ミッション破壊作戦～鋼鉄の魔空回廊に挑め

■リプレイ

　茨城県ひたちなか市。
　かつて、弩級ダモクレスの兵装を巡って激戦が繰り広げられた地である。
　その戦いには決着がついたが、今なお、ダモクレスの埋設した地雷型ロボット群の眠る、危険な場所となっている。
　広く深い地中から、時折地上に現れる『メガアーム』をケルベロス達は破壊し続けて来たが、全てを駆逐することは到底かなわぬまま、現在に至っている。

●戦いに終止符を
「いざってときのために、この辺りにいたケルベロスたちには、出来るだけ話を通しておいたよ」
　ひたちなか市の地図を広げて、アンゼリカ・アーベントロート（黄金騎使・e09974）は現在位置を確認する。
　今この時も、ケルベロスたちはこの地を解放するための戦い続けているのだ。
　リン・グレーム（銃鬼・e09131）は、暗澹たる思いで破壊されたままの市街地を見下ろしていた。
（「既に多くの者に屠られているはずなのに未だ尽きる様子がないとは……全く、大侵略期にはどれだけのダモクレスが製造されたんでしょうね」）
　物思う間にも、またアスファルトが割れて、一体のメガアームが這いだして来た。
　その姿が、キルロイ・エルクード（ブレードランナー・e01850）の胸の奥で揺らめく炎を、さらに燃え上がらせる。
（「滅してやるぞ、ブリキ共。この地域のみならず、この星の重力圏から一機残らずな」）

　ヘリオンは飛び続け、やがてグラビティ・チェインを濃密に感じる場所にたどり着いた。
　一見すれば、護衛のダモクレス達や破壊された街並み以外には何も見当たらない空間だ。
　しかし、ケルベロスたちがそれぞれグラディウスを手に取ると、ドーム型のバリアに覆われた『強襲型魔空回廊』がその姿を現したのだった。

●砕けたまえ魔空回廊
　工業と先端技術で、日本の発展と人々の暮らしを支えてきたひたちなか市は、今や、最も長くデウスエクスの危機にさらされる地となっている。
　積み重ねられた歴史を、今を生きる人々の生活を、未来を取り戻す。
　それこそが、このミッション破壊に挑むケルベロスたちの何よりも強い願いだ。

　先陣を切って飛び降りたのは、ヒナタ・イクスェス（世界一シリアスが似合わない漢・e08816）。
「くぁ！　この地域にミッション領域が現れて早２年と３ヶ月！　も～イイでしょ、も～イイ時間でしょ！
　今日この日、この時を以って！　この地を、ひたちなかの人達に解放してやるのオチね～！」
　ハイテンションに叫び、ヒナタはケルベロスの牙――グラディウスを魔空回廊に叩きつけた。
　ほんの切先が触れただけで、強固なはずのバリアは音もなく消滅する。爆炎と雷光が生じ、魔空回廊とダモクレス達を急襲した。
「実に長くこの地をダモクレスの影響下に置いてしまった……だがそれも今日までだ！」
　アンゼリカ・アーベントロート（黄金騎使・e09974）は、破壊の只中へと躊躇なく飛び込む。
「この地に人々が根付き、脈々と生き続けた証を守るために、そして何よりも……」
　凛たる声が魔空回廊に響き渡る。轟く爆音も、魂から迸る叫びをかき消せはしない。
「何より、今を生きるこの地の人々がまたここで安心して生活出来る為もっ！
　地下に埋設されたダモクレスは全て出て行っていただこうッ！！」
　アンゼリカの気概が、グラディウスの力を高めていく。
「砕けたまえ、魔空回廊ッ！！」
　金と銀の雷光が迸り、黒煙の闇を照らした。四方に伸びて八方を斬り裂き、無数に生じた爆炎が回廊を破壊し、燃えあがらせる。
　回廊の周辺を濛々たる黒煙が覆いつくし、炎と雷光が閃く以外は何も見えない有様だった。

　破壊される魔空回廊は凄まじいばかりの有様だ。重く濃密なグラビティ・チェインが、急激に薄れていくのをリンは感じている。
「長く続くこの地での戦いに終止符を！　多くの人に安心した生活を送って貰うために！」
「……元同胞を俺は討つ！　輝けグラディウス、強く、眩く、俺の意思を糧に燃えろ！　その力を持って魔空回廊をぶっ壊せ！！」
　リンの言葉通り、グラディウスは強く眩く輝き、魔空回廊の凄まじい白光で包んだ。
　一方で、キルロイ・エルクード（ブレードランナー・e01850）の抱く強い想いは、飽くことなく燃え続ける復讐の炎だ。
　愛しい人を奪った仇を目前にすれば、それは更に燃え上がる。
　雷と炎に打たれる機械たちの断末魔が、彼には心地よい音楽に聞こえる。
「自業自得、因果応報、悪因悪果。全てテメェら自身が招いた結果だ。
　一線を振り切った人間の執念とおぞましさを自らの命をもって知るがいい。
　俺の命が続く限り、テメェらに安息の日々など無いと思い知れ！」
　魂の奥底からの憎しみを、今は抑える必要もない。ただありったけを、敵の心臓部へと叩きつけた。

