武の心戯れる者

作者:幾夜緋琉

●武の心戯れる者
 雄々しい滝の音が流れる、東京都青梅市、御岳山。
 深夜の刻、この寒空の中……気合いを入れて身を投じ、頭に滝を受け止めながら空手の型を打ち込む男性。
 かなり寒いだろうが、ビシッ、ビシッと型を決め、十分程滝行を行った後、滝から離れる彼。
 ……水煙ではなく、汗から立ち上る湯気……息を吐きながら、呼吸を整える。
 そんな彼を、眺めているのは……黄色の服に身を包んだシャイターン、『黄のナトリ』。
「ふふ。すっごーい。ねえねえ、お兄ちゃん、すっごいねー?」
 と気軽に声を掛けるが、彼は……半ば無視。
 しかし、彼女は指をパチン、と弾くと……次の瞬間、彼の周りは、一瞬にして火に包まれる。
『……!?』
 驚愕の表情を浮かべるが……瞬く間に炎に完全に包まれてしまう……そして、その火が消えた後には、跪く3m程の、空手着に身を包んだ男。
「ふふ。お兄ちゃん、身体の調子はどうかな? ナトリはね、お兄ちゃんの事、応援してるんだよ。だから、精一杯頑張ってきてね! お兄ちゃんならきっと出来るよ! じゃ、またねー!」
 と元気いっぱいに手を振り送り出すと……彼は、こくりと頷き、山を下りていくのであった。
「ケルベロスの皆さん、集まってくれたッスね! それじゃ、早速ッスけど説明させて貰うッスよ!!」
 と、黒瀬・ダンテは、集まったケルベロス達に力強い挨拶をすると、早速。
「最近動き出している、有力なシャイターン達。彼女達は死者の泉の力を操って、その炎で燃やし尽くした男性を、其の場でエインヘリアルにする事が出来る様なんッスよ!」
「この出現したエインヘリアル達は、グラビティ・チェインが枯渇している状態で、人間を殺害し、グラビティ・チェインを奪おうと暴れ出している様なんッス」
「そこでみんな、急ぎ現場に向かい、暴れているエインヘリアルの撃破を頼みたいッス!」
 そして、更にダンテが。
「このエインヘリアルは、自分の力に自信を持った空手家の男性の様で、その攻撃手段もその空手家の力を軸にした攻撃を仕掛けてくる様なんッス」
「基本的には近接して、空手の手刀の一閃、回し蹴りが危険な一撃の様ッス。特に回し蹴りの一閃は、頭を狙った一撃で、下手すると脳しんとうの様な現象を引き起こし、麻痺を誘う攻撃の様ッス」
「又、特に武器は持っていないからか、動きもかなり素早い様で、体力もかなり多くしぶとい相手の様ッス。特に時間制限は無いものの、長時間の戦闘になると思うッスから、皆で協力して仕留めて欲しいッスよ!」
 そして、ダンテは。
「何にしても、この様なエインヘリアルが町まで降りてきてしまえば非常事態なのは間違い無いッス。皆さん、宜しく頼むッスよ!!」
 と、拳を振り上げた。


参加者
レイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)
ジェノバイド・ドラグロア(元八八八番被験体・e06599)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
澤渡・和香(押しかけ事務員補佐心得・e13556)
チェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)
山内・源三郎(姜子牙・e24606)
クロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)
柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)

