病魔根絶計画~髪一本価千金

作者:柊透胡

 ――今朝も髪が1本、枕に落ちていた。

「うおぉぉぉぉっ!」
「ひっ!?」
「お前の! 血を寄越せェェッ!!」
 通勤途中、バスを待っていた会社員は突如、髪を鷲掴みにされて引き倒された。
「髪は血の余り、なんだってな。だったら! お前の! フサフサのお前の! 血を寄越せェェッ!!!」
 会社員に馬乗りになり、眼を血走らせ泡を飛ばして叫ぶのも、紺のスーツを着たサラリーマン。
「おい! 何やってんだ!」
「離せ! ハナセェェッ!」
 ロータリーで人目が多かったのが幸い、すぐさま取り押えられたサラリーマンは、尚も狂ったように暴れようとする。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
 今にも喰らいついてきそうな形相に怯えながらも、そのサラリーマンの髪を見た会社員は内心で首を傾げる。
(「そこまで、酷くないんじゃ……」)
 ――その騒動が、数日前。
 取り押えられた松内・康孝がすぐ警察から病院の隔離病棟へ収容されたのは、彼の病気が判明したからだ。
 病名は、「ハゲロフォビア」。
「うあぁぁぁぁっ!! 俺の髪が又1本抜けたぁぁぁぁっ!」
 悲痛な叫びが病室に響き渡る。髪1本を摘み上げ、康孝は怯えきった表情で閉ざされたドアを叩く。
「出せ! ここから出してくれェェッ! このままだとハゲになる! フサフサの奴の血を! そいつらの血さえ呑めば俺の髪は蘇るんだぁっ!」
「お父さん……髪の事だって自分で笑い話にしていたくらいなのに。どうして」
 荒々しくドアを叩く音と必死の声に、病室の外で涙を浮かべる娘の肩を、母親も何かを堪える表情で抱く。
「大丈夫、大丈夫だよ……病気が治れば、きっと元の優しいお父さんに戻るから」

「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 集まったケルベロス達を、静かに見回す都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「先日の憑魔病に続く、病魔根絶計画第2弾となるでしょうか。病院の医師やウィッチドクターの努力で、『ハゲロフォビア』という病気を根絶する準備が整いました」
 現在、この病気の患者達が大病院に集められ、病魔との戦闘準備が進められている。
「皆さんには、特に強い『重病患者の病魔』を倒して頂きます」
 今回で重病患者の病魔を1体残らず討伐出来れば、この病気は根絶される。もう、新たな患者の出現も無くなる。逆を言えば、1体でも敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまうだろう。
「デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急とは言い難い依頼です。しかし、この病気に苦しむ人をなくす為、是非、作戦を成功させて下さい」
 『ハゲロフォビア』は、体毛(特に髪の毛)が失われる事への恐怖を病的に煽り立てる病魔だ。取り憑かれると、自分の抜け毛に強烈な恐怖を覚え、フサフサに戻る為にフサフサの人の髪を毟って食べる、フサフサの人の生き血を頭に塗り込む等、猟奇的な妄想に縋って実行に移してしまうようになる。
「余談ですが……漢方に於いて、髪は『血余』と呼ぶそうですよ」
 尚、薄毛が心配になり始めた位だが、けしてハゲてはいない男性が、病魔の標的となるようだ。
「『ハゲロフォビア』は電球頭の足付き照る照る坊主、のような姿をしており、その電球頭からビームを放つ『ハゲビーム』、激しく頭を光らせて敵の眼を眩ませる『ハゲフラッシュ』で攻撃してきます」
 更に、ニョッキリ突き出した足で軽やかに「ハゲタップダンス」を踊り、自らを鼓舞するようだ。
「今回もハゲロフォビアへの『個別耐性』を得られると、戦闘を有利に運べるようです」
 個別耐性は、この病気の患者の看病をしたり、話し相手になってあげたり、慰問等で元気付ける事で、一時的に得られるようだ。個別耐性を得ると「この病魔から受けるダメージが減少する」ので、戦闘を有利に進める事が出来るだろう。
「皆さんが担当する患者さんは、松内・康孝(まつうち・やすたか)さん。年齢53歳。商社勤務のサラリーマンで、今も精力的に営業を外回りされていたそうです。ここ数年、髪のボリュームが減ってきている事を気にはされていましたが、自ら笑い話にしてしまう程、大らかな性格だったようですね。ご家庭は、奥さんと今年大学卒業予定の娘さんの3人家族です」
 温厚な人柄をも抜け毛の恐怖で変貌させてしまうハゲロフォビア。だが、ここで病魔を総て倒せば、病の根絶が可能となる。
「皆さんの手で、この病に苦しんでいる人を助けてあげて下さい」


