ミッション破壊作戦～デッド・ディファイラーズ

■リプレイ

　ヘリオンの扉を開け放ち、エレオノーラ・ペトリーシェヴァ（ある意味神がかった絵描き少女・e36646）は眼下を見下ろした。
「着きましたね。大宮市、コンサートホール……」
　彼女の左、開きっぱなしのヘリの扉をジャンクアームがつかんだ。エレオノーラの背後から外をのぞいた卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）は注意深くホールの周り見定めた。
「まだバレてねえよな？　ヘリも揺れてねえ。……やるか」
　生身の右手でポケットをまさぐり、取り出したコインを弾いた。宙でくるくると舞う硬貨を別の手が捕まえる。手の甲を上向けたまま待つ泰孝が怪訝そうな顔で振り返ると、富士野・白亜（白猫遊戯・e18883）がコインをつぶさに観察しながら猫耳を片方持ち上げていた。
「……両方表か」
「ゲン担ぎだからな」
　白亜は笑う泰孝にコインを返し、腰縄とそこに繋いだグラディウスを確める。それを見た太田・千枝（七重八重花は咲けども山吹の・e01868）は短剣をワイヤーでしっかり結ぶと、仲間達に問いかけた。
「行きましょう。皆さん、準備はいいですか？」
　全員がうなずくと共に、ドア近くの三人が宙へその身を踊らせる。落下しながらグラディウスを握りしめ、彼らは目下のバリアをにらんだ。
「さて、この地を……コンサートホールを返してもらうぞ。生きるものが住まう土地に死神の影は不要だ」
「単独ソロライブは終わりだアーティスト気取り。こっからはオレ達ケルベロスの独壇場。命賭けは嫌いじゃねーが、聞きたくもねぇライブの代金にすんのはまっぴらゴメンだ」
「ここは皆で楽しく音楽を聴く場所、デウスエクスの狩場じゃない」
　短い刃が白い光を帯び始め、火花を散らす。
「ここで歌うことができるのは、今を生きてる私達！　お前たちの居場所はここにはない！　死者の国とやらで永遠に歌っているがいい！」
「貴様らの侵略行為をここで止め、平穏な世界を取り戻す。これはその為の一撃！」
「こいつを駄賃代わりにくれてやる！　退場の時間だ、年単位で居座ってんじゃねえよお呼びじゃねえッ！」
　白雷を噴出する刀身！　掲げた剣を目前まで迫るバリアに向けて、三人は全力で振り下ろした。
「ここから出ていけっ！」
「消えて……なくなれッ！」
　白色の大爆轟が虚空に輝く。雷鳴と亀裂が広がる音が反響し、白雷と炎が密度を増して膨らみかけたその直後！　ホールの屋根を突き破り黒い少女が飛び出した。パンクな魔女めいた服に赤いメッシュの入った黒髪、むき出しになった肋骨。大鴉と飛翔するブラックパールは白い爆炎を見上げ、憤怒の形相で歯を軋らせる。
「また……あんた達かァァアアアアアアッ！」
　彼女の周囲に黒い炎の音符が出現！　それらはブラックパールの骨製マイクスタンドが示した先へ一斉に飛ぶ音符の前に割り込んだダリル・チェスロック（傍観者・e28788）は巻いた腕を振るった。鎖でつないだ巨大棺桶で黒炎音符をなぎ払い、一回転して両腕を交叉。彼の背が光の翼を広げ、荘厳な調べを奏でた。口元を歪めたブラックパールは再度黒炎音符を出現させる！
「邪魔しないでッ！」
　ダリルへ放たれた音符達に虹色の光球群が飛んでいく。大口を持った虹色の球体は炎を飲み込み諸共に爆散！　巨大な朱塗りの絵筆を担いだ遠野森・空（虹描き・e44142）はパレット型の翼で羽ばたきながらダリルの隣に躍り出た。
「邪魔すんなよな。邪魔させねえけどさ」
　微笑む空にブラックパールのまなじりが逆立つ。とんがり帽子越しに頭をかきむしりながら、少女は喚く。
「何が邪魔させねえけど、よ！　散々私のライブ邪魔しておいて！　演奏は台無し、私に狼藉、挙句に聞き逃げ！　せっかく親衛隊にしてあげようかと思ってたのに……黙って死になさいよ！　私の歌に泣いて首掻っ切るだけでしょ!?」
