ソシャゲのガチャで大当たり引いた奴ぶっ殺す！

■リプレイ

●
　ケルベロス達は現場の廃寺に到着した。
「ソシャゲで大当たり引いた奴ぶっ殺す！」
　途端に本堂の方から山門までビルシャナのバカ声が響き渡った。
　その後は信者10名とともにガチャ運のいい人間達への嫉妬と怨念の咆哮が延々延々……。
　ケルベロス達は顔を見合わせた。
「何とも直球な感じだよね。気持ちも少しは理解できてしまうのが怖いところかな。ボクも今月は全然ダメだったからね」
　アストラ・デュアプリズム（グッドナイト・e05909）は、結構冷静な事を言う。
「レア引いたと言ってる連中だって、存外水面下では結構な爆死してるモンだろうに」
　嘉神・陽治（武闘派ドクター・e06574）も、冷静と言えば冷静だった。
「ガチャは酒と同じだ。引いても（人に）引かれるな……！『課金額的に』」
　一方、八代・社（ヴァンガード・e00037）は、決意と熱意をこめた口ぶりである。
「大当たりを引いた奴なんか、鉄槌を下してやる！　爆死しろ！」
　その間もビルシャナ達は醜い事を喚いている。
　そういう訳なので、ケルベロス達は、眞月・戒李（ストレイダンス・e00383）、難駄芭・ナナコ（爛熟バナナマイスター・e02032）、黒斑・物九郎（ナインライヴス・e04856）、ピア・ウッチェッロ（盲目の眠り姫・e17013）、野和泉・不律（ノイズキャンセラー・e17493）も一緒に、全員で本堂の方へと向かった。
「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい……何、当たり引いてるんだよオメーは。当たりを引くだけでもぶっ飛ばしたくなるのに、大当たりとか引いてる場合なのか、ついでに脳卒中当たってしまえー！！」
　本堂ではビルシャナが延々とガチャで大当たりした人間の悪口を言い続け、信者達が泣きながらそれに拍手喝采を叫んでいる。
　既にカオス状態。
　そこで意を決してアストラが本堂の錆びた引き戸を開けた。

