ミッション破壊作戦～日本を喰い漁るドラゴン

■リプレイ

●竜と戦う理由
　静岡県焼津市上空。
　ケルベロス達は間もなく到着のアナウンスを受け、降下準備にとりかかる。
「月山の方も気にならないわけじゃない。地元だしな」
　ドラゴンを対象としたミッション破壊作戦は現状３ヶ所。神城・瑞樹（廻る辰星・e01250）が軽い口調で言っているのは、山形県の月山のこと。
　ただ、破壊の進むこの地を抑えるのが先に繋がるはず。彼は一歩一歩確実に叩くことを仲間と共に選択した。
　この作戦に臨む理由は、メンバーによって様々だ。
「多くの被害を出してきたドラゴンに、一矢報いる機会が頂けたことに感謝を」
　罪咎・憂女（憂う者・e03355）はその言葉通り、現状としては貴重なドラゴンとの交戦、しかも、その戦力を削ぐ絶好の機会に恵まれたことを喜ぶ。
　そばにいた、まだ幼いメイリーン・ウォン（見習い竜召喚士・e14711）は使命を果たす為、お供の箱竜クロノと共にドラゴン関係の事件に主軸をおいて参加している。
　そして、岡崎・真幸（脳みそ全部研究に費やす・e30330）。
（「何度も目の前で暴走されて、借りばっか作ってたまるか」）
　真幸ももう一つの候補、豊後水道の状況を憂いていたが、オカルトマニアの彼は神社仏閣も好み、焼津神社を含むこの地域から憎き竜達を掃討したいと考えている。
　準備を整えたメンバー達は１人、また１人と眼下にある魔空回廊目掛けて飛び降りて行く。

