「遂に、遂に完成した……」
今年ももう残り少なくなり、寒風が吹きすさぶ11月。夕刻の住宅街の一角、ごくごく普通の民家の一室で、青年があるモノを手に恍惚とした表情を浮かべていた。
「市販品のプラスチックも決して悪くはないんだけどね……それでもやっぱりリアリティに拘りたいのが漢ってものでしょ」
手にしていたものは、AK47と呼ばれる銃だった。無論、本物ではない。ベースとなっているものはバッテリー式の電動ガン。しかし、その各所は相応の改造を受けていた。
「ストックは木製に、銃主部の外装部分は金属製に変えて……それでも納得いかないから一部は自作して、ようやく完成したぁ~」
よくよく部屋を見れば、壁には小銃、拳銃問わず無数のエアガンが壁に掛けられている。片隅には試行錯誤したであろう部品が転がっており、相当な金額と手間暇がかけられていることが見て取れた。
「だがまだ完成じゃないぞ、可愛い子ちゃん。これで実際にゲームに参加して、戦いを潜り抜けてこそ本物になれるんだ……」
来る瞬間に思いをはせる青年が、恍惚とした表情で銃を掲げた……瞬間。
ーーザンッ!
「…………え?」
無残にも銃は破壊された。呆然とする青年の前には、いつの間にか2体のドリームイーターが仁王立っていた。ニタニタと笑みを浮かべる異形の存在、常ならば逃げ出すところだが。
「なに、しやがんだテメェ!」
念願の逸品が破壊された憤怒と悲しみがそれを塗りつぶした。それでも僅かに残った理性のおかげか、銃ではなく拳で殴りかかる青年だったが、無情にも二本の鍵が心臓を貫いた。
「私達のモザイクは晴れなかったねえ。けれどあなたの怒りと、」
「オマエの悲しみ、悪くナカッタ!」
がっくりと倒れ伏す青年と入れ替わる様に、銃と兵士を模したドリームイーターが生れ落ちるのであった。
●
「またパッチワークの魔女がまた動き出したみたいっす。それも今回は2体同時にっす」
集まったケルベロスたちへ、オラトリオのヘリオライダー・ダンテはそう口火を切った。
「今回動いたのは怒りの心を奪う第八の魔女・ディオメデスと、悲しみの心を奪う第九の魔女・ヒッポリュテ……この2体の魔女は、とても大切な物を持つ一般人を襲い、その大切な物を破壊、それによって生じた『怒り』と『悲しみ』の心を奪ってドリームイーターを生み出しているみたいっす」
魔女が二体であるため、被害者は一人でも生み出されるドリームイーターは2体。これらは連携を取って人々を襲い、グラビティチェインを得ようとする。
「悲しみのドリームイーターが物品を壊された悲しみを語り、その悲しみを理解できなければ、怒りのドリームイーターが殺害するらしいっす」
怒りが前衛を、悲しみが後衛を務めて戦闘を行うらしい。被害が出る前にこれらを打倒すのが、今回の目的となる。
「今回出現するドリームイーターは、銃をモチーフにした女型と兵士の姿をした男型の2体っす」
兵士の姿をした男型は薄緑色の汚れた軍服を纏い、徒手空拳での格闘戦を得意とする。もう一体の女型はボロボロの花嫁衣装を纏い、右腕がAK47となった小柄な女性の姿をしており、後方からの射撃で攻撃してくる。兵士型が足を止め、花嫁型が狙い撃つというスタンダードな連携だが、シンプルな分崩すのも難しいだろう。
「元々の被害者がサバイバルゲーム好きで、それも銃に対して強い愛着を持っていたようで……それが反映されたみたいっす」
そのせいか、花嫁型に攻撃が及びそうになると兵士型が行動を放棄してかばったり、その元凶に対し積極的な攻撃を仕掛けるようになるようだ。その特性をつけば、攻撃対象をある程度コントロールできるだろう。
「ちなみにドリームイーターは口々に怒りと悲しみを口走るっすけど、一方的に語るだけなんで、基本的に会話は成立しないと考えてくださいっす」
イメージとしては喋る鳥のようなものだろうか。言葉は喋れでも会話にはならないのだろう。
「ドリームイーターは人の多いところ……近所の公園にまず向かうみたいっす。そこで待ち伏せれば、確実に遭遇出来るっす」
