大爆発超万能説

作者:深淵どっと


「爆発とは! 芸術である!」
 どこかで聞いた事があるフレーズ、だが決定的に何かが間違っていた。
 その喧しい声が響いていたのは、ある山奥に佇む打ち捨てられた古い寺院、の前。
「私はかつて世間様より爆弾魔と呼ばれ恐れられていた! しかし! 考えてみたまえ諸君! 私は爆破によりその世間様に新たな可能性を示しているのだ!」
 寒空の下、声高に教義を唱える異形の存在、ビルシャナ。燃えるような真っ赤な翼を孔雀のように広げる姿は、それだけ見れば芸術的な気もする。
 だが、言っている事は凄まじく滅茶苦茶であった。
 そして、彼の前で静かに教義を聞いている数人の瞳はぼうっとしており生気が宿ってない。どう見ても洗脳されてる感じである。
「一瞬で整地も終わるし、何より爆炎が派手で綺麗だ! 緻密に計算された爆発とは、芸術なのだ! 見給えェェェ!」
 信者達に背を向け、ビルシャナは寺院の方へと振り返る。
 瞬間、一瞬の閃光と共に文字通り寺院が爆ぜる。衝撃と熱風が山間を駆け巡った。
「どう!? 凄くないコレ!? しかもこれからの季節、暖かい! 寒さに震える人類すら救えるのが、爆発だ!」
 跡形も無く燃え散った寺院を背に、ビルシャナは翼を激しく揺さぶっていた。


「……度し難いな」
 開口一番、呆れた口調でフレデリック・ロックス(蒼森のヘリオライダー・en0057)はため息を零した。
「あぁ、すまない、つい……その、本音が出た。そのくらい、やり辛い感じのビルシャナが出た」
 どうやら元爆弾魔の男がビルシャナ化し、信者を集めているらしい。
 概ね、やっている事はいつも通り、滅茶苦茶な教義を唱えて一般人を信者にしているだけなので、こちらの対処も同じではある。
「ビルシャナ化した者を元に戻す事はできないが、信者達はビルシャナの主張を覆すような説得を行えば正気に戻す事ができるだろう」
 とは言え、元々の教義がなんかもう滅茶苦茶なので、説得の難易度はそれ程難しくはないと思われる。
 小難しい理論よりは、ビルシャナ同様のノリと勢いが大事かもしれない。
 放っておけば戦闘の邪魔にもなるし、グラビティに巻き込むわけにもいかないので、まずは説得しておくのが良いだろう。
「ビルシャナの戦闘方法だが……いや、聞かなくてもわかります、って顔をしないでくれ。一応説明させてくれ」
 言うまでもなく爆弾である。
 非常にわかりやすい攻撃方法なので、対策も容易ではあるだろう。
 しかし、その対策を怠れば、それなりに苦戦する相手でもある。
「雑な爆発オチで大惨事を引き起こされては堪らない。何とかして、阻止してくれ、頼んだぞ」


参加者
シオン・プリム(蕾・e02964)
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
神藤・フミカ(上から読んでも下から読んでも・e10213)
兎塚・月子(蜘蛛火・e19505)
ベア・ベア(ハントユー・e38076)

