ミッション破壊作戦～魔性の樹木

■リプレイ

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　ヘリオンから覗くと眼下に樹海が広がる。
　足利樹海化地帯。
　デウスエクス－－攻性植物達に支配されたその地帯は、かつては清和源氏の時代から足利庄が栄え、日本最古の学校足利学校が創立された歴史と伝統のある世界である。
　しかし今は生い茂る醜悪な植物達によって見る影もない有様であった。
　攻性植物達は彼らにしか分からない音声を発し、異形の蔓を絡め合っている。

「なんかめっちゃろくでもないこと言ってそうな気がするんすよねあんたら。ほろわろ。hollow all？　hollow allo？　虚無志向系のろくでもない連想しかできないっす。あぁ、でも、おぐん　そーどには興味があるっす。あんたに刺さってるのっすか？」
　篠・佐久弥（塵塚怪王・e19558）は、攻性植物を見下ろしながらそう毒づいた。
「今回の舞台は栃木県足利市。北部に足尾山地、南部に関東平野が広がり、中央部を渡良瀬川が流れてて、室町幕府を開いた足利氏と縁深い地。歴史的な背景もあるのか寺社仏閣も多く、古くは絹の産地だったようで、近代では織物業が発達したとか。織物って、糸だけでなく人の想いも紡がれ織り成されているのかも。そう思うおねーさんロマンチスト」
　巻島・菫（サキュバスの螺旋忍者・e35873）はグラディウスを胸に抱きながらそう言った。
「クルウルクの落とし子か……そういえば、なんか正気度が落ちそうな場所ですよねぇ。とはいえ、こんなことで、狂うわけには行かないからねぇ。だからぁ、きっちり落とさせていただくんですよぅ。攻性植物なんて根っこ一つ残さず消していかないとですよねぇ」
　ワーブ・シートン（とんでも田舎系灰色熊・e14774）は間延びしていながらも真剣な口調であった。
「落とし子……ね。ここの連中を駆除できたらオーサカの連中に揺さぶりかけられるかしらね？　まあ今は目の前に集中しましょう」
　ソフィア・フィアリス（黄鮫を刻め・e16957）は何度も頷きながら言った。
「なーんか、あなた達の唸り声を聞いてると夢見が悪くなるんですよね。宇宙の彼方に飛び出していきそうな姉（のような人）がいるからでしょうか」
　七奈・七海（旅団管理猫にゃにゃみ・e00308）は樹海地帯から響き渡る、デウスエクスの理解不能な音声に対して苛立たしげにそう言った。
　そうこうしているうちに、樹海の中心とおぼしきあたり、半径30メートルのドームが見えて来る。
　東雲・清十郎（地球人の刀剣士・e33901）はグラディウスにロープを結びつけ、投げた後も見失わないようにした。
　櫻田・悠雅（報復するは我にあり・e36625）もグラディウスを握った状態で手に縛り付けた。
　フォルトゥナ・コリス（運命の輪・e07602）は手中にあるグラディウスを見つめる。通常の武器としては使えないこの光る小剣こそが、強襲魔空回廊を破壊する唯一の手がかりなのである－－。
　正に足下にドームが迫る。
　ケルベロス達に作戦が開始される－－！

