ノワール・ルージュ

作者:秋月きり

「いや、いい。残りは私が明日、対応しよう。キミ達はいつも通り、笑顔と礼節を忘れなければそれでいい」
 携帯電話の通話を切ると、男は深いため息を零す。次の瞬間、大きな咳払いを行ったのは、ため息がエリート社員である自分に似つかわしくないと思った為か。幸い、男が電話をしていたのは薄暗い路地で、彼の挙動を見咎める者などいる筈も無かった。
 否、一人だけ、男を見守る存在がいた。――それを、『ヒト』の範疇に収めて良いのであればだが。
「ん。そうだね。礼節は大切だよね。騎士ならば、尚の事」
 路地から歩み出た少女は、踊り子を思わせる服装をしていた。訝しむ男の前で少女がぱちりと指を鳴らすと、一瞬にして、男の身体が炎に包まれた。
 悲鳴を上げる暇もなく、男の身体は消失していく。
「ん、やっぱり、エインヘリアルは騎士が似合うの。さぁ、選ばれた騎士として、その力を示すんだよ」
 燃え尽きた炎の中より出でたエインヘリアルに向かい、少女――赤のリチウは命令を下す。
「御意。姫に対する私の忠誠、御覧に入れましょう」
 片膝をついた男は大仰に一礼すると、リチウの命じるまま、歩み始めるのだった。

「炎彩使いが一人『赤のリチウ』の動きを察知したわ」
 ヘリポートに集ったケルベロスへ、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が告げた文言は、一人のシャイターンの名前だった。
「既に聞き及んでいる人もいるかもしれないけど、彼女達は死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、その場でエインヘリアルにする事が出来るようね」
 出現したエインヘリアルはグラビティ・チェインが枯渇状態の為、人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうと暴れ出す様だ。
「だから、急ぎ、現場に向かって暴れるエインヘリアルの撃破をお願いしたいの」
 それが今回の任務だとリーシャは告げる。
「みんなが相手をするのは、エインヘリアルが1体だけ。配下もいないし、シャイターンも援軍にやって来たりしないわ」
 場所はエインヘリアルが出現した裏路地から少し歩いた場所にある繁華街である。午後8時ともなれば、夕食や晩酌を求めた人々が往来する時間帯でもある。
「エインヘリアルは身長3メートル程の大きさがあるし、何より、騎士をモチーフにした格好をしているから見間違える事は無いと思うわ」
 全身鎧は騎士そのもの。得物も騎士をイメージした為か、ゾディアックソードだと言う。
「あと、潜在的なエリート意識の高さも残ってるみたいね。礼節を重んじ、礼節を尽くせない相手は蛮族と蔑し、とことん攻撃する性質の様子よ」
 故に、一般人も蛮族と認識しているのだろう。エインヘリアルが如何に元人間とは言えど、殺人行為そのものに忌避感を抱いていない様子だ。
 また、ケルベロス達が彼と対峙する際、この性格は利用出来るかもしれない、との事だった。蛮族と侮蔑する相手が礼節を重んじる行動を行えば、彼は調子を崩すようなのだ。
「それに囚われてて戦闘が疎かになっても本末転倒だから、参考程度にしてね」
 腕を組んだリーシャは自分の言葉にうんうんと、頷く。
「厄介な相手だけど、きっとみんなならエインヘリアルによる虐殺を止めてくれるって信じている」
 だから、と彼女はいつも通り、ケルベロス達を送り出す。
「それじゃ、いってらっしゃい」


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
アリッサ・イデア(夢夜の月茨幻葬・e00220)
五継・うつぎ(記憶者・e00485)
ローゼマリー・ディマンティウス(デアヘッレラッヘ・e00817)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
深鷹・夜七(まだまだ新米ケルベロス・e08454)

■リプレイ

●騎士に至るもの
 駆ける馬もなく。預かる土地もなく。
 傅く権威もなく。掲げる誉れもない。
 ただあるのは礼節と忠誠のみ。それが生み出された騎士が抱くもの。それが、彼の全てだった。

