失われる思い出に

作者:あかつき


「ああ、久しぶりに筆をとる事になってしまったわ……もっと早くお返事をするつもりだったのだけれど……前回はどんなお話をしたかしら」
 十年ほど前、雑誌の文通相手を探すページで知り合った文通友達へ、一月ぶりに返信をする為に仕事部屋のデスクに着く30代女性、相原・遥。水彩が趣味の彼女は同じく水彩が趣味の女性と文通をしていた。この十年、当時美大生だった彼女はデザイナーになり、いろいろな仕事を受けるようになったが、今でもこの手紙はなるべく欠かさず返すようにしていた。過去の手紙を読み返していく。彼女がただ一人だけのために描いた絵の数々に対する感想。辛かった就職活動期や売らずに苦しんでいた駆け出しの頃に励ましてくれた手紙の数々。
「いけない、前回のを探してたのよね。そう前回は……あの人が出かけた時の話と、その時の景色の絵を貰ったのね。じゃあ私は、この前、イチョウを見に言った時の絵を……貴女にも見せたかったのよ、本当は。……鮮やかな黄色、あの景色を描きましょう」
 貰った手紙をしまってある箱を取り出し、前回貰った手紙を確認してから筆をとる遥の背後に、第八の魔女・ディオメデスと第九の魔女・ヒッポリュテが現れる。そして二人の魔女は徐に手を伸ばし、背後から手紙の箱を床に弾き落とし、踏みつける。粉々に千切れる手紙だったもの。あの人にもらった、大切な水彩画。
「何をするの! 私の宝物に……あの人に貰った大切な水彩画を、よくも!」
 涙を流しながら怒りを口にする彼女の胸を二人の魔女の二つの鍵が、同時に貫く。
 現れたのは、可愛いレース柄の便箋をスカートの様に纏い、万年筆のような鍵を持った少女のドリームイーターと、水彩画のような淡い黄色のドレスを纏い、筆のような鍵を手にした綺麗な女性のドリームイーターだった。


「エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)の依頼で調べていたら、パッチワークの魔女がまた動き出したらしいことがわかった。今回動いたのは怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテの2体。この2体の魔女は、とても大切な物を持つ一般人を襲い、その大切なものを破壊し、それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪ってドリームイーターを生み出すらしい」
 雪村・葵(ウェアライダーのヘリオライダー・en0249)は集まったケルベロスに説明を始める。
「生み出されたドリームイーターは2体連携して行動し、周囲の人間を襲ってグラビティ・チェインを得ようとする。悲しみのドリームイーターが『物品を壊された悲しみ』を語り、その悲しみを理解出来なければ『怒り』でもって殺害するらしい。戦闘では怒りのドリームイーターが前衛を、悲しみのドリームイーターが後衛で連携して戦闘を行うようだ。2体のドリームイーターが周囲の人間を襲って被害を出す前に、このドリームイーターを撃破してほしい」
 敵のドリームイーターは2体で、それ以外の配下などは存在しない。ドリームイーター2体は、言葉は喋れるが、自分の悲しみを語る事と、怒りを表現する事以外は出来ないので、会話をすることは不可能だ。悲しみのドリームイーターは便箋の形のモザイクを使ったり、万年筆のような鍵を使う。怒りのドリームイーターは、色取り取りの絵の具のようなモザイクを使ったり、筆のような鍵を使って攻撃してくる。被害者女性はマンションの二階住んでいて、二階の他の住民は仕事で留守にしている。一階はエントランスとなっており、エントランスの前はマンションの住人用の駐車場だ。
「大切な物を目の前で失くされた被害者の悲しみと怒りは当然だ。その大切な物を奪われ、悲しみと怒りをドリームイーターにされるなんて、許せるものでは無い。みんな、よろしく頼む」


参加者
ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)
長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)
シィ・ブラントネール(星天のノルフェーン・e03575)
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)