説明を終えたダンテは、ほっと一息をつき小さくつぶやく。
「大切な物を目の前で破壊されたら、悲しいですし、怒りを覚えても当然っす……それを周りに害する暴力に利用するなんて、もってのほかっすよ」
そう話を締めくくると、ダンテはケルベロス達を送り出すのであった。
参加者 | |
---|---|
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032) |
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465) |
飛鷺沢・司(灰梟・e01758) |
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216) |
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) |
トーマ・クラルス(コロナの心臓・e18569) |
神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450) |
ロザリア・シャルクハフト(涅の羽・e36943) |
●破壊の悲哀、晴らせぬ憤怒
夕刻の住宅街、その中にある公園。そこは学校帰りの子供たちや、近所の住人達の憩いの場となっている。そんないつも通りの日常にこの日、異物が入りこまんとしていた。
「……時間を掛けた、手間を掛けた。それは実物から見れば拙く、不格好なものだったでしょう。ですが、それは私にとっては真実であった」
「なんじゃ、あんた、は……っ、モザイク!?」
最初に気付いたのは談笑していた老人たち。突然掛けられた言葉に振り向くと、そこにはボロボロの花嫁衣装を纏った女が、巨漢の男を引き連れ佇んでいた。
「いかん、みんな逃げるんじゃ!」
「一度でも使い、その結果壊れたのであればまだ諦めもつく。それすら叶わなかったこの憤怒、推し量ることなど出来はしまいっ!」
警告の声を上げるも全ては遅きに失した。問いかけを無視した老爺へ、兵士型は拳を握りしめるや、それを振りかぶり……。
「消耗品に愛情、ね。ゴシューショーサマだけど、八つ当たりってのはみっともねぇな」
その一撃を間に割り込んだサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)が受け止めた。彼を筆頭に、ケルベロスたちが公園内へと突入する。
「現れる前に到着とはいかなかったが、ギリギリ間に合ったみてぇだな」
「まずはドリームイーターの注意をこっちに引き付けようか」
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)が兵士型を、ロザリア・シャルクハフト(涅の羽・e36943)がビハインドと共に花嫁型へ、それぞれ攻撃を仕掛け相手の意識を一般人から逸らしてゆく。他方では、神無月・佐祐理(機械鎧の半身・e35450)が人々の喧騒に負けぬ声量で避難を呼びかけていた。
「私たちはケルベロスです! 安全な場所へ誘導しますので、慌てずに指示に従ってください!」
「ほら、大丈夫かい? 手を貸すゼ、っと」
またそのすぐ傍では、腰を抜かしてしまった老人や怯えて動けない子供を抱きかかえ、トーマ・クラルス(コロナの心臓・e18569)は公園外へと人々を運び出している。公園内に居た人数は老若男女合計15名ほど。避難にはそう時間はかからなかった。人気がなくなると、すかさず飛鷺沢・司(灰梟・e01758)がキープアウトテープで出入り口を封鎖し、それ以上の侵入を防ぐ。
「これで、一先ずは一般市民への被害を考えなくて済むかな」
「日の入りも早いですし、明かりを持参している方は、今の内にも点けておきましょう」
避難が完了すると、結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は腰に吊るした明かりの電源を入れ、速やかに戦闘準備を整えてゆく。対して、ドリームイーターもケルベロスたちを脅威と認識し、俄かに殺気立つ。
