ミッション破壊作戦～極彩色の回廊

■リプレイ

●うどん食わせろ！
　香川県丸亀市。
　市の象徴たる丸亀城を眼下に収め、ミライ・トリカラード（獄彩色鉄鎖・e00193）は軽い溜息と共に言葉を紡いだ。
「やっと、一回目だね。初めてグラディウスを手にしてから約一年。ここが支配されてからはもっと……」
　ドリームイーター・讃岐うどんチェイサー。こいつが出現してからというもの、市民の作ったうどんは片端から彼らに食われてしまっている。倒しても、倒しても、次から次へと湧いて来る口の化け物。そんな終わりの見えないマラソンに、そろそろ終止符を打つときだ。
「私、香川県って初めてなんだー。香川といえばうどんだよね、楽しみ♪　……って、そのうどんを勝手に食べちゃう子なの！？　そんな……私が食べるうどんがないじゃない！」
　もっとも、中には長谷川・わかな（笑顔花まる・e31807）のように、食欲に突き動かされて集まったような者もいたが、それはそれ。
「破壊できたら、みんなでうどん食べましょうか」
　だから、必ず全員で生還しようと、黒住・舞彩（鶏竜拳士・e04871）が微笑んだ。それを合図に、まずはマサヨシ・ストフム（蒼炎拳闘竜・e08872）を筆頭に、うどんへの想いを心に秘めた者達がヘリオンから飛び出して行く。
「食わなくても死なねぇテメェらのせいで、本当に必要とする人々の幸せまで奪われている。楽しい旅先の思い出のために、家族の団欒のために、寒い日に心身を温める幸せのために、テメェら全員根絶やしにしてやる！」
　デウスエクスは人間のような食事を必要としない。それにも関わらず、人々から食べ物を奪うという暴挙など断じて許し難いものだ。
「……教えてやるよ！　食べ物の恨みは恐ろしいって事をよォ！！」
　開幕一番、豪快にグラディウスを光の壁へと叩き付け、マサヨシの一撃が巨大な爆発を生んだ。
　初撃としては、上々だ。この流れに続けと言わんばかりに、ノイアール・クロックス（菫青石の枯草色・e15199）もまた飛び出した。
「やっぱり、敵の拠点が多く残ってる状況はイヤっすからね！　痛手、与えに行くっすよ！」
　うどんは勿論、丸亀市の象徴たる史跡まで、敵に奪われている状況は好ましくない。この地で文化を紡いで来た人々の証を、これ以上好き勝手に使われてなるものか。
「高い石垣の眺めも、それを見渡す天守も、お前らのモノじゃない！　そしてなによりも！　だれもが美味しいおうどんを安心して食べられるように、この地を取り戻す！」
　再び巻き起こる爆発。衝撃で、付近に集まっていた讃岐うどんチェイサー達が吹っ飛んで行く姿が見える。
「ご飯は人が生きていく為には欠かせない、大切なものなんだよ！　それを勝手に食べちゃうなんてダメダメ！　それに……それに……私だってつるつるした出来てたのうどんが食べたいもーん！」
　もう、これ以上は我慢ができないと、続けてわかなも飛び出した。同じく、ダンジョン探索で常にまともなものを食べていない舞彩も、うどんの香りに惹かれたのか、後を追うようにして飛んだ。
「うどんがなければお米、とはいかないの。必ず壊す！」
　常時空腹な自分の目の前で、人々から奪ったうどんを貪り食らうなど許せない。怒りと食欲、そしてついでに、2年近くうどんを奪われ栄養失調の危険を感じ続けた市民への想いも込めて、舞彩は一気にグラディウスを叩き付け。
「それで私も、おうどんを、食べたい！！」
　やはり、最後は食欲に纏まったところで、わかなもまた光の障壁にグラディウスの切っ先を突き立てた。
「食べ物の恨みは怖いんだからね！　私にも食べさせなさーい！！！」