■リプレイ


「行こうか」
 連絡先を確認した後、ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)は踵を返し、上り階段へ足を向ける。シィ・ブラントネール(星天のノルフェーン・e03575)、癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)、メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)も、同じように階段を登っていく。
「気を付けて、ね」
 エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)は、二階へと向かう大切な人たちの背を見守りつつ、呟く。
「じゃあ俺と智十瀬は外で、キープアウトテープを貼ってるぜ。エヴァンジェリンは、一階の方だな」
 尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は確認し、駐車場へと目を向ける。
「じゃあ、後で」
 二階に人は居なくても、一階に誰かいる可能性は捨てきれない。逃げ遅れの無いように、エヴァンジェリンは一階へと向かう。
「じゃ、やるか」
 長谷地・智十瀬(ワイルドウェジー・e02352)はキープアウトテープを取り出し駐車場へ。
「ああ、早く終わらせようぜ」
 広喜も同じように外に出て、気合いを入れる。塞ぐ場所は、マンションの入り口と、駐車場の周り。ドリームイーターが来るまでに終わらせなければ、と二人は駐車場の外周を駆け回った。

「私の悲しみを聞いてくれる人はいないかしら」
 レース柄の便箋を纏った悲しみのドリームイーターが、歌うように呟く。向かう先は、自身の悲しみを聞いてくれる人の居る所。その前を歩くのは、淡い黄色のドレスを纏った怒りのドリームイーター。
 そこへ、ケルベロス達が到着する。悲しみのドリームイーターは彼らに向け、言葉を紡ぐ。
「あなた達、私の悲しみを聞いてくださる? 私、大切な方と文通をしていたの。沢山沢山、手紙を書いて、沢山沢山、絵を描いたの。でもね、全部、破れてしまったの。粉々に、バラバラになってしまったの。ねぇわかる? 私の悲しみわかるかしら」
 啜り泣くように、悲しみを吐き出すドリームイーター。
「残念ながら、あなたの悲しみをワタシはわからないわ」
 首を横に降るシィに、怒りのドリームイーターは尋ね返す。
「こんなにも、悲しんでいるというのに?」
 一歩、二歩。怒りのドリームイーターは、シィへと近づいて行く。
「ええ、わからないわ。だって、あなたの事何も知らないし」
「なんて冷たいの。お前のような奴、私は許さない!!」
 瞬間、振り上げた絵筆の形の鍵は、身を翻したシィの居た場所を大きく抉る。
「メアリはわかるわ。だって、メアリも英国のおじさまと文通をしているのだもの。きっと、とても辛いでしょうね」
 本当に哀しいのは、ミス相原なのだけれど。メアリベルは、最後に続けたかった言葉だけは飲み込んだ。
「心が切り裂カれるようナ悲しみダったのだろウ」
 共感を装い頷く眸。二人の方へ視線を向ける怒りのドリームイーターから、少しずつ一階へと続く階段へと移動する。
「お前達に解るものか!」
 怒りのドリームイーターは叫び、ケルベロス達を追って階段の方へと駆け出した。

「今の内だね」
 ルビークと共に和は二人のドリームイーターの横を駆け抜ける。ドリームイーターは3人を追う事に躍起になって、2人が通り抜けて行った事には気付かなかった。
「ここだな」
 内側から扉が破壊された部屋を見て、ルビークが呟く。表札に相原と記されている事を確認した後、ルビークと和は部屋へと上がっていく。奥の部屋を覗けば、置かれたデスク、散乱した色取り取りの紙片が目に入る。その真ん中に倒れた女性。それを見たとき、ルビークの眉間に僅かに皺が寄る。
(悲しみと怒り……俺はそれをどこに向けていいか分からなかった時もあったな)
 脳裏を過るのは、彼が一度、全てを失くした日の事。今思えば、それは誰にも分からない、けれど、大事な、大切な感情だったのだ。
 だから、とルビークは一度、静かに瞼を閉じる。
 守りたいと、思う。彼女が、想う心を。
「利用なんて、させない」
 纏う空気の少し変わったルビークに、和はちらりと視線を向ける。
「うん、許せないよね。だから、絶対に守らないと」
 和は紙片を踏まないように端に避けながら頷く。
「手伝おう」
 しゃがみこむルビークがその作業を手伝い、手早く纏めて危なくない所へ寄せる。その様子を見て、和は親友の大切な父親の姿になんだかほっこりしてきたが、今はそんな場合じゃないと思い直す。
「じゃ、相原さんをベッドに移動させよう」
「ああ。そうしたら、早く合流しなければな」
 和とルビークは部屋の真ん中で倒れたままの彼女をベッドへと運び始めた。

