暗黒魔法殴殺術

作者:雨音瑛

●我、深淵に立ち向かいし者なり
 夕暮れの裏山に、変な奴がいる。
 マントともローブともつかぬものを翻し、横に、縦に、ハードカバーの本を振り回す姿はどう見ても近寄りがたい。その長い布の隙間から見える手足やセーラー服から、女子中学生であることがうかがえる。やがて彼女は動きを止め、眼鏡を押し上げた。
「ククク……血族からの支援で手中に収めし魔の書物……そして体術を極めし我の前では、深淵の者は恐るるに足らんことだろう」
 彼女はこう言っている。お母さんやお父さん、おばあちゃんからのお小遣いを貯めて買った「古今東西の魔法」について書いてあるハードカバーの本でいじめっ子に立ち向かえばきっと勝てる、と。
「……暗黒魔法殴殺術、もう少し研究する必要があるか。深淵の者どもよ、いずれ我は、無敵の物理系魔法使いとなる……覚悟しておくのだな!」
 女子中学生は空を見上げる。中学二年生とは実に自由な存在だ。
 女子中学生が再び訓練に励もうとすると、どこからともなく青髪の少女が現れた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 言われ、女子中学生は操られるように少女へ向き合い、本で殴りつけたり、薙ぎ払おうとしてみたり。果ては呪文らしきものをつぶやきながら本を開いて少女を吹き飛ばす――つもりで、片手でぐいぐいと押す。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 無傷の少女は、手にした鍵で女子中学生を貫いた。倒れ、意識を失う女子中学生の横に黒いローブを纏った魔法使いのようなドリームイーターが現れる。しかしローブの隙間から見える四肢は引き締まっており、鍛えられているのがうかがえる。
 ドリームイーターは女子中学生のそれとは比較にならない俊敏さで動き出す。手にした本で殴る、薙ぎ払うといった動作は、確実に相手を仕留める動きだ。
「『闇』は隣人なり」
 加えて、本を開いて何やらつぶやけば黒い風のようなものが現れ、少し先の木々を切り裂いた。
 少女はその様子を見て、静かに声をかける。
「お前の技を見せ付けてきなよ」
 ドリームイーターはうなずき、山を降りてゆく――。

●ヘリポートにて
「……ハードカバーの本を振り回して……いじめっこを倒そうとしていた女子中学生が、幻武極に襲われたのですね?」
 クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)の言葉に、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が同意する。
「幻武極は、自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしている。今回襲撃された女子中学生が、いじめっ子に復讐しようと研究していた『暗黒魔法殴殺術』なる技ではモザイクは晴れなかったのだが……代わりに彼女からドリームイーターを生み出し、暴れさせようとしているようだ」
 出現するドリームイーターは『暗黒魔法殴殺術』――少女が目指した、物理もできる魔法使いの技。本で殴るほか、各種魔法も利用する。という設定の術。もちろん女子中学生本人に魔法は使えない――を使いこなす。元々は中二病的発想のそういうあれなのだが、ドリームイーターとなってその技を繰り出すのであれば、なかなかの強敵といえるだろう。
「幸いにも、生み出されたドリームイーターが人里へ到着する前に迎撃可能だ。そのため、周囲の被害を気にせずに戦える」
 戦闘となるのは女子中学生がしていた裏山で、まだ日の落ちきらない夕暮れ時。相手はドリームイーターは1体のみで、配下などはいない。
「何よりも厄介なのは、素早い動きだ。使用する技は3つで――」
 魔法を発動しながら手にした本で殴りつける攻撃。手にした本で薙ぎ払い、加護を打ち消す攻撃。本を開き、黒い風を発生させて切り裂く攻撃だ。被害者となった少女が身につけようとしていた技でもある。
 また、このドリームイーターは自らの技の真髄を見せつけたいと考えているようだ。うまく戦いの場を用意すれば、向かうから戦いを挑んで来ることだろう。
「……本は、読むものだと思うのですが……言いたいことは、ドリームイーターに……または被害者が目を覚ましてからの方が、良さそうですね」
 考え込むように、クララは視線を落とした。