■リプレイ

●寒風に統一し
 東京都は青梅市にある、御岳山。
 すっかり周りは闇に包まれている深夜の刻……寒空の下で、一生懸命に滝行をして、空手の特訓をしている男性が……黄色の服に身を包んだシャイターン『黄のナトリ』によって炎に包まれ、3mの体躯のエインヘリアルに姿を変えてしまうという……。
「うーむ……こういう筋肉ダルマの相手はしたくないのう、暑苦しいのは嫌なのじゃが……」
 と、山内・源三郎(姜子牙・e24606)が溜息を吐くと、ええ、そうかなぁ、と言った感じでチェリー・ブロッサム(桜花爛漫・e17323)が。
「カラテだー! 空手家ってさ、ゴリゴリのマッチョっていうよりさ、引き締まった細マッチョのイメージがあるよねっ! ボク、イケメンな細マッチョの空手家に守って貰いたーい! たくましい腕で引き寄せられるボク! 爽やかな汗の薫り! ふたりの荒い息! そしてその距離はゼロへと……キャー、きゃー!!」
 と、顔を紅くして身を悶えさせるチェリー。
 ……そんなチェリーの動静に、柔・宇佐子(ナインチェプラウス・e33881)も。
「そうなのよ! でも私は筋肉モリモリマッチョマンになるのが夢なのよ! うつべしうつべし!!」
 と、えいえいっ、とジャブ打ちをする宇佐子。
 ……ともあれそんな空手家のエインヘリアルを、このまま放置しておく訳にはいかないだろう。
 このままでは、エインヘリアルは山を下り、一般人を殺戮し、グラビティ・チェインを得てしまう……だから、山から下る前に、エインヘリアルを止めねばならない。
「でも、こんな山の中にまで出向くなんて……本当に、デウスエクスは無駄に働きたがるね。対応が後手に回るのが、本当に歯痒い……デウスエクスが何かする前にたたければいいんだけど……」
 と、山羊の頭骨を被ったクロエ・フォルバッハ(ヴァンデラー・e29053)が抑揚も無く呟くと、それにレイ・ジョーカー(魔弾魔狼・e05510)が。
「うん。まぁ確かにな。しかし今回も可愛い女性が多くて何よりだ。終わったらさ、この後みんなでお茶でも行こうか?」
 と言うと、ジェノバイド・ドラグロア(元八八八番被験体・e06599)も。
「おー、いいんじゃね。しかし今回、相手は一体とは言え、武術を体得している相手。確実に強い相手なのは間違い無いだろう。全力で倒さねえと……久しぶりの依頼だ。張り切って行くか!」
 と力強くジェノバイドが決意すると、志藤・巌(壊し屋・e10136)と澤渡・和香(押しかけ事務員補佐心得・e13556)も。
「ああ……蹴り自慢のエインヘリアル……負けられねェな。しかし幻武極しかり、今回のナトリしかり……最近武術家を狙った事件が相次いでるなァ……何か、不穏な流れが産まれなければ良いんだが……」
「ええ~。まぁ、道はどうあれ、同じ空手を嗜んでますから~、間違った事には使わせてなるものですか~! いざ尋常に一対一で~……と行きたいですけど~、流石に私もケルベロスですから~!」
 えい、えい、おー……と言った感じに拳を振り上げ、気合いを入れる和香、そしてクロエが。
「そうだね。まぁ……こうなってしまった以上、倒すしか道は無い、か……」
 それにチェリーも。
「うん、頑張るよー!!」
 と、イケメンに逢える期待半分、強い相手と戦える嬉しさ半分で、拳を振り上げるのであった。

