ミッション破壊作戦~戦え鳥お化け!

作者:柊暮葉



「十一月に入り、ミッション破壊作戦で使用したグラディウスが再使用可能となりました」
 セリカ・リュミエールが集めたケルベロス達に説明を開始する。
「グラディウスについて知らない人もいるかもしれないので……。『グラディウス』は、長さ70cm程の『光る小剣型の兵器』ですが、通常の武器としては使用できません。その代わり、『強襲型魔空回廊』を破壊する事が可能なので、デウスエクスの地上侵攻に大きな楔を打ち込むことができるでしょう。グラディウスは一度使用すると、グラビティ・チェインを吸収して再び使用できるようになるまで、かなりの時間が掛かるようです。攻撃するミッションについては、現在の状況などを踏まえて、相談して決めてください。今回のミッションはビルシャナの区域です」


 セリカは説明を続ける。
「強襲型魔空回廊があるのは、ミッション地域の中枢となる為、通常の方法で辿りつくのは難しいでしょう。場合によっては、敵に貴重なグラディウスを奪われる危険もあるため、今回は『ヘリオンを利用した高空からの降下作戦』を行います。強襲型魔空回廊の周囲は、半径30m程度のドーム型のバリアで囲われており、このバリアにグラディウスを触れさせれば良いので、高空からの降下であっても、充分に攻撃が可能です。……倒すべき敵の頭の上に降下とかは不可能ですからね」
「8人のケルベロスが、グラビティを極限まで高めた状態でグラディウスを使用し、強襲型魔空回廊に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊する事すら可能です。一回の降下作戦で破壊できなくても、ダメージは蓄積するため、最大でも10回程度の降下作戦を行えば、強襲型魔空回廊を確実に破壊する事ができると思われます。強襲型魔空回廊の周囲には、強力な護衛戦力が存在しますが、高高度からの降下攻撃を防ぐ事は出来ません」
「グラディウスは攻撃時に雷光と爆炎を発生させます。この雷光と爆炎は、グラディウスを所持している者以外に無差別に襲いかかるため、強襲型魔空回廊の防衛を担っている精鋭部隊であっても防ぐ手段はありません。皆さんは、この雷光と爆炎によって発生するスモークを利用して、その場から撤退を行ってください。貴重な武器であるグラディウスを持ち帰る事も、今回の作戦の重要な目的となります」


 セリカは資料を開いてケルベロス達に見せた。
「魔空回廊の護衛部隊は、グラディウスの攻撃の余波である程度無力化できます。が、完全に無力化する事は不可能なので、強力な敵との戦闘は免れません。幸い、混乱する敵が連携をとって攻撃を行ってくる事はありませんので、素早く目の前の強敵を倒して撤退できるようにしていきましょう。時間が掛かりすぎて、脱出する前に敵が態勢を整えてしまった場合は、降伏するか暴走して撤退するしか手が無くなるかもしれません。攻撃するミッション地域ごとに、現れる敵の特色があると思うので、攻撃する場所を選ぶときの参考にするのも良いでしょう」


 最後にセリカはこう締めくくった。
「デウスエクスの前線基地となっているミッション地域を解放するこの作戦は、とても重要です。ご武運を祈ります」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320)
イアニス・ユーグ(錆付き・e18749)
フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
マナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)
パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)

■リプレイ

 島根県松江市。
 古代より出雲国と呼ばれ、『黄泉比良坂』などの神話の名を残し、熊野大社や神魂神社、美保神社などが並び立つ、神話の土地--そびえ立つ松江城も美しい、水の都。
 そこは現在ビルシャナ壊塵明王の手に落ちていた。