参加者
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)
六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
クララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)
トープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)

■リプレイ

●「闇の勢力」
「あの――“貸出期限”過ぎてますよ」
 山を降りるドリームイーターに、青いパレオのクララ・リンドヴァル(鉄錆魔女・e18856)が声をかける。ドリームイーターは足を止め、手にした本を一瞥した。
「戯れ言を。これは既に我の物」
「……戯れ言、ですか。しかし私は時の狭間に存在する大図書館《バイト・アル=ヒクマ》の司書【アーキビスト】。禁帯出資料を取り戻す為に転生したというのに、手ぶらでは帰れません。ご理解いただけない場合は……そうですね上司に説明をしていただこうかと」
 転生前の制服に一番近い青いパレオが、秋風になびく。
「フゥーハハハハハハ! 我が名は魔王! 超魔王ゾディア! この世界を闇と恐怖に陥れ崩壊へと誘う恐怖の王よ!」
 高笑いは、上司――天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)によるものだ。
「貴様が暗黒魔法殴殺術を極めし少女か! 貴様に我ら闇より来たりし8人を打倒すことができるか試してみるがいい!」
 そう言ってマントを翻し、集いし闇の勢力を示した。
「ふはははははは! あなたが暗黒魔法殴殺術の使い手か! ……あたしの名前は怪盗ルビィ! あたしが勝ったら、あなたの大事なものをいただいちゃうよ〜!」
 姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)はびしりとドリームイーターを指差す。その出で立ちはアイマスクに裏地の赤い黒マントと、まさに怪盗。ちなみに名前の由来は誕生石だ。
「お前の存在が組織にとって看過できんということらしくてな。悪く思うなよ。……ああ、自己紹介がまだだったな。吾輩はそこの魔王に雇われた傭兵だ」
 ゾディアを視線で示し、トープ・ナイトウォーカー(影操る戦乙女・e24652)はドリームイーターの前で簒奪者の鎌「セーブルサイズ」を閃かせてみせる。
「……一々俺が出る幕でもないんだが、組織の一員として仕事は熟さなきゃなんねぇしな……悪いがとっとと倒されてくんねぇ?」
 さも面倒くさそうに、アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の弾丸・e39784)が前髪をかきあげる。今まで一人で戦ってきたという矜持を持つアルシエルだが、どうにも中二病演技には抵抗感があるため『演技』を貫く所存だ。
「あたしは怠惰を司る魔女……ただ休息があればいい……お前も休ませてあげよう……さぁ闇の揺り籠で……安らかに、眠るのだー……」
 気だるげに告げるのは、六条・深々見(喪失アポトーシス・e02781)。怠惰の魔女だけあって、木に寄りかかって自身を支えながらゆっくりと続ける。
 さらには、ゴスロリ衣装に眼帯をつけた少女。ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)は胸元に手をやり、ゆっくりと息を吐く。その出で立ちに、ドリームイーターは警戒心を強めた。
「暗黒魔法殴殺術……幾星霜の時を経て、ついにこの時が訪れました。私は魔女。暗黒魔法殴殺術と起源を同じくしながら歴史の闇に葬られた禁忌の魔法『暗黒魔法圧殺術』を受け継ぐ魔女です。悲願成就の為、今はこの身をあえて闇に委ねるとしましょう……」
 普段は自身のアイデンティティともいえる魔法少女の格好はどこへやら、だ。
「……良いだろう、相手をしてやる。闇の勢力と言ったか。同一の組織に属する者には見えんが、烏合の衆ではないと期待して良いのだな?」
「我々は群れる事で加算ではなく乗算で力を増す。謂わば可能性の獣です」
 と、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は笑みを浮かべたまま右腕を掲げた。