 響くは鋼と鋼のぶつかり合う音だった。火花散らす衝突は、騎士の星剣と獄炎の大刀によって織りなされる。
「果たして、それでその背に騎士を背負えるのかー、ですわ」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の評価は辛辣だった。受け止めた刃はしかし、じりじりと彼女の身体を押していく。膂力のぶつかり合いは、エインヘリアルに軍配が上がったようだった。
「確かに御身の言葉は正しい。私にあるのは姫に捧げた忠誠のみ」
 押し負け、壁に叩き付けられたフラッタリーにしかし、騎士の刃は届かない。横から飛び出した深鷹・夜七(まだまだ新米ケルベロス・e08454)のサーヴァント、彼方の咥えた退魔神器が、刃を受け止めたからだ。
「悪いね――そこはもう、ぼくの間合いだ!」
 肉薄した夜七の抜刀術は、白銀の煌きを残し、エインヘリアルの脇腹を切り裂く。如何に頑強な星霊甲冑が阻もうと、ダメージを全て無にする事は出来ない。
「罪のない人を傷つける事こそ蛮行だ!」
「ええ。一方的な虐殺を看過する事は出来ません」
 騎士の所作を五継・うつぎ(記憶者・e00485)が否定する。絶望と恐怖を象った刃に彼の姿を捕らえ、悪夢を具現化する彼女の姿は、残忍な悪鬼のようにも、可憐な守護者のようにも思えた。
「と言う訳だ。正義の味方とまでは言わないが、殺しの忠誠を良しとは出来ない。狩らせて貰うよ」
 自身の知覚を増幅するスウ・ティー(爆弾魔・e01099)は軽口の如く、その文言を突き付ける。
「成る程。御身らは自身の民を守る事を是とするのだな」
 エインヘリアルの理解は早かった。ふむと頷くと身構えたゾディアックソードを振りかぶる。
「騎士であれば1対1で戦いを臨むべきところ、このような大勢で挑む無礼を詫びさせて頂きます」
 夜光煌く街を背に、セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)が浮かべたのは侘びの言葉だった。騎士の胡乱気な視線を受け取り、それでも言葉を重ねる。それが、騎士の名を抱く者としての生き様だと信じるが故に。
 セレナの氷を纏った一撃と、エインヘリアルの氷を纏った一撃がぶつかり合う。夜闇の中、ライトの明かりを受けた氷片がきらきらと舞い、二人の身体を照らしていた。
 その一撃で力量を把握した。この騎士は――強い。
「ですが、これは勝負ではなく人々を守る為の戦い。ならば卑怯と罵られようと、私は彼らの命の為に全力を尽くします。我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 だが、それは言い訳に出来ない。強くとも、倒す必要がある。無辜の民はこの背の向こう。敵の突破を許す訳にいかなかった。
「ならば私も全力を以て御身らを叩き潰そう。赤のリチウ様に仕える騎士として」
 ケルベロス達の口上を受け止めた彼の視線は、8人と2体に注がれていた。
(「案外、簡単に釣れた?」)
 これも、皆の努力の賜物か、とアリッサ・イデア(夢夜の月茨幻葬・e00220)は詠唱を紡ぐ。
「Vir lu chasset Hen le ariet rezaret la Ullr――咲き誇れ、ユーダリルに咲く花の威よ」
 咲き誇る青い蔓薔薇は魔を射抜く狩人の証。青い光がうつぎとスウを照らし、2人の姿をぼぅっと映し出す。
「頼りにしているわ、わたしの『いとし子』」
 続く言葉は自身のサーヴァントへの指示だった。後方に控える彼女、リトヴァの名を持つビハインドは声に応じ、心霊の力を騎士に叩き付ける。不可解な力に動きを拘束されながら、それでも騎士は動きを止めない。
「礼儀と言うものは、互いを尊重し、歩み寄るための表現の一つ。今の貴方のように、弱者を虐げる為の言い訳では断じてありません」
 豊かな胸部を組み替え、砲身を生み出したソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)は叱咤の声と共に光条を放つ。破壊の光は騎士の身体を捕らえていた。
 だが、星霊甲冑にまでそれは至らない。騎士の刀身が破壊の光を阻んだが故に。
「騎士の役割とは外敵を駆逐し、民を守る事。それが獣であれ、蛮族であれ、戦士であれ、その役目は変わらぬ」
 そして笑う。星の輝きを纏う騎士に浮かぶのはむしろ、侮蔑だった。
「むしろ相手の強弱で御身は態度を変えると言うのか? それが真の礼節と言うのであれば、御身らの思想は知れたものだな!」
「――くっ」
 そもそも、考え方が相入れないデウスエクスとケルベロスの問答だ。無辜の民である事を強調しても、それが彼らにとって意味を持たない事を彼女は知っている。地球人を蛮族、或いはグラビティ・チェインを抱く獲物としか認識していない彼らにとって、一般人を狩る事は狐狩り程度の娯楽、或いは生業でしかないのだ。
 言葉を飲み込んだソラネはサーヴァントのギルティラにフラッタリーの治癒を託す。主の命に従い、己が属性、機械属性を付与し、傷口を再生。短い鳴き声で役目の完了を告げた。
「エインヘリアルに堕ちた事。それそのものは貴方の罪ではありません。ですが、これ以上の進軍は罪。――せめて、一刻でも早く貴方を倒し、その罪から解放してあげます!」
 ローゼマリー・ディマンティウス(デアヘッレラッヘ・e00817)の叫びに、否と騎士は首を振る。
「堕ちたのではない。成ったのだ。――そう、私は選ばれたのだ」
 受勲を受けた騎士の如く、その声は誇らしげだった。