●想いを魂の叫びに変えて
　空を落下するケルベロス達の真下には、魔空回廊を包むバリアがある。
　先んじて、そこにニケ・セン（六花ノ空・e02547）飛び込んだ。
「お前達に、『死』を与えた者達の１人だよ」
　ドラゴンに死を齎した３０人の１人。それがニケだ。その時のことを、ニケは一時たりとも忘れたことはない。
　――もう誰も、奪わせるわけにはいかない。
　彼はそう考えるからこそ、『死』に立ち向かわんと決意した竜を見過ごすわけにはいかないのだ。
「そんな決意なんて、簡単に砕いてやるよ」
　これから繰り出される一撃一撃が自分達の魂の叫び。ニケもまた全力でグラディウスを突き出す。
　ほぼ同時に、瑞樹もまた光る刃を握りしめ、一気に突き出す。
「つか、従妹殿の嫁ぎ先がこの近くなんだよな。可愛い従妹甥っこの為にも頑張らないとな」
　可愛い甥っ子や手芸仲間でもある従妹の為にも。そして、美味しいみかんをくれるその親族の為にも。美味しいは正義なのだ。
「これで、３度目の攻撃。地下洞窟ごと埋まってしまえ」
「とっととこの場から出て行って貰う。……つかむしろ、地球から出てってほしい」
　２人の握る刃はバリアを打ち砕き、魔空回廊へと突き刺さった。
　その瞬間、辺りに強烈な雷光が放たれる。降下してくるメンバー達の耳に、ドラゴンの呻きが聴こえた。
　だが、エリシエル・モノファイユ（銀閃華・e03672）は構わず、魔空回廊へと襲い掛かる。
「……慣れてるからって、痛くないわけじゃないんだよ！」
　彼女が語るのは、竜が起こす地震のことだ。
　日本はアジアの端にあり、太平洋の隅に小さくある島国。地震、台風、火山の噴火と、大抵の自然災害を網羅している地域で、災害慣れした地域だ。
「何度も壊れて、その度に涙流して、血反吐吐きながら直して、今があるんだ！」
　エリシエルが握るグラディウスから、眩い光が発せられた。
　その隣、憂女の小剣も負けじと煌きを見せていて。
『同胞の為、生きる姿は見事』
　ドラゴンも人間も、背負っているのは同胞と守るべきものの未来。これは生存競争なのだと憂女は男性口調で語る。
「ここに生きる人々の安寧と平穏の為、この地は返していただこう！」
　２人の光る刃は、ほぼ同じタイミングで振り下ろされた。
「……だからこそ、要らんことして余計な迷惑かけるんじゃないっての！」
『さぁ、貫き通せグラディウス！』
　魔空回廊へとさらに、２本のグラディウスが突き刺さる。
　今度は大きな爆炎が巻き起こり始めた。地を這うドラゴンの動揺がより大きくなっていく。
「故郷を滅ぼし、自身から全てを奪ったドラゴン達……。身勝手に他者の平穏を……命を奪うドラゴン共……！」
　螺堂・セイヤ（螺旋竜・e05343）が抱くドラゴンに対する怒りと憎悪は、滾って余りある。
　必ずドラゴンどもを全て撃ち滅ぼすという決意を込め、彼は魂の叫びを魔空回廊へとぶつけて行く。
「今、ここに我は誓う」
　時を同じくして、メイリーン・ウォン（見習い竜召喚士・e14711）もまた、七星破邪の型に小剣を振るいながら叫び掛ける。
「一族の使命を果たすため、過去の過ちの償いのため、何よりこの地に住まうすべての人々のために！」
　セイヤ、メイリーンは続けて真下の魔空回廊へ刃を突き立てる。
「貴様等は全て、俺が必ず滅ぼす……ッ！！！」
「邪龍の道よ、退け！」
　彼らの刃は深く魔空回廊を抉る。そこから発生する濃いスモークが周囲を、地下洞窟内を包み込んでいく。
　そして、その煙の中、不知火・梓（酔虎・e00528）が降り立つ。
「言いてぇことは何か色々あった気ぃすんが……。こぅして相対すっと、余計なもんは全部吹っ飛んだなぁ」
　くわえた長楊枝を動かしつつグラディウスを構えた彼の中で残ったのは、一つだけだと告げる。
「互いの命を燃やし、全てをぶつけ合おうじゃぁねぇか。その上で、お前ぇさんを超え、俺ぁその先へ行かせてもらう！」
　梓の小剣がさらに魔空回廊へと突き刺さり、激しく雷光と爆炎が発生する。
　光と爆発の中で、最後に真幸が襲い掛かった。
　ドラゴンに恨みがあり、常々殲滅してやると思っている彼にとって、人々に恐怖と憎悪を振り撒く者どもは対象上位だと言う。
「頭が良かろうが上手だろうが、その姿は二度と見たくねえんだよ！」
　伝統ある焼津神社の存在する地域に居座るだけでも腹立たしいのに、仲間を暴走させたドラゴンを許してはおけない。
「オレらの神経逆撫でするのが随分と上手いよなあ？」
　真幸は叫びつつ、強い光を発するグラディウスで魔空回廊へと斬りかかる。
「今度こそ確実にぶっ潰す！　いい加減消えろ！」
　一閃させた刃がさらに濃厚なスモークを生み出す。
　上空から地下まで降り立つメンバー達は固唾をのんで、頭上の魔空回廊を見上げた。
　………………。
　魔空回廊は健在。動きを止める様子はない。
　すでに、グラディウスは光を失っている。今作戦での破壊は叶わず、メンバー達は小さく肩を落とすのだった。

●『死』に抗う決意をした竜に対して……
　残念がってばかりもいられない。
　ぼやぼやしていると、ドラゴンの大軍に囲まれることとなってしまう。そうなればグラディウスはもちろん、メンバーの身も危うい。
　ニケは即座に仲間と合流し、撤収を開始する。
　セイヤは背中の鞘にグラディウスを収納し、同じくベルトにグラディウスを固定した憂女がこちらに近づく気配を感じて。
『お出迎えだな……』
　スモークの中から現れたのは、無数の触手を生やし、醜悪な形状へと進化を遂げた地底潜航竜だ。
　敵の不意打ちに備えていた真幸。なんとか敵の強襲は避けられたが、相手はケルベロスをこの場から逃がすつもりはないようで、奇怪な口を大きく広げる。
　戦いは避けられない。梓は長楊枝を吐き捨て、仲間と共に邪魔な竜の討伐に当たっていく。

