病魔根絶計画~譲れ得ぬ一線の攻防

作者:七凪臣

●きらきら、ぴかぴか
「元はと言えばっ、父さんが薄毛なのが悪いんだろおっ!」
 備え付けのベットの上に仁王立ちした青年は、ミシミシと金属を鳴かせ、殴り倒した初老の男を睥睨した。
「やめろ、吉良。落ち着くんだ! 父さんにあたっても――」
「五月蠅いな! 母さん似の兄さんには、僕の気持ちは分からないんだ!」
 今にもベッドを飛び降り『父』に掴みかかりそうな勢いの『吉良』を、『兄さん』と呼ばれた青年が必死に押さえつける。
「そもそも、吉良って名前もダメなんだ。吉良だよ? キラ! キラキラ!! 将来、頭がキラキラする呪いみたいじゃないか!」
 ……。
「あぁ、そうだ。ふさふさの兄さんの髪を毟って食べたら、僕の髪も増えるよね……?」
 ……。
「ねぇ、兄さん。可哀想な僕の為に、その髪をくれよ……ふさふさブラザーズ、いいじゃない」
「落ち着け、落ち着くんだ、吉良! 頼むからっ」
 むんずと髪を掴まれ痛みに顔を歪めながら、兄は吉良を制し続ける。今の吉良は正気ではない――否、普通ではない。厄介な病に罹った患者なのだ。
「すまない、すまない……俺が禿げてるばっかりに……」
 殴られた頬を赤くし、倒れた時に強かに打ったのだろう腰を摩りながら父が頭を垂れる。
「ごめんね、ごめんね、吉良。わたしがもっとふさふさに生んであげてたら……っ」
 固く閉ざされた白い部屋の片隅で、母と思しき女性も涙にくれる。
「兄さん、にいさん。髪を、くれよ。いいよね? いいよね?」
「吉良っ、お前は未だ大丈夫だってっ。ほんの少し後退してるだけだ。未だ、間に合うって!!」
「……!! その、ほんの少しが!! あっという間に、つるっぱげになるんだよぉ!!」

 ――松南吉良、32歳。独身。
 同僚の髪を毟って怪我をさせた彼は今、隔離病棟に収容されている。
 彼の身を蝕んでいる病魔の名は『ハゲロフォビア』。
 体毛が失われる事への恐怖を病的に煽り立てる病魔である。

●他人事に非ず! 明日は我が身かもしんないしっ!!
 ……ふぅ。
 一度大きく深呼吸したリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は、自らの長い髪を緩く撫でてからケルベロス達に向き直った。
「病院の医師の皆さんやウィッチドクターの方々の頑張りのお陰で、『ハゲロフォビア』という病気を根絶する準備が整いました。皆さんにはこの病魔退治をお願いします」
 現在、この病に罹った患者たちは大病院に集められ、病魔との戦闘準備が進められている。ケルベロス達に対処して貰いたいのは、この中でも特に強い『重篤患者の病魔』だ。
 彼らの病魔を一体残らず退治できれば、この病は根絶され、二度と同じ病に苦しむ者は現れない。
「デウスエクスとの戦いと比較すると、決して緊急性の高い依頼というわけではありませんが……こう、何というか。切実な問題だと思いますのでっ。皆さんには何としても、今回での根絶をお願いしたいんですっ」
 ……リザベッタの口調に変な力が入ってるように感じるのは、気のせいではナイ。
 だってリザベッタも男の子。将来が気にならない訳ではないのだ。若い頃に長髪だと禿げる、なんて都市伝説的な噂も耳にしたことあるし(根拠がなくても、怖いものは怖い)。
 斯くてリザベッタは拳を固く握り、松南吉良という青年に宿っている病魔について語り出す。
「攻撃方法は、ハゲビームにハゲフラッシュ、ハゲタップダンスです。詳しくは、雰囲気で察して下さい……」
 ハゲハゲ連呼するうちに、気が重くなってきたのか、リザベッタは俯いてしまう。だが思い出した光明に、少年はぱっと顔を上げた。
「えっと、ですね。今回はこの病魔への『個別耐性』を得られると、戦いを有利に進める事が出来るんでした!」
 個別耐性。
 それは患者の看病をしたり、話し相手になったり、慰問などで元気づける事で一時的に得られるものであり、問題の病魔から受けるダメージが減少するという効果をもつもの。
「今回の病魔だと、ハゲへの恐怖心を和らげる事が重要になると思います!」
 例えば、ハゲても大丈夫だとか。説得力のある(真偽はこの際、気にしない)ハゲの進行を食い止める方法を伝授する、とか。
「優しく話し相手になってあげるのも有効かもしれません。大事なのは、松南さんの心を揺さぶる事です! あ、絶望方向へではないですからねっ! 希望方向へですからねっ」
 ぐぐっと拳を握ってそう説いた後、開いた手で再び髪をいじったリザベッタは真顔で締め括る。
「誰しも他人事ではないと思うんです。ですから、どうか――皆さん、何としても。宜しくお願いします」