●「病」
 絶奈の笑みが狂気を帯びたものに変わってゆく。
「…今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 絶奈の眼前に展開された多重の魔法陣から巨大な何かが現れつつあるのを見て、ドリームイーターもただならぬものを感じたのだろう。身構えるも、既に無駄であることを悟ったのか、いっそ楽しそうにやがて姿を現した『槍』のような"輝ける物体"、その一部を凝視している。
「これは……面白い! 面白いぞ!」
 胸を反らし笑うドリームイーターを、DIABOLOS LANCER=Replicaが貫いた。直後、テレビウムが手にした凶器でドリームイーターを殴りつける。
(「新興武術を狙っているものだと思っていたが……これもその範疇なのだな」)
 納得がいくような、いかないような。トープは黒き鎖を手繰り、魔法陣を描いては前衛の防備を高めた。
「後ろは任せてください。……早い所《曝書》してませんと」
 トープに声をかけつつドリームイーターの抱える本をちらりと見て、クララは流体金属の光で後衛を照らす。場と設定に沿った発言を心がけながらも、クララは被害者のことを本気で心配している。何せ、幻武極が狙いに来るくらいだ。少女は相当に本気だったのだろう。結果が『暗黒魔法殴殺術』を極めし者を体現したドリームイーターの出現、ではあるが。
「相手にとって不足は無いようだな……行くぞ」
 ドリームイーターは軽く息を吐く。手にした本を薙ぎルーチェに与えられた加護ごと破壊しようとする。しかし地を蹴り、二人の間に割り込んだトープの動きは素早く。
「報酬分の働きはしなくてはな」
 本を受け止め、こともなげに言い放った。
「隙あり! 闇夜を貫く赤い銃弾! スカーレッド・バレット!!」
 ロビネッタの手にするリボルバー銃「シェリンフォード改」から放たれた弾丸が、ドリームイーターを背後から貫いた。
「お見事、と言いたいところだが……闇夜には少々早いようだ」
「フゥーハハハ!」
 言われ、ロビネッタは怪盗のように笑って誤魔化した。
 以前にも怪盗を演じたことがあるが、やはり楽しい。「中二病」の被害者の気持ちがちょっとわかるかもしれない、とこぼし、ロビネッタはくすりと笑った。
「この者は……どうにも他人の気がせぬの」
 とは、ゾディアの言葉。手作りとオーダーメイドで魔王を名乗るゾディアは、被害者の行き着く先を体現しているようにも見える。積もる話は無事にドリームイーターを撃破してからだ。ゾディアは、掌をドリームイーターに向けた。
「奔れ迅雷、響け雷鳴」
 瞬間、掌から幾重もの紅の稲妻が放たれた。初めて自分で開発した術は、今日も絶好調の模様。
「癒しの術はクララに任せ、ルシファーも行くのだ!」
 呼ばれ、ボクスドラゴン「魔王竜ルシファー」は厳かに封印箱に入り、ドリームイーターへと体当たりを決める。
 ゴスロリ衣装をひるがえし、ルーチェは流星の煌めきを宿した蹴りを叩き込む。
「『天より墜つ流星』の味はいかがですか? これも流派再興のため、この場は組織を利用させ……ゴホン、もとい組織と協力して挑ませてもらいますよ」
 深々見も同じ技を仕掛けんと、続く。動きはルーチェとは対照的にゆったりとしたもの。
「眠りの闇より訪れし星を、喰らうがよいー……」
 技を受けたドリームイーターは、ちょうどアルシエルに背中を向ける形になる。
「いい場所に誘導してくれたな。――西方より来たれ、白虎」
 呪を込めた弾丸を放って喚ぶは、四神白虎。白虎の爪牙はドリームイーターのマントを難なく切り裂いた。