　なにやら、微妙に目的がずれているような気もするが、それはそれ。
　彼女達の怒りが新たな爆発を呼び、うどんを食べようと口を開けていた讃岐うどんチェイサー達を、一度にまとめて吹き飛ばした。

●怒りと希望と
　立て続けに障壁へと打ち込まれたグラディウスによる攻撃。爆風の広がる攻略地点の中枢に、ハートレス・ゼロ（復讐の炎・e29646）は上空から冷ややかな視線を送っていた。
「醜悪だな……」
　それだけ言って、彼もまたヘリオンから飛び降りた。目標が眼下へと迫るにつれて、先の攻撃で吹き飛ばされた、讃岐うどんチェイサー達の残骸も見えてくる。
「奪い食らうための口ばかり大きく、奪われる悲しみを見る目を持たん。貴様らが食らった糧で、どれだけの飢餓が救えたか。思いを巡らす頭もない……」
　それは正しく、デウスエクスの本質であろう。他者から奪うことでしか糧を得られず、そのためならば、どんな非道な行いも平然とできる。この地球に生きる人々を餌程度にしか考えていないからこそ、彼らの所業は許せないのだ。
「さあ、応報の刻だ。この城、この土地……返せるものは全て返してもらうぞ。貴様ら略奪者の天国など、オレの地獄で焼き尽くしてやる！」
　デウスエクスによって命を奪われた戦友たち。その姿を思い浮かべ、ハートレスはグラディウスを叩き付けた。
　人命、史跡、そして丹精込めて作られたうどんまで。それが誰かの物である以上、そこに貴賎など存在しない。己の欲望を満たすために、勝手に奪ってよいという道理もない。
　切っ先が光の障壁に触れた瞬間、今までにない巨大な爆発が辺りを飲み込んだ。これは、もしかすると行けるかもしれない。一抹の期待を抱きつつも、ミシェル・マールブランシュ（きみのいばしょ・e00865）は慌てず騒がず、淡々と言葉を紡ぎながら想いを馳せて。
「名産というのは、土地に暮らす人々の歴史だと思っている。先人達が土地を愛し、土地は人々に豊かな実りを与えてきた。実りある土地には人が集まり、そこには国が出来る」
　その国を象徴する『城』とは、即ち土地を愛した人々の誇りでもある。そして自分達は、その誇りを護るための戦士であると。
「前置きが長くなりましたが、つまりはこういうことです。『先人たちの歴史を、誇りを、踏みにじる真似は赦さない』」
　ましてや、それが決して満たされることのない、己の食欲を満たすためならば。人々の想いを無下にするような者には、情けも容赦も必要ない。
　巻き起こる爆発が、無情にも讃岐うどんチェイサー達を巻き込んで行く。徐々にだが、確実にダメージを受けて行く光の壁。しかし、未だに壁が健在である以上、このまま行っても破壊できるかどうか。
「現地の人が大事にしてるものを食い荒らすのは楽しいですか？　……あー、楽しいでしょうね。お前らドリームイーターはいつもそうだ」
　失われた感情を満たすため、他人の大切なものを平然と奪う。その結果、悲しみ、苦しみ、場合によっては人生の全てを奪われる者もいる。なにより、自分がそうだったからこそ痛みが解ると、グーウィ・デュール（黄金の照らす運命・e01159）はグラディウスを握る手に力を込め。
「今この瞬間も、彼らは耐えてるんだ！　奪われ続けながら、それでも信じてるんだ！　ボクらが、ケルベロスがいつか奴らをやっつけてくれるって！」
　だから、それに応えるのが自分達の使命だとミライが叫べば、グラディウスも彼女の想いに呼応して徐々に力を増して行く。
　ここを解放すれば、自分のような者を少しでも減らせるとグーウィは告げた。これを最初で最後にしてやろうと、ミライが叫んだ。
　その度に輝きを増すグラディウス。目の前に迫る光の壁に、彼女達は同時に刃を突き立て。