●地獄の夜獣
 エインヘリアルの発見は難しいものでは無かった。
 ヘリオライダーの予知にあった繁華街と、そこに繫がる裏路地。夕餉と晩酌に集う人々の波を搔い潜り、ケルベロス達の向かった先にそれはいた。
 身長3メートル程。星霊甲冑に身を包み、ゾディアックソードを担ぐ影を見紛う筈もなかった。
(「やはり、赤のリチウはいないわね」)
 周囲を伺うローゼマリーは内心で独白する。
 ヘリオライダーの予知通り、彼のエインヘリアルを生み出したシャイターンの姿は見止められない。夜闇に紛れている訳でもなく、完全にその場から姿形がない。
 ならば、目の前のエインヘリアルを倒せば全てが終わる。そう判断した彼女は口上と共に殺界を形成する。
「我が銘はローゼマリー・ディマンティウス。ガルド流鋭刀術元師範代。我が刃を恐れるならば、この炎を越すこと許さぬ」
「――ケルベロス!」
 ランプに照らされ、夜闇に浮かび上がるエインヘリアルから、歓喜にも似た声が零れる。
 それは地獄の番犬。それは地球守護の盾。それは不死者に死を振り撒く定命者!
 鬨の声と共にケルベロスコートを脱ぎ捨てた彼女へ向けられた笑みは、獲物を捕らえる捕食者のそれであった。
「姫の言葉通りだな。地球人を狩ろうとすれば番犬が現れると!」
「物々しき出で立ちからー、力試しを所望とお見受けしましたのー。まさか武器も構えぬ人々にー、向けるものではありますまいー?」
「貴方がその出で立ちの通りの立派な騎士であるのなら、まずは罪なき民を護らんとする我々と戦っていただきましょう」
 フラッタリーとうつぎの挑発を受けてか、騎士の表情に笑みが宿る。それは何処か、彼らの存在を歓迎しているようにも思えた。
(「或いは、好ましく思ってるのかねぇ」)
 透明な機雷を散布するスウは皮肉気な感想を浮かべる。
 ローゼマリーだけではない。仲間は皆、ヘリオライダーの忠告に従い、騎士に礼節を向けていた。それが騎士を倒す術である以上、それを反故するものはいない。
 だが騎士はその事を知らない。彼の認知は蛮族と蔑む相手が最大限の礼節を向けてくる、それだけだ。故に、それを良と受け止めても不思議はなかった。
 後方を見れば、殺界形成を後押しするようにアリッサやソラネ、夜七が避難指示や誘導を行っていた。
(「まぁ、3人に任せれば安心だろう」)
 一安心とため息を吐くスウの眼前で、セレナが剣を構える。目の前で刃を垂直に立てるそれは、戦の為の構えと言うよりも、敬礼のように思えた。
「言葉ではなく、剣で蛮族ではない事を証明しましょう」
 その決意を以て、彼女は咆哮する。

