ユー・エフ・オー

作者:長谷部兼光

●浮上
 降り注ぐ木の葉を払い、根をくぐり、水溜まりを飛び越える。
 目的は動物にあらず。植物にあらず。
 西陽差す山の中腹。突如現れた蜘蛛脚付きの宝石は、生物たちが息づく小さな世界を踏み荒らし、我が物顔で探査を続ける。
 草を薙ぎ、石を退け、土を掘り、やがて宝石が見つけ出したのは、鈍色に光る円盤(ドローン)。
 宝石が待ちかねたとばかりに掘り出し物へ乗り込むと、直後にヒールを施して、円盤はみるみるうちに形を変えて大きくなった。
 宝石――円盤と一体化したダモクレスは地に沈んでいた体を起こし、茜色の空へ浮上を開始する。
 ……夕陽の下には、無数のグラビティ・チェインが輝いていた。

●ロングレンジ・グラビティ
「電波が切れて墜落したか、それとも飽きて棄てられたか……ドローンがそこにあった理由まではわからん」
 報道、宅配、農業利用に個人用。昨今のドローンはあらゆる分野で活躍しているのだから、その内の一つや二つが山の中に埋まっていてもそうおかしくはないのかもな、と、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は所感を述べた。
「ただ、以前がどうであれ、ダモクレスと化した円盤がこの後どう動くかなど知れている。間違いなくグラビティ・チェインの収集――人間の虐殺だろう」
 言いながら、ザイフリート王子は周辺の地図を広げた。
 戦場となるのは某市街からほど近い場所に位置する山。
 特に開拓されている様子もなく、山菜取りのシーズンも終わった今となっては好んで近寄る人間もいないだろう。
 山中で攻撃を仕掛ければ、円盤もこちらの存在を振り切ってまで市街地に向かおうとはしないと王子は断言した。
「敵のポジションは『飛行中』。問答無用でこちらの近接攻撃は当たらない。持っていく武器には気をつけろ」
 遠距離攻撃できる装備でさえあるなら、銃、魔法、オーラ、スマートフォン、その他諸々何でも良い。

「火力が高く、タフで、尚且つ近接攻撃は通じない。そういう個体だ。気は抜くなよ」


参加者
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)
クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
香月・渚(群青聖女・e35380)
メイ・プロキオン(ゴメイサ・e38084)