「「だから……！」」
　その叫びが重なったところで、切っ先が障壁に突き刺さった。
「消え失せろ、腐れ夢喰い！」
「ドリイイィムイイィタアアアアアッ！　じ、ご、く、に――落ちろおおおおおっ！！」
　壮絶な爆風が、辺りを包む。凄まじい爆煙が周囲を包み、丸亀城もまた煙の中へ消えた。

●貪欲なる大口
　爆煙の晴れた丸亀城。城跡と共に聳え立つのは、果たして度重なるケルベロス達の猛攻にも耐え切った、堅牢なる光の壁の姿だった。
「えぇっ！　あれだけ攻撃して、壊せなかったの！？」
　完全に決まったと思ったが故に、信じられないといった表情で障壁を見上げるミライ。爆発の威力が申し分なかっただけに、当たり所が悪かったのだろうか。
「う～ん……。私達の食欲が、足りなかったのかな？」
「もしくは、空腹過ぎて力が入らなかったとか……」
　顔を見合わせるわかなと舞彩だったが、正しい答えは既に霧の中。あるいは、丸亀市よりも、うどんそのものに気持ちが向き過ぎてしまったからかもしれないが、悔んでいても仕方がない。
「ォォォォッ！　美味しいうどぉぉぉぉん！　うどんが食べたぁぁぁい！」
　本能丸出しな叫び声を発しながら、巨大な口の化け物が現れた。
　生き残りの讃岐うどんチェイサー。こいつを倒すまでは、任務を終えたとは言い切れない。
「行きがけの駄賃だ。貴様にはオレの地獄に付き合ってもらう」
　チェーンソー剣の刃を振動させ、口の化け物と対峙するハートレス。ただ、本能のままに好物を奪い、喰らい尽くす存在など、見ているだけで虫唾が走る。
「うぉぉぉっ！　うどぉぉぉん！　食わせろぉぉぉぉっ！！」
　手にしたフォークを振り回しながら、讃岐うどんチェイサーがケルベロス達に襲い掛かって来た。しかし、いかにあの爆風を掻い潜り、生き残った個体とはいえ、たった一匹では多勢に無勢。
「どぉした！　ビックマウス！　そんな攻撃じゃあオレは倒れねぇぞ！」
　投擲されたフォークが身体に刺さっても構わず、マサヨシは鼻で笑いながら敵を挑発する。
　その程度で、攻撃をしているつもりなのか。本当にそう思っているのなら、真の攻撃とはどういうことか見せてやろうと。
「いいか……目ん玉ねぇなら、その代わりに馬鹿みてぇにデカイ口開けて、よ～く味わえ。攻撃ってぇのはなぁ……こうするもんなんだよ！！」
　身剣一体を目指した竜鱗の刃。それに宿した炎諸共、敵の脳天に叩き込み、他の者達も続いて一斉攻撃！
「あわ……あわわ……うどん！　うどんを食べないと～、死んでしまう～！！」
　次々に繰り出されるケルベロス達の攻撃を前に、瞬く間に追い込まれて行く讃岐うどんチェイサー。慌ててうどんを食し、体力を回復しようと試みるが、それは火に油を注ぐに等しい行為。
「なにあれ！　もしかして、見せつけてるつもり！？」
「自分ばっかり食べてずるーい！　絶対、絶対に許さないんだから！」
　先程から、うどんを食べられずに苛立っていた舞彩とわかなが、ここに来てとうとうブチ切れた。
「このっ……！　麺の一本でいいから、よこしなさいよ！」
「独り占めは駄目なんだよ！　悪い子は、百叩きの刑にしてあげる！」
　手にしたナイフで滅多刺しにする舞彩と、如意棒で殴りまくるわかなの二人。回廊が破壊できなかったことも相俟って、もはや完全な八つ当たりである。
「ミミ蔵、お前も行くっす！」
　炎を纏った蹴りと共に、相棒のミミックをけしかけるノイアール。大口を開け、敵に齧り付く宝箱。これぞまさしく、大口対決といったところか。
「さて、そろそろ潮時ですね。あまり時間を掛け過ぎるのも、得策ではありませぬ故に……」
