ミッション破壊作戦～詐りの生命の果て

■リプレイ

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　福島県いわき市上空。
　千尋の駆るヘリオンから飛び出したケルベロス達が、その身に風を受けながら降下してゆく。
「地球で生きている人を殺めて、なおデウスエクスとして利用するなど、断じて許さない……！　屍隷兵製造など、亡くなった人間の想いも過去も踏みにじる行為だ！　こんな悲しい襲撃など、今ここで終わらせてやる！」
「私はこの魔空回廊を破壊する！　この場所を救い、地球の敵にされた屍隷兵たちを解放してみせるんだよ！　グラディウス、力を貸してっ！」
　最初に『それ』に到達したのは、やや強張った表情のマティアス・エルンスト（次世代非力かわいい第二代団長・e18301）と、歯を食い縛って肩にしがみ付くボクスドラゴンの『マシュ』を見て、だったら箱に入っていればいいのにと小さく笑い、その翼を緑色に染めたスノーエル・トリフォリウム（四つの白翼・e02161）。
　２人の繰り出すグラディウスの切先が『それ』に触れスパークが弾けた瞬間、
「うぅ……今、ちょっとだけ頑張れば、わたしもいわき市の人たちももう二度と怖い思いをしなくていいんです……。だから……今だけ、わたしに勇気と力を貸してください、グラディウス！」
「弟の尻拭いも姉の務め！　わたし達はあなた達の奴隷じゃない！　命を弄ぶなっデウスエクスッ！」
　クロコ・ダイナスト（牙の折れし龍王・e00651）がぎゅっと胸に抱いたグラディスを突き出すと、その隣でボクスドラゴン『リュガ』の入った箱を抱え、神白の御衣の裾をはためかせた神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）も、ハクロウキの研究施設破壊作戦において大怪我を負った弟、煉の顔を瞼の裏に描いてグラディウスを叩き付ける。
　４本のグラディウスに穿たれた『それ』に亀裂が入る様に雷光が奔り、そこから枝分かれした稲妻が轟音と共に各所を穿って白煙が上がる。
「ーム。亡き師父よ戦友よ……祖先よ……俺は必ず我らの悲願を！　屍隷兵……彼らのような犠牲者をこれ以上出さぬためにも……この一撃でその誓いを立てんッ！」
「生無く、妄動する……嘆きの、者共。我らが手で…現世より、滅する！」
　そのまま白煙の中へと落ちていく者達を追う様に、竜翼を広げたバーヴェン・ルース（復讐者・e00819）と戦舞の深紅で戦化粧した櫂・叔牙（鋼翼骸牙・e25222）が、グラディウスを叩き付け、
「これ以上ふざけた真似をさせないためにも、まずはここが第一歩だ！　この回廊をぶち壊して、次はその奥にいるヤツも殴り倒すよ！」
「安らかな眠りを与えるのも私達の仕事かと思います。これが救いになるなら……」
　ビハインドの『イリス』と共に降下してきたロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）が、気合いと共にグラディウスを振り下ろした後ろ、最後にエンジェルハットを押えた真木・梔子（勿忘蜘蛛・e05497）の持つグラディウスが突き入れられるが、雷鳴と轟音を響かせただけで『それ』は割れず、悔しそうに『それ』を見上げるケルベロス達の姿は、重力に従い白煙の中へと消えていった。

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「割れなかった……か」
　見上げてそう呟いたマティアスの言葉に無念が滲む。
「ダメージを与えたのは確かだよ、また……頑張ればいい」
「その通りです。その為にもここはいち早くこの場を離脱しましょう」
　その言葉に両手を広げた叔牙が応じ、白煙で見通しの悪くなった周囲に険しい視線を向けた梔子がそう促す。
「何か聞こえます」
　その３人のレプリカント達の会話は鈴の発した声に中断される。
「何も聞こえな……」
「ウアアア……ウウウウ……」
　聞き耳を立てたスノーエルが小首を傾げ何かを言おうとした時、白煙の向こうから哀しい呻き声が聞こえて来たかと思うと、その白煙を突っ切り、顔は割れた螺旋面があり両肩の部分に苦悶の表情をした顔が浮かぶ螺旋屍隷兵が現れた。
「ひぃぃぃ、な、なんか強そうなの来ますけど……す、すみません！　通してもらいますよ！？」
「ーム、哀れな。ここは退く為にも、せめてその魂だけでも救ってやるとしようか」
　思わず後ずさるクロコの隣で、こめかみを叩いたバーウェンが斬霊刀を抜いて腰を落とし、
「可哀想に……せめてこれ以上苦しまないように……」
　大鎌を構えたイリスの後ろに下がる形で、ハンマーを砲撃形態に変えながらロベリアが呟く。
「アアアアァァァ……アアアアアアアアアアアアアああああああああああ……」
　此方の姿を認めたのか、聞くと気分が悪くなる様な叫び声を上げた屍隷兵は、一気に距離を詰めて襲い掛かって来る。