 ヘリオンで急行しながら、ケルベロス達は強襲魔空回廊を取り囲む半径30メートルほどのドームを見下ろしていた。
 日本人の魂である神話の土地をデウスエクスに侵略されていると思うと、なんとも言えない想いが込み上がってくる。
「怪鳥の僧侶もどき共が、好き勝手にやってくれるよな。本当によ」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が吐き捨てるように言った。
「争いを生むのはグラビティ・チェインじゃない。それを付け狙う……お前等の欲望だ。お前の言葉は責任転嫁。もっとわかりやすく言うと……ただの言いがかり? その程度の修業じゃまだまだ。魂のふるさとに帰って、修行やり直して来るといい」
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)も無表情のまま淡々と言う。
 そこでハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)が語り始めた。
「故郷はデウスエクスに滅ぼされた。親しき友も優しき両親も最愛の姉も命を奪われた。それこそが私の原点。『地球の破壊こそ至高』などというふざけた教義の下に、破壊を繰り返すビルシャナ。地球は我ら全ての故郷、母なる星。お前たちはそれすらも奪おうというのか。捨て置くことはできない。その破壊は新たなる私を生むだろう。同じ想いを無辜の人々に抱かせてはならない。俺が全てを失って手に入れた想いと力。全てを込めてこの場を断ち切る」
 言葉を紡ぎながらハルは懸命に感情を抑え込んでいるようだった。
「ちゃて、今回もミッション破壊でちけど、今回はビルシャナでちね。でも、誰が居ようと、あちしは、遂行ちゅるのみでち」
 パティ・ポップ(溝鼠行進曲・e11320)は自分のペースを崩さずにそう言った。
 パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)はロープで体とグラディウスを繋いだ。
「せっかくいい温泉があるっていうのにこんなところに魔空回廊を開くなんて迷惑極まりないね……」
 思わずため息をつくパフェットだった。

 ドームが正に真下に迫る。
 ヘリオンの降下口が開く。
 グラディウスを構え、真っ先に降下したのは鬼人だった。
「地球を破壊、ね。こいつらにしたら、地球はただの餌場かもしれないが、俺達にとっては掛替えのない大切なものなんだよ。そいつを破壊するってのは聞き捨てならねぇ! 大切な物が壊される悲しみと恐怖、刻んでやるぜ! 奥義、我流剣術『鬼砕き』! 砕け散りやがれ!」
 一番最初にエアライドしながらグラディウスを携え、ドームめがけて急降下していく。
 グラディウスがドームに触れた瞬間、激しい爆炎と雷光が巻き起こる。
 続いてハルが飛び降りる。
 全ての心情、想いを血肉に変えてきた彼は、グラディウスを構えてドームにオチながら、ただ一言、込められたものを解き放つように叫ぶ。
「とどけぇーーーーーッ!!!」
 魂の絶叫とともに、またしても炎と光と煙が彼と周囲を包み込む。
「今回はここの地域を開放ちゅるでち!」
「あちしはどんなときでも全力でち!!」
「出雲大社とか、いろいろ見ておきたいところもあるでちけど、まずは、ビルシャナでち!!」
「今回のビルシャナのちている破壊だけは絶対止めるでちー!!」
 続けざまに叫びながらパティもヘリオンからドームへと急降下!
 雷光と煙が発生。
「自分の狂った信条のために地球人を殺し、あげく重力の鎖さえも要らないだなんて当に鳥頭だな。ここで破壊された家族、友人、大切な“絆”の分だけ、俺の下にある回廊ごと貴様ら全部ぶっ壊してやる。本望だろ」
 イアニス・ユーグ(錆付き・e18749)は激しい叫びを上げながらドームへと降下。
 彼は意味の無い破壊が気に食わない。イアニスは、友達、主僕、兄弟、家族の絆を形は違えど破壊されているのだ。彼のアクセサリーの金時計はその時のものである。
「そうね……あたしが地球に来て思った事。地球を飛んで廻ってみた事を伝えるわ。地球はとても良い所よー! 自然も! 文化も! 人も! 素敵な物が一杯ある! オムライスも美味しい! この地球にはたくさんの喜びが詰まってるわーーー!!」
 フレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)は、ビルシャナの教義に真っ向から対立する叫びを心から上げると、光の翼を広げてドームへと降りていく。地球を巡り見て来たものを思い出した彼女は、とても楽しげだった。
 同時に、敵の破壊の意志そのものを粉砕する勢いであった。
「水の恵みと神話の地、松江を今こそ取り戻す! 宍道湖や中海の恵みは、生命を育む揺り籠。ビルシャナのものではない! 松江城をはじめとする歴史ある遺産、これ以上壊させない! お前ら…黄泉比良坂から地獄送りだ!」
 グラディウスを構えて魂の叫びを上げ、リティもドームへ急降下していく。
「これ以上、私が味わった悲しみを味わう人を減らすためにも、どうか私の想いが、力が、未来の助けになりますように!」
 ミッションが初めてのマナ・ティアーユ(エロトピア・e39327)も、勇気を奮い起こしてヘリオンから飛び立つ。
 自分の知っている自分の中の大きな気持ち。愛の幸せと喪失。それらを想像するマナ。きっとビルシャナと出会ったことで、これから先にあった愛の幸せ、あったはずの愛の幸せを失った人達がいるはずだ。そう思うと、グラディウスを握る手に自然と強い力が入る。
「あのさ! ここには温泉とかパワースポットとか行きたい所がいっぱいあるのに邪魔なんだけど! それにこの地球を壊してどうするつもり!? 何も無くなった世界で平和になっても何の意味もない! わたしが来た以上、あなたなんかにこれ以上好きにはさせない!」
 連続して飛び降りたケルベロス達のグラディウスによる攻撃。
 そのため、ドームは凄まじい轟音とともに、爆炎と雷光を放ち続け、今や雲海のような煙を噴き上げていた。
 スモークは風によりケルベロス達の方へと吹き流れている。
 その風がたなびく中、やがて、そこにはヘリオンから見下ろした時と変わらないドームの姿が現れた。

