冬将軍と鍋奉行

作者:志羽

●冬将軍と鍋奉行
 冬将軍と一緒に、鍋の美味しい季節がやってきた。
 そんなわけで、食品メーカーが集い鍋に関する食品を楽しんでもらうイベントを開催していた。
 その名も、そのまま。
 冬の鍋フェスタ。
 あるイベント会場にて、それは行われていた。今日のこの日は、一般の人向け、誰でも美味しく楽しく鍋商品を楽しんでもらえる日。
 どの会社も自らの鍋に自信を持って、鍋のもとを生み出し。そして変わり種の、新たな鍋も生み出したりしているのだ。
 そんな場所へ、現れたのは。
「キムチ鍋だ! キムチ鍋が最高なのだ!! 豆乳鍋? ナンセンス!! トマト鍋? なんだそれはぁ!!」
 鍋の至高はキムチ鍋と高らかに声あげるビルシャナ。
 他の鍋など、存在する価値もない!! とキムチ鍋以外をひっくり返し蹂躙していく。
 あつあつの鍋がひっくり返され、人々は叫び逃げ惑う。
 あったかく、おいしく。楽しいはずの会場は、叫び声に包まれるのだった。

●予知
「アラタちゃん、何鍋がお薦め? 私は、トマト鍋」
「トマト鍋! いいな。〆は?」
「チーズいれてリゾット……!」
 どちらが言いだしたか、第一回何鍋が好き会議を行っているのはアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)とザザ・コドラ(鴇色・en0050)だ。
 その二人を横に、夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)はこれから起こる事件の話を始めた。
 個人的な主義主張によりビルシャナ化してしまった人が許せない対象を襲撃する。
 今回の場合、キムチ鍋以外は認めないということらしい。
 そんなわけで、いろいろな鍋が集う冬の鍋フェスタが襲われるのだという。
 今回も、ビルシャナには配下が10人いる。
 彼らは説得で無力化することができるので、ビルシャナの主張を覆す事ができれば戦闘時、相手をすることがなくなるとイチは続けた。
「もちろんビルシャナさえ倒せば、助ける事はできるよ。でも説得してしまったほうが、戦闘は楽になるからね」
 その方法は皆にお任せ、とイチは言う。
「まぁ、相手はキムチ鍋が至上っていってるから、場所柄他の鍋も試食してもらって、美味しさに目覚めてもらうのが王道かな」
 説得の方法は皆に任せるよとイチは言う。それから、会場にも避難の手伝いや、説得の為に鍋の準備のお手伝いをお願いしておくね、と続けた。
「配下さえいなくなっちゃえば、ビルシャナを倒す事自体は難しくないと思うから」
 そのあたりは、お任せするよとイチは紡ぐ。
「でもキムチ鍋も美味しいのよね」
「締めはラーメンでも雑炊でもいける優秀な鍋だな」
 わかる、とアラタとザザは頷きあっている。
「で、鍋談義はまとまったの? ちなみに俺はごま豆乳鍋で最後にうどんしたい」
「その鍋も捨てがたい……! 結局、どの鍋も美味しいに落ち着いた。全鍋が尊い……」
「うん、アラタちゃんの言うとおり、本当に尊い……」
 うんうんと頷きあって、アラタは集ったケルベロス達へ鍋を守るため手をかして欲しいと笑みを向けた。
 冬将軍到来。心も体も、ぽかぽかになるために。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
飛鷺沢・司(灰梟・e01758)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)

■リプレイ

●鍋、色々
「お鍋イズ尊い。これは確かなことなのですよ」
 平坂・サヤ(こととい・e01301)は並ぶ鍋に笑みを零す。
「お疲れ様、寒かったでしょ。良かったら一緒に食べない?」
 ジゼル・フェニーチェ(時計屋・e01081)はあったまるわよと暖かい鍋をちらつかせ。
「オーソドックスな水炊きも良いけど〆に最適なのはトマト」
「トマト美味しいわよね、トマト!」
 まず食いついたのはザザ・コドラ(鴇色・en0050)だった。
「パスタを入れても美味しい、途中でごはんとチーズを入れてリゾットも良い。最後は卵を載せてオムライス。トマトの成分は女性に最適だもん、ね」
