チョコミントアイスこそ我が血肉

作者:七尾マサムネ

 人里離れたその場所に、人の全く寄り付かない教会がある。
 長らく打ち捨てられていたが、こ今はとあるビルシャナの根城となっていた。
「チョコミントアイスを食べるのだ。食べ続けるのだ!」
 集めた信者達を相手に、熱弁を振るうビルシャナ。
「人間の命は有限。すなわち、食事の量も有限。ならば、余計なものを食べている余裕などない。チョコミントアイスだけを食べ続けるのだ、命ある限り!」
 そしてビルシャナはクーラーボックスからカップのチョコミントアイスを取り出すと、信者達に振舞った。
「ではいざ!」
 カップのフタを開け、実食!
 ぱくっ。
 しばらく黙々とアイスを頬張っていた信者達だったが、
「頭が……」
「きーん!」
 いわゆるアイスクリーム頭痛が、信者達をさいなむ。
「痛いか! だがそれこそが生きている証だ!」
 冷たさにも痛みにも負けず。
 ただひたすらにチョコミントアイスを食べ続ける怪しげな集団の姿が、そこにあった。

「悟りを開いてビルシャナになった人の信者が、さらに悟りを開いてビルシャナになって独立して、信者を集めようとする事件が起きているみたいです!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)の依頼は、このビルシャナを撃破して欲しい、というものだった。
 今回のビルシャナは、六道衆・餓鬼道の『生きることは食す事、命ある限り思う侭に喰らうが正しい在り方』という教義によって悟りを開いたらしい。
「このビルシャナが、人々に一生チョコミントアイスだけを食べよう、と布教している廃教会に乗り込んでください。ビルシャナの教義を吹き飛ばすくらいインパクトの強い主張で、信者さん達が配下になる事を防いじゃってください!」
 チョコミントアイスビルシャナは、銀のスプーンのような杖を持ち、破壊の光を放つ。また、チョコミントカラーの氷輪の使い手でもある。
 そして、その鐘の音を聞いたものには、冷たいものを食べた後に頭を襲う、例の痛み……あれの何十倍もの苦痛を与えるという。
 一方、信者は10名。スイーツ、特にアイスが大好きという男女ばかり。
 信者の説得に失敗すると、ビルシャナのサーヴァント状態となり、敵の戦力になってしまい、戦闘が厄介になってしまう。
 ただし、もしそうなった場合でも、手加減するなどして、戦闘終了まで無力化しておけば、ビルシャナを倒すことで元に戻すことは可能だ。
「既にビルシャナ化してしまった人は助けられないですけど、信者の皆さんならまだ間に合います。皆さんの説得で、助け出してあげてくださいっ!」
 ねむの願いに応え、ケルベロス達は一路、ビルシャナの元を目指す。


参加者
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)
シェリー・シュヴァイツァー(花紬の氷晶姫・e20977)
レイヴン・クロークル(水月・e23527)
ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)
ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)
渫・麻実子(君が生きるといいね・e33360)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)

