煙る花霞

作者:皆川皐月

●煙に紫あり
 夜。風の無いビルの上、一人の男が煙を吐いた。
 一吹きで形を変え、踊り、時にぶつかり合うそれは電子タバコの煙である。
 スモークトリックと呼ばれて話題となり、最近は儚き芸術と称される技の数々だ。
 重ねられた煙は甘く香り、翻るそれは薄絹のような繊細さ。
 煙を吐き切った男、霧払・薫に女の影が被る。
「その煙使い……。あなたには才能がある。人間にしておくのは勿体ない程の……」
 しゃらりと装飾が擦れ合う音と、小さく笑う女の声。
「煩いな」
 影を一瞥して舌打ちした薫が、女を無視して再び電子タバコに口をつけた。
 直後、紫炎に抱かれた薫の全てが瞬く間に焼き尽くされる。
「ねぇ、良いと思わない?炎と煙というのはね、切れぬ縁があるものなのよ」
 女、紫のカリムが一笑に付し男をエインヘリアルへ作り替えた。
 煙を纏い立ち上がる影。
 その丈、約3メートル。正に異形。
 異形はカリムを見下ろした後、ゆっくり膝をつく。
「人間を襲ってグラビティ・チェインを奪いなさい」
 上手く出来たら、後で迎えに来るから。微笑み促したカリムに一礼した巨躯が、眼下の街へと音もなく飛び降りた。

●白煙の
「みんな大変です!炎彩使いのカリムの動きが察知されました!」
 ケルベロスの集まった部屋へ、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が飛び込んできた。
 炎彩使いと称されたシャイターン達が死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルにするという。
 生み出されたエインヘリアル達は皆々グラビティ・チェインが枯渇しているとも。
「今回のエインヘリアルもグラビティ・チェインを獲るために沢山の人を殺そうとしてるんです。急いでエインヘリアルを倒してください!」
 では、説明をはじめます!と情報を確認したねむが一つ一つ指折り数えながら、事件の現場とエインヘリアルについて話し始める。
 現場は高層ビル群に挟まれた深夜の繁華街。
 現場の関係上、照明準備が必要ないこと。
 援軍は無く、扱う武器は煙のようなバトルオーラであること。
 時間は深夜だが人が多いため、しっかりとした人払いが重要であること。
「あとは……煙みたいなバトルオーラをとっても気に入っているので、煙を嫌がったりする人を狙いやすいみたいです」

 細かな確認を終えたところで、きりりと眼差しを律し握りこぶしを作ったねむが、力強く頷いて見せる。
「みんなだったら、ぜーったい大丈夫です。ねむがしっかり現場にお届けします!」
 それではしゅっぱーつ!そう無邪気に微笑みながら、ヘリオンへと促した。


参加者
カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)
泉宮・千里(孤月・e12987)
マルコ・ネイス(赤猫・e23667)
メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)
御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)

■リプレイ

●香り立つ
 三日月の夜。
 賑やかな笑い声。行き交う人の熱気。微かな酒の香り。騒めく足音。
 街はまだ、常と変わらず息をしている。この平穏は守らねばならない。
 訪れる災厄を回避するため、番犬は駆けた。

 事前に御花崎・ねむる(微睡む瑠璃・e36858)が警察へ避難指示を出していたため、スムーズに誘導が進んでゆく。
 騒めく人々や、無数の携帯端末のフラッシュとシャッター音を避けながら、モンジュ・アカザネ(双刃・e04831)とねむるが、割り込みヴォイスを使って声を張り上げる。
「わりぃな!これからとんでもねぇもんが来る。指示に従って、急いで避難してくれ!」
「皆さん、わたし達はケルベロスです。これからエインヘリアルが襲来します。急いで避難を!」
 支えの必要な者はいないか、逃げ遅れた者はいないかと丁寧に声を掛け、時に座り込んだままの者へ肩を貸す。周囲を警戒する仲間の手伝いも有り、警察と連携した二人の避難誘導は迅速かつ順調に進み、もう終わろうとしていたその時。
 巨影と風切り音が降る。
 バッとケルベロス達が見上げれば、間近に迫る黒。
 風に乗って漂う、ほの甘い花の香り。

 ―――来る!

