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モデルとしての仕事を探すため、夢を叶えるため上京したハルキは、その拳を震えるほどに強く握りしめ唸った。人通りのない暗い公園に、彼の声が虚しく響く。
「なんでだよ……! あんな不細工どもに俺が負けるなんて!」
不採用になったことへの恨みを零す彼の前に、突如としてタールの翼を持つ娘が現れた。
「そうね、あなたなかなか綺麗。でも」
ごう、とハルキの身体が青色の炎に包まれる。焼き尽くされた彼の代わりに炎の中から現れたのは、彼と同じように端麗な容姿を持つエインヘリアルであった。
「なかなか、良い見た目のエインヘリアルにできたわね。こっちの方が素敵よ。やっぱり、エインヘリアルなら外見にこだわらないとよね」
うんうん、と頷き、娘――青のホスフィンは彼に命じる。
「でも、見掛け倒しはダメだから、とっととグラビティ・チェインを奪ってきてね。そしたら、迎えに来てあげる」
ハルキであったものはその3mもの巨体を軽く折り彼女に礼をすると、夜の街へ駆け出して行くのであった。
●
秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は神妙な面持ちで口を開いた。
「有力なシャイターンが動き出したみたいなんだ。彼女たちは、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、その場でエインヘリアルにする事ができる」
しかも、出現したエインヘリアルはグラビティ・チェインが枯渇した状態のようで、人間を殺してグラビティ・チェインを奪おうと暴れだすのだそうだ。非常に危険だと祈里は付け足す。
「皆には、至急現場に向かってほしい。暴れようとするエインヘリアルを撃破してほしいんだ」
シャイターンは既に姿を消している。今出来ることは、エインヘリアルによる惨劇を喰い止める事だ。
「戦闘場所となるのは、シャイターンが去った後の公園。今から向かえばエインヘリアルが街へ飛び出る前に迎え撃つことができるはずだよ。幸い、周囲に人通りは無いみたいだから一般人の避難は気にしなくて良さそう」
ハルキ『だった』エインヘリアルが使う武器は、一本のゾディアックソード。
「油断しちゃだめだよ。このエインヘリアルは、自分は美しく、優れた男だったから選ばれて勇者になった……って思っているんだ。だから、殺した相手が自分の糧になれるのは名誉なことだって思ってガンガン人を殺そうとする。……説得は効かない相手だよ」
ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は、ひとつ頷いて立ち上がった。
「エインヘリアルにされたハルキさんは助かりませんが、更なる被害を生む前に……行きましょう」
参加者 | |
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十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031) |
萃・楼芳(枯れ井戸・e01298) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
マロン・ビネガー(六花流転・e17169) |
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273) |
伊礼・慧子(臺・e41144) |
●
公園に向かう最中、萃・楼芳(枯れ井戸・e01298)は周囲に視線を巡らせた。
(「よし……いない、か」)
万が一にでも一般人が寄ってきていないか、確認するためだ。
「珍しいな、青い炎とは。シャイターンめ、また厄介な事件を……」
アベル・ウォークライ(ブラックドラゴン・e04735)が、苦々しく呟いた。嫉妬に焼かれたとはいえ、罪のない者が犠牲となったその事実に、彼の瞳が炎を湛えるように鋭く光る。
「モデル業界の事は良く分からないのですが……不採用になったあとの採用なら、より一層嬉しかったのかもしれません」
伊礼・慧子(臺・e41144)はぽつりと言った後に、すぐに付け足した。
「そんな中、可哀そうではありますが、彼が罪を犯す前に決着を付けましょう」
街灯の灯りが薄ぼんやりと照らす公園に差し掛かると、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)は耳元へと手を遣った。
(「今日もあなたに頼らせてくださいね?」)
Top Hat、戦いの共である如意棒は、応えるように手にしっくりと馴染んだ。戦にふさわしいサイズに戻して、敵を探す。泉は、戦いが始まる前にと仲間へ視線を投げた。
「どうぞ、よろしくお願いします」
