はっけよーい、どすこォい!

作者:青雨緑茶

「どすこォいッ!」
 富士山中。恰幅の良い重量級の外国人が、大木に力強い突っ張りを浴びせている。
 彼の名はベルナルド。相撲――いや、SUMOUに魅せられ、SUMOUこそ世界最高の武術と信じ、日本の地で力士になる事を夢見て来日したアマチュア相撲取りである!
 ……ちなみに憧れの相撲部屋には門前払いされた。なんか色々勘違いしてるから。
 しかし彼は、技を磨き最強となれば必ずやオヤカタも認めてくれるだろうと信じている。故にこうして霊峰フジヤマに籠もり、日夜稽古に明け暮れているのだった。
 ――だが。
「いいね。見るからに強そうだ」
 驚き振り返る彼の背後にいつの間に立っていた声の主は、幻武極。
「さあ。お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 幻武極の言葉に、操られたように攻撃を始めるベルナルド。
 繰り出されるSUMOU技をしばらく受け続けた後、幻武極は少しもダメージを受けていない平気な顔で言う。
「残念。僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 そして手に持つ鍵で、彼の心臓を一突き。
 ベルナルドは傷も受けずに意識を失って倒れ、その横に、屈強な力士のドリームイーターが出現する。
「ドスコォーイッ!!」
 厚い脂肪と筋肉に覆われた巨体。猛然と突進し、凄まじい気合いの籠もった突っ張りを放つ力士!
 バキバキィッ!!
 音速を超える突っ張りは、一撃で大木をへし折ってしまった。その圧倒的なパワー、まさにベルナルドが理想とする最強SUMOUレスラーの姿に他ならない!
「やるじゃないか。ほら、お前の武術を見せつけてきなよ」
 幻武極に送り出され、力士は背を向け歩き出す。ズシン、ズシンと地響きを伴い、纏いし天然の肉襦袢をたぷんたぷん波打たせ、擦り抜けられない周囲の枝葉を構わずバキボキ折って――。


「外国出身力士は各相撲部屋に一人までって決まりがあるみたいっすね。まあ今回の被害者の場合、そういう制約で入門を断られたってわけじゃないみたいっすけど」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、集まったケルベロスに事件の概要を説明する。
「ドリームイーター・幻武極が起こす事件っす。既に何度か同じタイプの事件に携わった方もいるかもしれないっすけど、武術を極めようとして修行を行っている武術家が襲われる事件っすね」
 幻武極は自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているらしい。今回の襲撃ではモザイクは晴れないようだが、代わりに生み出したドリームイーターを暴れさせようとしている。
「出現するドリームイーターは以下、『ヨコヅナ』と呼ぶっす。
 襲われた被害者が目指す究極のSUMOUレスラーの技を使いこなして、なかなかの強敵らしいんで気をつけて欲しいっす!」
 続けて、ダンテは資料を配る。
「敵はヨコヅナのみ、配下などはいないっす。
 使用グラビティは、斬り裂くほど物凄い突っ張りで遠距離から突撃してくる技、組み付いて豪快に投げ飛ばす近単技、手刀で切腹して腹部から溢れるモザイクで全身を包み込み闘志を上昇させるヒール」
 ちょっと待て最後おかしい。切腹ってなんだ。
 相撲取りのドリームイーターじゃなかったのか、と当然のツッコミが入る。
「えーと、そっすね、これってあくまでも『被害者が思い描いた理想の最強武術』から生まれたドリームイーターみたいなんすよね。だから、被害者のベルナルドさんの豊かな想像力……っていうか、ぶっちゃけ間違った日本観から来てるみたいっす。あんまり深く考えず、そういう技だって思って欲しいっす」
 いわゆる典型的な『日本文化を誤解した外国人』という奴だ。悪気はないにしろ、そりゃハラキリだの何だのを現代日本でも当たり前の文化と思ってたら門前払いもされるわな。
「現場は富士山麓に向かう山道。ケルベロスの皆さんには、下山してくるヨコヅナを待ち構えて欲しいっす。
 幸い人里に到着する前に迎撃可能なんで、人払いや周囲の被害は気にせずに、思いっきりバシーンッと迎え撃てばオッケーっすよ!」
 一通りの説明をして、ダンテは拳を握りケルベロスを激励する。
「ヨコヅナは自分の武の真髄を見せつけたいって考えてるみたいなんで、戦いの場を用意すれば、向こうから戦いを挑んでくるっす。なんか変な敵っすけど、横綱って名前は伊達じゃないんで、油断しないで倒してきて欲しいっす!」