「破壊……ならず……!」
 鬼人が思わずと言ったように声を上げる。
「想定内だ。撤退戦に移行する」
 ハルはそう言いながらも無念そうだった。
「早めに撤退ちゅるでち!!」
 パティも同意する。
 鬼人は使い終わったグラディウスを落とさないようにベルトに固定した。
 ハルは装備していたケースにグラディウスをしまい込み、退路を確認する。
 ルートはフレックが事前に調べて仲間達に伝えていた。
 リティがそのルートへ向かって走り出し、ケルベロス達は速やかにその場から撤退を開始した。
(「そういや、このミッションを守っている技術って、デウスエクス達全員が同じ物を使っているのか?同じグラディウスで破壊できるってのもそうだが、もしかしたら、源流は同じ技術で作られてるのかも知れないな。ふざけた奴のビルシャナも、悟りの啓き方によって全然違うんだな。この作戦でミッションは破壊できないかも知れないが…。次には繋がるぜ」)
 鬼人はそんなことを考えていた。
 そのとき、濛々とたなびくスモークの中に、重い足音が響き渡った。
 爆煙の中から羽毛に覆われた僧衣のデウスエクスが現れる。
 鳥の目がケルベロス一人一人を凝視する。

「敵、来ます! 真夜も無理しないでね」
 マナが声を張り上げる。
 彼女のビハインド、真夜が主人を守って前に立つ。
「もう! ポーズを決めてる時間すらないなんて!」
 魔法少女として悲鳴を上げるパフェット。

 ビルシャナ・壊塵明王は煙の中から現れると、おもむろに羽毛を広げていく。
 壊塵光翼の圧倒的な破壊の衝撃、そして燃え立つ火炎の熱風がケルベロス達に襲いかかる。
 鬼人、ハル、イアニス、フレックはたまらず地面に叩きつけられ燃え上がった。
 パフェットも衝撃を受けて転んだ。
 戦慄するケルベロス達の前で、壊塵明王は破滅の舞踏を踊り上げる。
 みるみる増していくビルシャナの力。

『敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します』
 リティはスカウトドローンで小型機の群れを展開し、敵の分析を行いながら仲間達をヒールしていく。
 マナはオウガ粒子を放出して仲間達の超感覚を目覚めさせ、同時に回復を行った。
 真夜は金縛りを飛ばす。
 フレックは立ち上がると壊塵明王に向かい、雷の霊力を帯びた刃で突撃を行った。
 イアニスは卓越した技量の一撃で壊塵明王を凍らせようとする。
 鬼人は刀でそれらの傷をなぞり上げ、傷の威力を増した。