参加者
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
朔望・月(既朔・e03199)
遊戯宮・水流(勝負師・e07205)
八月朔日・頃子(愛喰らい・e09990)
ネフィリム・メーアヒェン(機械人間は伝奇梟の夢を見るか・e14343)
白井・敏(毒盃・e15003)
比良坂・冥(虚の匣は溶鉱炉色した赫の殻・e27529)
桂・房子(スキンヘッドガール・e41553)

■リプレイ

 お供の梟『グリム』を肩に、林檎の様な赤い瞳を輝かせてネフィリム・メーアヒェン(機械人間は伝奇梟の夢を見るか・e14343)は朗々と謡う。
 いやはや、何と恐ろしい病魔。死に至る絶望と言うけれど、今回のはまさにそうなのかもしれない。
「繊細な年頃の男子の心に巣食う恐ろしい魔の病ってトコかね」
 本来、病魔関係は専門外だが。ココは一発励まして(notハゲ増す)やろうかと、ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)は鉄格子が嵌った扉を見据える――その傍らで。
「どこからどう見ても美少女!」
 流れ落ちる清水が如き長い髪は、三つ編みカチューシャにふんわりウェーブ。自然色ふわふわんな森ガール衣装に身を包んだ遊戯宮・水流(勝負師・e07205)は、最終チェックに余念がナイ。
「ボクカワイイ! ネ、冥さん?」
「うん、うん。水流ちゃん、かわいいよー」
 だって見た目は完全美少女な水流は、その実、ちゃんと男子。バレて毟られるのは遠慮願いたい。まぁ、賭け友な比良坂・冥(虚の匣は溶鉱炉色した赫の殻・e27529)も太鼓判だし、多分大丈夫(尚、この信頼が後に裏切られる事を予告しておく)。
 ともあれ、時は至れり。
「はーい、院長回診―」
 TVドラマ宜しく白井・敏(毒盃・e15003)が施術黒衣をばさぁっと翻し、病室のドアを開ければ悲喜劇は幕を上げる!