　ミシェルが、くるりとステッキを回せば、シャーマンズゴーストのカエサルもまた、鏡映しのようにステッキを回す。流れるようにして繰り出された星型のオーラが敵の口内に飛び込んだところで、カエサルの非物質化した爪が、容赦なく讃岐うどんチェイサーの身体を貫いて。
「勝ちの予言を出しております。倒れることはありませんよ」
　ケルベロスチェインで魔法陣を描きつつ、グーウィは後ろから仲間達へと告げる。その上で、改めて讃岐うどんチェイサーへと視線を向け、冷ややかな口調で言い放った。
「あなたの未来は……あぁ、何も見えません。何しろありませんので」
　果たして、その言葉通りに、ハートレスのライドキャリバーであるサイレントイレブンが、燃え盛る弾丸の如く突っ込んで来た。
「ぐぇぇぇっ！！」
「今だ……！　イミテーション・ツー、ヴォイドスラッシュ」
　思わず敵が悲鳴を上げたところへ、ハートレスのチェーンソー剣が唸りを上げて襲い掛かる。そのまま一気に間合いを詰め、口内に振動する刃を突っ込んだ。
「奪われたものの怒り、その身に刻み込んでやる」
「あがががっ……！　ひゃ、ひゃが……ひはがぁ……」
　荒れ狂う鋼の塊が、敵の歯と舌をズタズタに破壊した。口から泡を吹き、その場に崩れ落ちる讃岐うどんチェイサー。もはや、立ち上がる力もないと察し、最後はミライが地獄の業火で円陣を描き。
「食べてばっかりいないで、たまには食べられる側の気持ちも味わってみなよ！　ヘルズゲート、アンロック！　コール・トリカラード！」
　赤、黄色、そして青。それぞれ、３色の炎を纏った３本の鎖が、讃岐うどんチェイサーを絡め取る。必死に捕縛から逃れようとするが、こうなってしまっては逃げ場などなく。
「うごぁ……ひゃひゅへ……ひがぁぁぁっ！！」
　そのまま鎖に引かれる形で魔法陣の中へと引き摺りこまれ、二度と再び姿を現さなかった。

●魔手の気配
　戦いの終わった丸亀城。当面の作戦は成功させたところで、ミシェルは改めて仲間達に撤退を促した。
「うど～ん……食べた～い……」
　遠くの方から聞こえて来る、讃岐うどんを求める声。ここが敵の拠点の中枢である以上、このまま留まるのは自殺行為。だが、しかしなんとも食欲を刺激する声でもある。
「折角だし、皆でうどんを食べて帰りましょうか？」
「いいっすね！　ひと汗かいて、お腹もすいてきたところっす！」
　舞彩の言葉に、ノイアールが満面の笑みで頷いた。折角、うどん県にやって来たのだから、せめてそのぐらいは食べて帰ってもバチは当たるまい。
「おうどん食べるなら、私も一緒に行くよ！」
「あっしも、ご一緒させていただきましょう。あぁ、もちろんお金は払いますよ」
　わかなとグーウィも加わり、一同は改めてうどんを食べるべく丸亀城を後にする。そんな中、マサヨシとハートレス、そしてミライの３人は、遥か遠方に位置する東京の方角を見上げ。
「連中との決戦も近い、か……」
「地獄の宴は、これからが本番ということだな」
　呟く二人。上空5000mに現れたジュエルジグラットの手。文字通り、ドリームイーターの巨大な魔の手が、今も東京を飲み込まんと迫っている。
「……奪わせない、絶対に！」
　決意を新たに、拳を握り締めるミライ。ドリームイーターとの決戦の足音は、刻一刻と迫っていた。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年12月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 1
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