「貴様らは私が、葬ってやる!!」
 ドゴォンッ、と派手な音をさせながら振り下ろされる鍵を避け、3人は走る。
「あなた、本当に悲しいの? 結構元気じゃない?」
 シィの発言に、怒りのドリームイーターは鍵を振るう。その一撃はシィの頬を掠めながら、壁を破壊する。
 ケルベロス達は出来る限り攻撃を避けながら、駐車場へと走る。
「そロそろだぞ」
 眸はドリームイーターの様子と自分たちの場所を確認してから、アイズフォンで別行動の仲間達に連絡を入れた。
「私の、悲しみをもっと聞いて……」
 すすり泣くように囁きながら、怒りのドリームイーターの後ろを悲しみのドリームイーターがついて行く。
「許すものか!」
 マンションの出入り口を駆け抜けるケルベロス達を追って、二体のドリームイーターが駐車場へと飛び出した、その瞬間。
「人の大事な物を簡単に壊しちまうなんて、酷い奴だな。敵に慈悲なんか求めちゃいねぇけどさ」
「何?!」
 怒りのドリームイーターが叫んだのと同時に、智十瀬の重力を宿した飛び蹴りが命中した。不意を突かれ、吹き飛ぶ怒りのドリームイーター。それを見て、悲しみのドリームイーターが涙を流す。
「酷い、こんな事をするなんて!」
 流した涙は、武器を構え直したシィへとその悲しみを涙と共に放った。
「あぁ!!」
 かくりと身体を傾けるシィに、サーヴァントのレトラが回復を施す。
「少し出遅れタ。尾形、行くぞ」
 シィの声に振り向き、眸は悲しみのドリームイーターを見据え、広喜に言う。
「任せろ!」
 背中合わせに武器を構えた二人は、眸は悲しみの、広喜は怒りのドリームイーターへ向かって駆け出す。
「余所見をすルな。ワタシだけを見テいろ」
 一瞬にして悲しみのドリームイーターの構成を見抜いた眸は、その神経を的確に貫く。
「あぁあっ!!」
 罪の意識のようにいつまでも膿み、疼く傷を与えられ、悲しみのドリームイーターは身体を抱える。
 眸の元から離れたサーヴァントのキリノは、広喜と共に怒りのドリームイーターの方へと向かい、ポルターガイストで攻撃を仕掛ける。
「リミッター解除、行くぜ」
 広喜の全身に浮かぶ青く光る回路が呪紋に変化する。魔人と化した広喜は怒りのドリームイーターへと駆ける。
「手紙も、絵も、離れた心を繋ぐ、大切なもの。心を、踏み躙られたのと同じよ……」
 一階の見回りを終え、駐車場でドリームイーター達を待ち構えていたエヴァンジェリン。胸元にゆらりと揺れるhimmelに触れて冷静を纏い、コンクリートを蹴る。手には混じりない銀の矛が握られ、瞳は真っ直ぐに、怒りのドリームイーターを見据える。
「許さないっ!!」
 その瞬間、怒りのドリームイーターは慟哭した。
「あぁぁっ!!!」
 怒りのままに泣き叫ぶドリームイーターの声は、駆けるエヴァンジェリンへと襲いかかる。
 衝撃を覚悟して身を竦めるエヴァンジェリン。しかし。
「エヴァ!」
 ドリームイーターとエヴァンジェリンの間に駆け込んだのは、ルビークだった。
「パパ?!」
 ルビークは慟哭の魔力を受けて膝をつくが、その背のエヴァンジェリンを振り返り、目を細める。その瞳に後押しされ、エヴァンジェリンは前を向く。
「行く、わよ」
 コンクリートの地面を蹴って、大切な義父へと一度視線を向ければ、彼が微笑んでいる事に気がついた。
(「皆んなと居られるなら、アタシは、強く在れる……」)
「大切なものを壊されると、悲しい、悔しい。それが、アナタ達がしたコトよ」
 稲妻を帯びた超高速の突きは、怒りのドリームイーターを貫く。
「回復するよ」
 駆け寄る和が、ルビークの傷を癒して行く。
「あぁ、ありがとう」
 彼の瞳はただ真っ直ぐに、風を切るようなその背を見つめていた。その横顔を見た和は、サーヴァントのりかーに声をかける。
「りかー、エヴァの援護をよろしく!」
 親友の助けになるようにと頼めば、りかーはドリームイーターへと突進していく。
 りかーの一撃を受け、がくりと膝を折る怒りのドリームイーターへと、シィのサーヴァントであるレトラが金縛りをかける。
「怒りも悲しみも、土足で踏み躙る無礼者は許さないんだから!」
 動きが阻害されたドリームイーターはファンシーな花々とポップな煙が包まれて、大気中へと消えていった。
「嗚呼!」
 涙を浮かべる悲しみのドリームイーターへとメアリベルは人差し指を向けた。
「人の大事な物を壊すなんて悪い子! マフェット嬢に食べられておしまいなさい!」
 黒い渦から生み出された巨大な蜘蛛が、粘着質な糸で作られた巣でドリームイーターを絡めとり、そこへサーヴァントのママがダメージを与えていく。
「なんで私の悲しみをわかってくれないの」
 ドリームイーターは自らの言葉を文字にして綴り、傷を回復する。
「行くぜ」
 智十瀬は素早く距離を詰め、空の霊力を込めた一太刀を浴びせた。
「白、行け」
 よろめくドリームイーターへ、眸はファミリアロッドが変化したモモンガを放つ。エネルギーを纏ったモモンガは、ドリームイーターへと突撃する。
「嫌っ!」
 そこへ走りこむのは広喜。
「俺は『怒り』も『悲しみ』も未だ学習してねえが、少ない方がいい感情だってのは知ってるぜ」
 電光石火の蹴りは、ドリームイーターに膝をつかせるには十分だった。
「おっしゃ今だ、行けっ!」
 広喜の視線を受けて、エヴァンジェリンは駆ける。
「さぁ、罪に報いを、悪夢に終を。悪夢の華が、その終を導いてあげる」
 手にした銀の矛と、真っ白で緩やかな湾曲を描く刀身に陽光を反射させ、エヴァンジェリンは目を細める。
「祈る時間は、あげない」
 愛する人の為、守るべきものの為の一閃は、ドリームイーターを斬り伏せた。