 そのトマト鍋をジゼルは一口。
「そんなオシャンティな鍋など! 鍋いずキムチ鍋! おんりー鍋!」
「キムチ鍋しか鍋じゃねぇ?」
 その言葉にルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)は、ならば教えてくれと言う。
「アンタらにとって『それ』が『鍋』である意義を」
 しかしそれについて明確に答えられるものは信者にはいない。
 ビルシャナはキムチ鍋が至高だからとしれっと言う。
 そこへアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は冬野菜たっぷりのてっちりを準備して蓋を開ける。
「薫る河豚出汁と野菜の甘さは正しく日本の冬! 食べろ」
 スープに具材は勿論、皆で囲んで笑顔になれる温かさ。鍋はそれでもっと美味しくなる平和な料理だとアラタは言う。
「他を貶める様なことを云う方がナンセンスじゃないか?」
 好きな鍋を愛する心は尊い。どんな好みも受け入れてくれる。
「それが鍋だ!」
 アラタの熱い言葉。それに相槌打ちつつ聞いていたルースはそろそろ気付かないか、と問いかける。
「鍋とは、何なのか。そう……鍋は鍋だ。鍋料理に於いて普遍たる存在、鍋」
 鍋を愛する心に鍋への貴賎があってはならぬ。
 鍋の具材全てを受け入れた者こそ、真の鍋の語り手に相応しい――そう言って、ルースは貴様らに鍋を語る資格はないときっぱり。
「黙ってキムチを食っていろ。ところで、おでんは良いぞ。ほれ、食ってみたいか? ほれ、ほれ」
 と、自分の推しのアピールも忘れずちくわを頬張る。
「水炊きかおでん、そこに熱燗。これに限る……偏屈で筋違いなビルシャナとは虚しい存在よ」
「キムチ鍋にはキンと冷えたビールが最高……なんだけれどね。だからって、他のお鍋が食べられないのは悲しいわ」
 繰空・千歳(すずあめ・e00639)は熱燗の声に頷き、他の鍋と酒の組み合わせを。
「豆乳鍋なら甘めのお酒、チーズやトマト系ならやっぱりワイン。とっておきのお酒にお鍋を合わせるのだって楽しいわよ」
 それにと千歳は言葉続ける。
「お鍋ってみんなでわいわいするのが醍醐味でしょう? キムチ鍋だと辛いのが苦手で楽しめない人もいるじゃない。それってちょっと悲しいと思わない?」
「キムチ鍋を愛する気持ちは分かるよ。でもね、人に個性があるように鍋にも個性があるんだ」
 アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)は例えば、と。
「辛さだけじゃなくまろみ、甘酸っぱさ、あっさりした味わい。スープや主役の素材一つで鍋は色んな顔を見せてくれる」
 その個性を尊重しないのは勿体無いとアトリは語る。
「なるほど、キムチ鍋……確かに、旨味もあり、辛い物は体を温める……この時期にはいい選択肢ではあると思います。僕も好きです」
「よしお前も信者になれぇ!」
 味方を見つけたと喜ぶビルシャナへ、しかしとギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は続ける。
「しかし、その味は、あえてこういう言い方をしますが美味しすぎる……それ故に主張が強く、他の味を塗りつぶしてしまう。食とは多様性。いろいろな味がほしくなる……!」
 他の鍋があってこそ、キムチ鍋の魅力もより引き立つのではないでしょうか――と、なるほどと思う事を言ったのだが。
「そして何よりヒメちゃんはキムチ鍋あんまり好きじゃないから!」
 ヒメちゃんとは何者か、とビルシャナは言うがそんなの聞こえちゃいない。
「お鍋を楽しみにきたヒメちゃんがキムチ鍋だけ出されてがっかりしようものなら……そんなの見たら、ボク、何をするかわからないよ?」
「な、何をするというのだ……!」
 微かに震えながらビルシャナは信者を背中に隠すようにする。
「キムチ大好き……なのは毛色で色々と良く分かる。キムチ食べすぎでは?」
 飛鷺沢・司(灰梟・e01758)の言葉に、ビルシャナは食べ過ぎてなどと声を荒げた。
「鍋は何でも、好きなものを食べられるのが良いんだ。その日の気分でなんでも選べる」
 鍋にはそんな自由があると、司は言ってそんなに好きならとビルシャナを見た。じっと。
