両刃薙刀こそ最強!

作者:秋津透

 長野県木曽郡木曽町。
 夏の登山シーズンでも滅多に人の来ない山奥に、手製の丸木小屋道場を造り、一冬籠って激しい修行を積む武道家……それも、うら若い女性がいた。
 彼女が研鑽する武道は『巴流薙刀道』という、前後両側に刃のついた両刃薙刀を使う特殊な流派である。ただでさえ長くて重い薙刀に、二つも刃がついていては、それはもはや重量挙げのバーベルも同然。常人では持ち上げるだけでもかなわない武器を、自在に扱い振り回すというのだから、必要な体力、腕力の程度は推して知るべし。そして彼女は、長年の研鑽により、その体力、腕力を身につけていた。
「両刃薙刀こそ最強! 巴流こそ最強!」
 髪をまとめ、袴をはき、豊かな胸に晒を巻いた半裸の姿で、彼女は気合声を発しながら、汗だくになって練習用の刃びきした両刃薙刀をぶんぶんと振り回す。正直、武器が何であっても、彼女が闘えばたいていの相手には勝てそうな気がしないでもない。
 ただし、それは、相手が人間であればのことだ。
「さあ! お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 不意に背後から声をかけられ、彼女は驚いて振り返る。ここには、彼女の他に誰もいるはずもないのに……と、疑問に思う間もなく、彼女の表情が虚ろになり、凄まじい勢いで両刃薙刀を振るい、背後に立っていた大きな鍵を持つ少女に襲い掛かる。しかし少女は、彼女の猛撃を受けてもびくともしない。
「あはははは! 僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ!」
 言い放つと、少女……ドリームイーター『幻武極』は、手にした鍵で彼女の心臓を貫く。
「ぐっ……」
 一撃で、彼女は意識を失い崩れ倒れるが、貫かれたはずの胸に傷はない。そして倒れた彼女の傍らに、彼女とそっくりな風貌をしているが、より獣的で凶暴な光を瞳に宿し、身体の各所にモザイクを貼りつけた新たなドリームイーターが出現する。
 その姿を見やった『幻武極』は、にやりと笑って告げる。
「さあ、お前の武術を見せ付けてきなよ」
「両刃薙刀こそ最強! 巴流こそ最強! 刃向かう者には容赦せぬ!」
 文字に書けば大差はないが、はるかに剣呑な響きを帯びた気合声を発し、ドリームイーターは鋭い刃のついた両刃薙刀……ただし、片方の刃は鍵になっている……を手にして、道場の戸を開けて外に出ていく。
 既に、『幻武極』の姿はどこにもなかった。

「薙刀道って、女性の武術っていわれてますけど、もともとの薙刀って、とっても重くて使いにくい武器ですよねぇ?」
 どー考えても、突く槍より振り回す薙刀の方が力要りますもんね、と、ドワーフにしては非力な都会派を自認する風戸・文香(エレクトリカ・e22917)が首をかしげる。
 そしてヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した表情で告げる。
「長野県木曽郡木曽町の山奥で、自力で道場を建てて修行をしていた女性が、武術家を襲うドリームイーター『幻武極』に襲われ、新たなドリームイーターが出現してしまう、という予知が得られました。彼女が修行していたのは『巴流薙刀道』といって、両刃薙刀という特殊な武具を使う武道です。彼女自身も相当な腕前のようですが、出現したドリームイーターは、重い両刃薙刀に強力なグラビティを乗せて、たいていのものは一撃で真っ二つにしてしまうようです。こんなものが一般人に遭遇したら一大事ですが、幸い、彼女が修行していた自作の道場は人里離れた山奥にあり、急行すれば地元住民などに出会う前に捕捉することができるでしょう」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。ドリームイーターは単体で、見た目は元になった女性と変わりません。しかし動きや力は当然ながら人間離れしており、凄まじい強さを誇ります。両刃薙刀に乗せて使うグラビティは、ゲシュタルトグレイブのグレイブテンペストや如意棒の斉天截拳撃に似たもののようで、自分の傷を癒し状態異常を解消するモザイクヒーリングも使えるようです。ポジションは、クラッシャーと思われます」
 そして、康は一同を見回す。
「このドリームイーターは、誰かと遭遇すると相手かまわず攻撃を仕掛けてくるようです。地元住民などの一般人が巻き込まれる状況になる前に、きっちり倒していただければと思います。どうか、よろしくお願いします」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
風戸・文香(エレクトリカ・e22917)
雨野・狭霧(咎腕・e42380)

■リプレイ

●武闘? いえ、討伐です!
