのを待っていたかのように、ダモクレスは再び動き始めた。
 回線が狂ってしまったかのように、足取りも右腕の動きさえもおぼつかない。
 ただただ頭部を赤熱させて、少しずつ周囲を熱で抱いていく。
 その熱量が害になる可能性はないと判断し、恵は翼を展開する。
「リバースナンバー5から6000まで展開。砲撃術式構築。加速魔法陣三重設置。オープンファイア!!」
 魔力を汲み上げ収束させ、3つ重ねた魔法陣にて収束。
 通過させる事で加速させ、鮮血色の閃光を撃ち出した。
 三筋の輝きはダモクレスの胸を、両肩を貫き、えぐる。
 失われゆく体にウイングキャットのシーリーがリングをかぶせていく中、リュティスは高く、高く跳躍した。
 月を背負う形で蹴りを放てば、倒れんとしたダモクレスの体をバジルの茨が支えていく。
「さぁ、終わらせてあげて下さい」
「ええ」
 頷き、トエルは放つ。
 再び血を媒介にした魔力の弾丸を。
 額を、電気ストーブを貫いた。
 輝きが消えていく。
 熱が収まっていく。
 ダモクレスが崩れ落ちるのを待つ間もなく。
 ただ、あるべき姿を取り戻した証として……。

 静寂を取り戻した街中の、少しずつ夜の寒さが戻りつつある戦場跡。
 コートで体を抱いたまま、恵は戦いの跡を修復していく。
「無事終わってよかったよ」
「ああ、そうだね」
 剣太郎も修復を行いながら、水分補給。
 熱を浴び続けた体に、冷たい水は心地よい。
「……」
 表情が曇ったのはダモクレスの……電気ストーブの残骸を見つめた時。
 冷たい静寂の中、美波は祈りを捧げていく。
「生者とは違うかもしれないけれど……安らかに眠ってね?」
 ……祈りが終わる頃、周囲の確認を行っていた巌が甘い缶コーヒー片手に戻って来た。
「大丈夫、偶然出会っちまったやつはいないみたいだ」
 被害者はいない。
 ダモクレスに利用されてしまった電気ストーブを除けば、の話だが。
 だからケルベロスたちは残骸を回収し、あるべき場所へと運んでいく。
 あるべき姿で、電気ストーブが眠り続けることができるよう。
 あるいは新たな姿に生まれ変わることができるように……!

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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