「な、なにかね?」
「そんなに好きなら、あの明王を捌いて一緒に鶏肉キムチ鍋をしよう」
「コワイの二回目!」
 ヒェッとビルシャナは震えあがる。
 残っていた信者達はそこで戦うかのように構えたのだがほわりと良い匂いが広がりその戦意は失われる。
「キムチ鍋も確かに美味しい。それは肯定いたしましょう」
 その恐れ拭うようにまたサヤは声かけた。するとビルシャナはそうだろうと元気を取り戻す。
「しかし、それは他のお鍋が美味しくないということではないのです」
 ぷりぷりのモツ、しみしみおでん、旨味を噛みしめる水炊きに、繊細なお出汁のてっちり鍋。
 サヤは一か零かではなく、みんなちがってそれぞれ美味しいと言う。
「その懐の広さこそがお鍋の宇宙。百聞は一見にしかずと申します。一見だけでなく、お味見もいかがです?」
 はい、どうぞ! とサヤが差し出せば、ジゼルもこちらをと再度。こっちも美味しいのよと千歳も誘う。
「食べずに判断するなら尚更ね。ともあれキムチ鍋以外に一口食べてみなよ。個性を知るチャンスだよ?」
 ほかほかの、美味しそうな匂いに誘われないわけがなかった。
 信者達は鍋を手に取り、口にしたのち良い笑み浮かべたのだった。

●それでもキムチ推し
 信者だった者達はビルシャナから解放される。
 残ったビルシャナは再び信者を増やせば良い事と息巻いていて襲い掛かってきた。
 まだ周囲にいた人たちはザザとほかにもこの場にいた者達が誘導していく。
「この後もあります、短期決戦で行きましょう」
 ビルシャナ相手に手加減は無用。ギルボークは距離を詰め、鞘に納めた刃を抜き放つ。
 一瞬の抜刀術は目にも止まらぬ一太刀。その一閃は愛しき人を思い、集中力を極限に研ぎすまし放ったものだ。
「ロープが無用になったのはいいことだ!」
 その間にアラタは皆の力になるようにと紙兵をひらひらと踊らせた。
 ウイングキャットの先生はその通りだというように一声鳴いて、清浄の翼で羽ばたきを。
 同時にアトリのキヌサヤも羽ばたき風を送りゆく。
 その風の間を抜けてアトリが一気に走り抜ける。
 アトリがその脚に纏うのは流星の煌めきと重力。敵の目の前で小さく飛んで、勢いつけたまま飛び蹴った。
「飽きちゃった」
 そう言うのは幼い少女。午前二時の玩具の行進をジゼルは招いて仲間達を援護する。
 ウイングキャットのミルタも、お願いとジゼルが視線向ければ仕方ないわねというように飛び上がり、羽ばたきを皆へ。
 えいっ、という声と共にサヤが振り下ろしたのはエクスカリバールだ。
「ひぎゃあ! 羽毛が!」
 その切っ先に羽毛はふっさりもっていかれる。
 続けて、流星の煌めきと重力を以て司が一蹴する。ごふっと敵は声あげてよろめいた。
「いい? ビシャルナだけをしっかり狙うのよ」
 千歳の声に鈴は可愛らしく跳ねて応えると、エクトプラズムで武器を作り投げる。
 その調子と言いながら、千歳は鈴代構え雷纏う一刀を放った。
「よし、もう一発」
 銀の棒と錫の棒その二つを振り上げ、ただただ振り下ろす。
 ルースがそれをもって殴打した瞬間、莫大な敵へと流れ込む。
「ぷぎゃー!」
「む、焼き鳥にはならんか」
「なるわけがないだろう!!」
「こっちだよ? ……いやこっちだね? ……はたまたこっちかな?」
 転げて逃れたところへ、アトリが銃弾をばら巻き煙幕起こす。その煙の中から蹴撃繰り出しアトリは攻撃を。
 続けて煙も含めて緩やかな弧を描きギルボークは急所を斬りつける。
 そこへ電光石火の蹴りをルースが放ち、敵の態勢は崩れた。
 よろめいた敵の懐へジゼルが駆け込み、そっと触れて攻撃を。
 敵は閃光放って、前列に立つ者達を攻撃する。その傷は深いものではなかったけれど。
「本日は飴模様。優しい飴にご注意を」
 千歳が紡げば、優しい甘い雨が降ってくる。傷に甘く優しく、溶け込んでいく。
 繊月を閃かせサヤは敵の身を切り刻む。その傷は深く簡単に治せるものではない。
「――呑まれてみるか」
 灰の瞳に映るのは微かな炎。闘気を帯びた刃に火花が弾け、翳した刃が夜を喚び、幾千の月光が敵の身を撃ち貫く。
 その月光に圧され、敵は膝をついた。
「気を付けろ! ツーンっとするぞ!!」