「ここには多数の工場、文明開化の象徴が建てられていたの。
　ダモクレス、ここを戦いの場に選んだお前達の見繕いは正しい。
　だからこそ、人類の財産を取り戻すために、ここから出て行って貰うのね！」
　ミステリス・クロッサリア（文明開華のサッキュバス・e02728）の叫びに嘘はない。
　ただちょっとだけ邪念が混じったのだろう、グラディウスから放たれる輝きが、若干弱くなった。
　マーク・ナイン（取り残された戦闘マシン・e21176）の想いはブランコへの一点。
「アンタらには悪いが、そこにブランコを作ることにした。だからそのはた迷惑な魔空回廊は撤去する！」
　ブランコの何が彼をそこまで駆り立てるのか。
「SYSTEM COMBAT MODE 3、2、1、IMPACT！！」
　グラディウスは、マークの熱い想いを受け止め、爆炎と雷光を魔空回廊に降り注いだ。

「……本当に。最初にこの地域が攻撃されて以来、随分と時間が経ってしまった」
　ダリル・チェスロック（傍観者・e28788）は、その重みを噛みしめるようにグラディウスを握り込み、只中へ飛ぶ。
　耳つんざく破壊の音に負けじと、ダリルは叫んだ。
「その間、ひたちなか市の方々は、ダモクレスの脅威から、不安な日常から必死に堪えていてくれた。
　ならば、今こそ私たちがその心に報いるべく立ち上がり、全ての「メガアーム」を破壊し尽くし！　ひたちなか市から魔空回廊の脅威を取り除いてくれよう……！」
　――ただの一度で決着をつける。
　ひたすらにその一念を込めて、グラディウスを振るえば、その剣身が恐ろしいほどに輝いた。
「……っ！？」
　凄まじい高熱を発するグラディウスを、なんとか両手で握りしめ、こらえに堪える。最大限まで膨れ上がり、もうこれ以上の制御が不可能なほど高まったグラビティを、ダリルは一気に解き放った。
　これまでの中で最も大きな爆炎が魔空回廊を焼きつきす。
　自らの生み出した爆風に煽られて、刹那、ダリルの身体は上昇した。
　風と煙、電が、熱が全てを焦がして身動きが取れない。

　最後に降下するリティ・ニクソン（沈黙の魔女・e29710）の全身を不意に熱気と噴煙が嬲る。激しい爆風に上下に煽られて、自分が降下しているのか上昇しているのかさえ分からなくなる。
　けれど恐れはない。皆の熱い叫びが聞こえる度に、魔空回廊の重圧が消えていったから。そして、ダリルの特大の一撃の後には、もうほとんど重圧は感じられない。
　もしかしたら……リティの中の『心』がひどく高鳴っていた。
「工業と先端技術で、日本の発展と人々の暮らしを支えてきたひたちなか市。
　人々の働く場であり、暮らしの場でもあるこの地を……今、取り戻す！」
　煽りたてる風と煙に負けないように、魂の底から叫べば、グラディウスは応えて輝きを増す。
「技術は人々の笑顔と明るい明日のため。それを殺戮に用い、人々を恐怖に陥れるお前等は……許せない！
　プログラムされた心のないメモリーに、今日こそ恐怖を刻み込む」
　さあ、止めだ。
「もう、お前等のいいようにはさせない！！」
　リティは、渾身の力を振り絞り、魔空回廊へとグラディウスを振り下ろした。

　真っ白な闇が広がった。
　瞬間、音さえ消える。

　爆炎に次ぐ爆炎、天突くほどの火柱が立ちあがり、地鳴りが大地を揺らす。
　強襲型魔空回廊は、ここにその一切が消滅したのだった。

　一通りの爆発が収まった後も、黒く立ち込める噴煙は当分晴れそうになかった。
　遠く微かに聞こえる歓声は、他のケルベロスたちのものだろう。
　そんな中をかいくぐり、ケルベロスたちは集合する。
「さっさと撤退するの！　リティちゃん、グラディウスお願いね」
　ミステリスと同じように、皆はグラディウスをリティに預ける。
「それじゃ、撤退のルートは……」
　アンゼリカが、調べておいたルートを探そうと振り返った、その足元が不意に隆起した。
「わっ！？」
　アンゼリカが慌てて跳び退いた直後、地面を割って『メガアーム』が現れる。
　ここまでに見たどの個体よりもずっと大きい。魔空回廊を守護する部隊の精鋭だろう。
「簡単には帰らせてくれないみたいだよ」
　リンは残念だとため息をつく。
「そのようだ」
　キルロイはリティを背後に庇いバスターライフルを構えた。