■リプレイ

●ノーチョコミントアイス、ノーライフな人々
 一行がたどり着いた教会は、妙に寒々しく見えた。中にいる者達の主食のせいだろうか。
「チョコミントアイスだけ食べるー……って、流石にねえ、それじゃ信者さんも栄養とか全然足りてないでしょうし、体も冷えてるでしょうし」
 少しでも自分の体をいたわってくれたら良いんだけれど……と思うシェリー・シュヴァイツァー(花紬の氷晶姫・e20977)。
 意を決し、教会に突入するダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)達。その背後では、シャーマンズゴーストのストーカーがカメラを回している。
 そして、ルソラ・フトゥーロ(下弦イデオロギー・e29361)は見た。見てしまった。
「冷たい!」
「知覚過敏!」
「でもチョコミントうめー」
 時折のたうちまわりながらも、チョコミントアイス摂取に勤しむ信者達。
 ビルシャナに至っては、バケツみたいな容器にスプーンを突っ込んでいる。
「……同じアイスばかりでも飽きないのか」
 もはやチョコミントアイス吸収マシーンと化した信者達に、レイヴン・クロークル(水月・e23527)も呆れるしかない。
 さすがに侵入者に気づいたビルシャナが、向き直る。アイスを頬張る手はそのままに、
「なんだ邪魔しにきたのか!? 我らチョコミントアイス好きの宴を!」
「ふ、ふーん。チョコミント好きとか、夏の流行りに乗ってそのまま降り損ねただけじゃね?」
 チョコミント狂な自分を抑え、強がる渫・麻実子(君が生きるといいね・e33360)。宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は、そんな恋人を見ながら、思う。
(「……チョコミントアイスはせつの大好物だし、おかげで俺も近頃好物になりつつあるのだが、それも他の食い物があっての事。極端な主張は同好の士全体の評価を下げる」)
 ならば、説得あるのみ!
「確かに個人的にはチョコミントちょーうめえんですが、お前の食べ方は備えがなってなくて憂いばかり!」
 ばばーん! ビルシャナに指を突きつけるクリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)。
「ほう。物申すというのか?」
「そうですとも」
 ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)の眼鏡が、挑戦的に光る。
「食べてるときの清涼感と食べた後のすっきり感がいいですね、チョコミント。子供の頃は苦手だったけど、今はそれが食べられる。大人って感じです」
「だろう?」
「でも、チョコミント味だけで満足ですか?」
 問題提起である!

●チョコミントアイスVSケルベロス!
「実は、冬こそ美味しいアイスの新商品が出たりする。チョコミントだけはもったいない」
「その通りです。アイスの味は日進月歩。そんな新しい味を試したいとは思いませんか?」
 信者に訴えかける、ダンサーやロザリア。
「たとえば今は苺のシーズンだから、ストロベリー味が美味しいですよ。チョコミントだけにこだわってていいんですか?」
 それに、
「もし、お店でダブルやトリプルを頼む時はどうするんですか? 全部同じ味? それじゃ、せっかくの注文が台無しです。違う味のコラボとか試したくないですか?」
「そうだ、イチゴは……いいぞ」
 レイヴンが自らの趣味も織り交ぜて言うと、テレビウムのミュゲはうなずき、幸せそうな顔になる。きっと華やかなアイスを想像しているのだろう。
「チョコミントの色はミントブルー、つまり、青色な訳だが……青色は食欲減退色だったな。そんな色のアイスだけを食べている姿は異様というか……はっきり言って、栄養が偏って太るぞ」
「太る……」
 レイヴンの言葉に、信者達が視線をアイスから上げた。
「というか、人の話を聞く時くらい食うのはよせ。そんな風に、歯を磨く暇も無く食べ続けると、虫歯だらけになるぞ。いくらミントが歯磨き粉の匂いがしても、歯磨きは大事だ」
「それにですね、世の中には、アイス以外にもチョコミント味のおいしいものがたくさんあるのでありますよ! 例えばチョコミントチョコ!」
 ルソラが、言った。自信たっぷりに。
「チョコミントのポップコーンもあるということでありますし、寒くなってきた今の季節はホットチョコミントなる飲み物もあるでありますよ。ね!」
「もう冬になる。真冬にアイスを食べすぎて凍死した人がいる……。アイスは痛いとか、寒いって感じながら食べるものじゃない、かも」
 こくんとうなずき、ダンサーが取り出したのは、タンブラー。
 中には、ミント色のクリーム。温かいチョコミントドリンクだ。
「カフェーでお持ち帰りした。身体も心もポカポカ、ね。本当にチョコミントが好きなら、もっと幸せな食べかたをしなくては駄目」
「そう、温かいの大事! 冷えたら風邪を引いちゃう!」
 ぶるり、とクリームヒルデが体を震わせてみせる。
「風邪こじらせたら、か弱いおねーさんの命は風前の灯火。早死にしたら、一生で食べられるアイスの量が減っちゃうじゃないですかー? そうならないように、達人はコタツでぬくぬく。冬アイスはコタツがあってこそ至高!」
 冬の最終兵器の名を出され、たじろぐ信者達。そこにきて、ルソラがコンビニ肉まんを頬張る様子を見せつけようものなら。
 ちなみに、この信者達を助けた報酬で、おにゅーのコタツゲットを狙うクリームヒルデさんだよ。
「夏場は良いけど、もう別フレーバーに譲る時期でしょう。てところで、休憩がてらどーかな?」
「せつと2人で、弁当を作ってみたのだが」
 麻実子と双牙が披露したのは、製重箱弁当だった。
「焼き鮭の大葉巻き、そしてきのこたけのこの炊き込みご飯だな。秋の味覚を楽しめるのも、そろそろ終わりかと、な」
「僕が作ったのはね、海老甘酢あんにきんぴらの春巻きでしょー、里芋と南瓜の煮っころ。もし良かったらつまんでつまんでー」
 手際よく料理を取り分けつつ、水筒の温かいお茶も振舞う麻実子達。
「おおっ、これはすごいであります! じゅるり」
 『依頼とは美味しい食べ物をいただくもの』というルソラのイメージが加速する。
「……自画自賛だが、なかなか良い香りだろう。温めて食べても美味いぞ」
「僕の恋人ってば料理上手なんだ。彼の手製を楽しめるんだから、よーく味わってね♪」
「ぐぐぐ……」
 耐える信者達だが、塩気に飢えた体がうずく。そこに双牙がすすめようとするが、
「お前達も……ああ、チョコミントアイス以外は食べないのだったか。……つまりなんだ、俺はともかく、せつの弁当が食えないというのか?」
「もががっ!?」
 信者達の口に手料理を詰めて回る双牙。
 そんな信者達に、シェリーがスープを振舞う。
「美味しいのは分かるけど、冬の時期にチョコミントアイスだけ食べるーって、遠回しな自殺みたいなものよ?」
 白い湯気は、ほかほかの証。更に、栄養もたっぷりだ。
「少しは体も大事にしなさいな、長生きしたほうが好きな物だって沢山食べられるでしょ?」
「あ、アナタは天使か何かですか?」
 チョコミントアイス漬けから救おうとするばかりか、健康まで案じてくれるシェリーの優しさに、信者達は軽く涙目になっていた。

