●聖夜のための蜜蝋飾り
「京都府四条の商店街がデウスエクスによって一部を破壊されてしまいましたわ。幸い、負傷者を出すことはありませんでしたが、商店街中は酷い有り様ですわよ。大至急ケルベロスの力を借りたいとご相談が寄せられた次第です」
オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)が言うには、クリスマス商戦の準備も急いで行わなければならないと、商店街の住民達も困り果てているそうな。
「商店街は雑貨屋さんが多いのですが、あるキャンドル教室からご提案がありましたわ。修復協力のお礼も兼ねて『クリスマスキャンドル作り』を企画しているそうでしてよ。日本ではリースやツリーが一般的ですが、ろうそくの灯りも特別な雰囲気を感じさせて趣がありますわよ」
オリヴィアの女子力センサーもギュンギュン来ているらしく、心なしか尻尾がゆらゆら動いていた。
ご機嫌なオリヴィアは饒舌に話を続ける。
「クリスマスキャンドルの灯火は『世界を照らす光であり、偉大なる聖人の象徴』とも言われていますわ。蜜蝋のキャンドルをアクリル絵の具やマスキングテープで装飾したり、キャンドルホルダーにクリスマスリボンを着けたり、アレンジも簡単ですので不器用な方でも挑戦しやすいかと」
自分用、旅団用、プレゼント用、なんならこの商店街に寄付してもいい――さらには、
「意中の相手に特別な贈り物。そして恋のアタックチャンス……ラブの予感を感じてしまいますわねぇ、うふふふふ……」
オリヴィアはポッと頬を染めだす始末。
恋愛感情は快楽エネルギーの源、そういう話題には敏感なのだろう……それはそれとして、オリヴィアも表情を正す。
「クリスマスに向けて準備をするなら今のうちですわ、特別な夜を演出するならクリスマスキャンドルはうってつけです。興味のある方は是非ご協力くださいませ」
と言って、件のキャンドル教室のチラシを配り始めるのだった。
●聖なる火のもと
「修復、お疲れ様でした。さっそく参りましょうか」
修復作業を終えたケルベロス達をオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)が呼び寄せ、年末商戦準備で賑わう商店街を通りながらキャンドル教室へ。
「お疲れ様でした~! 修復ほんっと助かりましたぁ」
おっとりした女店主に招き入れられると、店内の北欧風の素朴な内装と共にろうそくや燭台が並んでいた。
どうやらここも、これからクリスマスの準備を行うらしい。
まずはクリスマスキャンドルの要、キャンドル選びから。
定番のクリスマスカラーや黄色にピンク、色だけでなく形もさまざまな物が揃っている。
龍・紅花とリオルト・フェオニールは頭をつき合わせて唸り声をもらす。
「色と形が違うだけでも種類が豊富じゃのう」
「そうだね。星とか花と、か……ぁ」
リオルトが視線を向けると間近に紅花の横顔。上昇する体温を自覚しながらサッと視線を戻す――そんな気配に、紅花が心中で溜め息を漏らしたとは知らず。
やはり人気が高いのは定番の白と赤のキャンドルだ。
「オーソドックスですが、ここは赤いキャンドルにしますわ。克己はどれになさいますの?」
「俺も赤にしようと思ってた。太いほうが細工しやすそうだな」
カトレア・ベルローズと武田・克己もどれにするかと手にとっている隣で、桜庭・萌花と近衛・如月が賑やかしく相談中。
「キャンドルは赤にしてー、スタンドはめっちゃデコりたいな! 如月ちゃんはどれにするの?」
「ふふ。緑のキャンドルをペイントしようかなって」
「いいね♪ 絶対可愛いって!」
真逆に落ち着いた様子のグレッグ・ロックハートは視線を巡らせ、友人のノル・キサラギが覗きこむ。
「グレッグ、どれにする?」
「……これにしようかと」
手にしたのは深い青のキャンドル。夜を彷彿とさせるその色にグレッグは瞼を細めた。