「貴様らに分かるか、この憤怒が」
「貴方たちに理解できますか、この悲哀が」
「挫折……って言うのかな、こう言うの。それにしちゃ理不尽だけど、だからと言って見過ごすわけにもいかないよ」
仲間たちをモザイク状の霧で包みながら、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が答える。基本的にドリームイーターと会話は通じず、ただ己の感情を垂れ流すだけだ。
『分からぬならば、理解できぬならば、このまま消えてしまえ!』
自らの感情に同意するか、それに対する反応を除いて。ドリームイーターは雄叫びと共に、ケルベロスへと襲い掛かるのであった。
●憤怒の拳
「今回はモデルガン、ですか。大切なものを破壊される悲しみに怒り……パッチワークの魔女、一体 何度事件を起こせば気が済むんだ!」
開始直後、真っ先に先陣を切ったのはレオナルドだった。手にした日本刀を構えるや、雷速の刺突を兵士型目掛けて打ちこむ。敏捷さに劣る兵士型はその一撃に反応できず、脇腹を深々と穿たれる。
「AK47という銃の強みは頑丈さ……だがそれも無力であった!」
だが、兵士型は僅かに後ずさったのみ。突き刺さった刃を意に介することなく、目の前のレオナルドへと拳を叩き込んだ。攻撃と共に蒸気を上げて傷口が塞がってゆく。
「こんなもんに憧れるってのはよく分かんねぇが……健全に楽しんでただけだってのに台無しにされちゃあ、たまったもんじゃねえよな」
「差し詰め、こっちは銃の頑丈さとそれを扱う兵士のイメージか……何にせよ、真正面から楽しめそうだな」
まず落とすべきは兵士型、というのがケルベロス達の共通見解だった。相手の耐久力を再確認した鳴海とサイガは、兵士型へ真っ向から挑みかかる。サイガの放つ、小細工を弄さぬ大上段からの一撃を両手で受け止める兵士型。ビシリと公園の地面に亀裂が走る。
「おいおい、これで手一杯か? んな強度で何を護るって?」
「もう二度と壊させん……絶対にだっ!」
兵士型は裂帛の雄叫びと共に、思い切り大地を蹴り上げる。その勢いでサイガの得物を押し返すとともに、亀裂の入った地面を完全に打ち砕き周辺一帯に衝撃をまき散らした。
「そんなに好きなら、こいつをくれてやるよ」
瓦礫が巻き上がる中、鳴海は回転式拳銃を引き抜くや兵士型の頭部を狙い撃つ。瓦礫の隙間を縫い、銃弾は眉間へと命中する。威力も十分だが、何よりも頭上と足元のバランスが不安定になっていた兵士型はそれにより大きく体勢を崩した。
「……そこだ」
生じた大きな隙を、司は見逃さなかった。ととん、と軽やかにステップを踏むとモンクストラップが輝きに包まれる。飛び蹴りが必中の軌跡で兵士型に迫り。
「其はいかなる時も寄り添う戦友。孤高なる兵士の花嫁なれば」
雨あられの如く襲い掛かった弾丸によって阻まれた。全身を貫く痛みを感じながら、司は花嫁型の銃口から煙が立ち昇っていることを確認する。
「っ、二体の連携というのは伊達でもはったりでもないか」
「兵士を相手すれば花嫁に狙撃され、花嫁を狙えば兵士が逆上する、と……相手の陣形を倒さないと、長引いちゃうかもね」
単純だがその分、役割が明確で突ける隙も多くない。長期戦になることも想定し、エルネスタは縛霊手より無数の紙兵を散布する。敵の妨害を受けても、これらが身代わりとなってくれるだろう。
「成程、兵士型のみを相手にしていられないって訳だね。僕はこのまま花嫁型の相手を続けるとしよう。アルマは兵士型の抑えを頼んだよ?」
周囲に漂う紙兵を確認すると、ロザリアはビハインドを兵士型へと向かわせ、自身は花嫁型へと向き直る。
「大切なものが壊されることの悲しみと怒りは、僕にも理解出来る。けれど、その感情はドリームイーターを生み出す為のモノじゃない……踊れ、躍れ、憐れな人形よ」
ロザリアの顔に浮かぶ、道化の暗き微笑。憐憫と共に指先よりか細い糸が生み出され、それはまるで操り人形の如く花嫁型の手足を繰り動かし、自由を奪った。対する花嫁は返礼とばかりにロザリアの左腕を打ち抜き、呪縛から逃れんとあがく。