●おいでませ、ぬくぬく、美味しい世界へ!
「アイスはおいしいでありますが、それだけ食べてたら寒いでありますし、おいしさが飽和してしまうのであります、適度に食べてこその美味しさではないのではありませんか! 目を覚ますのであります!」
 ほっぺたにご飯粒をつけたルソラの熱弁が、とどめか。
 信者達はついに、屈した。いや、閉じこもっていた状態から解放された、というべきか。ロザリア達の説得もすっかり受け入れてしまっている。
 一方で、レイヴン達もすっかりご相伴にあずかっていた。料理も色々あるものだから、ロザリアが持ち歩いているマイ唐辛子が大活躍だ。
 いつの間にかダンサーも加わり、その様子の収録にストーカーも余念がない。
「むぅ、チョコミントフレーバーのおちゃけとかないのかのう……あったらネット通販で箱買いするのに」
 クリームヒルデが、杯的な奴を傾ける仕草。
 やがて信者達は、次々とスプーンをビルシャナの前に置いていく。
「お、おい何を」
「私達、普通の食生活に戻ります」
 動揺するビルシャナに、信者達は言った。脱退宣言だった。
「そんなんじゃ長生きできないぞ」
 いやそのライフスタイルの方が長生きできないだろ。ケルベロス達の総ツッコミをスルーして、ビルシャナのスプーンが巨大化する。実力行使に出る気だ。
「アイスの多様性を守るため、きっちり退治させてもらいますよ」
 そう言ってロザリアが、両手に電撃を宿した。
 双牙の指の一突きで硬直したビルシャナに、ロザリアが迫る!
「アイスクリーム頭痛を治すには、電気ショックが一番ですよ」
 びりびりびり!
「う、嘘だあああ!」
 多分そう。
 食べた分は戦うぞ! ルソラが狙いを定め、ビーム! レイヴンが星剣で星座を描く間に、ミュゲが突撃した。傘を叩きつけると、お菓子のような幻影が弾ける。
 ビルシャナが応戦していると、不意に、シェリーの哀しき恋の歌が響く。それは人魚の夢。どこまでも追いかけ、ビルシャナの胸を打つ。物理的に。
「おのれ! 輝け、俺のスプーン!」
 ビルシャナが銀のスプーンを輝かせる。無駄に神々しい光が、ケルベロス達の体を焼き焦がしていく。
 一時的にテンションの下がるケルベロス達。だが、麻実子が賛歌を奏で、クリームヒルデが光のキーボードを高速打鍵すると、なんだか元気がわいてくる。
 態勢を立て直したダンサーが、ライフルのトリガーを引いた。
「アイス、アイス……そんなにアイスが好きなら、自分がアイスになれば良い」
 かちん、と出来上がったビルシャナ氷像に、ストーカーの爪がぐさりと刺さった。

