ヒグマの強さに憧れた男

作者:なちゅい

●ヒグマのように、強く……!
 北海道のとある山の中。
 今年は初雪がかなり早かったようで、すでに山は岩肌も木々も雪で覆われている。
 武術家である柿田・一貴はその山に篭って修行を行っていた。外で身体を鍛えはするが、しんしんと雪降る日は洞穴の中で日々己の肉体を鍛え上げ、さらなる武術の極みを目指す。
「ヒグマ……そう、ヒグマのように、強く……!」
 拳を突き出すは、ガッチリとした肉体を持つ男。武術家である彼は、我流の武術を大成させるべく、鍛錬に汗を流す。
 時に、ヒグマを観察し、その動きを取り入れようとする彼は新たな武術の型での動きを考えていたのだが……。彼の背後からゆらりと小さな影が現れる。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「……おおぉぉっ!!」
 洞穴の入り口からやってきたポニーテールの少女が柿田へと呼びかけると、彼は操られたかのように少女に対して拳を突き出し、猛烈なタックルを仕掛けていく。
 少女は軽くそれをいなしながら、柿田の技を注視していたが、しばらくして。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれなりに素晴らしかったよ」
 一通り技を見極めた彼女……ドリームイーター、幻武極(げんぶきわめ)はどこからか取り出した巨大な鍵で柿田の体を貫いてしまう。
 意識を失い、崩れ落ちる柿田。その身体に外傷はなかったが、そばにはクマの獣人を思わせる長身の人影が立っていた。
 幻武極は早速、その獣人の男と拳を交え始める。その度に、互いが繰り出す技はモザイクに包まれる。
 一度拳を交え、少女は目の前の大男へと告げた。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 獣人の男は幻武極の呼びかけに頷くと、ゆっくりと歩いて洞穴から外へと出て行ったのだった。

 ヘリポートにて。
 ドリームイーター、幻武極の暗躍を耳にしたケルベロスが集まる中、クオン・ライアート(緋の巨獣・e24469)がこんな話を持ちかけた。
「ヒグマに憧れ、ヒグマの如き強さを目指す格闘家が襲われると聞いたな」
「さすがに、耳が早いね」
 依頼に臨むケルベロス達の姿勢にリーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は驚きながらも、依頼の説明を始める。
 ドリームイーター、幻武極が武術を極めようと修行している武術家をターゲットとし、襲うのだという。
「幻武極は自らに欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らそうとしているようだよ」
 今回襲撃した武術家の武術ではモザイクは晴れないようだが、代わりに、武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするらしい。
 出現するドリームイーターは、襲われた武術家が目指す究極の武術家のような技を使いこなすようで、なかなかの強敵となるだろう。
「幸い、夢喰いが人里に到着する前に迎撃できそうだから、周囲の被害を気にせず戦うことができそうだよ」
 現れる武術家ドリームイーターは、ヒグマの獣人を思わせる姿をしている。
 身長は2mを越えるほどの大きさで、その体躯を活かしたグラビティを使用する。拳での殴りかかり、全身でのタックル、そして、太い両腕を使った薙ぎ払いを行う。いずれのグラビティもモザイクに包まれているようだ。
「現場は、北海道のとある山の中だね」
 山の中にある洞穴に生活物資を持ち込み、修行を行っていた武術家。
 彼が武術を奪われたことで生まれたドリームイーターは己の技を他人に見せ付ける為、人里を目指して移動を始めているようだ。
 だが、険しい山道を降りる必要があり、すぐに人里へとたどり着く状況ではない。戦後のヒールを考えるなら、山道で迎え撃つことで人的被害を考慮せずに戦うことができるはずだ。
「ドリームイーター撃破後は、幻武極に倒された男性の介抱とフォローをお願いしたいかな」
 襲われた男性は洞穴の中で倒れたままだ。襲われた記憶がほとんどないようなので、彼に事情を話すなどしてフォローがあるとよいだろう。
 ここまで説明したリーゼリットは少し言葉を止め、考える。
「ヒグマような力が欲しい……か。わかる気はするけれど、その方向性でいいの……かな?」
 圧倒的な力が欲しかったのか、その理由は本人に聞かねばならないが。いずれにせよ、先に武術家ドリームイーターを討伐せねばならない。
「彼を救う為にも、ドリームイーターの撃破を」
 よろしく頼むよと、リーゼリットはケルベロス達へと願うのだった。