「自分のために黙って死ねとは……酷い話じゃあないか」
　ぽつりとつぶやき、ダリルがハットの下から鋭い視線を投げかけた。背負った巨大棺桶が開き、内より伸びた真鍮色のアームから機械仕掛けの短剣を受け取る。
「チケット工面の手間や労力、交通費。高い出費をしても結局、最後は運任せの時もある。まして、今は各地であらゆる事件が起こる時代。折角コンサートを楽しみに来た人間達を自分のために殺戮するなど、到底許せるものではない。その蹂躙はここで終わりだ」
「うるっさい！　いいから……死になさいよッ！」
　三度射出された黒炎音符へダリルと空は急降下！　棺桶と虹の絵筆で攻撃をかき消しながら特攻をしかけていく。ブラックパールの鴉がいななき、主を連れて垂直飛翔。急な方向転換で追随する空の真上で鴉に離されたブラックパールは骨製斧めいたギターを振り上げ打ちかかった。空が絵筆と翼が放つ虹色の球体群を引き裂きながら肉迫！　その横腹を振り子じみた軌跡を描く巨大棺桶が打ち据えた。
「だっ!?」
　吹き飛ばされたブラックパールを飛来した大鴉がかっさらう。直後黒マントを錆色の光がかすめ、虚空をターンして死神へ突進！　ブラックパールはマイクスタンドの三脚を閉じてジャベリンめいて投擲。光となったダリルはそれをかわして追撃していく。ブラックパールはニィと笑い、空いた手をスタンドに向けた。骨のスタンドが黒く炎上！
「戻りなさい！」
　ひとりでに方向転換したスタンドが尖った方を向け飛翔した。黒い炎槍と化したスタンドをダリルは棺桶でガード。その時、懐に入ったブラックパールは棺桶持たぬ方の肩にギターを斧のように振り下ろされ、鎖骨がへし折れ血が噴き出した。
「ぐっ……！」
「まずは腕！　千切って刻んでサイリウムにしてあげる！」
　ルビーめいた瞳が凶悦に輝いた瞬間、ブラックパールの首筋に飛び蹴りが命中！　相手の骨を軋ませながらエンデ・シェーネヴェルト（フェイタルブルー・e02668）は瞳を冷たく光らせる。
「死神の親衛隊、まして玩具になんざ誰がなるか。死ぬのはてめぇだ」
　膝を曲げ、ブラックパールを蹴り飛ばす。すっ飛んでいく彼女を余所にエンデは叫んだ。
「メノウ！」
「逃がさないって！」
　撃たれた鳥じみて落ちるブラックパールに篁・メノウ（紫天の華・e00903）が流れ星のように直降していく。両手足に渦巻くスミレ色の光が獣爪を成す。
「喰い尽くせ！　篁流格闘術！」
「わらわらと……！」
　首を押さえたブラックパールは足元に飛んできたマイクスタンドに着地。近づくメノウにギターを構えてジャンプした。骨刃と紫爪が振るわれる！
「『氷爪雪牙』ッ！」
「邪魔ぁッ！」
　攻撃同士がぶつかり合い、互いの連撃が衝突！　激しい近接攻撃の応酬の末、鋭い蹴りと上段斬りが炸裂し拮抗。足に力を込めながらメノウはブラックパールを冷ややかに見下ろした。
「よぉブス、無許可ライブは感心しないな。異邦の神様は退場するお時間だ！」
「偉そうにッ！」
　振り切るギターに応じて宙返り。天高くつき上げたメノウの踵に紫光が収束、一方ブラックパールは空気で頬を膨らます。
「『氷柱落とし』！」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！」
　黒い破壊音波がメノウのかかと落としを阻んだ。音の波動は天空に輝く白い爆風を吹き飛ばし、先発三人の姿を引き出す。メノウが弾丸めいた速度で弾かれるのと同時、右腕に展開した光の板に札を並べた千枝は右手指を突き出した。
「篁流回復術……『夜半の嵐』！」