 アラタの頭上にはからし種、手には魔導書。種から放たれるは弾け煌めく金の荷電粒子を纏う十三の追尾砲。
 それは敵を逃がすことなく捉えて、その攻撃に包まれた敵はその場に崩れ落ちたのだった。

●鍋タイム
 鍋フェスタの賑わいは楽しいものだ。
 恋人同士、ルースとリリも様々な鍋を見て。
「どうせ肉であろう? 肉を喰らえ、たんまりと」
 ここで肉を蓄えてくれれば暫く己の財布も安泰と、ルースは思っていたのだ。
「肉……えぇ、肉……そうね……」
 しかし、リリはどこか歯切れが悪い。たっぷりの豚バラの鍋――という誘惑を振り払って。
「あ、あれは?」
 と、示したのは筋肉をつくるマッスル鍋。ササミ、白菜、こんにゃく等のあっさり豆乳鍋。
「……え? あっさり? 豆乳? ……お、おう」
 その言葉にルースは瞬く。あの誓いは本気だったのか、と。
 ルースにしてみれば好物しか入っていない見事な鍋。
 けれどリリには腹が膨れた気がせず、脂でぎっとぎとのもつ鍋のほうが絶対に美味しそうと思う。
 だが、目の前には上機嫌の恋人。
「……まぁまぁね」
 けだるげに鍋をつつきつつも、リリの口元は満足気でもあった。
「鍋フェスいえーい! たくさん食べましょーねえ」
「うふふん。今日この日のために、ボクは昨日から何も食べてないのよ」
 サヤと美羽は運命の鍋を探し、いざ試食の旅へ。
 そして一足先に乾杯と、アラタとメイは蜜柑ジュースで。
「何がいい?」
「まずはね、アラタちゃんの用意したてっちりが食べたいな」
 メイの答えに嬉しいと笑顔を向けるアラタ。メイは楽しみとそわそわ。
「だってアラタちゃんのお料理、美味しくて大好きだもん!」
 てっちりを取り分けていれば千歳からも視線。
「メイにはポン酢と浅葱。甘い白菜はジューシーだ。千歳には……紅葉おろしで!」
 そんなとりわけの様子にこっちも始めようと笑って。乾杯は冷えた麦酒が良いと司はそれを喉に落とす。
「鍋と言っても色々あるね、景臣は何推しだろう」
 鍋は難しくないからよく作るんだけど、色々食べれるのは贅沢だねと司は景臣に器手渡す。
「そうですね……この時期だと白菜鍋とか牡蠣鍋とか食べたくなります」
「俺はもつ鍋が好き。ふわふわのもつとニラ、刻んだ唐辛子」
 どうぞ、と司がとった鍋。それを口にすれば蕩けるような感覚に景臣は相好崩す。
「牡蠣鍋も……司さん、牡蠣お好きです? 宜しければ大きいのをどうぞ」
 と、景臣はとっておきのひとつを。すると司は嬉しそうに笑って。
「白菜に牡蠣も美味しいね。ありがとう、魚介は大好きだ」
 今日は折角の機会、沢山の鍋を味わうという贅沢な時間。
「スンドゥブチゲもどうぞ」
 はい、とアトリが渡すと、ガロンドは構えた。
「アトリさんのは……やはり赤いな」
 アトリは絶望的な辛党である。
 ガロンドはそれを知っているからこそ辛さの程が心配だと口には出さないがそれを凝視した。
「そう構えずとも食べたら分かるって……」
 大丈夫、皆の口にあう辛さだからとアトリは言うので恐る恐る口に運べば。
「味がわかる。なるほどしっかりした出汁に辛さはアクセントだな」
「アサリの旨味が溶けたスープのシメはご飯か中華麺をお好みでね」
 それはどっちにしようか迷うと言いながら、こっちも頃合いだとガロンドは鍋を示す。
「博多風のとんこつ鍋だ。多少香りは強いが、コクもあるしあったまるぞ、そのままラーメン入れてもいいしね」
「とんこつ鍋。確かにクセのある香りだね。どれどれ……」
 けれどその香りも美味しさの一つ。
 アトリは鍋はやっぱり尊いなと零す。
 ガロンドは笑って、冬は寒いし鍋をつついてるぐらいが幸せなひと時だねと紡いだ。
 それには頷くしかない。
「ヒメちゃん! 悪しきキムチ鍋……じゃなかった。ビルシャナは退治したよ!」
 鍋フェスタ再開の様子を喜んでギルボークは笑む。
「あ、そういえばヒメちゃんはどんなお鍋が好きなの?」
「好きな鍋ですか? そうですね……あまり食べたことないので、気になるものでいえば、豆乳や胡麻はどうでしょうか」
 あまり鍋は食べたことがないので楽しみとヒメノは言う。特に寒い時期の暖かいお鍋は美味しいと聞いたと。
「なるほど、豆乳に胡麻……むっ……この味は……」
「お鍋美味しいですね…体も温まります」