 カタリーナ・ラーズグリーズ(偽りの機械人形・e00366)は精神を研ぎ澄ます。
 無意識に手中の鎗をくるりと回し、思う。何故、短い人生を更に縮めたのか。何故、この寒い冬の深夜を選んだのか。
「……まったく。どうでもいいが、定命なのに不思議なことをするものだね」
 到底理解しきれん、と軽く首を振って疑問をかき消すと、清らかな輝きを纏う白光の鎗を構えた。
 寒風に白衣をなびかせた新条・あかり(点灯夫・e04291)は、ふるりと長い耳を震わせ、小さな拳を握る。
「炎と煙の切れぬ縁を……それを切っての、電子煙草じゃないか」
「……えぇ。残念ね」
 ふわり、翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)はなびいた髪を払い、溜息をつく。本当に残念だわ、という小さな呟きは白い息に溶け消えた。
 二人とも、もう救えない事は知っている。それでも炎彩使いと出会った薫の不運嘆き、犠牲になったことを悼まずにはいられなかった。
 が、
 次の瞬間、―――ズン。
 地響きと、もうもうと上がる土煙。その向こうの、巨躯。
『客が、少ないな』
 コンクリートを放射状に割り降り立ったエインヘリアル『花煙』が首を巡らせ、至極つまらなそうに呟く。
 静まり返った街に響いたのは、大きな舌打ち。
「まぁそう言うな。一つ、技比べと洒落込もうじゃないか」
 鮮やかな百花の羽織を靡かせ、かちりと雪駄を鳴らす狐が一人。足元から聞こえた気怠げな声に花霞が視線を下ろした。
 今宵の月の如く冴え光るその瞳が弧を描く狐、泉宮・千里(孤月・e12987)が、―――フゥ、と煙を吐く。
 隙の無い出で立ち。手慣れた喧嘩煙管。
 酷く自然な動作で放たれた暗器が煙に巻かれたが如く消えたかと思えば、瞬き一つで花煙の至近へ迫る狐火。
 煙慣れした千里のスタイルは花煙の好奇心を目一杯刺激していた。
 例え背筋が震えるほど冷たい炎が肌を焦がそうとも、それを一つも厭わず口角を持ち上げ、千里に釘付けのまま煙のようなオーラを手に取る。
『最高だよ、お前』
 喜々として犬歯を覗かせた花煙は、竜を吐いた。