「宇宙的狂気を連想させるような叫びをあげるんじゃありません！！　あの人が宇宙の彼方へ飛び立っていったらどうするんですか！！　ですから――」
　降下口から七海はダブルジャンプを使用して飛び立った。
「――その口、閉ざしてあげましょう」
　姉への想いを胸にドームへとグラディウスの刃を向ける。
　ほぼ同時にフォルトゥナもダブルジャンプで降下口から飛び降りる。
「水と緑に恵まれた歴史情緒あふれる街でしたけど、ここまで異界の森に変えられてしまったんですね……奪われた平穏を、街の人々の生活を取り戻しましょう！　あとパンヂュウとかいうお菓子が売っていたそうですね、まだ食べたことないので許せません！　人々に仇なす死を忘れた異形の者達よ、去りなさい！」
　急降下の勢いを借りてグラディウスをドームへと触れる。
　途端に、眩い雷光が飛び散り、爆炎が巻き上げられる。濛々と辺りを覆い尽くすスモーク。そのスモークを利用して二人はドームから離れる。
「簡単な話ぃ、おいら的にここ（ミッション）が邪魔なんですよぅ！！」
　続いてワーブが降下口に立った。
「ともかくとしてぇ、正気度チェックなんて、二度と出来ないようにしてやるんですよぅ！！」
　そう叫ぶなり、ドームへ向かってグラディウスを構え、落下。
　ワーブのグラディウスもまた凄まじい雷の輝きと爆発的な火炎を見せ付ける。
「あなた達は、商店街を占拠することで、そこに住んでいる人たちだけじゃなく、そこに集まる人達の繋がりまでも断った。人々の生活を……繋がりを返してもらうわよ！」
　ソフィアは自分の幼い頃の思い出を胸に、ヘリオンから飛び降りた。
　自分の子供達がまだ小さい頃とか商店街で買い物したり催事に参加したことがあり、百貨店とは違った魅力や楽しさが商店街にはある事は知っている。その想いとともにグラディウスを突き立てる。
（「あんたらの叫び聞いてると、不安が湧き上がってくるんすよ。ダンジョンでビルシャナ達の祈りを聞いた時と同じような感覚っす。だから、俺は俺の直感を信じて全力で叫ぶっす」）
　佐久弥は大きく目を見開き、グラディウスを構えるとヘリオンから急降下。
「『此処に住んでいたみんなの明日を取り返す』って！　不安や虚無感なんかに負けてらんないっす！　漠然とした不安なんて未来と同じ。何もないならそこに新しく明日をつくってくんすよ！」
　グラディウスが接触、爆炎が噴き上がり雷光が輝く。佐久弥はスモークとともに退避。
「以前織姫神社に詣でた事がある。ただ一度の事ではあったが、袖振り合うも多生の縁という。これはきっと天御鉾命殿と天八千々姫命殿が紡いでくれた縁なのだろう。彼らに代わり、彼らが守る地に根付く人々を守ると誓おう。東雲清十郎、参る！」
　礼節を重んじる彼らしく清十郎は叫び、飛び降りると、誓いを込めてグラディウスをドームへと突き立てた。
「室町幕府を開いた足利氏と縁深く、歴史ある足利の地を、今こそ解放するとき！　人々の歴史と想い、願いを樹海に埋もれさせは……ここで断ち切らせはしない！　人々の歴史と願いは、想いは力！」
　次々と飛び降りるケルベロス。菫もまたヘリオンから飛び降りる。急降下しながらグラディウスの狙いを定める。
「いけるか……？　グラディウス！！　異形の蔓の獣よ。ここから……出ていけー！！」
　光る小剣が触れると、激しい業炎とともに噴き上がる煙、そして強烈な雷光が辺りを真っ白に照らし出す。
「着物を愛する者として、この地を解放させて頂く。色鮮やかな藍、緑、紫などの色合い。艶やかな模様や華やかな色彩。心を失った私でも、美しいと心動かされた物ばかり。この世に産み出した職人たち、この土地、すべてに感謝を。誰からも愛されるこの土地を。心なき獣のような植物どもに勝手されるは赦せず。我らの手で、解放する。穿ち、砕け、すべてを灰燼に帰せ！」
　きらびやかな着物を自身に纏った悠雅は、感謝の祈りとともに飛び降りる。そして急降下しながらグラディウスをドームへとつきたて、最後の爆炎を巻き起こすと、煙とともに退避、仲間達の場所へ合流した。