「〆の定番と言えば雑炊やうどん、或いはラーメン……でも……ヒメちゃん! パスタを入れよう!」
「パスタと卵?」
「卵を落とせばカルボナーラ風になりそう! おしゃれでヒメちゃんにも似合う!」
「なるほど、良い発想ですね。また別の味になって美味しいです」
 と、〆の方向も決まる。
 鍋フェスタをぐるっと回って、サヤと美羽は鍋の材料を抱えて皆の所に。
「ボクはだんっぜんカレー鍋よっ。〆はうどんでよろしくねっ」
「では、カレー鍋は腰を据えて頂きましょう。〆はうどん。なるほど隙がない、つよい」
「あっあっでも一口ずつ味見したい。味見は無料タダ、ゼロ円プライスレス」
 ちょっとずつの訳っこならと、乾杯の声を再度響かせて仲間入り。
「どうしよう、おなべとうとい……あったまる……サヤはお鍋で好きな具材ってある? ボクはだんっぜんお肉よっ」
 肉肉肉豆腐肉よ、と美羽の箸はその通りに動く。
「サヤは断然白菜派なのです」
「野菜? 野菜はパス、サヤが食べて。春菊とか食べないから、絶対食べないからね」
 そう言うものの、サヤは肉と野菜をトレードしつつ。
「カレーに入れればなんでもおいしい」
 と、二人の器ではある意味、攻防戦。
「もうボクの生涯に意味はいらないの。鍋が並ぶ丘でボクは出汁で酔うのよ……おいしい……」
「いまのサヤは、体の半分が鍋で出来ているといっても過言ではありませんとも」
 けれど、やっぱり鍋に夢中だ。
「乾杯はやっぱりビールで、次は……あ、お酒っておいてあるわよね?」
「世の中にはお酒の鍋もあるみたいなのよ千歳さん」
 なんですって、と千歳はザザの言葉に反応する。
 けれど、今は!
「あらやだ、コラーゲン鍋って、これは食べておかなくっちゃあ」
 味見したいのが次々出てきて困っちゃうわと笑いながら一口。
「お野菜かばりだからヘルシー……ヘルシーよね?」
「ヘルシーよ! だからいくら食べても大丈夫!」
「そうよね!」
 と、力強い言葉に頷いて、こっちのお鍋、あっちのお鍋。
「トマト鍋もやっぱりおいしい」
「トマト! それもよさそうね、ちょっと分けて」
 ええ、とジゼルは千歳に少しよそって。〆が楽しみと笑いあう。
 それを見て司も、こっちもと分けて貰う。
「一口食べればトマトの甘みが広がって、頬がおちそう」
「シメにリゾットとは洒落てますねぇ」
 景臣はそう言って、皆の幸せそうな顔に笑み零す。
 胃も心も満たされていくようで、やはり鍋は良い物と思う。
「ふふ、連れて来て下さり有難うございます。お陰でぽかぽかです」
 鍋で緩む心はその顔にも現れ。司に微笑みかければ司もまた同じように。
「こちらこそありがとう」
 ぽかぽかとあたたかいのは、鍋のおかげだけではないのだと知っている。
 シェアでいろんな鍋が味わえる……ここは天国かとアラタは零す。
 尊いなと至福の顔だ。
 その隣でお鍋の天国だねとメイも頷く。
「普段食べる機会のないきりたんぽ鍋とかぼたん鍋も気になるよ」
「滋味深い出汁を吸ったきりたんぽ……牡丹鍋は生姜味噌でぽかぽかだ」
 どっちも美味しいと言う声にメイも手を伸ばす。
 そしてそう言えばキムチ鍋は、と言って。
「そういえば、子供もいけるマイルドキムチ鍋があったな」
「キムチ鍋は辛くて……でもマイルドなの? だったら食べてみたいな」
 それならもう一つ鍋を追加しようとアラタは言う。
 たたーっとブースに走って、材料を貰って。
 くつくつ煮えればキムチの匂いもほんわりと。
「好きは美味しいの源だ。ジゼル、ザザも食べてみないか? アトリもはい♪」
「スンドゥブとは全然ちがう味だね」
 アトリは受け取ってマイルドだと笑む。
 その匂いがすれば、やっぱりちょっと食べたい気持ちにもなる。その視線に気づいて、アラタはどうぞと差し出した。
「わ、とっても美味しい。お鍋は心も体も暖かくなるし、笑顔になる魔法のお料理だね」
 本当にそうだとメイの言葉にアラタは頷く。
 お鍋が美味しいから仕方ない。
 冬の幸せは、独り占めできるものではないのだから。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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