参加者
デジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
大原・大地(力士名は大腹竜・e12427)
シリル・オランド(パッサージュ・e17815)
尖・舞香(尖斗竜・e22446)
本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)

■リプレイ


「相撲! えみかはやりまっすよー! 相撲の強いところをお見せしまっす!」
 本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)は瞳に燃える闘志を宿し、持参した鉄砲柱を打ち、今か今かと敵の出現を待ってワクワクしていた。
 赤や黄色、晩秋の落葉に染まる山道。一同は敵が下山してくるルート上にちょうど障害物の少ない開けた場所があるのを見つけ、そこに土俵を作り待ち構える事にした。
 皆で協力し、マサカリで草を刈ったり、必要な物を運んだり、土を詰めた俵まで埋めたりして、完成した土俵は即席にしては申し分のない見栄え。
 番犬達は早くも一種の達成感に包まれる。これほどのドヒョー・リング、敵がSUMOUレスラーならば到底、無視などできまい……!
「相撲もいいものね。男と男の裸のぶつかり合い……あ、いやらしい意味では言ってないわよ?」
 黒いぴっちりスーツに身を包み、怪力無双を用いて手伝いに励んだデジル・スカイフリート(欲望の解放者・e01203)が悪戯げに微笑む。
 率先して土俵作りの指揮を執った大原・大地(力士名は大腹竜・e12427)は、マワシの代わりに褌を身に着けた姿で土俵の上に仁王立ちだ。
 彼以外の一同は土俵の周りに控える。ある者は気合い充分に、ある者は飄々と、またある者は横綱級の相手との決戦に備えておにぎりを頬張り――思い思いに、敵を待つ。
 ――ズシンッ。
 地響き。最初は遠かったそれが、一定間隔で繰り返され、徐々に近づいてくる。
 ヨコヅナだ。現れた姿は堂々たる腹回りのあんこ型、仕上がった肉体はまさに肉の巨塊。
「おおきいことは、いいことです! でも今回のドリームイーターさん、すっごく……おおきいです……」
 アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)は感嘆する。日本の文化に興味を示して稽古に励んでいた被害者のためにもここでしっかりと敵を倒したいところだが、ヨコヅナの身丈はゆうに彼女の倍以上、それに横幅もあるとなればそりゃもうド迫力。
「どすこーい!」
 大地は土俵で四股を踏む。小柄だがヨコヅナと同じくあんこ型の彼の四股踏みは、実にサマになっている。
 土俵、そしてうってつけの対戦相手というお膳立ては、まんまと敵を惹きつけた。
「ドスコォォォイッ!!」
 猛然と土俵へ突進してくるヨコヅナ!
「にーしぃー、夢喰い丸! ひがぁーしぃー、大腹竜!」
 相撲大好き娘のえみかが行司めいた大声を張り上げる。はっけよーい、のこった!!


「横綱級の敵かぁ、相撲の知識は間違ってても油断はできない相手だね」
 比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は腹ごしらえの鮭おにぎりを食べ終え、指についたご飯粒を舐めとる。
 敵の突進に合わせてひらっと土俵に上がり、豊満な横腹に流星煌めく蹴り一閃!
「幻武極さん、今までの武術をすべて吸収してるとしてたらすごいことに、です……? 『光の羽根よ、守っていてください、です!』」
 アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)は頭の片隅で慄きつつ、自身の翼から周りに羽根を散らす。球体天使(スフィアエンジェル)、白い羽根が光を放つ度に仲間へ加護を与える。
「ハッケヨォイッ!」
 ヨコヅナは筋肉に満ちた巨躯の臂力を如何なく突っ張りに籠め、黄泉の服を大きく斬り裂き張り飛ばす!
「武において大切なのは心の姿勢。KARATEスタイルでお相手します! ♂(オス)!! キリステ・ゴメェェェンッ!!!」
 尖・舞香(尖斗竜・e22446)は、相撲は最強の国技と聞いた事があるのを思って構え、初手を決める。斬り捨てと叫びつつ、かましたのはスターゲイザーの飛び蹴りだが!
「君に最適な舞台を用意してあげたよ、スモウレスラー。……それで何だっけ、塩撒いてガニ股して○○FUJIとか名乗ればいい?」
 シリル・オランド(パッサージュ・e17815)は仲間の受けた開幕の痛手を脳髄の賦活で癒し、ノリ良く『同じく雑な知識の外人』として適当に振る舞う。
 実は相撲にそこそこ詳しいのは内緒だ。立ち回り軽やか、ここは相手のSUMOU的流儀に合わせた芝居を楽しむに限る。


