●振り下ろされた牙
市街を移動する為の交通の要所。駅前バスターミナルは今日も多くの利用者が立ち並んでいた。
整然としたその光景は平和の象徴のようだ。
――しかし突如その平和は砕かれることになる。
突き刺さる巨大な牙。アスファルトの地面を穿ち突き立った四本の牙が変貌する。
醜悪な鎧兜を身に纏い、無辜の民を傷つけんと悪しき武器を振りかざす――竜牙兵だ。
「グハハァ、グハハァァ!」
「サア、オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ!!」
悲鳴をあげ逃げ惑う人々を容赦なく斬りつけ惨殺する竜牙兵。
「ニクイか! コワイか! オマエたちがワレらにムケル、そのゾウオとキョゼツこそ、ドラゴンサマのカテとナルのだ!!」
潰れた石榴のように赤黒い血と臓物がアスファルトを染め上げる中、竜牙兵の邪悪な咆哮が空へと響く――。
●
「神奈川県の駅前バスターミナルに竜牙兵の出現が予知されたのです!」
集まった番犬達を前に、クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が事態の説明を始めた。
放っておけば人々が殺戮されることになる。急ぎ現場に向かい凶行を阻止する必要があるだろう。
「竜牙兵が出現する前に周囲の人々を避難させてしまうと、竜牙兵は他の場所に出現してしまうのです。そうなると事件を阻止することができなくなってしまい、被害が大きくなってしまうので、注意が必要なのですよ」
竜牙兵の出現に合わせ戦場に到着すれば、あとの避難は警察などに任せられる。
戦いに集中することが可能だ、とクーリャは説明した。
「竜牙兵の数は四体。皆さんが持っている『ゾディアックソード』や『簒奪者の鎌』に似た武器をそれぞれ持っているのです」
クーリャによれば、剣を持つ二体が鎌を持つ二体を守るように隊列を組み、鎌持ちの二体は、慎重に狙いを定めて攻撃してくるそうだ。
致命打を貰わないよう注意が必要だろう。
「周辺はバスターミナルですが、目立った障害物はなく戦闘に支障はないのです」
開けた場所での戦闘になる。滞りなく避難も実施され、戦いやすい戦場となるだろう。
クーリャは資料を置くと説明を終えこう締めくくった。
「未だに終わることのない竜牙兵の虐殺行為ですが、見過ごすわけには行かないのです。速やかな討伐のために、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
参加者 | |
---|---|
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464) |
伊庭・晶(ボーイズハート・e19079) |
ヨルヘン・シューゲイズ(フォールアウト・e20542) |
リオルト・フェオニール(ドラゴニアンの思春期・e26438) |
キーア・フラム(黒炎竜・e27514) |
十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149) |
十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151) |
未明・零名(ネームレス・e33871) |
●降り立つ牙
平和な駅前バスターミナルに、四本の牙が突き刺さる。
見る間に牙は人型へと変わっていく――竜牙兵だ。
変貌した竜牙兵がすぐ傍で呆然としている一般人に凶刃を振り抜く。
だが、その凶刃は、二刀の斬霊刀で受け止められる。鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)だ。
「やらせやしねぇよ!」
受け流すように刃を滑らせ、その動きのままに一撃をいれる。
「オノレ、キサマ、ケルベロスか!」
「そういうこった、わかったら覚悟しな!」
「ナラバ、キサマのゾウオとキョゼツ、ドラゴン様に捧げよ!」
残る竜牙兵も戦闘態勢を整え、鎌を持つ竜牙兵がその凶刃を振り上げる。
しかし――。
「相変わらず無駄な事を……」
隠密気流によりその存在を隠していたキーア・フラム(黒炎竜・e27514)が、シズクが飛び出したと同時に空からその存在を露わにしていた。