●「孤独」
 完璧な連携で、組織の面々はドリームイーターを追い詰めて行く。
「我が術を斯様に捌くとはな。しかし闇はそう簡単に消せぬということ、『組織』が一番理解しているのだろう?」
「……まぁ、なんとなく言わんとしていることは分かる」
 おそらくはこう言っているのだろう。くそっ、やるなケルベロス。でもこっちもデウスエクスだ、そう簡単にやられるわけにはいかないのだ、と。トープはうなずき、手を前に突き出す。
「とはいえ……傭兵である吾輩には関係のないこと。緩やかに朽ちていけ――その魂を擦り減らしながら」
 放たれるのは、楔状の魔力塊。ドリームイーターに刻まれた傷が、状態異常が増えてゆく。
「間もなく光が消える……そこからが、我の<世界>だ!」
 確かに、夕暮れの赤い光は山の際に沈もうとしている。ドリームイーターの手にした本が光り、そのままロビネッタを殴りつけた。
 だが防具のおかげで傷は浅く、ロビネッタはそのまま弾丸を連射する。
「怪盗ルビィ、参上、ってね! よーし、ここにサインを印そう!」
 しかし弾痕で「R.H.」のサインを描くのは難しく、ロビネッタは早い段階で諦め、サインの描かれたカードを投げつけた。
(「そういえば、友達が魔導書を持って魔法で戦う女の子なんだけど、本で殴るところはあんまり見た事ないなー」)
 帰ったら今日の話をしてあげようと、クララの降らせた癒しの雨を浴びながら思うのだった。
「これで、怪盗さんの癒しは十分です。……其れは器だけの力を与えます。――矢張地球人《ヒト》の域を出ませんか」
 クララはドリームイーターへ向き直り、少しばかり残念そうに顔を俯かせる。
「貴様……何が『視』えている?」
「……そう、ですね。超魔王の庇護下で、暗黒情報学の叡智と技術を少々」
 ドリームイーターが瞠目するが早いか、深々見がぽつりと言葉をこぼす。
「油断とだらけは似て非なるもの……眠ろうよ、まだ、もっと、ずっと」
 いつの間にか、ドリームイーターの体は深々見の作り出した闇の揺り籠に包まれていた。体が闇に溶ける感覚は心地よく、幸せな眠りをもたらす。
「……くっ、我としたことが!」
 数秒ののちに目を覚ました起きたドリームイーターの顔に、魔王竜ルシファーのブレスが吐き出される。それを払いのけようとするドリームイーターを、ゾディアの放った黒鎖が拘束した。
「フゥーハハハハ! 我が部下に後れを取るようでは暗黒魔法殴殺術もまだまだであるな!」
 どうにか鎖を振りほどいたドリームイーターに、今度はオウガメタル「ラスター・ルイテン」が纏わりついて自由を奪う。その隙にルーチェは腕を広げ、ドリームイーターを全力で抱きしめた。何かが折れる音と、ドリームイーターの悲鳴が聞こえる。
 シンチラート・エンブレイス――またの名を『無慈悲な死神の抱擁』。いつもと同じ魔法(ちからわざ)に見えなくもないが、違うのだ。全然、まったくもって。
「……ここまでの暗黒魔法を受けて無事とは、さすが『暗黒魔法殴殺術』の使い手。ならば私はヴォイドを起こさぬように戦うだけです」
 アルシエルはルーチェが離れたのを確認し、惨殺ナイフをドリームイーターにかざす。『抱く絆』による『連携』は、戦闘において恩恵をもたらすことがある。
 自分勝手に戦うのは、いつだって出来る。ならば、協力するのもそう悪くない。それに、いっそ頼もしいときもある。
 テレビウムが顔面を光らせ、合わせて絶奈が鎖を放った。
「『人は一人では生きられない』からこそ、一人で生きられる様な存在へ己を昇華したい……孤独や孤高を愛するのが中二病なのだとしたら、私達は対極かもしれません」
 だからこそ「組織」は、被害者の少女に可能性を示せるのかもしれない。絶奈は鎖を解き、手元に引き戻した。