参加者
奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)
明星・舞鈴(神装銃士ディオスガンナー・e33789)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)
越川・ハルト(道端のシティウルフ・e35468)
金剛・小唄(ごく普通の女子高生・e40197)
天野・しずく(スカイドロップ・e41132)
獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)
シュス・ウェラー(けぶる青色・e42307)

■リプレイ

●病魔根絶計画
 病魔根絶計画第2弾の病名は「ハゲロフォビア」。ネーミングから色々酷い。
「ハ……頭髪の悩み、というデリケートな問題にズカズカと乗り込む病魔かぁ」
 ビハインドの夜明けの口笛吹き(通称パイパー)に頭を叩かれ、言い直す獅童・晴人(灰髪痩躯の陰険野郎・e41163)。
「絶対に許しちゃおけないよねぇ、確実に倒そう」
「ハゲが嫌、ハゲが嫌っていうけどさー」
 そんな気遣いを、明星・舞鈴(神装銃士ディオスガンナー・e33789)が粉砕する。
「自分もこんな姿ですから、毛が抜けるのを怖がる気持ちは分かりますよ」
 越川・ハルト(道端のシティウルフ・e35468)は今回が初依頼。少し落ち着かなく、お気に入りのハンチング帽や施術黒衣の襟を直している。
「けれど、拘るばかりではいけませんね。患者さんの為、頑張りましょう」
「うん、まずは優しい気持ちでお話……こら、点心! あんたも看病頑張ってよー」
 明るく頷く金剛・小唄(ごく普通の女子高生・e40197)は、配膳用ワゴンを押す。中身は小唄お手製育毛料理だ。外見こそ厳ついが、料理の腕前はウイングキャットの食いしん坊ぶりで判るだろう。
「僕は……まだ大切な人との日常に戻れるなら、手助けしたいって思うんです」
 1人はとてもさみしいから――ファイルを抱えるシュス・ウェラー(けぶる青色・e42307)は、釣り目がちの瞳を伏せる。患者には心配する家族がいる。きっと、何とかしてみせる。
(「きっとだって? 冗談じゃない。『絶対に』治してあげるんだ」)
 やはり今回が初依頼の天野・しずく(スカイドロップ・e41132)の力の入った肩を、ポンと叩いたのは奏真・一十(寒雷堂堂・e03433)だ。
「聞いた時は笑い話かと思ったが……深刻な案件であるな」
 病院の廊下も散歩するような足取りは明朗だ。
「いつもの康孝さんに戻してあげよう。な、サキミ」
 呼ばれた水のボクスドラゴンはチラと主を見上げ、すぐにツンとそっぽ向く。
「え、過度に暴れられたら困るでしょう?」
「やり過ぎです。デウスエクスと渡り合えるケルベロスの方には無用でしょう」
 ちなみに、鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)が用意したゴム弾は、看護師長に丁重かつ断固として没収された。後で返却されるそうだ。
「お父さん……」
 果たして、病室のドアの前に心配そうな母娘が立ち尽くす。
「はじめまして、僕達はケルベロスだよ」
 晴人がのんびり挨拶すれば既に話は通っているのか、母娘は丁寧に頭を下げた。

