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早朝のケーキ屋には、まだ店主以外の従業員は到着していない。
「フン、馬鹿なヤツらだ」
今日の分の仕込みをしながら、男性は悪態をつく。
「何が給料が足りない、だ。美しいボクとボクのケーキに囲まれて、ソレ以上に望むモノなんてないハズだろう! 昨日だって撮影目的の客がうじゃうじゃ来てたってのに――」
怒りながらぶつくさ言う男性が不意に視線を感じて振り向けば、そこにはシャイターン『青のホスフィン』が立っている。
「綺麗な顔、綺麗なケーキ。独善的な所も素敵じゃない」
青い炎が、男性の全身を焼き焦がす。
炎の中、男性の姿は一体のエインヘリアルへと変容――それでもその顔が美しいのを認めると、青のホスフィンは満足そうにうなずく。
「人間を襲って、グラビティ・チェインを奪いなさい」
命じれば、エインヘリアルは青のホスフィンへ頭を下げるのだった。
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死者の泉の力を操り、『青のホスフィン』が動き出した――高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)は、そのように状況を告げる。
「現れたエインヘリアルはグラビティ・チェインが枯渇しており、人間を殺すことでグラビティ・チェインを奪おうとしているらしい」
おそらく、真っ先に狙われるのは、ここに来た従業員の人々。
その者たちを殺した後は店外に飛び出て、周囲の住宅街で殺戮を行うことだろう。
「エインヘリアルの凶行を止めるために、どうか力を貸してほしい」
エインヘリアルは1体だけ。
今なら、ケーキ屋に従業員が入った辺りで現場に到着するはずだ。
「従業員は4名とそう多くはない。この者たちを避難させて、戦闘を始める必要があるね」
パティシエ風の衣装を纏うエインヘリアルの戦い方にもスイーツ感が漂うが、だからといって侮ることは出来ない。
「エインヘリアルに選ばれたことを、自分の外見と自分の作ったケーキの見た目が認められた、くらいに思っているらしい。……人を殺めることへの抵抗は持ち合わせていないようだ」
だからこそ、こちらも全力で挑む必要があるだろう。
「早く倒してしまいましょう!」
芥河・りぼん(リサイクルエンジン・e01034)も、そう声を上げるのだった。
参加者 | |
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ミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283) |
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336) |
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506) |
舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841) |
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343) |
瀬部・燐太郎(戦場の健啖家・e23218) |
ポン・ポシタ(月夜の白狼・e36615) |
依田・澄香(ドワーフの自宅警備員・e36644) |
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「私達はケルベロスだ! デウスエクスは私達が倒す、落ち着いて速やかに外へ避難してくれ!」
舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841)は声を張り上げ、エインヘリアルの眼前へと立ちはだかる。
手にした妖刀・蒼風月が閃く――鋭い一撃が叩き込まれるのと、アルティメットモードを発動した螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)が流星を伴う蹴りでエインヘリアルを攻撃したのはほぼ同時。
「シャイターンに認められたところで何の自慢にもならんだろうに……」
呟くセイヤ。
「ボクの美しさが、なぜ分からない」
突然の攻撃に、エインヘリアルは憎々しげにつぶやく。
「こんなことをするヤツ、ボクは殺したって構わないんだぞ!」
「ミケさんもキミを殺すことに抵抗ないんだ、偶然だね」
投擲されたクッキーの破裂を受け止めたのはミケ・ドール(深灰を照らす月の華・e00283)。
爆発を至近で受けようともミケは臆することなく、外へ出て、と店員らへ告げてから、ウイルスカプセルを投射した。