　地底洞窟に響く竜の咆哮。
　箱竜のチビが属性注入に動く横で、真幸はやや顔をしかめた。
　過去の経験から竜が嫌いなこともあるのだが、それが無数の触手を蠢かすのに一層嫌悪感を強めて。
「世界中の触手や蔓滅しろ」
　触手が大の苦手である真幸は、先に流星の蹴りで竜の足を止めようとする。
「守りを固めんなぁ」
　敵の初撃が来る前に。梓は前面にドローンを展開し、自身や仲間の防衛に当たらせて行く。
「天翔ける竜の如く！」
　瑞樹も高く飛び上がり、全身に雷撃を纏って急降下し、敵の頭を強く蹴りつけた。
　その一撃で怒りをかったらしく、竜はギロリと瑞樹を睨みつける。異形化した口は裂けるようにして大きく開き、彼の体へと食らいつく。
　地底でも暮らせるよう適応したその顎は、岩をも易々と砕く威力だ。
　瑞樹はその喰らいつきを堪えようとするが、思った以上にそのダメージは大きい。
　仲間がダメージを受けるのを見て、メイリーンはオウガ粒子を飛ばし、傷を塞ぐと共にその感覚を覚醒させようとする。
　箱竜のクロノもまた、時の因子をケルベロスへと注入し、回復に当たろうと動いていた。故郷を追放されてドラゴンと対するメイリーンは、クロノの存在に頼もしさを感じる。
　その間にも、メンバーは竜へと攻め込む。
　憂女は竜の翼と尻尾を使って移動、姿勢制御しつつ、護身小刀『憂』を振るう。
『…………疾ッ！』
　一つのモーションで行われる斬り落としと斬り上げ。
　特異な型で振るわれる斬撃は治癒しにくい形に切り込みが入り、そこから竜の血が零れ落ちる。
　蹴りを食らわせて相手の足止めをはかるエリシエルは、その合間に日本刀を抜く。
　軽やかに戦場を動き回り、彼女は敵の喉元を狙い、弧を描くように刃を振り上げる。
「実のとこ、ボクの剣って読み合い騙し合いアリアリ前提の邪剣もいいとこだから、こーゆ―デカブツ相手にゃあんま向かないんだよねー……」
　トリッキーな奇剣を得手とするエリシエルだが、巨体のドラゴン相手では少し戦いづらさも覚えていたようだ。
　シャアアアアアアアアッ！！
　奇怪な声を上げる竜。そいつはいくつもの小さな顎で、ケルベロス達へと食らいついてくる。
　分泌される溶解液には毒が含まれており、相手を弱らせてしまう。グラビティ・チェインを取り入れやすくする為に、獲物を食べやすくするつもりなのだろうか。
　広範囲に及ぶ小顎群を、桐でできた和風の箱が抑えようとしている。それはニケのミミックだ。
　主のニケは戦闘中でも比較的穏やかな雰囲気で立ち振る舞い、竜の能力把握に努める。
　初撃、仲間と同様に重力を宿した蹴りを放ったニケはバスターライフルから凍結光線を発射し、敵の体をわずかに凍らせていく。
　そこに、セイヤが攻め入る。オウガ粒子で自らを含めたメンバーへと重ねるように強化を施した彼は、眼光鋭く敵を睨みつけた。
「ドラゴンは全て、俺が駆逐する……ッ！！」
　古流武術の型で降魔刀「叢雲」による剣戟を繰り出すセイヤは、ドラゴンの堅い鱗を切り裂く。かなり深く攻め込んでいるのは、ドラゴンに対する強い怒りと憎悪があるゆえだろう。
　だが、相手はドラゴン。多少攻撃された程度で倒れる相手ではない。
　そして、見た目と違って竜は素早く身を躍らせ、三股に分かれる顎でケルベロスへとかぶりついてくるのである。