参加者
上野・零(地の獄に沈む・e05125)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)
フレア・ガンスレイブ(ガラクタ・e20512)
レヴィア・リヴァイア(海星の守護龍・e30000)
朧・遊鬼(言霊と遊戯の境界・e36891)
ベア・ベア(ハントユー・e38076)
フロレアル・ヴィオラ(虚無の病・e39817)

■リプレイ

●その理想は高く……
 北海道のとある山を登っていくケルベロス達。
 その山道はすでに、雪で覆われていた。
「クマの強さに憧れる気持ち、分からないではないのよ。でも、でも、でも…………」
 まだ名も無き相棒のテレビウムと共に依頼に臨む、ベア・ベア(ハントユー・e38076)も確かにクマのウェアライダーではあるのだが。
「ヒグマもいいけどグリズリーも、ね?」
 ややダウナー系のベアは、灰色熊として知られるグリズリーの獣人である。グリズリーはヒグマとは近い種だが、彼女としてはこちらも見て欲しいと願望があるらしい。
「時代は熊よりも狸ですよ、狸!」
 そこで、分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)もすかさず主張する。化け狸のウェアライダーの彼にもまた、譲れぬ部分があるようだ。
「ヒグマ……ヒグマデスか……。鯨や鯱では駄目デスか……?」
 こちらは海を愛するレヴィア・リヴァイア(海星の守護龍・e30000)。武闘家が獣や虫ばかり倣うことを、彼女は残念がっている。
「イエ、ヒグマもトテモ愛らしいのデスが……。モット海に目を向けても……ネ?」
 誰か海獣拳を編み出して欲しいと、レヴィアは切に望む。
「ヒグマもそうですけど、何で格闘家って人間以外に憧れるんでしょうか」
 取り入れる、長所を真似る、それならば良いが、虎、熊といった生物は身体能力が脅威なのでは……。フレア・ガンスレイブ(ガラクタ・e20512)はそう考える。
「……ヒグマの強さに憧れる、か……」
 レヴィア、フレアと同じ旅団の上野・零(地の獄に沈む・e05125)は、「何かの強さに憧れる」という部分について、同意してみせた。
 だが、フレアは何か思い、小さく頭を振る。
「……いえ、きっとそういうことではないんでしょうね。憧れや理想と言うのは」
 レプリカントのフレアも竜人である養父に憧れてはいるが、そのものになりたいわけではない。
「真似て、学んで、でも、別の形の強さを。理想は越えてこそ、です。受け売りですけど」
 そして、その理想への道のりはあまりにも険し過ぎると、彼女は語尾を弱めていた。
「……その馬鹿さは、嫌いじゃあねーけどな」
 フードに耳が隠れているが、アンナ・シドー(ストレイドッグス・e20379)も犬のウェアライダーだ。
 ヒグマに憧れる被害者の武術家男性について、ややぶっきらぼうな態度で一言だけ語る彼女。ただ、こうして仲間の会話に入るほどにはお人よしである。
 高い目標を掲げて鍛錬するその武術家について、朧・遊鬼(言霊と遊戯の境界・e36891)は実に良いことだと小さく頷くも、気になるのはドリームイーターのこと。
「それを利用するのは許せぬ」
 ナノナノのルーナもうんうん頷きながら、遊鬼の周りを元気そうに飛び回っていた。
「……まぁ折角だ、……その奪われた武術で出来たドリームイーターの力、見せてもらうとしようか」
 同じく、ファミリアのもずを周囲に飛ばす零はそう仲間に告げた。
 雪山と聞いていた楽雲は、動きやすい靴を用意していた。一応用意していたライトの出番はなさそうである。
「しっかし、寒いわ険しいわで……。武術家も自分磨き大変だな!」
「山篭りだなんて、ウェアライダーでもしないわよ」
 悪態づく楽雲に、ベアも呆れながらに言葉を返しつつ、雪山を登っていく。