■リプレイ


「おおお! 何と! 遂にケルベロスまでもが我が教義に惹かれて訪れたか! やったぜ! さぁ、共に爆発によって世の中の改革をゴフッ!?」
 何を勘違いしているのか、討伐に訪れたケルベロス達に歓迎の意を示すビルシャナ。
 アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)は問答無用でその脳天に白銀の戦棍を叩き付ける。――何度も、何度も。
「ゆーあーぎるてぃ」
 それは然るべき断罪。しかもグラビティを用いたものではない、ただ純粋な殴打であり、ひたすら痛いだけである。
「許可なく爆破なんてとんでもない。危ない危険有罪。わかってる?」
「痛い! やめんか! ええいやはりわかり合えんかケルベロス! いや! 私は諦めない! お前らが我が芸術の前に心奪われるまで、爆破をし続ける! し続けるぞ! 世界が綺麗に更地になるまで!」
 羽を広げ高々と宣言するビルシャナに、信者達の歓声が続く。
 だが、アウィスの先制攻撃に出鼻を挫かれた故か、僅かに出遅れたのは間違いない。
「全部壊してから再生するって? まぁ、この宇宙も爆発から始まったなんて言うし、破壊こそ再生の序曲なのかもね」
「そう! それだ! そういう事だ! 爆発とは、宇宙……その原初の……つまり、人類の根幹に眠る美の意識なのだッ!」
 ビルシャナは兎塚・月子(蜘蛛火・e19505)の言葉に食い気味に反応する。
 言ってる事はよくわからないが、信者達もノリと勢いで盛り上がっている感じである。
「ふはは! 爆発は芸術か! なるほどのう!」
 しかし、その勢いを豪快な笑い声に、強烈な爆熱と閃光が遮る。
「だが、根幹に眠る美とはすなわちインスピレーション! おぬしの言う緻密に計算された爆破では、心は打てぬわ! 考えるな! 感じろ! そしてそれを可能にするわしこそが芸術そのものなんじゃあああああ!」
 本当にサポートなのか疑わしい程の存在感を放つ、ソルヴィン・フォルナー独自の魔法は爆発に指向性を作り、美しいハート模様を描いていた。
 勢いのまま、魂のまま、弾ける爆発はソルヴィンの衣服を蹴散らし、その身すらも蒼白く爆ぜる光炎で包み込む。その熱くも自由な炎は、わけもわからず見る者を魅了しただろう。そして残るmuscle of uncle――これこそが、芸術と言うものか。本人が言うので多分そうなのだろう。
「あら、爆煙で大事なところが隠れちゃいました♪ 残念、もう少しだったのに」
 静かな歓声の一方、その爆発と同時に別の方向から湧き上がる、落胆の声。
 さりげなーく、肌色多めのお色気路線で信者達の視線を集めていた神藤・フミカ(上から読んでも下から読んでも・e10213)。しかし、肝心な所が先の爆発で際どく隠れる。
 信者達が上げてしまった落胆の声。それは、思わずであったとしても教義の否定、爆発への否定そのものだ。そして、その否定は間違いなく彼らの心を(いやらしい方向に)揺れ動かす。
「いや! まだ見れる! もう一回爆発で煙を飛ばせば見れる!」
 ビルシャナ本人が揺れていた。爆発一筋なのは変わらないが。


「いや……爆発っていうのはそういうんじゃない。そういうんじゃないから」
「そうだおごるな爆弾魔! きさまの爆発のインチキっぷりはこの樹君が知っておるわ!」
 その迷走し切った教義に、二藤・樹(不動の仕事人・e03613)と三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)が異を唱えた。
「何か、そう盛り上げられるとちょっと気恥ずかしいけど……あんた、その後ろの寺院をどういう気持ちで爆破したんだ?」
「決まっている! 燃えながら吹っ飛んだら、派手で綺麗だと思ったからだ! 後、誰も使ってないから勿体無いなって!」
 予想以上に自信満々と言った様子で、ビルシャナは胸を張る。
 その答えを聞いた樹は、最早ヒールではどうにもならないであろう残骸と化した寺院を、ビルシャナ越しに眺めながら、ため息をこぼした。
「……爆破ってのは、解体ってのは、そういうことじゃないんだよ。あんたには作った人の技術と、過ごした人の想いへのリスペクトが足りない。そんな爆発が綺麗な最期になるもんかよ」
「全く以て御尤も! って言うかアンタさ、芸術芸術って言ってるけど、ただの更地に感動とか喜びとか楽しみとか感じるかねぇ? アンタ達は本当にそう思うの?」
 続く千尋の言葉。ビルシャナと一緒に騒いでいた信者達は思わず顔を見合わせ、残骸となった寺院へと視線を向ける。そこには……熊とテレビウムがいた。
 正確には、動物変身によって柴犬程の大きさのグリズリーへと姿を変えたベア・ベア(ハントユー・e38076)である。時には足場の悪さに転んだりしながら、小さな体でせっせと瓦礫や木片を退かす姿は、健気の一言に尽きる。
『ばくはつ かたづけ くま たいへん』
「見ろ。君達の言う爆発が生み出した結果が、これだ。その爆発に見知った誰かを巻き込まない保証はあったか? 無差別な爆発と言うのは……大切な誰かを、自分の手で、消してしまう。そんな悲しい事が、起こり得るんだ」
 物凄いあざとさを無尽蔵に振りまきながら掲げられたベアのプラカードに、信者達の視線を向けさせながら、シオン・プリム(蕾・e02964)はひたすら実直に信者達を説き伏せていく。
 ビルシャナの破天荒っぷりとは裏腹に、心の奥底から悲しみを携えたそのド正論は、その場の空気に対して強烈なギャップを生み出し、信者を素直に我に返していく。やはり、真っ直ぐな精神は強い。
「ボクも悲しいのは嫌だな……同じ大騒ぎでも、お祭りとか遊園地とか、そういう楽しい方が好きなのっ! みんなで遊べば、お体もお心もポカポカあったまるんだよっ!」
「あら、とても素敵ね。私も危ない事よりかは、のんびりお散歩したり、お昼寝の方が楽しいと思うわ?」
 ビルシャナの熱狂から解放されつつある信者達。ルリナ・ルーファ(あったかいきもち・e04208)の天真爛漫な言葉と、ユリア・フランチェスカ(オラトリオのウィッチドクター・en0009)の穏やかな雰囲気に、最後の毒気も抜かれていく。
 具体的に言えば『何やってるんだろう俺たち』って顔をしていた。本当に、何でこのビルシャナに付いて来てしまったのだろうか。
「お前らァ! ええい不甲斐ない! ならば今一度、爆発の美しさを! 荘厳さを! 偉大さを! 思い知らせてくれようか!」
「はいそこまでだ。あたいらが来た以上、もう好き勝手に花火かませると思うなよ?」
 今にも暴れだしそうなビルシャナと信者の間に、月子が割り込む。
「さぁ、去にたくなかったら素人は安全圏まで下がってろ。もう身の安全は保障されないぜ?」