『我が内なる刃は集う。無明を断ち切る刹那の閃き、絶望を切り裂く終わりの剣…! 久遠の刹那(ブレードライズ・エーヴィヒカイト)ッ!!』

 ハルは殺界に己の心を映し、自らの領域を作り出す奥義、ブレードライズを実行。その殺界に内包する無数の刀、斬霊刀と共に舞う刃をたった一つの標的、ビルシャナに目掛け一斉掃射。同時に自ら手にした刃で標的を滅多切りにしていく。
 パティは螺旋をこめた手で壊塵明王に軽く触れ、内部を破壊しようとする。
 パフェットは黒太陽を具現化し、絶望の黒い光で壊塵明王を照らし出した。

 度重なる攻撃に対して壊塵明王は立ちすくんだようだった。
 その体を痙攣させ、羽毛をわななかせながら、一声、未明の鶏のように叫ぶ。
 そして羽毛を広げると再び壊塵光翼を行った。
 一度は回復したケルベロス前衛達がまた吹っ飛んで燃え上がる。
 さらに、倒れ伏したハルに向かってビルシャナは飛びかかり、蹴り上げ、壊塵脚を行っていく。
 それは強化されたデウスエクスの圧倒的な強さであった。

 リティは再びスカウトドローンを展開して味方を守り、力を高めようとする。
 マナはオラトリオのオーロラのような光で味方を包み込んで必死に回復を行った。
 真夜が賢明にビハインドアタックを行う。
 フレックは辛うじて立ち上がると、光の翼を暴走させる。
 全身を光の粒子に変えて、壊塵明王へと決死の特攻を行うフレック。
「何だか悲しいわね。彼らだって元は地球人なのになんで地球を壊せというのかしら。オラトリオ達だって命と全てを掛けて地球を守ってくれたというのに、ね。だからこそ貴方は哀しいわ。まして…其れだけの武を誇っているのにその結論に達する事が特にね」
 光の粒子に変わりながらもフレックはさながら涙を流しているようだった。
 鬼人は少しでも動きを捕らえようと、緩やかに弧を描く斬撃でビルシャナへ刃向かう。
 パティはローラーダッシュの摩擦熱を利用しながら壊塵明王を蹴り上げ膝を燃やす。
 パフェットはマインドリングから光の戦輪を呼び出すと、距離を取りつつ壊塵明王へと投げ飛ばす。
 ハルは肩をふらつかせながら立ち上がり、壊塵明王へと迫ると傷口をなぞり上げて威力を増した。

 壊塵明王は怒りの雄叫びを上げて憎悪の瞳をケルベロスへと向ける。
 膨れあがる羽毛。
 次に叩きつけられるのは壊塵光翼か、壊塵脚か。

 イアニスは攻性植物をツルクサの茂みの如く変化させ、壊塵明王へと襲いかからせる。
 ツルクサに全身を絡め取られる壊塵明王。
 再び、怒りの雄叫び。

 イアニスがストラグルヴァインを決めたところで、フレックが走り込む。

『ソラナキ…唯一あたしを認めあたしが認めた魔剣よ…今こそその力を解放し…我が敵に示せ…時さえ刻むその刃を…!』
 時刻みにより、魔剣で時空間ごとデウスエクスを切り裂くフレック。
 壊塵明王は切り裂かれた事にすら気づかず、怪鳥の囀りをつづけながらフレックへと壊塵脚を行おうとする。

 そこで鬼人が動く。
『我流剣術「鬼砕き」、食らいやがれ!』
 刹那の間に、左切り上げ・右薙ぎ・袈裟の順に斬り、その三撃の刃筋が重なる中心を刺突でぶち抜く荒業によって、壊塵明王の喉笛から鮮血を噴き上げさせた。

「急いで!」
 リティが声を上げ、パティ、パフェットが彼女とともに退路を走る。
 ケルベロス達は一斉に撤退を開始した。

 その体に、明日を切り開く剣『グラディウス』をまとって。
 惜しくも魔空回廊の破壊には至らなかった。
 だが、この小さな剣さえあれば、明日への希望へ繋げていける。
 いつか、魔空回廊を破壊し、この神話の土地を人の手に取り戻す事が出来るのだ。

 ダメージは確実に蓄積されている。
 その『明日』は、必ずやってくる。
 そのことを祈り、信じ、ケルベロス達は爆煙の中を駆け抜けて行った。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。