やいのやいの、ケルベロス達はキャンドルを選ぶと席に着き始める。
フィスト・フィズムとやってきた野々口・晩はキューブ状のキャンドルに目を輝かせていた。
(「実家だとツリーも出してくれたなぁ……今年は寂しくなるかな、って思いましたが」)
「この時期といえば、もうユールの祝祭も始まってるな」
晩の視線を受けるより先にフィストが懐かしげに呟く。
先を促すように見上げる黒獅子の少年に、竜人の女性は慈しみを込めた眼差しを返す。
「私の故郷たるスウェーデンでは12月の間クリスマスを祝うんだ」
「スウェーデン……えと、僕の故郷と同じ雪国ですね、ずっとお祝いするんですか?」
「13日に聖人ルチアを祭る特別な祝祭、24日のイヴには贈り物をしあうんだ……今年は、日本でやることになるな」
『聖人』という存在は日本では縁遠い。異国情緒あふれる話に感心する横顔をチラと見て、フィストはスタンドに向けた絵筆を再び動かす。
鈍い金地のゴブレットに走る白線から形作られ、一瞥した晩はぎょっと目を見開く。
(「ふぃ、フィストさん絵上手!?」)
スラスラと慣れた様子で描きあげる姿に驚きながら、自分も精一杯作ろうと気合を入れる。
【月と黄昏】の面々もキャンドル選びを終えて席を囲む。
初めて三人で出かけるとあって緊張半分、楽しい半分で盛り上がっていた。
「三人とも同じ色なんてビックリだね!」
朝霞・結は十九夜・鋭利とベラドンナ・ヤズトロモの選んだ白いキャンドルを見て顔を綻ばせる。
「ふふ、白は色づけしやすいので」
(「せっかくだしお揃いぽくしたかったんだよね……」)
鋭利が答える傍ら、ベラドンナもニッコリ笑顔。『初☆おでかけ記念』として思い出のひとつとなるだろう。
早速、彩色し始めると蒼、黄、ライムグリーンとそれぞれの個性が出始め、鋭利は「それって」と配色の傾向に気づく。
「キラニラックスさんと、ハコさんカラーですね」
「うん! 金のラメパウダーもつけたらキラキラの鱗っぽくなるかなって」
ベラドンナの言葉に相棒のキラニラックスは興味深そうに見つめている。
唯も愛竜ハコに見立てて、グラデーションカラーにしようと下部から少しずつ塗り足していく。
「ふふ、けっこういい感じになってきたかも……鋭利さんのキャンドルも綺麗だね!」
「赤や緑のイメージが強いのですが、黄色もイルミネーションのようでいいなと――」
じーっと見つめるハコに気づいて鋭利はピンと閃いた。
「……ハコさんにお揃いのリボンつけてあげますか?」
「わぁ!それ素敵!」
「それ、私も……や、やめときます」
目を輝かせる結の隣でベラドンナは残念そうに足元を見ると、足を踏む相棒の姿が。
無言の抗議にしょんぼりしつつもキャンドル制作は続いていく。
大所帯となった【唄う大窯】もバタバタしながらキャンドル作りを始めていた。
(「聖夜に灯す特別なキャンドルを、自分達で作るなんて素敵」)
「私は、クリスマスツリーみたいなキャンドルにしようかな、って思うんだけど、皆はどんなキャンドルを作るの?」
発起人であるクローネ・ラヴクラフトの声に視線が集まる。
真っ先に答えたのはシル・ウィンディア、目的が決まっているとあって楽しそうな様子だ。
「わたしは赤いキャンドルをちょこっとデコレーションするよ、イメージキャンドルってところかな?」
円柱状のキャンドルと小さなリースを片手ずつに持ち、ぱちっとウィンク。
コンスタンツァ・キルシェも正方形の赤白ボーダー柄キャンドルを手に眩しい笑顔を見せる。
「カレシとの聖夜をロマンチックに彩る、世界に一本のとっておきを作ろうと思ってるっす! アタシもカレシもアメリカ出身だから星条旗柄とかいいっすかね」
「国旗柄でござるか、それも趣が感じられるでござるよ」
黒一点の岩櫃・風太郎は何度も頷きながら顎を撫でる。
そういった縁が今はない風太郎は『商店街への寄付』と決めていた。