■リプレイ

●既知との遭遇
「ベントラー! ベントラー!」
 人気無い山中。
 夕焼け空。
 そして敵がUFOとくれば、トンデモ兵器大好きっ子である鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)とその相棒、ウイングキャット・マネギのテンションは留まるところを知らず、
「べんとらー」
 五六七達の勢いに釣られてか、メイ・プロキオン(ゴメイサ・e38084)も一緒になって、空へ万歳しながら古式ゆかしいUFO召喚呪文を唱えた。
 そんな二人と一匹の祈り的なものが届いたのかどうか定かではないが、果たして鈍色のUFO――円盤型ダモクレスは、ケルベロス達の前に姿を現す。
「うおおおおUFO!? UFOっす! きっとマキナクロスで極秘裏に建造されていたダモクレスの秘密兵器に違いないっす!」
『あれ、そんなだったっけ?』と言う、口元まで出かかったクエスチョンを香月・渚(群青聖女・e35380)は寸前の所で飲み込んだ。
 大興奮している五六七の姿を見れば、水を差すのも野暮だろう。
「まずはコンタクトを試みるっす! おーい! おーい! ワーレーワーレーハーケールーベーロースーダーぎゃー!?」
 UFOが水を差してきた。
 UFOが発する青色の光線は山肌を抉り溶かしつつ後衛へ迫り、逃げ遅れたマネギを焼く。
 熱線を浴び、ずんぐり体形の半分が煤けたマネギはそれでもめげず翼を広げ自己回復を図ると、相棒の無事を確認した五六七は特製のランチャーを担ぎ、夕焼け空へ『すごいトリモチ弾』を轟音とともに発射する。
「UFO……かっこいいなあ」
 エドワウ・ユールルウェン(夢路の此方・e22765)は人知れず瞳を輝かせる。
 いつもぽやぽやのんびりと表情の起伏が少ないエドワウだが、だからと言って感情が乏しい訳ではない。UFOは大好きだ。
 トリモチに塗れながらも尚鈍く輝くカラー。完全円盤型のシャープなフォルム。
 アダムスキー型で無いのは少々残念だが、五六七が盛り上がるのも無理からぬ話だろうと共感する。
「でも、みんなにひどいことをする、わるいUFOはさよならです」
 ボクスドラゴン・メルはエドワウの言に頷くと、ブレスを吹いて敵の注意を引き付ける。
 ともあれ、悪事を働こうとするのは頂けない。
「UFOとUFOのバトルだ」
 エドワウは玩具によく似たUFO型のヒールドローンを展開し、ドローン達はきらきらと星の軌跡を零しつつ前衛の守護についた。
「ドローンさんがUFOになるなんて……もしかして、今までに報告されたUFOの目撃情報も、その幾つかは同じようなダモクレスだったりするんでしょうか?」
 エドワウ同様、アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)もファミリアロッド・Cherieを携え、興味津々と円盤を見やる。
 超常染みた存在が跋扈する世の中ではあるが、まさかここまでストレートな形状の、それこそサイエンス・フィクションに出てくるようなUFOに遭遇するとは。
 ある種『現物』との邂逅を果たしてしまった以上、アイラノレがふと口にした疑惑もそう外れてはいないのかもしれない。
「あり得る話です。しかし、それらの正体がダモクレスなら――遠慮も容赦もしません」
 デウスエクスである。唯一その一点が真実ならば、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)が愛銃の引き金に指をかける理由として十分だ。
 真黒のブラックバードと白く輝くアナイアレイター。
 UFOを捉えた二挺のバスターライフルは機関砲の如き密度で魔法弾を連射し、即席の対空弾幕を形成する。
 その嵐の如き弾幕を潜り抜け、悠然と残映を泳ぐ小鳥が一羽。ナイチンゲールの姿に戻ったアイラノレのファミリア・シェリだ。
 魔法弾の光を受けて、シェリの首にかけられた赤色の雫が輝く。
 シェリはアイラノレに託された魔力を纏って突撃し、市街地への侵攻を許すまいとUFOの進路をふさぎ、弾幕の中に押し留めた。
「……ところで此方は既にあの飛行物体の正体を把握していますが、それでもUFOと呼称するべきなのでしょうか。幽霊の正体見たり……って感じです」
 メイは地獄化した左腕から白炎の飛槍を生成すると、弾幕に閉じ込められた円盤目掛け投擲した。
 燃え盛る飛槍は紅霞を裂いて円盤との距離を縮める毎に、一から二、二から四、四から八と分裂を繰り返し、終点へ到達する頃には、最早無数となった白炎が一斉に円盤へ襲い掛かり、その鈍色のボディを苛んだ。
「まぁ、ドローンと分かった時点で未確認じゃなくなったけど……それはそうと、飛行中の敵は厄介だね」
 だから頼りにしているよ! と渚はボクスドラゴン・ドラちゃんを撫でると、目を瞑り静かに一呼吸、コンディションを整えるように大きく息を吸い込んで、弾む。
「さぁ、皆。元気を出すんだよ!」
 渚の『躍動の歌』は前衛を元気づけ、同時に状態異常耐性を高め、さらに続けてドラちゃんの属性をインストールされれば、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)の地獄(ほのお)もより激しく燃える。
「正に未確認飛行物体の正体見たり! だな! 機体選びのセンスは良いが、我々が捕捉したからには、もはやUFOでなくIFOとか、ただのFOとか呼んでやるぞ! 覚悟することだ!」
 啖呵を切りながら、レッドレークは少しだけ……自身の空に対する憧憬を円盤に重ねた。
 しかし、彼の攻性植物・真朱葛は、レッドレークの胸懐など知らぬとばかりに猛る。
 もともと気性が荒い性質だが、渚の歌を聴いてさらにやる気満々、と言ったところだろう。
 解き放たれた赤き一蔓は捕食形態に変じると、獲物が空に在ろうがお構いなしに体を伸長させ、円盤を飲み込んだ。
「……。え? あ、そうですね。わたし達ケルベロスが今まで見せていた力の数々は、ほんの一端に過ぎないという事を……知らしめてあげましょう……ね」
 クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)は、一つ一つ、吟味するようにゆっくり言葉を紡ぐと、橙色の空へケルベロスチェインを走らせる。
 鎖に絡め取られた円盤の内部より生成されるのは、十を超える数の小型円盤。
「……なるほど。勝負はここから……ですか」
 紫の瞳が、逢魔が時に浮かぶ鈍色の円盤群を見据える。
「”不変”のリンドヴァル、参ります……」