頷き合うケルベロス達。ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は、軽く頭を下げると、
「後方支援はお任せください」
精一杯、頑張ります。と唇を引き結ぶのだった。
そのときだった。前方に、大きな影が見えた。――来る。全員が、得物を手にエインヘリアルへと向かった。
「ハルキさんもいずれはモデルとして栄達なされたやもしれません。……その可能性すら奪われてしまったのは、残念でございます」
包囲するようにエインヘリアルの元へ向かい、西水・祥空(クロームロータス・e01423)は悲しげにそう告げる。
「ふ、アハハ……! 過去の名なんてどうでもいい! 俺は……俺はエインヘリアルの勇者に選ばれし者だ!」
ハルキであったものは高らかに笑った。彼の高笑いを遮るように、ある言葉が響く。
「あっ、見掛け倒しさんです!」
言葉を発したのは、マロン・ビネガー(六花流転・e17169)。冷めた視線で、エインヘリアルの巨躯を見上げ観察している。
「なんだと……?」
ぎろり、エインヘリアルが目を剥く。マロンはなんとなく思った。
(「この自称イケメン勇者様は性格が悪そうだから、その内化けの皮が剥がれそうです」)
先手を取られる前に、と、前衛に立つ仲間へ向けてゆきみメタルさんからオウガ粒子を放出する。
(「予防ではなく更なる悲劇の阻止、というのが口惜しいわね」)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)は、さりげなくエインヘリアルの退路を塞ぐように立つ。
「選ばれし者、ですか。確かに勇壮なお姿ですね」
泉がふと、口を開いた。
「ほう? 見る目があるな」
調子にのりかけたエインヘリアルへと、アベルが仕掛けていく。
「勇者を名乗るに相応しいか、見極めてやろう」
ガウンッ、と大きな衝撃がエインヘリアルに走った。破鎧衝のダメージが、油断しきっていたエインヘリアルに響く。
「クソッ……!?」
「ああ、でもこちらのお二方の方が、より勇壮であり美しい。私はそのように思いますね」
泉の声に、エインヘリアルの機嫌が悪くなるのが手に取るようにわかる。こちらの二人、と手のひらを上にして丁寧に紹介された先には、守り手の祥空と楼芳が立っていた。
「優れた勇者としての自負があるならば、私達に背を向け逃げるようなことはなさいませんね?」
高く跳躍し、アンダーワールドダーク・エレボスに虹を纏わせると祥空は勢いよくエインヘリアルに蹴りかかる。
「グッ……キサマアアァァ!」
エインヘリアルがゾディアックソードを高く振り上げた。着地した祥空目がけ、星座の重力を込めた一撃を放つ。
「ッ……」
痛みに眉を顰めながらも、祥空は仲間へ視線を向けた。――今です。
●
「寄越せ、グラビティ・チェインを……!」
ゾディアックソードを振り回しながら、エインヘリアルは叫ぶ。
「穿て、【四奪】!」
このままでは仲間に危険が及ぶ。楼芳は暴れるエインヘリアルの身体に、グラビティの杭を打ちこんだ。
「がッ……」
エインヘリアルは悲鳴をあげ、腹部からボタボタと血を流す。
「秦から事前に説明は受けていたが……醜いな。その姿、よく似合っているぞ」
追い打ちをかけるように、楼芳はそう告げた。エインヘリアルの長いまつ毛がぶるぶると震え、血走った眼が開かれる。
「俺が、醜い……だと……」
「他人を僻み、妬み、見下す……自分のその心の醜さに気付かないのか?」
アベルのため息に、エインヘリアルは激昂し剣からオーラをまき散らした。
「黙れ、黙れ、黙れええぇぇえ!!」
後方へとまっすぐに飛んでいくオーラから仲間を守るべく、祥空と楼芳はそのオーラの前に飛び出て行く。
「ッ……く」
(「もう、助からない魂……」)
泉はエインヘリアルの懐へ飛び込むと、抉りこむようにハウリングフィストを叩きこむ。
「ぐ、あああ!」
血反吐を吐くと、『ハルキだった者』は歯ぎしりをした。泉はエインヘリアルから距離を取るように移動し、次の動きを窺う。
(「とても辛いことですけれど……だからとはいえ、悲しみを増やすわけにはまいりませんから、ね」)
ここで、断ち切るしかないのだ。
「俺が、俺が俺が俺が醜いなどあるものかああああ!」
エインヘリアルが叫ぶ。ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は、興味がない、と言った風に深くため息をついて、カアス・シャアガを構えた。みるみるうちにそれが砲撃形態に変わる。
「うるさい。見た目が何だという?」
どん、重い音を立て、轟竜砲がエインヘリアルの脚に命中した。
「っううッ」
そのやりとりの隙に、玲斗は傷を負った守り手たちに駆け寄った。
「光以て、現れよ」
光の術式により、祥空と楼芳の傷が癒えてゆく。慧子は、百戦百識陣の陣形名を伝えた。
「Vです」
先陣に立つ者の後ろに控えるように立つ。伝えた言葉に乗せて、後衛のケルベロス達に破魔の力を満ちさせた。