 そして、鋼と鋼のぶつかり合う音が響く。1つはエインヘリアルの振るうゾディアックソード。そして、受け止めたのは主との間に割って入ったギルティラの牙だった。金属の牙に走る亀裂に、ボクスドラゴンの動きが一瞬だけ停止した。
 一刀を以てその小柄な体躯を吹き飛ばしたエインヘリアルは追撃とばかりにソラネ相手に刃を振り下ろす。だが、必殺の一撃は横合いより飛び出た彼方によって阻まれ、有効打となり得ない。
「これが、生まれたばかりのエインヘリアル……?」
 夜七の驚愕は尤もだった。奇しくも、それはセレナが先に下した評価と同じ。赤のリチウ、或いは死者の泉の力が強いのか、このエインヘリアルが規格外なのか、もしくは……。
「思い込みの力、でしょうか」
 回復を一手に担うアリッサの言葉は、ため息混じりだった。
 忠誠とはすなわち、相手に自身の精神を捧げるものだ。ならば、その忠誠心によって普段の幾倍の力を出す事が是ならば、それは相当の思い込み力と断ずることが出来る。
「調子を崩してこれですか」
 呆れ果てた文言はうつぎから零れた。だが、よくよく考えればケルベロス8人での攻略を是とするエインヘリアルの掃討戦だ。礼節だけで脅威の全てを拭い去る事は難しい事は、これまでの戦い、そして自身の生い立ちから学んでいる。
 だが、それでも攻略の一翼にはなる。万全を尽くし、地球侵略の脅威を排除する。それこそが、ケルベロスに求められている事ならば――。
「aaaaaAAAAァァァアアアアアッッッッShⅰ羅вÅΝ象壱切劫切喰ライ尽クシテェェェ! ――潰します」
 フラッタリーの口から地獄の底より響く狂乱と激情が迸る。鬼の一撃は刹那の理性を以てエインヘリアルに叩き付けられた。
「私たちの全てを用いて貴方の無礼を止めます」
 それが全力を尽くすと言う事。気弾を放つソラネは胸を張り、エインヘリアルと対峙する。
「止めてみろ、ケルベロス。それが御身の誇りと言うのならば!」
 騎士の声はそれでも、不敵に響いた。

●影華と腐爛
 それは煌びやかな舞踏に似ていた。
 騎士の描く星座の瞬きはケルベロス達をも照らし、ケルベロス達の刃は騎士を梳り、消耗させていく。
 永遠の如き騎士と番犬の輪舞曲はしかし、終局への調べを止める事は出来ない。
 兆候は、破砕音より生み出されていた。

