金木犀の残り香に

作者:飛翔優

●シーズン終わりに咲き誇る
「流石にもう、終わっちゃったね。今年も咲いてるところ、見たかったんだけどな」
 秋色が少しずつ地面に降り積もり、厳しい冬を招き入れ始めている山の中。緑だけが残された金木犀を見つめながら、若い女性は寂しげに微笑んだ。
 幹に軽く触れながら、紡がれていくのはこれなかった理由。
 働き始めて中々時間が取れなかった、そんなありふれた理由。
 止めどなく紡ぐことができてしまう愚痴を、首を横に振って打ち切った。
 表情は変えぬまま顔を上げ……。
「なんて、言っても仕方ないよね。だから、らいね……」
 見つめる先、夕焼けのような色彩に満ちていて――。

「立派な攻性植物になりました♪ にへらー」
 翼のように重ねられた緑葉をはためかせ、鬼胡桃の姫ちゃんはどことなく楽しげに見つめていく。
 満開に咲き誇る季節外れの金木犀が、若い女性を取り込んでいくさまを。
 若い女性を取り込んだ金木犀が……攻性植物が、勢い良く根を引き抜いていくさまを。
「その調子で頑張るのですよー♪ にへらー」
 ゆるく応援の言葉を投げかけて、姫ちゃんはその場から立ち去っていく。
 残された攻性植物は根を足のように蠢かし、街のある方角へ……。

●攻性植物討伐作戦
「そう。それじゃあ……」
「はい、ですからこうして……」
 マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)と会話していたイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255) は、集まったケルベロスたちへと向き直る。
 改めてメンバーが揃ったことを確認し、説明を開始した。
「神奈川県の山間部で、植物を攻性植物に作り変える謎の胞子をばらまく、人型の攻性植物が現れたみたいです」
 その胞子を受けた金木犀の株が攻性植物に変化し、その場にいた若い女性を襲って宿主にしてしまった。
「ですので、急ぎ現場に向かって女性を宿主にした攻性植物を倒してきて欲しいんです」
 イマジネイターは地図を取り出し、山間部の一角にマルをつけた。
「攻性植物が発生したのはこの辺りの、山道近くの獣道。そして、攻性植物は……」
 麓の町へと繋がるラインを引いた。
「こういう進路を辿り、麓の町を目指しているようです。そこで……」
 ライン上の、山の麓に最も近い山道にバツ印をつけた。
「この辺りで待ち構えていれば、迎え撃つことができるかと思います」
 幸い、今は登山客の少ない時期。最低限の人払いをしておけば、一般人が近づいてくることもないだろう。
「続いて、戦闘能力などについて説明しますね」
 姿は見上げるほどの高さを持ち、季節外れの花を咲き誇らせている金木犀。根を足のように蠢かして移動している。
 戦いにおいては相手をじわじわと弱らせて倒す……といった方針を取ってくる。
 グラビティは3種。花から集めた光を放出して敵を焼く、光花形態。身体の一部をツルクサの茂みがごとき形状に変化させ、敵を捕まえる蔓触手形態。そして、金木犀の香りに不可思議な力を注ぎ込み、複数人の心を惑わせる香気形態。
「それから……取り込まれた女性は攻性植物と一体化しているため、普通に倒すだけでは助け出す事ができません。ですので……」
 相手にヒールをかけながら戦う。そうすることで、討伐後に女性を救出できる可能性が出てくるのだ。
「長期戦になりますから危険が伴います。ですので無理はせず……それでも、叶うなら……」
 取り込まれてしまった女性の、救出を。
 イマジネイターは資料をまとめ、締めくくった。
「取り込まれてしまった女性は、毎年その場所で金木犀を見るのを楽しみにしていたみたいです。今年は忙しくて見逃してしまったからまた来年……と意気込むほどに。ですので、どうか叶うなら救出を。どうか、よろしくお願いします」


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
叢雲・蓮(無常迅速・e00144)
馬鈴・サツマ(取り敢えず芋煮・e08178)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)
御船・玻玖(澪引の灯火・e41820)

■リプレイ

●紅葉に染まりし山の中
 乾いた冷気に甘く香る。
 秋色も終わりを迎えていく山に新たな色彩を加えていく。
 地響きからも何かが……金木犀をもとにした攻性植物が近づいてくるのを感じながら、叢雲・蓮(無常迅速・e00144)は拳をぎゅっと握りしめた。
「どんどん近づいてくるね……!!」
「そうっすね……」
 馬鈴・サツマ(取り敢えず芋煮・e08178)は頷き、目を細めた。
「攻性植物は常に暗躍してる感じっすね、いつか尻尾を掴んでやるっス」
 攻性植物を操り、事件を起こしているという人型の攻性植物がいるらしい。
 けれど、今は攻性植物を打ち倒し、囚われた女性を救い出すことが先決だ。
 ケルベロスたちは身構える。
 機先を制することができるように。
 香りが高まるにつれて、地響きが強くなるにつれて口数も少なくなっていった。
 やがて、1本、2本と木々が乱雑になぎ倒されていくさまが見えてくる。
 その狭間から夕焼け色が顔を覗かせた時、レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)は白い息を吐き出した。
「ようやくのお出ましね」
 笑みを浮かべ、御業に力を注いでいく。
 攻性植物が飛び出してきた瞬間、自分たちを認識する暇も与えず攻め込むことができるように……。