鎌を持つ竜牙兵達に牽制の一打を投擲する。
射出された槍が分裂し、竜牙兵達に襲いかかった。
「憎悪や拒絶……? そんなもの、幾らでもくれてやるわ……。ただし、貴方達全ての殲滅と引き換えにね……!」
「新手か!」
シズクとキーアに続くように、番犬達がその姿を現す。
「全く……毎度毎度似たような竜牙兵ばっか降らせて来るドラゴンってひょっとしてアホなのかね?」
竜牙兵を前に伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)が呆れたように口にする。
「ま、こっちとしてはやりやすいから、良いんだけどな」
「確かに……まったく竜と付く名が聞いて呆れるな」
晶の言葉に十六夜・刃鉄(一匹竜・e33149)が同意する。
番犬達の登場に合わせて周りの人々が徐々に避難し減って行く。
警察の避難誘導が始まったようだ。
「一般人の皆さんもさすがに慣れてるって感じだね」
「ああ、しちめんどくせぇ避難誘導の手間が省けるってもんだ」
リオルト・フェオニール(ドラゴニアンの思春期・e26438)の言葉に、ヨルヘン・シューゲイズ(フォールアウト・e20542)同意する。
「さて、そんじゃやるか」
「皆、がんばろうね」
「が、がんばるよ!」
刃鉄と十六夜・琥珀(トロイメライ・e33151)の兄妹二人も気合いを入れ、未明・零名(ネームレス・e33871)がそれに答える。
その声を合図に番犬達が武器を構えた。
敵意を感じ取った竜牙兵達もまた、殺意を膨れあがらせていった。
戦いが始まる――。
●悪しき牙を穿て
戦闘開始と同時、超加速突撃で竜牙兵の隊列を乱すのはヨルヘンだ。
剣をもつ竜牙兵の二体が突撃に巻き込まれ弾き飛ばされる。
「チッ……全員はさすがに無理か」
忌々しげに竜牙兵を睨み付けたヨルヘンは武器を構え竜牙兵と対峙する。
「さぁ、無駄なあがきを見せて見ろ竜骨共」
「オオォォォォォ!!」
ヨルヘンの言葉に、竜牙兵達は怒りの咆哮を上げた。
「おらぁ!」
気合い一閃。刃鉄が飛び込み超硬化した爪で竜牙兵を切り裂く。超高速の一撃は防ぐことなどできはしない。竜牙兵はその鎧を弾き飛ばされる。
「ヌゥ……!」
刃鉄は竜牙兵達が連携をとれないよう、邪魔するように立ち回っていた。
攻撃するときも、複数相手であることを意識し、間合いを計りながら戦う。
慎重さを備える刃鉄の動きに竜牙兵達が翻弄されていった。
「グラビティチェインが欲しいんだってな、グラビティチェインはここにもあるぜ!」
シズクは口を歪め笑みを浮かべると、二刀を構え竜牙兵と対峙する。
剣をもつ竜牙兵がシズクへ斬りかかるが、それを回避すると、反撃の一刀を振り竜牙兵の鎧を破砕する。
続けて刀を振るうが、もう一体の剣持ちの竜牙兵が割り込み、攻撃を阻止してくる。
「チッ……連携がとれてやがるな」
「こっちも連携していくのがよさそうかしら」
シズクの言葉にキーアが提案する。その言葉に番犬達が一つ頷いた。
後衛に位置する竜牙兵の牽制をするのは琥珀と零名だ。
「好き勝手になんてさせないんだから!」
琥珀が手にした起爆スイッチを押すと、鎌を持つ竜牙兵の足下にばらまかれた「見えない地雷」が起爆する。
轟音を立てながら次々爆発していく地雷群。爆発に足を取られ竜牙兵の動きが鈍くなる。
「マーナ、行くよ!」
番犬としての初仕事で気合い十分なのは零名だ。
サーヴァントのマーナガルムに指示を飛ばしながら、自身も足止め役として攻撃を始める。
「ちょっと大人しくしててね!」
手にした鎖を精神操作で伸ばし、竜牙兵を締め上げていく。
さらに動きの止まった竜牙兵に向けて制圧射撃を放つ。放たれた礫が鎌をもつ竜牙兵達の動きを止めていった。
「オノレ……コザカシイ真似を!」
二人の牽制は十分な効果を発揮していた。この攻撃により自由に動くことができなくなり、前衛との連携をとり辛くしていた。
「滅ぼすわよ……キキョウ!」
キーアは手にした攻性植物に命令を告げると、蔓触手形態となった攻性植物が剣持ちの竜牙兵を締め上げた。
そうして動きが止まったところに飛び込み、地獄の黒炎を竜牙兵に叩きつける。
「グアァァ!」
悲鳴に近い咆哮を上げながら竜牙兵が吹き飛んだ。
「いまならいけるか……頼んだぜ、先生!」