●男児の訴え
「髪の毛無い事が絶望するべき事か? マジで? この髪の毛一本もないあたしが絶望しているように見えんの?」
 がらがら、どーん、ぴかーん。
 入室するや否や、磊落に笑う桂・房子(スキンヘッドガール・e41553)に吉良の思考は一旦停止。
 房子、その称号が示す通りに完全スキンヘッド。ぴかーん。だが、彼女は『女』であり、うら若き乙女。
「え、え?」
 いっそ出オチ状態。度肝を抜かれた吉良はほぼ放心。その空隙にすかさずネフィリムが滑り込む。
「やあやあ御機嫌よう! 安心し給え、ボクは決して怪しい者ではないよ?」
 自分で『怪しい者じゃない』と言う人に限って……というのは以下略し、ネフィリムは自らを『古今東西の叡智を求めるしがない語り部』と名乗り、欠かさぬ情報収集の内には君の求めるものもあるかも知れない、と吉良の気を惹こうと試みた。
「っ!」
 まさに正攻法。お陰で吉良、衝撃から我に返る。
「髪! お前がふさふさだから俺がキラキラになるんだっ、寄越せぇ」
 返った序に、ハゲロフォビアの発作が。しかし――。
「ヒトのせいにすなーー!」
 何処からともなく取り出したハリセンで、敏が一喝。
「ともかく落ち着かんかーーーい!!! そんなことで男の価値は下がらへーーん!」
 オマケにもう一発。持ち前の情熱で、明るく楽しくスパルタ講義開始。
「阿呆なこと言いな。ハゲるハゲる思とった方が余計ストレスになってハゲるやろが。一番エエんは髪がどうとか考えるんをやめること!」
「い、院長先生……」
 どうやら敏を院長だと信じてしまったらしい吉良、どうせなら前向きに! と叱咤され、ハリセンを喰らった頭部を摩る。ちょっと頼りない手触り、うっ。だが今度は我に返られる前に、ダレンがチャラく肩を組み寄せた。
「うんうん。当たり前にあったモノが無くなるってのは確かに不安だよな。ちょいと運が悪かったばっかりに……ってのも納得いかないだろうしさ」
 でも、吉良の全てが失われるワケじゃない。イイところや、誰かに誇れるところは、変わらず吉良のモノ。胸を張れ。
 上げるダレンの弁に、吉良の頬に赤みが差す。が、
「髪のコトで塞ぎ込んで、自分の可能性を捨てちまうのは不毛だと思わないか? まだやりたいことだって、行きたいトコだってあるだろ? アンタが逃げたり、心折れたりしさえしなけりゃ――」
「今、不毛って言った! 毛を否定したっ!」
 後半は耳に入らなかったらしい吉良、ダレンを思い切り跳ね除ける。そして「落ち着けゆーてるやろぉ!」と敏に一発貰い、「ずびばぜん」と押し黙るまでが既にお約束化(院長先生のお言葉には従ってしまう日本人属性)。
「まぁ、対策は早いに越した事はない。吉良君は未だ若く、嘆くには早過ぎる」
 かくて、ケルベロスだから困った人々に手を差し伸べるのは当然と、ネフィリムは先ほど中断した知識を吉良へ分け与え始めた(ただし、ふさふさ毟られるのを危惧しグリムは念の為避難)。
 その一、例えば食べ物。
 頭皮に良いのは納豆や乳製品。この時期なら牡蠣も美味い。野菜も確り摂るのが大事。
「……ふむ、肉は駄目か」
「え!?」
 その二、生活習慣。
 運動や睡眠も大事。規則正しい生活は身を守ると同じに、頭皮も守る。難しく感じても、案じる事はない。全ては気分の問題、直ぐ慣れる。
「まぁ、ボクは御免だけれど!」
「っ! やっぱり他人事じゃないかー!」
 語られる内容は有り難い限りだったけど、要所要所で入るネフィリム自身の感想に、吉良絶望(でも心が動いているのは間違いない。だってずっとメモってたもの)。そんな心に、冥はそっと忍び寄る。
「お兄さんと違うの辛いよねぇ。俺もさ、双子の弟がいてさ……語ると長くなるから略すけど、『違う』のが寂しかったわ」
 時間が許すならツラツラ語っちゃいたい弟の美点。でも、冥にとっての『弟』は最早、崇拝・宗教の域。
(「あ、でも。褒める所探すの難し……ごめん天。俺はちゃんと天が大切だったよ」)
「……あのぉ、それで?」
 全て同じが良かったくらいの勢いだから、うっかり浸りかけちゃった冥。吉良の存在を忘却しかけた!
「あぁ、ごめん。あのね、俺の弟はもう死んじゃってんの。吉良ちゃんのお兄さん生きてて、目一杯心配してくれてるんでしょ? オジサン、羨ましいや」
「!!」
 胸に抱えた彼是はきゃるんと秘した冥の弁に、吉良の瞳に涙が滲む。なにそれ美しき兄弟愛!
「ウンウン、心配してくれる家族っていいヨネ。弟に妹、どっちも可愛いヨ」
「俺の弟だって可愛い……は、言うと怒りそうね。何しろ同じ顔だし」
「じゃア。冥さんは、弟さんが禿げたらどうするノ?」
「勿論、毟って合わせる」
「何で即答。何その澄んだ瞳。そこは弟を引き上げてヨ!」
 なんやかんやで繰り広げられる冥と水流による家族愛劇(度が過ぎているのは否めないと断言しよう)。ツッコミ入れつつも、水流自身も家族愛揺るがぬ身なので、不可思議な家族愛が病室に満ち。吉良の心からハゲへの恐怖が薄らぎかける。これぞインパクトパワー!?
(「今ですね」)
(「えぇ、そのようですわね」)
 その様子に、朔望・月(既朔・e03199)と八月朔日・頃子(愛喰らい・e09990)は顔を見合わせた。

