美しくあれ

作者:遠藤にんし


 庭に植えられた寒椿。
 まだ花開かないそれを見つめて、一人の女性は息をこぼす。
「この花のように、わたくしも美しくならなければ……」
 女優になりたいと日々鍛錬を重ねている女性だが、まだ花は開いていない。
 しかし、最近受けたオーディションでは手応えがあった。うまくいけば、この寒椿の咲く頃には……そう見つめられる寒椿へと、『鬼蓮の水ちゃん』は謎の花粉をふりかける。
「苦しみなさい」
 呟きと共に、寒椿は攻性植物へと変貌する――椿を見つめていた女性に、逃げる余裕は許されていない。
 枝に絡みつかれ、その大蕾の中へと取り込まれていく女性。
「お前達が植物に与えて来た苦しみを思えば、当たり前のことよね?」
 彼女が聞いたのは、鬼蓮の水ちゃんのそんな言葉だった。


「人型の攻性植物が、謎の胞子をばらまいているようだ」
 高田・冴(シャドウエルフのヘリオライダー・en0048)の言葉に、やっぱり、と八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)は呟く。
「椿が怪しいと思っていましたが……」
 鎮紅の調査によって判明したのは、謎の胞子を受けた寒椿が一般人を襲ってしまった、という事件。
「敵は1体だけで、そこまで強大なわけではない」
 倒すだけなら容易かもしれないが、中に一般人を取り込んでいるというのが厄介だ。
「ただ倒してしまえば、中にいる女性も死んでしまう。もしも彼女を助けたいなら、『ヒール不能ダメージ』を蓄積させなければいけないね」
 敵を攻撃しつつ、ヒールも与えなければいけない、ということだ。
「攻撃しても全てのダメージは癒せない。そうしてヒール不能ダメージを蓄積させ、体力を削りきるしかないだろうね」
 人型の攻性植物『鬼蓮の水ちゃん』は既に去った後。
 庭先は無人なので、人払いは不要――ただ、戦うのみだ。
「それでも、今できることは進めていかなければいけない。寒椿の攻性植物の撃破を、みんなにはお願いするよ」


参加者
アイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
ブルローネ・ウィーゼル(モフモフマスコット・e12350)
ルベウス・アルマンド(紅卿・e27820)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)

■リプレイ


 ――源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は、森で育った。
「可憐な花の未来を、奪わせはしないよ」
 人の姿をした攻性植物に思う所がないわけではない。だが、今すべきことは女性の救出、更に言えば――瑠璃にできるのは、長くなるだろうこの戦いに備えること。
「月の光の守護を」
 銀の輝きが戦場に満ちる――仲間に備えられたのは、確かな守護の力だ。
「攻撃は頼んだ」
 アイン・オルキス(誇りの帆を上げて・e00841)はゾディアックソードを地面に突き立てて星座の煌めきを戦場に満たす。
 銀色の、星々の光。
 二重の光を受けてエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)の毛先は青く透ける。
 肉薄して至近から幹を蹴りつければ、寒椿はゆらゆらと花を揺らしてエンデを狙おうとする――だが。
「任せてパオ!」
 テレビウム『トピアリウス』の発する光を背中に受けつつ、エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)がスライディング。
 ぎりぎりのところで攻撃を受け止めたエレコは、小さなゴーレムたちに呼びかける。
「たくさんたくさん、守るパオ!」
 ぞろぞろと歩き出すゴーレム……足元にぴたっと張り付く様子を微笑ましく思いながら、パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)は呟く。
「頼もしいわね」
 事前に作戦のすり合わせを行っているから、仲間を信じて攻撃に打って出ることが出来る……パトリシアが放ったのは、嫉妬心を籠めた魔弾。
「その罪を、悔い改めなさい」
 ライドキャリバーによって傷を負った寒椿の内側に滑り込んだ弾丸は、内部で炸裂――幹にひび割れが発生したところで、霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)は敵のヒールへ取り掛かる。
「死なせねェ、って、な」
 ボクスドラゴンのノアールはゆるりと宙を旋回し、闇の属性でもって受ける痛みをひた隠しに。
(「蕾を落としてしまえば、助けられるかしら……」)
 ルベウス・アルマンド(紅卿・e27820)は思って樹木を見上げるが、そう容易にはいかないだろうという思いも持っていた。
 胸元が淡く光れば、呼応するかのようにオウガメタルは絶望の光を射る。
 黒々と照らし出された寒椿めがけて、ブルローネ・ウィーゼル(モフモフマスコット・e12350)は体毛から作り出した分身と共に攻撃を行う。
「さあ! みんなで行きますよ!」
 自己流ではあっても威力は十分。
 ブルローネと愛らしいイタチに取り囲まれ、攻性植物は回避も出来ずにその攻撃を受け止めるばかりだった。