　相手はドラゴン。その力は脅威だ。
　主に、盾役となる瑞樹が地底潜航竜の気を引くこととなる。彼は虹を纏った蹴りを竜の背に叩き込み、なおもそいつの怒りを買う。
　それもあって、瑞樹は幾度も強靭な顎でかぶりつかれて体力を失い、徐々に防戦に回ることとなる。メイリーンが光の盾を展開して援護してくれるが、それでも竜の食らいつきは身体を抉るような痛みを与えて。
　分身を纏わせて耐えていた瑞樹。だが、幾度目かの小顎群による襲いかかりを受けて、視界が暗転する。
「マジ、かよ……」
　箱竜のチビと共に、彼は地面へと倒れてしまった。
　真幸はまたも倒れる仲間の姿に眉を顰め、両手に持つナイフからグラビティによって生み出した弾丸を撃ち放つ。
　多少身体を凍りつかせていたが、まだドラゴンは動きを止めない。
　とはいえ、ある程度竜の動きは鈍ってきたと判断したエリシエルは、炎を伴う蹴りでの応戦を始め、ダメージを加速させようとする。
　煙に包まれる戦場だが、それも少しずつ晴れていくはず。
　そうなれば、グラディウスでの攻撃で混乱していた竜達が一気に攻めてきてしまう。その前に、この竜を倒して離脱せねばならない。
　だが、地底潜航竜は手強い。なおもそいつは獲物を求め、次は梓へと割れた顎で食らいついてくる。
「盛り上がってきてるなぁ、こんなところで止められねぇよ」
　全身から流れる血。その痛みが、熱さが梓のテンションを高める。なぜなら、それは今、己が生きていると実感できる一時だからだ。
　そして、梓はドラゴニックハンマーを手にし、噴射したドラゴニック・パワーで殴り付けて行く。
「それにしても、ドラゴンを倒す為に選んだ得物がドラゴニックハンマーたぁ、少々皮肉な気ぃすんなぁ」
　ケルベロスも少しずつだが、力をつけてきている。
　時折、敵は硬化液を噴出しているが、ケルベロス達はそれを打ち砕き、竜に攻撃を繰り返す。
　それもあって、ドラゴンは痛みに悶えながら、またも異形化した口で食らいついてきた。
　前線のミミックが消滅したのを見つつ、ニケは敵の頭に飛び蹴りを喰らわせる。彼はできるだけ攻撃を避けられないようにと、命中重視で敵を叩いていた。
　揺らぐドラゴンの巨体。トドメは近いと察したメイリーンも攻撃に加わる。
「これ成る偽符をもって竜威を招く、百八眼の混沌竜よ、吠えよ！」
　呼び出した竜の形をした影が咆哮を上げ、相手の足を僅かに竦めた。
『これ以上、喰らわせるものか』
　なかなか倒れぬ敵に、憂女の脳裏に暴走の二文字が過ぎったが。
　この場は全力で攻撃するのみと判断した彼女は護身銃『捧』から凍結光線を発射し、敵の口内を貫いた。
　シャアアアアアアアッ！！
　痛みでのた打ち回る竜へ、セイヤが強く踏み込む。
「神速の刃……ッ、ここで……滅びろッ！！」
　彼は居合いで「叢雲」を一振りし、敵の頭を切り裂く。
　大きく顎を開いた状態のままその首は洞窟に転がり、胴体もまた重い音を立てて崩れ去ったのだった。

●次こそ破壊を……
　地底潜航竜を撃破し、メンバー達は改めて撤退へと転じた。
　憂女は傷つく瑞樹を庇う態勢で仲間と下がり、ニケが彼の分のグラディウスをしっかりと確保する。
　ともあれ、後続の竜が来ては危険だ。エリシエルも迅速なる離脱をとこの場を去って行く。
「斬り結ぶ　太刀の下こそ　地獄なれ　踏み込みゆかば　後は極楽、ってなぁ」
　再び長楊枝をくわえた梓が呟いたのは、一説には宮本武蔵の句とも言われる和歌。
　今回は道を切り開く事はできなかったが、踏み込み続けることで、いつかは……。梓はそんな一言をこの地に残して去っていく。
「諦める、ものか……！」
　一行の殿は、セイヤだ。
　この場に近づく複数の竜の足音を察しながらも、彼もまた悔しさを噛み締めてこの地底洞窟を後にして行くのだった。

作者：なちゅい	重傷：神城・瑞樹（廻る辰星・e01250）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年11月21日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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