●近道なし
 その数は二十か、三十か。時が経つにつれ円盤群は増殖し、はや夜が来たのかと錯覚させるほどの物量が空を覆い、夕陽を遮った。
 親の円盤が光線を放てば子機も同時に光線を放ち、ボムを投下すればそれに合わせて子機もまたボムを投下する。
「うおお! あちきの予想が当ったっす! でもでも、だからって二重三重に当たりをくれなくたって良いんじゃないっすかね!?」
 ここまで当たればもしかしてキャトルミューティレーションの方も当たりっすか? と、そんな五六七の言に幽か反応したのはアイラノレだ。
 アイラノレが見る限りでは円盤にそんな機能が搭載されている様子は見受けられない。
 見受けられないが、警戒するに越したことはない。万が一にも、婚約指輪やペンダントがアブダクトされる光景を考えると……背筋が凍る。
 アイラノレはドラゴニックハンマー・クリーヴブレイカーを構成する歯車をがしゃりと組み替えて砲撃形態に移行させ、五六七は小柄な体躯をものともせず、自身の身長よりも長大なバスターライフルを軽々構えた。
 円盤の真下には近づくまいと意見の一致した二人は同時に豪砲撃を放つ。
 二人の攻撃を受けた円盤は一瞬バランスを崩したもののすぐに立て直し、子機と同時に地上へとボムを放る。
 複数の閃光と爆発が前衛を襲うが、こちらが施した武器封じの影響か、受けたダメージは序盤と比較して軽い。
「……ボムと子機は問題ないでしょう。真の脅威は遠距離を無視できる程の高い能力であり……これの対処には時間が必要と思われます」
 クララがこれまでの戦闘で抱いた所感を述べると、
「弱点らしい属性も無い。近道は出来ない。そう言う事、だな」
 レッドレークも自身が得た情報を周知する。
 骨の折れる話だが、二人の言葉を聞いた和希はむしろ望むところと白銃・アナイアレイターを携える。
 余計な分かれ道はいらない。ただ冷静に撃ち続ければ、いずれ終わりは見えてくる。よくある話だ。
 アナイアレイターより放たれた光線が円盤を貫き、すべてを凍結させた僅かな間、クララがその間隙に降らせたのは癒しの雨だ。
「機械には生まれた『目的』があります。この子のは……」
「……そうだね。地中に埋もれた挙句、人を殺す為に再び動き出したのが、この子の運命だったなんて思いたくはないけど……!」
 雨が穢れを洗い流す。再び活力を取り戻した渚は脚部に炎を纏い跳躍し、
「炎よ、遠くまで昇れー!」
 雨を抜け、影の大群を突破して黄昏時の空に到達すると、円盤の遥か上方から加速をつけて蹴りぬき、凍結した時間は再び動き出す。
 衝撃により円盤は僅か地に堕ちかける。メイはそんな挙動の綻びを捉え、目にも止まらぬ動作で、左腕から生じた炎を指先に収束し撃ち出した。
「皆よく当てられるものだな……!」
 ガンスリンガーや銃使い達の卓越した動作を間近で見ていたレッドレークは思わず唸る。
「ええと、この場合……ありがとうございます、と返せばいいのでしょうか?」
 メイはぎこちなく、レッドレークに返礼した。
 他人を観察することには慣れているが、他人に観察されるシチュエーションがこようとは。
 いささかこそばゆい感覚があった。
「だが……俺様は俺様のやり方で、ヤツを撃ち落としてやるぞ!」
 レッドレークは銃火器の扱いにそれ程長けていない。が、不慣れならば不慣れなりに、銃火器を用いずとも遠距離の敵を攻撃する術はある。
 レッドレークは厚く束ねた赤蔦に地獄の炎を纏わせると、幾つもの燃え盛る首を持つ遠呂智の姿を創り出す。
「喰らい、焼き尽くせ!」
 突如山野に出現した遠呂智は、思うさまに暴れまわって円盤を蹂躙し、夕焼け空を朱く焦がす。さながら怪獣映画の様相だ。
「UFOと、かいじゅう。どっちも好きだからこのままずっとみていたい気もするけれど……うん。サポートします、かいじゅうさん」
 エドワウは名残惜しそうにバスターライフルを構え光弾を放つと、光弾は円盤を打ち抜いて、爆ぜる。
 その直後、当たり所が良かったか、空がまばゆく輝いて、爆ぜた光は鈍色も橙色も飲み込むと、一瞬すべてを白に染めた。