「……あれね」
 長野県木曽郡木曽町の山奥。
 今回参加したケルベロスたちのうち、唯一飛行能力を持つオラトリオのリリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)が上空にあがり、山道を歩いてくる敵……両刃薙刀を使う女性武術家から生み出されてしまったドリームイーターを視認する。
「みんな、急いで集合して。まっすぐ来るわ」
 告げながらゆっくり旋回して降下するリリアの元に、七人のケルベロスが集合する。今回、たまたまサーヴァント所有者がいないので、索敵も自力でやらねばならず、何より盾になってくれる者の数が足りない。
(「少々心細いですが……皆さんは平気のようですね」)
 今回の、武術家を襲うドリームイーター事件を探り当てた当人ではあるが、ドワーフにしては非力な都会派を自認する風戸・文香(エレクトリカ・e22917)が声には出さずに呟く。
 確かに、文香ともう一人のドワーフ女性、雨野・狭霧(咎腕・e42380)を除く六人はレベルの高い手練れ揃いで、強力な武術家ドリームイーターとの戦いも、自分の武を競い試す場と捉えている者が多いようだ。
「両刃薙刀とは、若干親近感が。自分もかなり特殊な大鎌を主武器にしてるし、ちと手合わせ願おうかな」
 セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)が穏やかな口調で呟き、ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)が真剣な表情で続ける。
「槍の間合いに刃の威力。一対一においてこれほど強力な武具もない。それでも、鍛錬の差で俺は負けるつもりは全くない。武人として、戦わせてもらう」
 いや、今回の戦い、全然一対一じゃないですから、と、文香は内心突っ込んだが、言葉には出さない。
「薙刀……確かに手練れが使うと厄介極まりないのだが……まぁ、女で二刀流の私がウンチク垂れるのも変な話かもな」
 楡金・澄華(氷刃・e01056)が独言のように呟く。確かに澄華は女性で二刀流だが、なぜそれが蘊蓄を語ると変なのか、文香にはさっぱりわからない。グラビティを使うケルベロスなので、通常の武術の範囲から外れている、ということなのだろうか。
「僕は銃で、彼女は両刃薙刀。獲物は違うけれど、技術の研鑽って点では共通するし、尊敬するよ」
 淡々とした口調で、ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)が告げる。あの、ドリームイーター尊敬してどーするんですか、と、文香は内心思ったが、すぐにファルケは言葉を続ける。
「だからこそ、その力だけを抜き取って悪用するなんてのは、許せないね」
「ええ、最強を目指す彼女の気持ちは純粋だったはず。それを利用した敵は、必ずケルベロスが倒すと約束しましょう」
 凛とした声で、リリアが応じる。確かに、いずれは『幻武極』とかいう武術家を悪用するドリームイーターも倒さなきゃならないでしょう、と、文香も同意はするが、その後に内心で突っ込む。
(「でも、まずは、目前の強敵ですよね?」)
「……来たぞ」
 日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が告げ、すらりと刀を抜く。言葉にも表情にも出さないのでわからないが、実は内心では、距離を取り相手の間合いから外れた上で射撃攻撃、更に数の利を活かし複数人で十字砲火、という現実的な作戦に直ぐに思い至るけど敢えて無視。刀使いとしての意地で正面から挑み、近接戦闘で勝負、と、文香が聞いたら呆れ果てるようなことを考えている。
「では、念のため人払いを」
 シャドウエルフのセルリアンが落ち着いた声で応じ、殺界形成を行う。すると狭霧が、にやりと笑って小声で嘯く。
「今回は、避難誘導やら戦地やら面倒な事を考えなくて良さそうで楽ですね。まァ、怒られない様にキッチリお仕事しましょうか」
 それは確かにその通りだけど、はっきりそう言われると、ほいほいと同意するのも躊躇われるわね、と、文香は複雑な表情になる。
 そして、別に発言の義務があるわけでもないが、ちょっと口に出して言ってみる。
「こないだは、武闘家に武闘で対抗しようとしてしくじりました。今度は技には技で対抗せずに、エフェクトで対抗してみます」
 そう言って、中衛ジャマーポジションについた文香は、持参した九尾扇をぽんと叩く。しかし、実は九尾扇のグラビティは用意していない。
 ……文香さん。正直、キミが一番、何がしたいのかよく分からんぞ?