●髪一本価千金
「出せ……俺を、出してくれ……」
 今朝も枕の抜け毛に恐慌を来して疲れ果てたか。床にへたり込む松内・康孝は、うわ言のように呟き続ける。
「あ……?」
 だが、まさかドアが開くとは思ってもみなかったのだろう。惚けたように見上げた面に怯えが走る。
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」
「私達はケルベロス。あなたの病気を治しに来たのよ」
 武装した若者+αに及び腰の康孝を宥める一十に続き、ズイと迫る小唄は迫力満点だが声は優しげだ。
「は、はあ……」
 一応に友好的な雰囲気のお陰か、勧められるままベッドに腰掛ける康孝。
 さて話をしよう、となって……そう言えば、段取りの類は一切打ち合わせていなかった。
「あ、あの……?」
 より心に響き易い話の順番もあったろうが、沈黙が続く方が拙い。
(「そんな気にする程じゃ……」)
 生え際を凝視するのも束の間、シュスが口火を切る。
「髪についての不安、と聞いていますが……まず頼るべきは現代の技術力、です。こちらをご覧ください」
 開いたのは最新家電のパンフレット。頭皮血行促進や細胞活性化など、レーザー育毛ブラシや育毛器、ドライヤーの効能について語り出す……最初は静かに。
「こちらの15ページに性能比較表があるんですが……僕はこのレーザー照射範囲の広い物が一推しです! こちらの海外ブランドも捨てがたくてですね」
 家電マニアの熱い薀蓄はノンストップ。ボンヤリの表情は今や碧眼も爛々と。
「越川さんは、どう思いますか?」
「ぼ、僕自身は……洗髪の仕方を気にしていて。愛用しているシャンプーがあるんです」
 突然話を振られて目を瞬くハルトだが、取り出したのはノンシリコンのアミノ酸系薬用シャンプー。
「髪の毛を濡らしてすぐシャンプーをしてしまうと、毛穴の汚れが取り切れません。じっくり頭にシャワーを当てて、頭皮をマッサージするように洗うだけでも、だいぶ薄毛を予防できますよ」
 ハゲ予防の洗髪を、解説する。
「なるほど。頭は石鹸で洗っていたなぁ」
「豪快だね。ご飯の方も気にしてなかったのかな」
 そのままバトンタッチ。小唄が並べるのは、女の子らしく可愛く飾ったお弁当だ。
「食べ物の方も改善しよう? 美味しくて発毛効果のある食事で、心も髪の毛もきっと良くなるね」
 メニューは納豆ごはん、牡蠣の卵焼き、ワカメと豆腐の味噌汁、そしてバナナ。髪に優しい成分が沢山含まれている。
「気持ちは判るけど……他人の髪を奪っても、自分のものにする事は出来ないんだよ」
「それは……」
 至極真っ当な意見に、言い淀む康孝。理性で判っていてもハゲへの恐怖から猟奇的な衝動に走るのが、ハゲロフォビアの恐い所。
「他に夜更かしとか、激オコも髪によくないんだよ。健康な生活で髪の毛もきっと元気に生えるね」
 バナナを渡し、小唄は康孝の肩をポンと叩く。
 脱毛の対処法が一段落した所で、心のケアに移る。
「知ってるかなぁ? ハ……毛髪は乏しかったけど、歴史に名を遺した偉大な人達の事」
 例えば、数多くの武勇伝がある古代ローマの武将、軍略でヨーロッパを席巻し皇帝にまで上り詰めたフランスの名将、戦国時代の日本を統一した『人たらし』――NGワードはパイパーに突っ込まれながら、晴人は髪が薄い偉人を挙げ、ハゲは悪い事でないと説く。
「大事なのは外見じゃない、どうやって生きて何をするかなんだ」
「前向きに考えてみよう。ハゲと言うから聞こえが悪いが、スキンヘッドなら立派な髪型であろう」
(「なあに、気に病むくらいなら無くしてしまえばよろしい。中途半端にあるより無い方がマシ!」)
 流石に本音はケアに相応しい物言いではなかろうと一十も自覚している。
「さっぱりとして清潔感もあり男らしい。悲観したものでもないと思わないか?」
 という訳で、取り繕い……言葉を選んで提案する。
「ほら、コイツ見てよ。髪ないけど別にカッコ悪くないし、性能もいいのよ? 私もよく使うしさ」
 横から携帯ゲーム機の画面を康孝に見せる舞鈴。格闘ゲームで愛用するスキンヘッドのキャラで、そのカッコよさと性能をアピールする。
「大事なのは髪があるかどうかじゃなくて、中身がどうなのかってことっしょ」
「優しいお父さんなら、尚更見た目なんて関係ない。家族に愛されるお父さんがいいよ」
 素直な子供目線で、自分のお父さんに呼び掛けるように励ますしずく。
「優しいお父さんなら禿げていても構わないよ。逆に怖いお父さんはフサフサでも絶対ヤダ!」
 大丈夫、大丈夫とさする小さな掌。その感触に、康孝は感慨深げに目を細める。
「松内さんには素敵なご家族がいます。奥さんも娘さんも、きっとどんなお父さんだって大好きですよ」
 すかさず、シュスが借りてきたスマートフォンの画像を見せる。
「香澄、春香……!」
 それは松内家の家族写真。家族の名前を呟く彼の目から光るものが零れ落ちた。
 患者の不安を聞くより助言と心のケアに重点を置いた接し方は、概ね好感触だろうか。
 最後に橘花はポソリと呟く。
「本当にどうしようもなければ、脱毛を抑える薬だってありますし」
 実際にその薬を投与する心算だったが、流石に医師が了承しなかった。
 男性型脱毛症(AGA)に効く薬は、副作用の可能性もある。ケルベロスといえど赤の他人が処方を求めるのは無理がある。
 個別耐性を得たければ、AGAや薬物療法の説明で十分だ。実際、橘花の説明自体は康孝も興味深く聞いている。
「あなたの苦しさは悪い病気の所為。だから、必ず治してみせます。僕達を信じてください」
 シュスの言葉に、康孝は大きく頷いた。

