山の奥からキノコが襲う!

作者:柊暮葉



「秋と言えばキノコ……。この山は我が家のものだからな……」
 会社員の山本悟郎は、春は山菜取り、秋はキノコ狩りが趣味である。
 一応、市の郊外に実家が山を所有しているため、天気のいい日は山の中に入っていって自然に親しみながらキノコを取る。
(「屋内で働いていると、自然の空気を忘れてしまう。休日ぐらい山の中に入って綺麗な空気を吸い、野生の植物を取って家でゆっくりと食べる。それが一番のストレス解消法だ……」)
 一人で山道を歩きながら、悟郎はぼそっと呟いた。
「早く、一緒に来てくれる彼女が欲しいな……」
 彼女いない暦年齢のままそろそろ三十路に突入しそうな彼にとってそれは本音だったかもしれない。
 そんな悲しい彼の視界に、大きな襞のキノコがよぎった。
「おお!」
 悟郎は不幸な自分への神様のプレゼントとばかりに喜んでそのキノコへと近づいて行った。
 しかし、そのキノコに対して謎の花粉を振りかける人物がいる。
 鬼百合の陽ちゃんである。
 悟郎の見えない位置から彼女が謎の花粉をかけるとキノコはみるみる巨大化し醜悪に変形--たちまち悟郎の何倍も大きくなって彼を飲みこんでしまった。
「うわああっ……!」
 悟郎が叫ぶが何しろ山奥で、誰も気がつかない。
「それじゃ、景気よくいっちゃおー。山を降りたら自然を破壊してきた文明とか、ドッカーンって破壊しちゃってね!」
 元気よくそう叫ぶと、陽ちゃんはさっさとその場から立ち去ってしまった。


「鳥取県で攻性植物の発生が確認されました」
 御嶽・忍(オラトリオの巫術士・en0236)が集めたケルベロスに説明を開始した。
 赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)は顔を引き締めて話を聞くことにした。
「なんらかの胞子を受け入れた鳥取市近所の山のキノコの株が、攻性植物に変化してしまったようなのです。この攻性植物がキノコ狩りに来ていた山本悟郎さんを襲って、宿主にしてしまいました。急ぎ現場に向かって、攻性植物を倒してください」


「攻性植物の能力は?」
 ケルベロスが尋ねると、忍はすぐに資料を広げてくれた。
 光花形態……身体の一部を光を集める「光花形態」に変形し、破壊光線を放ちます。
 埋葬形態……地面に接する体の一部を大地に融合する「埋葬形態」に変形させ、戦場を侵食し敵群を飲み込みます。侵食された大地は戦闘後にヒールで治ります。
 収穫形態……身体の一部を黄金の果実を宿す「収穫形態」に変形させ、その聖なる光で味方を進化させます。
 以上の力で戦うらしい。
「悟郎さんは日曜の休日、実家が所有している鳥取市付近の山林の奥に一人で赴きキノコ狩りをしていて襲撃されました。山道の一本道を歩いて行けば現場に出ます。個人所有の山の中ですので現場周辺には他に誰もいません」
 忍は資料を広げながら説明を続けた。
「攻性植物は1体1のみで、配下はいません。取り込まれた人は攻性植物と一体化しており、普通に攻性植物を倒すと一緒に死んでしまいます。ですが、相手にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了後に攻性植物に取り込まれていた人を救出できる可能性があります。……ヒールグラビティを敵にかけても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積するので、粘り強く攻性植物を攻撃して倒す……ということが可能です」
 悟郎を救う事は理論上は可能であるらしい。


 最後に忍はこう締めくくった。
「攻性植物に寄生された人を救うのは難しいでしょう。ですがなんとか助けてあげて欲しいのです。働き続けてストレスの多い毎日を送っていたごく普通の会社員が、山の中で癒やされていたらデウスエクスに襲われるなんて……酷すぎます」


参加者
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)
朝霧・紗奈江(カフェテラスオーナー・e00950)
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
流水・破神(治療方法は物理・e23364)
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)
八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)