　ぎぎぎぃ～い……。

　物音に驚いて振り返るビルシャナ達。
　構わず踏み込むアストラと他のケルベロス達。
「だ、誰だっ！」
　狼狽えて声を上げる信者達。
「ボク達はケルベロスだよ。あなたたちを説得しに来たんだ」
　アストラは開口一番そう言った。
「ケルベロス？　邪魔をするなら帰れ！」
　ビルシャナは怒るがアストラはまず信者達に向かう。
「こういうのって諦めが悪い人ほど深みにはまっていくんだよね。でも引けたら引けたら引けたらで、また引きたくなるから抜け道がないよね。なら一度は諦めてまたピックアップされた時にでも再挑戦すればいいんじゃないかな。本当に欲しいのなら時間が経っても気持ちも覚めることはないだろうしね。大抵は時間が経てば価値も下がるのだし」
「価値下がった後のキャラを引きたい訳あるかー！！」
　信者達が一斉に絶叫した。
「あのなあ、こういうのはそのときの熱気で引くのが面白いんだよ！　流行の靴をそのとき履くみたいな！　欲しいのは本当だが、その時期、タイミングっていうのもあるんだ！！　分かってない全然分かってない！！」
　ビルシャナもツッコミまくり。
　アストラ絶句。
　その場内の熱に包まれながら社が一歩前に出る。
「それでお前らはいくらぶちこんだんだよ」
　スマホを携えたまま信者達一人一人に課金の額を聞いて回る社であった。
　信者達の金額を聞いて不敵に笑う。
「六桁、課金額的にはそこそこだな。でもな、六桁つっても十万から九十九万まであるな？　お前らはいくら引いたんだ？　ん？」
　社の迫力に押されつつ、信者達はボソボソと家賃ぐらいだと答えた。
「課金は家賃までOKだぞ、今から港区（※2LDKの家賃相場が三十二万円弱）に越すか？　引きの悪さなんてな……下を見りゃ幾らでも下がいるってことを教えてやる！　これは前回のイベントの！　これは前々回のイベントの！　これはその前のピックアップの！！」
　スマホで無数の爆死画像をこれでもかと信者達の前に見せ付ける社。
「お前らの傷程度はまだまだ軽い……今のうちに引き返すのだ……」
　彼は笑いながらも本気の目で信者達にそう促した。
　するとビルシャナが羽毛の手でちょんちょんとスマホを操作した。
　そして社に見せ付けるそのスマホの画面には－－負けず劣らずの爆死画像が！
「あーそうともさ！　金さえあるなら今すぐ港区にでもタワーマンションにでも引っ越して、家賃分だけ引いてやるともさー！」
　張り合うべきじゃないところで大人げなく張り合うビルシャナ。睨み合う二人。
　すると戒李が出て来た。
「人を妬むなんて良くないと思うな。それに、SSレアが引けないなら出るまで引けばいいんだよ」
　ちょっと聞いた感じではまともな事を言う戒李。
　しかし。
「6桁なんてはした金。よく言うじゃないか、課金は年収までって。それでも足りなければ次の年の年収も前借りだよ。実質ガチャとプレイ用の指と、画面を見る目と、大当たりを喜ぶ脳があれば他のパーツを売ってもいいよね。それで手に入れたお金をつぎ込めばお目当てのキャラは出てくるよ。ガチャ運が悪いと思うならそれくらいは当然だよね」
　これには信者達のあらかたが青くなってどん引き。
　そこまでやりこむ度胸は流石にないらしい。
　しかしビルシャナはひかない。
「何それ人間やめろって事！？　人間やめたがプレイはやめず、現在デウスエクスです！！」
　そう叫んで思い切り胸を張るビルシャナであった。
「……そういう意味で言ってるんじゃない」
　社と戒李が同時に突っ込む。
「丁度此処に信者が10人居るな。それぞれ同時に10連を回す。結果は100回分だ」
　スマホでガチャの場面を持って来て不律が語り出した。
「SSRが1%だとして、1つは当たるかもしれない。そうしたらその1人は此処から排斥されるのだな？　そうしたら9人だ。この9人がまた同時に10連を回す。そうしたらSSRが当たらないかも知れないし、2つ当たるかも知れない。そうしてまた排斥される。これではジリ貧になる一方だぞ。信仰とは自由であるべきだが、信じるからには輝かしい未来を勝ち取るべきだ！」
　算数に弱いのか、ビルシャナは訳わからんという顔をしている。
「さて、私の信仰しているのは出るまで引く教。なんと驚けそのSSR獲得率は100%だ！　出ないかもしれないだって？　何を弱気なことを言っている！　ガチャを引くのに出ないと思って引くのか？　ならばそもそも引かなければ良い。SSRを当てるんじゃぁない。SSRが当たったんだ。当たったと言う結果を作ってから、その因果を手繰り寄せるんだ！　決まった道を辿るだけだ、簡単だろう？　さぁ、征くぞ！」
　恐ろしく強気な事を言いながら不律はガチャを引く。