仲間達のダメージが軽微なのを見た晶が攻撃に回る。
鋼の鬼と化したオウガメタルの一撃が、竜牙兵の鎧を拉げていく。
「ヤラセルモノカ!」
やられる仲間を見て、仲間を守ろうと竜牙兵が移動しようとしたのをヨルヘンは見逃さなかった。
動こうとするその足下を狙い超加速の突撃を決める。
「お前に、何が出来るって?」
惨めに倒れた竜牙兵を頭上から睥睨し、挑発する。
「オノレ……!」
怒りを呻きに変えて、竜牙兵が立ち上がる。だがすぐにその動きを止められることになる。
「遠慮なく、いただきますをしてきなさい」
リオルトの放つブラックスライムが様々な生き物の形をとりながら竜牙兵を捕食したのだ。
身動きがとれなくなった所をヨルヘンが隙を逃さず突撃からの斧を振り下ろす。
番犬達もまた連携を重視した立ち回りへと変えていく。
声を掛け合いながら、互いに援護し合い、攻撃を積み重ねていった。
また、各個撃破を狙う作戦も功を奏している。全員が分散することなく一体に攻撃を集中することで、一気に戦力を削ぐことに繋がった。
また敵ディフェンダーから排除するという番犬達の作戦も成功したといえる。
後衛にも適宜牽制をいれることにより、作戦の完成度は増していた。
「ぶっ潰す!」
受け継いだドラゴンの因子が最大限活性化され、刃鉄の脚に集中する。
回避する者を追い続けるその一撃により、剣を持つ竜牙兵の一体は瞬く間に粉砕された。
後には巨大な足跡が残るのみだ。
「残り三体だね」
「あぁ、このペースでいくぜ」
――戦いは番犬達の圧倒的優勢で進んでいった。
番犬達は攻防を重ねながら、竜牙兵を押しつぶしていく。
「とっておきを見せてやるぜ!」
シズクは剣持ちの竜牙兵の切り込みを紙一重で回避すると、交互に刀を振り上げ、剣から衝撃波を放つ。
「ヌゥゥゥ……!」
その威力に竜牙兵が呻きながら後退りした。
「そら、みんなと一緒に行動だよ」
サーヴァントのそらに琥珀が指示をだす。連携を重視するようにそらが立ち回っていく。
「わたしだって皆を守るんだから!」
竜牙兵の振るう剣をその身で受け止めながら、仲間を庇うように立ち回る琥珀。
この戦いにおいて、番犬達が自由にダメージを負わずに行動できるのは、琥珀の活躍があるからに他ならない。
一身に攻撃を受けながらも、明るく振る舞うその姿に、番犬達は鼓舞される。
「その動き、やらせないわ……!」
キーアは敵の動きをよく観察していた。
後衛に位置する鎌持ちの竜牙兵達が自由になったと思えば、すぐさま牽制の槍を投擲する。
無数の槍が天から降り注ぎ、竜牙兵達は慌てふためき混乱する。
仲間達の回復を担当する晶はその役目を確実にこなしていた。
一部グラビティの活性化にミスが合ったものの、どうにか回復は間に合ったようだ。
晶は額に流れる汗を拭いながら、回復に力を入れていった。
「純戦っていいね……!」
二本の如意棒を器用に扱いながら乱打を打ち付けるリオルト。
純粋に戦闘を楽しむようにその顔には八重歯を輝かせていた。尻尾が嬉しそうに左右に揺れる。
「さあ、終わりだよ……!」
「バカナァ――ッ!」
リオルトの強振の一撃を受け、竜牙兵がバラバラと砕け落ちる。無惨な骨の山が出来上がった。
「残りは――」
「二体、だね!」
こうなると番犬達の勢いは止まらない。
鎌をもつ竜牙兵二体が必死に反撃を試みるも、それは火に油を注ぐが如く、番犬達の勢いを増加させるだけだ。
「さあ、あとは君たちだけだよ……!」
紅蓮の炎を装填した如意棒で鎌をもつ竜牙兵達に躍りかかるリオルト。炎が竜牙兵達を包み込む。
「どれほどのモノを持っているのかな?」
さらに追い打ちをいれるように、魂奪う一撃を叩き込んでいく。
連続した攻撃に竜牙兵がたまらず間合いをとる。
「刃鉄!」
琥珀のかけ声に、刃鉄がすぐさま反応する。
琥珀が竜牙兵の攻撃をその身で受け止めている間に、竜牙兵へと肉薄すると電光石火の蹴りを急所に叩き込む。
「ガハァ――ッ!」
「ありがとっ!」
琥珀も感謝を述べながら、竜牙兵へと追撃を行う。兄妹ならではの息のあった連携が極まった。
竜牙兵の放つ鎌を二刀で受け流すシズク。続く攻撃を跳躍して躱すと、敵の頭上からその二刀を叩き込む。
「ぶっ潰れな!」
「ガァァ――!」