 そろそろ、敵との遭遇予測地点へと到着したかと察したケルベロス達。
 仲間の後をてくてくと付いていた、フロレアル・ヴィオラ(虚無の病・e39817)。大きなリボンで長い灰色の髪を纏めた彼女は、万が一の為にとキープアウトテープを周囲に張り巡らせ、さらに殺界も発する。
 フロレアルは冷えた身体をカイロで温めていると、そいつは正面から雪を踏みしめて現れた。
「………………!」
 見た目はヒグマの獣人を思わせる姿。毛むくじゃらの大男は目を光らせ、眼下にいるケルベロスに己の技を見せ付けようと飛び掛ってくる。
 ここから先は、人里へと続く道。クマは立ち入り禁止だとベアが立ちはだかった。
「ふふ、グリズリーの強さも知ってちょうだい」
 その手前に、零、遊鬼が「……さぁ」とほぼ同時に声を出す。
「……始めようか、クマっぽいお人」
「仕置きの時間だ」
 向かい来るドリームイーターに対し、ケルベロスもまた攻め込み出したのである。

●力任せに放たれる技に……
 雪が舞う山道でケルベロスが対するは、まるで熊のような大男のドリームイーターだ。
「…………!」
「敵は全力で粉砕しないと……」
 敵が腕を振り上げたタイミングで、零が先に仕掛ける。身構えた彼は精神を集中し、敵の腕に爆発を巻き起こす。
 だが、敵はそれを気にする素振りを見せずに特攻して来た。
「……ふむ、これしきでは足りないようだね」
 クールさを崩さぬ零は狙われているにも拘らず、ほとんど驚く様子もなく立ち振る舞う。
 それを防いだのは、飛び出したアンナだった。カラフルな爆発を巻き起こして前線メンバーの士気を高める彼女は仲間を庇いながら、目つき鋭く相手を観察する。
 そんな前に立つ仲間の支援の為、ベアはオウガメタルより光輝く粒子を放ち、メンバー達の感覚を覚醒させて行く。その隣からテレビウムが飛び出し、握りしめた凶器で夢喰いを殴り付けた。
 さらに、気合十分のナノナノのルーナがハート光線を発射して相手をめろめろにしようとする。
 それによって若干の痺れを覚えた夢喰いへ、遊鬼は朱黒く古めかしい巨大剣「刹鬼」に地獄化した左腕の赤い炎を纏わせ、敵の体へと叩きつけて行く。
「…………」
 遊鬼の一撃によって、燃え上がる敵の体。じりじりとその身を焦がす炎を一瞥した夢喰いは威嚇するように両手を振り上げた。
 そいつは力任せに近場のケルベロスを薙ぎ払ってくるが、受け止める前線の仲間達はしっかりと受け止め、あるいは身をそらして致命傷を避けていく。
 フロレアルも自身の傷を気に掛けながら、仲間をカバーに回る。その上で、彼女は縛霊手で相手を殴り付け、同時に発せられた網状の霊力で夢喰いの身体を拘束した。
 だが、なかなか動きを止めず、猛然と攻め来る敵。ケルベロスも全力でそれに対する。
「敵は格上、攻撃は重い。……ですが、仲間の防衛線も非常に厚いです」
 それを実感するフレアだが、いくら屈強なケルベロスとはいえ、そう何度もデウスエクス相手に耐えられるわけがない。
 防衛線が崩される前にと、フレアは砲撃形態としたドラゴニックハンマーより砲弾を飛ばして敵を牽制する。
 グラビティの篭った一撃を受ければ、いくら大男の姿をしているとはいえ、夢喰いもやや足を竦める。しかしながら、そいつは少し身を引いた後で猛烈なタックルを繰り出してきた。
 それを、拘束されたアンナに似た姿をしたビハインド、名もなき面影が受け止める。
 彼女は強い衝撃に少し頭を振った後、心霊現象を起こしてさらに夢喰いの体を縛りつけようとしていた。
「へぇ……拳法、じゃねえのか。……面白ぇ」
 アンナは敵の姿を見て、比較的力を使った攻めをしているように見えた。
 武術とは少しかけ離れたようにも思える攻めに対し、アンナはそいつを抑える仲間をカバーすべく同列の仲間へと何かを差し出す。
「ほら、食え」
 それは、事前に気を浸透させた金平糖だ。伝説にもある仙薬ほどの効果を誇るというそのお菓子は仲間の傷を癒し、傷を塞いだ。
 とにかく、夢喰いの攻撃の威力が最も懸念すべきと判断したケルベロスは、敵の動きを止めることに重点を置いて攻めて行く。
 稲妻を纏わせたゲシュタルトグレイブの切っ先を楽雲が敵の正面から突き入れ、さらにレヴィアは効率的にダメージを与えようと雷を纏わせたエクスカリバールで素早い突きを繰り出していく。
 夢喰いの体の硬い毛を振り払い、その筋肉に亀裂が入る。隙間からは僅かにモザイクが零れ落ちていた。