　タラララッターン！

「予行練習はこんなところだな」
　予想以上に酷い引きに対して不律がそう言った。しかしまだまだやる気で課金を行おうとする。
「もう良いこれ以上自分の傷を抉ることは無ぇって！」
　思わず止めに入っちゃう陽治。
　しかし信者達は不律の恐るべき廃人行動にまたしてもどん引き。
「経済力の弾丸に物を言わせてるんじゃねー！」
　ビルシャナだけが嫉妬している。
「諦めも肝心ということを知るいい機会じゃないかな。上には上がいるとは言うけれどあまり目指さない方がいいかな」
　アストラは冷静だった。
　どん引きしている信者達の前にナナコが立った。
「そこでガチャ1回300円を高級バナナ１つ（めっちゃうまいの一房くらい）とすると……なんと諭吉1人だけでもめっちゃ高級バナナが食えるゾ！！！　実感する為に爆死したという6桁分の高級バナナの山を用意して持ってきて見せつけてやる！　どうだ！　こんなにも大量なんだゾ！　何も残らないものよりやはり腹に残るもの方がいい！お腹いっぱい食べれば皆ハッピー！　さぁ今回はアタイの奢りだァ！　皆、バナナを食べるんだ！！！」
　トラックで持参してきたダンボールに詰め放題のバナナをどんどん信者達に配りまくるナナコ。自分ももぐもぐバナナを食べながらバナナ賛歌を歌いまくる。
　するとビルシャナは率先してバナナをがっついた。
「うーんうまい。一週間分の飯だ」
　この言葉にはケルベロスの方がどん引き。やはり家賃払えず家を追い出された線が濃厚。
「バナナうまい。ガチャ引こう。バナナはうまい。だからガチャ引こう。そして年収高い奴はシネ」
　そんなことをさっぱりした表情で言いながらバナナもっしゃもっしゃ喰うビルシャナであった。平然としているだけに言い知れぬ迫力があり信者またどん引き。
「ＳＳレアや☆５なんて中々当たらない。だけど、いいじゃないですか」
　話の通じない怖さを感じ、新しい切り口を探してピアがそう言った。
　ブランケット被ってかなり挙動不審。
「コツコツ育てれば愛情もわきますし、今時のゲームはレアキャラ並に強く育てることも可能だったりしますし、レア度だけが全てじゃないのです」
　しかし、オタクなのでピアは頑張って喋った。
「とはいえやっぱりレアキャラほしい、爆死つらい。グロ画像みたくない。わかります。すっごくわかります。ピックアップ仕事しろくださいっておもうおもう。けれどわたくしめはやっぱりゲームがすきなので、ゲーム開発陣への投資だとおもって、泣きながら課金するのであります……」
　本当に涙目になりながらピアはそう語った。
「そ、そうか……」
　どん引きしていた信者達には何かが通じたらしい。
「バカモノ！　甘えた事を言っているなー！　男ならSSレア！　推しキャラに一筋！　惚れた相手に一筋だろぉおお！！」
　ビルシャナだけが吼えている。
「悩める者達よ……ガチャ運無いのにSSR追っ掛けたってロクなコトはありゃしません……入るのだ……『低レアの戦略的運用こそ至高』教に入るのだ！」
　そこで物九郎が心が折れかけている信者達にそう叫んだ。
「誰もがチヤホヤするレアなんざ所詮高HP＆高火力ぶっぱしてるだけの脳筋ですでよ！　おたくら、今手元に集ってる低レア達を見てみなさいや。そーゆー輩は大体高レアにゃ無い変わったスキルを持ってるモンなんスよ。さ、戦術構築しましょうわ。そのゲームの真の面白味を知るのはおたくらこそっスよ！」
　拳振り上げ熱弁する物九郎の方に何人かの信者がふらふら近づいて行く。
　しかしビルシャナがツッコミのように羽を振り回したので立ち止まった。
「見ろ、（ガチャ）地獄を見て来た歴戦の戦士（廃人）達の面構え。お前達とは格が違うんだ。引き際の見極めが出来なきゃ、あっという間に深淵（支払い）に呑みこまれるぜ。悪い事は言わん、今なら間に合う引き返しな」
　そこで陽治が信者達にトドメの一言を行った。
「それにレアが来なかったと嘆くがな、低レアだって工夫次第で幾らでも強くなるモンさ。格付けってのはな、自分自身が決めるんだよ。愛情注げばそいつがお前さんにとってとっておきのＳＳレアさ。他人のガチャ運を妬むなら、公式が設定したランクなんざひっくり返してそいつら見返しな」
　陽治が淡々としながらも想いのこもった口調でそう言うと、信者達は今度こそケルベロス側の方へ歩み寄ってきた。
「優秀なサラブレッドよりも努力で平凡キャラが強くなるのが醍醐味。血統と才能ありきの織田信長より平民からのし上がった豊臣秀吉……そういう世界もまた燃える！　運がないなら切り開けばいいじゃない！」
　信者達は口々にそう叫ぶと、一斉にスマホ取り出して低レアキャラに色々喰わせました。
「うおおお、考えた事なかったけれど、面白い！　燃えるー！」
「ま、ま、待てお前ら！　SSレアをゲットしてこそのゲームだろ！！　ガチャの脳汁出るあの瞬間を思い出せ！　万人が持つ事の出来ないレアキャラを手に入れた瞬間のあの至福感！　そのために生活を犠牲にしてきたんだろーがー！！」
　しかし元信者達はビルシャナ無視して低レアを可愛がっている。
「話を聞けー！！」
　ビルシャナがビルシャナ閃光をぶっ放して戦闘開始となった。