●嫌煙家へ告ぐ
「ニャアアア!させないぜ!」
 吐き出された煙竜の吐息と半歩引いた千里の間に、弾丸のように飛び込んだのはマルコ・ネイス(赤猫・e23667)。毛を逆立て、迫る煙竜の吐息を正面から受ける。ガードしてもその上をいく勢いで襲った痛打に身を捩るが、耐えた。
 勿論、げほっと作戦通りに咽る演技も忘れない。
「けむいな!これだから煙は―……」
『お前、今、何て言った?』
 マルコの言葉を遮り、問うように言葉を切った花煙が、先と違う輝きで目を爛と輝かせる。
「けむい、って言ったのよ。ほんと、バカみたい」
 マルコへの注意を逸らすように、宝石のような瞳を吊り上げ花煙を睨め付けたロビンが高飛車に振舞い煽れば、首を巡らせた花煙が牙を剥く。
『よっぽど死にてえんだな、女ぁ!』
 目を吊り上げた花煙は鬼の形相。だが、それも全ては計算の内。素早く手繰った鎖を伸ばし、ロビンが描くのは守護法陣。
 淡く輝く美しき紋様は、あかりと重なり二重に前衛の足元で輝き加護を授けた。
 あかりの脳裏を過るのは、年上の恋人が愛用する煙。煙が嫌いなんて、本当は嘘。本音は正反対。でも、今は。今だけは嫌煙家のふり。
 淡々と、林檎色の髪が揺れる。
「…煙草の煙って言うのは嫌だね。臭いし無粋だ」
『お前らっ!お前らのような奴がいるから!』
「だから、何だ」
 興味の無さゆえの冷たさでカタリーナは吐き捨て、己を詠う。
「我が身は兵器。かつては痛みを知らず。願いを知らず。朋を知らず。愛するあの人の下へ戻るために、ここに誓おう」
 詠唱の直後、蒼雷が飛来する。爆音。空気さえもが痺れるような感覚そのままに、鎗が蒼を纏えば臨戦態勢へ。
 あまりに鋭い輝きに目を眩ませた花煙に、影が被る。
 見上げた時には、眼前にたなびく橙のストール。
「あんま、おれの視界を悪くするんじゃねえよ」
 電光石火の蹴りが、容易く花煙の側頭部を抜く。
 しゃらりと華やかな音を立て着地したメィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)の一撃。
『グ、ァッ……!この、野郎!』
 無辜の民へ害をなすなら、話は別。それは此度の襲撃阻止へ向かった八人の思い。
「こういう死の煙ってぇのは好めねぇな。……さぁて、誘導は済んだ。こっからが本番だ!」
 声と共に踏み込む緋色の影と同時、誘導完了の言葉に応じたあかりの殺気が辺りを満たす。
 モンジュが居合い抜いた御魂刀「霊呪之唯言」が蒼を纏い、閃く。蒼牙の頂。
 一太刀目が袈裟に花煙を叩き斬ったものの、更に踏み込んだ二の手は辛くも躱された。だが、傷は深い。咄嗟に腕を押さえ一歩下がった花煙へ、逃すまいと畳み掛けるように閃光が追撃する。
「人を傷つける道具になった時点で、もうそれは芸術じゃないと思う」
 彼……元、霧払 薫のスモークトリックは血の滲む様な努力の果てに至った境地のはず。本当は、とても素敵と伝えたかった。心から。だが、もう決して叶うことはない。先程揮われた芸術はエインヘリアル『花煙』として、人を殺めるために使われたのだから。
 髪と同じ薄青のネモフィラが咲くライトニングロッドを握り締めたねむるの横から、飛び出したのはマルコ。
「焼きつくせ!ビリー!!!」
 瞬く間に真紅の炎で象られた大猫、ビリーが現れ頬を膨らます。勢いよく撒き散らされた爆炎は、惜しくも花煙を掠めるにとどまった。
 しかし、僅かでも爪牙を伸ばし食らいついた小さな火は、花煙の命を糧に燃え続ける。
 波のように畳み掛けるケルベロスの連撃が強かに花煙を打ち、斬り、苛む。
 思うように動こうとすればするほど動けず募る苛立ちと、グラビティチェインが足りぬ焦燥感と飢餓感が身を焦がす。
 愛しい煙が嫌う言葉が耳を打つ度、どんどんと出頭の冷静さは鳴りを潜め、激情のままに叫ぶ。
『クソッ!ふざけるなよ、俺のっ!俺の煙はっ!!俺の煙は生きてるんだよ!!』
 深呼吸から鋭く吐き出すように振るわれたのは、煙を纏う拳。
 巨躯ながらも、あまりに流麗な所作に怒りは見えない。洗練された動きは、紫炎のカリムが見出した煙の美は、伊達では無かった。
 今ではもう巨大となった拳に絡みつく煙が尾を引けば、海月を模った槍と化す。
「ぐっ!!」
 瞬きで迫り、構える間も無く撃ち抜かれたメィメがたたらを踏み、サンダルの底が土を噛む。煙という見目からは考えられぬ重い一撃。