「……ふむ?」
 両刃薙刀を手に山道をやってきた半裸の逞しい女性武術家……の姿を写しとった凶猛な武術家ドリームイーターは、布陣するケルベロスたちを見回して、濃い眉をわずかに寄せた。
「雑魚の群れが、私を阻もうというのか? ちょうどいい。巴流薙刀道の恐ろしさを教えてやろう」
 意外に流暢な、そして傲岸不遜な口調で一方的に言い放つと、ドリームイーターは両刃薙刀をぶんぶんと振り回しながら、凄まじい勢いでケルベロスたちの前衛に殺到する。
「くらえ、旋風の型!」
「うわっ!」
 は、迅い、と、蒼眞が唸る。ドリームイーターの攻撃は、威力もさることながら、とにかく迅い。高レベルケルベロスの誰にも先手を取らせず、列攻撃の斬撃が炸裂する。
「やるな」
「……ふむ、最強を称するだけのことはあるようだ」
 二人のディフェンダー、ファルケとセルリアンが、クラッシャーの蒼眞と澄華を庇いながら呟く。ディフェンダーでダメージ半減とはいえ、自分の分と庇った味方の分、倍のダメージが来るから結果は元々。きつくないはずはないのだが、二人の口調と表情には、まだ余裕がある。
 そして澄華が、いきなりオリジナルグラビティ『氷空(ヒョウクウ)』を発動させる。
「凍雲、仕事だ……!」
 彼女が使う二本の斬霊刀の一つ『斬竜之大太刀【凍雲】』の力を解放、冷気を纏った空の如く容赦ない斬撃を相手に繰り出す。ずばあっ、と、ドリームイーターの肩から胸元、脇にかけてが裂け、晒が千切れ鮮血がほとばしる。
「お、おのれ……!」
「一刀両断、とはいかんが、少しは効いたか」
 冷静に言い放ち、澄華は間合いを取る。
 一方、リリアが雷電の壁を構築、ファルケとセルリアンの傷を癒し、前衛全員に状態異常への耐性を付与する。続くセルリアンはケルベロスチェイン『鉄茨』で魔方陣を展開、自分とファルケの傷を癒し、前衛全員の防御力を上げる。
 そしてファルケはリボルバー銃で射撃、銃弾が食い込んだドリームイーターの傷が凍りつく。
「く……飛び道具とは卑怯な!」
「ふっ、俺は君の間合の内から逃げていない。目障りなら、遠慮なく叩き潰しにくればいい。卑怯呼ばわりはお門違いだね」
 意図的に気取った口調で、ファルケは歯噛みするドリームイーターへと言い放つ。
 続いてベルンハルトが後衛から間合に踏み込み、弧を描く斬撃でドリームイーターの腕に斬りつける。腕そのものを斬り落とすことはできなかったが、深く腱を斬られて鮮血が噴き出る。
「おのれ、寄ってたかって……!」
「雑魚の群れと侮ったのが、お前の不覚だ」
 ベルンハルトが鋭く言い放ち、続く蒼眞は、間合を詰めて相手の膝に重力蹴りを叩き込む。
「そういえば剣道と違って、薙刀道は足狙いも有りだったな」
「ふざけるな! 薙刀で足を払うのは有りだが、直の足蹴りなど認めておらぬわ!」
 わずかによろめきながら、ドリームイーターが怒号する。
 すると文香が、黄金の果実を掲げてファルケとセルリアンの傷を癒しながら、ここぞとばかりに突っ込みを入れる。
「試合じゃなんだから、有りもなしもないです! 正々堂々の決闘じゃないんだから、卑怯もへったくれもないです! これは武闘じゃありません! 武術を見せ付けるとか勝手なこと言って、無力な普通の人をも平気で蹂躙する無法者……いえ、人外の怪物デウスエクスの討伐です!」
「お、おのれ……!」