「ノコッタァァッ!!」
 ヨコヅナは大地の爆発腹カボチャ(ギャグネタ)に怒りを誘われ、彼を標的にして掛かる。大地はそれを正面から思いっきりぶつかって止めた!
 バチーンッ! 熱く弾ける漢の肌と肌が鳴る派手な音!
 組み付いたヨコヅナのマワシに手をかけ、踏ん張って耐える。
「くっ! 持ち上げられて堪るか……っ今だーー!」
 敵が繰り出そうとするうっちゃりを対衝撃強化服で耐え、力一杯の上手投げ!
「こ、これほどの敵を投げる……!? 何にしてもナイスです、そいやーッ!!」
 舞香は敵にも味方にも驚嘆しながら、バランスを崩したヨコヅナを狙いグラビティを纏った鋭い二枚の翼で挟み斬り裂く。容易には治し難い傷を与える、ドラゴニックシザース。
「同じ土俵に立った以上、えみかの相撲に付き合ってもらうっすよー!」
 瞳に闘志の炎を燃やすえみかは鋭い四股の軌道で巨躯を蹴り上げ、盛大に踏みつける。
 ペース配分皆無で最初から全開フルスロットル、当人曰くマワシに見立てて腰に巻いた尻尾もピンと張り詰めて意気揚々!
 幼い者や小柄な者が多い今回のチーム、巨体を取り囲む様相は見た目だけならばさながら、わんぱく子供相撲・力士に挑戦とかそんな感じだ!
「すごい肉弾戦対決です、よーし! アニエスもぜったいにまけませんよ! えいっ……!」
「ドスコォイ!!」
 手にする洋傘にグラビティを籠め、破鎧衝の一撃を打ち当てたアニエス。返す動作でヨコヅナから放たれる突っ張りにも小柄ながら果敢に前へ出て受けとめ、身体を張る!
「ブッブー!」
 テレビウムのポチもアニエスの指示に沿って能く動き、凶器攻撃で戦闘に貢献だ。
 くらくら、張り倒されてふらつく仲間に、シリルが囁く。
「”痛くない”、”痛くない”。――ほうら、”痛くない”」
 頭の芯を痺れさせる、低く響く声。彼流の脳髄の賦活だ。
「――ね?」
 仲間が我に返ると痛みが軽くなっている。彼は緩やかに、気の抜けた笑顔を浮かべた。
「『避けられた、なんて思った? 魂の残滓、刹那の精霊を作り上げなさい』」
 デジルの仕掛けた攻撃を敵が避けた瞬間、その背後に形成された疑似ビハインドのような形のモノが奇襲する。
「友達と似たワイルドハントのビハインド……なんか複雑だけど、まあ本人に内緒ならたまにはね♪」
 芋を持ったレプリカント少女の姿をしたオルタストライクアナザーを眺め、彼女は楽しげだった。
「ほんとは胸やお腹への蹴りは禁じ手、ですが……この場では、なんでもあり、です! 空中戦だってこなします、です!」
 アンジェラが空高く飛び上がり、虹を纏う急降下蹴り!
 小さな手で埋めた俵はしっかり固定できたとは言い難かったが、思った通り、始まってしまえばリングアウトなど誰も気にしない。勝てばよかろうなのだ。
「まさかSUMOUと対峙する時が来るとは……ねっ!」
 黄泉も高々と跳び上がり、振りかぶったルーンアックスでヨコヅナを頭上から叩き割る。ここには行司も観客もなく、凶器が反則なんてルールもない!
「オオオ……カイシャク・ムヨウ、ハラキリィッ!!」
 ヨコヅナは手刀で切腹し、腹部から溢れるモザイクで全身を包み込む。傷が癒え、巨体が禍々しい赤いオーラに包まれる。実に分かりやすい火力上昇である。
「切腹は相撲じゃないっす! せめてちゃんこか力水でも飲んで回復するっす!」
 えみかがすかさずツッコミの体当たり――否、相撲技のぶちかましを、グラビティを伴う降魔の一撃として喰らわせる。本職が見たら卒倒物の技を繰り出すという点では同類でも、切腹まで相撲とされるのは見過ごせない!
 シリルは羽根のような身のこなしで数度のフェイクを巧みに重ね、敵の間合い感覚を狂わせて一瞬で敵の死角に滑り込む。そのまま必要最小限の力で、手刀にオーラを籠め――。
「あれま。僕、いま良い動きしたと思うんだけどなあ」
 素早く離脱し、彼は呟く。確かに与えた直接的なダメージこそ低いが、その一撃は確実にヨコヅナの動きの要を断つよう影響を与えた。
「強くなりたいって欲望を利用するのは頂けないわね。きっちり倒してあげなくっちゃね♪」
 敵の姿はまさにSUMOUの暗黒面に堕ちた者。デジルは機械蟹脚型バールを敵目掛けてぶん投げ、容赦なくその顔にぶち当てる。顔面セーフのルールも存在しない!
「ドスコォーイッ!!」
 ヨコヅナは高速の摺り足で機敏に肉迫し、分厚い掌で舞香を吹き飛ばす。ただの脂肪の塊ではなく、みっちり詰まった筋肉のなせる業!
「くっ、想像以上のパワー……! ファッキヨイ……デストロォイ!!」
 大きく削られた体力と敵の強化状態、どちらに対処すべきか咄嗟に天秤にかけ、舞香はブーストナックルを選ぶ。ここは仲間を信頼し、重拳撃で敵を包む赤光を打ち砕く!
 すかさず大地が気力溜めで回復させ、箱竜のジンもそれに倣い属性インストール。コンビネーションでサポートに務める。
 出来る事ならば一対一でがっぷり組み合ってみたかった思いは山々。だが見た目は力士でも中身はドリームイーター、危険なタイマンは断念して最初から総攻撃にして良かったと、切に感じていた。