 煙が霧散する際、守護法陣の加護を奪われるも、間髪入れずに再び魔法陣を描き僅かに傷を癒したロビンがメィメを背に庇い前へ出る。
 それは記憶にある頼もしい友人が見せた背のように、背筋を伸ばす。
「やらせない。守ってみせるわ」
「大丈夫、傷は僕に任せて」
 メィメから滴る赤に冷静な面差しで駆け寄るあかり。ほたりと滲ませたオウガメタルの名は、希望。
 傷口へ即時展開される魔術切開。肉を滑るエルピスで生成したメスと、ショック打撃による治療の手は、齢から考えられぬほど手早く的確に施される。
 ウィッチドクターだけが扱える技術の粋を集めた手術法は、瞬く間にメィメの傷の大部分を癒してみせた。
「助かった、あかり」
「倒させない。あなた達は前だけを見て。僕が必ず、支えてみせる」
 幼い背は、苛烈な戦場で凛々しく在った。仲間を見渡し忙しなく動く蜜色の瞳には決意が見える。
 その強い瞳が、自身の戦場は仲間の立つ此処だと示していた。
「なぁ花煙、センスだけは良いぜ。てめぇのセンスだけはな!」
「それじゃあ――……遊ぼうか」
 香り立つ微かに甘い匂いを切り払ったモンジュと、軽やかな足取りで蒼雷携えた鎗を構えたカタリーナが迫る。
 重なった電光石火の一蹴と、演算で見抜いた痛烈な一撃が思いきり腹を削ぐ。
『ァッ、ガ、ァァァアアアア!!!』
 絶叫。
 鎧が砕け散り、血飛沫が前衛陣を赤く染める。
『お゛まえ゛らァ゛アアアア!!!』
 激痛と怒りに顔を染めた花煙へ、ねむるの静かな声。
「落ち着いて、ね。おやすみなさい」
 良い夢を。甘く香る煙に瞼を重くした姫君が場違いなほど穏やかに、永久への眠りを誘う言の葉を紡ぐ。
 誘われるように溢れた茨が、ぞろりと生き物のように蠢き花煙の足を取ると、きつく地へと縫い留めた。
 紡ぎ終わる物語に合わせ、マルコが駆ける。
「本当のあんたは、被害者だ。けど、エインヘリアルとして在るのなら、ほっとくわけにもいかねえ!」
 すまん、の一言を飲み込み罪悪感は押し込めて、茨を足場に飛ぶ。
 まるで重力に抗うような軽やかな飛翔から一転、鋭く振り下ろされた鉄塊剣が、花煙の胸を十字に抉り切る。
 傷口から吹きあがる地獄は赤。マルコの左眼と同じ地獄が今、不遜なる男を焼いた。
 肩で息をする花煙の顔は蒼白だ。
 苛む猫の炎は半身を焼くほど育ち、既に鎧は体を成さない。またしても大きな舌打ち。
『あ、ぁ、うっぐ……だぁああああ!チクショウ!まだ、だ!!』
 掴んだ煙を頭上へ打つと同時に、大きく吸い込んだ息を煙へ吐く。ふわりと均一に広がるそれは、煙天使の輪。
 辺りへ広がる甘い花の香りと煙の技巧が晴れた時、身を焼く炎と絡む茨が解け、半分ほどの傷が癒えていた。
『許さねェ。一人残らず、煙漬けだ!』
「へえ、そうかい。やれるもんなら―……やってみな」
 辺りに立ち込める甘い香りからは程遠い、暴力的な言葉。這う這うの体ながら変わらぬ気概。
 その意気や良しと、小気味良い音を立て喧嘩煙管の草を落とした千里が音もなく刀を抜く。
 チリと電を纏ったのが視認出来た時には、鋭い刺突が花煙の肩を貫いていた。
『てめぇ……!!』
「おう。やれるなら、な!」
 至近で耳を打つ新たな声。振り向きざま視界に広がったのは緋の翼。
 ただでは斬られんと咄嗟に空いた腕を盾にした直後、違和感。斬られた腕が力を失ったかの様に、半ば思うように動かない。
 瞠目し焦る花煙へ、不敵に笑ったモンジュが告げる。
「降魔真拳、ってな。花煙、その腕一本貰うぜ」
 魂を食らう降魔の技は対象の命の力を食らうもの。
 限界が近い花煙にとって、降魔の一撃は命取りだ。
『ふざけるな!』
 丸太の如き腕を振り上げモンジュへ掴み掛らんとした手は、ロビンによって叩き落とされる。
「それはあなたの方よ。もうお終いにしましょう」
「もうそろそろ見飽きてきたよ、終わりにしようか」
 炎を灯した翡翠の乙女と蒼白に輝く鎗を携えた乙女の声が重なる。
 無意識だろう、じりと花煙が後退しかけたが、破滅から逃れるすべはない。
 白魚の手へ集い、徐々に質量を増す炎はきゃらきゃら笑っているように見えた。空かした腹を満たせる喜びを前に、ふわりとロビンのWho killedへ纏わりつけば、蒼き雷光を纏い神々しく蒼白に輝くカタリーナの鎗がまた一つ、稲妻で彩られる。
「おいで―……フレイム、いくよ」
「さよなら、英雄候補生」
 至近距離から放たれた渾身の突きと、瞬きさえも許さぬ神速の突きが、交差するように花煙の心臓を貫いた。