「お、こっちにもあったぜー!」
 端に落ちていた手紙の欠片を持って、楽しそうに笑う広喜が駆け寄る。その横で、小さな紙片を持ち、肩にファミリアロッドのモモンガを休ませている眸が立っている。
「こレは、絵ノ一部だろうカ」
「皆さん、ありがとうございます」
 遥は紙片を集めるケルベロス達に頭を下げる。
 ヒールで辺りを治しつつ、遥の部屋に向かったケルベロス達は、彼女が無事目を覚ましたのを確認した後、ルビークと和が集め損ねた紙片を探したり、手紙と絵を分別したりしていた。
「これで全部かな」
 部屋を確認しながら和が言う。その紙片を見た遥の目から、ぽろりと涙が溢れた。
「あの、ごめんなさい。ここまで、して貰って」
 そう言う間にも、彼女の目から止め処なく涙が流れていく。
「うん、大切なものが壊されるのは辛いよね。でも、変わらないものもあると思うんよ」
 そう言う和に、遥は目を瞬く。
「変わらない……」
「俺も皆から貰ったものを壊されたら辛い。それは貰ったのが嬉しかったからなんだよな。だから、あんただってさ、嬉しかったんだろ? 綺麗事だけど、思い出は消えないし、増やす事も出来る。だから……その、あんまり落ち込むなよ」
 そう言う智十瀬に、遥は涙を拭いながら頷くが、その涙はまだ止まりそうもない。
「もし、良かったら。手紙と絵を、ヒールさせて、欲しいの。そうじゃなければ、修復をと、思うのだけれど」
「え?」
 エヴァンジェリンの申し出に目を瞬く遥。
「ひとつ言っておくとするなら、ヒールをした場合、元通りになるとは限らない」
 補足するように続けるのはルビーク。
「前にメアリが行った依頼では、破損直後にヒールをかけたら元通りになったけれど、今回もうまくいくっていう保証は無いわ。アナタが決めて、ミス相原」
 そう言うメアリベルに、遥は少し考えて、首を横に振った。
「別のものになってしまったらって考えると……なんだか、思い出が上書きされてしまったみたいで悲しい。だから……」
 なんとか止まった涙を拭いながら答える遥に、シィが頷く。
「なら、どうにか元の形になるように繋ぎ合わせるの、やらせて貰って良いかしら?」
「でも……お気持ちは嬉しいですけど、悪いです。助けて貰って、その上……」
 そう言う遥に、エヴァンジェリンは勇気を振り絞り、言う。
「やらせて、欲しいの。嫌なら、無理にとは、言わないけれど……」
「それ、きっと二人の宝なんだと思うんだ。だから、出来れば直させて貰いたいな、って」
 そう続ける和に、遥はまた泣きそうになりながら頷く。
「ごめんなさい……みなさん、ありがとうございます」