「これ、気を抜いたらまずい奴よね。はぁっ!!」
 攻撃手の黄泉は敵の削りを優先したかったところだが、敵の攻撃の一つ一つがいちいち重く、その本来の火力を下げる措置も取っていない。パラライズは掛かっているが確実ではない。シャウトで自身を回復し、戦線を維持する。
 アンジェラはヨコヅナの関節を極めようと、丸太のような腕に取りつく。
「小さい方には小さい方の戦い方があります、です! これで、突っ張りは出せませ……ひゃあっ!?」
「ゴッツァンデスッ!!」
 小さな身体が軽々と持ち上げられ、滞空時間の長い投げを喰らう。土俵の外に大きく飛ばされて、木に叩きつけられ――崩れ落ちてしまう。
「あ…う…これは、びっくりな力、です……」
 辛うじて重傷は避けたが、戦線復帰は難しそうだ。
「わ、わ。いそぎ、回復します……!」
 無論アンジェラの様子も心配でならないが、幸い彼女は遠くリングアウトして敵に狙われる危険性は低い。アニエスはオーラを溜めて、次に攻撃を叩き込む仲間を先に手厚く保護するべく放つ。
 だが敵の巨体も大分動きが鈍っている。きっと、勝利は掴めるはず!


「集団戦は少し相手が違うとは思うけど、こういう戦い方もあるからゴメンね?」
 五人掛けならぬ八人掛け。外見は幼くともその微笑は妖艶に、デジルは電光石火の蹴りで敵の急所を貫く!
「はっけよーい……のこった!」
 黄泉が螺旋力をジェット噴射させて突撃し、パイルバンカーを思いっきり叩きつけ、揺れるお肉の鎧ごとヨコヅナをぶち抜く!
「のこったのこったぁっ!」
 どすこいオーラに包まれて敵に対抗するSUMOUパワーを纏う大地が手の爪を超硬化し、いっそ包容力すら感じられるほどの魅惑の腹にめり込ませる!
「『―――祈りを。アニエスのたいせつな人たちをまもるための、光を』」
 この敵の猛攻を防具を破られたまま受けたら、ただでは済まない。アニエスは祈りを捧げ、その願いを光の粒へと昇華させ仲間に降り注がせる。
「そいやーッ!!」
 ローキックの如くヨコヅナの脚に旋刃脚を炸裂させる舞香。執拗に、何度目かの。
「ノコッタ……アァッ!?」
 突っ張りを繰り出そうとしたヨコヅナの膝が崩れ、攻撃は散った。何かの漫画で得た知識通り一見効いてない様に見えて後々響いてくる舞香のロー、それに仲間達からの付与もここで重なった!
「そろそろ、いけそうだね。――最後の一撃、任せたよ」
 後方から良く観察し、シリルがえみかに囁く。言葉の催眠じみた詠唱が、彼女の脳細胞を限界まで活性化させる。
「ありがとうございまっす! 相撲という土俵で戦う以上、えみかに負けはないっす! はっけよーい……のこったー!!」
 仕切りの体勢で構えて全身の力を集約させ、低姿勢のまま弾丸の如く突進して組み付く。そのまま場外まで押し出したスーパー電車道(スーパーデンシャミチ)、敵を大木に激突させ――ヨコヅナは、塵へと還った。