 月子の最後の言葉で、信者達は一目散に戦線から離脱していった。元より無茶苦茶な教義による洗脳も無理があったのだろう、もうすっかり正気に戻ったと見てよさそうだ。
 ならば、残る仕事はビルシャナを倒すのみ。むしろここからが本番である。
「ああああ! もう! わかったよ! ならばまずはケルベロス、お前らから爆発の魅力を叩き込んでくれるわ! 刮目せよォォォ!」
 どうやら向こうもやる気十分らしい。ビルシャナを中心に広がる爆炎が、瞬く間に周囲を包み込む。
 どうしようもないビルシャナだが、腐ってもデウスエクス。その破壊力は岩を砕き、地を抉り、ついでにフミカのセクシーポーズを隠す。
「こんな危険な技を無差別に使うと言うのか……!」
 だが、そんな凄まじい力の前に、シオンとベアは果敢に立ち塞がる。
「でも残念ね、それも今日でおしまい」
 土煙の晴れた先に立つのは小さなグリズリーではなく、元の姿のベアだった。
 降り注ぐのは、焼き払われた自然を慈しむように舞う、花びらの幻影と紙兵の乱舞。
「とっても素敵な魔法! まるで本物のヒーローみたい。私も負けてられないわね!」
 そして、テレビウムと共に戦線を固めつつ、仲間を守る彼女達をフミカの忍術が援護する。
「ぬぅぅ! 何の、この程度計算の内――」
「まだそんな事やってのかい。だから、いつまで経っても爆弾魔のままなのさね!」
 燃え広がる炎を切り拓き、千尋の剣閃がビルシャナを捉える。
 鋭い刃から逃れようと、ビルシャナは一旦仕切り直しを図ろうとする――が。
「そうはいかないんだなぁ」
 踏み込んだ瞬間、ビルシャナの足元が爆発する。突然の出来事に、それが樹の仕込みである事など、気付く余地も無いだろう。
 逃げる隙を失ったビルシャナを千尋の剣が追い込み、更にケルベロスたちの攻撃がそのまま突き刺さっていく。
「覚えはあるか鳥公。『しくじる』って事。……あたいはね、よぉく覚えてるよ」
 閃く刃の刀身が、揺れる炎の中に写すのは、記憶だ。
 轟々と燃える炎を照らす、戦場に浮かぶ淡い光球。そして刃が写す、過去のトラウマ。月子の術中に心を乱されたビルシャナに、反撃の手立ては無い、と思われたが……。
「わ、私は……私は……俺は……ば、ば、ば、爆発! 俺が、爆発!」
 追い詰められた精神を発散するかのように、ビルシャナを中心に――否、ビルシャナそのものが凄まじい爆発を引き起こす。自爆である。
「あぶなーい!」
 咄嗟に飛び出るペテス・アイティオ。そしてテンポ良く吹っ飛んでいくペテス・アイティオ。
 だが、煙が晴れた爆心地にビルシャナはまだ立っていた。何らかのトラウマがあったのか、多少のダメージはあるようだが。まぁさっきも爆発したように見えて全然元気そうだったソルヴィンもいるので、そういうものなのだろう。
「俺の爆発は! 世界を魅了する力なんだァァァ!」
 半ば錯乱しながら振り撒かれる無差別な爆破を、アウィスは呆れの混じった目で睨め付ける。
 爆炎を縫って撃ち込まれた弾丸は、周囲の炎熱すらも巻き込んでビルシャナを凍て付かせていった。
「……全っ然わかってない。お仕置き決定。やっちゃえ、ルリナ」
「え!? う、うん! えーと、あぶないコトしちゃ、めっ!」
 一方、余りに常軌を逸した自爆テロに呆然としていたルリナ。アウィスの言葉に我に返ると、その頭上目掛けて思いっ切りハンマーを振り降ろす。
 今回はひたすら痛い、では済まされない重みたっぷりの一撃である。凍り付いたビルシャナは、砕け散ると共に何故か爆散し、その爆弾人生に幕を下ろすのであった。