 凄い目つきでドリームイーターに睨み据えられ、思わず文香は、たじたじと数歩さがる。そして狭霧が、少々呆れたような声を出す。
「……あの、わかって挑発してるんですか? 中衛は、敵の近接攻撃届きますよ?」
 自分は後衛なんで、近接攻撃しかない敵に対しては前衛と中衛全滅するまで安全ですけど、と、しゃあしゃあと言い放ち、狭霧は日本刀でドリームイーターに斬りつける。
「てなわけで、あんたの攻撃は当分私にゃ届きません。八つ当たりするなら、他の方へどーぞ」
「黙れ雑魚が!」
 咆哮しながらドリームイーターは薙刀を振るうが、狭霧は巧みにかいくぐって攻撃を当てる。塞がりかかっていた傷を刃がえぐり、またも鮮血が噴き出る。
「へへっ、私みたいな雑魚にあっさり負けないで下さいよ?」
「抜かせ! 黙れ! 愚弄するか!」
 あっかんべー、と、古典的に舌を出す狭霧を、ドリームイーターはぎりぎりと歯噛みして睨み据える。あ、もしかして、これで私に対する怒りは忘れられた? と、文香は声に出さずに呟く。
 そしてドリームイーターは、狭霧を睨み据えながら、モザイクを集め自己治癒を行う。
「確かに、雑魚と侮ったのは私の不覚かもしれんが……それだけの腕を持ちながら、群れなければ私が討てないか! それほど私が怖いか!」
「ああ、怖いとも。自覚はないかもしれないが、あんたは人じゃない。武技の化物だ。個人的には少々忸怩たるものもあるが、寄ってたかって討たせてもらう」
 澄華が迷いのない口調で応じ、二刀を振るって斬りかかる。ドリームイーターは防御しようとするが及ばず、頸脇を斬られて鮮血が噴水のように噴き出る。
「ぐああっ!」
「人間なら致命傷だが、あんたはまだ闘うだろう? とても一人じゃ相手にできない」
 そういう意味では、確かにあんたは最強かもしれない、と、澄華は極めて冷静な口調で告げた。

●最強の最期
「結局、武器の問題じゃないんだね。強力なグラビティを籠めれば、ただの鉄パイプでも、ありふれたバールでも、致命的な威力を持つ武器になる。そうなると、あとは自分が使いやすいかどうか、それだけだ」
 勝手に闘ってくれる妖刀でもない限り、誰が使っても最強になれる武器なんかないよね、と、セルリアンは少し寂しそうな口調で呟く。
「両刃薙刀は優れた武器だけど、使い慣れなければ持て余すだけだ。この『黒陽・月影』も同じこと、自分にとっては最強の武器だけど、他の誰かに使いこなせるとは思えない」
 そう言いながら、セルリアンは愛用の大鎌『黒陽・月影』を猛然と振り下ろす。
 もはや満身創痍のドリームイーターは両刃薙刀で防御しようとしたが、持ち手中央でばっさり両断され、肩を深々と大鎌で斬られる。
「ぐあっ!」
「ほら、こんな真似、自分以外の誰にもできないよ、きっと」
 淡々と、しかしどこかすっごく得意げに、セルリアンは言い放つ。結局腕自慢かよ、回りくどいやっちゃ、と、蒼眞が苦笑する。
 そしてファルケが、目にも止まらぬ射撃で銃弾を撃ち込む。ドリームイーターは、二つに切り割られた薙刀をそれぞれ両手に持ち、急所を庇う。実際のところは、デウスエクスなので急所に当たっても即死などはしないが、人間の武術家から生じたため、反射的にそういう動作をするようだ。
「そろそろ限界か……最後の意地、刹那の見切り、見せてみろ」
 ベルンハルトが言い放ち、オリジナルグラビティ『乱れ剣・枯山水(ミダレケン・カレサンスイ)』の構え……と言いつつ、構えそのものは剣術の基本である中段の構えなのだが、炎を纏った光学斧、ルーンアックス『御霊転遷式・灼鉞』を長剣のように構える。