　鈴が狼の群れのエネルギー体を喚び、前衛陣を後押しする中、
「ウウウウウウゥゥ！」
「あなたに恨みはないが、あなたの為もここで倒させて貰う」
　唸りながら繰り出された屍隷兵の拳を黄昏の小盾で受けた梔子は、割れた螺旋面を見つめて言い放つと、その足を刈る様に回し蹴りを放つ。
「対象視認……ロッキング。戦闘出力、維持。状況……開始」
　その後ろから、熱放出の為その背に織天使の如くフィンを広げた叔牙の声と共に放たれた氷縛の螺旋が屍隷兵を穿つと、更ににマシュの放った綿のブレスが浴びせられ、
「ナイスだよマシュちゃん」
　ウェーブの掛った金髪を揺らして距離を詰めたスノーエルのオウガメタル『シルバードラジェ』が鋼の鬼と化してその拳を叩き付け、腕を回転させたマティアスがそれに続く。
「アァァァああああぁ……」
　ロベリアの飛ばした鎖に絡み付かれた屍隷兵が、受けた傷を癒そうと自身を螺旋の風で包むが、
「苦痛が長引くだけだぜ」
　全身を地獄の炎で包むバーヴェンが、容赦なく刃を振り下ろし、クロコも続いて斬り掛る。
「その加護、その護り……纏めて、撃ち砕く！」
　その２人が斬り抜けた後ろから叔牙。２人に気を取られた屍隷兵の鳩尾に叩き込まれた拳が、その加護を霧散させる。
「ウガ……アアァァ」
　その叔牙に螺旋を描く気流波を叩きつけようとする屍隷兵だったが、イリスが割って入ると大鎌の柄でそれを受けて押し戻され、
「悪いが畳み掛けさせてもらうぞ」
　斬り抜けたところでターンしたバーヴェンが、側背から屍隷兵を突き、
「そのまま止まっちゃって！」
　スノーエルの放った時空凍結弾が屍隷兵の体表に氷を張らせ、それを砕く様に箱に入ったマシュが突っ込む。
（「全体的に優勢ではあるが……他の屍隷兵が出て来る前に片付けなければ……」）
　そのマシュに続いて梔子も畳み掛け、屍隷兵目掛けて『Rosenkavalier~Dorn der Rose~』を振り下ろした。