 強敵であった。降魔拳士としてその魂を喰らい、えみかは達成感に満ちた電池切れで、パタリと倒れた……。


 倒れた者も少々の休憩で無事に回復し、彼らは周辺にヒールを施す。激しい取り組みで倒れた木々もこれで元通り。
「終わったね。ベルナルドさんが無事か確認したら皆でちゃんこ鍋でも食べに行く?」
「ちゃんこー! 行きまっす! えみかの『え』は『えびすこ』のえっす!」
 ついでに彼に相撲の正しい知識を教えようとも考える黄泉の提案に、大賛成のえみか。えびすことは大食漢の意である。
 そういうわけで一同は、被害者ベルナルドのもとへ。
 ちょうど目を覚ました彼は一体何が起きたかと驚いていたが、ケルベロス達の説明を聞いてまた大いに驚き、カタコトの日本語でお礼を重ねる。
「ヨコヅナさんも大きかった、ですが……ベルナルドさんも、とっても大きい、です……」
「ほんとです! こんな意欲の高い、すばらしい人が、しっかり目覚めてくれてよかったです!」
 アニエスとアンジェラは立ち上がったベルナルドを首が痛くなるほど見上げる。流石に2.5メートルはないが、小さい彼女達にとっては大差なかろう。
「山篭りを実行する気概や天晴。ネバーギブアップ、望みを捨てるな。ですよ」
 舞香は良い笑顔で激励する。自称ブシドーを重んじる彼女の目標は立派なサムライになる事、通ずるところもあろう。
「練習の型をカメラに撮って参考にするといいですよ。そうだ、ちゃんこ鍋、一緒に食べに行きませんか」
 大地はベルナルドの恰幅の良さを見て心躍り、興奮気味に誘う。親切な助言にベルナルドは喜び、大地のインスタントカメラで撮って貰って満面の笑み。
 彼の密かな内心については何も言うまい。撮った写真は保存しようとか、ちゃんこ鍋を一緒に食べながらヤ=ヨ異本を見せて角界には男同士の裸の友情がある事を説こうとか。
 一方シリルは場にDVDをそっと置き、一足先に帰路につく。
「あれ、何?」
「ん? 僕の秘蔵品」
 同じく先に帰るデジルに尋ねられ、シリルは飄々と笑う。
 DVDのタイトルは『相撲名試合百選』。来日までして奮闘する主に拾われる事を祈り、ぱんぱん、両手を打つ。
 彼らケルベロスのささやかなアドバイスや贈り物が実を結び、いつか角界に日本文化を正しく愛する褐色肌の外国人力士が燦然と現れる――。
 のかどうかは、今は誰にも、定かではない話だった。

作者:青雨緑茶 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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