●乙女の誘惑
「大丈夫? 汗かいてるヨ」
 森ガール水流、吉良の汗を拭って、落ち着くように緑茶を勧め。
「今の時代、髪の相談に乗ってくれるトコは充実してるヨ。フサフササラサラツヤツヤ自由自在! プロに相談してオマカセ! 悲観するコトないさ! 元よりビッグにばーんって! ばーんって!」
 にこにこ可憐な笑顔に吉良もつられてにっこり。だ、がっ!
「そうそうカツラに凝って水流ちゃんみたいに突き抜けるのもありかもよ? この子、男の娘だから。そういやおとーさん俺より若いんだっけ。ってか弟さんも女装なの!?」
「え」
「冥さん!?」
 はい、さり気ない冥の裏切り☆ 吉良、衝撃の事実に再び呆然。水流、反射で頭を押さえる。
「おとこ、の、こ……?」
 だが安心して下さい。序盤だったら確かに毟られてたかもしれないけど、男性陣のあれこれに吉良の心は既に落ち着き始めていた。だから水流が「ボクの父さん中性的で格好良くて良かった」なんて心中で思ってるのに気付かないし、実際弟も女装男子なのや、父がいつまでも少年の心を持ったフリーダムアラフォーなのを告白してもたじろがなかった(むしろ、たじろいで欲しい)!
 しかし。
「松南さん。貴方が心を患ったのは、貴方自身(の髪)に対して強いコンプレックスを持っているから」
 ゆっくり歩み寄る月に、何故か心臓ドキン。
「マイナスと思われがちなコンプレックスですが、人はコンプレックスがあるからこそ、乗り越え上回る力を人は得る事が出来るのです!」
 おかしい、身に着けた衣服など『形』は青年なのに。月の赤い瞳に、吉良は惑う。
「負の感情を持っても構いません。けれど、それでも前を向いて欲しい。貴方自身が良いと思う新しい世界を作る力にして欲しいです――いえ、むしろ」
 貴方が先頭に立ち(髪の後退に恐怖を覚えてしまう)世界を、(髪の後退に肯定的かつ好意的にとらえてもらえる世界に)作り変えるべく、積極的に動いていけばいい。
「大丈夫です、僕らがケルベロスとして世界を守る力があるように、松南さんにだって世界を変える力があるのですから」
「……君っ」
 ちょいちょい透ける括弧内の危険区域に、吉良は思い切り目を瞑った。ってか、何だかできる気がしてきてた。
 薄毛の人の為の、薄毛の人による、薄毛の人の世界を作ることが!
「それに……自分勝手な物言いに聞こえるかもしれませんけれど。僕、松南さん……吉良さんの髪型、好きですよ? かっこいいと思うのですよ?」
 そして月は脆いものに触れるよう、吉良の(後退しかけてる)おでこを撫で――そっと口付けを落とす。
「だから、元気出して下さいね?」
「!!」
 吉良の衝撃は声にならなかった。何か違う方向に目覚めてしまいそうとか本人、頭に血が上ったけど大丈夫。月、水流と逆の男装の麗人なだけだから。つまり女性。
「頃子だって、あと数年もしたらお嫁さんに行くこともできますの。立派なレディですの」
 そんな吉良へ、全身を乙女オーラでキラッキラ(頭頂部に非ず)させた頃子が畳み掛けるぅ。
「吉良様、貴方様は今のままで素敵ですわ。今は気になり過ぎてらっしゃるからこそ、気持ちが荒れているかもしれませんが、そんなことは些末事ですの。だって、皆様が仰って下さったように対策もポジティブな捉え方もたくさんありますわ!」
 くるり、紫の髪に指を絡め。きらり、花色の瞳を瞬かせ。頃子、14歳。恥じらいつつ、毛髪など気にせずとも結婚相手として十分なポテンシャルだと吉良に説く。
「だから、残るのは優しい貴方様。食べちゃいたいくらい素敵な、家族想いの吉良様です。お元気出して下さいませ」
 ロリコンと言う別問題が発生する年齢差ゆえ、ぶっちゃけ恋愛対象外だけど。頃子、そこは今だけ完スルー!
「あぁ、うん。そうだね、髪なんて、いいかな。こんな可愛い子がいつかお嫁に来てくれるなら……」
 そうとは知らぬ吉良、篭絡された。
 それに。
「あのな、地毛な無いってのは、その分自由って事だぜ?」
 持ち込んだカツラコレクションを見せびらかし、様々なスタイルが自在であるのを房子が見せつければ、おじさんお終い。
「病気のせいで、こういうの楽しめないほど怖いんだっけ? なら、あたしらがなんとかしてやるからさ、その後にスタイル変更自由の魅力が分かるか聞かせてくれよ」
 フォローに向かない自覚のある房子の精一杯。自分が自分である要素の一部を恐れる人を勇気づけたいという想いを受け取り、吉良は涙した。
「うん。うん……そうだよね。女の子の君が、ハゲでも立派に生きているんだっ。おじさん、おじさんっ」
 吉良、おいおい号泣。その激しさを、先ほどとは別の意味で敏が押さえ。ネフィリムは事の顛末を終始記録(字が汚過ぎて本人以外は解読不能)していたペンをそっと置いた。

