顔こそが勇者の条件

作者:七尾マサムネ

「それじゃ明日、約束の時間にね。君に会うの楽しみだなあ~、と」
 夜。人気のない路地裏。1人のイケメンがこの先の繁華街へと歩きながら、携帯端末でメッセージを送っている。
 相手は、彼女。……ただし、8人いるうちの1人だが。
 さて、次はどの子を誘おうか? ほくそ笑むイケメンの前に、1人の女が現れた。
「その顔の、もっと良い使い道を教えてあげる」
 女がそう言った直後、イケメンが燃えた。
 青い炎が、瞬く間に全身を焼き尽くす。消えた炎の中から現れたのは、鎧をまとった背の高い男性……エインヘリアル。
「うん、今回もいい感じの出来ばえじゃない?」
 3メートル級の体となっても相変わらずのイケメン。それを値踏みし、女はうなずく。
「でも、見掛け倒しなんてダメ。早くグラビティ・チェインを奪って。そしたら、迎えに来てあげるから、ね」
 女の言葉に背中を押され、エインヘリアルは繁華街を目指す。無駄に艶やかな銀髪を揺らして。

「皆さん、炎彩使いと呼ばれる者達が、またエインヘリアルを誕生させたようなんです」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)の説明によれば、今回の首謀者は、青のホスフィン。
 彼女ら炎彩使いは、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアル化する事ができると言われる。
「ホスフィンは、優れた容姿を持つ男性を好んでエインヘリアル化する傾向があります。そうして生み出されたエインヘリアルは、枯渇しているグラビティ・チェインを獲得するために、人間を殺そうと暴れだします。そこで、皆さんには現場に急行して、エインヘリアルを食い止めてほしいと思います」
 撃破すべき美形エインヘリアルとは、人気のない路地裏で接触可能だ。
「このエインヘリアルは、銀色の長髪の持ち主です。身にまとう青の鎧は、実用性や防御力よりも美しさを優先させた流麗なデザインですが、性能に問題はないようです」
 また、剣の使い手であり、ゾディアックソード相当のグラビティを繰り出す。ポジションはクラッシャー。
 また、このエインヘリアルは、自分の美しさに高い誇りを抱いている。
 美しさこそ力であり、したがって、美しい自分が勇者として選ばれるのは当然である……そんな無駄に高いプライド。人を殺めても、この自分の手にかかって死ねるなんて光栄じゃないか、という認識しかない。
「炎彩使いは、元々の性格に問題のある人間ばかりを素体としているようですね。放置しておけば必ず悪い結果をもたらすはず。そうなるまえに、阻止をお願いします」
 イマジネイターはそう言って頭を下げたのだった。


参加者
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)
進藤・隆治(沼地の黒竜・e04573)
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)
鬼島・大介(百鬼衆の首魁・e22433)
六・鹵(術者・e27523)
エレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)
宮岸・愛純(冗談の通じない男・e41541)
椚・暁人(吃驚仰天・e41542)

■リプレイ

●自称・美勇者との邂逅
 グラビティ・チェインを求め、夜の繁華街を目指すエインヘリアル。
 だが、その軽やかな足どりが止まる。ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)が、敢然と立ちはだかったからだ。
「残念ですが、ここは通せません」
 響いた声にエインヘリアルが振り返れば、そこには、修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)。
 闇から忍び出たエレス・ビルゴドレアム(揺蕩う幻影・e36308)やケルベロス達が、包囲網を形成するのを確かめ、エインヘリアルが肩をすくめた。
「どうやら僕の美しさが、君達を呼び寄せてしまったようだね」
 違う。
 ……とも一概には言いきれず、ケルベロス達は複雑な表情をのぞかせた。この男がホスフィンに見込まれるようなイケメンでなければ、こうして討伐に来る事もなかったのだから。
「ふぅん、たしかに……いい顔立ちしてるかも、しれないけど。君乃の方が、格好良いね」
 相手をしげしげと観察した六・鹵(術者・e27523)の脳裏に、ふと、美形の友人の顔が浮かぶ。
「なるほど、顔は少しはマシかもしれん。だが心の中はあまりに醜い!」
 宮岸・愛純(冗談の通じない男・e41541)が、己の嫉妬心を棚に上げ、訴えた。
「心なんてどうでもいいのさ。見なよ。僕の顔には、僕の価値の全てが集約されている!」
「いやそれは、顔しか自慢できるものが無い、の間違いではないかなぁ。……まぁ、どうでもいいか」
 進藤・隆治(沼地の黒竜・e04573)が興味なさそうに告げると、やれやれ、と鬼島・大介(百鬼衆の首魁・e22433)も、頭をかく。
「『英雄、色を好む』とはよく言ったモノだが……コイツのやり口は詐欺師同然だからなぁ。騙される女も女だが、恋は盲目ってヤツか。度し難いな」
「あなたも炎彩使いの被害者だとは思うけど、流石に生前の行いは酷すぎるかな」
 というか、八股ってどんだけ器用なんだろう……と椚・暁人(吃驚仰天・e41542)の胸にも、呆れと感心が入り混じる。
 立て看板により人払いされ、かつ、前後を囲まれたこの状況でも、エインヘリアルは余裕だ。
「ふっ、これも勇者の試練か。つまり君達は、華麗な僕がより高みに至るための糧というわけだね!」
 自信たっぷりに告げるエインヘリアルに、ケルベロス達は絶句した。
 ……無視した、とも言う。