●対決! ハゲロフォビア!
 ストレッチャーに寝かされた康孝の傍らに立ち、ハルトが病魔召喚した次の瞬間。病室の窓際にぬうっと現れる電球頭の照る照る坊主。裸足がニョッキリ突き出している。
「康孝さんを早く外へ!」
 庇う体勢で病魔とストレッチャーの間に立つ一十。肩越しに紙兵を撒く間に、やはり割って入った小唄よりオウガ粒子が放たれる。同時に点心も清浄の翼を広げた。
「いざ戦おう、フラミンゴパワー全力だよ!」
 しずくもフラミンゴパワーが何かよく判らないが、やる気は大事。護るようにフラミンゴに似た薄紅の翼を広げ、康孝を乗せたストレッチャーを病室の外へ押し出す。
「そいじゃ、さくっとフルスコアでゲームクリアといきましょうか!」
 銃をくるくると手の中で回して病魔へと突きつけるや、舞鈴のサイコフォースが爆ぜる。
「ヒット♪ どうせならもっと刺激的な方が楽しいんだけど」
 ゲーム感覚で不敵を嘯く。続いて、病室の片隅よりバスタービームが奔る。
「支援行きます!」
 橘花のバックパックから伸びる6基の各サブアームに、バスターライフルが懸架されている。ジェネレーター経由でグラビティを供給しながら開戦に備えた甲斐あって、魔法光線は病魔を貫いた。
 ――――!!
 スナイパーの連撃に勢いづくも、先に病魔が動く。電球頭が輝くや、前衛3人+1体の視界を灼く。
「治癒の型参式『五月雨』、行きます!」
 すかさずハルトがメディカルレインを降らせるも、シュスのスカルブレイカーはラバーシートの床を抉った。
「くっ」
 『個別耐性』が効いているのだろう。ダメージはそれ程でもない。だが、病魔の初撃は、オウガ粒子の援け以上にシュスの命中精度を損なったのだ。
 メディックのキュアをして、厄が祓い切れぬならば。
「ジャマーであろうな」
 顔を顰める一十。ダメージは防具や個別耐性で凌げても、厄を重ねられては面倒だ。急ぎサキミの属性をシュスにインストールさせる。
「その猫は、うまく説明できない『何か』なんだ、けど……」
 晴人が召喚したシャム猫は、凝視の前に蹴り上げられて消えた。肩を並べるパイパーの金縛りは刹那病魔を拘束するが、使役修正故かすぐ振り払われる。
 病魔根絶計画は、比較的実戦経験の浅い者でも遂行出来る難易度という。それでも、8人掛かりで対峙する敵だ。
「うーん……」
 康孝を避難させて戻ってきたしずくは病魔の陣を見定めんとしたが、百戦百識陣は活性化していない。眼力が示すドラゴニックミラージュの命中率に、思わず唇を尖らせる。
 その実、他も大凡似たようなものだ。だが、足止めの技を準備した者は皆無。既に長期戦の気配が濃い。
 格上の敵を倒す戦術も様々だが、攻撃を引き受けるディフェンダーをメディックが支える間に、スナイパーの足止めを足掛りにジャマーが敵を弱体化、クラッシャーが圧殺する――役割分担、つまりポジションと技の選択が重要となる。
「治癒の型壱式『御手』、行きます!」
 敵も眼力を具える。命中率で実戦経験を量ったか。専らしずくを狙うハゲビームを時に一十と小唄が庇い、ハルトが気力をサキミが属性を注ぐ。
「弛まず頑張ろう」
 それでも、幸いだったのは――一十の縛霊撃が比較的得手であった事。使役修正を乗り越えて捕縛が叶えば、続くハルトの絶空斬が更に病魔を縛す。しずくのファミリアシュートや晴人のジグザグスラッシュも、当たればジャマーの厄は重い。
 舞鈴の銃と橘花の偽翼、スナイパー2人が重ねる武器封じやプレッシャーという長期戦向けの技が、寧ろ活かされる戦況となのも僥倖と言えよう。