「ナズナさん!」
その力を更に引き上げるよう声をかけられると、彼女は目を軽く伏せ、ティーシャへと魔法の木の葉を纏わせる。
「俺は、……俺は、美しい、正しい、選ばれし者だ!」
エインヘリアルは地に守護星座を描く。まるで彼をライトアップするかのようにそれは輝き、彼を癒した。皮肉にも、己の血と返り血に濡れる顔は美しさからは遠のいていくばかり。アベルが呆れたように言う。
「……『仏作って魂入れず』とはよく言ったものだ。見栄えだけ整えても、中身が伴わないと意味はないだろう」
●
「さあ、俺の糧になれ。俺の美しさの養分となるのだ!」
狂ったように笑うエインヘリアルへ、マロンが問うた。
「勇者様の『内側』のイケメン度はどの位なのです? 見せてください」
言葉尻に合わせ、時空凍結弾がエインヘリアルの身体を貫く。
「ぃぎっ……」
ぐらり、と体勢を崩しかけ、しかしてエインヘリアルは耐える。そして剣を手にマロンへ襲い掛かった。
「調子、に、乗るなあぁぁあ!」
「ビネガー!」
楼芳が彼女を守るように立ち、鉄塊剣を持った腕でもってその一撃を受ける。マロンが大丈夫かと気遣うと、背中越しに肯定し、楼芳はその金の瞳をエインヘリアルへ向ける。
「……どちらが?」
ギリギリと拮抗する刃を払うように、祥空が横から達人の一撃を叩きこんだ。
「そこまでにしていただきましょう」
私たちはあなたの糧になる気は有りませんからね、と続ける。
「貴様らの意志など関係ない……寄越せ!」
奥歯が見えるほどに大きく叫び、エインヘリアルは剣を振るう。上々だ。こちらの煽りにかかってくれている。祥空は手ごたえを感じ、己の剣を構え直した。
「一気に決めるぞ!」
アベルが、翼を広げた。その両の手の爪を超硬化させると、勢いよくエインヘリアルに飛び掛かる。鋭い爪が、エインヘリアルの守りを打ち砕いてその身に深い傷を刻んだ。
「く、そッ……」
エインヘリアルは剣を振り回す。まき散らすオーラの狙いが正確性を欠いていた。泉がそのオーラを受けつつ、
「制御できる自信はありませんが、ヒトツメ、行きますよ?」
無駄を省いた動きで迫る。たった、一撃。それがエインヘリアルに重いダメージを与えた。
「う、ぐあぁぁ!」
がくん、と泉の身体もブレる。
「しっかり……!」
玲斗が雷錐をかざす。瞬時に迸るエレキブーストが、泉のダメージを癒した。
「ありがとう、ございます」
楼芳に祝福の矢を撃つと、ナズナは小さく頷く。
「相手はかなり消耗していますね」
「う、うう、俺はこんなところで……! 俺は勇者だ! 美しく、気高い……」
エインヘリアルの声を遮り、ティーシャが吐き捨てるように言い放つ。
「無様だ」
勢いをつけ、炎を纏わせたIron Nemesisで、エインヘリアルの腹部を思い切り蹴りつける。
「かはっ……」
慧子が、ゆるりとその腕を持ち上げて手のひらをエインヘリアルに向けた。
「勇者オーディション一次選考は、ケルベロスを全員倒せるかどうからしいですよー」
そもそも、まだ選ばれていないのでは。そんな煽りを込め、エインヘリアルの退路を断つ。炎が竜の幻影の姿をとり、エインヘリアルを焼き捨てた。震えながら立ち上がろうとするエインヘリアルにマロンが歩み寄る。そして。
「ヒーローショーです? 花吹雪ならお任せなのです!」
無慈悲で美しい、花の嵐でエインヘリアルを包む。纏わりつく花々に、エインヘリアルはもがき叫んだ。
「く、やめ、ろ! あああああああ!」
そこへ、アベルが強烈な炎のビームを放つ。
「これが真なる炎だ。邪悪な炎よ、消え失せろ!」
地獄、そして、竜の息吹。二つを併せ持つ炎が、エインヘリアルを焼き尽くす。その嫉妬の炎ごと、全てを消し飛ばすのであった。
●
「終わりました、ね」
慧子は、新たな罪を生み出す前にかたがついたことに小さく息を吐く。
「大きい事で尊大な態度も大きくなるヘリアルさんでしたね」
マロンは周囲にヒールをかけつつ、ぽつりと呟いた。
「……ハルキさんがもっていた、プライドを悪い方へ大きくしてしまったシャイターンの炎……恐ろしいですね」
ナズナは、まだ耳に残るエインヘリアルの高笑いに首を軽く横に振る。
「……泉さん?」
泉が手にしている器と灯りを見て、小さく首を傾げた。
「……鎮魂歌を」
静かにそう告げると、泉はブルースハープにそっと唇を寄せる。優しい音色と灯とが、ゆるゆると暗がりの公園へ溶けていった。ナズナも、自然と手を祈りの形に組む。
アベルも、そっと瞳を閉じた。
(「彼もまた選定による犠牲者。せめて今は冥福を祈ろう」)
――いつの日か元凶を断つという誓いと共に。
作者:狐路ユッカ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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