「……やはり、修復は難しいか」
 戦闘後、ビルシャナの手によって爆破されてしまった寺院の周辺にヒールをかけるが、ここまで跡形も無くなってしまうと、流石に形を戻すのは難しそうだ。
 周辺の地形等も、ある程度は補えているが、想像以上に大きな被害にシオンは悲しげに目を伏せる。
「爆発ってのはそういうもんだ。儚く消えて終わり、とはいかないさ」
「発破の心は母心、押せば爆破の華開く、ってな……。……。じゃあ、とりあえず片付けるか」
 どこか神妙な面持ちで語る月子の隣で、樹は妙に心に残る迷言を残しながら、何事も無かったかのように片付けに入る。
 正気に戻った信者達も、ほぼビルシャナが手を下した事とは言え多少の罪悪感もあったのだろう。ケルベロス達を手伝い、寺院跡は何とか片付くのだった。
「あ、焼き芋? 良いわね、アタシのもあるかしら?」
「うん、たくさん用意してきた。程良くあったかくて、ほくほくおいしい。一瞬の爆発よりこの方が、私は好きだな」
 片付けも終わり、日も傾いてきた頃、不意に漂う甘い香りにベアが視線を向けてみれば、そこには焚き火の中に用意していた芋を転がすアウィスの姿があった。
 ヒールし切れなかった木々の破片や寺院の木材、それらはパチパチと心地よい音を立てながら、温もりを放っている。
「ま、ただ壊されて消えていくよりよっぽどマシだね。美味しい思い出となって、俺たちの中で生き続ける……なんてのは、ちょっと言い過ぎかな?」
「……いや、そうだと、良いな。……私も1つ、貰おう」
 疲れを逃すように大きく背を伸ばす樹の言葉に、シオンはほんの小さく笑みを返す。
 今、彼女の心に空いている穴はすぐには塞がらない。だが、せめてこの一時は、温もりに当たるのも良いだろう。
「わっ、あちち……はふ……ほっくほくで、とっても美味しいね」
「大丈夫ですかルリナさん? 熱いから気を付けないと……でも、寒い季節にはやっぱりこれ、ですよね♪」
 ルリナとフミカを始め、ある意味で熱い戦いを終えた仲間達は、もっと程良く、心まで暖まる一時を過ごす。
「うん、暖かくて、甘くて、それこそ芸術的に美味しいねぇ! ほら、アンタ達も、温まるならこういう方がいいだろ?」
 千尋に勧められ、片付けを手伝った元信者達もまた、その温もりを囲んでいく。
 こうして、やたら激しいビルシャナの騒動は、穏やかな終わりを迎えるのであった。

作者:深淵どっと 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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