 ――美しくありたい、と、寒椿に寄生された女性は願った。
「向上心にも成り。日々の支えにも成り。更に、夢と伴うモノ、てンなら」
 応援したくなる――ケド、と、悠は寒椿を見つめる。
 丁寧に育てられた木なのか、木肌は美しく、葉も艶やかだ。
 蕾もふっくらとしていて、開けばどれほどの美しさがあるものだろうと思える。
「想いを。途絶えさせる、てのは。ちと、頂けねェよ、なァ」
 受けたダメージの癒しを続けながら、悠はノアールを呼ぶ。
「ノア。ヒール、を……ン、と」
「攻性植物へは私が」
 ケルベロスも、攻性植物も放っておくのは危険な状態にある……指示を出しあぐねた悠へと助け船を出したのは、アインだった。
「そ、ッか。助かる。じゃ、ノア」
 ノアールがふいとケルベロスの元へ飛び立つ――同時に、アインは腕部パーツから雷の針を取り出して。
「その身に溜まった毒を殺す」
 ダーツのように投擲、突き刺さる針は血を流させるためではなく、受けた傷を殺すためのものだった。
 パチパチと寒椿の葉を取り巻くように爆ぜる火花も、丁度良い刺激か何かになっているのだろうか。
 見る間に元気を取り戻していく攻性植物へと、これまでずっと癒しを続けてきたエレコも攻勢に打って出る。
 軽やかな足取りでエレコは寒椿に近寄り、フェアリーブーツ『Feder』でもって虹色の軌跡を描く。
 虹色が、とりわけ橙色が大きく広がった――トピアリウスは応援動画に合わせて体を揺らし、スコップがないからこそ空いている両手も振り回す。
「なるほど、たいした生命力だわ……」
 エレコの攻撃を受けてなお勢いの衰えない攻性植物に、ルベウスはそんなつぶやきを漏らす。
 攻撃はトピアリウスが受け止めてくれたから、ルベウスがすべきことは、攻撃のみ。
「まだまだ、弾はあるわよ……」
 手にした宝石を握りしめ、ルベウスは命じる。
「警笛に集え……戦鍋に集え……」
 象牙色が、蠢く。
「蜜蝋のように犇めき……松脂のように侍り……砲火のように蹂躙し……」
 それらは、蜂を思わせる姿へと変形し。
「乳母のように尽くせ……」
 命じられるままに、それらは寒椿へと殺到した。
 ルベウスによって生み出された霊的存在が群がる。
 蜂の羽ばたきのような音こそ立てなかったが、群体のこすれ合う奇怪な音が低くあたりに響き渡った。
 唸りを上げるライドキャリバーが炎を起こす――パトリシアは腕に咲く紅の花を振るって、赤の軌跡と共に攻性植物を破壊した。
 長期戦、女性を救うとなると難しい戦いにおいて、パトリシアが担う役割は攻撃手。
 加減も容赦も不要、癒しは仲間に委ねて十分……そう信じて、パトリシアは最大火力で敵へとぶつかっていく。
 攻撃の後にはヒールが必要。瑠璃は薬師蛇の医療鞄を手に攻性植物の近くへ急行、近くで暴れ狂う枝を器用に回避しながら処置を進めていった。
 負った傷は癒しているはずなのに、近づけば近づくほどに、攻性植物が弱りつつあることが瑠璃には感じられた……一見してダメージをほとんど回復させている攻性植物でも、その内側にはダメージを溜め込み、知らないうちに消耗している証拠だろう。
「手ごたえはあります」
 独りごちる瑠璃の言葉を受け、ブルローネはイタチの手に持ちうる限りの全力を込めて攻撃。
「攻性植物を倒しさえすれば終わりだとしても……」
 救える命があるなら救いたい、とブルローネは願っていた。
 だが、ブルローネ自身は癒しの力を運用するには向いていない。
 だからこそブルローネはヒールを行う仲間を信じ、こうして攻撃に出ることが出来た。
 イタチの手は小さく、体を覆う体毛も白く柔らかい。
 それでも一撃は苛烈であり、野生としての力を感じさせるものだった。
 打撃のためか大きく寒椿の姿が傾いだ――受けたダメージのために肩で息をしながらも、その様子に気が付いたブルローネは声を張り上げる。
「もうすぐです! とどめをお願いします!」
「任せな」
 言葉に即応したのはエンデ。
 迫る時は足元を見て。腕が、刃が届く距離まで縮めてから、初めてエンデの瞳がその花を捉える。
 振り上げられたのはガントレット――だが本命は、その中に潜む仕込み刃。
 右からえぐって、左から削って。
「――さようなら、美しい世界にお別れを」
 攻性植物へと与えられたのは、訣別の言葉だけ。
 その攻撃の後、解けるようにして、寒椿の攻性植物は姿を消した。
 ――隠し持っていた、美しい女性の姿だけをそこに置いて。