　地上を覆う雲のごとき煙が風に流れていく。
　攻性植物達の不気味なうなり声が響く中、ケルベロス達は煙の向こうを見守る。

「ダメだった……か」
　清十郎が無念の声を絞り出した。
　悠雅も頬を微かに引きつらせてドームの姿を見つめた。
「ダメージは蓄積されているはず。きっと、次の仲間達がドームを破壊してくれる。今は撤退だ」
　そう告げて、悠雅は手の縛りをほどくと、後衛の菫にグラディウスを預けた。
　ワーブも菫にグラディウスを渡した。
「まぁともかくとしてぇ、やっぱり近くにいるよぅ」
　七海は腰に携帯証明を装備していた。
　その光が巻き上がる煙の暗さを照らし出す。

　ほろわろ。
　ほろわろ。
　狂気を誘う声が煙の中から近づいて来る。
　その動きは思ったよりも速く、煙の中に大きな影が映し出されたかと思うと、やがて巨大な異形の怪物が現れた。
　それは植物で出来た恐竜と言った雰囲気であった。
　ケルベロス達は息を飲み、その異形の凶暴なる植物－－「クルウルクの落とし子」の異様に見入る。
　クルウルクの落とし子は、その肉食獣の口にも似た蔓草の茂った部分から不快な液体を吐き出した。
　腐敗せし草液。
　それを自身に浴びる事によって、何か狂喜に満ちた音声を発し始める。
　明らかに自身の力を増した事が分かった。
　ケルベロス達は前衛と後衛に別れて布陣を整える。
　しかし、そのとき、力を上げた落とし子が蔓を束にして一気に襲いかかってきた。
　落とし子が最初に狙ったのは菫であった。
　菫の伊逹眼鏡が吹っ飛ぶ。
　だが、寸前で庇ったのは清十郎であった。
「そう簡単に通すとでも思ったか」
　何本もの蔓が巨大な管のようになりながら清十郎の体を絡め取る。
　衝撃とともに縛り上げられ、一瞬、全く身動きが取れなくなる清十郎。
「そうだ、もっとだ。もっと来い！　その一撃が、その本気が、俺の闘志を滾らせる！」
　しかし戦闘狂を思わせるほど、清十郎は闘志をみなぎらせている。

　ほろわろ。
　ほろわろ。
　落とし子はまるで笑い声のように狂喜を誘う音を奏でる。

　ソフィアがジョブレスオーラを使い、清十郎は体の自由を取り戻して回復していった。
　彼女のミミックのヒガシバは武装具現化で攻撃。
『空気混合開始――燃焼最大』
　佐久弥が発火溶融熱線（メルトファイア）を使う。
　佐久弥は廃棄物で出来た異形の人型をさらし、鉄塊剣を振り上げ、胸の壊れた扇風機から空気を吸い上げながら地獄の業火を煽り、口から焔を吹きかけていく。
　落とし子からは虚無を感じる。ならば明日を作り出す意思で対抗するのみ。
　フォルトゥナは、日本刀で緩やかな弧を描きながら斬りかかり、落とし子の動きを捕らえようとする。
「これから始めるんですよぅ！！」
　ワーブは縛霊手で殴りつけた瞬間に霊力を編み目のように放射して、さらに落とし子を縛り上げようとした。
『煉獄の鎖、かの者を切り刻め』
　動きが鈍くなった落とし子に対して、悠雅は深緑の縛鎖（ミドリノクサリ）を使う。
　左手で地獄の力を集めて鎖とし、落とし子を締め上げる。そのまま鎖を引き抜いて敵の幹を傷つけ、抉る。
『報いを！　報いを！　尊厳を冒せし者に相応しき報いを！！　尊厳を剥ぎとり晒してやれ！！！』
　淤岐嶋乃鰐（オキシマノワニ）で七海は、心魂を侵す凶暴な咆哮を上げて落とし子に原始的な呪いをかける。
　獣化も利用してトリッキーな動きをしながら敵にダメージを与えて行く七海。
　圧倒的な意志。報復の狂気に飲み込まれていく落とし子。
　清十郎は天空高く飛び上がると、虹を纏いながら急降下し、攻性植物を踏みつける。
『さあ、お掃除の時間です！　雑巾拭きたて足元注意ですよ！』
　菫は雑巾手裏剣を使って、攻性植物の足下を狙い、螺旋の力を利用して足止めにしていった。
　眼鏡をひろっているヒマもない。