●霧晴れの夜
 鈍い音を立て、漆黒の巨躯が沈む。
 血濡れの身は幻想のように徐々に煙へとなり果て消えていく。まるで初めから何も無かったかのように。香りごと、冷たい風にさらわれた。
「はふぅ……何度やっても疲れる……」
 戦闘が終わり集中力の切れたカタリーナが、ぺたりと座り込む。
 先の戦闘で使った蒼き雷霆は自身に過負荷を掛けることで成すグラビティ。全てが終わった今、酷い疲労感に襲われていた。隣で、Who killedを持つ手を握って開いていたロビンが、小さく溜息をつく。
「盾役を張るのは難しいのね」
 やっぱり、突っ込んでいくほうが性に合っているわ、と微笑めば徐々に繁華街に賑わいが戻ってくる。エインヘリアル撃破の知らせが、警察を通し避難した人々に伝わったのだろう。無事を喜び合う声、ケルベロス達への感謝や称賛が聞こえてくる。
「すごかったね、薫の技」
 戦いの熱冷めやらぬまま、ほうっとあかりが息をつく。
 戦闘中、幾度も繰り出された花煙の技の数々は、実に幻想的であった。エインヘリアルとして武器にさえされなければ、文句なしの一級品。
「あぁ。俺も生きている内に会いたかったぜ」
「……おれも、あの煙はそんな嫌いなかったけど」
 お疲れさん、とひらり手を振ったモンジュが惜しかったと同意すれば、気怠げに頭をかいたメィメも小さく同意する。二人と並び歩きながら煙管をふかした千里の袖を、目をきらきらと輝かせたねむるが引く。
「煙草って美味しいのかな?オトナの味ってやつ?」
 興味津々です、と顔に書いてある。しょうがねぇなぁ、と目尻を下げた千里が煙管をふかし、ぽかりと輪を描く。
「わあ、すごい……!綺麗、ね」
 花煙には及ばずとも、儚い煙で形作られた輪は美しかった。
 一方、花煙を打倒した後、暫し背を丸めていたマルコが突然勢いよく顔を上げて吼える。
「炎彩使い!人間なんかに頼らず、てめえら自身がかかってこい!この卑怯者共がぁ!!」
 胸を締める悔しさを吐き出し、気合いを入れ直して気持ちを切り替える。よし、もう一仕事だ!と、戦闘の余波で壊れた街ヒールのために走り出す。
 その背を思い思いの足取りで追いながら、皆は雑踏へと紛れて行った。

 罅割れた電子タバコに紫苑が寄り添う。
 壊れたそれからは立たぬはずの煙が一筋、ふわりと舞った。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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