●大地に墜つ
 陽が完全に沈みきるまで、あと数分と無いだろう。
 しかし、西陽と迫り来る宵闇が、円盤のダメージをおぼろに隠す。
 依然健在のようにも見えるし、あと一息のようにも見える。
 いずれにせよ、攻めるより他に手はない。
 マネギが再び清浄の翼をはためかせ後衛の邪気を払うと、五六七は円盤へコアブラスターを展開・照射し、メイがガトリングの掃射でそれを援護する。
「幻想さえあれば、人は、焦土からも立て直せます……!」
 クララがシンセシア――夢の領域を展開すると、円盤の影響だろう、そこから零れ落ちたのは夜闇の黒と満天の星……宇宙空間の幻想だ。
「きらめくひかりに、みちびかれるままに」
 無限の深淵と無数の瞬きが前衛を癒し、ドラちゃんとメルの二属性を受け取ったエドワウは、シンセシアへさらに暁十字の羅針盤を重ねた。
 宇宙空間を流れる、十字の光が前衛を貫き、破邪の力をその身に宿らせる。
 アイラノレと渚、二人のファミリアが宇宙を疾駆し円盤を挟撃すると、あらゆる悪性が吹き出して、円盤は金属同士が軋みあう様な……酷く甲高い悲鳴を上げた。
 そんな悲鳴を意に介さず、レッドレークが簒奪者の鎌・赤熊手をフルスイングで投げつければ、破邪の力を帯びた紅のレーキは子機を全て叩き落とし、さらに円盤の装甲を徹底的に破壊せんと斬り刻む。
 もはや遮るものは何もない。狂気に滲む和希の双眸が見るのはダモクレスと言う命の最期だ。
 しかし円盤も諦め悪く、和希の動きに先んじて決死の光線を放つ。
 が、奇襲を察したエドワウが、その身を挺して和希の盾となる。
 仲間の回復と、星の軌跡を零しながら飛び回るおもちゃみたいなUFO――ヒールドローン。
 それらが守ってくれたから、エドワウは紙一重で立っていられた。
 そして和希は黒銃・ブラックバードの引き金に指をかける。
 双眸からは狂気の色が引いていた。
 狂気(さつい)を光弾としてブラックバードに押し込めたのだ。
「わるいUFOは、うちおとしちゃえ」
 エドワウの言葉の後。
 和希は人差し指に力を入れると、
 一切の揺らぎなく、至極冷徹に円盤を撃墜した。

●未知との遭遇
 ……全てが終わった後、渚はふと空を見上げる。
 戦場にヒールを施し、皆、各々の健闘を称え、チームの勝利を喜んだ。
 陽はすでに落ちて今は宵の時。これからすぐに本格的な夜がやってくるだろう。
「どうしたんですか、香月さん」
 普段の、穏やかな性格に戻った和希は夜空を見る渚に尋ねた。
「いや、UFOってロマンがあって好きだけど、いつか本当に本物のUFOがやってくる日が来るのかな? って」
 その可能性はゼロじゃないと思うっす! と答えたのは五六七だ。
「まだ見ぬデウスエクスで、そう言うのを乗りこなす種族がいないとも限らないっすからね!」
「宇宙は広いから、可能性は無きにしも非ず……かもな」
 言いながら、レッドレークはしかし、ドローンか……と独り言つ。
「良いな……ウチの農園にも肥料散布用のを導入してみたいのだが、アレは少々高いぞ! 勿体無いことだ。この機体、持って帰って使えないものか……?」
 そうですね、とメイは頷く。
「流石に有益な情報は保持していないと考えられますが、機体を修理して再利用できないか検証する価値はあると思います」
 夜の帳が降り始めた山の中、アイラノレは散らばったドローンのパーツを丁寧に拾い上げる。
「ドローンさん……流石にもう、UFOにはなれないでしょうけど……また飛行することは、できるかもしれませんからね」
 自分の手が届くうちは、例え、無機物であろうとも。
「おれはくもあし付きの宝石――小型ダモクレスのけいせきが気になるけど……」
 エドワウがぼんやり周囲を見回す。残ったパーツに手掛かりはななく、激しい戦闘によって、蜘蛛脚の足跡も辿れそうに無い。
 UFOよりもこちらの方がよっぽど神出鬼没かもしれない。
 いずれにせよ、仕組みや正体が知れてしまったモノの魅力は半減するものだ。
 故に……。

 クララは長手袋を脱ぎ、戦場跡にふわりと落とす。
「UFOが墜とされないのは、謎めいているからこそ、ですね」

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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