●因果応報・悪因悪果
　『侵入者の排除・抹殺』
　魔空回廊は消失しても、メガアームにプログラムされた指令は生きているようだ。
　侵入者を排除するべく、何本もの巨腕を高速回転させて、メガアームは突進する。
　生じた風圧の刃がリティを襲うより早く、ミステリスのライドキャリバーが間に飛び込み、吹き飛ばされた。

　それでも。
　例えどんな強敵であろうと、今のケルベロスたちには恐るに足りないのだ。
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
　リティの操るドローンの群がメガアームを分析し、前線で戦う彼らへ情報を伝える。
　ダリルの轟竜砲は突進するメガアームを掠めて勢いを殺し、ついでリンの放った竜砲弾が脚部を吹き飛ばす。
「――さぁ、黄金騎使がお相手しよう！」
　アンゼリカは纏うオーラから弾丸を精製し、放つ。真紅の弾丸がメガアームを貫き、回路の一部を凍結させた。
　損傷していない方の脚部を軸に、旋回からの攻撃を試みるメガアームだが、キルロイは弾丸をばら撒き、前進も後退も許さない。
　徹底的に癒しまくるの！　と、ミステリスは祝福の矢をヒナタに放った。
「くぁ！」
　破剣の力を得たヒナタが号令をかけると、どこからともなく小型赤ペンギン（1/8スケール）の群れが戦場に殺到する。
「全員撃て撃て撃て撃て～～～！　のオチ！！」
　『アカペン！　アカペン！！　アカペン！！！　アカペン！！！！』
　手にした重火器で集中砲火を仕掛ける赤ペンたち。
　なおヒナタは後方で動かざること山のごとし、つまり見てるだけ。これにはメガアームも怒り心頭。
「ちょっと！　ミステリスの援護を無駄にしないでなの！」
　ミステリスも激おこだ。
「LOCK ON」
　マークはアームドフォートの主砲を一斉掃射すれば、脚部を損傷し、回路が凍り付いたメガアームに避ける目はなかった。
　ボディを穿たれ、激しい衝撃に襲われたメガアームは動きを止める。
　赤ペンギンの煽りに耐えて自己修復機能の起動を試みるが、リティの投射したウィルスカプセルに阻害され機能不全を起こしている。
　煙を噴き出し、動作の定まらないメガアームをアンゼリカが追い撃つ。
　気合いを込め、光状のグラビティを両の掌に収束させる。闘魂のバトルオーラに覆われた翼が、燃える紅に輝いた。
「これが――光だ。消えたまえ！」
　放たれた光はメガアームに襲い掛かる。激しく発熱し、鋼鉄の身体をも焼き焦がした。
「『謳え雷、地に響け』 」
　ダリルの詠唱に応えて、閃光が轟き、雷鎖が疾った。グラディウスのそれにもにた破壊の鳴動がメガアームを容赦なく打ちのめす。
「『MODE ASSAULT READY』」
　マーク、ショルダーシールドをパージ。突撃と同時にパイルバンカーを展開、メガアームを貫き接射する。
　どうやら余裕がすごくありそうだと見たミステリス、自作のガトリング砲を装備する。
　撃ちだすは何故かミサイル。たまらず逃げを打つ、メガアームを追い詰め破壊する。

「『環境補正完了　戦術データリンクへの接続承認』」
　罪悪感は確かにある、だけど、言い訳などしない。せめてその最後を見届け、記憶するために、リンは戦っているのだから。
「『圧縮グラビティ全解放　ウェポンリミット解除　マルチミサイルオールロックオン…fire』 」
　激烈な攻撃でダモクレスの全てのセンサーを狂わせ、制圧する。
　ケルベロスたちの猛攻に、破壊寸前のメガアームにとどめの一撃を与えたのは、キルロイだった。
「あばよ」
　無慈悲に、正確に。『聖女を穿つ魔弾』が、メガアームの核を撃ち抜いた。

●この地を今、取り戻す
　徐々に、煙が晴れていく。
　強襲型魔空回廊は破壊されたが、メガアーム群はまだ健在だ。体勢を立て直すのも時間の問題だろう。
「今度こそ撤退だね」
　リンの言葉に、誰も異議はない。
「こっちだ」
　アンゼリカが指し示す方へ、皆で向かう。

　この地の復興が成った遠くないいつか、休日に遊びに来よう。
　欲しかった電化製品を買おう。
　ブランコをつくろう。
　人類のハッテ……発展を確かめにこよう。
　きっと、みんな、笑って生活しているだろう。

　たくさんの楽しい計画を胸に描きながら、ケルベロスたちは帰途に就くのだった。

作者：黄秦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年12月3日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 12／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。