●金木犀は紅葉を飾る
 夕焼け色に満ちていく。
 世界が、木々が。
 紅葉を覆い尽くすかのように。
 夕焼け色が霞んでいく。
 爆発した枝の破片を浴びたから……。
「レイス! 続け!」
「言われなくても!」
 村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)に促され、レイスは縄状の御業を解き放った。
 枝の付け根が固く縛り付けられていく中、幹の一部が灰色に染まり始めていく。
「なんとしても取り戻しましょう。そのために、私たちはいるのですから」
 決意と共に、天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)は魔力を注ぐ。
 灰色の、石の面積を増やすため。
 追撃と蓮が踏み込んだ時、枝を飾る花々が輝き始めた。
「皆、下がって!」
 蓮は1人その場に留まり、集まりゆく輝きを見つめていく。
 その輝きの中心点、金木犀の花がカノンを指し示していることを見破った。
「カノンお姉ちゃんに手出しはさせない」
 素早く射線上へと身を晒す。
 放たれた光線に左肩を貫かれた。
 けれど涼しい顔を浮かべたまま、大きく息を吸い込んでいく。
「まだまだ……この程度! お姉ちゃんに比べたら……!」
 視線の先、枝の付け根の近くに刻まれている女性のシルエット。
 囚われた女性のシルエット。
 救うためにケルベロスたちはやって来た。
 誰ひとりとして倒れさせたりはしないと、舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)は雷の壁を形成し蓮を中心に前衛陣へと与えていく。
「今回も長丁場な戦いになる。力を温存する必要はないが……最新の注意を払っていこう」
「あまり、治療に自身はないのだけれどな」
 御船・玻玖(澪引の灯火・e41820)も小さく苦笑しつつ、ライトニングロッドで地面を叩き雷の壁を形成。
 蓮の治療を、前衛陣の援護を開始した。
 一方、レイスは相手の反撃そのものを弱めるため、地面にドラゴニックハンマーの石づきを突き立てる。
「さあ、どんどん弱らせるわよ」
 竜の咆哮がごとき爆音を轟かせ、放つ砲弾は数本の根を押しつぶし地面に埋もれた。
「柚月! チャンスよ!」
「ああ!」
 動きが鈍ったと断定して促せば、柚月はゲシュタルトグレイブの穂先に雷を宿し姿を消す。
 次の刹那には幹に突き立て、攻性植物の表面に電流を走らせた。
 内部へも届かせんとばかりに、ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)の紡ぐ斬風が幹の背を斜めに切り裂いていく。
「救える命、散らせはしない」
 赤い刀身を持つ大太刀を構え直しながら、仕掛ける隙を伺っていく。
 その眼圧に気圧されたか、呪縛に邪魔されたか攻性植物が動きにぎこちなさを混ぜる中、治療を受け終えた蓮が再び攻性植物の正面へと踏み込んだ。
「次は……そこなのだよ!」
 勢いのまま地面を走る茂みに飛び込み、脚を腕を体を捉えようとしてくる蔓草を右へ、左へとかわしていく。
 舞うかの如き足取りに翻弄され、攻性植物はハルに意識を集中させている様子。
 この調子なら、他のケルベロスたちは憂いなく攻撃を仕掛けていくことができるだろう。

 攻性植物が夕焼け色の花々を激しく揺さぶり始めた時、サツマは蓮と共に間合いの内側へと踏み込んだ。
 呼吸すら甘く感じる香気が広がっていく。
 視界がぼやけ、思考が霞み始めていく。
「この、ていど……!」
 左腕で鼻を覆い、右腕で香気をかき乱しながら一歩、二歩と後退した。
 心くすぐる香りから逃れようとしているサツマらを救うため、瑠奈は再び雷の壁を形成していく。
 ウイングキャットのタロイモの治療も重なれば、サツマたちは正常な状態を取り戻す。
 それを見届けた上で、瑠奈は改めて戦場全体へと視線を動かした。
 攻性植物の反撃は力強く、時に魅力的。
 治療が間に合わなければ意図しない行動を取ってしまう者もいるだろうほどに。
 一方、攻撃は順調に進んでいる。
 石化が枝へ、幹へと広がっているのがその証明となるだろう。
 もっとも……。
「皆さん、一度手を止めて下さい。治療を行います」
 カノンが制止を促しながら、攻性植物との距離を詰めていく。
 女性を救い出すためにも、可能な限り多くのダメージを与えなければならない。
 今はまだ倒してしまうわけには行かないのだから……。
「……」
 瞳の奥に宿す光で攻性植物を見つめたまま、カノンはオーラを注いでいく。
 重ねるため柚月は引き抜く。
 大いなる海の力を秘めた1枚のカードを。
「霧に映りし幻想の海! 顕現せよ! オーシャンミスト!」
 青緑色の輝きを纏いしカードは攻性植物へと投射され、突き刺さるとともに同色の霧を生み出した。
 霧は攻性植物を包み込み、傷跡を塞ぎ枝を根を再生させていく。
 間をおかず攻性植物は万全の状態を取り戻した。
「……さあ、再び攻撃を行いましょう」
「おう!」
 カノンの判断に従い、サツマが再び正面へと踏み込んだ。
 口元に笑みを浮かべたまま、攻性植物の動きを注視する。
 同様にカノンは観察を続けながら、何が放たれても良いよう備え続けていた。
「……」
 視線の先、サツマが花弁の中心から放たれた光を右肩で受けていく。
 すかさず瑠奈は光輪を形成し、治療を開始した。