●病魔滅殺っ
 個別耐性ゲット十分。陣形、問題無し。自陣への命中力や自浄作用の加護付与、敵へは動きの縛めや回復阻害撒きも万全。これの何処に、ケルベロスが敗北する要因があろうか。いや、ない。完膚なきまでに、無い!
 かくて、『けったいなやっちゃな……』と敏に評されたテルテル坊主的な病魔は、顕現して間もなく窮地に追いやられた。
「だぁああ!!? しつこいなぁ。いつまでクソふざけた動きしよるん……」
 赤い花咲かす攻性植物を繰った敏は、実年齢より老いて見える顔を渋らせ淀む息を吐く。だって、ぴかーっとか、ぺかーっとか、無駄に軽やかな足捌きとか、バカにされてるみたいで腹立たしい。
「えー。そういう時は……こうでしょっ!」
 えい。
 何を思ったか(というより、皆やりたかったに違いない)。冥、魂喰らう一撃を仕掛ける序に、ハゲロフォビアに足をかけた。
 こてん。
 そして敵、華麗にすっ転んだ。でも相手もただでは起きない。ぺかーっと放たれたフラッシュはケルベロス達の目を灼く。水流、サングラスかけて防御。あくまで気分的なものだけど。
「大丈夫でしたか?」
「うん、アリガトー!」
 実際は月と、桜色の髪をしたビハインドの櫻が庇ってくれたわけで。
「まぁ、ケルベロスの正義が敗北しよう筈もないのだけどね!」
 余裕を笑みに刻み、ネフィリムは脳細胞の強化で味方の破壊力上昇に貢献し続け。その恩恵に与った水流は赤と黒のツートンカラーのトランプの舞で面白敵の余力をがっつり削り。付き従うびっくり箱なミミックのびーちゃんも負けじとがぶがぶ。
「お覚悟あそばせ。困った病魔なんて、全部食べてやりますの!」
 消化に悪そうとか、美味しくなさそう、なんて感想はさておき。頃子は手袋を外し、地獄の炎を吹かす両腕で放つ炎弾でデウスエクスの生命力を咀嚼し、テレビウムのじょーかーもフラッシュ返しで敵を翻弄。
 戦いは、ほんとあっと言う間。
「房子ぉ、デビュー祝いだ!」
 前線で誰よりも病魔の力を削いだダレンが、最後の瞬間を前にふらりと身を引く。これが初陣となる房子。ならば仕上げを託すのも、良き経験となるだろう。
 ダレンの判断を冥も「桂ちゃん、やっちゃえー」と後押しする。
 断る理由はなかった。然して房子は流星と化す。
「悪趣味野郎には、相応の結末だぜ」
 キラン(房子の一撃が決まる音)。
 きらーん(ハゲロフォビアが星になる音)。

「あと髪喰っても髪増えへんからせめて亜鉛摂れ、亜鉛。あと頭を冷やすな、蒸らすな、一日一回マッサージ!」
「はいっ、院長先生っ」
「アンタ今、眩しいぐらいに輝いてるぜ!」
「はっはっは。禁句ももう怖くありませんとも!」
 病魔を滅され、吉良は全力全快モード。敏の教えに逐一頷き、ダレンの言葉に広めのおでこを眩く輝かす余裕を勝ち得た。
 なんだか世界が開けた気分。もう髪と日々おさらばするのも怖くない。だって、例えスキンヘッドになってしまっても、人生は終わりじゃないと知ったから。
「僕も君みたいに、色々楽しんでみる事にするよ」
「……あぁ、そうしてくれ」
 別れ際、お薦めのカツラ店があったら教えてと白い歯を見せた吉良に、房子は笑い返した。

 あっ、でも。
 月と頃子はそそくさ帰った方がいいかも!
 正気に戻った吉良に、ガチで本気になられちゃう前に☆

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月28日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 6
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