「超絶美味しいケーキが売ってるって聞いたのだー!」
わくわく顔で戦場になだれ込んだパティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)へと、シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)は言う。
「違いますわよ、パティ様。こちらのお店のケーキはとても美しくて写真映えするそうですわ!」
きっと味も美味しいに違いない――そんな想像をしつつ、シエルは店員へ声をかける。
「皆様、ここは危険ですわ!お外へ避難してくださいませ!」
「わたしたちが攻撃してるうちに逃げてください……」
依田・澄香(ドワーフの自宅警備員・e36644)は言って、『ぱぱ』――くまのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
(「すみかの初めてのお仕事、すこし緊張なので……“ぱぱ”、すみかを守ってください」)
声かけに彼らが店外へ出たのを確認すると、シエルは殺気を放ちながら青碧の龍戦槌でエインヘリアルへ立ち向かう。
轟音を伴う砲撃。攻撃をするシエルとは対照的に、パティはヒールのためにオーラを練る。
ふわり、くるりと舞い踊るおばけ型のオーラ。広がる賑やかな光景の中をボクスドラゴンのジャックも飛び回り、オーラをプレゼントした。
瀬部・燐太郎(戦場の健啖家・e23218)は、義骸装甲『アスラ・リム・モッドⅠ』を纏った姿でエインヘリアルと――憎きデウスエクスと対峙する。
小指を梵天耳かきに変形。耳をほじる挑発と共に、燐太郎は言う。
「選ばれて早々残念だが、ケーキの様に切られて貰おうか。そっちのが見栄えも景気もいい」
耳をほじり終えれば、掌からは衝撃波が放たれる。
「困ったときは、この《手》に限るってなもンだ」
霊的存在にすら打撃を与えられる攻めを、エインヘリアルは巨体を屈めることでどうにかやり過ごす。
しかし、その背後から、氷の粒を纏ったポン・ポシタ(月夜の白狼・e36615)が飛びかかる。
「ポンちゃんもやればできるのだっ」
最強ポンちゃんアタック――無我夢中で暴れまわれば、エインヘリアルの顔面に拳が飛ぶ。
緊張に体の強張る澄香だったが、戦いの前に励ましてくれたポンの戦いが勇気をくれる。
「こう……でしょうか?」
迷いこそ見える一撃だが、それでも十分なほどに力強いのだった。
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店員たちの全員撤退した後の店内で、ケルベロスたちは思うさま力を振るう。
燐太郎がリボルバー銃『ヴィーナ・ケイヴァ:インフェリア』を連射すれば、エインヘリアルの体からは血がこぼれる。
ただでさえ重い銃を連射したことによる反動が燐太郎を襲うが、燐太郎はその負荷を表に出すことはなく、耐え抜いてみせた。
「ボクの、ボクのケーキの何がいけないんだ!? こんなにも美しく、そして美麗であり、麗しいというのに!!」
「お前の主義主張は、まるで上等なパンケーキにバケツ一杯の蜂蜜をブチまけたようだ」
芯まで甘さに浸りきっていて、とても耳を傾ける気にはなれない……外見のことばかりを口にするエインヘリアルに、燐太郎は軽蔑の表情を浮かべる。
周りのダメージに回復を振りまいていたパティは、ヒール中に周囲に振りまいていた幻想をかき集め。
「お菓子をくれぬなら……お主の魂、悪戯するのだ!」
蝙蝠が、おばけが、かぼちゃのランタンが、一気に周囲を夜へ染め上げる。
「ボクの美しさも分からない馬鹿者に、ボクのケーキなんてくれてやるもんか!」
「そうか、残念なのだ!」
否定するエインヘリアル、薄く笑って言うパティ。
エインヘリアルの正面に立つパティには、敵の背後――大鎌を持ったジャック・オー・ランタンの姿が見えていた。
パティの簒奪者の鎌もまた、気付かぬうちに巨大化している。
幻影と共に振るわれる鎌――ゴスロリ風の軍服ワンピースの裾を揺らめかせるパティのHalloween Partyのダメージが深かったのか、エインヘリアルはどこからともなく鏡を取り出す。
「今がチャンスなのだ!」
「任せて、なのだ!」
ポンはぴょんとジャンプして、生み出した風と一緒に蹴りつける。
ジャックが与えてくれた属性のこともあって、攻撃に宿る暴風は強烈。鏡の中の己に見惚れることで色々なものを守ろうとしていたエインヘリアルだが、その守りは蹴りによって打ち砕かれてしまう。
美味しいケーキへの下心から受けたこの仕事、ケーキ屋さんを倒すことへの心苦しさはあったが、やらなければならないという使命感がポンの中では何より強かった。
――ぼこん! という脈絡のない破裂音にミケは首を傾げるが、その音の正体は先ほどエインヘリアルが投げたクッキー爆弾。
ジャックがおなかに収めることで、爆発に少々の時差が生じたようだった。