●「闇と闇と一筋の光」
 ゆるりと踏み込んだ深々見の拳は、ドリームイーターの腹部を打つ。ルーチェによる降魔の拳も、強かに。
「暴食なる魔獣の顎、その身に受けなさい!」
「ぐ、う……っ!」
 ドリームイーターはたたらを踏み、数歩分だけ距離を取る。
「ここまで持ちこたえるとは、なかなかやるな……だが、俺の本気に敵うか?」
 演技めいたもの言いでアルシエルが顕したのは、棘のようなものでできた6枚の光翼。そのまま翼を暴走させ、光の粒子となってドリームイーターに体当たりをする。弾き飛ばされたぼろ切れのようなシルエットを、氷結の螺旋が包み込んだ。
 トープが絶奈に視線を送ると、既にブラックスライム『親愛なる者の欠片』が蠢くのが見える。
 喰われ、落ちたドリームイーターにテレビウムが凶器を落とすように殴った。
「くっ、『闇』は隣人なり……!」
 アルシエルに向かう黒き風は、魔王竜ルシファーが代わりとなってその身に受ける。ロビネッタが凍てつく弾丸を撃ち出せば、呻くドリームイーターの足元から派手な爆発が起きた。
「今だ! 司書【アーキビスト】の力を存分に振るうが良い!」
「……はい。汝に木の壁を与え給う」
 ゾディアに応えたクララが発動した召喚魔法。現れたのは、図書運搬用の荷台だ。
 横合いから突進され、ドリームイーターは痛みに呻く。魔導書の魔力が染み込み、金属補強の施された荷台の痛みは相当のもの。それが、暗黒魔法殴殺術の使い手への最後の一撃となった。
「我は……闇に帰すの、か……」
 マントともローブともつかないものが消え失せるのを見届け、アルシエルは周辺をヒールで修復した。

 少しばかり山を登って少女の元へ赴けば、ちょうど目を覚ましたところのようで。
「あ、れ……? あなた、たちは……?」
「闇の誘惑は甘美……されどそれを律し、正しき事に使ってこそ道は開けます。ゆめゆめ忘れない事です」
 瞬きひとつ、ルーチェはその場を立ち去る。少女は無傷だ、それならばとアルシエルも帰路につく。
 少し離れた茂みのあたりで何かが転げ回る音が聞こえるのを気にしつつ、クララは少女へと声をかける。
「……あ、あの、本に限らず固いものは振り回すと危ないので気を付けて下さいね。いじめっ子の事は、それからじっくり考えましょう」
 と、クララは絶奈に同意を求める。絶奈は静かにうなずき、笑みを少女に向けた。
「どれだけ力を高めようとも、独りで出来る事等高が知れています。……今度、貴女の知り合いとして遊びに行きますね。権威もまた力ならそういった群れの力も悪くはないでしょう?」
「ああ。立ち向かうにせよ、味方がいれば選択肢も増える筈だ。ひとりでやれることには限りがある……まずは同志を作ることだ。さすればおいそれと手出しをしてはこんだろう」
 と、トープもフォローを。それに、とゾディアが続ける。
「貴様は魔王たる我……いや、我らに恐れず立ち向かったのだ。なれば凡百の凡庸共など相手にもなるまい」
「そうだよ。デウスエクスを呼び寄せるほどに鍛えるって並大抵のことじゃないし、がんばったんだね。よしよし」
 深々見が少女の頭を撫でると、わかりやすく赤面しているのが見える。
「魔法ってジャンルほんと広いからさ、大器晩成撃なんかも物理系魔法っぽいし。暗黒魔法殴殺術、あたしはありだと思う」
「……そうだ、暗黒魔法殴殺術を使う子が登場する漫画や小説を書いてみたらどう?」
 ロビネッタの提案に、少女は目を見開いて小さく驚く。
「その発想はなかった……」
「何にせよ、困った事があったら探偵ロビィに相談してね」
 ロビネッタがケルベロスカードを差し出す。少女はハードカバーの本を膝の上に置き、カードをそっと受け取った。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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