■リプレイ


 攻性植物発生の情報を得て、ケルベロス達は迅速に行動を開始した。

 鳥取市郊外にある山林--その一本道を、ケルベロス達は共に駆け上がっていく。
 曲がりくねった細道の先、角を折れると、突如その攻性植物が視界に飛び込んだ。
 巨大化したシイタケである。
 さながら樹齢何百年もするような大樹となったシイタケが、根をムカデのように動かしながらゆっくりこちらの方に歩いてくる。
 その幹の中心に、顔面蒼白となった男性が囚われていた。恐らく、被害者の山本悟郎であろう。悟郎は、ケルベロス達の登場に慌てて口をパクパクさせたが、パニックのために声が出ていない。

「このまま終わっては可哀想すぎます。必ず助けましょうねっ」
 赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)は、仲間のケルベロス達を振り返ってそう言った。
「わう、この季節はきのこが美味しいっ! なのにっ! こんなことって!! 悲しい気持ちは独り身の辛さだけで充分なのっ!」
 緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)は主人のいちごの言葉を受けてそう叫ぶ。
「何ていうか……秋の風物詩っていうか……キノコやら紅葉やら……そういうのに襲われてる人がいるとなんか……秋だなぁ……とちょっと思うっすけど……職業病っすよねぇ……これ。まあ今回もしっかりと助けるっすよ。さあ神宮寺の巫女としてしっかりと勤めを果たしましょうか」
 神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)は、甘酒を片手にそう言った。
「きのこ狩りならぬ、きのこ狩られってか寄生されてるわねぇ……秋の風物詩っていうのは物騒だけど……んでもよくあるのよねぇ……まあ……こうなったら仕方ない。しっかりと助けましょうかね」
 神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)は姪の結里花の言葉にそう頷いた。
(「さーて今回も回復頑張るわよー。ひたすらヒールをするお仕事です。テレ蔵君もディフェンダーからヒールしたりなんなりするのですー。姪っ子も一緒だし、カッコ悪い事はできないわねぇ~」)
 内心ではそんなことを考えている。
「ハッ、キノコなら大人しくそこらの木に寄生しておけば良いぜ。わざわざ出てくるんじゃねえ」
 流水・破神(治療方法は物理・e23364)は、キノコの攻性植物を見てそう吐き捨てた。
「きのこの攻性植物とは珍しいのぅ。珍しいものが見れたからといって加減はせぬがのぅ。戦闘は取り込まれてる人の事も考えてやらねばのぅ。助けるために怪我をさせては意味がないのじゃ。外ではおぬしの事を助けようとこれだけのケルベロスが集まってるのじゃ。諦めたりしないで待っているとよいのじゃ、いいかの?」
 ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)は逆にキノコに興味津々。そして宿主の悟郎を気遣っている。
「ひとつだけ突っ込んで良いですか! 普通の会社員は実家に広大な裏山持ってないです…うらやましいのです…!」
 八点鐘・あこ(にゃージックファイター・e36004)は肉球を挙手してそう叫んだ。

「う、羨ましいって言われたって……」
 悟郎は震える声をそう絞り出す。個人所有の山に、突然現れた八人の若者達に戸惑っているらしい。
「わたしたちはケルベロスです☆ あなたを助けに来たのにゃ~☆」
 そこで朝霧・紗奈江(カフェテラスオーナー・e00950)がおっとりもーどでそう答えた。
 彼女はいつもの『カフェオーナーのにんにんスーツ』姿である。
 悟郎は目を白黒させている。
 しかし、彼らがケルベロスであると、攻性植物も把握したらしかった。
「グゲーッ!」
 そんな不気味な声で高く鳴いたかと思うと、キノコの幹から次々と触手が枝のように生えてくる。
 その枝の先に、胞子のような花のような……異形の物質が形作られた。
 それも一本ではなく、五~六本、次々と生えてくる。
 ケルベロス達は警戒しつつ、山道いっぱいに半円の形を作りながら攻性植物を取り囲んだ。

「グッ……ギャッ、ギャッ!」
 苛立ちを感じたのか攻性植物はまた甲高く不快な鳴き声を立てる。
 そして異形の胞子の花を赤く燃え立たせた。
 カッと強く輝いたかと思うと、光花形態が紗奈江に向かって襲いかかる。
 紗奈江が身構えた刹那、破神が彼女の前に飛び出て来て庇った。
 燃え上がる破神。
「殴って落ち着かせるか? ……駄目か、チッ」
 傷を受けつつも破神は、戦意高く、不敵に呟く。