 雪が降る中、戦いは続く。
 敵の猛攻を受け止めながら、仲間に金平糖を振舞うアンナ。フロレアルも協力して傷を塞ぐべく緊急手術を行う。
 ベアもまたメインの回復役として、テレビウムと手分けして仲間に癒しの雨を、そしてオウガ粒子を仲間へと振り撒いていく。
 残念なのは、グリズリーとして直接相手と張り合う場が少なかったことか。できれば縛霊手で殴りつけてクマの張り合いをしたいと思うベアだが、敵の火力は高く回復の手をなかなか止められずにいた。
 ドリームイーターを抑える一人、フロレアル。彼女は回復と合わせ、時に影の如く縛霊手で斬りかかり、仲間の与えた痺れや捕縛を強める。
 仲間達がヒグマの獣人のような姿のドリームイーターを攻める中、アンナは硬直した敵にできた隙を逃さない。
「いいぜ、手本を見せてやる」
 アンナの戦闘スタイルは徒手空拳。中国拳法崩れの喧嘩殺法だ。
「――形意拳が熊形。腕の捻りを多用して……こう、か」
 アンナは手本を見せるようにして立ち振る舞う。形意拳は多少かじった程度ではあったが、見本として示すには十分と彼女は敵へと降魔の拳を叩きこんでいく。
 声を発しはしないが、豪腕を叩きつけてこようとする夢喰いは徐々に身体の硬直を強めている。
 ナノナノのルーナが尖った尻尾から愛の心を注入して相手を弱らせると、遊鬼はさらに、効率よくダメージを与えるべく秘術をこの場で展開する。
「さぁ、俺が鬼だ。精々綺麗に凍りついてくれ」
 それは、辺りに氷を思わせる色の青い鬼火を召喚していった。それを巨大な刀「刹鬼」に纏わせた遊鬼は颯爽と敵に斬りかかり、斬撃痕を凍りつかせる。
「…………!」
 身体を動かすことができぬ夢喰い。すでにグラビティ・チェインが無くなりかけており、全身は徐々にモザイクがかかり始めていた。
「地獄への直行便だ、舌を噛まないように気を付けな!」
 ここぞと仲間と共に畳み掛ける楽雲。自身の妖気を変化させ、巨大な獣の腕を作り出し、それによって敵を殴りつけて高く打ち上げる。
 同時にジャンプしていた楽雲が敵を捕まえ、敵を逆さまにして錐揉み回転させながら地面へと叩き付けた。
 だが、なおも戦意を失わぬドリームイーター。腕を振り上げようとしているのは、武術家としての矜持だろうか。
「……さぁて、私達の地獄を見せるとしようか……!」
 同時に動き出すのは、零、フレア、レヴィアの3人だ。
「地獄装填、二極融解、竜獄形成、再装填。解放……」
 零の言葉と共に、動き出したフレアが自身の地獄とドラゴニック・パワーを融合させて。
「喰らい付きなさい、轟然たる咆哮」
 フレアがハンマーで地面を殴りつけると、生み出された赤黒い小竜の群れが一斉に咆哮を上げて夢喰いの身体へと食らいついていく。
 それによって動きを封じられた夢喰いへ、零とレヴィアが同時に仕掛ける。
 小さな心の結晶を砕くことで零は地獄の炎を操っていたが、右目の地獄眼を発動させた。
「……――さぁ、絶望を喰らえ、恐怖を貪れ、地獄を経験せよ」
 そして、正負の感情の両方までも地獄化させて感情を削ることで黒白の長刀「絶正」、「負希」を錬成し、死すら焼き殺す【死焔】を纏わせる。
「深淵より深潭たる深海より御出でませ」
 一方、レヴィアも深海色の地獄の炎を操り、鯨すら上回る巨大な海竜をこの場に作り出していた。
「憤怒の炎、海竜の双眸よ、消し得ぬ劫火を以って三千世海を焼き給え」
 海にあっても消える事のない炎。レヴィアはそれをエクスカリバールでの一撃と共に敵へと叩きつけて行く。
「……切リ刻メ」
 それだけではない。零が握る双刀によって、夢喰いの体を抉るように切り刻む。
「………………」
 地獄の炎に焼かれ、深く刃を受けたヒグマの獣人の姿は徐々に全身がモザイクに包まれていく。
 これでもかと極めた技を見せ付けた武術家のドリームイーター。だが、ケルベロスに完全に抑えつけられ、圧倒的な力を見せる事ができずに消えてなくなったのだった。