●アイスは主食じゃなくてデザート!
「こっちに来るな……!」
 ビルシャナの悲鳴。
 麻実子が射出した彗星を思わせるグラビティや、ロザリアの追尾矢から逃げ回っているのだ。
 だが、逃された先にも危機が待つ。レイヴンによる獄焔の銃撃。
 弾丸の雨あられを縫ってシェリーの如意棒が伸びたかと思うと、ビルシャナの胸を突いた。使い手は心優しくとも、その一撃はしっかりと強く。
 炎でコーティングされた双牙の手刀がビルシャナの胴を薙いだところに、花が降り注いだ。ツインテールをなびかせたルソラが咲かせた、ビルシャナを狙う花だ。
「くっ、我が教義を否定するお前達には、アイスの負の面を味わわせてやろう!」
 ごーん、ごーん。
 炎や花を振り払い、ビルシャナが鐘を鳴らした。それは聞くものの脳神経に干渉し、アイスクリーム頭痛の強化版を直接叩き込むのだ。
 だがその時、ダンサーの武器持たぬ手に、天秤が現れた。こぼれた灯は、ビルシャナにはただまぶしいだけだが、仲間には優しい癒しを与える。
 そうして頭痛から脱したクリームヒルデが、とどめとばかり、キック!
「くそう、最期にもう一口、チョコミントアイスを食べたかった……」
 星型の印を胸に刻み、倒れるビルシャナ。最期まで、スプーンを手放すことはなかった。
 導き手を失った信者達を、シェリーは、体を大切にね、と諭す。食べ物や飲み物、そして人の心……それらの温かさが、信者達を救ったと言えるかもしれぬ。
 それから、クリームヒルデのヒールによってほんのりチョコミントカラーの混じった教会を後にする一行。
「さて、今日も頑張ったからアイスを買いに行くか、お土産も必要だしな」
 レイヴンが言うと、ミュゲが飛び跳ねた。提案したかいがあるというものだ。なでなで。
「はー……チョコミント最愛の僕としては身を切られる様な辛さだったよ」
「……なら、俺達もデザートを食いに行くぞ。勿論、チョコミントアイスだ」
 溜め息をつく麻実子を、双牙が誘う。
「やったー! よーし、堪能するぞー!」
「そう、この鳥を退治しに来たのも、チョコミントアイスを愛するからこそ……『アイス』を『あいす』るからこそ、だな」
「えっ」
 双牙のダジャレが、その場にいる者全てを、冷気で包んだ。
「……すまん、悪かった」
「もう、あなたは頭痛に気をつけなきゃねっ。ほんと。優しくって隠れダジャレ好きな最高の彼氏」
 麻実子達2人の周りだけ暖かくなるのを見て、皆が言った。
「ごちそうさまです」

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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