　激しい桜吹雪を放たれ、宙に広がり仲間を包む。音波を受けた桜の渦をつんざき飛び出した錆色の光が流星めいてブラックパールの胴に直撃！　パールごとドームへ突っ込んでいく光を尻目に、千枝は宙を泳ぐエンデとメノウにアイコンタクト。二人がうなずき返すのを見、右手を斜め下に突き出した。
「行きましょう！　篁流回復術、『東尋坊』！」
　かざした手の平の先で、光る風が渦巻き竜巻と化して三人を上空に突き上げる。三人は白い稲妻をまとったグラディウスをバリア―に向け特攻！
「ブラックパール……徒に命を弄ぶ在り方に加え、音楽を……命を奪う為に使う貴女のを、私は否定する！　貴女の舞台は今宵で終演にさせて貰います！」
「とっとと帰って、家族相手にギター弾いてろッ！」
　三つの切っ先がバリアに刺さり、白く爆発。稲光と炎に照らされたホールの天井を突き破った光はステージの床に激突し粉塵を巻き上げた。後方回転跳躍で飛び出したブラックパールは着地し黒炎音符を再召喚！　粉塵と光の粒子を払いのけたダリルをマイクで示す。
「行けッ！」
　スタートを切る音符の弾幕。ダリルは棺桶を横薙ぎに振り抜いて弾き、床に打ち立てて第二波を防ぐ。攻撃に耐えきった棺桶の扉が開かれ、中から白亜、泰孝、エレオノーラ、空が出現！　いち早く駆けだした白亜は棍を高速回転させて黒炎音符を打ち払いながらパールへ突進、跳躍し大上段から振り下ろした。マイクスタンドで受ける死神の横に回り込むエレオノーラは腕に装着された砲でパールを狙う！
「フレイドマル、ファイアッ！」
　三連射された銀色の光弾をブラックパールは黒く燃えるギターで一閃！　光弾の爆発を遠目にジャンクアームから錆びた鉄槌を引きずり出した泰孝は、片足を振り上げつつハンマーを回し、逆手に持って全力投擲！　砲撃じみて飛来する戦槌を交叉したギターとマイクスタンドで防御したパールを踏んじばるも高速で後退させられる。床を靴で削りながらブラックパールは両手に全力を集中！
「こんな、ものッ！」
　ハンマーを跳ね返したパールはマイクスタンドを泰孝に投げた。黒炎をまとって飛翔する槍の前に割り込んだ空が虚空に虹色の円を描き込み実体化させガード！　衝撃波を散らしながらひび割れる盾に絵筆を掲げ、空は片方に笑みを浮かべたまま右目を閉じた。
「はは……つ、辛っ！」
　盾が砕け槍が空の脇腹を貫通！　血をぶちまける彼にギターを構えて疾駆するパールにエレオノーラがスライディングをしかけ片足を飛ばす。前転した死神に両拳を猫の手にした白亜が迫り、高く跳んだ泰孝が飛び蹴りを敢行。パールは片膝立ちで横に飛び、白亜を紙一重で避けつつ横薙ぎ斬撃を脇腹に打つ！　白亜をふっ飛ばして泰孝のキックを斬り上げ彼を後ろへ流し、ギターネックをつかみ腹部をめがけるダリルの刺突にギターを差し込む。ギターに刃が突き立ち、爆ぜ外れた弦がダリルの首に絡みつく。
「ッ！」
「捕まえた！」
　のけ反るダリルの背後上空にマイクスタンドが飛翔する。後頭部めがけた鋭い一撃が当たる寸前、槍に帯状の虹が巻きついた。翼から虹を出した空は絵筆を掲げ、客席側に振り抜く！
「どらぁッ！」
　軌道の逸れたスタンドが客席に突っ込みクレーターを穿つ。ダリルは体を光にして弦を抜け、掌底でパールを弾く。棍を片手にブラックパールへ肉迫する白亜！
「隙アリだ！」
　下段から繰り出された棒が振り向きざまの斬撃と衝突！　反撃の上段斬りをスライド回避した白亜は全身から圧力を放ち、たじろぐパールの足を踏む。頭を下げた白亜の後方、エレオノーラの砲門から銀の光がほとばしった。
「ファイア！」
　剥き出しの肋骨めがけて光弾が飛ぶ。ブラックパールは自由な方の足で白亜を蹴り避け、ギターを頭上に掲げて一回転。首に弦を巻かれた空が円弧を描いて宙を舞い、光弾の前へ！　空とエレオノーラが目を見開き、死神の顔が狂喜に歪んだその時である！
「『裂葉風』！」