「ひぃ！？」
　屍隷兵の繰り出す拳を、ぎりぎりのところでかがんでかわしたクロコは、そのまま回転する様に蹴りを繰り出して屍隷兵の脛を削り、イリスとマシュが攻撃を受け持つ隙に後ろへと下がる。
　屍隷兵の繰り出す拳……その攻撃を受けたイリスが堪え、動きが止まったところに竜砲弾の横撃を受け、屍隷兵が押し戻されると、
「キミ自身に恨みは無いけど……さっさと終わらせるんだよ」
　その竜砲弾を撃ったロベリアが、仲間達を鼓舞する様に声を上げ、スノーエルの援護の元、バーヴェンが踊り掛ってゆく。
「屍隷兵にされた人間達は、かわいそうだ……早く静かに眠らせてやりたいものだ」
　そこにマティアスが続き、『Photonenstrahl Generator』から具現化させた光の剣で屍隷兵を裂く。この一撃で左肩にあった苦悶の顔が掻き消えた。
「顔が１つ消えたのです。何か意味があるのでしょうか？　あ、リューちゃん、梔子さんを回復して！」
　後方で『天狼闘気』を纏い仲間の回復に努めていた鈴は、それを見咎め声を上げるも、次の瞬間、叔牙を庇って螺旋を描く気流波に裂かれた梔子を見て、リュガに回復の指示を飛ばす。
「どっちにしても倒すしかないんだよね？　じゃああまり気にしなくていいんじゃないのかな？」
　鈴の隣に下がって来たロベリアが、右肩に残る顔と割れた螺旋面から覗く無表情の顔を見比べ、鈴にそう言うと、ケルベロスチェインを飛ばして屍隷兵を拘束しに掛る。
「それもそうですね。では急ぎましょう。大地に眠る祖霊の魂……今ここに……闇を照らし、道を示せ！」
　ロベリアの言葉に頷いた鈴はjasmineで大地を踏み締めると、光り輝く狼の群れを喚び、前衛陣の攻撃を後押しする。
「うううくくうぅ……」
　だが、攻撃に晒されながらも果敢に反撃してくる屍隷兵。
「うぅ、もう螺旋忍軍さんたちのゲートも壊れたし、そんなに頑張らないでゆっくり眠ってほしいのです」
　哀れみを湛えた瞳を向け、炎を纏った大鎌を振り下ろすクロコ。その攻撃に裂かれながらも屍隷兵の向けた掌から螺旋気流波が放たれ、
「危ない！」
　思わずマティアスがクロコを突き飛ばし、気流波をもろに受けて吹っ飛ばされる。
「わぁ！　ディフェンダーでもないのに何やってるんですか！　リューちゃん、回復回復！」
　いつもの癖が出たマティアスに嘆息しつつ、自身も回復を飛ばしつつ回復を指示した鈴の視線の先で、仲間達は一気にカタをつけるべく波状攻撃を仕掛けていた。

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　波状攻撃に晒された屍隷兵の右肩の顔も消え、蓄積された各種バッドステータスもその効果をいかんなく発揮しており、戦況は覆りようもなかった。
　しかし、白煙は徐々に晴れて来ており、いつ別の屍隷兵が現れるか解らない状況に変わりはない。
「そろそろ押し切らないとまずいです。一気に畳み掛けましょう。乾坤一擲の陣です」
　鈴が『神白の天扇』を振るって陣の指示を飛ばし仲間を鼓舞すると、リュガがブレスを吐いて屍隷兵の動きを更に縛り、そのブレスの後ろから、
「……その意志ではないにしろ、喧嘩は相手を見て売る事だ」
　マティアスが出現させた無数の刃が、輪舞曲を踊る様に宙を舞って屍隷兵を刻み、
「ごめんね、こっちもあまり余裕はないんだよ。後でしっかり弔ってあげるからね」
　スノーエルが向けた掌から現れたドラゴンの幻影が、マティアスによって刻まれた傷を焼く様にマシュと共にブレスを浴びせる。
「右腕を失えど龍王と呼ばれし我が闘気に、一片の衰え無きことをその身で味わうがいい！」
　そこに今までとは一変、覇気を漲らせたクロコが、龍王の闘気の渦を纏わせが右腕を思いっきり叩き込んだ。
「あああぁぁぁぁあああああああああああああああああぁぁ！」
　その一撃に体をくの字に曲げて嗚咽を上げながらも、攻撃しようと手を伸ばす屍隷兵。
　そこに、跳び退くクロコと入れ代る形で距離を詰めたのは叔牙。
「指の一つすら動かせなくしてあげるんだよ。端子展開、放電開始……Ready Impact！」
　叔牙が向き合わせた掌の間にスパークが生じ、渦巻く様に雷電の球を形どったそれを一気に屍隷兵へと叩き付ける。屍隷兵の体がビクンビクンと跳ねる様に震え、焦げた体から嫌な臭いと煙を上げながらまだ倒れない屍隷兵。
「これは私があなたに与える慈悲であり休息なのです」
「その意気は良し、なれど……今は眠れ。せめて祈ろう。汝の魂に……救いアレ！」
　２段ジャンプで跳躍した梔子の振るう刃が屍隷兵の左腕を斬り落としたとこれろに、バーヴェンが高速で抜刀して斬り抜ける。
「うぅ……あ……あぁ……」
　屍隷兵は小さく呻くと、ケルベロス達の方を見、ゆっくりと仰向けに倒れた。
　倒れゆく屍隷兵の割れた螺旋面から覗く顔に、僅かに笑みが見えたのは気のせいだったのかもしれない。
「もう一度祈ろう。汝の魂に幸いあれ……と」
　こうして新たな屍隷兵の接近を感じたケルベロス達は、バーヴェンの言葉を残し戦場を一気に離脱したのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年11月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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