「拙者も店を盛り立てたい気持ちが解る故、此度は貢献させて頂く所存にござる」
「私は……こーゆーの作るのって初めてだから、色々迷っちゃうわね」
クローネや風太郎のようにクリスマスに合うキャンドルも、シルやコンスタンツァのように誰かと燈すイメージも素敵……七星・さくらはろうそくを手に眉を下げる。
「助力が必要とあらば、なんなりとお申し付けくだされ」
ドンと胸を叩く風太郎に励まされながらクローネ達はそれぞれ作業を始める――が。
「風太郎さん、ごめん、留めるの手伝ってもらっていいー?」
「んーなかなかむずかしっすね、うまく星が描けねっす……!」
「アレンジ素材がいっぱい……風太郎は、どれが合うと思う?」
「ややっ! 助太刀に参りまするぞっ」
筆をもつ風太郎はピュゥと飛び出し手助けに向かう。
さくらも悪戦苦闘しながら「あっ」と声を漏らす。
「皆はクリスマスの予定って決まってるのかな?」
思いだしたように質問するさくらに、クローネは目を思いっきり開いた。
「ぼ、ぼくの予定は……内緒」
心に思い描くのは大切な人だけど、いざ言葉にするのはまだ恥ずかしい。
耳まで赤くするクローネとは対照的に、シルは嬉しそうに頬を緩める。
「今年は、二人でゆっくりお部屋で過ごす予定だよ。一緒に灯してお喋りとかケーキ食べたりするのっ♪」
「あたしも決まってるっす! でもでも、家族でも友人でも恋人でも、大好きな人と過ごせるならリア充っすよ!」
「うんうん、大好きな人と過ごす時間を思って作る時間も特別よね――って」
楽しいクリスマスには違いないとコンスタンツァが太鼓判を押す間に、気づけば大幅に遅れている。
「わーん、わたしも手伝ってーっ!?」
「おっと、さくら殿、しばしお待ちを! ……ああ、分身したいくらいでござる!」
残念ながら分身してもBS多忙は対処できず。風太郎は悲鳴をあげながら恋する乙女達のサポートに回り続けるのだった――。
「やっぱりデコデコするの楽しいなぁ♪」
萌花はピンセットでラインストーンを丁寧に貼り付けていく。白と水色で雪や氷を表現しつつ、正面には雪の結晶をあしらったチュールリボンのリース。
「如月ちゃんはどんな感じー……――」
声をかけるのをやめたのは如月が集中しきっていたから。
ツリー型のキャンドルも幹やイルミネーションを再現し、今はゴブレット型のスタンドになにかを描いている。
(「丁寧に、丁寧に……」)
自身と萌花に似せたちびキャラ、可愛く描けるようにと筆先に意識が向いている。
(「おー、さすが如月ちゃん……絵も上手い!」)
「――できたー!」
やっと終わったと歓声をあげるや、萌花の顔が至近距離にあり。ぼふっと顔を真っ赤にさせて如月は後ずさる。
「ひゃわぁ!? もなちゃん顔近い、近いのよ!?」
「ごめんごめん、めっちゃ集中してたね? もなも早く完成させちゃうぞっ☆」
軽く謝罪しながら萌花も最後の仕上げにかかる。
「~~……♪」
「楽しそうだな」
鼻歌を口ずさみながらリボンを結ぶノルに、グレッグが声をかける。
茶色、緑、金の柔らかなリボンに空色のラメ入り封蝋風シール。キャンドルにも金と銀のテープで豪華に飾りつけている。
彼らしいと思っていたグレッグに、ノルの返答は予想外のものだった。
「完成したらグレッグにあげようと思って!」
「俺に?」
『何故?』という疑問に思うと同時に、贈られることに嬉しくも思う。
グレッグの作るキャンドルは星や雪模様のテープで雪の降る夜を想起させるが、スタンドは装飾を考えていなかった。
「……好きな色はあるか?」
「好きな色?……いまは、空色がすごく好き!」
『だからスタンドにも使ってみた』とリボンだらけの燭台を見せてくる。
結び目もバランスも少し崩れているが、そんな事は重要ではない――ノルが自分の為に作っていることが大切なのだ。
「そうか」
短い返事を返し、グレッグは空色の細いリボンに手を伸ばす。