　暴風が光弾を巻き上げ天井に飛ばし着弾・爆発！　そしてダリルが空けた穴から飛び込んだメノウとエンデが着地、ロケットスタートを決める。高速で接近する二人のうちメノウの姿がかき消え、振り向いたパールの背後に現れる。振り抜いた刀が紫光を反射。
「篁流剣術、『蛾眉月』」
　宙に剣閃が走り弦とギターがバラバラに。素手になったパールのそばを突破した千枝は白亜と落ちた空を抱え上げ客席へジャンプ。そちらに気づいた死神は手元に戻したスタンドを振りかぶる！
「そこ！　止まりなさッ……！」
　千枝に向きかけた足を戻したパールはエンデの拳を防御する！　さらに彼の逆手に握った剣と打ち合い跳躍してメノウの剣を回避。バク転で距離を取ったエンデが叫んだ。
「泰孝！」
　ニヤリと笑った泰孝はジャンクアームで振り回したハンマーを投擲！　砲丸じみた鉄槌を背に受け吹き飛ぶ死神の前、回り込んだダリルがナイフを一閃させ棺桶をぶつけて叩き落とす。跳ね起きたパールはマイクスタンドでエレオノーラの飛び蹴りを防御し、声を張った。
「何よ!?　私の歌が聞けないって言うわけ!?」
　そして放たれる黒い破壊音波！　近場のステージ上の五人を弾かれ、天井に無数の亀裂が入って爆ぜる。千枝に傷をふさいでもらった空は立ち上がり、白く眩いグラディウスを手に反論！
「うるっせぇ！　音楽ってのはもっと良いもんの筈だし、本当なら人を感動させられるすごいもんなんだからな！　そんなすごいもので人を殺すなんて、させねぇからッ！」
　ステージ袖、暴風じみた音に吹き晒されつつダリルが棺桶を支えに身を起こし、開いた蓋からグラディウスを引き抜いた。
「貴様が踏みにじろうとしているのは人の命のみならず。集まった人々の期待、想い、熱情、精一杯今日を楽しみたいという気持ち。それら全てをもてあそぶ貴様らを……これ以上、野放しに出来るものかッ！」
　グラディウスを天に投げ上げる二人。放たれた閃光の剣はレーザーめいた飛翔し彼方で純白の爆発を起こす。それを見上げたブラックパールは目を燃やし、歯噛みをして片足で床を踏み抜いた。さらに声量を上げる彼女を中心に漆黒の竜巻が伸び、爆炎を貫通！　光が霧散すると共に空は絵筆から虹の帯を落ちるグラディウスに飛ばして捉え引き戻した直後、上空を白い虫の群れじみたモノが覆い尽くした。立ち上がったエンデは仲間達に呼びかける。
「降りるぞ！　何かまずい！」
　反応した四人がステージから飛び降りると同時、骨の大瀑布がステージに落ちた。凄まじい轟音と雑音の中、無数の骨で出来た骸骨の両腕がステージ両脇に振り下ろされる。ステージ全体を細かな骨が埋め尽くし、奥の壁には無数の骨で作られた、二本角を持つ巨大な単眼のドクロが四つ。中央には新たなギターを手にしたブラックパールが顔をうつむけてたたずんでいた。
「音楽が……何？」
　ドクロの目に真紅の光が灯る。身構える八人を見もせず、死神はマイクをつかんだ。
「命？　期待？　感動が、熱情が何よ。そんなもの……」
　顔を上げ、憎悪と憤怒を宿して吠えた。
「そんなもの、ステージの肥しよッ！」
　手首に結んだ短剣を抱き、エレオノーラが即座に言い放つ。
「退きましょう！」
「逃がさないッ！」
　死神がギターをかき鳴らしてマイクに叫び、四つのドクロも大口を開けて咆哮！　観客席が前から消し飛んでいく中、怒涛じみた黒い音波の波動を背に八人はその場を駆け抜けた。

作者：鹿崎シーカー	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年3月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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