●神業の如く
 そして、御岳山の滝行現場へと向かうしたケルベロス達……。
 頭上から、滝壺の流れる音。
 そして……遠くの方からは、フッ、フッ……という、正拳突きをしている気合いの息。
「こっちみたいだね! うーん……どんな人なんだろう!」
 更にドキドキ、ワクワク……といった感じで胸を躍らせるチェリー……ともあれ、その興奮を抑えつつ、滝壺へ。
 ……巨大な3mの体躯は、人の身二つ程の大きさ……見上げるような形になる。かなりの威圧感を感じるが……その顔立ちは……結構整っている。
「きゃー!! かっこーい!!」
 更に妄想を爆発させるチェリー……でも、エインヘリアルは、それに対しては無言。
 いや……明らかにケルベロス達を敵である、という敵対心を露わにしている。
「んー……中々整った顔立ちだよな。でも、俺としては格闘家の男よりも、シャイターンの可愛い子と会いたかったもんだが……悪いが、ここから先は通行止めだぜ?」
「そうだ。あんたを町まで降ろす訳にはいかねぇ。ここで止めさせて貰う」
 とレイ、ジェノバイドの二人が宣言するが、エインヘリアルは一切話しは聞いていない。
 ……完全に、シャイターン【黄のナトリ】によって、正気を失わされている様である。そして、そんな彼を救出する方法は……無い。
「……あんたもまた、利用されてんだな。クソ、胸糞悪い……」
 と舌打ちするジェノバイドだが、それで事態が変わるという訳も無く。
「まぁ、仕方ねえな。さっさと倒してやる以外に手段が無いのならな」
 と言いつつ、巌は。
「オイ。空手家、お前の蹴りと俺の頑丈さ、どっちが上か試してみるか?」
 と宣戦布告し、正拳突きの拳で素振り。そして、和香、源三郎も。
「さぞや名のある方とお見受けします~。私たちとひとつお手合わせ願います~!」
「うむ。ワシが本当の武という物を教えてやろう!」
 と拳を振るう。
『……ゥゥ……』
 と、エインヘリアルは唸りながら、ケルベロス達に接近。
 そして、その巨躯から勢いを付けて、手刀の一撃を叩きつける。
 かなり重い一撃が、ケルベロス……の脇を翳め、地面に裂け目を一つ作る。
「うわぁ……すっごいね! カッコイイし! でも、それはそれとして戦わないと! 私は正面から戦闘を挑ませて貰うよ!」
 とチェリーの闘争心にも火が付いたようで、更なる笑み。
 ……そして、クロエも。
「そうだね……個人的には、取りあえずバッドステータスで行動阻害する方向で行こうかな?」
 と言いつつ、接近……そして。
「狙いは、外さない」
 と宣言と共に、稲妻突きを放つ。
 電流が流れ、痺れるエインヘリアル……が、勿論その一撃位では怯みもしない。
 更に続いてレイが、ライドキャリバーに騎乗しながら突撃、デットヒートドライブと、クイックドロウの連携攻撃。
 スナイパーポジションからの命中力強化もあり、確実に命中し、その体力を削る。
 そして、続く巌は。
「……速さを削ぐッ!」
 と、『爆震脚・壊』にて、渾身の一撃と、足止め効果の一撃を叩き込んで行くと……更に宇佐子も。
「そうなの。わたしがみんなを守るのだわ!」
 と拳をぎゅっと握りしめ、そして殴りつける『にゅういん』のてっけんぱんち。
 と、ディフェンダーの攻撃に続き、メディックの和香、チェリー。
 壊アップを付与する為、和香は紙兵散布のBS耐性を配り、チェリーは後衛陣にルナティックヒールで壊アップを付与。
 そして、最後に動くクラッシャーのジェノバイドと源三郎。
「さぁ、始めるとするかの!」
 と、強い言葉を言い放ちながら、スターゲイザーを空から降り注がせると、更にジェノバイドのスカルブレイカーが飛び上がり、その脳天からの一撃を叩き込む。
 脳天から食らった一撃は、流石にちょっと効いたようで……少し動きが鈍る。
 が、すぐに意識を取り戻し、しっかりと立ち塞がり……ケルベロス達を睨む。
『殺す……!』
 短く宣言すると、その身一つで再度接近。
 軽い身のこなしで、ケルベロス達の頭上から殴り掛かる……大きな体躯から繰り出される一撃は、かなりの恐怖感を刺激される。
 勿論、その恐怖に負けぬ様、ケルベロス達は更なる攻撃を積み重ねていく。
 チェリーの壊アップを受けたクロエが。
「火力調節は、出来ないんだ」
 と、ドラゴニックミラージュを放てば、レイはファントムと連携し、クイックドロウとキャリバースピンの連携。
 更にチェリーがクラッシャーに剥けて、メタリックバーストでの壊アップ。
「サンキューじゃ、嬢ちゃん!」
 とサムズアップで感謝を伝える源三郎、そしてそのまま流れる様に、エインヘリアルへ指天殺の攻撃、ジェノバイドも雷刃突の一閃。
 そしてダメージの量を見据えた上で、和香は。
「大丈夫ですかね~。それでは~、行きますよ~!」
 と、前衛、攻撃を受けた宇佐子にジョブレスオーラで回復。
 続けて巌がデストロイブレイド、宇佐子がドラゴニックスマッシュ……確実に、敵の体力を削り去る。
 そして……回復手段も持たないエインヘリアルの体力を、少しずつ、確実に削り続ける事……十数分。
『ぐう……』
 と、唇を噛みしめる仕草をしたエインヘリアル……。
「どうした? もう終わりか?」
 と源三郎が吐き捨てるが……エインヘリアルは睨み付け、立ち上がり……攻撃する。
 が、その攻撃は、中々有効的なダメージを与えられる事は出来ない。
 そして……その攻撃を躱しながら、源三郎が。
「闇の深淵にて揺蕩う言霊達が呼び覚ませしは降魔の波動、彼の者に聚雨の如く撃ち付けよ!」
 と『外法幻禍陣』の、冥界パワーをエインヘリアルに集中的に放つと、更にジェノバイドも。
「この汚れきった血と焔で……吹き飛ぶどころか、消し飛んじまえよ!」
 と『Demonvyde』の一撃を、その脚に叩きつけ……エインヘリアルは、その巨躯が横倒しにされてしまう。
 そして。
「矜持を無くした武術なんて、ただの暴力……そろそろ、終わりにしよう」
 と、クロエが『Baroness Cimetiere』の攻撃。
 ……その一撃が、エインヘリアルを覆い隠し……絶叫を上げながら、エインヘリアルは崩れ墜ちていった。

●水と炎
 そして、どうにかエインヘリアルを仕留め終わったケルベロス。
「押忍! ありがとうございました~!!」
 と、しっかりと礼を持って、エインヘリアルを送り出す和香。
 そして、その腰にあるホルスターに両銃を納めつつ、眼を閉じ、無言で冥福を祈るはレイ、そして巌。
 ……彼は、『黄のナトリ』による、被害者である。
 彼女に目を付けられなければ……空手家として力を付け、生きていた筈。
 そして……。
「……いずれ仇は取る……だから、ゆっくり眠れ」
 と巌の口から零れた言葉に、皆も頷く。
 そして……皆、目を開けて、前を向いて。
「さて、と……何か黄のナトリの手がかりが無いか、ちょっと調べて見るか」
 とレイはエインヘリアルの暴れた痕の調査開始。
 黄のナトリの、僅かでもの手がかりがあれば……と思いながら、調査を進める。
 が……全て燃え尽くしてしまったのか、それとも……その痕跡を残さない様にしているのかは解らないが、何かが見つかる事もない。
「仕方ねえな……」
 髪を掻き上げつつ、レイは。
「ま、仕方ないだろ。でも……次に遭う時はやっぱり可愛いシャイターンの子が良いよな……でも、キッチリと命を玩んだ償いは付けさせてやる」
 と、ぐっと拳を握りしめて、胸に秘めた怒りを抱きつつ……仲間達と共に、其の場を離れるのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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