 戦闘開始だ。
「狙いをアップします!」
 あこは全身からオウガ粒子を放ち、仲間達の超感覚を目覚めさせていく。
 あこのウイングキャット、ベルは清浄の翼を広げた。
 ミミはドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出して攻性植物に命中させた。
 ミミのテレビウムは破神の方に飛んでいって応援動画を回している。
「喰らいあいましょう。どちらかが倒れるまで」
 結里花は拳から魂を喰らう降魔の一撃を繰り出し、攻性植物の生命力を吸い上げる。
 いちごはマインドリングから光の盾を召喚すると、それで破神を守った。
 いちごのボクスドラゴン、アリカはボクスブレスで攻性植物を攻撃。
『お助け下さいなー』
 純恋は白蛇の守護で、神宮寺家の祭神である白蛇に祈りを捧げ、それによって攻性植物にヒール不能ダメージを加えた。
 純恋のテレビウム、テレ蔵君はテレビフラッシュを撃っている。
 立ち上がった破神も、魔術切開とショック打撃を利用して、攻性植物へと緊急手術を行いヒール不能ダメージを溜める。
「忍びの一撃必殺を見せてあげます」
 紗奈江は己の感覚を研ぎ澄まして増幅していく。次第に周囲の動きがスローモーションのように感じられてくる。
「さぁ、番犬の牙で噛み砕いてあげる!」
 敬香は心と体を一体化し、霊的防護を打ち砕く力を宿す。

 次々と加えられるダメージ、そしてヒール不能ダメージに、攻性植物はわなわなと震え始める。
 そしてまた、ひときわ高く怪鳥のように鳴いたかと思うと、何本も生やしている触手の枝、その先に次々と異形の果実を実らせ始めた。
 黄金の果実だ。
 不気味な光を放つ果実、その聖なる輝きを受けて攻性植物は自らを癒し、そして耐性の力を手に入れていく。

『私の力を貴方に。聞いてください、この歌を』
 いちごは、「苺の守り人に捧げる、呪いを打ち破る力の唄」(アナタニチカラヲ)を歌い上げる。
 アリカは主人を守るようにまつわりつきながらボクスブレス。
 快楽エネルギーを力に変換、歌声に乗せて、仲間達を癒し、敵を打ち破る力を与える。
「大人しくしなさい!」
 それを受けて、結里花は攻性植物の元へ走ると電光石火の蹴りを抜き放ち、麻痺させていく。
『わらわの力見せてやるのじゃ。こんなのはどうかのぅ』
 ミミはみーこくわえるのじゃ(ミーコクワエルノジャ)で、猫のぬいぐるみを強化して攻性植物に投げつけた。ぬいぐるみがぶつかった場所からどんどん攻性植物は体が重くなる。
 ミミのテレビウムはテレビフラッシュを撃った。
「OK、回避が下がりました~」
 ミミの動きを見て、紗奈江はリボルバー銃の早技で攻性植物の枝を撃ち抜き、攻撃を封じていく。
『Temps pour le lit』
 敬香は斬霊刀に雷の霊力を帯びたまま攻性植物へ突進。その固さにヒビを入れる。
『すべすべでぷにぷになのです!』
 あこは、癒しの肉球(イヤシノニクキュウ)で「光る肉球」を攻性植物に放ち、ヒール不能ダメージを蓄積。
 あこの脇で彼女を守りながらベルはキャットリングを撃つ。
 純恋は白蛇に守護を祈ってさらに攻性植物にヒール不能ダメージを蓄積。
 テレ蔵君は凶器攻撃。
 破神がウィッチオペレーションで畳みかけ、攻性植物にヒール不能ダメージ。

 わなわな、ぶるぶると攻性植物が震える。
 宿主である悟郎の顔が青いを通り越して紙のように真っ白になっていく。
「にげ、逃げろーっ!」
 攻性植物の痙攣が激しくなるにつれて悟郎がそう叫んだ。
「俺の事はいいから! 君達は逃げて! 危ない、危険だーっ!!」
 悟郎は必死の形相である。
 そう言われてもケルベロス達だって任務。簡単に逃げる訳にはいかない。
 そのとき、攻性植物のムカデのように蠢く根が、山林の地面と融合を始めた。
 根が、土に接する幹が、どんどん地面と一体化していく。
 恐ろしい瘴気が攻性植物と地面から噴き上げて、ケルベロス達ですら立ちすくむ。
「グギャアアアアア!!」
 手負いの攻性植物は凄まじい咆哮を上げ、木々から野生の鳥たちが飛び立った。
 悟郎は逃げろ、逃げろと叫んでいる。
 デウスエクスと融合を果たした地面に巨大な亀裂が走る。
 亀裂に叩き落ちて飲み込まれていくケルベロス前衛、中衛。
 悟郎の悲鳴。