「今再び、我が手から戦友を、花嫁を奪わんとするか! させんぞ!」
「腕が銃で、花嫁の姿、ですか…幸福を撃ったばかりの銃に例えた歌もありましたが、こちらは比喩どころかそのままですね」
花嫁型への攻撃によって、俄かに怒りを露わにする兵士型。半狂乱の相手に対し、佐祐理は手にした攻性植物を捕食形態へと変じさせ、顎の如き葉で全身を飲み込む。しかし、兵士型は内部で暴れ、今にも内側から突き破らん勢いであった。
「よっぽど情熱を注いでいたんだな。大事にしてたモノが壊された挙句、こんな怪物になるって、マジ悪夢としか言いようがねーってか」
兵士型の姿を視界の端で捕えながら、トーマは日本刀を構え、花嫁型目掛け疾駆する。当然弾幕を形成されるが、掠める弾丸を紙一重で避けながら懐へと飛び込み、斬撃を放った。
「旦那が気になるかもしれないが、今だけはこっちを見てもらうぜ?」
「もう二度と離れることは無い。悲劇は、繰り返さない」
切り捨てられた花嫁衣装の切れ端が宙を舞う。瞬間、トーマの背後で轟音が鳴る。ちらりと後ろを振り返ると、兵士型が攻性植物の拘束を突き破ったところであった。
「兵が倒れる事も、銃が壊れる事も、もう許してなるものか……!」
その声に込められた感情はいかばかりか。歪められているものの、その元となった想いは本物であったと、ケルベロス達は再度認識させられるのであった。
●悲哀の弾丸
陽は既に地平の下へと隠れ始め、周囲に宵闇が降り始める。急速に視界が狭まる中、暗がりの中を幾つもの火花が散っていた。
「オオオオオッ!」
兵士型の放つ猛烈な連撃を、鳴海は紙一重でいなしている。手数もそうであるが相手の気迫が凄まじく、攻撃の隙を見いだせないでいた。保身を考えぬ攻勢に、とうとう避けきれず拳が眼前へと迫り……。
「それ以上はだーめ! ここから先ははみせられないよ!」
鳴海の体が、エルネスタの生み出した霧によって包まれた。通常のそれとは違い、全身をモザイクで包むことによって輪郭と遠近感をぼやかし、間一髪攻撃を外させる。
「あ、声がヘリウム吸ったみたいなのは気にしないどいてね」
「ちょっとばかし気が抜けるが……おかげで助かったぜ」
甲高い声でエルネスタへ礼を述べながら、最小限の動きで兵士型へと弾丸を放つ。狙いは頭部、相手の左目へと吸い込まれ、視界の半分を奪い去った。
「ぐ、おおっ!」
「陣形を崩すには、今しかない」
思わずのけぞる兵士型に、ここが勝負の決め所であると司は瞬時に判断した。白磁のナイフをホルダーより引き抜き、必殺の一撃を叩き込まんと肉薄する。
「させるものか!」
「アルマはこちらへ。いま兵士型との戦いに横やりを入れさせるわけにはいかないからね」
兵士型の窮地を感じ取ったのか、そちらに意識を向ける花嫁型に対し、ロザリアはビハインドを呼び戻し射線を封じた。構わず弾丸がまき散らされるも、身を挺してそれを防ぐ。
「――呑まれてみるか、月の熱に」
かくして、兵士型は司の攻撃を許してしまう。天にかざした刃が月に煌めくや、幾つもの月光が降り注ぎ兵士型の全身を貫いた。
「まだ、まだ……倒れん。どのような戦場においても変わらぬのが、この……」
「これでも倒れないの!?」
もはや死に体にも関わらず戦闘を続けようとする兵士型に、エルネスタが驚愕の声を上げる。自己回復の手段があるため、ここで反撃を許してしまえば持ち直される可能性が高い。
「そうこなくっちゃ、やりがいがねぇよなぁ? 礼に武器の正しい戦い樣、見せてやんよ」
そんな中、獰猛な笑みを浮かべてサイガが敵前へと躍り出た。隻眼でその姿を捉えた兵士型は拳を繰り出すも、臆することなくサイガは逆にそれを掴み取る。
「お裾分けだ、喜べよ」
注ぎ込まれるは凍てつく炎。内側より焼き尽くす熱量に、さしもの兵士型も耐え切れず……。
「あ、ああ……ま、た」
末期の言葉と共に、跡形もなく消滅するのであった。
「あ、あああ、そんな……よくもぉおお!」
その光景を花嫁型が呆然と見つめていたのも一瞬だけ。般若の如き表情へと変貌するや、辺り構わず弾丸をまき散らし始めた。