●目指す武術の頂は……?
 ドリームイーターは消えたものの、山道がかなり荒れ果てていた。
 仲間の手当てをしていたフロレアルは施術を行うことで周囲を幻想で埋め、人が歩けるようにと均す。
 その後、メンバーは洞穴へと入っていき、意識を失う武術家、柿田・一貴を発見する。
 さすがに、この場では冷えるだろうと判断したレヴィアは外から薪を集め、それを使って火を灯す。合わせて、フロレアルの持っていたカイロで彼の体を温めていた。
 そうして、目覚めた柿田の顔をベアが覗き込む。
「おはよう、お兄さん。……ヒグマじゃなくってごめんなさいね」
「おはよう、痛いところはないか?」
 やや驚いた様子の彼へ、洞穴内の安全確認をしていた遊鬼も声をかける。
「目標の為に努力するのは良いことだが、やり過ぎて身体を壊さぬよう気を付けろよ?」
「……冬の山での修行は止めませんけど、お体には気を付けてくださいね……?」
 柿田の容態を気にかけるフロレアル。凍えていた柿田へとドローンによる手当てを行っていたフレアは、後の医療費を考えてケルベロスカードを手渡す。
「……私のカード、水着しかないんですけど、笑わないで下さいね……?」
 その可愛らしい姿に、柿田も少し和んでいた様子だ。
 柿田の体調が問題ないと判断し、これまでの経緯を説明した零だったが、気になったことを尋ねる。
「……そういえば、貴方は何故ヒグマを参考に……あと、何故強くなりたいと思ったのかな……?」
「ああ、それは……」
 柿田の胸には、熊の腕で薙ぎ払われたような古い傷痕があった。
 ヒグマの力を圧倒するような力、技量があれば。彼は一戦交えたヒグマにそう感じ、羨望の念すら抱くようになったらしい。
「正直、形まで真似する意味あんのか、って思ってたんだがな。……悪くは、なかった」
 理想の姿ではあったが、柿田の目指す武術についてアンナは評価を示す。
「中国武術の形意拳ってのがある……門を叩いても、いいんじゃねーか」
 珍しく長めの言葉で促すアンナに、柿田は唸りこむ。
「パワー一辺倒じゃ、必ずどっかで無理が出るってばさ。動物を参考にしたいのなら、狸を推すね!」
 そこで、楽雲が割り込みながら語る。熱く狸について語る彼の横から、ベアが再び柿田へと話しかけた。
「ヒグマはヒグマ。アナタはアナタ。――アナタらしい強さを求めると良いわ」
 自分らしさを追及するよう促すベアだったが。
「でもでも、どうしてもクマが良いって言うんなら、今度はグリズリーなんてどう? なーんて」
 ベアがちゃっかりそう主張するものだから、この場で熊だ狸だと論議が始まってしまう。
「まあ……、今後の参考にさせてもらう」
 飛び交う意見に、柿田は苦笑してしまうのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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