(「これで少しはサマになったろうか?」)
人に物を贈るというのは些か緊張すると、グレッグは小さく息を吐く。
●For You
「ふむ……武芸は心得ておるが、工芸もラクなものではないのう」
とは言いつつも楽しげな紅花はキャンドルにシールを貼り付ける。燭台にも赤いリボンを添えて可愛らしく。
紅花の様子を見て、リオルトは安堵して口を開いた。
「誘いに乗ってくれてありがとう」
「なんじゃ、藪から棒に」
「……僕、紅花を好きになってから振り向かせようと焦ってたけど」
根性なしで頼りない、そんな自分が彼女と釣り合う訳ない――今すぐには。
「こうやってゆっくり、時間を重ねるのも幸せかなって思って」
それだけ伝えたかったと、自信に満ちた笑顔でリオルトは燭台に花を添えていく……その横顔に紅花はわざと大きく溜息をついた。
「おぬしは、まだまだ未熟で、見ていて危なっかしい所も多いからのう」
ようやっと自覚したかと、紅花は窘めるように言うが「まぁ」と言葉を区切ると、
「……その、なんじゃ……わ、わしのような者を好く変わり者じゃが、ち、近頃は少しずつ男らしくなってきとるのは良い事じゃぞ……」
今日は特別、鼻を鳴らして照れくさそうに視線を逸らす。
(「こやつの隣にいる未来というのも中々に悪くないのかもしれんの……」)
「……できた」
リオルトの手元には二頭の狼がつがいのようにキャンドルを囲い、赤のカトレアが添えられている。これが今日の、愛しい貴方へ贈る物。
キャンドル作り開始から1時間を過ぎると、完成した者がチラホラ現れた。
カトレアも赤い蜜蝋の色合いを生かし、白い絵の具で縁取った赤薔薇を咲かせる。
シンプルながら華やかさを損なわぬ出来栄えに、満足そうに笑みを浮かべた。
「この深い赤、薔薇のようだと思いましたが想像通りでしたわ……克己はどうですの?」
「え、あ、えーと」
克己は力んでいたのか、花弁は少しブレていたが『薔薇を描いた』と解るくらいに形は出来ている。神妙な表情を浮かべる克己の作品に、カトレアは上品な微笑をみせる。
「ふふ、今日もお揃いになりましたわね」
「…………あのさ、」
ひとつ深呼吸して、克己はカトレアに向き直る。
「カトレア……好きだ。付き合ってくれ」
赤い蜜蝋を収めたゴブレットは『薔薇の花束』、花言葉は誰よりも知っている。
カトレアは差し出された意味を理解すると、白い頬を紅潮させていく。
「え、えと。急に言われてちょっと戸惑いましたけど、お気持ちは嬉しいですわ……」
騒がしい心音を落ち着けるように、カトレアも胸に手を置き一呼吸――差し出された『赤薔薇』に手を伸ばす。
「――ええ、私で良ければ、お付き合いしたいと思います」
克己に相応しい恋人になるよう頑張る、カトレアもまた自身の『赤薔薇』を差し出す。緊張していた克己の表情もようやく脱力して、気恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「これからよろしくな」
その言葉に幾千の慶びを込めて。
「――出来たっす、世界にひとつのスタンキャンドル完成っすよ!」
「拙者も完成と相成ったでござる……斜め掛けのストライプによる螺旋風キャンドル、拙者らしい逸品でござるな」
「ぼくも、お家に帰って素焼きの壺に入れたら完成、かな」
コンスタンツァも風太郎も全工程を終えて、クローネも帰ってからキャンドルスタンドに見合うものに設置しようと紙の小箱に完成品をしまう。
「え?皆もうできたの?」
「さくらさん、もうちょっとだからがんばっ!」
涙目のさくらをシル達も声援を送り、風太郎に手伝ってもらった赤と白の薔薇で彩ったスタンドにクリスマスカラーのキャンドルを――、
「で、できたぁ……!」
なんとか完成にこぎつけたとさくらは満面の笑み。
「ふふ、聖夜に火を燈すのが楽しみだね」
「クリスマスの楽しみがまた一つ増えたっす!」