 アリカが属性インストールを片っ端から回す。
 ミミのテレビウム、テレ蔵達もここぞとばかりに応援動画を回して主人とその仲間達を必死に回復してまわった。
 勿論、ベルも懸命に清浄の翼を使う。
 あこは亀裂に落ちて挟まれながらも何とか意識は無事であった。
 さらにテレビウムの回復を受けて何とか上半身を起こす。
 あこは喘ぎながら「ブラッドスター」を自身と仲間達に歌い上げた。
 それにより、前衛達は一人一人立ち上がり始めた。
 全快ではないものの、体は動く。
『ハッ……軽い、軽い。その程度じゃ物足りねえぜ』『もっと俺様を楽しませろっての』
 破神は更に自己暗示を用いて自身を全回復していった。
 結里花は降魔真拳で攻性植物に殴りかかり、回復しながら攻撃していく。
 ミミは流星を散らしながら重力の跳び蹴りを行い、攻性植物を足止めにした。
「お嬢様、ここは任せて……☆」
 紗奈江は弾丸をばらまくように放ち、攻性植物の前進を止める。
 そこでいちごが「苺の守り人に捧げる、呪いを打ち破る力の唄」(アナタニチカラヲ)を再び歌い上げた。
 みるみる回復していくケルベロス達。
「もう大丈夫です。敬香さん決めてください!」
「承知!」
 敬香は女狼のように瞳を輝かせる。
「偽りないアイの炎で、焼き切ってあげる!」
 朱巻双縛狼尾(ヴェルミリオン・フエ・フラム)。
 敬香は戦いを通じて感じた出会いの全てを思い出す。悲哀、愛、様々なアイの心を込めて、剣の先から朱色の炎の鞭を放つ。剣先から伸び、巻き付いた炎は、敬香と攻性植物、そして宿主を繋ぐ。新しい縁を作り出し、古い因縁を断ち切って。
 猛る炎が攻性植物を焼き滅ぼす。
『お助け下さいなー』
 そこにタイミングを合わせながら純恋が白蛇の守護を祈る。
 ヒール不能ダメージ。

「ギッ……ガッ……」
 そんな声を放ったかと思うと、攻性植物は幹を大きく波打たせた。
 ゴボっと言う音とともに、悟郎が吐き出される。
 悟郎は地面の上に落下して、ぐったりと身を投げ出した。--無事だった。


 敬香とミミが悟郎に駆け寄って怪我がないか確認した。
 悟郎は衰弱しているようだった。
 そのため、敬香がヒールドローンを飛ばして悟郎を回復させた。
「あ、ありがとうございます。本当に……」
 悟郎はすっかり恐縮してケルベロス達に頭を下げていた。
「わうー、主様大丈夫?」
 一方、敬香は悟郎が回復すると、いちごの傷をぺろぺろし始めた。
「け、敬香さん、ヒールして!」
 いちごは慌てるが聞こえないふりをする敬香。
 ミミとあこは壊してしまった山林をヒールして片付けをしてまわった。
「ミミ、やるじゃねえか。ありがとうよ」
 破神はそんなミミを褒めてやった。
 そうしてひととおりのヒールが終わると、結里花は叔母の純恋と紅葉の散策をしながら一緒に帰ることにした。
 悟郎は疲れて座っていたが、自分もやっと立ち上がった。
「悟郎さん、一緒にキノコ狩りをしましょう! 美味しいキノコの見分け方を教えてくれると嬉しいのです!」
 あこが不運な悟郎にそう申し出た。
「山の中を見せてもらおうかのう。あまりくるところじゃないので、珍しいのじゃ」
 ミミもそう言ってついてきた。
 そういう訳で、ケルベロスの有志は悟郎に個人的な山の中を見せてもらい、一緒においしいキノコをたっぷり採ってから帰路についたという。

 秋の自然の恵み豊かな山、美味しいキノコ。
 戦いの合間には、時としてこんなラッキーもあるのだ。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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