 個別耐性にも援けられ、根気強く打撃を重ねるケルベロス達。
「女の子って何でできてるの? お砂糖とスパイス、そして素敵ななにもかも♪」
 時に小唄も、心に秘めた女子力を放出して肩を並べる仲間を癒す。
「何とかいけます!」
 髪も瞳も燃える翼も夜明けの群青ならば、更にルーンアックスに青き燐炎が燃える。シュスのブレイズクラッシュが病魔の白布に爆ぜた時――初めて、病魔の足が忙しなく動く。
「今よ!」
 存外に軽やかなハゲタップダンス、病魔が回復に回った好機に、舞鈴のウェスタンドライバーより電子音声が流れる。
 ――ディオス・フィニッシュ! カウント・レディ!
「いい加減、ハゲ電球の相手は飽きてきたし、さっさとクリアするわよ!」
 ――スリー、ツー、ワン、カウント・ゼロ!! クリティカルシューティング!!
 ドライバーから流れるエネルギーが舞鈴の銃身に収束するや、強力なエネルギー弾が迸る。
 橘花のフロストレーザーが病魔を凍らせ、続く打撃が更なる破壊を生む。小唄の獣撃拳が唸り、病魔の加護を消し飛ばす一十のハウリングフィスト。晴人の惨殺ナイフ「エスクワイア」の刀身が映す病魔のトラウマとは、如何なるものか。
「斬鉄の型零式『斬雷』、断ち斬ります!」
 その剣速は雷を斬るが如く。深く半身に構えたハルトより、神速の居合抜きが奔る。
 ――――!!
 しずくの竜の幻影に焼かれながらも、この期に及んでハゲフラッシュが前衛を舐める。だが、ケルベロスの勢いは止まらない。
(「やっぱり、戦いは苦手かねぇ」)
 内心で苦笑する晴人のジグザグスラッシュが閃くと同時、パイパーが病魔の背後より一切の躊躇なく至近距離から拳銃を撃つ。
「良薬は苦いものである。ゆえ、堪えてくれ!」
 一十の特効薬が霧のように広がり視界を晴らすや、シュスのスカルブレイカーが今度こそ電球頭にヒビを入れる。
「抜け毛なんて、全然怖くない! 寧ろムダ毛の処理をお願いしたいわ……」
 乙女の切実を呟きながら、小唄のセイクリッドダークネスが病魔を強かに叩き伏せた。

「この程度で苦戦するなんて!」
 さくっとフルスコアとは言い難い戦いに、憤懣やる方無しの舞鈴はさておき。病魔は倒され、病室は静かになった。
「ありがたい……」
 疲れた体に万手輪。薬を一服、ほおっと溜息を吐く晴人。
 橘花は早々に病院を去ったが、他のケルベロス達は患者の様子を見に行く。
「病魔は倒しました、もう大丈夫ですよ。気分は悪くないですか?」
「本当にありがとうございました……2人共、すまなかったな」
 ハルトに感謝を述べ、文字通り憑き物が落ちて正気に戻った康孝は家族と涙ながらに抱き合う。
「よかったよかった……安心すると眠気が……」
 にっこりの次に欠伸したしずくはとても眠そうだ。
 悩んでしまうのは仕方の無いこと。薄毛とも上手く付き合えるよう、一十は願っている。
「一件落着、よね?」
「お疲れ様でした」
 素直に嬉しそうな小唄と対照的に、表情に乏しいシュスもホッとしたようだった。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月28日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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