　ほろ……わろ……。
　ほろ……わろ……。
　不気味にわななきながら声を上げる落とし子。
　数々のバッドステータスを受けながら、デウスエクスは一声高く、怪鳥のような声を立てたかと思うと、再び蔓の束を振り上げた。
　蔓はまっしぐらに煙と風をかきわけると、今度はワーブを鷲づかみにするとたちまち細い蔓でその体の自由を奪った。
　ほろわろ。
　ほろわろ。
　何事か囁くように言いながら次に佐久弥に襲いかかる。
　蔓枝の先から樹木で出来た牙が生える。
　その牙が異常な速度でまっしぐらに空気を駆け抜け、佐久弥の方に噛みついた。その牙の先からみるみるうちに生命力を吸収される佐久弥。

「七海ちゃん、サポートお願い！」
　偉そうに指示を出す（ジブンハナニモシナイ）により、ソフィアは仕事の能率を上げてなんやかやで佐久弥を回復していく。
　ヒガシバは愚者の黄金をばらまく。
　七海は気力溜めを回してワーブを回復。
　立ち直った佐久弥は星のオーラを纏いながら、フェアリーブーツで落とし子へ跳び蹴りを決めた。幹に大きなヒビが入る。
　悠雅はドラゴニアンとして手の爪を超硬化すると、落とし子へ飛びかかる。敵の加護を打ち砕く。
　ワーブは電光石火の蹴りで加護の砕かれた落とし子を麻痺させていく。
　清十郎は簒奪者の鎌の先に「虚」を纏いながら斬りかかり、敵の生命力を吸収していく。
　菫がさらにフォーチュンスターで蹴りかかり、落とし子の固い幹と蔦を完全に撃破していった。
『願わくば今一度、汝らの武を示し給え』
　フォルトゥナの聖進征夷（ホーリーヴァンキッシャー）。
　彼女の祈りの元、聖なる武具を身につけた戦士達が現れたかと思うと、一斉に攻撃をしかけていく。
　それは、聖なる防寒具を身に着けた木こり達がチェーンソーを構えたかと思うと、マーシャルアーツの蹴りをかましながら、一斉に蔦を切り裂き幹を叩き斬っていく光景であった。

　ほろわろ。
　ほろわろ……。
　最後に何を言っていたかは分からない。
　クルウルクの落とし子はトドメを刺されて凍結し、動かなくなった。

　そこでワーブが叫んだ。
「時間的にぃ、早めに抜けるんですよぅ！！　正気を保ちたいですからぁ！」

●
「増援がいつ来るか分からない。急ごう」
　清十郎がそう言った。
　仲間達も皆、頷く。
　囂々と音を立てて流れる爆煙の中、ケルベロス達は、佐久弥が準備していた地図を辿って撤退を開始した。
　ソフィアが翼飛行で飛びながら俯瞰し、佐久弥の地図と状況を照らし合わせる。
　七海が道を照らしながら佐久弥の話を聞き、先導して走り出す。
「アシカガも色々面白そうなイベントやってるみたいだし、開放されたら改めて行ってみたいわね」
　走りながらソフィアはそう呟いた。

　惜しくも魔空回廊の破壊は達成することが出来なかった。
　だが、彼らの与えたダメージは確実に蓄積されている。
　光る小剣、グラディウスがある限り、未来はきっと切り開いていける。

　……次の戦いには必ず、任務に勝利をおさめるとそう誓い、ケルベロス達は煙の中を走り抜けて行った。

作者：柊暮葉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年11月20日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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