クッキーやフォンダンショコラなど、このエインヘリアルの攻撃はドルチェを模して愛らしい。
でも、攻撃は攻撃。そこには甘い香りも味も備わらず、それがミケには残念でならなかった。
「ちっともおいしくなさそう、E noioso……出直すのも許されないよ」
癒しの力は十分だから、『海恋し薔薇の泪』ではなく攻撃が必要そう、と判断して、ミケは巨大な牙を掲げる。
おいしいドルチェには対価、それを作る人にはその対価、エインヘリアルにはケルベロスの鉄槌を。
翼を広げて真上から強襲を仕掛けたミケは、くるくる舞い飛んでエインヘリアルと距離を取る。
代わりに飛び出たのは、両腕に装着したパイルバンカーに力を籠める澄香。
「すこしコツを覚えてきたのでガンガン行きます……」
最初の緊張も薄れ、慣れが出てきた澄香。
この調子でと思い、螺旋力を使って噴射、エインヘリアルへと突撃を仕掛ける。
勢いのある一撃に続くように、沙葉は刃を手にエインヘリアルへと迫った。
「これ以上被害を増やすわけにはいかない」
人をエインヘリアル化させるシャイターンも、その魔手によってエインヘリアルとなり、人と殺めることを何とも思わない人々も……沙葉にとっては、許せるものではなかった。
「まだ、終わりではない……!」
幾度も幾度もに連なる斬撃――シャイターンが膝をついても、まだ止まらない。
シエルはその隙に魔道書を広げて。
「妖精さん、妖精さん。どうか、わたくしに教えてくださいませ」
紡がれた詩を読み上げれば、キラキラ輝く妖精のおでまし。
正確無比な囁き――正確無比な一撃へと代えて、シエルはエインヘリアルにお見舞いする。
「なぜ……ボクにこんなことを……!? こんなに美しい、ケーキの腕も認められたボクに、なぜ……!」
「確かに認められはしたな…その性根の悪さを……」
セイヤは言って、敵を見据え。
「神速の刃に散れ……ッ!」
グラビティの解放を伴って、居合斬りを果たす。
エインヘリアルの骸に刻まれた表情は、敗北への悔しさ。
しかし、それもやがて粉砂糖のように散って消えた。
●
「元気を出して、これからもおいしいケーキを作ってほしいのだ」
戦いを終え、戻ってきた店員へとポンは声をかける。
店員たちの表情には今後の不安も見えたが、エインヘリアル――そして、横暴な店主がいなくなったことへの安堵も、薄く滲んでいる。
「ところで、ここのケーキが超絶美味しいって噂は本当なのだ?」
「噂が本当かどうかはケーキを食べたらわかると思いますの!」
パティの問いに返すシエルは、店員たちへと尋ねる。
「お一ついただいてみたいですが……まだ仕込中でしたかしら?」
仕込みの途中だったため、この店のケーキ全てを食べるというわけにはいかない。
だが、既に完成していた一部のケーキや、保存の効く焼き菓子ならばということで、ケルベロスたちは戦いの後のご褒美タイムに移行する。
「口直ししなきゃ……」
言いつつ、並べられたケーキにミケの瞳が輝く。
漂う甘い香りは癒し――だが、燐太郎の表情は晴れやかではない。
(「俺の仕事は、世間様からはどんな風に見えているんだろうな……」)
従業員の身の安全を確保したことは芳しい評価を得られるだろうが、エインヘリアルだって元は人間だった。
世間ではヒーロー扱いのケルベロスだって、怪物と紙一重なのではないか――。
「……腹が減ったな」
その辺りまで考えたが、空腹には逆らえない。
クッキーをつまむ燐太郎だった。
キッチンに装飾用のベリーソースを見つけると、セイヤは皿に盛ったガトーショコラにソースをかけて飾り付け。
エインヘリアルへのせめてもの餞別としてカウンターの上に供え、自身もケーキをひと口。
「ケーキの腕は流石みたいだな……剣の腕はイマイチの様だったが……」
呟いたところで視線を感じてそちらを見れば、セイヤは澄香と目が合った。
「サポート、ほんとうにありがとうございました……」
ぺこっと頭を下げる澄香。
「気にするな。怪我はないな?」
はい、とうなずく澄香。
攻撃に夢中になってしまった時も、周囲がヒールや庇いでサポートを入れたお陰で、ケルベロスの誰も大きな負傷を負うことはなかった。
それに安心して、澄香は勝利のケーキを堪能するのだった。
美味しく、楽しい時間を経て、ケルベロス達は店を後にする。
「再起できるよう、願っている」
人気があるということ、そして食べたケーキからも、この店の持つ技術が確かなことは分かった。
あとは、その技術を継承した店員らの道行が明るいことを――そんな言葉を残して、沙葉はケーキ屋を出るのだった。
作者:遠藤にんし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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