●
「アタイのバナナを喰らってまだ抵抗するとは、良かろう！」
　ナナコがビルシャナに指天殺を行う。
　社が居合い斬りで斬りかかる。
　戒李が気咬弾。
「『ソシャゲのガチャで大当たり引いた奴ぶっ殺す明王ぶっ殺すケルベロス』イェーイ！」
　物九郎が降魔真拳でタコ殴り。
　不律の月光斬が弧を描く。
　アストラはバラージストリームで仲間を支援。
　ピアがサークリットチェインを描く。
『砕けちまいな…！』
　そこで陽治が万象破砕撃で神殺しのデコピンを行った。

「喰らえ－このガチャの無念！　低レアの嫉妬！　運営への怨念をー！」
　凄い事を叫びながらビルシャナは八寒氷輪でケルベロス前衛を凍てつかせる。
　そこでビルシャナ閃光を畳みかけて氷を砕き、さらに叩きつける八寒氷輪。
　アストラのボックスナイトが大慌てでガブリングで食らいつき、ビルシャナを捕らえる。

　物九郎が紙兵散布を行った。
　アストラがバラージストリームでさらに回復。
　ピアがサークリットチェインを回す。
　ナナコは降魔真拳で殴りかかって回復しながら戦闘。
　陽治が旋刃脚を叩き込む。
　ビルシャナを追い詰めたと判断した所で戒李は社に目配せをした。
「それじゃ、しっかり現実見てもらおうか」
　魔力を込め、敵を目標に定めてオリグラ讐想裂日を発動する戒李。本人が見ないふりをしてきた課金への罪悪感を魔力で構成された矢として具現化！　一斉にビルシャナへと撃ち放つ！！
「これが！ お前が今まで抱え込んできた罪悪感だ！」
　ビルシャナを矢が貫くのを確認して一歩下がり、社を見守る。
　戒李の攻撃を見て、ビルシャナを精神から引き裂くのに合わせ、社が飛び出る。
「J・D・K！　J・D・K！」
　応援する物九郎。
「SSRが出なくて人に当たるってことはよォ……」
　二丁の銃をドロウし、踏み込み、加速！
「当たられる覚悟も出来てるって事だよなァ！」
　銃弾拳法・終式～おれの石を返せエディション～がビルシャナの身体に叩き込まれる！！
　そこに呼吸を読んだ不律が飛び出たかと思うと、渾身の居合い斬りを放った。
　ビルシャナの首が刎ねられて飛び、戦闘は終わった。

●
　戦闘後、ケルベロス達は廃寺をヒールで片付け、流れ弾を受けた元信者達を回復させた。
「迷惑をかけてすみませんでした……」
　謝る信者達に社がふっと笑う。
「いいってことよ。お前達はまだ引き返せるんだ……」
　戒李も不律も鮮やかな笑みで正気を取り戻した元信者達を生温かく見守った。
　ナナコはバナナを喰っていた。
　物九郎やピアや陽治は、元信者達に低レア運用のコツを教えてやった。
　アストラは思った。
（「引き返せない人達の、勝ち誇ったような笑みが、当分忘れられなさそう……」）
　課金は続くよどこまでも。
　やめられない止まらない。
　業深き者達には、彼らにだけ分かる幸せがあるのだろう、きっと……。

作者：柊暮葉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年11月16日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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