「気持ちは分からないでもないんですけどね、私もアコギをようやく修復出来たばっかりですし。してあげられることは、一瞬でも早く倒してあげること……Das Adlerauge!」
弾丸が通り過ぎる風切り音を感じながら、佐祐理は右目の視線を花嫁型へと固定した。彼我の距離を見定め、射程距離に捉えるや高出力のレーザーを照射する。闇を切り裂く一条の輝きは、花嫁型の左腕を焼き切った。
「これ、だけは……決して傷つけさせない!」
「僕だって、大切な存在を傷つけられれば怒りを覚えるよ。でも、それを周りにぶつけるだけじゃ、決して傷は癒えないんだ」
「お前達の怒りも悲しみも、ここで全て清算する。また前に進むためにも……だから、安らかに逝け!」
もう花嫁を守る者はおらず、耐久力も兵士型に劣る。この勢いのままに決着をつけるべくロザリアとレオナルドは敵へと刃を向ける。投擲された漆黒の大鎌が曲線の、陽炎を纏ったレオナルドの居合抜きが直線の軌道を以て、花嫁型を切り裂いてゆく。
「く、あ、ああぁ!」
ぼろぼろの衣装を紅に染めながらも、体を屈めて右腕を、AK47を守らんとする。その姿は憐れみと物悲しさを感じさせながらも、それでも戦い続けんとしていた。
「嫌だ、いやだ……もう、あんな想いは」
「……時間が解決するまで、感情は、染みみたいにずっと残るんだ。だから、今だけは思い切り泣いてさ」
構えられた銃身が、すっぱりと切り落とされる。先の二人の攻撃に乗じ、視界外から接近していたのはトーマ。振り下ろした刃を逆袈裟に斬りあげ……。
「ーー今度はもっと、楽しく遊ぼうぜ!」
「そう、であれば……どんな、に」
一刀のもとに、花嫁型を断ち切るのであった。
●壊れて、作って
「ん、あれ、俺は……」
「お? 気が付いたか?」
戦闘終了後、ロザリアらを始めとして公園内を修復した後、ケルベロス達は被害者宅へと足を向けていた。事情を話して家に上がり、倒れていた被害者を介抱すると10分ほどで目を覚ます。笑みを浮かべるトーマに対し疑問符を浮かべる青年へ、レオナルドが事情を説明する。
「……ということがあって、訪ねさせてもらったんです」
「そう、ですか。それは、なんとお礼を言ってよいか……」
話を聞いた青年は頭を下げつつ、呆然としている。その視線の先には無残に破壊された銃があった。
(「モデルガンのヒールは……流石に難しいかしら?」)
(「リアリティに拘りがあるようだからね、納得はしないだろう」)
同じように銃の残骸を眺めながら、佐祐理と司はそっと言葉を交わし合う。修復自体は出来ても、元のAK47とは大きく姿が変わってしまうだろう。それは彼の臨んだ銃ではなくなってしまう。
「……あなたの希望の通りに銃を治すのは出来ないけれど、これで終わりって訳じゃない。あなたは無事だったんだもの、きっとまた作り直せるわ」
そしたら、私にも見せてくれないかしら。十八歳に変じさせた体をセクシーなミリタリ衣装で身を包みながら、そう微笑みかけるエルネスタ。思わず視線を泳がせる青年へ、鳴海も言葉を掛ける。
「一人先に帰った奴がいたんだけどよ、そいつも去り際に行ってたぜ。これだけ熱を入れているなら、より良い嫁をまた造んだろ、ってな」
それは実際に戦った者としての言葉。戦闘力が思いの強さだとすれば、確かにドリームイーター達は手ごわかった。その言葉に、沈んでいた青年の瞳に、僅かばかりの生気が戻る。
「そう、ですね……ここで止まっちゃ、本当におしまいになってしまいます。それはきっと、この銃への冒涜にもなります」
そっと、壊れた部品を手に取る青年。きっと彼はまた、己の望む銃を作り上げようと努力し始めるだろう。そう確信したケルベロス達は、青年の家を後にするのであった。
作者:月見月 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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