この聖なる火は、心に想い描くあの人と共に。
「『世界にふたりだけ』の時間を燈すキャンドル……ふふ、ロマンチックね」
「わたしもドキドキしてきちゃった!」
乙女達の語らいに男は無用……風太郎は忍びらしく、こっそりひっそり包装中。
「そういえば、クリスマス当日って二人はどんな風に過ごすか決めてるの?」
ハコに新たなリボンを付け変えながら、結はベラドンナと鋭利の予定を尋ねた。
仕上げに赤リボンと金のベルをスタンドに付けるベラドンナは、当日の様子をふわふわとイメージする。
「んー、お店で常連さんたちとケーキを食べたり、かなぁ」
「私も家の手伝いと通院が……まあ、いつも通りです」
金のリボンをスタンドに結びつけ、鋭利のマイキャンドルも完成。鋭利は大事そうに両手で持つと眼前まで持ち上げ小さく笑う。
「でも、このキャンドルがあれば、『いつも通り』も少し特別になりそうな気がします……結さんは?」
「私? 私も普段通り、かな……でも、鋭利さんが言うみたいに今年は少し特別になりそう!」
ハコをイメージした結のキャンドルは、クリスマスカラーのリボンと雪のシールで装飾した彼女だけの作品。
このキャンドルがあることも、いつもと少し違うクリスマスには違いない。
「ふたりとも、クリスマスにもどこか遊びに行こうよ! まだ楽しいイベント、たくさんありそうだもん」
締めくくるにはまだ早い。ベラドンナの言葉に結と鋭利も笑顔を返す――また一緒に、どこかへ。
「ありがとう、グレッグ! 宝物にするね」
グレッグのキャンドルを受け取り破顔するノルに、グレッグは「大袈裟だ」と呟いて少し視線を逸らした。
気恥ずかしさを覚えていると悟られるのも面映いというもの。
ノルは掌に載せた雪降る夜のキャンドルを、美しいものを見る目でみつめる。
「夜になったら燈したいな、ふたつ並べてさ」
「……本当になにかと大袈裟な奴だな」
グレッグが肩を竦めても、顔をあげたノルは楽しげな笑みを浮かべていた。
「クリスマスキャンドルの火は世界を照らす火なんだって」
だからグレッグも、この火みたいな――暖かくて優しい炎だと。
友人は屈託のない言葉で告げる。自分のような者とは全く無縁な単語に、グレッグはまた溜め息を吐いた。
(「暖かいとか、優しいとか、あんたのほうが相応しいんじゃないかと思うが……」)
そう悪い気はしない。何故そう思ったのか解らないけれど、不快ではなかった。
「クリスマスの頃、一緒に灯そうね」
「……ああ。クリスマスに、な」
包装中の晩を見守るフィストは少し眉を垂れて作業を見つめる。
「無理するなよ?」
「はい……フィストさんは、そのキャンドルどうするんですか?」
「商店街に寄贈する、『世界を照らす光』ならば市民の心を照らす一助になるだろう」
誰かのための光。それがフィストの作った燈火の意味。
「そう、ですか……僕、頑張って作りました」
青から白になるグラデーションのキューブキャンドル。雪の純白さに飾りっ気はない。晩は丁寧に包装したそれをフィストに差し出す。
「受け取ってくれますか?」
不安げに見つめる晩を、少し驚いた様子のフィストは瞼を細めて――硝子細工を受け取るように両手で包む。
「野々口、メリー・ユール」
彼女の国の祝い言葉に、晩ははにかんだような笑顔を返す。
「メリー・ユール、ですね!」
クリスマスまで2週間を切った。
寒さに堪える日々はもう少し続くが、真冬の一大イベントはほんのり暖かい火が照らすだろう。
それが『誰かの未来を示す、ささやかな灯り』となるように。
作者:木乃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月12日
難度:易しい
参加:18人
結果:成功!
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