破壊力へと変換されたグラビティチェインが迸る。その威力は竜牙兵の鎧を粉々に破砕する。
「自由に動けると思わないで!」
手にした杖から雷を放つ琥珀。
雷に打たれた竜牙兵は神経を焼き切られ、その身体を小刻みに痙攣させる。
「回復、手伝うね!」
「すまん、助かる!」
零名の声掛けに晶が答える。
回復役と対象が被らないように、状況をよく見て、時に声を掛けながら回復の手助けをする零名は必要十分な働きをしたと言える。
この動きにより、番犬達は常に全力で戦えたと言ってもよいだろう。
「ごめん、少し……」
鎌持ちの竜牙兵の攻撃を受けて、リオルトが大きく傷つき膝をつく。
「う、うう……が、頑張ってっ!」
晶は恥ずかしがりながら、魂から溢れる女子力をヒールエネルギーに変換しリオルトへエールと共に送る。
大きく治癒されたリオルトは感謝の述べると立ち上がり、敵へと向かっていく。
お礼を言われた晶は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「琥珀ちゃん下がって!」
零名の声に、すぐさま琥珀が反応する。
琥珀を追いかけてきた竜牙兵を零名のケルベロスチェインが締め上げ捕縛する。
「零名さん、ありがと!」
お礼を告げながら、杖から雷を放つ琥珀。二人の連携が見事に極まった。
「可能な限り惨く死ねよ」
ヨルヘンの無意識下にある地獄が迸る。
本能より発せられるその一撃が、竜牙兵の傷口を無惨に切り開き広げていく。
その力に耐えられなくなった竜牙兵は、声をあげることもできずそのまま絶命した。
「あと――」
「一体!」
――戦いは佳境に至る。
死ぬことを恐れない竜牙兵は一体となっても番犬達へと襲いかかった。
だが、もはや竜牙兵に勝ち目はなく、ただ死を待つだけである。
「刃鉄!」
「おぉよ!」
シズクと刃鉄が同時に側面を駆け竜牙兵へ迫る。
左右両面からの同時攻撃に、竜牙兵は対応することができない。その鎧を拉げて転がった。
「元気になーれ!」
それは琥珀の持つ十六の術のうちのひとつ。戦場に響く明るい声が、その場のわるいものを全て吹き飛ばしていく。
駄目押しと言わんばかりに傷ついた番犬達の傷を癒やし、不浄な災いを消し去っていく。
「野蛮な人は嫌いなの」
軽業師のように軽やかに踊り舞いながら星座のオーラを飛ばす零名。
オーラを受けた竜牙兵の傷口が氷に蝕まれていく。
リオルトとヨルヘンもまた、猛追を続ける。
――そうして、番犬達の猛攻が続き、ついに終わりの時がやってくる。
「私の黒炎で、貴方達の全てを燃やし尽くしてやる……! 例えこの身が燃え尽きようとも……!」
それはキーアがドラゴンへと燃やす憎悪と怒りの黒炎。
莫大なグラビティによる、神をも滅ぼす尽きる事のない黒炎が、竜牙兵に突き立てられる。
「グアァァ――ッ!」
断末魔の悲鳴を上げながら竜牙兵は黒炎に飲み込まれ、その存在を消失させた。
キーアは髪をかき上げると一息つく。
「これで――」
「終わり!」
終始ペースを握り続けた番犬達の快勝だ。
●勝利の後
「これで、よし」
戦いによって傷ついた周辺をヒールした番犬達。
徐々に交通規制が解除され、人々が戻り始めてくる。
「ま、楽勝だったな」
「竜牙兵なんてものの数じゃないね」
「終わった……少しは役に立てたかな?」
額の汗を拭いながら、初仕事を無事終えた零名は一息つく。
戦うことは好きにはなれないけれど、仲間達と勝利を喜べるこの瞬間は格別だと思えた。
「みんなおつかれさま! 刃鉄っ、ねえねえ、わたし、ちゃんとできてたでしょ? ほめてほめてー!」
「……へいへい、よくやった」
「わっ、ちょっと頭わしわししないでよー」
刃鉄は一頻り琥珀の頭をなで回すと、満足したように手を離した。
頬を膨らます琥珀に、「ご褒美にクレープでも喰っていくか」と言うと、琥珀は目を輝かせて「お兄ちゃん大好きっ!」と抱きつくのだった。
恥ずかしがる刃鉄を見て、番犬達は笑い合う。
こうして番犬達は、悪しき牙を穿ち、ある駅前バスターミナルの平和を守ったのだった――。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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