●自称・美勇者の主張
「貴方は自称イケメンの様ですが、ケルベロスにもイケメンは沢山います。窮地で覚醒した真のイケメンも居ますね」
 仲間達を見回しつつ、エレスが言う。
「ですが、貴方はデウスエクスに変わり果ててしまいましたね。貴方のイケメン度は、所詮、その程度の残念さだったようです」
「僕の美を、その程度呼ばわりとは」
 嘆かわしい、とエインヘリアルが頭を振ると、髪から、銀の謎粒子が舞った。……ように見えた。
「いいか。イケメンは当然悪であるが、死んでしまえばもはや仏様であり、世の女性に迷惑をかけないから無罪放免と思いきや、死んでなお人々に害を与えるとは、さすがイケメン絶対悪」
 皮肉を交え、熱弁を振るう愛純。
「せめて他人に迷惑をかけないようにしてやるのが情けというものであろう」
 なお、愛純の主張の大半は、嫉妬に基づく個人の意見である。念のため。
 しかし、このエインヘリアルを討伐する、という事に関しては、仲間達も是非はない。
「まだ人のままだったら、その外見と合わない曲がった心根を直せたかもしれませんが、こうなった以上、倒すしかありませんね」
「そんなに顔が大事なら、その顔を守って死ぬが良い」
 雫と隆治が、いよいよ臨戦態勢に入った。ラギアも如意棒を構える。
「イケメンの兄さん。懺悔する時間くらいは与えてやるよ」
「懺悔? 美を求めるのは真理。ゆえに僕は真理そのもの。懺悔などいるものか!」
「けど、顔が良いからって何してもいいわけじゃないよね」
 大仰な仕草で抜剣するエインヘリアルに、暁人が反論した。
「グラビティ・チェインを奪うとか、本当に越えてはいけない一線だけは、越えさせないよ。ちょっと調子乗りすぎてるし、反省はしてもらわなきゃ。な、はたろう」
 暁人に応え、ミミックの『はたろう』も牙を剥く。
「全く、うっとうしいさえずりだ。僕の引き立て役にすらなれない存在のくせに」
「さっきから、気に入らねぇな、その傲慢な態度」
 大介が、ずいっ、と一歩前に進み出た。
「今からそのツラも、無駄に高ぇプライドも、一切合切潰してやるよ。大体な、傲慢・横暴・理不尽は俺の専売特許だ。キャラ被りしてんじゃねぇぞ、このどさんぴんがぁ!!」
「キャラ被り? 君達と被っているのは、その辺の石ころだと思うけどね?」
 我ながらいいたとえだね、と自画自賛するエインヘリアルを見る鹵の瞳に、哀れみが宿る。
「炎彩使いに選ばれてしまったことには、僕も同情するけど……こうなってしまっては、もう、戻れない……。その自慢の顔、壊して、地獄に、送ってあげようか。さあ、戯ぼう」
 偽りの勇者に引導を渡す、二冊の魔導書が開かれた。

●自称・美勇者の奮戦
「リア充は死ね!」
 突如、愛純が炎柱に包まれた。
 嫉妬の力……否、地獄の力をまとい、イケメンの粛清に挑むつもりだ。
 その横で、ナノナノがハート光線を発射するのはシュールな光景と言えたが、その名は『しっと魂』である。
「美の神に見放された君達が必死になる姿は、滑稽だね!」
 エインヘリアルの嘲笑には構わず、エレスが歌う。
 オーラに似た幻影が呼び起こされ、仲間達を包む。それは力。敵の加護を打ち破る力だ。
 御業の力を借りた雫が、イケメンの顔をわしづかみにした。
「は、離しなよ、その汚い手を……!」
「ここまで外見と内面がかけ離れた人を見るのは初めてですね。毒を持つ花は綺麗な姿をしていますから」
 その締め付けにも、イケメンの笑顔は崩れない。
「全く、ここまで嫉妬を抱かれるとは……僕はホント、罪な男だなあ?」
「いいえ、その美しさと合わない心を持つことが、あなたの罪です!」
 敵の巨躯を雫が放り投げた先、ラギアが待つ。
「やれやれ、美にこだわるこの姿勢、放っておいたとしても、いずれは道を踏み外していただろうな。そうだな、ビルシャナあたりか」
 業炎をまとったラギアの如意棒が、敵を壁際に追い込む。
「それなら、めんどくさい信者がいない分、戦いやすくて好都合だ」
 次を頼む、とラギアの声を受け、隆治が繰り出した衝撃波が、敵の全身を叩く。無論、顔も例外ではない。
「な、僕の顔に傷を……!」
「おっと、顔面にしか価値が無いのに、それに傷が付いたら……価値なしだな」
 隆治の嘲笑が、エインヘリアルから笑顔を奪う。
 怒りへとすり替わったその顔を、大介の如意棒が直撃。
「げはっ」
「よう、色男。随分良い顔になったじゃねぇか。さっきまでのキザったらしくてウザってぇツラより、そっちの方がテメェには似合ってんぜ?」
 先ほど石ころ呼ばわりされたお返しとばかり、大介が、鼻で笑い飛ばす。
「顔ばかり狙うとは……! 君達の罪は、僕の美を認めないことだ!」
 エインヘリアルが、剣を振るう。生じた幻影が、ケルベロス達を薙ぎ払った。……エインヘリアル自身の姿を模した、幻影が。
 戦闘の余波をかわした鹵が、足に力をこめる。地面に展開した魔法陣を蹴って、跳躍。
「顔しか誇れないなんて、悲しい、ね」
 エインヘリアルに、鹵の蹴撃が迫る。ヒットの際、再度展開した魔法陣に弾かれるように、敵の巨躯が吹き飛ぶ。
「何の権利があって、僕の顔を傷つけるんだい? 選ばれしこの僕の!」
 どこまでも自分の容姿を鼻にかける相手に、暁人はげんなりだ。
「同情は出来ないかな、でも哀れだとは思うなぁ」
 暁人が言った途端、エインヘリアルの足元が爆発した。しかも、次々と連鎖して。