●金木犀が散りゆく時
 音がちぎれる。
 樹皮が剥がれる枝が飛ぶ。
 治療を重ねても再生しない場所が増えていく。
 蓮とサツマも同様に治療しきれぬ傷が増えていた。攻性植物ほど派手なものではないけれど。
 それでも2人の負担は大きい。もう少し長引けばどちらかが、あるいは両方共が倒れてしまいかねないほどだ。
 玻玖は肩で息をしている2人を横目に攻性植物のもとへと歩み寄った。
 樹皮の傷跡に指を走らせた後、ライトニングロッドを叩きつけ魔力を注ぐ。
 今までと同様に傷は塞がれ根は、枝は……。
「……終わらせよう」
 ……再生せず、傷だらけの体躯を晒したまま。
 颯爽と、ハルが攻性植物の背後へと回り込む。
「……これ以上、苦しませたりはしない」
 振り向き際に赤い刃を閃かせる。
 幹に深い斜め傷を刻み込んだ。
 直後、蓮が傷跡にナイフを突き立て、樹皮を剥がし始めていく。
「もうすぐ、もうすぐ助けられるから。だからお姉ちゃん、頑張って!」
「今、切り離してやるっすからね」
 サツマが主砲をぶっ放し、根本近くをえぐり沈ませた。
 攻性植物が傾く中、鈍い光が夕焼け色を淡く照らし始めていく。
 担い手たるレイスはドラゴニックハンマーを握りしめ、先端に鎌の刃のような輝きを形作る。
「さっさと朽ち果てなさい!!」
 勢い良く横に薙げば、先端は幹に深く、深く突き刺さった。
 攻性植物は動かない、動けない。
 気づけば石化した表面は、幹の半分まで広がっていた。
「なら……」
 反撃の気配もなかったから、玻玖は破裂音を響かせる。
 石化した幹の中心に1発の弾丸を撃ち込んで、全身にヒビを生み出した。
 亀裂の1つに狙いを定め、ハルが距離を詰めていく。
「……」
 呼吸を止め、実態なき朱光の剣も抜き、跳躍。
 赤い刃とクロスさせ虚空を切り裂いた!
「君達を愛した彼女を害するのは本意ではないだろう。疾く散るがいい。さよならだ」
 重なる斬圧は攻性植物の中心を捉え、下半分を吹き飛ばす。
 支えを失った攻性植物は地面に激突するとともに砕け、石の破片となりはてた。
 混じるように見えた命の息吹を、ケルベロスたちが見逃すことはない。
 ハルが着地と共に飛び込んで、女性の体を抱きとめた。
 腕の中には確かな熱。
 聞こえてきたのは、安らかな寝息。
 生命の証……。

 紅葉ざわめく山の中、静寂を取り戻した獣道。
 ハルは腕に抱く女性の無事を確認した上で、瑠奈へと向き直った。
「状況終了。ドクター、彼女の処置を頼む」
「ああ、分かった」
 受け取り、詳細な容態を確認し始めていく瑠奈。
 一方、カノンは攻性植物が辿ってきた軌跡へと向き直っていた。
「可能な限り、なぎ倒された木々も治さなければいけませんね」
 異論のある者はいない。
 ケルベロスたちは手分けして事後処理を行っていった。
 なぎ倒されてから長い時間をかけなかったからか、はたまた大自然の雄大さか……木々は再び大地に根付いた。
 紅葉が空を飾った頃、瑠奈の検査も完了した。
「今、確認できる範囲では問題ないね。ただ、やはり精密検査は必要だろう」
「それでは、麓の病院まで運んでいこう」
 柚月の提案に、頷くケルベロスたち。
 眠り続けている女性が風邪をひいてしまわぬよう、玻玖が外套をかぶせていく。
 下山を始めていく彼らの背を、空を飾り続けている紅葉が見送ってくれた。
 あるいは、平和が訪れたことを喜ぶように。
 ケルベロスたちに感謝を示すかのように……優しい風を浴びながら、歌うようにざわめいて……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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