 攻性植物の撃破を確認し、ケルベロスたちはは真っ先に女性の状態の確認に移る。
「大丈夫だった?」
 コートを掛けたパトリシアが訊けば、女性は頷く。
 アインがざっと見たところでも、大きな傷は見られなかった――だが、とアインは言う。
「怪我はないが、衣服に損傷がある」
 そんなアインのつぶやきを受けて、エレコは自身のケルベロスコートを差し出した。
「我輩、そんなに使わないから貸すパオ」
 破れてしまった衣服からケルベロスコートへと。
 着替えるようだと察した瑠璃は何も言わず素早く後ろを向いて、彼女に対して失礼がないようにしておいた。
 悠はといえば、周囲のヒールを合わせて人型の攻性植物のヒントとなるようなものがないかを探している最中だ。
「彼女が。椿へ与えた苦しみ、て。何だったンかな」
 ヘリオライダーの予知の中、『鬼蓮の水ちゃん』が言っていた言葉を悠は反芻する。
 その言葉の意味するところは、今はまだ分かりそうにない。
 だとしても、いずれ何かに気付ける日まで、調べ続けることは重要かもしれない……悠は、そんな風にも思うのだった。
 ブルローネも周辺の状況を確認しながら、無事に戦いが終わったことへと安堵していた。
(「僕なりに出来ることが……」)
 守るべきものを守り、倒すべきものを倒せた。
 自分にもできることがあったのだ、という感覚は、心地よい充足感となってブルローネを満たしていた。
 ――女性の着替えが完了したエレコが視線を感じて振り向けば、そこにはパトリシアの姿。
「パオ子」
「パオ!」
 ハイタッチすれば、自然と笑みがこぼれ落ちる。
「あなたたちがいるからわたしは集中して攻撃ができたわ。ありがとう」
「どういたしまして、パオ♪」
 和やかな会話をする二人から、エンデは女性へと視線を向ける。
「寒椿の咲く頃、だっけ?」
「え……? ……あ、はい。うまくいけば、ですけれど……」
 手ごたえを感じてはいても、自信満々というわけではないのか、少々不安そうな表情になる女性。
 そんな彼女を励ますように、エンデはこう続けた。
「テレビなり雑誌なりであんたが見られんのを期待しとくよ、未来の女優」
 未来の女優――そう呼ばれて頬を染める女性へと、ルベウスもそっと声をかける。
「今度は、美しく咲けるといいわ、ね……」
 容易ではない戦いだったが、それでも彼女の命を救うことが出来た。
 今は苦境の中に立たされているかもしれない彼女だが、それでもやがて、大きく花開いてくれたら――それ以上に、嬉しいことはない。
 残念ながら、この現場には『鬼蓮の水ちゃん』の痕跡らしきものは残ってはいない。
 現場と女性のヒールも完了したため、ケルベロスたちはそれぞれの場所へと帰ることにした。
 ――もしも、彼女の姿を次に見ることがあるならば。
 それは寒椿の咲く頃ならいいと、願いながら。

作者:遠藤にんし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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