 そして、 流麗さすら感じる基本の動きで少年はルーンアックスを振るい、ドリームイーターは両手の半割薙刀で防ごうとするが、及ばず片腕を飛ばされる。
「ぐうっ!」
「……両断は防いだか。さすがだ」
 静謐な表情で、ベルンハルトが呟く。彼のオリジナルグラビティは、斬りつける一連の流れが通常より瞬き四半にも満たぬ僅かな遅れを伴うため、敵が回避の見切りを誤るのだが、ドリームイーターは敢えて回避せず、守りきれない片腕を斬らせて体躯を守る捨て身の防御をしたため、両断だけは免れたのである。
(「さて……こいつに俺のオリグラ、当たるかな?」)
 手番の回ってきた蒼眞が、声には出さずに呟く。彼のオリジナルグラビティ『巨大うにうに召喚(ギガントウニウニコーリング)』は、動くプリンのような謎の存在『うにうに』の中でも巨大なものを相手の頭上へ召喚し、圧倒的な質量で押し潰すという、かなり何だかな~な技である。
(「外れたら……いや、当たったとしても、あとの『うにうに』の始末に困るよな。あれ、食べられることは食べられるが……どうも今回、俺一人で食べて始末せにゃならんような気がする」)
 そのリスクを冒してまで使う技じゃない、雰囲気もブチ壊しになるし、と呟き、蒼眞は斬霊刀で斬りかかる。首を飛ばそうとしたが際どく避けられ、切っ先で頸動脈を断つに留まる。もちろん人なら致命傷だが、ドリームイーターは斃れない。
 そして文香が、腰ベルトに下げた道具の一つを引き抜く。
「良い感じに温まってきたわ!」
 言い放つと、文香は高熱を放つ道具の切っ先を、ドリームイーターに突きつける。
「セルリアンさんが言いましたよね。強力なグラビティを籠めれば、どんな道具でも武器になるって。だから私は、最も自分が使い慣れている道具にグラビティを籠めます! 受けなさい! 我がオリジナルグラビティ『ソルダリンアイロン』!」
 そして文香は、グラビティを籠めた高温のハンダごてをドリームイーターに突き刺そう……として外した。
「やだー! もー! どーして外れるのー!?」
「……舐めるな……雑魚め……」
 蒼眞に斬られた頸動脈から血を噴き、蒼白になったドリームイーターが呻く。そして狭霧が、気の毒そうに告げる。
「……あの、知ってますか? ジャマーポジションじゃ命中率上がりませんよ? 外したくないなら、スナイパーやらないと」
 もっとも、この人の場合、外すのも芸の内のような気もするけど、と呟きつつ、狭霧はドリームイーターに向き直る。
「ええ、あたしゃ雑魚です。本物の雑魚です。でもって、雑魚には雑魚の戦い方があるんです。卑怯と言われようと何と言われようと、本物の雑魚は慎重に戦い方を選んで、最後に勝って生き残るんです」
 言い放つと、狭霧はオリジナルグラビティ『壱式(イチシキ)』を放つ。
「貴様こそ、雑魚を、舐めるな」
 恐ろしく鋭いだけの、ただの斬撃が、ドリームイーターの頭部を見事に縦に叩き斬る。ドリームイーターの口が開いたが声は出ず、そのまま頭部から全身が、モザイクと化して宙に散った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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