 なんとか手紙と絵を繋ぎ合わせた頃、もう外は真っ暗になっていた。見送りに外まで出てきた遥に、メアリベルは手紙と絵を手渡す。
「代わりにはならないでしょうけど、メアリからの贈り物よ。大事にしてね」
 遥を守るように、8人のケルベロスが囲み、笑っている絵。手紙の方には、遥の絵の感想と元気になってと書かれていた。失われた宝物のあとに、積み上げていく最初の一枚となるように。メアリの込めた願いは、きっと遥の胸に届いたのだろう。
「素敵……宝物に、するわ」
 遥は二枚を抱き締めて頷く。
「形は変わってしまったかもしれないが、記憶や言葉がその胸の中にあるのなら、それは決して無くなりはしないのだと……俺は、そう思いたい」
 ルビークの言葉は、遥に向けたものか、それとも自分自身に向けたものか。判然としないながらも、その言葉はしっかりと遥に届いた。
「あの、どうか、返事を書いてあげて欲しい。きっと、アナタの手紙を……待ってるから」
 また思い出を重ねれば、心の痛みも、埋めていけるかもしれない。エヴァンジェリンはそう思っていた。
「そう、アナタの返事を待ってる人は、失われていないのだからね」
 微笑むメアリベルに、遥はハッとする。
「そうすりゃきっと、新しい大事なもんも増えるぜ!」
 カラッと笑う広喜に、遥は目を細め、大きく頷く。
「ありがとう、皆さん」
 遥の口元が僅かに緩む。それを見届けてから、ケルベロス達は歩き出す。
「元気になってくれるといいな」
「そウだな」
 そう言う広喜に、眸が小さく頷く。
 エヴァンジェリンは一度立ち止まり、左右を見渡す。大切な家族、大切な友人。
「良い人達……」
 仄かな月明かりの下、皆と居られる幸せに、エヴァンジェリンは、静かに、柔らかに、微笑んだ。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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