「一度捕ったら、そう逃げられんよ」
 『見えない機雷』。自身の能力をスウはそう評価していた。戦場に散布された爆弾は彼の意のままにエインヘリアルに牙を剥く。幾多の透明な爆弾に晒される事は、敵にとって多大なストレスと化しただろう。
「元々は貴方も犠牲者の一人。貴方を救う事は出来ませんでしたが、せめてもう、お休みなさい」
 彼と共に妨害工作に勤しんでいたうつぎは、それでも騎士を哀れみ、抱擁を行う。死を孕む乙女の砲撃は零距離から敢行された。無数の弾薬を星霊甲冑に叩き込まれ、騎士は踏鞴踏み後退する。
 そこに叩き込まれるは、大質量の爆砕――フラッタリーによる爆撃だった。3者による衝撃を受けてなお、騎士は膝を折らない。両の足で地面を踏みしめ、咆哮する。
 ガアアアアア。
(「まるで、断末魔だね」)
 最後の最後まで引かない事。それが自身の騎士道と言わんばかりに、騎士は刃を振るう。その最期に沸き上がる気持ちに、夜七は首を振る。
 憐憫も同情も抱かない。それは彼の望む事ではないだろう。
「速度はぼくらの勝ちだね」
 だから、徹底的に叩き潰す。それが、騎士への弔いだと彼女は理解していた。
 神速の抜刀術はエインヘリアルの長剣を捕らえ、それを虚空へと弾き飛ばす。そこに殺到する3つの影は、彼への葬送となった。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 鋭さは一振りの剣の如く。速度は閃光の如く。そして冴えは夜空の月の如く。セレナの一撃は騎士の甲冑ごと、胴を切り裂き。
「王には冠を、剣には牙を、この王剣に――迷いなし」
 ソラネによる太刀の抜刀術は無数の牙となり、鎧の加護と共にエインヘリアルを噛み砕く。
 そして、輝くは人馬宮の煌きだった。
「放つは一陣の風。神なるは我が一閃」
 ゾディアックソードの刀身が纏うは風と雷の御手。バチバチと弾けるそれを制し、ローゼマリーは渾身の刺突を放つ。一足に踏み込み、放たれたそれは剛弓の一撃を思わせた。
「――見事。御身の忠節、我が忠誠を上回ったか」
 心臓を貫かれた、エインヘリアルが口にしたものは、されど賞賛の言葉であった。
「それが貴方の礼節と言うつもりかしら」
 全く、仕方ない人ね、とアリッサは嘆息する。
 死を前にして口汚く罵らず、それを受け入れる様は潔いようにも、むしろ依怙地のようにも思えた。
 やがて、騎士の身体は虚空に溶けていく。
 地面に落ち、からりと金属音を立てたゾディアックソードも、そして星霊甲冑もやがて、光の粒と化し、ゆるりと消失していった。

●騎士は夜に消え、番犬は栄光を掴む
「それでも、貴方は、騎士でしたか?」
 騎士の最期にフラッタリーはそう問いかける。無論、答えなどない。所業は彼女の抱く騎士とは程遠くとも、彼のデウスエクスは騎士として死んだ。それがすべてだと思った。
「結局、最後まで御互い騎士道にゃ向かない野郎同士だったねぇ」
 対してスウはその最期に皮肉気な笑みを浮かべる。せめてもゆるりと眠れと捧げる祈りは、侮蔑か敬意か、誰にも判らなかった。
「赤の……リチウ」
 ローゼマリーは名も知らぬ騎士の最期を胸に刻む。諸悪の根源であるシャイターンへの怒りもまた、その心中に刻みながら。
「これ以上の犠牲者を出さない為にも、炎彩使い達を一刻も早く……」
 セレナもまた、その祈りを抱いていた。これ以上の犠牲者を生み出したくない。想いは同じ方向を向いている。
「ともあれ、ヒール、しようか」
 悼みを終えた夜七の言葉に、ソラネが頷く。砕けた壁や地面を元通りにする。それもまた、ケルベロス達の仕事だ。
「どんなに綺麗な言葉で飾っても、これはただの侵略と、それを止める戦い。ただそれだけでした」
 言葉を紡ぐうつぎの表情は、何処か空虚で。それを紡ぐ自分が、そして目の当たりにした騎士の在り様が、何故か寂しいと思えてしまった。
「私たちは彼が罪を生み出す前に止めた。――グラビティ・チェインを集める事が彼の忠義ならば、人々を守る事が私たちの忠義であり、使命。それだけよ」
 淡々と紡がれたアリッサの言葉は激励、或いは慰労のようであった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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