●自称・美勇者の反撃
「僕の罪は美しさ。そして、君達の罪は……醜さだ!」
 爆発から脱したエインヘリアルの剣の切っ先は、愛純を狙っていた。
 しっと魂が、懸命にばりあを張って応戦する。
「容姿は幾らでも取り繕えます。真のイケメンは、素敵な心が伴っていないとダメですよ」
 エレスが勇者をたしなめつつ、回復の力を解き放った。すると傷口は、またたく間に完治したではないか。
 それは、幻……だが、痛みとは、痛覚のみならず、視覚からも生まれるもの。現に、エレスの回復を受けた愛純は、万全の状態とそん色なく戦闘を継続している。
「八股していたようだが、相手の女性がそれに気がついていないとでも思っていたのか? 顔にしか価値の無いお前を哀れんで付き合ってくれていたのかもしれないぞ?」
 まぁ、我輩にはわからないが。そう言い捨てると、隆治の地獄の炎弾が、エインヘリアルの腕に食らいついた。
「僕は哀れみを受ける存在なんかじゃない! 見なよ、あの月も僕を祝福してくれている!」
 そういってエインヘリアルが指差した月を、雫の生成した雷雲が遮った。
「今のあなたの姿はとても醜いですね。その心と同じですよ」
 月光の祝福ならぬ、雷の裁きが、エインヘリアルの体を引き裂く。
 もはや、自慢の銀髪はくすみ、誇るべき顔にも傷は多い。
「この僕が、醜い? 違う! 僕自身が美そのもの。どんな姿になっても、僕が僕である限り、美しさは揺るがない!」
 暴論をぶつけると、イケメンが星の輝きに包まれた。傷が、顔を中心に、少しずつ癒えていく。
「救いようのない男だが、彼女達には大切な人だったのだろうな、それなりに」
 嘆息するラギア。彼女達から男を奪ってしまうことに対しては、少し心が痛むが、かといって慈悲をやるわけにはいかない。
 冷凍ブレスを浴びせ、作り上げたエインヘリアル氷像を、ぶん殴るラギア。
 破砕した氷片の合間から響く悲鳴を耳にしながら、練り上げたグラビティ・チェインを食らわせる暁人。
 逃れようと身を翻す敵を追尾した鎖状の奔流は、はたろうと共に牙を立てた。
 エインヘリアルの苦悶の声を聞きながら、鹵が、呪文の詠唱を終える。
「来れ……生と死の狭間に巣食う者」
 鹵の呼び掛けに応え、足元から、ぬらり、と出現したのは、黒き触手。
 もがく勇者の体を縛り、貫くと、その身を容赦なく蹂躙する。
「ぼ、僕はこんなところで倒れていい存在じゃない……」
 愛純は、悪を許さない。この場合の悪とはリア充をさす。
 エインヘリアル死ぬべし。怒りと嫉妬をパンチにこめ、打撃した。もちろん、顔を。
 鼻から流血し、無様に這いつくばる勇者めがけ、大介が拳を振り下ろす。
「じゃあな、出来損ないの英雄。次生まれてくる時は……いや、その時はもう一回そのツラ叩き潰してやるよ。死ね」
 鬼拳が、エインヘリアルをアスファルトに沈めた。偽りの勇者は、ここに倒れたのだった。
 戦場となり荒れた路地裏は、暁人達のヒールによって体裁を取り戻していく。そして仲間の負傷も、エレスによって手当てされた。
「八股をされていた人達も立ち直って、今度は素敵な人に出会えればいいのですが」
 雫の言葉に、仲間達もうなずいた。
「さて……炎彩使いは、人間性の欠如したものばかりをエインヘリアルにしているようだが……まだ続くのだろうか」
 隆治の呟きは、夜気に飲み込まれ、消えていった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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